店を出てギルドへ向かっていると、センセイの足裏ローラー走行を追いかけ、並走して走り声を掛けてくるやつが居てギョッとした。
「おうアルトどん! センセ! ちっとよかか⁉」
「チェスター? ……おい手前! 関節から煙出てる!」
『今時速四十キロメートルだぞ……』
百メートル十秒ぐらいの短距離走な走りで無理やり追いついてきたチェスターは、そのマネキン人形みたいな足の関節から煙か水蒸気みたいなのを出していた。
センセイが慌ててブレーキして危うく頭に掴まっていたオレは転び落ち掛けたが、飛び降りてチェスターに用事を聞くことにした。
「ンだよメカチェスター。脚部パーツぶっ壊れっぞ」
「交換パーツでどげんでもなっち。そいよりアルトどん! 今からドラグアナをやりに行くとこじゃなかか⁉」
「おー、まあな。ヴァルナ社にも連絡行ってたか?」
武器の供給やら戦力の提供やらで、なんだかんだオケアノスの次に三岳島で力を持っているのはヴァルナ社だ。協力の要請ぐらいはしていただろう。
チェスターは作り物の宝石めいた瞳に謎の光を灯して大きく頷いた。
「そうじゃ! オイも行きたかったっちゃが、ヴァルナ社から電波の影響でボディやら強化アーマーに悪影響が出て、最悪データも取れんちゅうことで出撃許可が降りんかった! 悔しかなあ行きたかなあ……」
「ハイテク装備ほど駄目になるからな、統率種相手だと」
しかも好き好んでEX級に喧嘩売りたくないだろ。高級な装備や人材を失う可能性あるのに。オケアノスの場合は自分たちの事業が大打撃を受けているから嫌でも解決しないといけないわけだが、ヴァルナ社は武器商人だからな。
「こっそり連れて行けとか言うなよ。っていうかもう今の段階で手前はアシが駄目だろ」
「そいは言わん。下手に逃げ出したら意識を緊急停止されて自動運転で戻らされるけん」
「人権ってなにか考えさせられる状態だな」
『ヴァルナ社と契約しなくて良かった』
センセイも安堵の声を漏らす。チェスターだって死んだあと脳髄取り出されてロボットにされるなんて考えもせずに契約しただろうに。
「そこで餞別にこいを持ってきたから使っちくい」
チェスターが渡してきたのはごっついナイフだった。オレが普段使っていたやつみたいなメリケンサックめいたフィンガーホルダーが柄についたやつで、刀身がやや短いが通常の倍ぐらいに分厚い。
「なんだこれ?」
「ブラジリアン刀鍛冶の技術を応用して作られた、ヴァルナ社の新型ダイビングナイフ『カゲバーラ』じゃ。まだ市販もしちょらん新作じゃっど!」
「ヴァルナ社のネーミングセンスどうなってんだよ……」
微妙な表情でいるとチェスターがナイフを自分の指にハメて見せてきた。
「普段は普通のナイフとして使えるばってん、柄に付いている安全装置を外すと──刀身がハサミんごつ開く」
「おっ」
操作して見せてきたが、確かに分厚い刀身が上下にずれてハサミみたいになった。
「そんで小型油圧式ワイヤーカッターになっちょるけん、ハサミ形態じゃと分厚かワイヤーや魔物もちょん切れっど」
「へえ。便利そうだな」
ダイビング装備として必需品なのがダイビングナイフだが、ラインカッター機能付きのナイフや別途ハサミを持って潜るやつも少なくない。水中で釣り糸や網、縄なんかが体に絡まったときにそれを切る必要があるからだ。
もちろんナイフでも切れることは切れるのだが、対象物を片手で掴んで固定し、ナイフをギコギコと往復させて切る手間がある。その点、ハサミだったらチョキンで済む。
そのヴァルナ社のカゲバーラはごっついナイフからハサミへの変形機能がついたバージョンで、小型ながら油圧パワーで強力に挟めるらしい。
「貰っていいのかよ。高えんじゃねえのコレ?」
「よかよか。思えばアルトどんがツインヘッドシャークば倒したから生き延びたようなもんじゃっど、その礼じゃ」
「ふぅん。じゃあ使うけどよ。ナイフなんて何本あってもいいからな」
