アルト・ザ・ダイバー【書籍化】   作:左高例

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掌編30:『アルト・ザ・チェスト海の日』

 

 

 異界ダンジョンの中心部に深く広がるブルーホール。それは未知のフロンティア。ごめん。適当こいた。

 ともあれあのでっかい縦穴のことは一般冒険者にとって詳しく知っているやつは極端に少ない。あの穴から魔物が湧き出ているなんて噂されるほど、魔物の量も強さも半端ないからだ。

 深さは観測音波も妨害されているように届かないので不明。だが、千メートルは越えている。オレも一度数百メートルは潜ってみたことがあった。

 余程腕に自信があるやつぐらいしか行かないし、ブルーホールにいけるぐらい度胸ある冒険者はオケアノスにスカウトされて万全のサポートを受けながら行った方がマシだ。

 

 ブルーホール探索が一番進んでいるのがオケアノスで、あの企業は公開する情報を絞っているので結局外部からしたら謎の危険地帯のままほとんど情報は更新されない。

 オレも一攫千金を狙って何度かダイブしてみたんだが、まあ一般ダイバーが潜るには割に合わねえな。深すぎると、そこで手に入れたお宝や魔物を持って帰るのも大変になるから。

 

『よし、アルト。ブルーホールに着いたぞ。潜っていこう』

「はいよ。ヴァイキングメタルとか見つかるといいんだがな」

『タカラ! タカラ!』

「騒ぐんじゃねえぞゴルシゴ。魔物に見つかるだろ」

 

 今回、無謀とも言えるブルーホールダイブにやってきたのはこの新たな寿司屋のマスコット、金ピカタカラオトシゴが理由だ。

 

 昨日のことだが、店でセンセイがこれまでに判明している遺跡群とブルーホールの地図を3Dで作って今後の計画を練るために見せてくれていたところ(オケアノスの調査データもハッキングして入れているらしい)、そこにこのゴルシゴが反応した。

 マップの一部分──ブルーホールを潜っていった途中の場所を執拗に突っついてタカラを連呼したので、どうもそこに宝があることを示しているのではないかとセンセイは推察したようだ。

 元々、探検好きなところもあるセンセイなので次の冒険の目標地点はそこにしようと決めたのである。

 ある程度の作戦は立ててのことだがな。

 ついでにゴルシゴも冒険についてきた。幽霊みたいに透ける上に自由気ままに動き回るこいつを制御することなんて不可能だ。せめて宝のところまで案内して欲しいもんだぜ。

 

「しかし便利だな、センセイのピキャスト。横穴掘ってあっという間にブルーホールまでたどり着いたぞ」

『事前に近くまで通じる下層部の洞穴を見つけていたからな』

 

 ブルーホールが危険なのは縦穴の入口付近にも魔物がウヨウヨしていることだ。Aランクの強烈に危険な魔物とほぼ確実にエンカウントする。

 センセイのスペランクラフトジャケットぐらい便利な代物ならAランクの魔物をぶっ倒すのも難しくはないんだが、ブルーホールの探索で必要なのはなるべく接敵を減らして行動することだ。

 魔物と戦闘するとそれだけで近くの魔物を寄せることになりかねないし、輸送用コンテナや水中スクーターが破損したら潜るどころの話じゃない。持っていける武器だって有限だしな。

 普通の対処法は広域に煙幕(視覚・嗅覚・電磁気感知・音波感知を混乱させる特別製。高い)を撒いてどさくさでブルーホール内部に入っていくか、極少数チームでコソコソと迷彩で隠れながら入る。

 

 そこでセンセイは、ブルーホールを取り巻く海底遺跡群──その下層部から掘り進んでブルーホールに横穴を作って突入するプランを取った。

 センセイの万能掘削アイテムであるピキャストに掛かれば秒間一メートルの勢いで海底トンネルを掘っていける(ちなみに普通の海底トンネル掘るマシンだと一日で10メートルぐらいの速度らしい)。

 

 そうしてほぼ地中を進むことで海底遺跡群中心部とブルーホール入口付近にいる魔物をスルーしつつ突入することにしたわけだ。

 

