フエタ・ネ・ダイブー。
借金が!
8億エレクの箱を10個作って売るつもりで、材料を集める手間をケチったオレたちは1億エレクの買い取り金を出して募集したところ、すぐにそれらは集まった。
しかし売る前にオケアノスによってチェストは特許登録されてしまい、それを勝手に製作・販売したら半端ない賠償金が科せられることになったので販売計画は頓挫。
銀行から材料費として借りた10億+利息の3億エレクが借金に追加されちまったのである。
「まあ、できてしまったものは仕方がない」
「かるーい! オレなんか当初3億円の借金で悩んでいたのが馬鹿みたいになってきたぜ」
「そんなことよりせっかくチェストの材料もあるのだから栽培場を生産工場に改造しよう」
そんなことで済まされてしまった。
今回加算された13億の借金は正確には事業融資なので、ある程度は返済期限に猶予がある。そりゃそうだよな。事業始めるのにカネ借りたのに翌月から追い込み掛けていたら即潰れるわ。
それまでに商売を軌道に乗せて最低でも利息ジャンプし続けられる程度に利益をあげれば銀行も煩く言ってこない。
「とりあえず手分けをしよう。私は工場の設備を作るから、アルトは魔物の骨を集めてくれないか」
「魔物ならなんでもいいのか?」
「定期的に安定して手に入りやすいものが好ましい」
そういうことになって、オレは魔物の骨探しに出た。
栽培工場では骨粉で急成長させた異海植物や海藻を自動的に採取し続ける仕組みを作るみたいだが(そして採取したやつを売る)、骨粉は消費し続けるからな。
さて、安定して取れる魔物か……
例えば雑魚で幾らでもいるゴブリンフィッシュとかは安い不味い薬効もないで、実はあんまり出回らない。エリザがオレに取りに行かせたぐらいだからな。
ある程度の魔物の骨は魔寿司からの廃棄品で補えるかもしれんが、多種多様な種類の骨で品質が安定しないだろうし、一日に夜営業しかしない店から出る廃棄ではたかが知れた量だろう。
ギルドの加工場に話を持っていくのもオケアノスが信用ならねえ。こっちが軌道に乗った瞬間に取引を打ち切られる可能性が高い。
他は安定して結構な量の魔物を手に入れて捌いているとなると……
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オレがやってきたのは日本人街にあるスーパー『三岳島コープ』略してMコープ。あなたとわたしのMコープ、エムコープ(店内ソング)。
主に日本人向けというか、日本国内で販売されている商品を取り扱っているスーパーだ。島内には他にもオケアノスが運営するオケアノスーパーもあるんだが、冒険者もオケアノスの社員も国際色豊かなので品揃えもワールドワイドになっていた。コーヒーと紅茶を混ぜたようなアジアめいた飲料とか売っていて初めて飲んだわあんなの。
ヴァルナ社の武器ショップにも多少は日用品と食料品コーナーがあるんだがこっちはインドライズされていて、硬いシュークリームの中に青汁が入ったような謎の食い物とか売っていて日本人受けしない。食った翌日腹を壊したし。
そんな中でこのMコープは本土のスーパー感覚で利用できる。お惣菜も売っているし鮮魚コーナーもあった。
本土から送ってきた魚も取り扱うが、地産地消的に三岳島近海で取れた魚、そして食べられる魔物も売っている。店にはちゃんと魚を捌くところもあった。
安定して三岳島で流通していて、更にオケアノスがあまり取り扱っていない魔物──それはイソノマグロだ。
毎週日曜日の夕方から簡単に釣り上げられる、見た目も味もほぼクロマグロな魔物で(若干サザエさんの髪型みたいな形をした背びれをしている)、武器を持たない一般漁師でも捕獲可能だ。
味もいいんだがオケアノスが求めている特別な薬効や毒の類は一切なく、ギルドの買取価格は非常に安いため殆どの冒険者は狙っていない。しかし普通に食べられる魔物として三岳島の飲食店や、本土に送るために日本人が毎週大量に取っている。
まあつまりここではイソノマグロの骨が定期的に結構な数出ているってわけだ。
いきなり交渉しようにもMコープとはコネも伝手もないし知り合いですらないので、顔の広いトビーを挟んでやることにした。
「三岳島ではごみ処理の問題は結構重大なので、引き取ってくれるなら助かるのです」
人工島である三岳島ではゴミを纏めて焼く焼却炉で処理しているわけだが、各店舗には出したゴミに対しての焼却費用が請求されていて結構高いらしい。
トビーは日本人街の会合なんかにも毎回参加して、警備会社の大手社員でもあることから様々な警備上の相談、防犯設備の導入などもしているために顔が利く。
あっさりと店長に連絡を取って、鮮魚担当にも話がついてイソノマグロとついでに他の魚の骨やアラを引き取れることになった。
さて問題はどうやって運ぶかだが……毎日オレが工場まで持っていくのは面倒だしな。魚売り場の爺さんに持ってきてもらうのも気が引ける。
というわけでセンセイに電話してみた。
『わかった。配達マシンを組み上げてそちらに送る。自動でその地点と工場を往復し荷物を運ぶ機械だ。それに骨は積んで貰えばいい』