日常が魔物とバトルだとナイフは消耗品だからな。錆びる、欠ける、失くすなんてのはよくある話だ。
「ありがとよチェスター」
「よかとよ! ……はっ!」
なにやら遠くからヴァルナ社の黒塗り車がこっちに向けて走ってきた。
「そいじゃまたな、アルトどん! あばよあばよ!」
そう言い残すとチェスターは煙の出る脚部を酷使してまたどこかへ走り去り、黒塗りの車がそれを追いかけていった。
微妙に不安な気分になりながら、手元のナイフを再び見る。
「……あいつ、大丈夫か? それにこのナイフ本当に合法的にオレへ譲渡したんだろうな。開発室から掻っ払って来てないか?」
『市販されてないとか言ってたような……』
「監視カメラとかGPSとか自爆装置とか付いてねえだろうな」
『念の為に私がチェックしておこう。アルミホイルを吹き付ければ大丈夫だ』
「万能アイテムだな。アルミホイル」
とりあえずセンセイに加工して貰って、気にしないことにした。
******
第三ギルドにある倉庫にオレたちは集合していた。倉庫には資材部に予約していた武装の類が並べられていて、集まった冒険者たちが各々チェックしている。遠くにはゴルゴン小隊の強化アーマーも一機だけ見える。銀色になっているやつだ。
オレらが申請したやつ……VA-NG2と石化猛毒を使用した特殊弾。小型水中ロケット砲VA-JL。使い捨て十億ワット電気銛。水中用接着剤充填グレネード。水に触れると体積が数千倍に膨れ上がる風呂の遊具めいた簡易障壁など。
全部揃えると数百万エレクは掛かりそうな装備がほぼ参加者全員に支給されている。とりあえずVA-MG2と接着グレネードを装備する。あとは持ち込みのミノフスズキ粒子を使った煙幕手投げ弾の水中バージョン。いざとなればこれを撒いて逃げよう。
他の装備はセンセイの背部コンテナに入れといて貰う。コンテナからマジックアームが伸びて器用に収納していく。
電波の影響を受けないダイバースーツと呼吸器、浮上装置などもだ。複雑な機械が入っていると壊される可能性があるのでシンプルで高性能に調整されている。
オーガニックコンパウンド製のダイバースーツもオレが普段使っているのより数ランクは上だ。十倍以上の値段差がありそう。
『そうだ。アルトのダイバースーツやヘルメットも耐電波処理をしておこう』
「とうとうオレもアルミホイラーデビューか……」
『英語圏では錫ホイルを使うらしい。混ぜておくから安心してくれ』
「わぁーい安心だー掛かってこいディープステートめー」
ヤケクソで言うが、センセイのビルダーでブシューッと吹き付けて高級ダイバースーツが銀色に染まっていく。ついでに着色もしてくれていつものシャチ迷彩柄になった。白い部分が銀色だけど。
『ついでに、このスーツにスペランクラフトジャケットに搭載されている【残機】システムを組み込もう。簡易版なのだが……』
「それってあの、ピカピカ光ってダメージ受け流すやつだっけ? 追加できるのか?」
『エネルギー補充ができない使い切りのコーティングだがな。だからダメージを受けすぎるとダイバースーツが一気に壊れる』
「まあ……そもそも水中で魔物から攻撃受けるって時点でそれなりにヤバい事態なんだよな」
大型のサメとかに噛みつかれたらスーツの性能が良くても一発でお陀仏することが多い。
特に今回はドラグアナ統率種というEXランクの化け物。こいつの厄介なところは統率種というだけあって、同じドラグアナの近接種や砲撃種だけでなく他の魔物まで電波で操っている疑惑があるところだ。
一応は爆雷で吹き飛ばす算段だろうが、乱戦になる可能性もあった。
「やっといてくれ。どんなもんか使い勝手も見ないとな」
『了解した。──他の冒険者はどうだ? 望むのならば耐電波加工をするが』
センセイが有象無象の連中に呼びかけたが、代表してどっかの男──元軍人っぽい雰囲気を出しているオケアノス所属の上級冒険者だ──が告げて来た。
