センセイとパーティ組んでなにが便利って移動が楽だ。スペランクラフトジャケットはそこらの水中スクーター以上の巡航速度でしがみついたオレごと運んでくれる。
ダイビングポイントから潜り、センセイと共に海底遺跡群へ向かう。船で向かう途中で乗せてくれないか頼んでくる冒険者も居たが、センセイはオレにそこらの対応を任せると言ったので全部断った。運賃の小金ぐらいは手に入るが、それ以外のリターンがゼロだからな。
海底遺跡群近くまで来た際にオレは岩場付近にいる魔物を見つけた。
「おっ。アナゴルゴンだ」
アナゴルゴンは名前の通りアナゴっぽい魔物で、ギリシャ神話に出てくるゴルゴンとかいう化け物の頭みたいに複数の個体がぐねぐねと絡み合って玉みたいになっている。
『寿司のネタで見たことがある』
「噛まれると石化毒があって危ねえんだが、動きは遅いからな。遠くから電気銛を打ち込んで狩れば結構な量が手に入る」
『石化するのか』
「正確には石灰化か。筋肉や骨がボロボロの石灰になって死ぬほど痛いらしい」
人体の石灰化自体はアナゴルゴンの毒以外にも病気でなる症状だ。逆にアナゴルゴンの毒がその病気の特効薬になりそうってんで、結構高値で取引されている。
『そういえば……昨日見かけた、オケアノスの強化アーマー部隊もゴルゴン小隊と言っていたな』
「ギリシャ系企業だからな。神話級バケモノの名前を最強チームの名前にするぜって思っていたのかもしれんが、ポケモン博士からダジャレみたいな名前で使われるとは思っていなかっただろうよ。下手するとあいつらの名前を『アナゴ小隊』だと勘違いしている冒険者もいる」
『着ている強化アーマーもどこかアナゴめいていたしな』
「ちなみにオレらの業界だとアナゴっていうとパチスロアナザーゴッドハーデスの略」
『それはそうと、アナゴルゴンを採取してみよう』
「スルーされた……! でもセンセイのブラスターだとズタズタになりそうだぜ」
なにせドラグアナの皮膚を焼き切って肉を切断するほどの威力を持つレーザー光線が火花みてえに放射されるんだ。小型の魔物はそれだけで全身焼き肉になるだろう。
だがセンセイは銃口を向けながら説明をした。
『昨日の寿司でアップデートされたモードがある。ブラスター・スティングだ』
銃身をガチャリと九十度ぐらい回転させてから狙いを定めて、十数メートル先にいるアナゴルゴンを──狙い撃った。
ブラスターの砲口から一筋の光が放たれ、一瞬でアナゴルゴンの頭を一つ撃ち抜く。続けて正確な射撃で針みたいなレーザー光線がうねっている頭部のみを貫いていった。
『スティングモードにすると射程・貫通力が向上し、エネルギー消費は下がる。大型の魔物に接近して打つ場合は通常の方が高威力だが、遠距離から頭部のみを狙う場合などはこちらが便利だろう』
「庭に水撒くホースみてえだな」
どんだけ便利になるんだ。こちとらプチ高いVA-NG2とアルカリメタル弾(ルビジウム弾より安い炸裂弾)を渋々買ってきたっていうのに、最新シリーズがオモチャみたいだ。
物欲しそうに見ているオレの視線に気づいたのか、センセイが言う。
『失われたスペランクラフトジャケットの装備の一つ、『ビルダー』を回収して使えばブラスターは複製品が作れるはずだ。材料も必要だが』
「マジかよ。なんかすげえやる気出てきた」
『とはいえ、まだビルダーの場所はモニターに表示されていない。今日回収するのは
センセイはアナゴルゴンを収納ボックスに入れて、海底遺跡群へ入っていった。
ちょっとした町がそのまま沈んだみたいな雰囲気を見せている海底遺跡。毎日、百人以上の冒険者が探索をしているが、無数の立体的な構造物や魔物が跋扈することで調査しきれることは殆どない。一年ちょっとのスーパームーン毎に地形が一新されるからだ。
ちょっとしたビルみたいな建物が乱立し、それらには部屋が多く分かれ、そして部屋には稀に宝物が手に入る。となれば一つずつ探していくしかない。
おまけにダンジョンの宝はタカラオトシゴって名前の魔物がどこからともなく運んできて配置していくので、一度誰かが探したところでも見つかることがある。
そんなわけで初級から中級冒険者は延々と海底遺跡群の浅瀬に居座る。
