危うくクソボケどものお陰で死にかけた仕事から翌日。
微妙に信用できないから嫌なんだがオレはオケアノスの医務室で精密検査も受けた。ちなみに、タダでだ。
変な電波浴びたから無事か検査しないと、パチ台が異常反応したら困ると言われれば仕方がない。なおセンセイは断っていた。人魚姿を解剖されるわけにはいかないからな。
その間にオケアノスのワクワクウキウキ魔物素材回収チームが坑道を通ってレア魔物の死骸を大量にゲットしてきたらしい。オケアノスは作戦の怪我人を治療するのを後回しにしてそっちに掛かりきりになるようで、退院させられた。僅か半日の検査。
さて、開放されたわけだがオケアノスのギルドは基本的に明朗会計。借金の取り立ても早いが報酬の振り込みも早い。早速査定された報酬がオレの口座に入ってきた。キャバーンキャバーン。やったねパパ。明日はホームランだ。
「どれどれ……おっほぉ❤」
結構アルミホイラーズも生き残っていて報酬も頭割りになったもんだから心配していたが、EX級魔物ドラグアナ統率種及び他魔物の討伐報酬──合計三億エレク!
三億だぞ三億! 一日の稼ぎで三億! るーるーるー!
エレクから円へ交換するのには馬鹿みたいな手数料が掛かるとはいえ、これでオレが日本の借金取りに借りているカネは全部返せるぐらいだ! 早く
メールで魔寿司に呼ばれたので今日は機嫌よく店へ向かうことにした。一番高いコースを頼んでも誤差みたいなもんだ。
店に到着して意気揚々と暖簾をくぐる。まだ夜の営業時間前だったから、客は熱心に寿司食っているセンセイぐらいだった。万が一入ってきた客に見られないよう、デッカイ車椅子みたいなのに座って腰にブランケットを掛けて足を隠している。
「いよーう! お大尽様のご入店だぜ。ドンペリと一番高い寿司くれ」
「ウザ。お金を稼いだら稼いだで鬱陶しい男だネ……」
「はいアルトくん! ドンペリ一本十万円ね! 特別に用意していた『ドン・ペリニヨン炭酸麦茶』だよ!」
エリザが濃い茶色の瓶に銀色のラベルが貼られた酒を取り出した。
「……あるのかよ。っていうかそれ本当にシャンパンなのか? 瓶ビールじゃね?」
「美味しいよ!」
「金持ちがショボい疑いをするんじゃないヨ。老師に聞いたけど三億エレクも儲けたんだロ。この店で三億分使っていけばいいネ」
「全額じゃねえか。寿司屋で三億使うってなにを食うんだよ。火星から運んできたタコを使った寿司とかか?」
「そこでお得プランを説明するネ! 一年間寿司食べ放題サブスクを今だけ限定一億エレクで販売するヨ! 我们要永远在一起──どうぞよろしくネ!」
「買わねえよ! 一年間の食費で一億行くやつはアホだぞ!」
「老師は買ったガ?」
「アホが居た!」
お寿司大好き人間かよ。人間じゃなくて人魚か。まあ……この寿司屋だとそこそこ高いコースが三十万エレク。それを毎日食ったとしたら一億一千万ぐらいは行くんだろうが、実際はこの店定休日あるし夜しかやってねえから元を取ることは無理だろう。ほぼ毎日寿司を食うセンセイからすると得なのか? 機体にも食わせるし。
いやそれにしたって一年の食費を先払いで一億も払うのはヤバいだろ。冒険者なんて明日死ぬかもわからねえ刹那的労働者なのに。まさか三年分買ってないだろうな。センセイ。
チラッ。センセイと目が合う。ガッツポーズを見せてきた。センセイ!
