これ作って売ってれば一生安泰じゃね? って感じの高値で売れたチェストなのだが、追加で作るにはスペランクラフトジャケットのボックスを改造して材料が尽きた。
特にポータルイカの素材がない。こいつはブルーホール内部や周辺にしか生息していない上に、死体でもあんまり触りたくねえレベルで危険な魔物なのだ。
とはいえ、ポータルイカは厄介な魔物代表なので、見かけたら近づかれる前にぶっ殺さないと安全な探索はできなくなる。倒し方も実弾は効かないが、音波兵器や毒は有効なので無敵というわけでもなく、一般冒険者の装備でも対応できる。
だからポータルイカを倒した冒険者が、そこまで嵩張らないのでついでにギルドに納品してそれが売りに出されることはこれまであった。前にエリザとかそこから買って寿司にしていたりしていた。高いけどな。
ところが、だ。
「ポータルイカ販売予定なし、買取価格500万エレク!?」
ギルドのサイトに掲載されている情報を見てオレは思わず声をあげた。
『ついでに見ろアルト。タカラオトシゴの宝箱も高額買い取りの掲載がある。これまで殆ど価値がなかったのに』
「っていうと……」
『オケアノスがチェストを解析した際に、材料も判明したので独占しようとしているのだろうな』
「あいつら優秀かよ」
まだ渡して数日なんだけど。こういうのって年単位か最低でも数ヶ月は掛けて作るものじゃねえの。ヤマハの山葉寅楠だって初めて見たオルガンを手作業で製作するのに2ヶ月掛かったんだぞ。
あまりに解析が早すぎる。ギャグじゃないんだから。
『ひょっとしたら……オケアノスは【ユニバーサルコーダー】を持っているのかもしれないな』
「ゆにばーさる? なんだそれ」
『私の持っていた装備の一覧にあって、今は紛失しているのだが……略称【ユニコ】としよう。これは万能分析装置と呼ばれるもので、あらゆる物の材質、構造、年代などを分析することができる。スペランクラフトジャケットでもある程度の判断は可能だが、それよりもずっと専門的に進んだ装置だ。それを使えば未知の道具でも設計図を手に入れたも同然になるだろう』
「ほへー。便利なアイテムもあったもんだな。元はセンセイのなんだろ? 返してくれねーかな」
『ビルダーよりも無理な気がするな。持っているだけであらゆる物質を解析できるのもそうだが、オケアノスからしてみれば異海から手に入る未知の物体を知るための手段だ。ついでにユニコはユニコ自身に使えない関係上、それ自体を解析して複製するのが困難だ』
「それにしてもセンセイの装備、あちこちに散らばってんのな」
『不思議だなあ』
何でも砕くピキャストに、何でも作れるビルダー。そして何でも分析できるユニコか。全部揃っていたら単身で未開の星を開拓にでも行けそうなセットだ。
「購入で手に入れるのは無理っぽいから、とりあえずポータルイカと宝箱を探す目的で出てみるか」
なにせ億単位の案件だ。量産されて値下がりする前にヴァルナ社やウィーロンにも売りつけてやりたい。
『ふーむ……』
しかしセンセイはどことなく不満そうに唸った。
「ど、どしたん?」
『いや、チェストの材料集めが冒険者の流行りとなってしまっている中で、皆と同じことを後追いでしてもあまり面白くないな……と思ってな』
「そうか?」
『冒険とはもっと誰もがやらないことや、趣味に走ることが大事だと思うのだが。それに今年の分の借金は返し終えているわけだからそんなにあくせく稼がずとも……』
「ちなみに趣味って?」
『図鑑に記載されている魔物を全て味の評価をするのが私とエリザの目標だ。全部捕まえたいところだな』
「記録に残しときゃそのうち誰かの役に立つかもな」
グレイのオッサン曰く、徐々に異海の範囲が広がって魔物も日本近海でもっと見られるようになるかもしれないとのことだ。
そうなったら仕方ねえから今よりもずっと魔物の魚を食う習慣が増えるのではないだろうか。そのときに食える魔物の指標は便利かも。
しかしまあ、とりあえずなにをするにしても異海に出て考えようということになり、オレらは出発をした。金稼ぎに乗り気じゃないとは困ったもんだが、そもそもチェスト作成なんて9割センセイの専売特許な技能で稼ぐ手段なわけで、オレがどうこう指示できるもんでもないわけだ。
******
センセイに乗って異海へ向かう途中、今日は潜っている冒険者の数が多い気がした。
『この前、宝箱祭りで大量発生しただろう。次の日には消えると言われているとはいえ、その空箱の残りを探しにきたのではないだろうか。オケアノスが高額買取を始めたから』
「オケアノスの連中、チェストを占有するつもりだな」
既にオケアノスがこうした怪しい買い取りの動きを見せているのは各組織掴んで分析しているだろう。あるいは他の組織も買い取りの打診をしている可能性もある。