ただし遺跡の中心に近づくに連れ、値段の高い魔物や価値のある宝が見つかりやすいので上級冒険者は慎重に先へ進み、一部のベテランや命知らずはダンジョンの中心にある巨大な縦穴──ブルーホールへ潜る。トシトラズなどの最高級な魔物や魔法みてえな異物はそこで多く発見された。
まあ……オレもめったに行かねえけどブルーホールまでは。装備がショボいから。
『こっちからピキャストの反応がある……正確な位置ではないが』
センセイがスーッと進んでいくのについていくと、地下へ向かう大きなスロープがあった。海底遺跡は大きく、上層部と下層部に分かれていてあちこちに行き来するための穴や坂道が存在している。
下層部は頭上の多くを上層部の構造物が覆っているため、暗いし比較的狭い(地下空間と考えるとデパ地下なんぞより広々としているが)。
「ライトないと暗いんだよな、こっちは」
『少々、強化アーマー乗りとしては狭くも感じるな……明かりはなんとかしよう』
センセイが動きを止めるとなにやら強化アーマーの目がビカビカ光り、口を開けた。
口の中から手の平ぐらいの白い輪っかが吐き出されて周囲を浮遊すると、その輪っかは蛍光灯みたいに光りだした。
『新機能の『パスファインダー』だ。ヒカリ珊瑚を食べていたら出せるようになった』
「そんなもん食べてるのか……」
『色々試している。酸素珊瑚を食べると内部の空気が綺麗になる気がするぞ』
「毒を食ったらヒレが緑にならないだろうな」
ともあれセンセイは輪っか状の発光物体をワイヤーで器用に機体へ結び、追随するように仕込んだ。光はそれなりに強くて周囲十メートルは照らしてくれる。
『下層部か……危険な魔物が出るのか?』
「ボチボチだな。上層部に比べたらデッケエ鮫系の魔物は出ないから、小型中型への対処ができていればこっちの方が楽って冒険者もいるし、視界が悪いのはやっぱり不安だから人気があるわけでもない。鉱物資源なんかは見つかりやすい」
『鉱物か。ピキャストで砕いて持って帰れるな』
「それもいいが、魔物に気をつけ──来るぞ!」
光の範囲外から僅かに白刃がきらめいたのが見えた。センセイのブラスターが向けられない方向だ。VA-NG2をぶっ放す。
「外した!」
魔物の背後にある壁が小爆発を起こす。魔物が小せえ! っていうか投射面積が最小の状態で急速接近してくる!
「ジュウモンジヤリイカだ! 刺さるぞ!」
『アルトは後ろに! 私が受け止める!』
あの魔物は頭部(正確には胴体なんだが。つまり頭っぽい部分だ)の先端が十字になっているイカの仲間で、ジェット噴射を利用した加速で突っ込んできてぶっ刺さる。並のダイバースーツだと貫通される上に、動きが早い危険なやつだ。
センセイを盾にして避けると、ジュウモンジヤリイカは突き刺すのではなく切り裂く方向に動きを変えて、センセイを先端の横に突き出た刃で引っ掛けて通過していった。
スペランクラフトジャケットが点滅してダメージを無効化する。本来はそういった機能を使わなくても、強化アーマーに刺さるほどではないんだがこの高性能アーマーは融通が利かないので小ダメージでもエネルギーを消費して受け流してしまうようだ。
ジュウモンジヤリイカは光の範囲外へ一旦逃げて、狙いをまた定めているはずだ。
『速いな』
「小型で速いのは厄介だろ、その装備でも」
強化アーマーの弱点がそれだ。外部カメラで写した映像を搭乗者に見せ、搭乗者が指示した動作をアーマーの手足や武装に伝えて攻撃をするためどうしてもテンポが遅くなる。光速の弾を放つレーザー銃であっても、水を噴射して常に緩急をつけた四次元機動する相手では捉えづらい。
「任せとけ。セオリーはできてんだ」
オレはそう告げるとセンセイの機体に繋がった発光ファインダーを外して、それを建物の隅っこになっている方へ投げた。
イカってのは目も良いし脳味噌も発達している生き物なんだが、あの夜な夜な人を突き殺す妖怪槍みたいな生きものは少々事情が違う。
一直線の形状になって突撃してくるイカはさすがに進行方向まで視界がカバーできない。大雑把な光の反射で狙いを定めて突っ込んでくる。
なのでこいつに襲われたときは(初撃で殺されなかった場合は、だが)ライトの類を外して追い詰めやすい方向へ投げてやれば──
