アルト・ザ・ダイバー【書籍化】   作:左高例

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第24話『アルト・ザ・メカルスハプニング』

 

明くる日のこと。オケアノスから仕事依頼のメールが来た。

 正確に言えばセンセイ目当ての内容なんだが、センセイは基本的にそういう依頼案件をチームであるオレに回すようにギルドにも通達しているので、まあなんというかジャーマネ的なオマケでこっちに連絡が来る。ちなみに島内では連絡用にスマホも持っている。スマートウォッチと同じ回線で同期させている安物だが。

 内容は危険度マックス。

 

『ドラグアナ統率種の討伐チーム参加。成功報酬一人当たり二千万エレク』

 

 ここ最近、活動を活発化しているドラグアナ統率種の被害がデカすぎる。冒険者も数多く死んでいるし、下手をすれば三岳島へ再侵攻があるかもしれない。海上の船も沈める能力を持つわけだから、輸送フェリーを狙われたらヤバい。

 なによりこいつが居るとオケアノスの目的である、ダンジョン中心部のブルーホール調査がまったく進まねえ。そういうことになって、有力な冒険者へ依頼が行っているらしい。

EX級の魔物討伐依頼なんて今まで成功した試しはない。つまりババしかないババ引きだぞこりゃ。

 一応センセイに連絡取ってみようと思ったんだが、電話に出ない。

 仕方ねえから店に寄ってみるか。

 

 

******

 

 

 日本人街は三岳島の中央付近な『三区』にある。微妙に一区と二区に比べて土地代も高いが治安もマシなところに集まっているあたり、日本人の安全意識が窺える。

 

『お出かけなのですか、アルト殿』

 

 強化アーマーを着ているトビーが出かける際に話し掛けてきた。

 

「おう。そういや手前にもきてなかったか? ドラグアナ統率種討伐のウンコミッション」

『きてたのです。さすがにリスクが大きすぎる上に、統率種は強化アーマーを電波で遠隔操作すると噂なので、相性が悪すぎるのです』

「だよな。クソ面倒な怪獣なのに、高級装備すら使えねえ」

 

 とにかく電波で狂うような道具が使用不能になりかねないのが予想される。強化アーマーやランクの高いダイバースーツ、水中用攻撃ドローン、誘導魚雷なんかもだ。

 なにかオケアノスに作戦でもあるのだろうか。

 

『そうだ、アルト殿。集会所では日本人向けに護身具も販売しているので良ければどうぞなのです』

「時々催涙スプレーで強盗を撃退してる日本人冒険者居たけど、ここのやつか」

 

 三岳島は犬も歩けば強盗に当たるぐらいの治安だが、平和ボケした日本人冒険者がなんで平気かっていうともともと漁師なんてやってるオッサンたちは気が荒いからだ。

 ついでに魔物をぶっ殺してカネをゲットしようなんて考えている日本人の中でもアウトロー気質な連中が集まっているから、尚更喧嘩に容赦がない。

 さすがに殺すまではいかないが、日本人なんてナイフで脅せば言う事聞くだろう的に思っているチンピラが寄ってきたら催涙スプレー噴射して悶絶させたあと鉄竿でぶん殴って海に捨てるぐらいは平気な顔でやる。

 あと基本的に、一人で歩いていたら絡まれること多いから複数人で行動しているな。オレ以外は。

 

「こういうの本土から輸入してんの?」

『催涙ガスは弊社、フジバヤシ・テック社が異海素材で開発したものです。ミノフスズキの骨粉とトリカブトと松の実などを混ぜて作った、最新式忍者の目潰し薬なのです』

「どいつもこいつもトリカブトを気軽に使いやがって」

 

 ミノフスズキはスズキタイプの魔物で周辺に電波障害を引き起こす能力を持つらしい。まだ研究段階だが、いち早く変なところが製品化したようだ。

 ガス缶型のやつとピンポン玉ぐらいで炸裂するタイプのが売られている。水中でも使用可能とあって、ダイバースーツのツール入れに取り付けるアタッチメント付きだった。

 

「普段ヴァルナ社かオケアノスのばっかり使ってるから目新しいな……買っとくか」

『毎度なのです。ボクの営業評価に繋がるのです』

「ちゃっかりしてやがる」

『営業成績が上がらないとバニー姿で宴会芸させられ社報に載るのです』

「辞めちまえそんな会社」

 

