魔法決闘:これはお嬢様とメイドの決闘のお話である。   作:春華ゆが

7 / 15
リアルが忙しかったです


七話:開幕劇

「仕事ぉ!? ……ですかぁ?」

「そう、仕事。この決闘同好会の知名度と地位を上げるべくの仕事を持ってきたのですわよ、セレナさん」

 

 時は放課後、場は先日決闘が行われた木々茂る場所、裏庭。

 そこでふふん、と鼻を鳴らすこの学院きっての優等生、トップオブトップ、すなわちヒビキ・アルケイデア。

 普段衆目の前では粛々とした佇まいを崩さない彼女の得意げな姿は、おそらく滅多に見れるものではない。

 その理由たる「仕事」に素っ頓狂な声で反応をしたのは、赤と黄色の髪の毛の少女セレナ・デート。ヒビキとは本来関わることもないような平凡ちょっと下の生徒である。

 だが、決闘同好会の会員として、彼女たちは同じグループに所属することとなった。決闘同好会は現在最低構成人数の三人。ヒビキ、セレナ、そして、

 

「仕事の内容を伺ってもよろしいでしょうか、ヒビキ様」

 

 瞬きもせず、気配を自然と断ち、セレナの後ろからすっと出てきたメイド服。ポニーテールに結んだ白銀の髪、陶磁の肌。汗ひとつない。決闘同好会の会長、マギである。

 「先ほどまで」がなかったかのように、平静極致の冷たい声でヒビキに問いかけた。それに対してニヤリと笑うのがヒビキ。せっかく私が探してきたのだからそうこなくては、そういう表情で端的に述べた。

 

「今日の仕事は、クオン地下20階。エーテル伝達機構の中枢の異常調査ですわ」

「なるほど。了解いたしました」

「は、はあ……」

 

(了解いたしましたじゃないよ〜!!)

 

 さらっと「中枢の異常」と言ってのけたヒビキと、二つ返事でそれを了解したマギ。

 ……ただ一人その場で目を白黒させ、けれど何も言えずに手のひらを振り回すジェスチャーをし、他の二人に察してもらえないのが、「先ほどまで」で憔悴しきっていたセレナである。

 先ほどまで。ヒビキが「仕事」の談判を上に掛け合い承認され二人に持ってくるまで。それまでセレナとマギの二人は、決闘同好会の活動、その初日を行っていたところだった。

 具体的には、他の同好会員との組手。決闘同好会の本意本質は、同好会員の自由な決闘と、それを成立させるための実力を身につけることにあった。

 

「なるほど。ちょうど日も暮れてきたことですし、今日の活動はここまでといたしましょうか、セレナ様」

「あはは、ありがとさん、マギ……」

 

 だから早速セレナとマギは、決闘同好会のメンバーのみに許された、得点の移動しない決闘、を行っていたわけである。もちろんセレナに対して基礎スペックで大きく差をつけているマギは、更なるハンデを受け持った。大幅な手加減と魔法(マギア)の禁止、具体的にはセレナより少し劣るくらいの能力に調整しての模擬決闘。

 だが、結果はセレナの0勝22敗である。能力を揃えても立ち回りが違う。挙動が違う。至らない言い訳を潰された上で改めて叩きのめされたから、セレナは疲弊、疲労、納得、もろもろまとめて憔悴していたのだ。今もしている最中なのだ。

 

(やっぱりこれ、アタシだけレベルが違いすぎるじゃん……)

 

 しかもその差は純粋な能力差だけではないのだから、より途方もなく思えた。劣等感の混ざらない、純粋な悔しさ。そういう疲れであるから、ある意味では肯定的に捉えられなくもない。決闘同好会というものに半ば無理やり参加させられたとはいえ、自分から辞めてやる気にはならなかった。

 とはいえ今日は疲れ果てた。身体が痛いところまでやった。そういうわけで出し切って、頭も回らなくなってきたところで、

 

「話が早くてよろしい。では、説明は向かいながら」

「オーダーであれば。私はヒビキ様のメイドですので」

「う、うす……」

 

(この二人のことわかんないよ!!)

