グレイのオッサンに報告したらアタマを抱えていたが、対処までは知らん。オレとセンセイは島へ帰ることにした。
センセイのエネルギー問題もあるので魔寿司で食うことにした。まだ開店前だったがセンセイの補給は人目に付かないほうがいい。
「邪魔するぜ」
「中国では商売の邪魔をするのは親を殺すのと同じぐらい罪深いって諺があるネ──この親殺し!」
「うるせえな! あとうちの親父殺したのはサメだっつーの!」
「微妙に重たい返しされてるよ……いらっしゃい、アルトくん! おかえりなさいセンセイ!」
『ああ、エリザ。実はちょっとエネルギーが切れそうでな。簡単な材料でいいから、沢山の寿司を握ってもらえないだろうか。機体に食べさせる分で済まないのだが』
「量がいるんですね! だったら……メルットドを一匹全部使います! ちょっと待っていてくださいね。やってみたかったんだ」
センセイの要求にエリザはウキウキと準備を始めた。オレもカウンターに座って適当にそこに置かれていた急須から茶を注いで飲む。
「緑茶じゃねえのかよこれ。苦ェ」
「我の故郷で飲まれているトリカブト茶ネ」
「ぶへー! 毒かー!」
「ただの漢方茶みたいなものヨ。無駄にするナ」
「うぐぐ、そう言われると日本人のもったいない精神で吐き出せなくなるじゃねえか」
やたら苦い毒茶を飲みながら顔をしかめていると、エリザが魚を仕込んでいたでっけえザルを冷蔵庫から持ってきた。
「これがメルットド! 大きなボラみたいな魔物だね!」
「メルットド……確か溶解液とか吐いてくるやつだった気がするが、食えるのか?」
「それが凄く難しいの。身に包丁を入れて切り身にすると、体液に含まれる分解酵素で溶けちゃうからどうしようかなあと思っていたんだけど、今日はセンセイが沢山食べるっていうから溶ける前に全部お寿司にするよ!」
「そんなもん食って大丈夫なのか……」
『まあ……スペランクラフトジャケットが食べる分には平気だと思う。分解してエネルギーに変換するだけだから』
危険だからかエリザが手袋を装備しているのも怖い。薄手のビニール手袋じゃねえぞ。ちょっとオシャレな感じだが結晶珊瑚を繊維に織り込んだ耐毒耐腐食性極薄手袋だ。
エリザが愛用の包丁『わさび丸』(確か、そんな名前だった)を取り出して、メルットドの身を抵抗なく寿司ネタサイズに幾つか切り落とす。
間髪入れずにシャリを取って寿司を握り、センセイの前に出した。
『私に味が伝わらないのが残念だが、いただきます』
スペランクラフトジャケットのアームが器用に動き、寿司を摘んで胸元に運ぶ。逆三角形をした、ちょっと口に見えなくもない部位に近づけると吸い込まれるようにして消えた。
「どんどん作りますね!」
エリザも手早く寿司を握って、それをセンセイがひょいひょいと摘んで吸収していく。
マシンへのエネルギー補給であり、食費は余計に掛かるので良いことはないんだが、あんな超パワーを発揮するメカのエネルギー源としては寿司で賄えるなら破格だろ。
普通の強化アーマーはフッツーにバッテリーの電力で動いている。オケアノスもヴァルナ社もそれぞれ特許を取っている、異海ダンジョンの研究で作られた新型のバッテリーは小型軽量大容量、そんで爆発もする素敵な未来のバッテリーだ。爆発は仕方ない。エネルギーの塊だからな。オレの腕時計型スマホも爆発して手首とか吹っ飛ばす危険性がある。
オケアノスが海中に拠点を作りたいのも、そこをバッテリー補充の場にしたい思惑もあるだろう。