「途中で盗まれねえ?」
『魔物の骨をわざわざ盗むやつがいるだろうか? 見た目は生ゴミだぞ』
「いやマシンの方をパクってヤードに売り飛ばしたり」
『……対策はしておこう』
そういうことになって、暫く魚売り場で送るための骨集めという名目の掃除をやらされて待っていた。
魚屋の妙に達人みたいな雰囲気のある爺さんとパチの話で盛り上がる。
「やっぱり海物語を極めるには10年は掛かるってものだぞ若いの」
「10年経ったら新作が幾つ出てるんだよそれ」
「10年の間は打たず、師匠が打つのを後ろで見てなくてはならん」
「店員呼ぶわそんなガン見されてたら」
「10年経たなくてはサムだかサメだかも間違ってしまうからな」
「サムとサメの違いはボケたジジババでも一瞬で正気に戻ってわかるわ。目隠し耳栓してても脳内麻薬出てわかるっての」
そんなことを喋っていると通知が届き、店の裏口に配達マシンが来たようだ。
出てみるとそこには一回り大きなメカルスがいた。
「うおっ! ポンコツ!」
『……』
「ん? ……反応がねえな。ハリボテか? これ」
軽くコンコン叩くと中身の詰まっていない音がした。センセイからの通信が来る。
『見た目をメカルスに似せることで、冒険者からしたら襲うとリスクがありそうだと思わせる効果を期待している。胴体部分が開いて容れ物になっているからそこに詰めて運ばせてくれ。丸ごと盗まれても安い簡単な作りにしている』
「ふーん。あっ! 動力っぽいのが電池だこれ! マブチモーターもついてる!」
結構デカいのに動力はミニ四駆レベルなのかよ。とりあえずメカルスっぽい部分を開いて、中が金属製のバケツみたいになっているもんだからそこにイソノマグロの骨や頭を詰め込む。明日辺りには生臭くなってないかな……このマシン。
中身を詰め込むと、早くもなく遅くもない速度で運送マシンは移動していった。魚屋の爺さんにあれが来たら詰めといてと頼んでおき、とりあえずセンセイから半年契約分として先払いの報酬を払っておいた。
そんなに高くはねえが、日々出るゴミを裏口に引き取りにきたマシンに乗せるだけでタバコ代ぐらいにはなるんだから爺さんも喜んでいる。
輸送メカルスがキュラキュラと移動するのをオレは歩いて追いかけ、センセイの工場へと戻った。
工場の入口がセンサー感知式で開閉するように改造されていた。おまけにメカルスっぽい警備ロボが立っている。微妙にデザインが簡易化されているのでセンセイが作ったやつだろう。そもそもメカルス自体がいかにも典型的なロボって感じなので、パクリには当たらないかもしれない。
しかしその偽メカルスのカカシを置いているだけでも殆どの泥棒は諦めるはずだ。たぶん。
オレも輸送メカルスと工場の中に入ると半日も経過していないのに、中はとんでもなく変わっていた。
足場の面積が勿体ないのか全て鉄パイプと金網で作った、二階ぐらいの高さの足場を移動するようになっており、眼下では所狭しと栽培池の水槽が並んでいる。
水槽の上にはちっこいスペランクラフトジャケットのプラモみたいな飛行ドローンが自動的に骨粉を撒いていき、成長した海藻はハサミのついた水中ドローンが切り取り指定場所へ運ぶ。
一箇所に集められた海藻を自動で動くロボアームが引き上げ、それをベルトコンベアに乗せると動き続けるベルトが回収用チェストの置かれたところへ運び、またアームが自動で選り分けてそれをチェストに入れる。
それが何種類もの異海植物の水槽で自動的に行われていた。
「うおっ……すっげ……おかしいだろ」
思わず失礼なことを口走る。無人のオートフォーメーション工場が数時間で完成してやがる。
オレが立ち止まって自動化された流れ作業を見ているうちにも魔物の骨を運んできた輸送メカルスはキュラキュラと勝手に工場内の足場を進み、謎の機械に入っていった。その機械には『Bone Meal』と書かれているので、骨粉を製造する機械らしい。それもオートでやってくれるようだ。
『アルト、こっちだ』
センセイが回収用チェスト近くの足場で手を振っていたので近づく。
チェスト近くにはベルトコンベアが通っており、ほとんど常時に近い頻度で海藻が運ばれてきては分別収納されていっている。
『多くの材料を使うことでチェストを改造して内部容量を更に増やした。計算によれば、今のところ一日あたり合計で1トンほど生産できるはずだが、一ヶ月近くは放置しても中は溢れないだろう』
「1トン! ええと、ざっくり色々な海藻の平均がキロ1万エレクとして……1日1000万エレク回収できんの!?」
オレが1巻で命からがら音速マグロ回収してきたとき幾ら貰ったっけ? 1000万ちょっとぐらいだったような。
それが自動的に湧き出てくる工場。DIYなので建造費はタダみたいなもん。
『長期的な稼働によって、骨粉で急成長させている作物本体がどこまで持つかは不明だが……そうなるな』
「一日で完成した工場なのに」
10日で1億エレク。借りた13億エレクと残りの借金を返す分には結構時間が掛かりそうだが、利息程度は安定して支払っていけそうな儲けだった。
借金が返し終えれば毎日パチンコ代が1000万手に入る生活!
