「センセイ! 寿司食ってる場合じゃねえ! 異海に行くぞ!」
オレは朝っぱらから大トロみたいなの食っているセンセイがいる魔寿司に入りながらそう急き込んだ。
きょとんとした様子で寿司を頬張り、お茶を啜ってからセンセイは聞き返してきた。
「どうした? そんなに急いで」
「SNSをチェックしてたら祭り始まってんだよ。『宝箱祭り』だ!」
オレがスマホでその書き込みを見せると、異海の底で撮影したと見られる画像が貼られている。
そこには海底のあちこち、目に見えて分かるほど大量に宝箱が沈んでいるのが見えた。
「これまで数回しか出たことねえけど、たまーにあるんだ。台風や大時化の翌日ぐらいに異海中に大量の宝箱が発生する謎の現象! 次の日には消えてるから今日限りの宝箱取り放題の祭りだ!」
「それは凄いな。楽しそうだ!」
異海で宝箱を生み出す魔物、タカラオトシゴの集団繁殖でも行われるのであろうか、とにかく気がついたら宝箱だらけになっているという。
で、宝箱を捕食する魔物も急激に増えるせいか次の日にはだいたい消えているから急いで回収しないといけない。
もちろん、それを知ってダイバーというダイバーは潜りに行っているだろう。オケアノスの定期船も満員だ。センセイに乗って現場に向かわなくては。
「まあただ、この祭りで出現する宝箱にも問題はあってな。まずほぼ全部の宝箱にはミミック系の魔物が入っているのと、9割ぐらいは大した価値のない宝が入っている」
「リスクもあるわけか」
「とはいえ1割の可能性で大儲けできる異物か財宝が手に入るんだからそりゃみんな行くわな」
実際、この祭りで大儲けして冒険者辞めたやつもこれまで何人も出ていた。異物の発見数も鰻登り。オケアノスどころかヴァルナ社や媽祖集団もこぞって自分のところのダイバーを潜らせている。
オケアノスあたりが独占しようにも出現して消えていく宝箱の数が膨大だから、有象無象のダイバーを動員して拾わせたのを買い取った方が異物の数も増えるからな。
「わかった。では準備をして行こう。幸い、エイエンノネムリブカを飼育しているおかげで麻酔薬は大量にストックしている」
「おう。この祭りとなると店から商品が消えるからな」
宝箱を破壊せずにミミック系魔物に対処するには、隙間から毒や電気を流し込むのが一般的だ。他にも宝をたくさん持ち帰る用の小型コンテナ付き水中スクーターもレンタルは一気に全部消える。
そのあたりはセンセイがいれば解決するのも嬉しいところだ。
オレらは道具を揃えて異海へ向かうことにした。
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海面を水上バイクみたくセンセイに乗って飛ばして行くのはオレらだけではなく、他の冒険者も自分で用意した乗り物で三岳島から向かっていた。
異海となった海域で潜水モードに切り替えて進むと、周縁部の海底だというのにあちこちに宝箱が半ば埋もれるように存在して、冒険者たちが群がっていた。
取り放題の環境だが、まず水中移動で全員動きは遅い・宝箱内だけではなく周囲を泳ぐ魔物に注意して開ける必要がある・一人では持ち帰れる量に制限がある……などの条件があるため独り占めもできないから、争うよりも他の宝箱へ向かって冒険者たちは突き進んでいく。
当然ながら周縁部に冒険者の多くは群がっているので、
「センセイ! 遺跡の方まで行って探そうぜ!」
『了解した』
ここらに落ちている宝箱はスルーして奥へとオレらは目指した。だいたい、人が大勢集まっていると魔物も寄ってくるんだ。地味に危ねえぞ。
そう考えているやつもボチボチいるらしく、遺跡方面へ向かってまばらに冒険者は散っていた。