「悪いが、土壇場で装備の仕様を変更してもどこまで信頼できるかわからないものでな。あんたの善意で不測の事態が起こってもお互いに気分が良くない」
『そうか、無理にとは言わない』
「それにこちらも──愛用のアルミホイル帽を持ってきている」
ニヤリと笑みを浮かべて会心の出来だと言わんばかりのアルミホイル帽を取り出すオッサン。
そしてそのオッサンの同僚らしき冒険者たちも、思い思いの形で自作したらしいアルミホイル帽をスッと取り出して、どこか自慢げな表情を浮かべた。
「なんか嫌だなこの組織……」
オケアノス所属の上級冒険者たちは全員アルミホイラーらしい。もしかしたら常日頃から、組織への忠誠を誓わせる洗脳電波を警戒しているのかもしれない。よし、勧誘されても絶対所属しねえぞ、こんな暗黒メガコーポ。
******
オレたちドラグアナ統率種ぶっ殺しチーム(命名:アルミホイラーズ)は夜の海を静かに潜っていく。
何時間後かには爆撃されて大変なことになる海だが、今は何事もないかのように透明で真っ暗な海水が僅かに星灯りで見えているだけだった。ギルドからの通達でナイトダイビングの冒険者も今晩は止められている。
『この前使った、休憩拠点まで繋がっている穴で途中まで進んでそこから掘り進もう』
と、リーダーのグレイから指示が出る。それなら半分ぐらいの距離は素通りできる算段だ。
坑道とでも言うべきセンセイの作った穴の、外縁部入口には早速オケアノスがあれこれ機材を置いて管理していた。既に電子制御された扉によって塞がれており、一般冒険者は使えないようにしていた。
「小狡くないか? この穴って権利者オケアノスじゃなくてセンセイなんじゃ?」
『そこはまあほら……まだ穴の安全点検中だし、拠点の物資搬入を優先したいかなって上の意向があって……』
『まあ、なんなら私が他に穴を掘っても良いわけだしな。独占は難しいだろう』
「いずれファストトラベル的に便利になるかもな」
途中で魔物に襲われる危険が少ない、地中トンネルを移動して稼ぎ場である海底遺跡群へたどり着けるなら結構な冒険者が利用しそうだ。もちろん、外縁部に出る魔物狙いの冒険者もいるんだが。薬草昆布とかは生えてないからな、海底遺跡まで行くと。
グレイが扉の制御パネルを操作すると重々しく開いていく。中は真っ暗と思いきや、既にオケアノスが海底ケーブルのようなものを伸ばしていて所々にヒカリ珊瑚を原料とした小型で光量の強い照明器具を設置しているようだった。
『震度計や動体センサーもところどころに設置して、魔物が出現したり崩落したときに感知できるようにしているんだ。今のところは問題なし。では出発しよう』
グレイの説明を聞いて予定していたフォーメーションを取る。先頭をセンセイが進み、その後ろをサポートのオレと索敵兼リーダーのグレイ。それからアルミホイラーズは適当に隊列を組んで、最後尾を強化アーマー一機連れたゴルゴン小隊。もし後ろから魔物が迫って来た際に迎え撃つため、戦力を後ろに回している。
「今んところ穴には魔物出てこねえのか。穴を掘って土の中を移動する海洋生物って居ねえの? 生き物博士」
『ふふふ生憎と生物学で博士号は取っていないがね! 私の知る限りだが、実のところ穴を掘る海の生き物はそれなりに多い。例えば貝類、穿孔貝と呼ばれる種類のものだね。貝殻を動かして掘る以外にも、酸を分泌して硬い岩盤を溶かすモノもいる。他にもゴカイの類の多毛類、甲殻類、ウニやヒトデなどの棘皮動物、大きく分類すればウミガメも卵を産む際には穴を掘るだろうし、チンアナゴは体をくねらせて砂に潜るのも掘っていると言えるだろう』
「ありがとう教えたがりのオッサン」
とすると、穴の中も絶対の安全地帯じゃないわけだ。とはいえ出てくる種類が限られるだけでも対処はしやすいかもしれねえけど。