『む!』
センセイの訝しげな声が聞こえた。
「どしたん? 話聞こうか?」
「そのカスのチンピラみたいな絡みに生き方止めるネ」
「なにイライラしてるん? 話聞こうか?」
「
「ええとね、センセイのメカに新しい機能が追加されたんじゃないかな?」
『……なんでエリザはわかるんだ?』
「寿司テレパシーで」
「寿司テレパシー⁉」
「一流の寿司職人はね、読心術とかテレパシーで会話できるんだよ。漫画に描いてあった」
「描いてあった、で使えるようになるな、そんなもん──で、なにがどうだって?」
改めてセンセイに聞いたら、寿司をパクつきながら言った。
『うむ。内部モニターに摂取した魔物が有毒か否かを表示されるようになったようだ。トロフィーみたいなのが浮かんでいるな。魔物五十種類分解特典……とある』
「へえ。それでパチンコのエヴァンゲリオンに出てくる敵みたいに溶解液を吹き出すメルットドちゃんの判定は?」
「パチンコの、って入れる意味あるのカ」
「相当昔の台なんだけどな、パチのエヴァセカンドインパクトは凄えぞ。シンジが『粘ればいいと思うよ』とか綾波が『まだまだこれからよ』とかひたすら無責任に煽ってきてムカつく」
なにせこの島のパチ屋は無法だから、中古で売り払われた過去の台を改造しまくったやつを気まぐれに置いているんでオレがガキの頃の台でもプレイできて楽しい。
『それはさておき、ちゃんと無毒と表示されているな。幾つか残して私も食べよう』
「ふーん。これで毒見役のウリンちゃんはお役御免かぁ……転職ならパチ屋のホールが足りねえって店長言ってたぞ」
「行かないヨ! 他にも仕事あるんだからナ!」
「毒見がないともはや毒茶で毒キャラを無理に維持しようとしている感じに」
「うるさいナ! はい老師、お茶!」
毒ウリンちゃんがトリカブ茶を差し出して、スペランクラフトジャケットはズズッとそれを啜った。
『……これは毒だと表示されているが』
「毒じゃねーか! オレになに飲ませてんだこのちびっ子!」
「漢方茶なんて用法用量次第で毒にも薬にもなるネ!」
──それから、物のついでにエリザが保管していた「毒抜き処理したけど本当に毒が抜けているか不明な特殊調理食材」を寿司にしてスペランクラフトジャケットに食わせて判別なんかもさせて、エネルギーはだいたい回復したようだった。
パカッとハッチを空けてセンセイも無毒だった寿司を美味い美味い言って食べている。オレもメルットドの寿司を試しに食ってみたが、臭みのない白身魚を泡にしたような口の中で溶ける食感で、その泡がシャリ全体に浸透し魚介系の雑炊みたいな出汁を感じる味わいだ。まあつまりやたら美味い。
「あの装備を溶かす溶解液吐いてくるFランモンスターがこんな味とはな……」
「エリザの腕前がそれだけいいのだな」
「えへへ、これでも試行錯誤してるんですよ。この前、冷凍のメカカジキを電子レンジで解凍しようとしたら爆発させちゃったり、失敗もあるんです!」
「メカカジキって食えたんだ……」
結構危険な魔物で、カジキ型のどう見てもメカな金属質の魔物だ。デカい早い硬い刺してくると厄介な性能揃いだが、電撃には極端に弱いので電気ショッカーで捕まえられる。
「はいこれメカカジキの握り!」
「ネジと歯車じゃん⁉」
「鉄分たっぷりだよ?」
「だろうよ!」
寿司屋が食えない寿司出すのってどうよと思っていたら、センセイが恐る恐るそれを頬張っていた。食いしん坊か?
