とりあえずこれで邪魔な敵の強化アーマーは無力化した。役立たずなゴルゴン姉妹も触手アームから開放された。
『うわーボロボロだよこれ……脚部は使えるかな! 小ちゃんもーらい!』
『えええ……イルカの接続していた頭部なんて付けたくないでござる……ブレードドローンも壊されたし……』
二人はイルカゴルゴンの残骸から使えそうなのを漁っている。
「おい手前ら! さっさと統率種倒すの手伝え! グレイのオッサンが振り回されてっぞ!」
『うぇーい』
暴れたくる統率種に引っ張られて遠くまで行っている。尻尾を振り回し、腕の鉤爪で体を掻きむしる巨大爬虫類だが、グレイは生物学的な可動範囲を熟知しているように安全地帯へ動き回り、全長十八メートルの巨体表面をアンカーフックで纏わりついている。これが地上だったらそうはいかないのだろうが、水中だから立体的に移動できる。無理やり統率種が壁に全身を激突させて潰そうとしてもグレイは素早く回避していた。
っていうか統率種、魔物としての厄介さはEX級だけど電波による遠隔攻撃と周囲の魔物操るのがヤバいだけで接近したらツインヘッドシャークより弱そうだ。直接戦闘力だけならA級の近接種の方が強いかもしれない。
ついでに今は電子励起爆雷とやらで周辺の海が破壊的衝撃波によって、雑魚魔物は恐らくここまで寄って来られない。予め統率種が用意していたここの戦力だけしかいないようだ。
『いっくよー! 掴まれー!』
『ミクロ、あっちの破棄された水中スクーター寄っていくでござる。武器を回収せねば』
「おうオレも連れてけ」
強化アーマーゴルゴンの脚部ユニットだけ装備した小子が推進装置で加速するのに掴まって、一番近くに浮いていた誰かの水中スクーターをゲットする。そこにある武器コンテナからオレはVA-NG2、大子は大型狙撃水中銃、小子は量産型近接武器のダンビーラを手にした。
「さあて、グレイのオッサンに恩を売るぜ!」
三人で統率種の方へ向かうと、歪な頭がこっちを向いた。
「散れ!」
言うが早いか三方向に分かれて不可視のメーザー攻撃を回避。当たった瞬間ぶった切られて爆発だからな。生きているってことは外れたってことだ。ノーコンめ。
離れていると面倒だ。さっさと近づかねえと。
向こうも纏わりつかれると厄介だと思ったのか、忠実なるポチこと魔物が数匹進路上にやってきた。
『左右を拙者!』
『正面を小ちゃんいっきまー!』
と、思ったら大子が狙撃銃で三匹を瞬く間に撃ち殺し、既に進路上にいた二匹は小子がすれ違いざまにダンビーラで切り裂いて通り過ぎていった。
「ちゃんと戦えるじゃねえか。イルカゴルゴンのときもしっかり倒しとけってんだ」
などとボヤいていると、左右からセンセイのスペランクラフトジャケットと銀色のゴルゴンアーマーが統率種へと向かっていった。それぞれ砲撃種と近接種を倒して合流してきたようだ。
ゴルゴンアーマーの方はどことなく触手アームが何本か千切れ、乗っている半子のダイバースーツも一部破れているようだがセンセイの方は無傷っぽい。
「センセイ! やったのか⁉」
『問題ない。岩に埋めてきた』
チラッと戦っていたあたりを見るこんもりとした岩山があった。
どうやらビルダーを使って体表に石を吹き付けていき、徐々に重くなって動けなくなった砲撃種はやがて岩に固められたようだ。ヤクザの処刑か?