 

 そう言って裏庭の外、後者の方へ同時に踵を返すヒビキたちと、文字通り一歩遅れるように若干ふらついた足取りでついていくセレナ。

 やはり、セレナの叫びは心の外に出ていく元気を持たなかったのである。セレナとしては、ヒビキとマギ、それと自分の差について、仕事を持ち込まれたことによって最大のものに気づいたわけだが、言えない。

 決闘におけるレベルの違い、それとは別に「常識」が違う。アタシは疲れ果てているのに、マギは平然としている。そしてヒビキさん(まだ距離があるのだ)も、これくらいで疲れ果てる人がいるなんて、想像だにしていないというふうだ。

 不平不満があるという話ではない。そもそも当たり前が違うという話。そしてまさか自分に合わせてもらうと言い出すのも……このメンバーではハードルが高い。

 そもそも一般家庭の出のセレナにとって、学院のトップたるヒビキ・アルケイデアは天上人、会話することもないだろう、というくらいの人物である。

 マギに対して決闘を申し込んだのは、そのヒビキから成績を勝ち取った、「編入生」であるから。勝手わからぬ新参者から、獲った直後の高得点を集団戦で掠め取る、そういう心づもり(そして失敗した)であった。

 だから、誤算なのだ。編入生というものが現れ、それがヒビキと決闘し、勝ったらしい、そこまでの情報で浅はかに突っ込んだとして、

 『ヒビキとマギの関係』は、ほとんど把握も予想も不可能だった。

 メイド。聞いたことがない単語である。マギによれば、従者というものの一つらしい。従者。意味はまだわかる気がするが、やはりこれも聞いたことがない。従う者、だからなんでもイエスなのか? そんなことで、そんなことがあり得るのか?

 平々凡々から少し劣るようなセレナには、ヒビキとマギの繋がりがさっぱりわからなかった。そもそもそのようにして、マギづてにヒビキと接触するのもわからなかった。

 なんならマギ本人が自身についてどう思っているのかもセレナは知らない。聞けることでもない。あの決闘の場にいなかったはずのヒビキがマギの「友人」として己の名を挙げたという事実に、ただ慄くばかりである。

 ヒビキはなんのつもりでどこら辺を友人と認識して、そもそもどうやってマギとの一幕を把握したのか(なんとなくだが、ヒビキは本人を素直に問いただしたりはしない性格に思える)ということとか。

 あらゆる疑問、不明点の中でも特にそれ。ヒビキとマギから自身がどう認識されているのかということについては、もはや解答を求めるのが恐ろしい。

 セレナの言葉にならないうめき嘆きには、そういう心情ばかりが込められていた。わずかな脂汗を額に垂らし、呼吸に偽装したため息。「仕事」なるものについてのやる気の差からして、どうにも気後れする。マギに近づくのも、ヒビキに声をかけるのも、だ。

 そんなアウェー感はつゆ知らず、ヒビキは朗々と「仕事」の内容を語り始める。いかにもわかりやすく、かつ若干盛り上げるようにもったいぶって。こんなエネルギッシュな人だったのか、セレナからすればそう思うばかりだ。

 

「クオンの動力、すなわち設営された自動機構──『機械』を動かすエネルギーは、地下から組み上げられている。すなわち地脈に奔るエーテル流を吸い上げる機械が存在する。……まあ王国で無人の設備があるとしたら、百パーセント機械によって運行されていると思えば良いですわ。これが前提。それくらいのことは、セレナさんはご存知でしょうが」

「なるほど。すなわち今のはヒビキ様から私への説明と」

「……あー、あれですね。自販機。スピーカー」

 

 今日行うべき仕事について、前提……すなわち王国の仕組みから語るヒビキ。彼女としては、いわばマギへの授業のような心づもりである。

 エーテルによって王国のために働く、すなわち長期かつ途切れない役目において、「魔女」の代替を為すのが「機械」。古文書にあった自然エネルギーを動力に変換し動く無機物を、再発明したものである。

 この辺りは常識として、セレナも知っていた。生活のどこかに自分以外の力が働いていて、それは大抵エーテルを利用した機械の仕業。

 

「となると、クオンを動かす機械の異常調査、ってことですかね」

「そうね。その中枢が地下にあるの」

 

 ならば、と仕事の内容を要約してみせるセレナ。肯定するヒビキ。セレナはそれほど頭が回らないわけではない。話の規模感を掴めていないだけで、自分から伸びている話題なら理解できる。平たく言えばボタンを押せば動くものは大体機械だろうし、それの中枢ということなら……クオン全体の機械をまとめる役目の機械だってあるのだろう、ということ。