「おっ、刺さった刺さった」
『岩に刺さるのか……』
明かりがある方に突っ込んできて(減速して様子を探ってくるときもあるが)隙だらけになるので、後は煮るなり焼くなり寿司にするなり、だ。
近づいて脳のあたりを銛でサクッとついてやる。即死して体が透明になった。あんまり市場に出回らない魔物だから持って帰るとしよう。
『狭いエリアでは若干不利だな。ソナーも周囲に反響しすぎてあまり利かない。私が移動と壁役、アルトが索敵と攻撃を頼む』
「わかった──うおっ、早速来るぞ! ビンナガマキだ!」
暗がりから接近してくるのは小型のマグロ、ビンナガに似た模様をしているが尾びれが発達して武器の長巻みたいに伸びている。
それを遠心力で叩きつけてくると人体ぐらいは両断する。
センセイを盾にして初撃を受け止め、銃を向けようとすると──
『待てアルト! マグロなら食べたいから、なるべく損壊しない方法で!』
「食い意地が張ってる!」
仕方ねえ。銛をぶん投げて突き刺し、繋がっているロープをセンセイに渡す。
強化アーマーの強靭なパワーでロープを保持されればビンナガマキは逃げられない。グイグイと引き寄せて抱きつくように魔物の動きを止めた。
そこでオレが脳天にナイフをぶっ刺してトドメを刺す。
「料理用に血抜きしとくか……サメが寄るかもしれねえから、普通やらねえんだけど」
エラと尾びれを切って内臓も取り出し、センセイに振り回して貰うと放血されて周囲が濁り、生臭いようなニオイすら漂った。
『こういう機能もある』
センセイが言うとスペランクラフトジャケットのスリットがパカッと開き、周囲の水を吸い込みつつ背中から排出していた。そうすると血で濁った水は透明度の高い海水へと濾過されているようだ。
『こうすることで、魔物の血液などを多少はエネルギーに変換することができる』
「おお……センセイの近くで小便したら吸い込まれるかもしれねえわけか」
『するなよ⁉』
いやまあ、このきっちり保護されている強化ダイバースーツでは内部で小便したら悲惨なことになるが。
「便利な機能ではあるよな。墨を吐いて煙幕を張りまくるイカタコとか、毒ウンコを撒き散らして視界を邪魔するイスズミとかいるからな」
『ウ、ウンコ……』
「おっ! 向こうにいるぞ! レムレイスズミ、毒ウンコで姿を隠し耳元で騒音を出して聴覚を破壊してくる上に、安い不味いのろくでもない魔物だ。捕まえるか?」
『遠くから撃とう』
さすがにウンコを吸い込むのは嫌だったのか、センセイは冷静に遠くにいる魔物に向けてブラスターを向け、撃ち抜いた。センセイの収納ボックスが大きいとはいえ取捨選択はしないとな。
下層部もデパ地下が町レベルまで広がったみたいな構造をしていてかなり広く、入り組んでいる。ショートカットできないから上層部よりも探索には時間が掛かる。
途中で宝箱も発見してウキウキで開けてみた。
「……青い蓮華? ガラス細工か?」
『ふむ……スキャンしてもデータはないな』
センセイが購入している、この海で発見された魔物や資源のデータと照らし合わせることができるスキャナーを当ててみるが反応しないようだ。スキャナーは小型の拳銃みたいな形をしていて、スイッチを押すと前方をレーザースキャンして形状を読み取ってデータベースで検索をする。
これに反応しない魔物や資源は新発見のものだ。
「とはいえ、鉱物や海藻なんかに比べて拾える道具ってほぼ未発見の代物が多いんだが」
中にはただ海に沈んだだけの食器や鉄くずなんかもある。
「異物だったらオケアノスが高くで買い取ってくれるから持って帰ろうぜ」
大きさも掌サイズだ。そう嵩張るものでもない。宝箱の中に十個入っていたので全部持ち帰ることにした。半分はセンセイの取り分だ。
他にも変な機械の部品、中が密封された小さな壺、年代物のナイフなんかもその後拾った。下層部はあんまり人気ないんだが、宝箱の遭遇率が高い気がする。
センセイの回収する装備の反応に向かってひたすら進むと、足元に大きな穴が空いていた。その穴を覗き込むと、黄色いテープ状のクラゲが塞ぐように張り巡らされている。
