昨日のパチは微勝ちだった。こういった微妙な勝利を積み重ねることでオレの戦績はトントンになっていくと信じている。
それはそうとセンセイから連絡あって、昼過ぎぐらいまで魔寿司の改築を頼まれたのでそれをやってから合流しようとのことだ。ビルダーを早速使わされているらしい。
ついでに、アルミホイル加工したオケアノスの強化アーマーは耐電波試験を突破したが、統率種から放たれる電波の種類が未確認のモノもあって不安なので、一機だけ自爆装置を付けての運用が許可されたらしい。やっぱり付けるじゃねえか。自爆装置。
ということで、夕方に仕事開始だからセンセイの作業終わるまでは今日は暇だ。昼飯を食うためにパチでも打ちに行くかな。集会所の自室で景品のブタメンを啜りながらそう考えていた。
三度のメシよりパチではなく、三度のメシのためにパチ。それが男の生き様だ。
すると部屋にノックの音が響いた。クソ狭い安宿だが、全部に扉が付いているあたりは立派な防犯設備だなと感心する。
『ファファファ、アルト殿。お客さんが来ているのです』
「客ゥ?」
外から聞こえたトビーの声に聞き返す。オレに来る客って借金取りぐらいなんだが。
警戒しながら部屋から出ると、そこにはメカルスを連れたエリザが来ていた。
「アルトくん、お客だよ~」
「どしたん? 寿司屋クビになったのか?」
「あたしが店主なんですけど! 改装作業してて、ウリンちゃんは監督でセンセイが作業してあたしは邪魔だから買い物にでも行ってろって追い出されたの。それでアルトくんとお買い物しようかなって」
「そこは素直に監督の指示通り一人で買い物してろよ……ってかオレの場所言ってたっけか」
「センセイが逆探知で位置情報見つけて、いつでもアルトくんの位置がわかる機能を付けてくれたよ。ほらこのアプリ」
エリザがスマホを見せると三岳島の地図にオレの位置が光点で表示されていた。
「オレのプライバシーどうなってんだ」
「ウリンちゃんが一日ぐらい観察してたけどパチンコ屋でずっと止まってるから面白みのない情報だって愚痴ってた」
「そのまま興味を失って欲しいところだぜ」
「日本人街って来るの初めてなんだ。アルトくん、お買い物付き合って~」
「なに買うんだ? 中古のパチ台か?」
「お酒」
「なんだろう……自分で振っといてなんだけどクズのやり取りみたいになって軽くショックを受けているオレがいる……」
「他にも色々だよ! お菓子も買っていきたいし。ウリンちゃんお菓子が好きだから消費が激しくて。アルトくんオススメのお菓子ある?」
「あーどういうわけか金生饅頭(鹿児島銘菓)が売ってるんだよなここ……アレでも買うか」
「そうだね! じゃあ行こ! あ、トビーさん、お昼はここでお寿司作りますから、よければ職員さんとか近所の人もどうぞ!」
『ファファファ……えっ! いいのですか⁉ 魔寿司さんが作ったお寿司を⁉』
「お試しですから無料ですよ!」
『やったのです! 炊事場の掃除しとくのです! 炊飯器と米ならあるのですが、提供いたしましょうか!』
「じゃあ、硬めで炊いといてください! お願いします~」
大喜びでトビーは準備に向かった。聞いた話だとあいつはまだ魔寿司を食いに行けてないらしい。音速マグロフェアのときは予約券を買えず、最近は夜営業のみなんだがトビーは夜に強化アーマーのメンテをしたり業務日誌を書いたりして忙しいのだとか。
それを突発的に昼飯で振る舞われるというのだからラッキーだったのだろう。
「勝手に作って食わせてウリンに怒られねえの?」
「宣伝になるからいいって言われたよ」
「そういうもんか」
「さあ、アルトくん。お買い物行こ。お昼用の材料も買って作ろう!」
「なんか釈然としないが……まあいいか」
どっちにしてもなにか食おうと思っていたわけだから、エリザの出張寿司に付き合うことにした。よくよく見たら包丁を持ち歩くためのケースまで持ってきている。やる気満々だ。
サンダルを履いて外に出る。エリザと並んで日本人街を歩いた。
日本人街は他の多国籍な町に比べて、フッツーの日本にある商店街みたいな店が並んでいる。スーパー・コンビニ・飯屋・喫茶店・床屋・雀荘・修理屋、メインの通りからやや離れてキャバクラに風俗に個室ビデオ屋とかもある。
勿論、他の町でもあることはあるんだが、東南アジア人だとかヨーロッパ人なんかが入る店とはラインナップや空気が微妙に違う。日本人冒険者が地元のような気分で安心して店に入れる、そういう感じの町になっていた。