「おし! ともかくあとは統率種だけだ! あれをぶっ殺せば借金完済!」
『待て……温度異常を検知! ストップだ!』
センセイが全員に呼びかけると同時に、統率種に取り付いていたグレイが必死こいた顔でワイヤーを岩に打ち込んで離れていた。
グレイからの声も届く。
『全員気をつけろ! 電磁波強度が強すぎる! 近づくと沸騰するぞ!』
……なんか周囲の海水が熱くなってきた気がする。
統率種は両腕を組むようなポーズを見せて、丸く張り出したいかつい頭部は赤く発光し、サーキットみたいに光がグルグル回っていた。周辺の海水から泡が出て、近くを浮いていたイルカ人の死骸が破裂していった。
「向こうも無敵ゾーンに突入かよ?」
『サーモカメラで見ると凄まじい熱を放っている。それに無秩序な電磁波がビリビリ飛んできて……恐らく体に悪いぞこれは』
「マジかよ。影響受けて体から電磁波出るようになったらパチ台で警報鳴るんじゃねえか」
『それヤベえな。出禁になっちまう』
『危惧するのはそれでいいのか……』
言いながらも、大子が長射程の狙撃銃で統率種を狙い撃つ。だが弾丸は急速に沸騰する海水の熱と浮力に阻まれてあらぬところへ逸れて外れた。
「こっち来るぞ!」
統率種が猛然とこちらに向かって一直線に突っ込んできた。押されてやってくる海水がほぼお湯になっている。あっちい! ついでになんかビリビリする!
大きく距離を取って避けるが、アプサラから異常音が出まくる。統率種は誰を狙うでもなく突っ切っていく動きだが、熱くてとても近づけない。
電波の影響を受けないであろうセンセイとゴルゴンアーマーがすれ違いざまに銃をぶっ放すが、ブラスターのレーザー光線もゴルゴンの毒液散布グレネードも湯と熱のバリアで阻まれて当たっているのか居ないのか。
『やっべ! 頭割れる!』
半子は悲鳴と共に急速に離脱して頭部ユニットをパージした。電波遮断していたはずの部品はバッテリー部がみるみる膨らんで爆発する。
『こっちもすれ違っただけでエネルギーを食われた! 近寄れない!』
センセイのスペランクラフトジャケットも激しく点滅している。統率種付近の熱と電波を攻撃と認識して受け流しているようだが、それゆえに常時『残機』が消耗しているのだろう。
統率種はオレたちを通過してそのままこの巨大空間の壁にぶち当たり、両手で壁を押すような姿勢で張り付いた。
とんでもない熱のせいか、接している岩壁が赤熱して溶け始めている。それに合わせて沸騰した海水が激しく泡立っている。
グレイが叫んだ。
『いかん──あっちはブルーホールの方向だ! 壁を壊して逃げるつもりだ!』
「マジかよ。オレたちもサヨナラすっか? お互い良い試合でしたねってメール送っとけ」
『逃がしたら次のチャンスがあるかわからないし、これだけ痛めつけた人間に対して回復してから積極的に攻撃してくるかもしれない! ここで仕留めなければ!』
つってもな。グレイやゴルゴン小隊、ついでに生き残りのアルミホイラーズやオレもギリギリの距離から銃撃してみるが、全然効果がない。水中スクーターに搭載されていた魚雷を発射してみたが、途中で爆発して届かなかった。
無敵ゾーン突入中で攻撃が効かねえ。そうしている間に統率種によって壁も徐々に崩れ始めている。そしてここらの温度もただならない状態になりつつある。
「ちっ! センセイ、どうにかできるか⁉」
『むう……私でも近づくとスペランクラフトジャケットが分解しそうだな……この距離から一発で統率種を倒せて、阻まれない道具……よし、思いついた!』
「さすが」
『グレイは使っていたアンカーをくれ。それならば統率種の体表に刺さるのだろう?』
『これかい? これはカッパドキアの洞窟に埋もれていた古い聖ゲオルギウスの教会から見つけた槍を加工したもので竜殺しの逸話に使われたものではないかと……』
『いいから』
『はい……』
それ加工して魔物突くのに使っていい奴なのか? 微妙に疑問だったが、オレの銛だと刺さるかわからねえからな。ドラグアナの体表って硬いし。
『オッサン! 魔物がまた集まりだしたぞ!』
『統率種面白くなーい! 小ちゃん他の魔物切ってくるね!』
『通用する武器がないでござるからなあ。ここは任せるでござる』
ゴルゴン小隊やアルミホイラーズの生き残りは再び集まってくるイルカ人やゴブリンフィッシュ、オークエハタなんかを迎撃に散った。オレも行こうかと思ったが、
『アルトは手伝ってくれ。加工したアンカーを正確に統率種に当てたい。ブラスター以外の射撃精度だと私よりアルトの方が信頼できる』
「あいよ。にしても、ちっと距離があるな。撃ち出す道具も作れるか?」
『クロスボウも作成する』
言うが早いか、センセイはグレイから取り上げたアンカーに銀色の素材を吹き付けて改造し、更にはごっついクロスボウもビルダーで作成した。弓も弦も金属製でカッチカチにしなっている。うっかり発射時に指とか触れたら千切れそう。
それに改造した銀のアンカーを装着する。穂先はグレイの使っていた刺さる素材だが、全体的にぶっとい矢みたいな形で、先端が尖った細い魚雷にも見えなくもない。
「こいつをぶち込めばいいんだな」
『頭を狙ってくれ』
「止まってるから目押しより楽だぜ。センセイ、足場になってくれ」
オレはスペランクラフトジャケットの頭のところに乗り、取っ手の部分に足を掛けて体を固定した。そしてごっついクロスボウを構える。
初めて使う得物だが、問題ない。昔からなんとなくこういった道具は勘で上手いこと飛ばせるんだ。銃だって別に練習しないでも当てられたからな。
じっと狙いを定めるとなんとなくだが、手元から撃ったり投げたりする矢弾の軌道が見える気がする。潮に流される分も、水の抵抗を受ける分も。
気の所為なんだろうがな。なんか音速マグロの目玉食ってから余計に鋭く感じるようになった気がしないでもない。DHAとかコラーゲンのおかげか?