「それよりアルト」
センセイがなにやら問いかけてきた。迂闊に一億払ってしまったソレよりも優先すべき確認事項があるのだろうか。
「せっかく稼いだのだからこの際、借金を一括で返すのではなかったか?」
「あー、それなんだがな。とりあえず手元に三億もあるだろ? だからまずこれを元手にパチで増やして──」
「駄目だよアルトくん⁉ また数日後にはすっからかんになっちゃうよ!」
「ドブに捨てるぐらいならうちのパス買うネ!」
「ンだよ! パチはドブじゃねえ! 適度に楽しむ遊びだ!」
「適度に楽しむためにも、まずは借金をなくして金銭の余裕を持ち遊ぶべきだろう。借金を抱えながらギャンブルをするのは健全ではない」
「ちょっと待って。今その意見に反論する内容考えてるから」
クソッ! 汚れのない目で正論を突きつけてきやがる! メシ代に一億も前払いしたアホアホ人魚なのに!
しかしまあ、オレが借金を返す意思がブレブレになるだけで返した方がいいのはわかっている。わかっているんだが、とんでもない種銭を手にしてビッグゲームしたいという心もある。
「言うは易し……ってやつだな──ってうおっ!」
キャバーンキャバーン! オレのスマートウォッチから警報が鳴った。これは口座に入っているカネが借金取りによって返済分引き出されたことを示す音!
カネが振り込まれてから借金取りがそれを察知し奪っていくまで、普段はタイムラグがある。そのラグを利用してパチ屋などで豪遊するんだが……しまった! 今回はのんびりオケアノスで検診なんぞ受けていたからこのタイミングか!
口座を確認。
「なんだこのごっっっそり減っている残高は! クソ! あの金貸し容赦なく借金分全額毟っていきやがった⁉ こう……借金なんて利息のことを考えたら長く細く返済させる吸血鬼みてえな戦法じゃねえのかよ!」
「冒険者なんて死亡率高い仕事してるから一気にいったんじゃないカ?」
「ま、まあこれで晴れて返済済みになったんでしょ、アルトくん。お祝いにお寿司食べよっか」
「ううう……一番高えやつ……それぐらいは残ってるから」
借金が減るのはいいことだとはいえ、一気にオレの所持金が奪われるのはつらいものがある。三億エレクから借金の残額約二億円支払うには、手数料として五千万エレクぐらい追加で掛かった。変換レートがクソ。
とはいえ、確かにこれで最後だ。もう借金はなくなった。幾らクソカスの闇金めいた金融会社とはいえ、完済したオレからカネを奪うことはできない。日本の裁判所がお墨付きを出したがった債権だったからな。それに違反したら連中がお縄になる。自力で無法を通せる暗黒メガコーポと違って、所詮はただの金貸しだ。
明日からはオレの稼ぎはオレのもの。えーと、冒険者になって三年で借金三億返しきれたわけだから、利子とか無視しても大雑把に年収一億ぐらい稼げるはず! いやまあ……稼ぎの大部分はEX級魔物討伐とかいうデスミッションだったんだが。
「ま、中国にも幽霊と借金取りからは逃げられないって諺があるし、精々頑張るヨ」
「幽霊から逃げられなかったやつ全員死んでるのかその諺」
「はいアルトくん、今日のオススメ『エンガワヒラメのエンガワ』! このヒラメはねえ、全身エンガワみたいなんだけどその更にエンガワを使った貴重品なんだよ!」
「全身トロは聞いたことあるけど全身エンガワってもはやなんだよ……」
疑問に思いつつも味はめちゃんこ旨い。とりあえず今日は借金返し終えたことだけメモして、酒でも飲んでカネがごっそり減ったことは忘れちまうか。