『ここからは迷彩で進むことにする。アルトは掴まってくれ』

「オケアノスやヴァルナ社の兵器開発者が頭抱えそうなアイテムだよな」

 

 センセイが取り出したのは探索用の準備した特殊迷彩シートだ。

 (カレイ)ドスコープって平べったい魚の魔物は鏡みたいな鱗で迷彩して忍び寄ってくるんだが、こいつをピキャストで分解した素材を元にしてビルダーで作成した発明品だった。これで機体を包めば魔物からもかなり無視されることが事前の実験でわかっている。

 まあ、材料の鰈ドスコープを見つけるのがマジで大変だから量産には向かないんだけどな。あいつほぼ見えないから。

 

『では探索と索敵を行いながら進もう。危険ならば穴を掘って逃げる』

「了解」

 

 そんな便利グッズとスペランクラフトジャケットなんてハイパーな強化アーマーあればセンセイ一人でもいいんじゃないかなって思わなくもないが、敵の警戒とお宝を見つけるのは観測員が多い方が絶対有利にはなる。

 オレはサポート要員だな。

 

『アルトの目の良さはセンサー以上に信頼しているとも』

「そいつはどーもありがとう。ところであっちの方、ポータルイカが数十メートル先で見え隠れしてるから早く潜ろうぜ。近づかれたら危ねえ」

『……よく見えるな?』

 

 ポータルイカは薄く発光している小型のイカ型魔物で、触れると海水以外のあらゆるものが削り取られるっていうか、消し飛ぶっていうか、ガオンって感じになる。

 当然ながら強化ダイバースーツのハイエンドだろうが潜水艦だろうが容赦なく穴を空けてくる。

 小型で素早く防御が不可能でたいていが群れている。まさに強化アーマーの類からすれば天敵に近い魔物だった。倒すには海水を介して電撃か毒を撒く。銃で撃っても銃弾も消し飛ばすからな。

 とにかく危険な魔物だからどうしても逃げられないとき以外は避けるべきだな。オレらは迷彩シートを被って深海へと潜っていった。

 

 

 ******

 

 

 普通の海はどんだけ水が澄んでいても、二百メートルも潜れば太陽光が届かずに真っ暗な世界になっていく。

 ところがこの異海は別で、海底遺跡群ぐらいのところだと日焼けすることもあるんじゃねえのってぐらい太陽光が届いて見えやすくなるし、ブルーホールの更なる深海まで潜ると海水自体が淡く発光していて周囲を照らしている。ただし、光っているだけあって視界は若干霧がかっているみたいで、上層部よりも見えにくいけどな。

 これも海水に含まれているっていう架空粒子の影響かもしれん。

 

「ん……武装したイルカ人が他の魔物とドンパチしてやがるな。相手は機甲ドラグアナの近接種だな」

『近いか?』

「いや、気づいてねえから大丈夫っぽい……イルカ人の武装もなんかハイグレードなもん付けてる。オケアノスの探検隊が落としていったやつか?」

 

 イルカ人は手の生えたイルカ型魔物で、銃器や近接兵器、珍しいやつだと強化アーマーも装備することがある知性型の魔物だ。集団行動をするし厄介なやつ。

 ドラグアナはウミイグアナとドラゴンを足して東宝スタジオで撮影したような魔物。硬い外皮と凶悪な爆発ブレスを持ち、おまけに近接種は船でもすっぱり切り裂く刃を体中に持っている。

 で、一匹のドラグアナを取り囲むようにイルカ人が縦横無尽に周囲を泳ぎ回りながら銃撃を浴びせていた。

 イルカ人の機動力は冒険者よりもかなり上だ。水中スクーターよりも早く小回りも利く。あれに囲まれたら堪ったもんじゃねえんだが、苛ついたドラグアナのブレスが爆発するのが見えた。近づいていたイルカ人が衝撃波で即死する。こっちも近づきたくねえ魔物だな。

 

「ま、気づかれないうちにもっと潜っとこうぜ」

『了解した。深度による水圧は大丈夫か?』

「今のところは問題なしだ」

 