途中で誰も取り付いていない宝箱を発見した。
「行きがけの駄賃だ、貰って行こうぜ」
『任せろ』
センセイが乗り気で向かった。もとより、強化アーマーで防御性能バッチリなセンセイだと罠を無視しても大丈夫なんだろうが、手順の確認もあって慎重に行くようだ。
お手製の電動ドリルで宝箱に穴を空けて、麻酔薬を詰めたスプレーガンのノズルを突っ込んで流し込む。それから箱を開けると、グロッキーになったタコ型の魔物ミミックトパスが居たのでそれを退かして中身をチェック。
『これは……銀の球か? 大量に入っているが……』
「……」
見覚えのある銀色に光る粒をジャラジャラと拾って見る。
「パチンコ玉じゃねーか! あっ、いや一応素材は……」
『ふむ……ピキャストで砕いたところ……鉄だな』
「やっぱりパチ玉かよ! こんなもん宝箱に入れるんじゃねえ! 蓋締めとけ! 他の冒険者にも発見させてやる!」
タカラオトシゴの宝箱にはこういうハズレが入っていることもある。だいたいパチ玉を店外から持ち込んだらとっ捕まるから完全に無価値だ。チンピラが襲ってきたときに投げつけるぐらいにしか役立たない。
『このタコは持って帰ろう。ミミック系魔物は殆ど市場に出回らないからな』
「タコねえ……寿司よりたこ焼きの方が好きなんだが」
『大阪のB級グルメでたこ焼き寿司というものがあるらしい。エリザに作って貰おうか』
「寿司職人に頼んだらキレられそうな組み合わせだな……」
とりあえずこんな感じで回収していこう。
*****
海底遺跡群へと行く道すがらにも誰も開けていない宝箱が幾つかあってそれを貰った。こういうときに欲しいのが、オケアノスが使っている異物判別の道具(タカラオトシゴの幼体)だ。
箱開けて中にあるのが金銀財宝ならわかりやすいんだが、微妙な物品だった場合、それがガラクタなのか価値ある骨董品なのか異物なのか全然わからん。
『このどう見てもゴム長靴は異物だろうか……』
「疑ってみるとますます怪しくなるよな……小さいのなら持って行くんだが、結構デカいし……」
『釣り竿が入っていた。さすがに市販品は要らないか……』
「いや待てこれ日本の釣り竿メーカーが出した意味不明にクソ高い竿だ! 130万円ぐらいするやつ! 自分では絶対買いたくねえけど欲しい!」
『むっ……これはグレイがなにやら自慢げに説明していた、未発売で幻となったヌードルハラスメント撲滅型フォーク、【音彦】という道具……』
「捨てよう。そんなアホな道具」
いや本当にこれ、宝を吟味しながらだと結構時間食うわ。手に入ったもん全て持って行くという方針もあるかもしれないが、生憎とここは移動手段も運搬手段も限られている水中。なんでもかんでも持っていってガラクタの山を持ち帰る羽目になってはどうしようもない。
一部の複数見つかる異物はオケアノスがカタログを出して買い求めているので、大雑把にはそれを目当てに探すわけだな。
『むう……なにか一気に集めるいい方法は……そうだ!』
センセイが思いついたように、ビルダーを使ってその場でなにか作り始めた。
材料は周囲の砂や岩だ。それらを粒子レベルまで分解してマテリアルとし、吹き付け工事のスプレーガンみたいなので立体的構造を組み立てていく。
投射型三次元積載装置……超便利な3Dプリンターめいた道具によって構造物はあっという間に完成する。豆腐型の家なら30分も掛からないんじゃなかろうか。
『できた! 海底を進むコンテナトレーラーだ!』
「おおー!」
センセイが作ったのは単純な構造だ。つまりは車輪のついた産廃ボックスみたいな大型コンテナと、それを引っ張る大型スクリューのついた水中艇だ。