食い始めると、店の入口の戸が少し開いてオッサンが顔を見せた。グレイだ。
「ごめんよ。そろそろ営業時間だと思ったが……開いているかい?」
客として来たらしい。エリザはチラッとセンセイの方を見て、しっかり下半身が隠れていて見られても問題ないことを確認し、「はぁい、どうぞー」と招いた。
すると入口からグレイに続いてぞろぞろと、ゴルゴン小隊の女三人組が入ってきた。
「なんだァ? パパ活か? オッサン」
「おや、アルト青年も寿司かい? そうか……」
「?」
なんか微妙に生暖かい目線で見てくるグレイに首を傾げる。続けて入ってきたゴルゴン姉妹どもがこっちに手を振った。
「イヒヒヒ、チンピラ兄ちゃんこんちゃ! グレイおじちゃんいっぱいお金貰ったんだって! ズルい!」
「いやあ、グレイ殿の奢りで食べ放題! パパ活ってなんか知らないけどお得でござるな!」
「げっ……パンイチ男。メシ屋でいきなり脱ぐんじゃねーぞ」
顔を歪めている半子どもにシッシと手を振って関わらんようにする。四人はテーブル席へと座った。ウリンがおしぼりと茶を出している間にエリザがオレに小声で聞いてくる。
「パンイチってアルトくん、女の人の前でいきなり脱いだの? 駄目だよ」
「装備がぶっ壊れて海パンになっただけだ」
「本当に? じゃあちょっと今なってみてくれる?」
「なにが『じゃあ』なんだ⁉」
エリザの謎の提案に困惑している間に、グレイたちはそれぞれ特上一人前ずつと、食べ終わったら追加で頼むことを注文していた。そしてドンペリ炭酸麦茶も。ひょっとしてメジャーな酒なのかドンペリ炭酸麦茶。
そしてグレイが店内にもう一人居るセンセイに気づいて声を掛ける。
「そこに居るのはセンセイじゃないか。今日は珍しく強化アーマーを脱いでいるのだね」
「え? あのねーちゃんがセンセイの搭乗者なのか⁉ 普通の美人でボインなチャンネーじゃねーか! へー、ほー」
「車椅子でござるな。なるほど、普段から強化アーマーに乗っているのは足代わりでござるか」
「アハハハ大変だね! オケアノスの改造手術とか受けたら歩けるようになるかもよ!」
グレイの言葉に半子が物珍しそうにセンセイを見た。基本的にセンセイは強化アーマー状態でしか人前に出ないが、冒険者登録した際や魔寿司にテレビ撮影が来たときに顔を出しているので、知っている人は知っている。
グレイは持ってきていたブリーフケースを手に席から立ち上がった。
「アルト青年も居るからちょうどいい。ちょっとこっちに来てくれるかい、アルト青年」
「あン?」
グレイは手招きしてセンセイのところへ行き、オレが見ている前でブリーフケースを開けた。
「これはオケアノスから君らに渡すように言われている、ビルダーこと『ヘパイストスの槌』の譲渡証明書だよ。この前サイン貰ったから正式なやつが作られてね……」
「おお、あれか」
「問題ないぞ」
どこか語尾が弱くなっている気がするグレイからその証明書を受け取り、センセイと一緒に見てみた。
『譲渡証明書
次の機材を譲渡したことを証明する。
投射型三次元積増造型装置【ヘパイストスの槌】
譲渡人 オケアノス海運
受取人 センセイ(冒険者登録番号18283)及び界村アルト(冒険者登録番号00488)』
「そしてこれが請求書なんだ」
「請求書?」
「契約によると無償で譲渡するのではなく有償で売買することになっていたみたいだね」
『請求書
下記の通り請求する。
【ヘパイストスの槌】 単位 一
請求金額2000000000エレク』
「……?」
なんか変な記述があったような?