といっても本土のスーパーとは違うのは、個人で料理する家庭はあんまねえから生鮮食品売り場が小さいとかあるんだけどな。その分お惣菜はオッサン向けなのが結構売っている。
エリザがひょいひょいと買い物カゴに入れていくのを、カートを押してついていく。
「わあ、こんな島でもマグロの切り身が売ってるよアルトくん。日本人って本当にマグロ好きだよねえ」
「ああ。オレのクソ田舎な地元のスーパーにすら置いてたからな。買ったことはねえんだがずっと仕入れてるってことは誰か買ってんだろうよ」
「あっ! これ魔物かな⁉ 『イソノマグロ』……イソマグロに名前は似てるけど」
「そいつは確か日曜日の夕方にだけ捕れる変なマグロ型魔物だな。船の上からサザエを餌にしたら一発で釣れる上に毎週捕れるから安定供給してる。ギルドに納品するとやたら安値で買い叩かれるからこっちで売ってるんだろう」
なんでも薬効なんかの特殊な効果がないもんで、こんなもん大量に水揚げされてギルドの処理能力を削がれても面倒だし、冒険者が役に立たねえ魔物ばっかり捕ってポイント稼ぎされても困るので安値&最低ポイントでの引き取りになっている。
日本人冒険者ならこうして日本の魚屋へ伝手で売れるが外国人冒険者はそういうわけにもいかないので不人気魔物だった。
「これお寿司のメインにしよーっと。皆マグロなら喜んでくれそうだから。残ったら漬けにして持って帰ってセンセイとウリンちゃんにも食べてもらおう!」
そう言って多めにイソノマグロを購入していた。
会計して袋に冷却用の氷も詰めて持ち運ぶ。
ついでに金生饅頭を買っていく。鹿児島銘菓の……まあ普通の白餡饅頭だな。地味だが嫌う人も居ねえだろって感じの味をしている。
どういうわけか三岳島にも屋台を出していた。
「アルトくんこっちの『あんまき』っていうの、シチリアの『カンノーリ』ってお菓子に見た目は似てるねえ」
「なんだそれ?」
「揚げた小麦粉生地でクリームとか包んだお菓子だよ。今度作ってあげるね」
「高カロリーそうだな……いや冒険者は高カロリーなぐらいがいいんだが」
どうせ潜ってカロリーは消費されるしな。
持ち帰りとは別に一つ二つ食いながら集会所に帰っていくと途中で声を掛けられた。日本人冒険者の……ええと誰だったか。顔は知ってるやつだ。
「よお、『しぶとい』アルト、買い物か──うおおお俺は貴様を許さん! 死ねい!」
「いきなり襲いかかってきた⁉」
エリザがビックリして叫んだが、オレは冷静に買い物袋をその場に置いて、オレを守ろうともしないまま付いてきているメカルス(約八十キログラム)を持ち上げ突進してくる男へ押し付けた。
「援護防御頼むぜ!」
「貴様……貸出物破損使用ニスルゾ……!」
文句を言いながらもメカルスは音波銃を暴漢へ向けてぶっ放す。拷問レベルの殺人音波を浴びて男は「ぐえー!」と呻きながら地面に転がった。
「──で、手前はなんで突っかかってきたんだ」
ぶっ倒れた男に追撃の蹴りを叩き込むか悩みつつ一応そう問いかけた。鼓膜が粉微塵になっていたら聞こえないけれど、大丈夫か?
「う、ううう……だってアルトが……金髪巨乳の美女を侍らせて……」
「金髪巨乳……? ……海物語のマリンちゃんのことか?」
「俺今パチの話してたっけ⁉」
「だってよ、それ以外にも響とかフェイトとかマミさんとか城ヶ崎ありさとか居るだろ。金髪巨乳キャラ。一応確認が必要かなって」
「パチの話から離れろよ! あと城ヶ崎ありさを金髪巨乳キャラに入れていいのか⁉」
「あのー……パチンコ知らないと全然ついていけないんだけど……」
エリザが冷や汗を流しながら控えめに聞いてくる。
「それで、どうしたんですか?」
エリザの真っ直ぐな目線に男はたじろぐ。
「答えねえと通報してオケアノスの人体実験行きだが」
オレが脅すと観念したように男は項垂れ、エリザに告げた。
「直接聞かれると恥ずかしい話なんですが、この島では冒険者は基本的に女っ気とかなくて」
「はあ」
「それでなんか美人のお姉さんと仲よさげに歩いているアルトへ嫉妬の炎が」
「本当に恥ずかしい話だな。よし、通報するから人体実験受けてこい。欠損したチンチンがサイセイカイメンで復活するかもしれない実験とかで去勢されろ」
「止めて! 通報しないで! 咄嗟に襲ってごめんなさい!」
「こういうやつが日本人冒険者の品位を貶めるんだよな」
容赦なく通報してやろうとしたら、エリザがやんわりと止めてきた。