『これでコンテナを引っ張りつつ、見つけ次第宝箱を放り込んでいく。中の鑑定は後回しだ』
「なるほどな。明日になれば落ちてるやつは消えるとはいえ、宝箱さえ確保しときゃいつでも開けられるしな」
『操縦席はアルト用に作ったから中から動かしてくれ』
「わかった。いくぜ!」
免許とか持ってねえけど! 小型ユンボぐらいなら勝手に動かしたことあるから大丈夫だろたぶん。
中に乗り込んでハンドルとアクセルブレーキを確認する。簡単そうだ。後ろのコンテナを引っ張って水中艇が前進する。
全体的にセラミック製なのと、宝箱を詰め込んでいく必要性のため重量は重たく海底を進まにゃならんが、それでも問題はなさそうだ。
「よーしこれで根こそぎ宝箱はいただきだ!」
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Aランクの凶暴な魔物、トールハンマーヘッドシャークの群れに襲われて、潜水艇から出て必死で逃げた。クソが。
うっかりテンション上がって忘れていたが、この異海で巨大なシルエットをした潜水艇や潜水艦の類に乗っていると積極的に魔物に襲われてまず助からん。オケアノスが自慢の潜水艇部隊で大挙して宝箱漁りに来ない理由だ。
帯電した頭部を振り回して一瞬でコンテナを破壊してくる魔物からセンセイが穴掘って逃げたわ。Aランクの魔物は一匹ぐらいならなんとかなるかもしれんが(センセイの戦闘力で)、群れだともうヤバい。
どうにか穴から地底洞窟に逃げ込み、そこから海底遺跡へとオレらは向かった。
「くっそー、ラクして大量ゲットのチャンスだったんだがな」
『もう少し計画を練ればいい方法があるかもしれないが、不定期に発生して一日限定というのが難点なのだな。準備に時間を掛けては損をする』
そう言い合いながら下層部から海底遺跡へと出る。やはり殆どの冒険者は周縁部で宝箱を集めているようで、こっちはそこまで見かけない。
どっちの方が宝の質がいいとかあるのかね? これまでに発生した回数が少ない上に、期間中は狂乱状態で冒険者が取りまくるから禄にデータも揃ってなさそうだ。
魔物に注意しながら宝箱を探す。町のように並ぶ遺跡の道を見渡せば数個は落ちているのが見つかる。
魔物を警戒しながら大通りっぽいところにある宝箱に近づいていこうとすると──
『おおっと、それいただきぃーっ!』
通信が聞こえたと思ったら、黒くてデカい影が上の方から高速で宝箱へ突っ込んでいった。
『ゴルゴン姉妹か!』
ハイエナのように宝箱を狙うのはオケアノスの飼い犬だ! あの口が悪い声は中くらいの半子だろう。
『遅え遅え! お宝は全部あたしらのもんだぜ!』
オケアノスの強化アーマー『ゴルゴン』には水中推進用の脚部ユニットがついていてかなりの速度で移動できる。オレらを追い抜いて宝箱に迫ると急制動をした。
『しかも手足を使わずに宝ゲットできる!』
そんで頭部ユニットに付いている触手みてーなウネウネとした複数のフレキシブルアームを脳波だか神経接続だかで操作し、本体は安全な場所から宝箱を開けて同時に内部の魔物に銃撃を叩き込み、更には中身を掻っ攫って行った。
「うお! 無駄に効率的に宝を奪っていきやがる!」
『便利だな、あの触手。作ろうにもここでは材料がないか……』
『あばよー!』
宝を両手に抱えた半子が泳ぎ去っていく。どうやら一々鑑定はせずに全部持って行く方針のようだ。
「手慣れた様子で宝を奪った割には、これまで手に入れたのを抱えてなかったな……」
『……そうか、あれだアルト』
センセイに促されて少し上の方へ泳いで、俯瞰するように半子の動きを目で追ったところ、隣の区画にある建物へ入っていった。