 異海では深海でも水圧はそれほど強くならない。

 水圧ってのは大雑把に言うと潜ったときに自分の体の上にある水の重さだ。それが潜っているのに軽くなるってどういうこっちゃと思うが、実際なっているのだから仕方がない。

 そんなことをダベリながら潜っていくと、センセイからこんな話があった。

 

『オケアノスの仮説によれば、地震波で調べたところこの異海の底には【テイアの月】と呼ばれる天体の残骸が眠っているのだそうだ。それに含まれる未知の鉱物が重力異常を起こしているかもしれないという研究があったぞ。未発表の研究論文をハッキングで読んでみたが』

「サラッと情報調べるなこの人魚……テイアの月?」

 

 オレの疑問にセンセイの得意げな声が返ってきた。

 

『ジャイアント・インパクト説を知っているか? 太古の地球に火星ほどもある大きな天体がぶつかり、その衝撃で飛び散った星の欠片が今の月になったという説だな。そのときにぶつかったのが仮称としてテイアの月と呼ばれている。名前の由来はギリシャ神話に出てくる月の女神セレネの母親がテイアだ。地球の内側に取り込まれたテイアの月と思われる部分はまだ調査が進んでいないが、一部が太平洋などの表層に出ている。テイアの月の主成分は鉄だと言われているが、実際にはわかっていない』

「センセイが『説』とか言うとアルミホイル案件に思えてならねえ……」

『失敬な。ヴァイキングメタルだってテイアの月由来の鉱物かもしれないだろう』

 

 だって前センセイ、この世界の文明は一回泥の津波でリセットされたとかいう説を熱心に寿司屋で語ってたし……

 記憶喪失だから世界の情報を仕入れようとユーチューブばっか見ているんだが怪しげなフィルターバブルに包まれている気がしないでもない。また履歴消しといてやろう。

 それはさておき深海既に五百メートル。ダイバースーツを始めとする装備に異常は見つからない。

 そのとき。

 

『タカラ! タカラ!』

「──っと! ストップだセンセイ」

『どうした?』

「ゴルシゴが反応した洞窟がある。お宝が見つかるかもしれんし、そっちに入ってみよう」

 

 オレらの目的はそんな海底にある謎の不思議天体を見学に行くことではなく、カネになる異物やレア魔物を探すことだ。

 そうすると奈落まで続きそうな縦穴を延々と降りても異物は浮いているわけじゃないから見つからない。周囲の壁にある洞窟に鉱石や宝箱、レアな魔物が見つかるとされる。

 ここまで降りてくる最中でも無数に大小の洞窟があったんだが、その中でもゴルシゴが反応した大きめの横穴に入っていく。内部の広さはそこそこだが、さすがに迷彩しながらでは探索にならないので迷彩シートを収納してライトで照らしていく。オレらのライトとゴルシゴの発光でそれなりに良く見通せた。

 

「洞窟と人工物が半々だな……若干、上の遺跡よりも壁が金属質な感じがするな」

『削ってサンプルを取ってみよう……チタン合金の類だ。石灰質のものが混じっているな』

 

 洞窟の中に自然の鍾乳洞と融合したように存在している人工らしき遺跡。なんとなくどデカい宇宙船の中の通路みたいな、のっぺりした金属の壁で覆っているようだった。

 魔物が潜む隙間も少なそうではあるんだが……

 

「前方に僅かな光が見える。ポータルイカかもしれねえ」

『カメラ解析。……いるな』

 

 ブルーホールを頑丈な探査艇で調査できない原因の上位にあるのがポータルイカによる防御無効の消し飛ばす攻撃だ。原理はわかっていない。死骸を持ち帰って研究しても体のなんの器官からどういう成分を出してそんな現象を起こしているのかわからないようだ。

 超能力としか言い様がないな。

 

『音波銃でいけるか?』

「通路になっていて狭いしな、効果は抜群だろ。効かなくて寄ってきたら毒薬を使おうぜ」

 

 センセイがメカルスを改造したときに解析し複製した水中用音波銃セイレンをオレが持ってきていたので構えた。

 前方に向けて音波というか衝撃波を投射。水を伝って破壊的な振動が魔物の内臓をシェイクさせる。

 