 なんで辺鄙な無法地帯に派遣している冒険者にも営業ノルマがあんだよ。日本の古き良きブラック企業体質か。まあ、オレは会社勤めしたことねえけど。

 とりあえず幾つか買って、個人用ロッカーに放り込んでおいた。三岳島にはあちこちに有料ロッカーがあるが、ここのは日本人限定無料だ。紛失は自己責任だから大事なモノは入れねえが、売店で売ってるやつぐらいならいいだろう。

 一応手持ちにスプレー缶持って魔寿司へ歩いて向かう。

 

「ヒャッハー!」

「日本政府のようにカネを出せジャアアップ!」

 

 強盗に襲われた。

 

「政治の話は揉めるから止めろ」

 

 早速買ったスプレーを日本政府のように浴びせてやった。知らんけど。

射程距離五メートルぐらいの勢いでガスが出る。顔面に魔物とトリカブトなんかの混合ブツを受けた二人組の強盗は転げ回って苦しんだ。幻覚も見ているようだ。

適当に撮影して通報すると、三区は治安が良いからかマッハで回収用警備車両が来て強盗を攫っていった。

 さよなら強盗。人体実験とかで世のためになるんだぞ。

 

 

 魔寿司にやってきたが、基本的に昼間は営業時間外だ。前は昼間も開けていたんだが、客数が増えすぎて仕込みが間に合わないのと、夜だけでも十分稼げるのでそうなった。

 裏口へ周り、顔認証のパネルを起動させる。どういうわけかオレの顔で開くようにしたとエリザが酔っ払いながら言っていた。オレが強盗だったらどうするんだ。いや、強盗なんてしたら人体実験送りになるんだが。

 オレの映った液晶パネルに『チンピラ』の文字が出た。顔認証ロックが解除されて電子キーが開く。釈然としねえ。これぐらいのセキュリティは島内の建物ならどこでも付いている。集会所にも。オレの懐かしきイカダ小屋にはなかったが。

 店の中に入ると、すぐにメカルスがこっちに音波銃を向けながら出迎えてくれた。すかさず中指を立てて挨拶をする。

 

「おうポンコツ殺人ペッパーくん。お留守番中か? 裏に犬小屋あったからそこで見張っとけばどうだ?」

「ビビビ。アノ犬小屋ハ貴様ノ指定席ダロ。ソコデマスターガ帰ッテ来ルマデ待ッテロ」

「で? そのマスター・エリザとパダワン・ウリンはどこに?」

「風呂屋ダ」

「センセイに用があんだけどよ」

「……コッチダ」

 

 一瞬ピポピポと目を光らせてメカルスは先導するようで進んでいった。

 魔寿司には二台、この人類に反逆する可能性を秘めたロボがあるようだが、一台はあいつらが銭湯に行くのに警備でついていったようだ。

 寿司屋の二階は居住区になっていて、たった二階建てだってのに薄らデカいエレベーターがついている。建物自体が賃貸の店舗なので、例えば二階に店の品物やインテリアを運ぶ場合もあるのでこういう作りになっている。

 そのおかげでセンセイの強化アーマーも二階に運べるわけだが。

 

 すぐに二階に到着してエレベーターのドアが空いた。

 二回はビジネスホテルみたいに広めの廊下と幾つかの部屋に分かれているようだ。センセイの機体も通れるぐらいに広い。部屋のドアも。なので巨人のホテルって雰囲気でもある。全部の設計を強化アーマー前提で作っているからこうなるんだろう。部屋に冷蔵庫とか運び入れる分には便利なゆとりだろうがな。

 

「ココダ」

 

 指定された部屋の前に立ってノックする。

 

「おーいセンセイ。居るかー?」

 

 部屋の中からややくぐもった声が響いて聞こえた。

 

『アルトか? 開いてるから入ってくれ』

「へいよ」

 

 言われてでっけえドアを開ける。

 その部屋は──洗面台となにやら各種化粧品っぽいのが置かれたところだった。

 片隅にハッチの開いているスペランクラフトジャケット。

 正面はガラス張りになっていて、その先ではセンセイが風呂から上半身を起こして手を振っていた。

 

「すまないな、このような格好で」

 

 センセイが風呂に入っていた。

 間髪入れずオレは真顔のまま巻き戻しめいてドアを閉め、エレベーターに戻って開くボタンを連打した。ついでに邪悪な予感でブリッジ回避をする。頭上を殺人音波が通過して流れ弾でエレベーターの壁が焦げた。あっぶな! この殺人機械警告もしなかったぞ!