確かあれは……
「オケアノスの作った休憩所じゃねーか! あそこを集積拠点にして次々に集めてやがる」
『むう……』
海底遺跡群の中でも魔物が近寄らないセーフゾーンが存在する。まず海がリセットされたらダイバーはそこを探すんだが、やがてそのセーフゾーンはオケアノスが資材を運び込んで休憩所(有料)を作るようになっていた。
前にオレとセンセイも作るためのミッションに参加したわけだが、オレらの頑張りで企業が肥え太る図を目の当たりにしているようで気分が悪い。
近づいてみると休憩所は本日関係者以外立入禁止の表示がされ、入口を雇われ冒険者どもが守っていた。他の冒険者は同じように利用させないらしい。
『そうか……セーフゾーンか……よし、アルト。そこらの建物に地下空間を掘ってそこにコンテナを埋めよう。そして持ってきた宝を放り込んでおけばいい』
「なるほどな。陸まで持って帰るのはちょっとずつやりゃいいわけだし、勝手にコンテナ開けられないようにしとけば盗まれねえ……か?」
『私の機体認証でロックが開くようにしよう』
そういうことになって目立たない建物の床下をぶち抜き、特製コンテナを仕込んだ。ロック機能に加えてこの前大量に手に入れた
「よし、ドンドン持ってこようぜ!」
『ああ。簡易的な小型水中スクーターも作っておいた』
スクリューとバッテリーとバランサー兼持ち手が付いただけの簡単な代物だが、宝箱を括り付けて運ぶには十分だ。
オレとセンセイはそこを拠点として、海底遺跡を探索しまくることにした。
幸いなことにここらはゴルゴン姉妹が暴れたせいか魔物の数も減っている気がする。あいつらが見逃しそうな細い路地や遺跡の内部などを探せば次々に宝箱が見つかった。うひょーって言っていい?
一々開けていてはつい中身を吟味して時間が掛かるので箱ごと運搬しコンテナの中に放り込む。こんなに大量の宝箱は見たことねえってぐらいコンテナを埋めていく。
アタリ率が1割程度でもかなりの儲けになるだろう。それにオレは日頃の行いがいいからな。アタリを多く引く可能性も高いに違いない。
途中で休憩を挟みつつ(スペランクラフトジャケットの中に同乗して、狭いんだがとりあえず非常食とか食った)、夕方の薄暗くなるまで宝箱探索に費やした。
『さすがに夜になると効率も悪くなるだろうな』
「魔物への警戒も面倒になるからな。とりあえずこれで引き上げにすっか」
遠くにはまだ酷使されているであろうゴルゴン姉妹がライト照らしながら泳ぎ回っているのを見かけるが、自由な冒険者としてはあんな奴隷みたく働き詰めになるのも考えものだ。
実際、他の冒険者は見かけなくなってきたしな。そもそも集積地を用意していないと持ち帰れる量に限りがあるから。
「コンテナもいっぱいになったし丁度いいだろ」
と、最後の宝箱を運んでコンテナを隠している建物へと入っていく。
手元のこれも持ち帰るのは明日以降にするかと、中へ放り込もうとしたのだが……
「……んん? あれ? センセイ、コンテナの形が変わってねえか?」
『うむ? ……パスファインダー射出』
建物の中は特に薄暗いので、センセイが輪っか状の光源を出して照らす。
直前に入れたときのコンテナはセラミック製の巨大な箱に金属製の蓋が付いていて、簡易的な開閉機構があるだけのシンプルなブツだったんだが……
なんか見覚えのある装飾のついた湾曲している蓋になっている。
「これは……ひょっとして、どデカい宝箱!?」
『周囲を掘って確認してみよう』
センセイがピキャストを使って地面に埋めた箱の周辺を掘削。掘り起こしてみると、巨大な10トントラックの荷台ほどもある、宝箱になっていた。
なんで?