『そこでオケアノスは穴の周囲を耐酸性強化樹脂でコーティングすることを考えているようだね。工程は少なくて済むし、それなりの強度は保てて酸で溶かしてくる魔物の侵入は防げる』
「まあ、頑張っても次のリセットでおじゃんになりそうだがな」
『そうならないなら本格的に排水して空気を入れてトンネルを作り始めるだろう』
「まずセンセイに報酬払うの先じゃねえのかな……」
暗黒メガコーポは他人の成果を取り上げるのに躊躇いがない。オレがセンセイの立場だったらこいつらが大事に作ったトンネルが完成した瞬間にピキャストで横穴空けるぞ。
途中の移動までは支給品の水中用スクーターでサクサク進める。
やがて、どん詰まりの地点までたどり着いた。最後尾のゴルゴン小隊まで無事に到着したのを確認する。作戦の第一段階は終了だ。
『ここからは私の出番だな』
センセイが頷いてピキャストを取り出す。初めて見る連中はしげしげと物珍しそうにその強化アーマー用のツルハシを見ていた。
『方角はこっちだな。地質データから下方へ五度の深さで掘り進もう』
「そうなのか?」
『若干だが、ブルーホールのある中心部に向けて深くなっているからな。下手に真っ直ぐ進むと地下に作られた遺跡の空間に当たるかもしれない。少し深めに掘っていこう』
そう言ってセンセイはやや斜め下の方向へとピキャストを振るった。
バコッといい感じの音が水中に響き、強化アーマーも通れる大きめの空間が削り取られた。なんというか一撃が大型ショベルカー並に土や岩を分解していく。
そしてセンセイは機体を前に進ませながらピキャストで壁を穴に変えつつ進む。モリモリと穴が空いていく。地上でも使えるみたいだが、山にトンネル貫通させるのに半日も掛からないぐらいの超掘削力だ。人工物にも使えるから、一日でビルぐらいなら解体できそう。
『これで安全な穴がブルーホールまで繋がれば、ブルーホールの探索も進むなあ』
『余計に働かされそーだぜ』
グレイとゴルゴンの半子がそう言い合っている。
「そういやオケアノスの専属部隊はブルーホール探索がメインなんだっけか? 儲かるのか?」
オレの疑問にゴルゴン小隊の三人はシケた顔をした。いや一人は強化アーマーで見えないんだけれども。
『いーや、時々レアな魔物か鉱物や異物ゲットできるけど、クッソ危ねえから撤退することが多くて地道に上で稼いだ方がいいぜ』
『Aランク魔物が群れで現れたりするでござるからなあ』
『強化アーマーの継戦能力があっという間に尽きちゃうよね! 結局グレイおじちゃん一人でコソコソ行った方が成果出たり!』
なるほどな……まあ、噂通りではある。オレも三年冒険者やっているから、儲かりそうな獲物やスポットの話はチェックしている。
だがどうも胡散臭いのがブルーホールの情報だった。すげえ儲かるという情報と、危なすぎて命が幾つあっても足りないって愚痴の二つが流れていた。恐らく前者は冒険者を危険地帯に突っ込ませたいオケアノスのプロパガンダで、後者は実際の感想なんだろうな。オレも何回かチャレンジしたが後者寄りだ。
「しかし勘弁しろよ。ブルーホールとこの坑道を繋げた途端Aランクの魔物……そうだな、『ポータルイカ』あたりが殺到してきたら死ぬぞ。この狭い空間で」
『ポータルイカとはなんだ? アルト』
「イカ型の魔物で、ちっちゃくて素早い上に全身に変な力場を生成していてな。ぶつかったものをなんでも消し飛ばして風穴を空けるヤバい攻撃力を持ってる。おまけに銃弾とか投網の類は効かねえ。頑丈な強化アーマーの天敵だな」
どこにでも入口を作っちまうから『ポータル』らしいが、ホタルイカを洒落にしただけだとも思う。名付けたのグレイだし。ついでにポータルイカも光っている。
『それは……出たらどうやって倒すのだ?』
「とりあえず狙い定めて音響爆弾の効果範囲に誘い込むか、直接触れずに電撃か毒で攻撃だな。なんでも触れたら消し飛ばすが、水だけは吸い込んで移動しているようで水を通して攻撃すればいい。ただこいつが数十匹とか群れてたら即逃げだな」