皆が同じものを集めているというので微妙にセンセイのやる気が低下しているように感じられた。
「下層にも人が入ってそうだな。よしセンセイ、遺跡群の西側に行こうぜ。そっちなら少なそうだ」
『そういえばあまり行くことはないな、西側』
海底遺跡群は中心にあるブルーホールの周囲に広がっているわけだが、冒険者たちの拠点である三岳島は遺跡群から見て東側に位置している。
必然、そこから出発した冒険者たちは主に遺跡全体の東側から入り込むことが多い。回り込むと余計な時間と手間が掛かるからな。
遺跡の上を通っていくと高確率で凶悪な魔物に襲われるため、外側を回り込んで西へ向かう。
魔物もどっちかっていうと人口密度の高い方に寄っていく性質があるためか、ペアで急いで移動する間は襲われなかった。
センセイがGPSで遺跡群の真西に来たことを確認して、オレらは遺跡へ入っていく。
『それにしても、本当に他の冒険者の気配がしないな』
「ちっと遠出しても移動に時間が掛かる、移動手段の水中スクーターや船なんかを保有しないといけない、それでいて反対側だからってレアな魔物が出るでもなしだからな。案外、西側の探索はブルーホールより進んでないかも」
『む!? アルト、サメの群れがいるぞ!』
「あーん? ……おお、珍しいな! 魔物の『バロメッツマジロ』だ。だいたい冒険者に狩り尽くされてるところしか見ねえのに」
『どういう魔物だ?』
センセイが指さしている方にいるのは、ツマジロ(メジロザメの仲間)が複数群れているように見えるやつだ。だが、よく見るとサメの尻尾あたりから伸びたツタみたいなのが繋がっていて、群れの真ん中あたりにデカい海藻みたいなのがある。
「あれは実は植物の一種で、攻撃性はまったくないサメの姿をした実を作って脅かすだけの無害なやつだ。サメの身はちゃんと魚肉っぽい味がするんだが成分的には野菜とかいう変な物体でな。ベジタリアンの間で噂になっているとか。ま、とにかく禄に攻撃もしてこない魔物だから、見つかり次第冒険者に狩られていく」
『ほほう……』
センセイがなにか考え込んだ。成っているツマジロでも持って帰るのか? 寿司ネタに。
『よし! ではこのバロメッツマジロを三岳島で栽培しよう』
「ええ?」
『上級冒険者になったおかげで三岳島の土地を借りられるようになってな。どうせならば寿司屋の店舗ではできないものを作ろうと、養殖場を考えていた』
なんでも、島の周囲に広げた水深1メートル未満の浅瀬区画。島に寄ってきた魔物を撃退するためのスペースなんだが、そこも安値で貸し出されているようだ。
もちろん常時水没している土地なのでイカダを浮かべるとかしか利用方法はねえんだが。
『早速持って帰って準備をしよう』
「いや待てセンセイ。チェストの材料集めはどうすんだよ?」
『それもあったな……待てよ、アルト。確かオケアノスの引取価格はポータルイカが500万で宝箱が100万だったな?』
「ああ、空箱でも持っていけば一ヶ月は遊んで暮らせるとなりゃ奪い合いだろうな」
『よし、私もオケアノエックスで募集を掛けよう。作るのにポータルイカが三匹と宝箱が一つ必要で、セットで持ち込んだ者に賞金1億エレクだ。これだけ報酬が違えば、オケアノスではなくこちらに持ってくるはずだ』
「いちおくえれく! オレ取ってくる!」
『落ち着けアルト』
慌ててブルーホールへ泳ぎだそうとするオレを捕まえてセンセイは言う。
『他人に1億エレク払うが、それを加工してウィーロンに売りつけるだけでメルカリを通してでも8億エレクは入ってくるんだ。差し引き7億エレクを山分けだぞ。自分で集めない商品を加工して売るだけなのもつまらないものだが、今は養殖場の方が面白そうだからな』
「おお……しかし、その賞金ってのはどう用意すんだ? 今持ってねえよな」
この前の売上金も身の危険があったのでササッと借金返済に使っちまったため、持ち合わせは大して無いのが現状だ。
冒険者なんて明日の身も知れぬ日雇い職業。賞金の後払いなんて持ちかけたらキレて襲ってくるに違いない。
『借りればいいだろう。上級冒険者になったことで再度借金というか、融資が受けられるようになっている。それを使って報酬を払い、チェスト販売利益ですぐに返す。これで問題はあるまい』
「借金かー……なんか嫌な感じもするんだけどな、借金を増やすと」
『自分への投資のようなものだ』
そこから少々センセイと条件を詰めて、受付日は明日から、無尽蔵に持ち込まれても買い手が付かないこともあり得るので、先着10回分までポータルイカと宝箱を受け付けることにした。
メルカリは一般オークションだけではなく暗号鍵を渡した入札者のみに出品することもできる。やっぱり他の組織に売り払うとなると、オケアノスの仲介入れねえと睨まれるからな。それでも一個8億の利益はデカい。仮に10個全部が最高額で買えたとすると80億の儲けだ!