『……動きを止めて浮かんでいるようだ。効いたか確かめてみよう』

 

 センセイは偵察用のミニスペランクラフトジャケットドローンを前方に移動させ、ポータルイカの様子をカメラでチェックする。

 ドローンが近づいても反応しない。死んだらあの明滅も消えるんだが。

 軽くドローンが触れてみると、触れた部位が消し飛んだ。

 

『おお……スッとドローンが消失した……これに体当たりされたくないな……』

「気絶はしているみたいだな。イカってあんな体だけどちゃんと脳みそあるから振動受けたんだろ」

 

 慎重に近づく。このまま放置していたら帰り道で目覚めたこいつと遭うかもしれないので処理しておかないといけないが。

 

『周囲の海水は消さないのだろう? ならばこういうのはどうか』

 

 センセイが小型のスプレー缶みたいなのを取り出してポータルイカに吹き付けると、魔物の体を中心にして周囲の海水が凍りつき、プカプカと天井付近に浮かんでいった。

 

『冷寒ブリから作られた市販の冷却スプレーだ。小型の魔物ならば凍らせられる』

「ふうん。まあいいんじゃねえの? イカって冷凍すると美味くなるんだよな。寄生虫も死ぬし」

『そうなのか』

「超新鮮なやつをイカソーメンにして食うのも美味いんだが、煮付けなんかにするには何度か冷凍と解凍を繰り返したやつの方が柔らかくて出汁が染み込むんだよな。細胞壁が凍っては溶けで傷ついて柔らかくなるのかも」

 

 漁師町のイカの時期は、どこの家の冷凍ストッカーにもイカが入っていたもんだ。

 回収しようか悩んでいるセンセイに先に進むよう指示を出して探索を進めた。

 

 

 ******

 

 

 金属製の壁で囲まれた謎の洞窟を進んでいくと、壁に発光したラインみたいなのが走るようになってきた。

 

「なんかやべー光じゃねーよな。センセイ、確認できるか?」

『危険な放射線等は感知されないが……一応、毒素や電磁波もセンサーで警戒していこう』

「しっかし金属の壁に光が走ってるって、ますます宇宙船の中みたいな……」

『宇宙船の中ってなにを持ち帰れば儲かるのだろうか……』

「宇宙人に大事に保管されてたのがただのガラス玉だったら凹むぞ」

『タカラ! タカラ!』

 

 などと言いながら先へ行くが、中々奥が深くまで続いているようだ。未探索の洞窟だといいんだがな。

 道中の魔物は散発的に、ポータルイカが出てくるので音波銃からの冷凍コンボで処理していった。時折、ポータルイカが空けたと思しき小さな穴ボコが壁のあちこちにあった。

 と思っていたらその穴ボコかと思った場所からスッと出てくるモノがあった。

 銃器だ。

 

「あっぶね!」

 

 咄嗟に銃口を見て射線を予測しそこから身を躱すと、直前までオレの居た場所へ光の筋が通った。その軌跡の海水が沸騰したように泡立つ。

 光線銃で撃たれたのか? そんなSF武器──

 

『任せろ!』

 

 反撃にセンセイがブラスターを狙撃モードにして、壁から出てきた銃を破壊した。そうだね。光線銃を持っているSF存在がすぐそばに居たね。

 とりあえずセンセイを盾に、無力化した銃へ近づいていく。

 

『セントリーガンか? 変な魔物ではなく』

 

 セントリーガンってのは一定範囲のセンサーに反応した目標へ自動的に射撃するやつだ。オケアノスの施設とかにもありそうな。

 センセイがピキャストで突っついて調べてみるが、完全に機械であってアラシノナカデカガミダイのような生体銃を持った魔物ではなさそうである。

 

「ますます宇宙船か秘密基地みたいだな。しかしレーザー銃のセントリーガンなんてヴァルナ社でも作ってねえと思うんだが」

 

 魔物がまったく関係ない罠ってのは異海ダンジョンでも珍しい。稀にあるのも、洞窟の中に入ると入口が崩れて閉じ込められるとか、粘着性のヘドロが流れてくるとかそういう感じなんだが、銃が飛び出てくるて。

 何者かの悪意を感じる罠だ。

 