「キーパウクラゲだ。立入禁止用のテープに似たやつで、洞窟や建物の出入り口なんかによく付いてる。毒の刺胞があって触るとかなり痛い」
『反応はこの先だ。排除していくか』
センセイがブラスターを向けるのを慌てて止める。
「ちょっ待ち! 下手な攻撃でバラバラにすると破片が散らばって、小さな破片でも攻撃能力持ったままだからマジでヤバいんだ! 丁寧に取り除いて進もうぜ」
『わかった』
「あと刺胞が魚に残ったら食えなくなるから回収もナシな」
処理方法はクラゲの引っ付いている片側の根本をナイフで切って、ビロビロと蠢くようになった残りを水中用ダクトテープで近くの壁に固定する。水中用ダクトテープは怪我の治療、装備の修復、魔物の拘束など様々に使える万能ツールだ。もはやダクトってなんだよ。
センセイの強化アーマーはデカいわりに意外と器用に手先が動くのでセッセと処理を手伝ってくれる。キーパウクラゲに突っ込んでもそのアーマーならなんともないんだが、オレは危ない。
安全に通路を開けて内部を進んでいく。
『反応が近い……が、移動……しているのか?』
「タカラオトシゴに運ばれてるんじゃねえの」
このダンジョンにも道具を運ぶ習性を持つ魔物は何種類かいる。丁寧に宝箱にしまい込むタカラオトシゴや、巣に冒険者の装備を溜め込むゴブリンフィッシュなんかだ。
穴は広いがゴツゴツと入り組んであちこちに脇道もある。迷わないように気を付けて暫く進むと──曲がり角の先に魔物が見えた。
なんで見えたかって、周囲が明るかったからだ。ヒカリ珊瑚の欠片が撒かれているらしく水自体が発光している。
その魔物は……言うならばイルカに二本の腕が生えたみたいな姿をしていて、その片腕にツルハシを握っていた。
『あれだ。ピキャスト』
「あの魔物……? 完全に道具を持ってやがるな」
そして魔物は行き止まりになった壁に向かってツルハシを振るうと、豆腐でも崩してるのかってぐらい容易く壁が壊れていく。穴を掘っているらしい。
「ひょっとしてセンセイと同じ種族のオスとかじゃねえだろうな」
『えっ、それはちょっと嫌だな。色んな意味で』
「ちょっとスキャナー貸してくれ」
センセイが出ると目立つので、オレがそっと遠距離からスキャナーで半魚人みたいな魔物を読み取ってみる。
『該当なし。新たな魔物として登録しますか? 名前を入力してください』
「ハンギョドンで」
『商標登録を確認。却下です』
「チッ……妙なところで律儀だなこのポケットに入るサイズのモンスター図鑑。とりあえずイルカ人で」
図鑑に簡易登録されたが、それはさておき。
「あのイルカ人……話通じると思うか?」
『どうだろうな……いきなり撃ったら問題になるか?』
「ただの善良なる海の友達で、人類と意思疎通ができるタイプだったら後味悪そうっていうか……海洋動物保護団体の『シーモンキー』から熱心なファンメールが届きかねないっていうか……」
シーモンキーは頭のおかしい保護団体の一つで、賢そうな海の魔物をオケアノスや冒険者が殺すことへ苦情やテロを行い、動画配信で稼いでいる。賢そうな、も完全な主観であり、メガカイギュウとかインビジブルピンクイッカクとかそういう哺乳類系の魔物を殺すと熱心に妨害行動を起こす。
まあもちろん、オケアノスも冒険者もそんな連中相手に紳士的対応するわけもなく、返り討ちにされているんだが……
「とりあえず呼びかけてみるか……センセイ、悪いけど盾になってくれ。いきなり襲いかかって来られたら怖い」
『ううむ、あのピキャストで攻撃されたらこのスペランクラフトジャケットでも厳しいな……一発ぐらいは持つかもしれないが……』
「そんなにやべえツルハシなの?」
『先端をぶつけると一定範囲を素材レベルに分解するから、アルトも攻撃されないようにな。ダイバースーツも中身ごと崩壊するぞ』
「こわ」
近づいてきたら撃とう。そう決めてオレたちは慎重に接近し、相手に手の甲を向けて中指を立てる友好的なポーズを見せながら声を掛けてみた。
「ハロー! 親愛なるイルカ人。ドゥーユーライクスシィ?」
オレのゴボゴボした呼びかけに(骨伝導通信機持ってないとそう聞こえるはず)イルカ人はこちらを振り向き、足元(足でいいのか?)に置いていたVA-NG水中銃を手にとって発砲してきアブねっ!