ツインヘッドシャークなんかは障害物や狭い場所を利用して逃げることが可能だが、ポータルイカはどこまで穴を空けながら追いかけてくるもんだから危険極まりない。
一応、出てくるのは夜か暗い場所で遠くからでも光って見えるから避けやすいという特徴はあるのが救いか。今は夜で坑道は暗い場所なんだがな。
所々、グレイが簡易照明を設置してなにか機械を設置している。
「オッサン、自爆装置とか付けてるんじゃねえだろうな」
『いや、これは通信用の中継機だよ。目標地点に到達したり、不測の事態が起きたりしたときには連絡を入れないといけないからね』
「水中の通信って音波のやつか?」
水の中は基本的に電波が通りにくい。なので、通信を行う際は音波や光の信号を拾って変換する方法がメジャーだ。冒険者同士も翻訳通信機アプサラで短距離通信ができる。
『これは特注の電波通信機で、水中でも中距離なら行けるやつだ』
「そんなのあるのか」
『ドラグアナ統率種も海の中なのに電波を飛ばしまくっているだろう? それを研究して作られたのさ』
あの怪物、水深何十メートルから上空千メートルぐらいにドローン破壊電波光線をぶっ放すからな。どうなってんだ魔物。
『ふむ……』
センセイが呟いてピタリと動きを止めた。
「どしたん?」
『センサーによると、ここあたりは地中のそこかしこに坑道や地下空間があるようだ。中にはかなり広いものも』
「イルカ人が掘ってやがったのか? もしくは遺跡の下層部が深くまで来てるとか」
『どちらにせよ、不測の事態を避けるために他の空間からは離れて掘ることにする』
空洞と繋げたらそこが魔物の巣だったりしたら厄介だからな。そういうわけで、センセイの穴掘りは真っ直ぐ一直線ではなくときに大きく湾曲して目的地へ進んでいった。
『なにかこうして無心に掘っていると懐かしい気持ちが込み上げてくるな……』
「記憶を失う前は鉱夫だったとか?」
人魚が鉱夫はねえだろと思ったけど、人魚なのは秘密なので口を噤んだ。
『地底目掛けて深く掘っていてマグマ溜まりを掘り当てて落ちたことがあったような……』
「死ぬだろそれ」
『いや実際のところマグマに落ちても一瞬で飛び上がればなんとかなるのだよアルト青年。マグマは思ったより粘度が高く硬いからね。人間は沈まないんだ。表面温度も千度ぐらいだから靴が燃え上がって火傷するけど、すぐに脱出すれば大丈夫』
「妙に詳しいなオッサン」
『おじさんもアイスランドでムスペルヘイムを探していたときにマグマの海に落ちたことあるからね。経験談だ』
「なんでマグマに落ちたやつが二人も揃ってんだよ。コンビか」
一回もしたくねえ経験なんだが。センセイが深く掘っていたら注意しよう。なにせこのあたりの海域はもともと海底火山があった場所なんだから。
それから暫く掘っていくと、またセンセイの手が止まった。
『む……なにやら金属の壁に当たったな……』
『おお、どうやらブルーホールの外縁部へたどり着いたようだ。調査による推測なのだが……あの巨大な縦穴は金属の筒みたいな構造で、穴の縁は土や岩に覆われているが金属質の壁みたいなもので囲まれているのではないかと思われているのだよ』
「筒ぅ……?」
オレは海の底に突き刺さった鉄製のチクワをイメージした。
『ふむ……どうやらこの金属の壁は人工物のようにも思える』
「鉄チクワ職人とかか?」
『よく見てみろ、アルト。つるりとした表面でどこも一定の丸みを帯びている。継ぎ目などは見えないが、なにか精錬された物質のようだ』
「へえ」
『壊してみよう』
「躊躇いがねえ……」
センセイはピキャストを小さく振って壁に当てると、土壁よりは小規模にその鉄チクワの一部分が消失した。
グレイが引きつった声を出す。
『うちの調査チームだと誰も破壊できなかったんだけどその壁……』