『ふむ……しかしこのレーザー銃、回収しておこう。ヴァルナ社あたりに売るのと、私が改造してアルト用の武器にするのはどっちがいいと思う?』

「確かにヴァルナ社だと買い取りそうだな」

 

 オレの武器をレーザー銃にするというのは……どうなんだろうか。そもそもレーザー銃はセンセイも持っているしな。弾代は掛からないかもしれないが、バッテリー切れ起こすのも考えられる。

 あとせっかく兵器メーカーのデザイナーさんが武器のデザイン考えてくれているのにポンポン装備を変更するのも気が引けるっていうか。(エリザにデザイナーの大事さを説かれて気にしている)

 

「よし、ヴァルナ社に売ろうぜ。そっちで解析させて正式にレーザー銃が売られて評判よかったら買えばいいしな。ヴァルナ社の貢献スコアも上がる」

 

 そういうことになった。今ですら普通のニードルガンと音波銃の二丁持ちで十分なんだ。レーザーしか撃てない銃よりは弾によって効果を使い分けられるニードルガンの方が便利なこともある。

 ヴァルナ社の貢献スコアってのはお得意様の証明みたいなもんで、直営店で装備を多額購入したり、ヴァルナ社の依頼を受けたり、武器素材になる魔物を持ち込んだりしたら上がっていく。

 スコアが高いと銃弾まとめ買いの値が安くなったり、高スコアでしか買えない高性能装備が解放されるわけだ。

 センセイが根本からレーザー銃を削って回収した。

 

『どこからかエネルギー供給を受けているようだな……』

「動力炉みたいなのがあるのか? この遺跡。爆発しねえだろうな」

 

 そんなことを言いながらも進み、更に何個かのセントリーガンを破壊した。

 

 

 ******

 

 

 進むと他に何本か分かれ道がある集合場所みたいな空間に行き着き、オレらはひとまずそこを探索することにした。人工的な箱っぽいものとか、変な模様が壁にあったりしている。

 

「お宝お宝っと」

『この壁の模様は時々見かける、謎の異海文字だな。記録しておこう。解読が進む』

「なんなのかねえ? あのイルカ人が文字も使うんだろうか。手が生えてるから書き残せそうではあるけどよ」

 

 ここ最近発見された魔物『イルカ人』には知性が認められている。

 というのも、センセイがスペランクラフトジャケットに搭載されていたイルカ語の翻訳アドオンを一般公開し、アプサラにもインストールできるようにしたのだが、それでイルカ人の声が聞こえるようになったからだ。(余談だが普通の水族館のイルカも会話というか単語を聞き取れるようになったらしい。イルカを食う静岡県民がピンチだ)

 とはいえイルカ人側へは人語を伝える手段がないので、せいぜい向こうが仲間と連携している声や冒険者へ向けての敵意などのFワードを叫んでいるのが分かる程度だった。

 オケアノスは生け捕りにして会話を試みているみたいだがな。

 だから案外ここの人工的な遺跡もイルカ人の秘密基地って可能性もなくはない。

 

『タカラ! タカラ!』

 

 ゴルシゴがなんか壁の前で騒いでいる。近づくとどうも壁に継ぎ目みたいな隙間が見える。 

 ナイフを取り出して隙間に突っ込み、軽く動かしたら蓋でも開くように表面がパカっと外れた。

 

「おっ、なんだこれ? ……紫色の蓮華?」

『前に見たことがあるな』

「あったっけ?」

『ほら2巻で』

 

 センセイがよくわからない単語を呟いたが、あまり気にしない方がいいと思ってオレは改めて壁の内部を見た。

 紫色の水晶で作られたような硬質の蓮華がなんらかの装置に埋め込まれていて、その周囲を通路でも見た光の道やケーブルが通っている。

 

「確かこの紫蓮華は異物の一種だったんだよな。効果はさっぱりわからんかったが……」

『ふむ……磁界センサーで確認すると、その紫蓮華からなんらかのエネルギーが周囲のケーブルなどに向かって流れているようだ。ひょっとして遺跡のエネルギー源……電池のようなものかもしれない』