『……ふむ、どうやら表面を宝箱の外殻と同じ成分が覆っているようだな。コンテナの壁自体は……一部崩れているが残っているようだ』
「どういうわけか宝箱化しちまったのか? ……ひょっとして内部から侵食された?」
異海ダンジョンに落ちている宝箱はタカラオトシゴという魔物が作り出す育児嚢……体から切り離すから卵みたいなもんか。それが宝箱の形をしていて、ついでになんか財宝が入っているという代物だ。
というわけで箱に見えるのは生体部分の擬態みたいなもんであるわけだが……
「中身の財宝大丈夫かよ! 大量に突っ込んでたんだぞ」
『ミミック系の魔物も一緒に入れていたはずだが、どうなっていることやら……』
「……とりあえず開けてみるか。センセイ、安全な方法で頼むぜ」
開けた瞬間魔物の群れがドバーって出たらヤバいしな。
センセイはビルダーで遮蔽物とマジックハンドを作り出して遠隔で開く用意をした。
『警察の爆発物処理もこうやってマジックハンドでやるらしい。由緒正しい手法だな』
「マジかよ。もうちょいハイテクだろさすがに」
『この形状の伸びる腕は日本の玩具メーカーが開発したので奥ゆかしい日本向けの方法だ。西洋だと遠隔操作するラジコンみたいなので爆発物を掴みに行く。温かみが足りないとは思わないか』
「なんでそんなコダワリ持ってんの!? マジックハンドに!?」
まあ……センセイのバックパックからも時々マジックハンドが伸びて、ピキャストやブラスターを背部コンテナに収納したりしているので馴染みがあるのかもしれないが。
銃も構えて慎重に宝箱を開くと──うお!? なんか中がめちゃくちゃ光って光の柱みたいになりやがった! 確変演出か!?
センセイの影で目を焼かれそうな光から身を隠して暫く待っていると光が収まってきた。
「宝は!?」
『ソナー起動……宝箱内部の物体が……消えているぞ!』
「んだと!?」
目を凝らせて中を覗き込む。センセイの出したパスファインダーをぶん投げて元コンテナの宝箱を見回すが、あれだけ詰め込んでいた宝箱は影も形もなくなっていた!
うおおおい! 絶対に億は越える売買価格になりそうな量だったぞ! あれ!
『宝箱自体を一箇所に沢山詰め込むと融合し、変化する性質があったのだろうか』
センセイは不思議そうにそう推測を口にするが、オレたちの一日の労働が!
『タカラ! タカラ!』
「あん?」
オレが頭を抱えていると、妙な音声を拾った。タカラオトシゴの鳴き声みたいだったが。
『アルト、後ろだ』
センセイに言われて振り返ると、そこには手のひらサイズのタカラオトシゴが居た。前に見た幼体の大きさだが……
目の前にいるタカラオトシゴはどういうわけか、普通の個体とは色が違って金色に光っていた。まるでパチの『宇宙戦艦ヤムイモ2202』の金保留演出みたいに。
「なんだこいつ? まさか宝を食って誕生したんじゃ……」
『タカラ! タカラ!』
「タカラだかトミーだかセガサミーだか知らねえが、レア魔物ってことで売り払ってやるか。オラッ!」
手を伸ばすがするりと手から抜けていく。素早いな! 何回か捕まえようとするが、避けられる。
「センセイ、ネット銃!」
『わかった』
センセイに頼んで網目の細かいネットを発射する銃で撃ってもらうが──それすらすり抜けた!?
「超回避してんのか?」
『いや……待て。ソナーセンサーでの探知に引っかからないぞ、この魔物』
「んん?」
センセイがゆっくりと近づいてきてスペランクラフトジャケットの大きな両手で金のタカラオトシゴを左右から包み込むように捕獲を試みた。
しかしどういうわけか、するりと手の外に出てしまう。
『やはりこの金のタカラオトシゴ……実体が無いようだ』
「実体がない? ……幽霊ってことか?」
『光学カメラでは捉えられているからな。どちらかというと立体映像に近い……のか?』
ふよふよと浮いているタカラオトシゴをスペランクラフトジャケットで突こうとしてみるが、指が突き抜けているようにも見える。
立体映像? 幽霊? 目に見えているだけで触れもしないってことか? そんな魔物もいるのかよ?
