センセイが新たに作り出せるようになった魔法の箱『チェスト』。
ピキャストなんかに比べて必要な材料が楽で、効果はだいたいのやつが便利に感じるグッズだ。これを高値で売りに出せば借金返済が一気に進む。
「まずはチェストの性能を動画で撮影して、宣伝としてセンセイのSNSで宣伝。そんで話題を呼んでからオークションに出そうぜ」
「そうだな……出すオークションはメルカリ(メルクリウス&カリュプソー)でいいのか? あそこは最高額が10億に決められてしまったが」
「ついでに手数料も2割ぐらい取られちまう。だが信頼と税金がなあ……」
「というと?」
「他のオークションサイトだと異物の出品ってまずねえんだよな。怪しいオカルトアイテムだと思われてるし」
なにせ、異物が発見されてまだ数年だ。オケアノスは幾つかカタログを出しているけど大部分の異物はどんな効果があるかは隠匿している。同じく異物を手に入れている、ヴァルナ社や媽祖集団なんかも同じだろう。
異物の大半はどういう効果があるのかさっぱりな代物だ。この前見つけた、回したら塩が出てきた臼なんかはわかりやすい方だな。
「ついでに配送なんかも自分でやらねえといけないからよ。オケアノスからすれば自分らの運営サイトで取引してねえ異物を運ぶんだぜ? 事故でも起こして紛失させてくるかも」
「それは嫌だな」
「あとヤフオクとかで売り払ったらその分の収入がオレにはあったって税務署に目をつけられて、結局クソほど税金で毟られる。それを考えるとオケアノスの仮想通貨で取引した方が手数料入れてもマシだ」
エレク取引はざっくりと日本の法律だと「三岳島で所得」「三岳島で消費」の場合は税金が掛からない。これを日本円に変換したり、日本国内での買い物で使うとその分が日本円での利益と見なされるわけだな。
というわけで最大10億という制限はあるものの、オケアノスのオークションサイトで販売する路線で行こうと思う。だいたい、便利な箱だが10億になるか? オレなら数万エレクぐらいならまあ手を出そうかなって思うけどよ。
「それと、センセイが作成したんじゃなくて拾ったってことにしとこうぜ、当面のところは」
「ああ。どうやって作ったのか原理はどうなっているのかとか、色々問いただされても面倒だしな」
「そゆこと」
ダンジョンから拾った不思議なアイテムなら、世の中不思議なものがあるんどすなあって感想で終わるんだが(余談だがこれまで見つかっている、物理法則に喧嘩売ったような効果が出る異物の研究で世界中の学者がブチキレている)作れるとなるとセンセイが捕まるだろ。
モノ作り系人魚アイドルとしてその後生活していくつもりならいいかもしれんが。
「というわけでチェストの宣伝やろうぜ」
「そうだな……まずは私のSNSで宣伝生配信を呼びかけよう。録画だと今どきはAI動画だと疑われるかもしれない」
「疑い深くて嫌な世の中になったもんだぜ」
そういうことになったので、撮影の手順を確認して準備をした。
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オケアノスのSNS、オケアノエックスは割とやっている冒険者も多い。チンピラなのにSNSかよって思うけど。
異海情報や冒険者への依頼なんかもここに書き込まれることが多いからだ。オレもアカウントを持っている。
ちなみに、長期間一度も呟かなかったらアカウントを消される。恐らくオケアノスがデータ採取に使っているサイトなので役立たずは切られるんだろう。デスゲームか? 特に書き込むことのないオレはパチの収支をメモする場にしているんだが。
それはさておき、センセイはフォロワーが多い冒険者だ。アカウント作ったのは最近なのにな。
謎の強化アーマーを操る正体不明の美女冒険者で、結構頻繁に更新するし動画配信もしているのでどんどん増えていったようだ。他冒険者、企業のみならず一般層で見ている人も多い。地味に以前、音速マグロ解体ショーで日本のテレビにも出たので知られていた。
さて、そんなセンセイのアカウントでまずは予告の書き込みが行われた。
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センセイ@Speluncrafter
異物らしきアイテムを新発見なう。
『チェスト』と命名。見た目より沢山のものを収納できる道具だ。
調べたところファンタジー系のネット小説ではよく出てくるものなのか?