「まあまあ、あたしとアルトくんが、デ、デートしてるって勘違いしただけなんだから許そうよ。うぇひひ……カシュッ」
「なんで炭酸麦茶を開けて旨そうに酒飲み始めやがるんだ?」
「お酒美味しいね!」
「もう回ってるのか赤ら顔になってやがる……」
エリザは酒ですぐに顔が赤くなる方で、いつ飲酒しているかすぐにわかる。昼間っから外で飲んでいるとウリンに怒られるぞ。っていうか路上飲酒はするな。この治安の悪い島で。
土下座している男にエリザは語りかける。
「これから集会所でお寿司作りますから、是非来て食べていってくださいね!」
「女神か……結婚してください」
「それはちょっと……」
「もしもし? オケアノス警備部? ストーカーが女の子に言い寄ってるんだが……」
「はい! すみません! 集会所行って便所掃除とかしときます!」
メゲねえ野郎だ。ダッシュで逃げていった。エリザが居るからアレだが、普段ならもっと追い込んで有り金奪うところだぜ。
「変なのに絡まれねえうちにさっさと集会所でメシ食って店に戻るぞ」
「そ、そうだね! 絡まれないようにね」
「いざとなったらその包丁で悪党を三枚に卸してやれ」
「普通に嫌だよ!」
「『三枚卸しのエリザ』……」
「あたしが猟奇的な状態になってそうなあだ名止めて」
買い物袋を取ってスタスタと集会所へ向かうと、エリザも後ろから付いてきた。なんかオレのアロハの裾を握っているが、エリザなりに暴漢にビビったのかもしれない。
これが三岳島の治安だ。比較的安全な日本人街でもトチ狂ったアホが襲ってくる。ちょっとは警戒と反省をすべきだと思ったのでなにも言わないで握らせておいた。
集会所に戻ったら思ったより寿司を求める寿司難民が集まっていた。
どうやらトビーが日本人グループのチャットで呼びかけたらしい。暇な連中がやってきていた。
早速エリザが厨房を借りて寿司の準備をするのに、オレも手伝いさせられた。
「バイト代出るのかこれ……」
「あたしのお小遣いからなら払うけど、幾らぐらい欲しいの?」
「うっ! それはちょっとな……」
駄目だ。正式なバイト代や借金ならまだしも、女のポケットマネーから小遣いを貰うのはオレの宿命が許さない。
仕方なくタダ働きで寿司の下ごしらえを手伝った。
イソノマグロを愛用の包丁……なんだっけ、ワサビ丸で丁寧に切っている。
「その包丁使い勝手はどんなもんよ」
「すっごくいいよ~! ありがとうね、アルトくん」
「じゃあ次は下駄とか醤油差しとかも落ちてたら拾ってきてやるよ」
「うん! よろしくね!」
「……冗談なんだが」
しかし海の中で放置されていた包丁がそんなにいいもんだとは。ひょっとして異物だったか? だとしたらオケアノスに売ったら高かったかもしれねえ。ミスった。
ともあれ、集会所にあった大皿にマグロの寿司を盛り付けて一番広い部屋……交流室へ運んだ。テーブルが並ぶ席には冒険者や近所の店からやってきたオッサンがぎっしり居て換気したくなるぐらいだった。なにせ三岳島にいる日本人の七割ぐらいはオッサンだから花がねえことこの上ない。
「皆さんおまたせでーす! はい、イソノマグロのお寿司です! 煮切り醤油が塗ってあるから、そのままでも食べられますよ! まだ作りますから、好きなだけどうぞ~」
「いえええええ!」
「寿司をくれ! 寿司!」
「うまっ! うまままっ! ここの寿司を食うと『海幸山幸』の寿司が生ゴミみたいに思える!」
寿司を盛った大皿を幾つかテーブルに並べるとオッサンどもがガッツイて食べに来た。
特にひでえ感想を言っているオッサンは覆面をしたスーツ姿のやつで……和食チェーン店『海幸山幸』の店長じゃねえか。どうしてそんなに自分のところのメシを卑下するのか。
寿司も食うしビールも飲む。集会所では本来、宴会などは行わないのだが今日は特別らしい。
オッサンが群がっているテーブルに近づけず、途方に暮れているチビが居た。トビーの操縦者、仇村だ。
オレの視線に気付いた様子で、肩を落としてぼやいた。
「皆の勢いが激しくて食べに行けないのです」
「こういうときちっこいのは不利だな。おいエリザ、こいつにも小皿に握ってやってくれ」
「はぁい──うわなにその子! 可愛い! ちっちゃい! ボク、お父さんと一緒にこの島へ来たのかな? お姉ちゃんがお寿司握ってあげるね!」
エリザが仇村を見てニコニコ笑顔になり、一貫二秒ぐらいの高速で寿司を八つばかり小皿に並べて、しゃがみながら差し出した。
「どうぞ! うぇひひひ、可愛いねえ」