ウィーロンやヴァルナ社だけではなく他の組織も欲しい所は多いだろうし、やつらだって予備に2つ3つと買うかもしれないことを考えると10個ぐらいはいけるだろう。たぶん。
オケアノスバンクにも連絡を入れて事業計画と融資の話を通したら一発で通った。明日どころか今日からでもカネを貸してくれるレベルだ。そこらのフットワークは、一般的な銀行なんかよりも遥かに軽い。
上級冒険者の信頼って凄え! とかじゃなくて、オケアノス的には上級冒険者にカネを貸せるだけ貸してその利息を分捕りたいし、なにか失敗して借金まみれになれば言うことを聞かせられる奴隷にできるしでイイコト尽くめだからポンと貸してくれる。なので借りるのもセンセイとオレの共同でということになる。
センセイが手続きをしている間にオレはバロメッツマジロや他の無害系魔物を採取することにした。貝類とかウニとか、能動的に動くのが苦手な魔物はほぼ無害なものもいる。
海藻の類だとテングサシロウとかホンダワラカツとか。テングサシロウはなんか光る寒天の材料になるし、ホンダワラカツは異様に耐刃性があって装備などに使われる。
しかし栽培方法なんて知らねーぞ。
センセイが運ぶために簡易的なボートをビルダーで作成。海上に浮かべたそれに収穫物を放り込んでいく。
『よーし、出航!』
「本当に大丈夫かよ」
『既に用地は確保してある』
「オケアノスすぐやる課でもあんのかな」
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三岳島……それは最後のフロンティア。そんな謳い文句で冒険者や島内の事業者を招き入れているオケアノスだが、それだけポンと土地やカネをすぐに貸してくれる。
エリザんところの寿司屋が店舗の下見から開店まで一、二ヶ月で行けたぐらいに書類の決済は早く、環境は整えられる。
センセイが手続きをして三岳島周縁部の新開発地区、今のところ水浸しなので誰も利用していない浅瀬区をざっくり10アールほど購入した。
田んぼで言うと一反。テニスコートだと4面分ぐらい。その範囲に養殖場を作ろうってハラだ。
さて本来ならなにか作るにはオケアノスに資材や建築を頼んで更にカネが掛かるんだが、そこはビルダーを持っているセンセイだ。ざっくりと範囲を囲んで、養殖用の水槽を用意してポンプや弁で深さを作り、周囲の海水と循環するように作り上げた。
オレはその間、採取してきた海藻を切って株分けできるようにしておいた。暇な冒険者が見に来ることもあったが、カスどもが密猟しないように防犯も必要かもな。
『よし、アルト。水槽が完成したから海藻を設置してみてくれ』
「へーい」
海藻が張り付きそうな岩や砂を入れたアクアリウムみたいな水槽が並ぶ。適当にオレは手分けして海藻やバロメッツマジロの根っこなんかを植えていった。ちなみにサメ部分は邪魔だったのでエリザやギルドに売った。
とりあえず配置したが、当然ながら今から成長するのにどんだけ時間が必要なんだ?
『そこで成長を促進する道具を作っておいた』
「そんなのあるのか?」
『うむ。まあ物は試しだ。撒いてみよう』
と、センセイが噴霧器みたいなのを取り出して、バフッとなんらかの粉末を水槽に吹き付けた。
栄養剤かなにかか?
訝しく見ていると……
「……うおっ!? 海藻がみるみる伸びていきやがる!?」
『効果ありだな』
まるで早送り数千倍で植物の成長を見るかのように、株分けして小さなクズみたいだった海藻の欠片からニョキニョキと茎や葉が伸びて大きくなっていった。
普通の植物ならそうはならんやろ。
バロメッツマジロも一気に株が伸びて、枝分かれした蔓の先からサメ型の実が膨らんできている。
「凄えなセンセイ! 一体なにを撒いたらこうなるんだ!?」
『骨粉だ』
「は?」
『魔物の骨を粉末状に加工しただけの簡単な肥料だ』
「……それでこんな急成長するぅ?」
いや、でも実際するんだから仕方ねえよな。っていうかそんな話聞いたことねえから新発見か?
例えば異海で取れるメジャーで有用な植物、薬草昆布なんかもこれで一瞬にして増やせるわけか?