「……いや、食べられる! なんかこう、見た目はネジなのだが食感は弾力があって濃く熟成した塩辛のような味が……!」
「マジかよ!」
「機械の形をした内臓だったんだねえ」
あいつらどういう生態してんだ。いや、魔物には今更だが。
モキュモキュとしたメカカジキの寿司を食っていると、エリザが言ってきた。
「そういえばアルトくん! イカダ地区が撤去されたんだって?」
エリザに視線を向けると、エリザがタブレットで撤去され終わったイカダ小屋の跡地をなにか工事用マシンが作業している映像を見せてきた。寿司握っているほうはタブレットを触らないのは衛生への配慮だな。
「おお、なんだこれ。海面下になんか作ってんのか?」
「聞いた話だと、魔物の上陸対策に『浅瀬区』という外縁部を突貫で作る予定らしいネ。深さ五十センチぐらいに作った足場を広げておけば、魔物がその上を泳いで近づいてきても陸からの銃撃で仕留められるとかで」
「それにしても工事早えな……」
遠くから誰かが撮影した映像なんだろうが、工事用強化アーマーが手に持ったブロワーみたいなので簡単に床材をくっつけて足場を作っていっている。
「それでアルトくん、泊まるところ失くなってお家大変じゃないかな?」
「あん?」
「感謝するといいネ野良犬! お前のために店の裏に犬小屋を作っておいてやったヨ! そこで寝泊まりするといいネ!」
「もう作ったのかよ意味わかんねえ行動力見せんなちびっ子!」
「首輪と鎖も用意してるヨ!」
「特殊な
どことなく興奮した様子のウリンにオレはドン引きしながら言った。
「まあまあ、ウリンちゃんの性癖はともかく……アルトくんも下宿しない? お部屋余ってるよ?」
「危ねえな! 冒険者なんてロクデナシのチンピラをホイホイ誘うな! 禁止禁止!」
危機感ゼロかよ。そこらの冒険者に言ったら入り込んで一瞬で魔寿司は崩壊するぞ。なんかこう、マズイ方向に。
見た目はいいんだからこれまでの人生で男への危機感を培っていて欲しいもんだぜ。
「そうヨ! 野良犬は犬小屋で外飼いネ! エサ箱も買ってるシ!」
「買うなそんなもん! どんだけ犬飼いたいんだよ!」
「子供の頃から犬を飼うのが夢だったけど親に反対されていたネ……今なら!」
「その夢をオレで叶えようとするな。つーかもう宿見つけてっから」
「えー」
「えー」
「残念がるなちびっ子ども。ああそうだ。これくれてやる」
と、オレは防水ポケットに適当に突っ込んでいたチケットの束をカウンターに出した。
「これは?」
「銭湯の回数券だ。日本人街にある『おけあの湯』で使えるやつ。オレあんまり入らねえからやる」
「おっきいお風呂もあるんだね! やった! ……アルトくん、お風呂キャンセルはあんまりよくないよ」
「犬用のシャンプーも買っているんだガ」
「なんで手前は犬グッズ揃えてんだよ。自分に使っとけ」
「くーん」
無駄に可愛くしょげるウリンだが、その目的はオレの犬化という恐るべき女だ。
関わらんどこ。
「……ん? センセイ、さっきからタブレットの映像を黙って見てどうしたんだ?」
会話に加わらないなと思ったら、センセイはウリンのタブレットに映る、浅瀬区の工事映像を凝視しているようだった。
そして、訝しむように言う。
「この工事用強化アーマーが使っている道具……」
「そのブロワーだか吹付け用のスプレーガンみたいなやつか?」
「……恐らく、スペランクラフトジャケットの装備『ビルダー』だと思うのだが……」
「は? センセイの装備たって……何機も持ってるぞ、これ」
画面に映るだけで三機ばかりの工作機械がそのビルダーとやらを使って足場を作っている。ワンオフのお宝にはとても見えない。
「『ビルダー』ってなんですか? センセイ」
「そうだな……3Dプリンターに近い道具だ。これに接続されているタンクにマテリアルを充填し、吹き付けるようにして設計した物体を作り上げる。少々強度は下がるが、設計図さえあれば機械でも再現できる」
「めっちゃ便利だなそれ」
「複雑な機械を作るにはスペランクラフトジャケットを通したエネルギー補充が必要で、結構消費するから万能ではないがな。それにしても、あの機械が使っているのは随分性能が低そうに見える……」
「うーん、センセイのビルダー拾って劣化コピー品作ったんじゃねえの? オケアノスは異物の解析とコピーもやってるし。あれ? でもセンセイが装備失くしたのいつだっけ」
「よく覚えていない。アルトと会ったとき、既に持っていなかった気もする……」
「記憶喪失だったな、そういえば」
「確かめるために一個分けてくれないだろうか。あの偽ビルダー……」
などとセンセイはブツブツと呟いていた。
ま、とりあえず今日の仕事は終わりなのでパチ屋に帰ることにした。
オレの帰るところはそこだ。
負けた。
図説! スペランクラフトジャケットで寿司を食べるところ!
【挿絵表示】
ちなみにデザインできて設定固まるまで、作者は適当にパックマンみたいに頭部がパカっと開いて食べている感じで書いていたので、その名残の描写がWeb版だと残っていたりもします
しかし左図で見るにパカっと開くほどのスペースはないですね。ボトムズよりも1メートルは小型なので