夢が広がりやがるぜ!
『安定した副収入があれば冒険も趣味に走って大丈夫になるからな』
「冒険は続けるのな」
『だって楽しいだろう。アルトも』
「サメのエサになるかもしれんが」
ま、この工場も楽観的に見れば超素敵な収入ではあるんだが、人生なんて一寸先は闇なんてことはオレだってわかっている。
暗黒メガコーポに潰されるとか栽培場が魔プランクトンで壊滅するとか区画ごと大型魔物に破壊されるだとか、工場だけ頼って生きていたら落とし穴があるかもしれねえ。
せいぜい体が動くうちは、冒険者生活でも稼いでおかねえとな。
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翌日、とりあえず冒険に行く前に集まった異海植物を回収して売買に向かうことにした。
魔寿司に売れるところは売って(エリザのリクエストで魔寿司に昆布乾燥機を作った)、貨物ワゴンに乗せて運びギルドに大量に持ち込む。
異海植物ってのは特に需要があって周縁部で簡単に取れる薬草昆布以外は、余裕があればちょっとポッケに入れて帰るかなぐらいの感覚で少量持ち込まれることが多く、数百キロ単位で納入されるのは始めてのことだったようだ。
一晩稼働させた分の海藻をギルドで間違いがないか鑑定させるのに時間がちょいと掛かった。余談だが、三流冒険者がなんの関係もない収穫物を取ってきても選別できるように、撮影すれば図鑑で自動的に同定してくれる装置がある。
「おい凄えなアルト。どこでこんなに取ってきたんだ?」
ギルドのオッサンが感心した様子でそう聞いてきた。
「オレじゃねえよ。センセイが栽培に成功したんだよ」
「栽培ってそんな、海モヤシ生やすレベルの短期間で成功するもんだっけか?」
首を傾げていたが、とりあえずギルド側にインチキされないよう見張ってオレらは数百万エレクの報酬を得た。うぇーい!
一応はすぐさま返済しなくていい収入だから、使い道が幾らでもある。センセイと相談して収入はオレとセンセイの口座に100万ずつ、共同の借金返済用積立口座に残りを放り込んでおくことにした。
オレが時々センセイからカネ貰っているようなことがあるが、それはオレが管理している返済用口座に入金しているだけであって小遣いを貰っているわけではない(主張)。
一応、口座を作る際の社会的な信用というか戸籍の問題ではオレの方が作りやすいからそうなったんだが。センセイは冒険者なら誰でも開ける口座しか持っていないので。
ま、それでもオレの手元に100万のカネが入った。やったことは海藻集めるの手伝ってマグロの骨探してきたぐらいなんだが。
『気にすることはない。私だってやったことはちょっと趣味のクラフトをやっただけだからな。それでお金が入るのはオマケのようなものだ』
「センセイって冒険もだがモノ作りも好きな方だよな」
『ああ。時間があれば自由にできる人工島も作ってみたいところだが……許可とか必要なのか?』
「たぶん必要だと思うが……」
オケアノスは日本政府に貸しを作りまくってこんな島を作ったわけだが、勝手に一般人──しかも日本国籍ですらない身元不明の人魚が人工島を作って所有権を主張していたら色々と厄介な問題になりそうではある。
『さて、それより今日は予備となる海藻の根や、深層部の海水を採取してみよう』
「海水?」
『今のところ異海の外にある三岳島の海水で栽培をしているのだが、架空粒子の濃度なども生育に関わっているかもしれないからな。比較検証してみたい』
「あー、そういやそれが濃いと魔物が強くなったりするって言ってたな。グレイのオッサンが」
逆に高濃度の架空粒子が含まれる海水で栽培すればデカくなったりするのかも?
ともあれ、せっかく作ったんだから栽培場の研究に暫く付き合ってみるとするか。