そして話は進みません。ほぼ幕間。
「先生!来たよ!って何この書類の山」
「”いらっしゃい…キシリア。中々仕事が片付かなくてね…”」
先生のデスクどころかその周辺にも侵食している書類の山が、圧倒的な存在感をもって私の目に入り込む。これがシャーレのお仕事ですか。…正気か?
何を隠そう今日はひっそりと応募していたシャーレの当番の日なのだ。一番早い日程に組み込まれるなんて先生もキラーマシンの事語りたかったのかなあ、なんて想いは書類の山によって打ち砕かれた。これは本当に助けが必要な奴だ。
「先生、ちゃんと寝てる?」
「”さっき1時間くらい仮眠とったから大丈夫…”」
「1時間かあ」
とりあえずどれがどの書類なのか整理しなきゃ…うぐ、身長が低いのが仇になる。
「先生はとりあえずもう少し休んでて。整理した後に私で処理できる書類は片付けちゃうから」
「”折角手伝いに来てもらったのに私だけ休んでるなんてできないよ”」
「ダメです。休んで下さい。これは決定事項です」
「”はい…”」
そう言って先生は仮眠室に入り、そのまま8時間出てこなかった。勿論私はその間書類をシバいていた。今日は平日だったし、私みたいに一日中当番できる人じゃなかったら先生を途中で起こさざるを得なかったな。時刻は17時。私が処理できる書類は全部シバきおわり、後は先生しかできないものや主席行政官のチェックが必要だったりするものなので私の業務は終了といったところで先生が慌てて仮眠室から出てきた。
「”ごめんキシリア!すっかり寝入っちゃって…うわ、もうこんな時間!?”」
「大丈夫だよ先生。私にできる書類は全部片づけておいたから、明日に回してもそこまで負担にならないはず。今日はゆっくり休もうよ」
「”ありがとうキシリア…!折角だし晩御飯がまだなら一緒にどうかな?”」
「喜んで!」
その後、準備を完了した先生がちょっとお高い店を奢ってくれた。美味しいし先生も話上手だから楽しい時間だった。パワーバランスの関係上学園に所属できないからシャーレのお手伝いという体でこっそり暇つぶし程度に行こうと思ってただけだけど、悪くない。まあ実のところ私がキラーマシンのマスターだって知ってる人は多くないんだけど、それでも例えばトリニティの上層部とかは知ってるわけで、一般人の人目に映るのは大丈夫でも実際に巨大な学園に所属するってなるとそれだけで問題が生じる。それがシャーレだと建前だったとしても超法規的組織でありながらも中立な存在であるため私が密かに所属してようが問題ないのだ。もう解体されちゃったけど、例えばSRTがゲヘナの傘下に入るってなったら問題だけど、連邦生徒会長のお抱えだったら問題なかったでしょ?それと一緒。
というか連邦生徒会長どこ行ったんだろうマジで。私にも置手紙とかいう前時代的なもん残していきやがったけど結局よくわかんないんだよねぇ。
先生と別れてブラックマーケットの拠点に帰り、いまだに大切に保管している何度も読んだ一通の手紙を開く。
『キシリアさんへ
この手紙が届いてるということは、私がキヴォトスから姿を消して程ない時間が経った頃でしょう。勝手にいなくなるあなたの友人を、どうかお許しください。
私がこうして置手紙を書いているのは、何もお別れを言うためだけではありません。
これから、キヴォトスには幾つもの困難が降りかかります。それはこれから起こることであったり、もう取り返しのつかない事であったりします。ですが、私はあきらめていません。そのためにお呼びする人も、もう間もなく到着する頃でしょう。それでも、最上の結末にたどり着くための道は非常に細く、幾つもの障害が立ちふさがっています。キシリアさん。私の友人であり、キヴォトスにおいて存在しないはずのイレギュラーを作り出せるあなたなら、もしかすればその障害も容易く斬り伏せられるかもしれません。けれど、私からそれをお願いすることはありません。キシリアさんはその一時一時の感情を大切にする方ですから、私のお願いなどすぐに忘れてしまうでしょう?だから、キシリアさんはキシリアさんの思った通りに、心の導くままに行動してください。誰よりも自分の欲求に素直なあなたなら、それでより良い結末へとたどり着けるはずです。
あなたの友人より』
そりゃあさあ、あなたはキラーマシンの傭兵企業作るときに色々取り計らってくれた恩人だし、唯一無二の友人だったけどさあ。これ若干貶してるよねぇ!?私そこまで感情論で動いたりしないけど!?…多分。
次会ったらテイルズサガクロニクルRTA世界記録耐久配信やらせてやる。
でも、きっと”そのためにお呼びした人”って先生だし、キヴォトスの幾つもの困難ってもう始まってるよねえ。アビドスのデスワームとかもそうだろうし。
先生のストーカーでもすりゃええんかな。それはそれで問題な気はするけど、面白そうではある。
あ、ネルちゃんからメッセージ来てる。『近いうちにまた遊びに来い』って…。最近遊びに行ってなかったから催促のメッセージが来てしまった。ネルちゃんもキラーマシン好きだからなあ。
よし、そうと決まればアビドス製デスワームを解体して、そこから新たなキラーマシンを作れるかRTAだ!楽しくなってきた。
□
「”精神的な異常はなさそう。むしろ心身ともに健康体…書類不備も無し、私を気遣う余裕もあり、キラーマシンと呼ばれる括りのあの機械が大好きなこと以外、至って普通の女の子…でも、肝心のキラーマシンが好きな理由がわからない。普通に考えて女の子が殺戮機械を好きになることなんてどこか精神に異常をきたしていないとおかしい…でもそんな様子は見受けられない”」
先生は今日当番に来ていたキシリアの様子を思い出していた。誰かが生んだ歪みなら私が正してやらねばという思いとは裏腹に、キシリアはどこも歪んでなかった。キラーマシンは好きだが、執着しているようには見られない。本当に好きなだけ。確かにあのデザインは男の子などが好きそうな見た目ではあるが…いや、これは男女差別になってしまう。男の子が好きそうなものを女の子が好きになって何が悪い。だがそう考えるとしても、あれはキシリアが考案したデザインなのだろうか。確かに自分が生み出したものは愛着がわくというもの。だが、そうではない違和感が先生の中で渦巻いていた。
「”アロナ、彼女の経歴はやっぱりキラーマシン達に育てられたっていうだけなのかな”」
『そうですね…一度も学園に所属してないので連邦生徒会のデータベースにも存在しませんし、過去のデータを参照してますが、本人が偽ってなければ本当にその通りかと。ですが、私個人としても彼女は気になるので先生も目を光らせておいてください!』
「”そうだね…気にかけておくよ。おやすみ、アロナ”」
『今日はしっかり休むよう釘を刺されましたもんね!おやすみなさい、先生!』
数日後、先生はゲーム開発部の救援要請を受けミレニアムに向かうこととなる。
そして同日、キシリアはミレニアムに遊びに行く。