 推測というより、話の流れを読む力かもしれない。先に中枢の調査とヒビキが言った以上、察しが良ければ察せられる。さりげなくヒビキに試されていることまでは、セレナは気づいていない。

 

(これならセレナさんも、ひとまず問題なさそうね)

 

 決闘同好会は、己とマギだけではない。今は一人、ゆくゆくはもっと。そしてメンバー全員にちゃんと同意と納得、そしてあらゆる行動への知識があればこそだと、ヒビキは当然のようにそう考えている。

 初対面の人間がヒビキから受ける所謂「お嬢様」な印象とは違い、実際の彼女は内側で他者を慮りすぎるくらいに慮るタイプなのだが……口にちゃんと出すわけではないので、セレナからの理解はまだ得られない。ヒビキも自ずから得ようと思わないのは少々悪いところだ。

 ともあれそうやって、持ち込まれた話題を軸に会話の輪はできてゆく。次に口を開いたのはマギだった。

 

「クオンには地下があるのですね。存じ上げませんでした」

「あっ、それはアタシも」

 

 そしてそれに自然と追随するセレナ。ヒビキの先導でどこかへ歩みを進めつつ、実際どこへ向かえば目的地たる地下へ進めるのか知らない。長く続く階段を降りるのだろうか? それともこれも機械で? そういう疑問も浮かぶ。

 ともあれそんなのはヒビキからすれば想定できる範囲で、当たり前のようにこう答えた。

 

「ここから先の大きな扉、三重に封鎖された先よ。知らないのも無理ないわ、『地下があること』がそもそもクオンの最重要機密だもの。ロックを解除したら地下20階への直通エレベーターがあって、ちなみに他の階は──」

「……待って待って待って!! ……ください!!」

 

 すらすらと「事実」を述べるヒビキに対し、慌てて口を挟むセレナ。若干足元もつんのめって立ち止まりそうになるが、そこは必死に堪えた。そんなセレナが引っかかったのは、

 

「"最重要機密"って! そんなの、アタシたちが関わっていいんですか!?」

 

 さらっとヒビキの口から飛び出した剣呑たるワード、「最重要機密」である。ヒビキ本人がどこまでこの学院のことを知っているのやら、そういうこととは別に、今から皆で向かう先がその機密とやらに関わること。

 それはとんでもないことではないか、そんな気がした。もっとこう、裏方の仕事だから自分が知らないのであって、そんな高度な取引に巻き込まれている……いや、考えてみれば学院の中枢など、そこら辺の生徒に任せるわけはないのか。

 

「まあ、信頼されているから、ということですわね。心配はいらないわ」

 

 そう言ってまたふふんと鼻を鳴らすヒビキに対して、やっぱり着いていけないところもある、と感じながら。

 

「なるほど。では手早く参りましょうか。任されたことであるならば」

 

(着いていけるのか、着いていけないのか……アタシはどうなるやら……だなあ……)

 

 そしてそのまま、ヒビキについていった。もはや仕事の規模感はわからなくなってきたが、できることはやろうと、そういう心持ち。

 あるいはセレナはそうであるが、ヒビキは違った。学院中枢の仕事を持ってきたのには彼女なりのわけがある。これくらいで驚いていてもらっては困る、そういう同好会への心構えの問題だ。

 学院そのもの、決闘の理を相手取るのが決闘同好会。ならばこれからたくさんの困難がある。もちろん同好会の基本である自由な決闘には研鑽を求める者にとって利点があるが、そうでない者にとってのメリットも作らねばなるまい。

 たとえば決闘を単なる得点源とするタイプの決闘屋。決闘の理念、もっとも強いことを重視するヒビキとは似て非なるタイプだ。そういう生徒はそもそも戦闘力平均の底上げをよしとしないだろう。ならば対立は避けられず、しからば対立そのものに備えてもらう必要がある。

 決闘には何より心構えだ。実力だけではこの同好会に所属するにふさわしくない。だがそれで振り落とすのもまた好ましくない。だからこそまずは今の三人、それを完全無欠たるクオンの模範にしてみせる。