もう一回見直す。
『請求金額 2000000000エレク』
「……あれ? おかしいな? 目が霞んで……エリザ、ちょっと目にいい感じの寿司握ってくれるか?」
「う、うん。はい、ゲイザータコのお寿司。魔物由来のタウリンが効くよ?」
「センセイも食え。むしゃむしゃ。よし」
書類を改めて確認した。
『請求金額 2000000000エレク』
「……なあセンセイ。なんか……20億エレクの請求書が届いているように見えるんだが」
「奇遇だな。私もそう見える」
「オッサン⁉ これはいったい⁉」
オレの問いかけにグレイは残念そうに肩を竦めて、諭すように告げてきた。
「いや、思ったよりも高かったみたいだったね、あの道具。あっはっは」
「あっはっはァだァ⁉ おまっ20億だぞ20億⁉」
「中国メーカーの出している最先端技術で最高級の大型3Dプリンターが1億ぐらいだったかな……でも性能的にはそれより上で、企業秘密もあるし生産するのも難しい希少な機材だから仕方ない……あ、一応私が決めた値段じゃなくて、単に書類渡しておくようにって頼まれただけだからね!」
慌てて否定するようにグレイは言うが、店内で他の連中も20億の請求に軽く引いている感じだった。
センセイすら固まっている。
「……どうしようアルト。私、昨日の報酬三億エレクは全部使ってしまった」
「どうしようもねえな!」
寿司パス三年分騙されて購入してやがる!
「ちょっと待て! 譲渡の受取人にオレの名前が……ま、まさか……」
「そう、アルト青年も譲渡受取証にサインをしていただろう? その請求は君ら二人に行っているみたいだから……そのなんだ」
グレイはいい笑顔で告げてきた。
「頑張って」
「うっそだろマジかああああ⁉」
暗黒メガコーポに裁判申し立てなんてシステムは存在しない。
少なくともオレから(センセイに交渉を頼まれてだが)ビルダーの譲渡契約を申し入れてきて、それにサインまでしたのだ。おまけに機密保持やコピー防止の関係上、返却したからって契約解除にはできない内容で。
つまりアレだ。オレは今日、とうとうこれまでの借金を完済し終えて──
オレとセンセイは現時点で20億エレクの借金を抱えた。
外野がピーチク言ってくるのが耳を素通りしていく。
「プーッ! カワイソ! 二度とパチ行けねえぞ!」
「ウシャシャ! お兄ちゃんもオケアノスの実験動物になる⁉ なろう!」
「おっとチンピラ殿。既に店の前に『死神金融チーム』が待機しているのでござるよ。逃げられぬでござるなあ」
「野良犬……寿司パスさえ買っていれば食べるのには困らなかったのにナ」
そんな囀りをスルーしてオレは。オレは……
「エリザ」
「な、なあにアルトくん。借金の肩代わりは……ちょ、ちょっと難しいんだけど」
「いやそんなこと頼まねえよ。ドンペリくれドンペリ」
「あ、あはは。はい。これ、奢りでいいよあたしの」
エリザから茶色い酒瓶を受け取った。
ぐっ。
ラッパ飲みでオレは酒を煽り、徐々に思考と記憶が薄れていくのを感じた。
借金? 誰それ。顔も思い出せん。
《掌編に続く》
アルトザダイバーこれで2巻分完結です!
アルトは20億の借金を抱えてこれからどうするのか…いやもう進んでるんですよ話は掌編で
あれこれ二人がワチャワチャ冒険したりオークションで稼いだ分がごっそり引かれたりしたのはこの借金が原因だったんですね
一部の掌編は特典だったり過去編だったりするけど、それを除けば大体掌編の順番通りに話は続いていきます
明日、ちょっとメタい回になるけど時系列等解説した話を投稿します
作品が続くように応援して頂ける方は書籍版アルトザダイバーを購入しよう! 定食ぐらいの値段と思えば!
他にもこのラノベが凄い!の投票も始まっていますのでよろしければ当作品とイラストレーターのミチハスさんをよろしくです
https://konorano2027.oriminart.com/
10作品選ばないといけないから若干大変だけど…
お手軽な支援として作品に評価ポイントも入れてください! それだけでもありがたいです!
また、冬頃から始まるコミカライズ(漫画:吉いず先生)もチェックしていただければ!
【挿絵表示】
今後もアルトザダイバーをよろしくです!