ともあれ、統率種の膨らんだ頭部を狙う。吹き荒れる熱湯の渦と熱による対流。吹き出す水蒸気の気泡は浮力を撹乱し、強力な電磁波は金属にすら干渉して軌道を逸らす。
そうこうしている間にも、必死こいて壁に穴を空けていた統率種の願いはそろそろ叶いそうで、壁の一部が崩れて外の海が見えてきた。
だが。
「シケたツラしてんじゃねえよ、ボンクラ!」
あと一歩で逃げられる。そんな感情が統率種にあったのかはわからんが──オレが撃ち込んだ矢は数多の抵抗をすり抜けて統率種の脳天に突き刺さった。
とはいえ相手はガンダムみてえな十八メートルのデカさに、こっちは人間の撃った矢だ。爪楊枝が刺さったようなもんじゃねえのかなと思うが……
着弾した瞬間、矢が銀色の爆発を起こしたかに見えた。
「うお⁉」
急激に膨らんだ矢の胴体が統率種の頭部周辺に広がり、一つの形を作り出した。形状記憶合金みたいなもんか⁉
その形は半円型で先端が尖っていて──あれは……あれは。
「アッ……アルミホイル帽?」
……少々アレなアルミホイラーが被る、アルミホイルの帽子だった。ドラグアナが被れるサイズの。
なんで? 真実に目覚めちゃわないように?
謎の新兵器にオレが戸惑っていると、統率種の変化は劇的だった。
通信翻訳機アプサラがぶっ壊れそうな耳をつんざく悲鳴を上げたかと思ったら──頭が爆発して即死してしまったのだ。
あまりにあっけなく。
討伐不能判定だった、EX級の化け物が死んだ。
「真実に耐えられなかったか?」
『いや、頭部から電波を出しているようだったからな。アルミホイルで覆ってやれば、周囲を沸騰させるほどの電波がその中で乱反射して異常加熱し自爆したのだろう。電子レンジに頭を突っ込んだようなものだ』
「まさか奴さんも、自分の弱点がアルミホイル帽だとは思ってなかっただろうな……」
ある意味、オレたちアルミホイラーズがやつと戦ったのは運命だったのかもしれない。そんなカスみたいな運命あるかよ。
******
その後、センセイはブルーホールと繋がった穴をビルダーで塞いでから部屋の魔物を皆で掃討。統率種の洗脳電波がなくなった魔物はやたら混乱していて、あっさりやっつけられた。
アルミホイラーズは半分ほど死んでいたが、逆に言えばEX級を討伐したのにそれだけの被害だったのは僥倖だろう。軍艦沈められるよりもずっと。
とりあえずグレイが音頭を取って生存者の確認と怪我人の治療、死体は運ぶ余裕がないので、タグだけ回収。この場に魔物の死骸共々置いておき、後で回収班が来るらしい。ドラグアナ統率種の死骸とか是が非でも研究したいだろうしな。オケアノス。
統率種だけでなく、ドラグアナ近接種と砲撃種に無数のイルカ人、ポータルイカ、オークエハタなどなどの魔物はちゃんと参加した冒険者に代金山分けされるらしい。生き残っているやつ限定だがな。
「随分気前がいいなオッサン。ケチのオケアノスにしては」
『これぐらいは危険手当で配らないとみんなのやる気がね……なあに、統率種を倒して上層部も機嫌が良くなっているからねじ込める範囲さ』
『ところで頼まれているんだが寿司用に持って帰って良いか? 統率種』
『……私の見てないところで欠損した分には知らないとしか言わないから、こっそりとね』
『了解した』
センセイが統率種をレーザー切断しに向かった。
「ま、とにかくこれで一件落着だぜ。帰って報酬貰ってパチ行こ」