「ほーん」

『取り外してみよう』

「爆発とかしねえよな?」

『念のためにコレがある』

 

 センセイはポータルイカを凍らせていたスプレーを吹き付けて紫蓮華周辺を凍らせてからピキャストで削るようにしてそれを取り外した。

 そして改めてなにやら慎重に調べている。

 

『む! どうやらこの紫蓮華に含まれるエネルギー源は、私のスペランクラフトジャケットを動かすエネルギーと互換性があるようだ』

「珍しいエネルギーなんだっけか?」

『ああ。機体にあるコンバーターを使って、電力と架空粒子を消費して生み出しているスペランエナジー……それで機体を制御したり、ピキャストやビルダーを動かしたり、残機システムを使っているのだが、この紫蓮華ならば直接エネルギー源になるだろう』

「重要なもんなら前に手に入れたやつをオケアノスに売るんじゃなかったな」

『まあ、何個も見つかっているのだから今後も手に入るかもしれない。この遺跡でも探してみよう』

『タカラ! タカラ!』

 

 そういやオケアノスもビルダーのコピー品を利用しているんだが、その充電方法が特別でオケアノス以外じゃ運用ができないとも聞いた覚えがあるな。

 つまりセンセイ以外だとスペランエナジーとやらを生み出すのが困難なのだろう。

 もうちょいふっかけて売ればよかったか?

 

『ゴルシゴが動き出した』

 

 ペットくんは枝分かれした道の一つへと勝手に進みだした。ともかく、お宝への嗅覚はありそうなのでオレらもそっちへついていくことにした。

 電力がカットされたせいか若干薄暗くなっているが、同時にセントリーガンも出てこなくなったので良かった。餌場もなさそうな深い遺跡だからか魔物もほぼ居ないしな。

 奥のどん詰まりになっている部屋にたどり着く。微妙に斜め上に上昇する通路だったせいか、その部屋は水没しておらず上陸できるようだ。

 

『気体測定……どうやら呼吸が可能なレベルの空気があるようだ』

「なんでまた空気が溜まってるんだろうな?」

『さっきからこの遺跡の中は微細な空気の泡が海水に含まれていたな……そうか、外壁を構成している合金に酸素珊瑚が混じっているのかもしれない。自動的に空気を作り出してくれる壁になる』

「ほーん。オケアノスの海底休憩所なんかだと、水槽の中に酸素珊瑚突っ込んで置いてたりするから、そんな感じか」

 

 とりあえず大丈夫そうなので上陸し、マスクを外して深呼吸をする。ボンベの持続性や快適度は向上していても普通に息をした方が気持ちはいい。休憩してメシを食ってもいいかもしれない。

部屋を見回すと正面の壁に僅かな光の筋が文字みたいになっていて、今にも消えそうに明滅している。

 

『ここにも文字か……幾つか解読できそうだな』

「そんなヒントあったっけ?」

『複数の似た場所にある共通の文字を推定しているだけだから、合っているとは限らないがな……【修復】……【空間】……【箱】……【制御】……』

『タカラ! タカラ!』

「ん?」

 

 今度はゴルシゴが部屋の中央にある、腰ぐらいの高さまで突き出た柱みたいなのの前で騒いでいる。

 柱の上部断面にはコンソールみたいに変な硝子やらボタンやら模様が付いていた。

 

「なんかラピュタでムスカが操作してたやつみたいだな」

 

 言いながらなんとなしに手のひらで触ろうとすると、スカッと空振りした。

 

「おおっ!?」

『どうしたアルト』

「……こ、この柱、触れねえんだけど。これも立体映像か?」

 

 柱っぽく見えていたその場所は手やら足やら突っ込んでもスカスカで、実体がないものだった。

 

『タカラ! タカラ!』

「ラピュタ王になれるお宝かもしれねえけど映像しかねーじゃねーか」

『……いや、待て。中身まで投影されている装置らしきもの……?』

 

 センセイはおもむろにその実体のない柱に向かって機体の頭を突っ込むとピポピポと明滅させた。

 