 そういう心持ちで、最重要機密について扱う許可を貰ってきたのだ。言うまでもなく、そこについてヒビキはそれなりの苦労をしている。当然かのように見える口ぶりは、常にそれだけのものを背負っているからに過ぎない。

 アルケイデア家の最高傑作にして、クオンの頂点。怯むことなど許されない。それだけのことだ。彼女が他人とズレるとしたらその意識が理由で、上から下に対して揃えるのは当然のように彼女自身が行なっていること。

 会長はマギだが、実務は自分だ。利害の一致と責任感の両輪で、この同好会を維持してゆこう。

 ともあれこうして、決闘同好会は地下へ進む。奥まった場所の扉に手をかざし、封印を解く。エレベーターという機械についての説明も、簡単に行う。三人で乗り込み、あとは異常調査とやらをするだけ。

 そのはずだった。

 そこまではよかった。

 降り立った先に、"一人いた"。

 誰もいないはずの地下20階。天井まで伝う巨大なパイプたちの根本。最奥、数メートルはある中枢機構の上に座る少女型の人影が一つ。

 

「遅かった! だいぶ遅かったね! 待ちくたびれたような待ち遠しかったような!」

 

 このクオンに見慣れぬ黒いコートとショートパンツ。

 

「……あなた、何者かしら」

「初対面で自分から名乗らないんだね、クオンの生徒というものは! 礼儀がなってないかもねえ」

 

 口元には非対称(アシンメトリ)の仮面。

 

「となればあなたは、クオンの生徒ではない、と捉えて構わないかしら?」

「そうとも。……そうともそうとも。故にだからこそ残念ながら、君たちの決闘のルールは通用しないんだけども……」

 

 そこまで告げたところで見開かれる薄紫の瞳には、

 "何かのイコンのような紋様が顕われている"。

 ──その眼光から、エーテル流が迸る。

 

「──"強制決闘"!!」

 

 黒布を纏った正体不明の少女が、高らかに吠える。特徴的な瞳を起点に、契約が文字通り強制的に結ばれていく。

 

「私が勝ったら他言無用、念の為口無し死人にしてあげても構わない! 対象は、君たち三人だ!」

「えっちょっ、何!?」

 

 セレナは怯む。理解が及ばないのに、理解できるから。この全身を走る感覚は、間違いなく決闘のそれ。だけど同意していない。勝った上での取り決めを、そんな自由に決められるはずがない。

 命が、かかるはずがない。

 決闘に酷似した契約。ルールの上での戦い。ただちにこの地下は戦場と相成り、決闘同好会の三人を飲み込んでいく。

 

「……なるほど、異常というのは、あなたが仕込んだ罠というわけですね」

「その通りだよメイドサン! おっと名乗っていなかったね! 決闘は名乗るのが礼儀だったよね! 君たちから名乗ってくれても構わないけど」

「私はヒビキ・アルケイデア。……二人とも、注意して」

 

 逃げる選択肢はない。逃げられる相手ではない。それは、全員が感じ取っている。眼前のそれは捕食者の目だと。臆せば、骨の髄まで噛み砕かれると。

 

「マギと申します。以後お見知り置きを」

「セレナ・デートだよ! ……二度と会わないといいけどね!」

 

 ならば立ち向かうしかない。相手が誰であろうと油断しないが、負けるつもりもない。そういう共通の思考を、既に決闘同好会は持っていた。

 三人一緒なら、尚更だ。

 

「……どうもありがとう、いい名前だね。おかげで名乗りが、開幕がすっかり遅くなってしまったけど……」

 

 そう言いながら、正体不明の少女は脚を構え、体勢を下げる。少々イリーガルであっても、決闘の開始は互いの名乗りを起点とすることは変わらない。

 すなわち、

 

「アラメヤだ。では」

「──来ます」

 

 挨拶がわりのかかと落としが、瓦礫を打ち上げる多角攻撃として。一瞬で目と鼻の先に現れ、弾ける。アラメヤと名乗った少女の直撃を紙一重で受け止めたのは、マギのナイフ。

 宣言、何より双方の同意。それらを根こそぎ省略し名乗った瞬間に攻撃してしまうことくらいは、「強制決闘」における契約解釈の範疇だ。

 こうして、事件は始まった。




また忙しくなります 悲しい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。