1時間後に配信で使用感を見せよう。その後にメルカリへ出品する。
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書き込みからすぐに『いいよね』と『拡散』が増えていく。よしよし。中々の注目度だ。
そんでいきなり鬼電が掛かってきた。オケアノスのエリート課長だ。ジャーマネのオレが対処することにした。どうせオクに出さずに自分のところに売れって内容だろう。
「うるせー! 欲しけりゃ予算付けてメルカリで買えばいーだろ!」
『稟議書を通さないと私の一存で動かせる額では限度までいかないのだ!』
「じゃあ稟議通せって!」
『配信と出品を待て! まずギルドに持ってきて鑑定させてくれ! それから稟議書を出して予算を……!』
「アクビが出るぜ!」
まったく。このエリート課長がビルダーをオレらに売ってできた借金なんだから稼ぎ方ぐらい自由にやらせて欲しいもんだ。
他にもセンセイの書き込みに欲しがりなリプライが付いていたが、ともかく無視してオレらは配信の準備をした。
『スペランクラフターのセンセイチャンネル、始まるぞ。このチャンネルでは冒険や魔寿司の様子を配信している。興味があれば登録しておいてくれ』
センセイがスペランクラフトジャケットを操縦してカメラに手を振りながらそう告げる。配信確認用のスマホ画面を見ると、既に視聴者は千人を越えて更に伸びていた。
配信コメントも『センセイ、オネガイシマス』という謎の定型句がずらりと並んでいて不気味だ。
『さて、今回紹介するのはこのチェストと名付けた箱だ。見た目は一斗缶を横にしたぐらいの大きさだな。蓋を開けてみよう』
宝箱っていうよりも飾りっ気のない木箱に近いが、それの蓋を開けて見せる。
『中を確認してみよう。ライトで照らすとなにやら底がずっと奥の方に見えるだろう。ライト付きカメラを箱の中に入れてみる』
センセイは自撮り棒みたいなのを箱に差し込む。1メートルぐらいの深さまで楽々と自撮り棒は中へ入っていき、一畳の立方体ほどの空間を撮影した。
箱を置いている下に突き通っていないことを示すようにセンセイは箱を持ち上げながらそうしている。
『内部は余剰次元に繋がっているのか空間の折りたたみが起きているのか、あるいはワームホールで別の部屋のポータルになっているのか不明だが、このとおり箱を入口として少し広めの空間に出入りできる』
配信コメントが驚愕のクエスチョンマークで流れていく。
『ではモノを入れてみよう。アルト』
「あいよ」
はい男。チャン解。などのコメントがされていると思うが、オレは適当に中に放り込むモノとして島内の釣具店に売っている魔物『オオキナゴカイ』を持ってきた。
無害な魔物で釣りの餌に使われる、2Lペットボトルほどの太さをして全長10メートルの巨大なゴカイだ。おとなしいし意外と毛がふさふさしていて可愛い。ただ無理なやつは生理的に無理なタイプの魔物で、エリザは駄目だった。ウリンは触れていた。
「普通ならこの箱には絶対入り切らない魔物を放り込んでみるぜ」
『アルトって喋り方がゆっくり魔理沙みたいだよな』
「それ今言う必要ある!?」
変な指摘をされながら巨大ゴカイの体をズルズルと箱の中に押し込んでいく。なんでこの魔物選んだかというと、回収しやすそうだからだ。あと無害だし。
巨大なゴカイはどうにか折り重なって箱の中の空間へと詰め込まれた。普通ならば不可能な量だ。
『そしてアルト、計量台に乗せてくれ』
「ほいさ」
詰め込まれた箱を量りの上に置くと、重さは約1kg程度。外側の箱の重さしかない。
再びセンセイは箱の中にカメラを入れて、内部空間を撮影するがやはりみっちりと巨大なゴカイが詰まっているのが見えた。
『この通り、中にはあれだけ大きな魔物が入る上で箱の重さは変わらない。どうやら中に生き物を入れても死ぬわけではないが、時間が停止するわけでもないようだ。中に入れたものを出す際は物理的に掴んで取り出す必要がある』
センセイはマジックハンドを出して中に突っ込み、オオキナゴカイを引っ張り上げて出した。
『……これ寿司ネタにならないかな』
「これを食うのは止めとけって! 毛がキツイから! エリザも嫌がってたし!」
『まあ、とにかく。これを使えば例えば冒険者が持ち運べる道具や異海から持って帰る収穫物の数を増やすこともできるのではないだろうか? 便利な魔法の箱、チェストはメルカリで販売予定──というか出品登録の準備はできていてな。配信中だが、出品してみよう』
センセイは配信のカメラに見えるようにスマホを操作して、メルカリにチェストを出した。最低落札価格は100万エレクから。
さあどうなることやら。
キャバーン。
……取引中止の音が鳴った。
「ど、どうしたセンセイ? またオケアノスの横槍でサイトごと妨害されたか?」
『いや……どうやら出した瞬間に限度額の10億エレクで即決されたらしい』
「出した瞬間に!?」
『しかもログを見ると、3件の入札者が同時に10億を出しているが……これはどうなるのだろう』
「3件も!?」
配信の方も発狂したようにお祭り騒ぎになっていた。いやまさか、そんなちょっとどこでも使える押入れ程度のアイテムに即10億?
ログをオレも確認して、個人情報がなんのそのつい読み上げてしまう。
「ええと、入札してきたのは毎度おなじみオケアノス……稟議書間に合ったのかよ。それとヴァルナ社……ずっと配信チェックしてやがったな。あとウィーロン。ウィーロン!?」
マジかよ!