『なるほど! 透けているが中身まで映像で再現されている……これを記録して……』

「なんかできるのか?」

『ビルダーを使ってこの柱を実際に作ってみよう。設計図が宙に浮いているようなものだ。この映像に向かってマテリアルを吹き付ければ簡単に作れそうだ』

「素材とか大丈夫なん?」

『手元の素材でなんとかなる。コア部分に紫蓮華が必要だが、ついさっき手に入れたばかりだからな』

 

 言うと、センセイはビルダーを向けると柱の映像に向かって吹き付けていった。

 スプレーガンみたいな形状の道具から石や金属の微細な素材が放射され、設計図通り空間に固定されて形を構築していく。中身の機械かカラクリ仕掛けみたいなのも再現される。

 やがて9割方完成したあたりで紫蓮華を上部に接続すると、そこを中心に柱へ光のラインが無数に走った。

 

『完成した。しかしこれは一体……』

「自爆装置じゃないことを祈ろうぜ」

『ふむ』

 

 ぽち。センセイは躊躇いなく、コンソールみたいになった柱上部のボタンを押してみた。本当に大丈夫?

 

『──!?』

「うおっ! 光ってる!?」

 

 柱と連動してセンセイの機体も緑色の光を強く放っている。パチのウニコーンみたいに!(可能性の棘皮動物が光るアニメ)

 センセイが中から戸惑うような声を何度も上げているが、

 

「だ、大丈夫か?」

 

 そう声を掛けると、センセイから強い困惑を感じる声が帰ってきた。

 

『ア、ア、アルト? 聞くが、スペランクラフトジャケットがいきなり巨大化とかしていないか!?』

「ええ……してねえけど?」

 

 謎の疑問に首を傾げると、センセイの戸惑った声が続いた。

 

『妙なデータをインストールしたと思ったらいきなりコックピットが広がったんだ! やたらゆったりしているぞ!?』

「見た目は全然変わんねえよ?」

『ちょっと出てみよう』

 

 言うと、センセイはスペランクラフトジャケットのハッチを開けて顔を出した。

 内部を覗き込むが特段、前までと変わったところはない。

 

「あれ。縮んだ」

「なんなんだ?」

「うむ……このコックピットなのだが、さっきまでシートの幅が倍ぐらいに広がり、上下にもかなり余裕のある大きさになっていたのだが……」

「そんなスペースないだろ?」

 

 スペランクラフトジャケットの操縦室は言っちゃなんだが狭い。よくこの薄さに機械とか詰まってるなってレベルなのだが、それでも人間よりちょいとデカいぐらいのロボットなので内部をくり抜くにも限度があるのだ。

 センセイは首を傾げながらまたハッチを閉じた。水中じゃなくてよかったな、この部屋。

 

『やはりハッチを閉じると中が広がるぞ』

「ドラえもんの道具にあった気がするよな。狭い部屋でも錯覚でめっちゃ広く感じる薬みたいなの。ストレスが無くなっていいんじゃない?」

『おかしくなった扱いは止めてくれ。アルトも乗り込めばわかる』

 

 そういうので、再び開けた狭いコックピットに、センセイに被さるようにして無理やり入った。

 そして中が密閉されると──

 

「うおっ!? 本当に広がってる!?」

「だろう?」

 

 マジでコックピットの中が広くなってやがる。具体的にはセンセイとシートで隣り合って座れるぐらいには。一人乗りから二人乗りサイズになった。

 頭を打ちそうなぐらい圧迫感のあった天井も体感三十センチばかり上にあがり、操作をするペダルやハンドルは手元なのだが足元のスペースも広がっている。そこらに三人目も乗せられそうだ。

 オレは手を伸ばしてその広がりが錯覚じゃないことを触りながら感じていた。

 

「どうなってんだ? 明らかに外装以上にデカいぞ、この空間」

「先ほどインストールしたデータには『拡張型亜空間』とあった。容れ物の見た目はそのまま、容積をある程度増大することができるようだ。それでコックピットにゆとりができたのだろう」

「魔法みたい」

「そうだな。同時にとある道具の作り方も読み込まれた」

 

 センセイがコックピットのモニターを操作すると、外の映像が脇に寄って別の画面が映った。モニターもデカくなってるのは便利だな。

 そこにはなにやら四角い箱の作り方が描かれている。

 