センセイの影に隠れて強化アーマーに命中。反応装甲がペカペカ光って無効化した。
「撃ってきやがったチクショウ! やるかセンセイ!」
『やはり私の同種のオスではないと思うなあ』
っていうか銃を使う知能もあるのかよ。たぶんあの銃は冒険者の落とし物だろうけれど。異常に耐久性の高いVA-NGは海中に一ヶ月沈めたままでも撃てると評判だ。
オレとセンセイが銃を向けるとイルカ人は伏せて岩陰に隠れた。VA-NG程度の火力ならセンセイを盾にして突っ込ませれば制圧できるんだが、持っているツルハシが危険物すぎて接近したくなかった。
「音響弾を投げるぞ」
注意を促してからヴァルナ社の音響兵器VS-Gを、斜め上から隠れている岩場へ投射する角度で投げる。指向性のある強力な音波を放つこいつは、あんまりこういった閉鎖空間じゃ使いたくねえんだがその分効果は抜群だ。
大音響が発生する前にその場へ伏せて耳を塞ぐ。センセイもしゃがみ、反射してくる音波への壁になってくれた。さり気なくセンセイも点滅しているが、この前鮭食ってエネルギー回復したらしいし平気だろ。
「やったか!」
『……いや、ピキャストの座標が移動している! 逃げているぞ!』
「んだと⁉」
イルカ野郎が伏せていたあたりへ泳いで確認に行くと、そこには都合よく穴が空いていてどこかへ繋がっていた。
『ピキャストで咄嗟に掘ったのだろう』
「そんな軽々と穴が作れるのかよ! ええい、狭っ苦しい穴だな」
『どこかで外に出るはずだ。回り込もう』
イルカ人だけが通れる程度の穴なので、オレは無理すれば入れそうだが身動きが取りにくいところで最強掘削武器を持っている敵を追いかけるなんてやりたくねえ。
センセイが座標を確認し、洞窟を戻ってイルカが逃げた方向へ繋がる道を探りながら進んだ。
あのツルハシ、どう見ても異物の類だな……地球上の科学じゃ説明がつかない魔法のアイテムだ。それがセンセイの装備だってんだから、スペランクラフトジャケットも丸ごと異物なんだろうな。薄々気づいていたが。
しかしあれがあると、センセイが入りにくい狭い場所も崩して入れるから便利だ。こういった下層部を探索している際に、脱出するときは天井を掘って上がることもできるかもしれない。是非手に入れよう。
洞窟は暫くすると再び地下都市区画に繋がっていて、その先で反応が止まったらしい。
慎重に進むとやがて砦みたいな建物がそびえ立つ広場に出た。
「嫌な予感が」
した。呟くと同時に、砦の窓から多数の銃口がこっちへ向けられて次々にVA-NGや長距離狙撃銛が放たれてきた! ちらっと見えたが、イルカ人が十匹以上立てこもってやがる!