他にも日本のバイオエタノール発電希望の星である海サトウキビなんかに使えば何回も収穫できたり。
……思ったより凄い発見なんじゃなかろうか。
『実験は成功した。後は肥料やりと収穫を自動化したいところだな。機械をビルダーで作ってラインも作らねば……収穫物の保管庫を考えるとチェスト型の空間拡張ボックスを使って……』
「っと、募集掛けてたチェストの材料の件はどうなったんだったか?」
『ああ、早速十人申し込みがあってな、今から取引をしてこよう』
取引場所はオケアノスバンクの支店で部屋を借りて行われることになっていた。デカい額を借りるのもあるからな。銀行員立ち会いのもとで明朗会計、正式な取引が成立したことを保証してくれるサービスみたいなもんだ。
三岳島のオケアノスバンクはそれほど大きな建物ではない。電子マネーの類だからだいたいの作業はコンピューター上で行われるからか。主に融資の相談やこういった取引のために使われるようだ。
余談だが、チェストの材料用に1億借りた場合返済は自動的に30%の利子がついて1億3000万エレクになる。たとえすぐ明日返したとしても。おげーっ!
そりゃオケアノスバンクの連中もニコニコ笑顔でセンセイにカネを貸すわ。右から左に流すだけで、合計10億借りるから3億の儲けだ。
順番にやってきた冒険者たちに、事前に送っていた暗号鍵を照合して確認し、材料を受け取って一億を払っていく。狂喜乱舞する冒険者ども。もう辞めるやつもいるかも。
偽装してカネを貰いに来るやつや、或いはデカい取引だから現場に襲撃してくるカスが出るかもと警戒していたんだがさすがにオケアノスの御膝元である銀行だからか、そんな連中は姿を現さなかった。
或いは店を出たときがむしろ心配だな。少なくとも、ええとポータルイカが20匹でギルドに納品したとしても1億エレク相当の現物を持っているわけだからな。
『よし、とりあえずは融資分を取り戻し、借金を返済する分だけでも早めにチェストを作っておくか』
「そうしてくれ。ひとまずこれでビルダー買い取って作った分まで解決するわけだからな」
そうして綺麗な真人間になりたい。なにせ、融資の手続きもチーム名義ということでオレも共同で借金していることになっているわけだ。一蓮托生。オレとセンセイはあらゆる借金でコンビ扱いだ。
とはいえチェスト10個分。ざっくり一個8億で売ったとしても80億エレク! 残り借金が、ビルダー買い取り分が10億ぐらいと、融資分で13億だから、57億の儲けとなる。山分けしても28億ちょいある!
ほぼセンセイが作成するチェスト販売分を山分けしてもいいのかとも思うんだが、そもそも借金が共同だったからな。富めるときも貧しいときも分け合うのが一番だ。冒険者は兄妹。冒険者は家族。
──と、そのとき。センセイの通信になにか通知音みたいなのが混ざった。
なにやらセンセイが唸り声を出している。
『……アルト、残念なお知らせがある』
「すごく聞きたくない」
『チェストなのだが……製法をオケアノスが特許を出願して各国でスピード承認されたようだ。裏金を使って優先させたのだろう』
「つまり……?」
『私がチェストを作って売買すると特許侵害になって、当然ながら販売額を遥かに超える損害賠償金が科せられる』
「動き早えよオケアノス!」
『製法を公開しなくてはならないが、材料が特殊だから大丈夫だと踏んだのだろうな……』
どっかの特許侵害国家みたくこっそり作って売る……なんてマネもできねえよな。オレらの口座がオケアノスにあるし。
そもそも、拾った異物ってことで売り出したのにあれをセンセイが作ったとバレてるフシがある。ピキャストだって作れたしビルダー持っているんだからそう思われても無理はない。
「えっ!? っていうことは……まさか」
『ううむ、ウィーロンやヴァルナ社からもオケアノスとの共同研究体制に移るから買い取りはできないとメールが来た』
「……」
『借金が13億増えてしまったな』
「のあああああああ!?」
こっ……これが大手の邪悪なパワーなのか!?
クソっ! あのニコニコしていた銀行員の顔がマジムカつく!
借金返済計画続行だ、クソったれ!
*****
「ところでセンセイ! あの植物成長させる骨粉で特許取れねえか!? こうなりゃこっちも特許料で儲けようぜ!」
『いや……あまりに単純で組み合わせに特殊な要素のない製法などでは特許が取れなくてな……あれ魔物の骨を粉末にしただけだし……』
「ううう」
久しぶりなので借金情報整理(億単位の変動)
初期:ー2億(アルトのみ)
2巻終了時:-26億(センセイと共同借金になる)
ピキャスト販売:-18億(年間利息達成)
チェスト販売:-10億
今回:-23億
だいたいこんな感じだったと思うけど作者も忘れることがあるので指摘があればよろしく!