「……ところでセンセイ、こいつって売れると思う?」
『……さあ』
『タカラ! タカラ!』
******
どういうわけか、捕まえられもしない金のタカラオトシゴだったが、オレらが帰ろうとするとフヨフヨとついてきた。
三岳島のギルドまで行ったんだが、このタカラオトシゴは空中も浮いてオレらの側を離れない。浮くんだ。いや重さとかないみたいなんだけど。
で、ギルドの連中に見せて超激レア個体と吹かして高額で引き取れないか聞いたら、職員が数人がかりで捕獲を試みたもののすり抜けるばかりでさっぱり捕まえられない。
話が通じるかもとオレとセンセイがギルドに行けと命令しても全然聞かず、オレらの周りに纏わりついたままなのでギルドからも匙を投げられた。
『まあ……ペットが出来たと思えば』
「割に合わねー……」
三、四十個はあった宝箱の代償がこんな変な生物に懐かれるってどういうこった。
結局、オレらの収入はコンテナ作る前に回収していた数個と、最後にコンテナに入れなかった宝箱であった。
ギルドも、今日の祭りで色々と拾った冒険者がごった返して鑑定なんかは行列待ちだったのでそのまま持って帰ることにした。
なんかこー、徒労を感じてぐったりと疲れが出てくるんだが……夜営業も終えて暖簾下げている魔寿司を見るとこんな時間までオレは何を……って気分になってくる。残業とか最悪だ。いや企業で働いたことはねえんだけど。
「はぁー……」
「アルトくんどうしたの? 入るなりため息をついて」
「大方ハズレばっかり拾ってきたんダロ……あれ? なにカその金色の」
目ざとくオレらの周囲に浮かんでいる金のタカラオトシゴ──登録しろと言われたので適当に『ゴールデンタカラオトシゴ』と登録した。略称ゴルシゴ──を見て二人は目を丸くした。
「なんか宝箱から出てきて懐いた変な魔物だよ。これ寿司にしてくんねえ?」
『さすがに触れないものは寿司にできないのが悔やまれるな』
オレの投げやりな言葉にセンセイは割と本気そうに言っていた。
「わわっ」
驚くエリザをからかうように、ゴルシゴは二人の近くを飛んで見せた。咄嗟に捕まえようと手を振り回すが、当然すり抜けていく。
「なんネこれ!」
『光学生命体とでも呼ぼうか……宙に浮かぶ像のみで生きている魔物だ。詳細はこれから調べる必要があるな。グレイに取材費をふっかけてみるか』
「可愛いですね! 餌とか食べるのかな!?」
「おーおー、寿司屋のマスコットにでもしてくれ」
『それよりエリザ、少し奥の方で今日の収穫物を調べていいか?』
「はい! 興味があるから見ていいですか?」
「うちで使えそうなものなら格安で買い取るヨ」
「そうだな。長靴を買い取ってくんねえ?」
そんなことを言いながら、店の床にオレらが拾った宝箱の中身を出して調べる。両足分の長靴。釣り竿。音彦(センセイが捨てずに拾ってきた)。謎の板だか皮みたいなの。割と重かった小型の石臼。こんなところか。
並べていると、ゴルシゴがよって来て騒ぎ出した。
『タカラ! タカラ!』
「あん?」
「アルト。ひょっとして、鑑定してくれているのではないか?」
「そういや確かに、タカラオトシゴの幼体は異物かどうかわかるんだったな……」
それが本当なら異物判定を受けたのは長靴と石臼だった。釣り竿は市販品だし音彦は非売品だからな。なんだこの板。
長靴をひっくり返したり履いたりしてみたがさっぱり効果はわからなかった。
「靴……もしかしてこれは人魚が履いたら足が生えてくる魔法の靴かもしれない!」
「メルヘンですね!」
センセイがそう推察して、尾びれを突っ込もうとしたら裂けた。
「……」
「……」
「最初から裂けてたってことにして、ギルドに売り払おうか」