「新アイテム『チェスト』だ。拡張型亜空間を利用した収納ボックスで、見た目以上に中へ詰め込める」

「おお! どんぐらい入るんだこれ」

「そうだな……大きさは一斗缶ほどで、内部にはざっと、大きめの冷蔵庫2つ分ぐらいだろうか」

「すっげ!」

「しかも今回もビルダーで作れるから売れる!」

「またオークションで吹っ掛けてやろうぜ! ちなみに材料は?」

 

 ピキャストはかなり高く売れたからな。しかし希少素材を使うせいであれ以降作れていない。

 できればチェストは簡単な素材ならいいんだが。

 

「材料はざっくり木や鉄でいいんだが……必ず必要なのが『タカラオトシゴの宝箱』と『ポータルイカ』素材だな。ちょっと手持ちにあるから作ってみよう」

「おう。動かすのに邪魔だからちょっと降りるわ」

「機体も広がって、アルトの休憩もしやすくなったな」

 

 それもちょっとありがたい。なにせ今までは二人で乗ると軽トラのシートに重なって座っているレベルの狭さだったからな。

 探索中に乗り込んでメシを食えるのはマジで冒険者にとってアドだ。

 機体から降りてセンセイがビルダーでチェストを作るのを眺める。

 

「しかしチェストって衣服の収納ケースのことじゃなかったっけか? なんでまた箱の名前になってんだ?」

『カリブ海の海賊が奪い取った財宝を船のチェストに入れていた、という話が元になっているらしい。その後、宝箱を見つける冒険の創作物語といえば海賊の宝が多かった。なので宝箱はチェストなのだ』

「ありがとう物知りセンセイ」

 

 出来上がったのは一斗缶を横にしたぐらいの小さめな宝箱風装飾がある箱であった。

 これに冷蔵庫2つ分ぐらい入るとかわけがわからんな。試してみようと蓋を開けた。

 

《チェストオオオオオオオオオ!!》

 

 鼓膜が破けそうな大音量が箱からした。

 

「……」

『……』

 

 蓋を閉じた。

 恐る恐るもう一回、なにかの間違いじゃないかと思って開けた。

 

《チェストオオオオオオオオオ!!》

 

「この開く度にどっかのブラジリアン示現流のアホみたいに叫ぶ機能、いる?」

『いや……説明書通りに作っただけで……』

 

 取り外そう。取り外した。

 

 チェストはセンセイの説明通り、手を突っ込んでも底につかないという謎の大容量を持っていて改めて唸らせられた。

 内部は物理法則が怪しくなっている。冒険者とかオケアノスじゃなくて科学者とか宇宙開発事業者とか買い求めるんじゃねえの? これ。

 

 まあいいか。ひとまず、ゴルシゴが宝と騒ぐぐらいにはいい感じのモノをゲットできたので、オレらは帰還することにした。

 ……帰りにセンセイ、チェストに凍ったポータルイカ放り込んでたけど中から突き破ってこねえだろうな。

 

 

 





海の日記念更新!
アルトザダイバー2巻発売までもう少し! 特別紹介イラスト公開です!

【挿絵表示】


更にメカルス参戦!

【挿絵表示】


余談ですがメカルスは「メーカネス・イカルス」の略で勇気一つを共にしてのイカルスです
元ネタのキャラは同作者の別作品「Re:審判から始めるトロイア戦争~パリス王子のパリ直し~」に登場
https://ncode.syosetu.com/n8902he/
こっちはメカロスだけどね
途中で止まってるって? うn…プロットは最後まで出来てるんだけどね…

更に!

【挿絵表示】

アルトザダイバーコミカライズ決定! 
漫画家さんは吉いず先生(@44izumy_illust)がやってくれます!
先生の考案したダブルパチンコポーズ!

ダブルパチンコって何?って声を見る度に「ああコミカライズからの新規さんかな」って嬉しいような少し寂しいような気持ちになるよね
そうだよな書籍に出てこない単語だし知らなくて当然だよな
Webでもそんな単語一度も出てきてねえしダブルパチンコって何だよ(構文)
是非お楽しみに!
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