『アルト! 後ろに!』
センセイに隠れながら後退して射程外へ逃げる。水中武器は射程が百メートルもないのが救いだ。
「ちっ! 厄介だな……あの砦、センセイが飛び込むには出入り口が狭すぎるぞ!」
かといって遠距離から打ち込んでも窓に伏せられれば当たらない。内部が入り組んでいたら音響爆弾も効果は薄くなるだろう。
『ピキャストさえ取り戻せればなんとかなるのだが……』
「正確な位置がわからねえか?」
『これぐらい近づけばなんとか。一番右上の窓にいるイルカ人が持っているはずだ』
「よし、ならセンセイはあの派手派手なプラズマ兵器で敵の目を引いて、正面で暴れてくれ。その間にオレが取り戻してくる」
『了解した』
簡単な指示を出して一旦オレは物陰に隠れて、やや右側に回り込んだ。
センセイは再び前進して相手の射程に入ると同時に、機体の一部が変形して小型のランチャーとなり、砦の正面へ白熱するプラズマ弾を撃ち込んだ。
海の中に太陽が生まれたような激しい熱と光が砦の壁を溶かすほどの威力を見せる。大型の魔物でも致命傷になりかねないセンセイの武装『フラッシュ』だ。弾数に限りがあるから滅多に使えないが。
知能を持つイルカ人たちは危険な攻撃だと理解し、建物の内部へ引っ込んで隠れた。その間に熱を受けないよう、オレはなるべく天井付近へ泳いで上がってから目的の窓を目指す。
光の影響が消えた。更にセンセイは正門付近で、ブラスターを拡散モードにしてバリバリと振り回している。幾ら強力なレーザー兵器でも数の差がある。イルカ人たちは隙を見てセンセイに攻撃を仕掛けているようだ。
全イルカ人の注目がセンセイに集まっている最中で、オレは右上の窓に踏み込んだ。イルカ人が気色の悪い顔でぎょっとしたのかオレを見てくる。近くで見ると正気度を失いそうなキモさだな。
こっちに銃を向けるが、
「出玉ぐらい遅え!」
先に銃を狙って発砲。炸裂弾で破壊してやる。次にツルハシを振りかぶろうとした腕を狙い撃ってそちらも爆破。イルカ人は高音波みたいな悲鳴を上げてツルハシをオレの方へ放り投げたので、キャッチ。
「介錯してやんよ!」
早速手に入れたツルハシでイルカ人を殴りつけたら──うわっグロッ。頭から胴体まで、ミンチみたいになった! 画面写せねえぞ!
と、とりあえずこれでいいとして……センセイと合流するか。窓から飛び出て泳ぎ、センセイに引くように合図をした。
再び離れた物陰で戻ってきたセンセイにツルハシを渡す。
『ありがとう! これで目的は達したが……あのイルカ人たちも危ないな。退治しておくか。ピキャストがあれば簡単だ』
「そうか?」
『正直、やられっぱなしで私も気分がよくない』
どこか不満そうなセンセイがそう言うので、
「簡単なら任せていいか?」
『ああ。暫く待っていてくれ』
するとセンセイは足元の地面を掘り始めた。
「はっや! 一秒で一メートルぐらい掘ってる!」
強化アーマーの効率化された掘削動作と、物質を崩壊させるヤバいツルハシの相乗効果なのか、センセイが潜れる穴がみるみるうちに完成していき──どうやら砦の下へ向かっているようだ。
とりあえず休憩としてそのへんに生えていた酸素珊瑚を折って新鮮な酸素を堪能していると、やがて地響きみたいな音がなった。
砦は吸い込まれるように地面へ沈んでいく。慌てた様子で窓から飛び出て逃げようとするイルカ人たちを、近くに現れたセンセイが冷静に狙撃して倒していった。
「……砦の真下を全部掘って空洞にしたのか。いや、マジかよあのツルハシ……」
便利にも程がある。世界中の土木業者が欲しがるぞ。
『とりあえず一匹はギルドへの報告用として持って帰ろうか』
センセイがイルカ人の死骸を一匹捕まえて帰ってきた。
「これで調べたら本当にセンセイのオス種族だったらエグいな」
『その場合でも仕方ないだろう。見ていて気色悪いとしか私は思わないぞ、この魔物』
「記憶はなくとも好みってもんはあるんだな」
『食材にしか見えないぞ、私は』
「それもそれでどうかと思う」
いや……なんかグロくね? 腕の生えたイルカ。食うの? 止めとこうよ。シーモンキーじゃねえけど、なんか別の文化圏の人がドン引きしそうだし。後で人権とか認められたら怖い。
とりあえずオレらはイルカ人を引き連れてその日はギルドに戻ることにした。結構な収穫もあったしな。
アルトザダイバー2巻発売中! 購入済みの方はありがとうございます! ばいなう!
Webとは微妙に違う点があったりしますよね。書籍だとここでセンセイがイルカ語を使って呼びかけてたり