「そうだな」
もう一方の臼はよくわからんので回してみたら、塩の結晶がゴリゴリと出てきた。
「あー! これ聞いたことある! 北欧あたりの昔話に出てくる魔法の臼だよ! 塩が出てくるやつ!」
エリザが反応して説明をした。昔話ではなんでも出てくる魔法の臼を手に入れた強欲な船長が、船の上で塩を出そうと回していたら沈没し、臼は海底で塩を作り続けることになったので海の水は塩辛くなったのだという。
なんか日本昔話でも似た話を聞いたような気がするな。
「よし、なんでも出てくるなら出てこい黄金!」
ゴリゴリ。塩が出てきた。
「昔話だと、食べ物しか出てこないらしいけど……」
「なら出てこい! 馬刺し!」
「馬刺しが食べたいの? アルトくん」
ゴリゴリ。塩しか出ねえ。
「クソが! 日本たばこ産業(塩売ってる会社)に高値で売りつけてやろうか!」
「まあまあアルトくん! うちでもお塩は使うんだから! うちで買い取るよ」
「よーしじゃあ値段は……」
「200万エレクぐらいにしとくカ。どうせ未発見の異物だったらオケアノスでの引取価格は100万ダロ」
ウリンがソロバンを弾いてそう提案した。200万か……塩1kgが幾らだったかな? スーパーで200円と仮定すると、塩10トン分の値段で買い取るとは豪儀な話だ。幾ら無料で出てくるとはいえ、寿司屋で10トンも使うのか?
いやまあ、いざとなれば半額でオケアノスに売りつけられるわけだからいいのかもしれんが……
「宣伝に使えるから損は無いヨ」
「おとぎ話に出てくるお塩だもんねえ」
「よし、じゃあここに売るか。センセイ、いいか?」
「問題ない。寿司がより美味くなるかもしれないだろう」
「それとアルトくん、この板みたいなのもくれない? 山葵を擦るのにいいかも!」
「あー、ガラクタだろうからやるよそんなの。はあ、徒労だったが、まあいいか」
ざっくり、長靴の異物をオケアノスに売って100万。塩臼で200万。釣り竿で130万。おまけのペット。
もっと稼げたはずなんだけど、仕方ねえか。
「このゴルシゴが冒険に付いてきてくれるなら、今後の宝探しで役に立つかもしれないだろう」
「気まぐれな幽霊みたいなやつだから明日にも居なくなってても不思議じゃねえけどな」
好奇心なのか寿司屋の中を飛び回るゴルシゴを見ながらそう呟いた。
オケアノエックスにでもアップしてインプレで稼げねえかな。無理か。AIかなんかの合成だと思われるだけか。
「まあまあアルトくん! せっかくお塩もあるし、生タコも取ってきてくれたから新鮮なタコのお寿司を作るね!」
そう言ってエリザは笑顔のまま、内臓を取ったミミックトパスをトゲトゲした金槌で殴りまくっていた。イタリアだとそうやって柔らかくして食うらしい。地味に怖いな。
たこ焼きで寿司握ってくれない?とはオレもセンセイもその雰囲気に口を出せなかった。金槌で殴られない状況で要求すべきことだな。
余談だが異物の臼から出た塩と、変な板で擦った山葵はエリザが自賛するほどなんか上質らしかった。
味音痴のオレは100点の寿司が150点になっていても、味蕾がスパークして違いがわからなかったわけだが。
【挿絵表示】
【挿絵表示】
ぱい(挨拶)
https://www.amazon.co.jp/dp/4825000290
アルトザダイバーの2巻が8月31日発売予定です!
センセイの新たな装備入手(掌編だともう持ってるな)!
EXランク魔物との戦闘!
ゴルゴン小隊の半子ちゃんも出るでよ!
特典小説もたぶん付いてくるので是非!
……関係ないけど今回の話、掌編のカテゴリだけどメインシナリオイベントの一つになりそうだな…