 即座に起き上がってメカルスの銃を取り押さえた。

 

「ハレンチ罪デ処刑スル! 処刑処刑!」

「案内したの手前だろうがカジュアルセクハラマシン! メーカーに訴えるぞ!」

 

 うおおお殺されて堪るか! 社会的と身体的ピンチだ! このままだと無線で風呂覗き魔アルトの情報が拡散される!

 とっさにオレは持っていた催涙スプレーをメカルスに吹き付けた!

 

「ンアーッ! 通信障害! システムエラー!」

「っしゃあ! ミノフスズキの粉末だぜ! 今のうちにスクラップにしてアフガン人のヤードに持っていってやらあ!」

「ビガー!」

 

 エレベーターの前で愚かなるメカと取っ組み合いをしていると、声が掛けられた。

 

「アルト、なにをやっているんだ? メカルスが暴走しているようだが……ポチッと」

 

 風呂場からやってきたセンセイが水を髪から滴らせ、首を傾げながらこっちを見ていた。なんかこう、首タオルみたいに昆布が胸を隠している。手に持ったリモコンみたいなのを押したらメカルスが突然大人しくなってスリープ状態に入った。

 

「つーか見なかったことにしようとしたのに! 服を着るか湯船に戻ってくれねえかな!」

「うん? どうしてだ? 理由がわからないな……私、なにかやっちゃったのか?」

「一般常識の勉強辞めたのかよ!」

「最近勉強した内容によると、悪の組織が使う電波から身を守るにはアルミホイルの帽子が有効らしい」

「アルミホイル帽の知識は今要らないだろ⁉」

「まあとりあえずついてきてくれ」

 

 センセイは仕方無そうに、尻尾を『し』の形にして床の上を跳ねて風呂に戻っていった。

 言われたので仕方なくオレは胸ポケットからサングラスを取り出して視界を遮りつつ、部屋の入口までついていった。

 

「二人は銭湯に行ったのだが、さすがに私はこの足では行けないから留守番をしていたのだ。エリザが代わりに豪華な風呂を用意してくれた」

「ほーん」

 

 あんまり見ねえようにして応える。半分サカナだから銭湯は貸し切りにでもしないと珍獣ハンターに捕まっちまうからな。

 ちらっと……センセイの裸体ではなく風呂を見る。さっきセンセイに引っ付いていたのは薬草昆布じゃなかったか?

 湯船にはゆらゆらと揺れる大きな昆布が見える。薬草昆布はその成分に擦り傷、打ち身、切り傷などの治癒と疲労回復、内臓疾患の緩和など様々な効果が期待されている、異海ダンジョン産でもメジャーなお宝だ。

 直接冒険者が取ってくる分には簡単だが(運悪く魔物に殺される新人もいる)、オケアノスの店で買うと一枚が一万五千エレクもするという超高級昆布だ。レートは変わるが、ざっと一万五千円と言い換えてもいい。そんなものを入浴剤代わりに入れるのは、確かに特別豪華な風呂だろう。銭湯に行くよりもずっと。

 

「ぬるっとしていて温かくて中々気持ちが良いぞ! アルトも入るか?」

「オレは風呂キャンセル派だからよ……なんだそのクラゲ? キノコ?」

「エリザが入れていた」

 

 センセイが手に茶色いシイタケみたいな物体を持っていた。あれは確か……ドンコクラゲだったか? 流木に付着するキノコみたいなクラゲで、特に害はない食用魔物……干してから戻し煮物や吸い物に使う……はっ!