「……ありがとなのです。でも一応言っておくと、ボクの方が年上なのです?」
「ええっ?」
「二次性徴前に成長が止まった体質なのです──あ、お寿司美味しいのでフワー……」
「寿司・テイスティ・ショックでバグってぶっ倒れた!」
説明しながらマグロの寿司を食ったら、一口目は素直に美味しく感じたようだが二口目で味覚がオーバーフローを起こしたらしい。白目を剥いて卒倒した。器用に皿は落とさないよう持ったままで。
寿司・テイスティ・ショックは正直なところオレも最近まで見たことも聞いたこともない概念だったんだが、エリザの寿司が旨すぎて食った客が失神・虚脱・失禁・呼吸困難などに陥る現象だ。薬物は使われていない。
「だ、大丈夫? ですか?」
「想像以上だったのです……」
意識が飛んでいたのは一瞬だったようで、仇村は額に浮かんだらしい脂汗を拭いながら立ち上がった。
そして恐る恐るまたマグロを食って、「旨すぎるのです……」と感動していた。
「これなら或いは……あの、魔寿司では『サキュマス』の寿司は出していないのですか?」
「サキュマス? あれなら……今はないですねえ。冒険者が取ってきた魔物で他の企業が買わなかった品が一般販売所に並ぶから、安定して取れない魔物はいつ手に入るか……」
サキュマスの寿司といえば暫く前に食ったのだが、どうやら貴重な材料だったらしい。
「そうなのですか……」
残念そうにしている仇村に尋ねた。
「なんだ? そんなに食いたかったのか?」
「そうなのです。日本の研究所からの情報なのですが、サキュマスの毒は薬の材料として珍重されているけれど、身にも性ホルモンを分泌する働きがあるらしいのです。それを食べるとボクの体の止まっている成長が促されるかもしれないのです」
「へー……要は治療目的か」
「このままだと子供も作れず、室町時代から忍者の家系だった仇村家は断絶してしまうのです。深刻な問題なのです」
どことなく暗い顔つきで仇村はそう言った。どうやら二次性徴前に体が止まったせいで性的な部分もそれ以前のままのようだ。ちょっとした難病だろもはや。
エリザも神妙に頷いて告げる。
「サキュマスが入荷したら連絡しますね!」
「よろしくなのです。その日以外でも、寄れたら行くのです。寿司が美味しいので」
と、連絡先を交換していた。常連ゲットってところか。
「さて大皿の寿司を貪っていたオッサンどもが食い尽くしたみたいだから、第二弾を握るか」
「はぁい! どんどん行きますよ~」
マグロ以外にも出回っていたミノフスズキなんかも寿司にして提供した。集まったオッサン連中は大喜びだ。SNSでも出張寿司として宣伝していた。
ただ、幾ら日本人冒険者がある程度は連帯感あって、外国の連中よりは比較的お行儀がいいとはいえ基本的に荒くれた野蛮国民ばかり集まっている。
助平心を出してエリザにタッチしに近づいてきたオッサンが居たが、即オレが手首を握って止めて穏便に解決した。
「オッサン、まさか二等島民に手ェ出すんじゃねえだろうな。人体実験頑張るか? お?」
「あ、あはは……いやちょっとよろけただけだ」
エリザは既に美人寿司アイドルみたいになっているので、セクハラしようとしたオッサンは周りから睨まれて集会所から逃げていった。
「まったく、油断も隙もねえ」
「ありがとうね、アルトくん」
「勘違いするなよ。実際あのオッサンが触れた瞬間、そこの殺人メカが殺人音波を殺人乱射してきてオレにも当たりそうだから止めといたんだ」
「うぇひひ……ぐびっ!」
「なんで酒飲んだんだ?」
ともあれ、オレも寿司を食って昼飯を終えた。相変わらず味覚が生まれ変わりそうな旨さだったが、後で飲む長時間ダイブ用の超高カロリードリンクが絶望的にマズイからきっとリセットされるはずだ。
片付けをしてオレたちは魔寿司へ向かうことにした。
アルトくんのあだ名『しぶとい』
グレイのあだ名『めっちゃしぶとい』
二人はトラブルメーカー(凶暴な魔物の襲撃に合いやすく周囲の冒険者を巻き込むジンクスが囁かれている)
割と普通にデートしているアルトですが、地元で学生時代に女子と買い物に行くことが珍しくなかったから慣れている上に、同級生女子とか妹みたいなもんだと思っていたのでデートしてもなんとも思わないという不能精神に
ナンパからエリザを守ってるのもうちの妹に手出すのか?お?みたいな保護者目線
ちなみに平常時アルトはだいたいアロハに短パンです。ダブルパチンコのポーズ!
【挿絵表示】