『どちらにせよ壊してブルーホールに繋げなくてはドラグアナ統率種のところまでは行けまい。まあ、壊せることは確かめたから作戦開始まで塞いでおこう。少し先はもうブルーホールだ』
センセイは壊した壁をビルダーで修復してそう告げた。作戦開始まであと一時間ちょい。地下空間を避けて掘り進んだのでそこまで余裕はなかった。
『少し休憩するためのスペースを作るか』
「エネルギー大丈夫か?」
『問題ない。終わったら補給する』
言うと、センセイは坑道の周辺を広げてちょっとした広間にしていた。そこにアルミホイラ―ズはぞろぞろと集まり作戦前の休息を取る。グレイが予備のエアタンクを開放し、広間の上部を空気溜まりにしていた。そこで顔を出せば一息つけるし、食事も取れる。長期活動の冒険者はこうして簡易的な休憩所を作る。
まあ……センセイなんかは機体の中で寿司食ってんだけど。水中でも専用寿司パックでスペランクラフトジャケットに寿司を補充していた。
「しかしオッサンよう、あの壁が人工物なら誰が作ったんだ? てか作れるのか?」
『海底都市共々、諸説あるね! 解説を聞きたいかい⁉』
「いやいいわ」
『オケアノスは冥府と大洋を繋ぐ通路や海底都市をダイダロスが作ったと主張しているね! ヴァルナ社は海神ヴァルナが持つ宮殿都市と地下世界の境界だと言っている。中国の媽祖集団は竜宮城の一部、英国のマクリル・マナナン社は海底都市イス、アメリカの邪教団体ロゴ・トゥム・ヘレ教団は海底都市イハンスレイ、ムー大陸説、レムリア説、異世界説、宇宙人説……』
「どれも信憑性は似たようなもんだな」
『証明は難しいだろうね』
オケアノスに雇われているグレイも皮肉げに笑って肩を竦めた。こんな海の中に巨大な縦穴作って金属で囲むなんてそれこそ意味不明だ。
……つうか普通にセンセイ、あの壁を壊したり修理したりしていたけど、センセイの種族かスペランクラフトジャケットを作った連中が関わっているのか?
そのことを誰かに言っても何一つ得をせんから別に言わないが。センセイも記憶にございませんって話を問い詰められても困るだろうしな。
『そろそろ作戦が始まる。電子励起爆雷をカタパルトに接続した頃合いだろう。もう後には退けない。みんな、準備をしてくれ。ドラゴン退治の始まりだ』
「新型爆雷でEX級の魔物数匹ぐらい巻き込まれて死んでくれねえかな」
ぼやきながら武器をチェック。最大火力でぶっ放しては使い捨てて行くつもりだ。無理そうならセンセイと撤退。後には退けないとか言っているけど死ぬまで付き合うつもりはない。
だがドラグアナ統率種をぶっ殺せたら、オレの借金もほぼ返済できるんじゃないか? それぐらいの報酬は出るはずだ。
狙え一攫千金! ってとこだな。
用意していると、センセイの顔っぽいモニターが点滅して壁の方を向いた。
『なんだ……?』
「どしたん? 話聞こうか?」
『センサーに反応──土の向こう側にある空間か? 大量の生物が動いているのを感じる……』
センセイはビルダーで聴診器のデッカイやつみたいなのを取り出して壁に近づけて探り始めた。それで聞こえるのか?
『来るぞ! 爆雷投下時刻だ!』
遠くの海域から原子力メガヨットに搭載された超強力爆雷がオレたちの真上に投げ込まれた。
そして、恐らくそれは大爆発した。
大量の海水と土砂で遮られたこの空間ですら地震が起きてビリビリとした振動と嫌な感じが伝わる。直接、爆雷の衝撃波が伝わる位置に居たら一瞬で全身が破裂していたかもしれない。
暫くして、誰ともなく呟いた。
『やったか⁉』
【挿絵表示】
異海以外でも冒険をしているらしいグレイオッサン。本業はインディ・ジョーンズです
あちこちの遺跡を探索してはテロリストや特殊部隊と鉢合わせして結果的に遺跡を崩壊することになるため、遺跡壊しの異名で知られています。発掘中の遺跡に来たら本気で追い出されたり
その際に敵対者や遺跡から借りパクした怪しげなオカルト装備を持っていることも。2巻で使うワイヤーフックの材料とかね