『君は本当にいつも通りだな……大ボスを倒したっていうのに。帰ったら英雄だぞ。並の冒険者なら引退してもいいぐらいの稼ぎになるはずなんだが』
「借金返せばもっと自由に稼ぎをパチ代に使えてハッピーってとこだな」
そんなことを話していると、ゴルゴン三姉妹が近づいてきた。ちびっこい小子がオレの周りを脚部ユニット付けてスイスイ泳ぎ、手持ちの刀で突いてくる。
『キャハハ、お兄さんやるじゃん! 見た目はチンピラなのに強いんだ! ゴルゴンに入らない? 魔物ともっともっと戦えるよ!』
「別に戦いたかねえよ。安全に狩ってカネだけ欲しいわ」
ガキのお世話も御免だ。するとデカい大子が小子を抑えて言ってくる。
『こら、ミクロ。人を突っつかない。だいたい、恩人でござるぞ。かたじけのうござった』
「おう感謝しまくれ」
『なんだなんだ~? ウチの妹たちを助けたのか? チッ、雑魚パチンカーの癖によー。あんまり妹に色目使うなよ』
「だぁれが色目なんか使うかボケ」
『パチ代奢ってくれたらウチが良いことしてやろうか』
「奢らねえよ雑魚」
『ケチンボ! ウチら分け前ショッボイんだよなあ上に吸い取られて。人権ないから。パチ代ぐらい出るといいんだけどよ』
などと言いながらオレの肩を軽く叩いてきた。奴隷みたいな人間兵器は大変だな。
なんかオレのダイバースーツが光った。
パァンという音が鳴った気がして、オレが身にまとっていたダイバースーツが粉々に吹き飛んだ。体に付けた装備を固定するハーネスベルトや背中の酸素ボンベまで一式全部。銛とナイフやポケットに入れていたサブ装備だけ地面に落ちた。
オレは苺パンツ一枚になっていた。
なんで? あっ……ダイバースーツに施した『残機』システムが限界になったのか? 限界値はかなり低いし、エネルギーが尽きると一気にスーツがバラバラになるとかセンセイが言っていたような……
『バッ……おま、おま……』
すぐ近くに居た半子がなにか悶えるような仕草を見せて、顔を手で隠してなんかオレを蹴ろうとしてミスって宙返りしていた。なんだこいつ。
『良いことって、今じゃねえよばぁぁか!』
脚部ユニットでの高速移動で逃げていった。情緒不安定か?
小子が口元に手を当てて(水中でその仕草をやる意味あるのか?)笑みを浮かべながら呟く。
『半ちゃんはああ見えてウブだからねえ。ジャパンのゲームプレイ動画になんかに出てくる小さなゲイポルノムービーを見ただけでエッチ認定するぐらい』
『時代劇の女優お風呂シーンで恥ずかしくて部屋から出るでござるからなあ。男子の裸は刺激が強すぎたかと』
それは若干精神がおかしいな。というかなんでゲームプレイ動画にゲイポルノが出てくるんだ? LGBTの主張か?
つーかオレ息できないんだけど! ボンベまで砕け散ったから!
なにせ水中なもんで、重たいナイフや銛はともかくポケットに入れていた空気タバコはどっかに流されて見つからない。
オッサン! タバコだタバコ! 空気タバコ寄越せ!
『二人もそうだが、ヘミシュくんもああ見えてまだ子供なんだよアルト青年。研究所での実験で肉体の成長がおかしくなっていてね。憎まれ口も叩くがどうか仲の良い付き合いを』
どーでもいいから! 早く! タバコ! 寄越せ!
強化アーマーに残機システムつけると強化アーマーが吹き飛んで中の人は助かるんだけど
直接ダイバースーツに仕込むと吹き飛んだときがヤバい事例
【挿絵表示】
アルトくんの言ってない決め台詞
書籍版では言ってるというか諸々、描写増え気味なので是非買って確かめてください!