アルト・ザ・ダイバー【書籍化】   作:左高例

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特典SS候補だったのですが「鹿児島県民しかわからねえよ」と言われてボツになりました



掌編5:ボツ特典『アルト・ザ・ローカルすぎてボツになった話』

 ■アルト・ザ・山形屋

 

「えーらっしゃいませー↱」

「野良犬! もっとちゃんと接客するネ!」

「うぇーん僕タイミーだからそういうのわからないですぅ」

「ウザ!」

 

 隣のウリンと言い合いながらオレは『魔寿司』に押し寄せてくる客──普段の客層とは違う、いたって普通の一般オバちゃんとかオッサンに寿司折りを渡して代金を受け取った。

 まだまだ客がぎっしり並び、後ろではエリザが手早く寿司を握って桶に詰めて、ウリンがそれを包装紙で綺麗に包んで袋にいれている。

 バイトのオレはまたしても黒尽くめに顔を隠す頭巾を付けて売り子をしていた。

 ここは暗黒メガコーポが支配する無法の島『三岳島』──ではなく、鹿児島が誇る老舗デパートの『山形屋』。

 なんでこんなことになったんだ。

 

 鹿児島県鹿児島市金生町つったら鹿児島県民だと、山形屋デパートか軽羹屋があるあたりだと、まあパッと出てこなくても説明されればわかる場所だ。

 山形屋は明治頃から近代デパートとしてデビュウした老舗百貨店で、県民なら一回ぐらいは行ったことあるんじゃねえか。たぶん。知らんけど。

 ともあれ鹿児島のデパートと言えば山形屋というイメージは大きい。CMもバンバン流しているしな。

 

 そんな大手だからイベントは一年中なにかしらやっていて、最近始まったのがオケアノス協賛の『異海フェア』だった。

 異海ダンジョン産の、一般受けしそうな物品を販売するコーナーだ。薬草昆布だとか、ハマグリフォンコレクションだとか、ガラス珊瑚や金貨サバの金貨なんかも売っている。

 そして特別にオケアノスからオファーがあり、魔物寿司で有名な『魔寿司』の面々が呼ばれて寿司弁当を売ることになったわけだ。身元不明なセンセイは留守番だが、オレはバイトくんとして連れてこられた。

 

 ……たまには鹿児島市内のパチ屋に行くのもいいかと思って付いてきたのに、そんな暇はないわけだが……

 

 魔寿司は以前音速マグロのときにテレビで報道されて話題を呼んだ店なので、クソ危険な無法の島から特別に出店しているということもあって客が大量に来ていた。

 

「お客様ァー、うぉ客様ァー! 買ったらとっとと下がってくださいませー! うちの寿司シェフの撮影もご遠慮くださいませーおいそこのオッサン割り込むな」

「いやあ、なんだかんだでアルトくんが居てくれると助かるね、ウリンちゃん!」

「客への態度が悪すぎるからヘイトタンクにできるネ。姑息にも顔を隠しているシ」

「うるせえな。あんまり顔見られたくねえんだよ」

 

 なにせ市内だからな。知り合いか一方的な知り合いに会わないとも限らない。

 などと思っているとキメキメのタトゥー入れている客が寄ってきた。うげ。元同級生の女だ。知らんフリしとこ。

 

「よー! アルトっちじゃない⁉ テレビ見たよ~寿司屋やってんの?」

「シッシ! 失せろ失せろ!」

「ウケル! こんな失礼な店員はアルトっちぐらいだろ! 終わったらデートしようぜい!」

「行かねえよ忙しいんだよオレは」

 

 そんな感じで話しかけてくるやつを追い払った。

 購入した寿司を渡してシッシとあしらっているのを見て、なんかエリザとウリンが頷いてこう言ってきた。

 

「アルトくん……百エリザポイント追加しちゃうね。うぇひひ」

「野良犬にしては勤労精神に溢れているネ。八十ウリンポイント追加しといてやるヨ」

「なんだそのポイントシステム。オレ初めて聞いたんだけど。なにを評価したんだ?」

 

 スルーされた。なにそれ怖い。

 それからやたら寿司も売れまくったので昼過ぎのピークを越えたあたりで仕込み兼メシ休憩に入った。シャリだって炊かねえと足りねえ。

 

「どこでご飯食べようか、アルトくん!」

「美味しいところを案内するネ野良犬」

「そんなに詳しくねえよ飯屋なんて。七階の食堂でいいだろ。適当に」

 

 山形屋七階にはいかにもデパートの大食堂的な店がある。

 奢りだったので一番高いカツ定食(二千七百円)を頼んでカロリーを摂取する。海で魔物と戦うより疲れた。

 

「この炒麺(焼きそば)中々美味いナ」

「ウリンちゃん、しろくまかき氷もあるんだって! デザートにあとで頼もう! アルトくんも!」

「オレはいらん。地下で買った金生饅頭(きんせいまんじゅう)(生地にはちみつ入って中が白餡な鹿児島銘菓)食っとく」

「それも美味しそうだね! あたしにも分けて!」

 

 どうも不自然にアピールしてしまうオレたち。なにかのコマーシャルか。

 

「それにしても……何人もアルトくんに話しかける人がいたね」

「世間は狭いんだよ。鹿児島なんて田舎は特に」

「プチ有名人カ? まあ、悪い意味で有名だナ」

 

 ウリンがタブレットを見せると、四年ぐらい前の週刊誌の記事でオレが甲子園近くのパチ屋に入って遊んでいる映像を見せられた教師のコメントが書かれている。「うわあ……これはA(アルト)ですね。そしてこれはP(パチンコ)だ。たまげたなあ」たまげてねえで否定しとけ。

 そんなこんなで鹿児島県勢として失格食らった戦犯オレの顔は週刊誌やテレビで映されて指名手配状態だ。地元で就職はできねえな。

 

「まあ野良犬はうちで就職すればいいネ。丁稚として使ってやるヨ」

「アルトくんお魚も捌けるからいつでも来ていいよ!」

「来ねえよ。早くバイト終わってパチ行きてえ」

 

 今回のバイト代は日本円で払われるからな。島内通貨を円に換金するとごっそり手数料を取られるんでやりたくないんだ。

 

 その後、フェア中は営業時間外も二人に観光案内させられてロクにパチ打てなかった。

 

 もうバイトなんてしない。

 

 

 





アルトザダイバー1巻 7月30日発売!
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