ウィーロンつうとなにかと有名な世界的大富豪の実業家だ。資産は百兆円を軽く越えるというフィクションの金持ちみたいなやつからすれば10億なんて玩具を買う小遣い感覚かもしれねえが。
つーかウィーロン配信見てたのかよ。あるいは異物関連を監視させる部署とかあるのかもしれねえけど。
「えーと規約規約……入札者が同額で複数いた場合は出品者が誰に売るか決められるっと。センセイ、この規約スクショ撮っとけよ。後出しでオケアノスが改定するかもしれんから」
同額の場合オケアノスを優先するなんて追加される可能性もあったのでちゃんと記録に残しておかねえとな。
『DMがウィーロン氏から届いた。なんでも研究して宇宙開発に活かしたいので譲ってくれた場合、追加でさらにもう10億払うそうだ』
「大事だよな! 宇宙開発!」
『ロマンがあるな。私も月に行ったらピキャストで月を分解してみたい』
「大規模破壊はやめろ。それより代金がヤバいので本人か代理人がなるべく早く取りに来るように返信しとこうぜ。じゃないと……」
相談しているとどこからともなく銛やスタングレネードが飛んできた。
「ヒャッハー!!」
「そいつを寄越せー!!」
「ほら! チンピラが襲ってくるから……よっ!」
10億円の箱と聞いて間髪入れずに配信していた場所へ凸に来た三岳島の悪党ども。屋外でやってたのも悪かったかな。銛を避けて、スタングレネードは爆発する前に投げ返してやった。
時速180kmぐらいの豪速球でこっちに駆け寄ってきていたチンピラの顔面に直撃した後に爆発。隣に並んでいたお友達含めて鼓膜と網膜がお釈迦になっていた。
「ったく! 金の亡者が! 行動早えんだよ脊椎反射で生きてんのか!」
『ううむ、前回は落札者がオケアノスだったからすぐに引き渡せたのだが……ウィーロンはすぐには来られないだろう?』
「高え箱が欲しけりゃウォーホルのやつでも盗みに行っとけ!」
治安がゴミなこの島で人生遊んで暮らせるだけのブツを抱えているとこうなるの図だ。クソ。動画生配信までしたのがマズったかな。
売れて手元から消えるまで延々と狙われ続けそうだ。もしくは10億エレク(正確には手数料込みで8億だが)稼いだことが明確な冒険者がいるんだ。拉致って脅迫してカネを引き落とさせるぐらいは考えるだろう。
面倒くさ!
『ヴァルナ社からもDMが来た。ヴァルナ社に売るなら身辺警護プログラムを付けてくれるようだ』
「スパイを送り込む魂胆じゃねーか」
『あとインド国籍もプレゼントしてくれるらしい』
「いらねー!」
『インド国籍を所得すると自動的に日本国籍は捨てないといけないそうだ。二重国籍は認められていないから』
「罰ゲームかなにか!?」
※インドへのヘイトスピーチではありません。
『オケアノスからも来ているぞ。自分たちのところに売れば私たちの冒険者ランクを上級にする。そうすると二級島民資格を得て、警備の保護対象になることができるとか』
「取り込みに来てやがるぜ」
そんなに企業どもが真剣に奪い合うもんだったか? このあんまり入らない四次元ポケットみたいな道具。
材料はブルーホール周辺にいるポータルイカ以外はそう珍しいものでもないんだが……センセイがいっぱい作って売って大丈夫なんだろうか。
そんなことを思っていると遠くから武装したチンピラの集団がこっちに向かってきているのが見えた。
『アルト。SNSで襲撃者を募って私たちのところに集合を掛けている者が複数いるぞ』
「こういうのもトクリュウっつーんだろうか」
さてどうしたものか……とっとと売っぱらう先も決めねえといけねえんだけどよ。
1:ウィーロンの宇宙開発理念に共感しよう!(そして追加でもう10億貰おう)(襲撃者どもは自分でなんとかしよう)
2:ヴァルナ社に傭兵を差し向けて貰おう!
3:オケアノスの犬になろう!
【挿絵表示】
アルトザダイバー2巻は8月31日発売予定! 残り一ヶ月記念のイラスト公開!
なにがとは言わないけどでっっっっ
そして奥でくつろいでいるアルト青年。彼はなにをしているのでしょうか
1:ヒロインたち可愛いなあグヘヘと思っている
2:エッチすぎて目を合わせられないよ…と目を逸らしている
3:プールの上の方にあるモニターでパチの動画を見てる
正解は購入して君の目で確かめよう!
おまけの新規キャラクター「座 玖礼」ことグレイおっさん
【挿絵表示】
50代にしては若々しい上に落ち着きのないオッサンです。
特技は盗撮と泥棒と潜入脱出と構造物崩壊
おまけでグレイおっさんの息子さん九郎青年(アラサー)も紹介。本作ではたぶん出てこないです。もう異世界行ったかも
【挿絵表示】