 

「センセイ……もしかして今、スープの出汁にされてねえ?」

「……そろそろ上がるかな」

 

 今晩、味噌汁とかこの店で出されたらどうしようか。

 

 

 とりあえずセンセイが風呂から上がって服を着るまで、適当に置かれていた本棚から漫画を取り出してソファーに座って読んで待った。デビルマンってイタリア語で書かれていてもそこはかとなく雰囲気は読み取れるな。これって勉強にならねえかな。

 

「おまたせ」

 

 センセイがいつものダイバースーツを着て、ソファーの隣に座ってきた。なにせサカナなもんで、立ったままという姿勢はキツそうだから座るようだ。距離が近い。

 微妙に離れつつ、オレは要件を説明する。

 

「オケアノスからよお、ドラグアナ統率種の討伐依頼が来てんだけどどうしたい?」

「ふむ……島を襲ったり、大勢の冒険者をやった怪物か……」

 

 なにやら考え込む様子で、センセイは難しげな顔をして言う。

 

「正直なところ、討伐できるならば、してしまいたいな。ああいった危険な魔物が跋扈していると他の冒険者にも迷惑だし、アルトも危ないだろう」

「まあそりゃあな」

 

 統率種の放つ電波の強度によってはダイバースーツやボンベの機能不全に陥るかもしれないし、どんだけ遠距離からそれが可能かもわからない。

 

「私を指名してきているのならばなにかしら作戦があるのかもしれない」

「うーん、確かにセンセイの強化アーマーには電波通じなかったみたいだけどよ」

「それとオケアノスに恩を売れば、あの工事用強化アーマーが持っていたビルダーを売ってくれるよう交渉できないだろうか。調べたところ、販売は全くしていないようだから」

「そうなのか? ううう、センセイは割とやる気かあ……」

 

 クソミッションなのにな。ただセンセイだけで参加させると、どんだけ騙されるかわかったもんじゃない。

 いざというときは逃げる指示もできるから、オレも行くしかねえか。上手いこと行けば二千万だしな。

 

「ちょっと待ってな。ビルダーを強請ってみる」

 

 スマホを取り出して登録した番号に掛ける。

 

「もしもし? エリート社員さん? ビルダーちょうだい?」

『なんだいきなり貴様は! 冒険者アルトだな⁉ 電話アポの礼儀ゼロか!』

「ま、んなことはどうでもいいんですわ。オケアノスから出した統率種討伐ミッションあるだろ。あれにセンセイが参加するから、報酬としてビルダーを売れって話だ」

『ビルダー?』

「工事用強化アーマーが持ってた、なんか吹き付けて床とか作るやつだよ」

『【ヘパイストスの槌】のことか。むむむ、あれは企業秘密の特殊な機材なのだが……』

「現場の工事に使ってるぐらいだから一個ぐらい都合できるだろ。だいたいアレ、センセイがもともと持ってた装備らしいぞ。オリジナルはどうしたんだよ」

『本社で分解・解析してもう戻せないはずだ』

 

 チラッとセンセイの方を見ると、彼女は大丈夫だとばかりに頷いた。

 

「とにかくそれ一つ、前払いでくれ。そしたらセンセイもやる気出すってよ」

『……仕方ない。かなり高価な物だからタダでくれてやるわけにはいかんが、本社に掛け合って都合しよう。通常報酬から代金を差し引いておくぞ。今日の十八時に作戦のミーティングがあるから、そのときに渡す。参加するように』

「ケチケチしやがって」

 

 通話を切ると、三区ギルドの会議室でミーティングがある旨のメッセージが届いた。忙しいな。とにかく早めに統率種を倒してしまいたいのだろう。

 

「それにしてもセンセイ、良かったのか? もともと使っていたビルダーの劣化コピーらしいけどよ」

「問題ない。あのビルダーを使って、より高性能のビルダーを作成する。そうして作成したものを使って更にビルダーをアップデートする。そうすれば本来の性能に近づける」

「そんなことできんだな……」

「特別な鉱石などの材料が必要だがな。とにかく、アルトが交渉してくれたおかげで助かったぞ。あとは魔物を倒すだけだな」

「それが一番厄介そうなんだがな……」

 

 なにはともあれ、とりあえず統率種討伐ミッションに参加することになった。

 

 ミーティングまでの時間、センセイの強化アーマーに乗って武器屋なんかを巡って統率種相手に有効そうな装備がないか見て回り時間を潰すことにした。

 




担当さん「殺人ペッパーくんって呼び名は特定商品への誹謗中傷になるからちょっと…」
作者「じゃあ書籍だとR2D2にしときましょう」
担当さん「ディズニーに喧嘩を…? まあいいか…」


【挿絵表示】

メカルス基本の姿(エッチな太ももで頭に入らない)
色違いも存在し、お店のエプロンをつけたりもできます

【挿絵表示】
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