大盛り上がりの会場。十代と翔のタッグデュエルも終わり、最高潮を迎えている。
そんな会場とは反比例するかのように、俺の気持ちは凪だ。
「ひょっひょっひょ。じゃあ、僕が勝ったら君のカードは貰うよ?」
「……好きにしても構わない。勝てるならな」
「ひょ~っひょっひょ! 約束、忘れるんじゃないぞ!」
目の前にいるインセクター羽蛾に勝つ。ただそれだけを考えていた。
◇
事の発端は数時間前のこと。
「うわあああ!」
「な、なんだ今の悲鳴!?」
タッグデュエルの観戦に行くかなんて考えていたところ、突如として悲鳴が聞こえた。まだ平和な学園で何事かと思ったので急いで現場へと向かう。
現場にいたのはオシリスレッドの生徒と……羽蛾。俺の対戦相手が、なぜかこんなところにいた。
「それじゃあアンティルールだ。君のカードは貰っていくよ」
「っ、ダメだよ、返してくれよ!」
カードを奪い取り立ち去ろうとする羽蛾と、どこか様子のおかしいレッド生。自分のカードが奪い取られようとしているから当然かもしれないが、それにしたって様子がおかしい。
ただ、羽蛾はそんなこと知らないとばかりに足蹴にする。レッド生を文字通り蹴り飛ばしていた。
「うるさいなぁ。負けた君が悪いんだろ? 勝者が当然の権利を行使する、それの何が悪いんだ?」
「そ、そんなこと言ったって。そもそもそっちが無理やり勝負してきたんじゃないか!」
……んん? どういうことだ? さっぱり話が見えてこないぞ。
「ぼ、僕は嫌だって言ったのに、突然僕のデッキを奪い取って! 決闘しなきゃこのデッキは捨てるって言うから仕方なく……」
「そうは言ってもねぇ。最終的に受けたのは君じゃないか。これは正当な権利だ」
「だ、誰だってデッキが捨てられるのは嫌だろ!」
がっつり犯罪行為じゃねぇか。何してんだコイツ、しかもデュエルアカデミアで。学生相手にかつあげする元全国優勝者なんぞ見たくなかったわ俺も。
さすがに見過ごせないので間に割って入る。レッド生の肩を持つために。
「おい、いくらなんでもそれはないだろ。今の話、聞いてたぞ」
「……誰だい君は、って。僕の今日の対戦相手じゃないか」
「あ、ゆ、遊輝さん!」
座り込んでいるレッド生に肩を貸し、羽蛾を睨みつける。
「彼のカードを返してほしいのですが。無理やり勝負を挑んでアンティルールは、流石にやりすぎだと思いますよ」
「あのさぁ、さっきも言ったように結局は合意の下でやったんだ。だからなんの問題もないと思うけど?」
「あなたのやったことは脅迫だ。脅迫まがいのアンティ勝負を仕掛けておいて、そんな道理は通らない」
にらみ合う俺と羽蛾。向こうも退く様子はないらしく、このままでは埒が明かない。
「それにしても、アカデミア生も弱いねぇ。まるで相手にならないよ!」
「あ、あ、ぼ、僕のカード……!」
しかも、あろうことかアイツはレッド生のカードを踏みつけてやがった。到底許せる所業じゃない。
なので、とある提案をすることにした。
「分かりました。そちらにも言い分があるようですし、退く気はない。ただ、ちょうどよく俺とあなたは今日の対戦者だ。だからここで提案があります」
「ひゃひゃひゃ……察しはつくけどなんだい? 言ってごらんよ」
「今日の勝負で俺が勝ったら、彼のカードを返してください。それだけです」
被害に遭ったのはどうもこのレッド生だけ。なら、彼のカードを返してもらうだけで構わない。それ以上のことは求めるつもりはない。
この世界は決闘で全てが決まるといっても過言ではない。このまま進展のない押し問答を続けるくらいなら、決闘で決着をつけた方が有意義だ。
「……まぁいいだろう。君の提案、受けてあげるよ」
「ありがとうございます。俺が君のカードを取り戻す、もう少しだけ待っててくれ」
「あ、ありがとう遊輝くん……」
「ただし! 勿論僕にも条件をつけさせてもらうよ?」
こちらに指を突きつける羽蛾。なんとなく想像がつくのが嫌なところ。
「僕が勝ったら君のカード……ティアラメンツは僕が貰うよ」
「な!? そ、そんなの、つり合いが取れていないじゃないか!」
「ハァ? 元々僕は受ける義理はないんだぜ? それを受けてやるってんだから、これくらいはしてもらわないとねぇ」
なんという暴利だ。でもそう言うんじゃないかとは思ってたんだよなぁ。
(……ぶっちゃけ受けたくない。勝てばいいし勝てなかったら海馬社長に何されるか分からんから勝つしかないとはいえ、それでもティアラメンツをアンティに出すのは嫌だ)
こいつらは俺にとって特に思い入れのあるカードたち。そんな彼女達をアンティになんて出したくはない。ただ、出さないと彼のカードは返してもらえない。
苦渋の選択を迫られる。カードだけで十分だよ苦渋の選択は。
でも、最後には。
〈受けるのです、遊輝〉
「……キトカロス」
〈受けるのです遊輝。受けて、彼のカードを取り戻しなさい。我らのことならば大丈夫……我らは、貴方を信じていますから〉
毅然とした態度で、俺に微笑むキトカロスの後押しを受けて、アンティを受けることにした。
「……いいだろう。お前の提案を飲んでやる」
「そう来なくっちゃ! それじゃ、君のカードたちとお別れしておく準備をしておくことだね。ひょ~っひょっひょっひょ!」
「ほざけ。確実に勝つために潰してやる」
元々は烙印型を使う予定だったが、変更だ。アイツがなにをしてくるのか分からない以上、確実に勝てるデッキを使う。
この世界に転生してふと思いついたデッキ。あまりにも酷かったからこそ、使うまいと封印しようとしたティアラメンツの型を使うとしよう。
「ごめん、遊輝くん。僕のせいで、君に余計な負担をかけさせちゃって」
「気にしないでくれ。君の大切なカードを取り戻すためだ……よし、カードも無事だな」
この世界のカード頑丈だな。踏みつけられてたのに何も問題ないとばかりに輝いているぞ。
それはともかくとして。さぁ、虫退治の時間だ。
◇
そんな経緯があった俺と羽蛾の決闘。お互いにデッキを交換してシャッフルする。
「ひょっひょっひょ、愛しのデッキにお別れする時間はあったかな?」
「黙れ。俺が勝てば問題はない話だ」
「ひょ~っひょっひょ! 僕に勝てると思っているのか? 身の程を弁えたまえよ」
随分とでかい言葉で喋るがどんだけ自信があるんだよ。俺のデッキ、知らないわけじゃないだろうに。
デッキをカットしてもらって受け取る。ま、十中八九このシャッフルでなにか仕込んだんだろう。えらいゲスな笑いをしてるし。
(パラサイドでも仕込まれてんだろうな)
〈遊輝、変なカード入れられてるわよ! しかも、ちょうど上から6枚目に!〉
「構わない。アイツがなにをしようが無意味ということを教えてやる」
デュエルディスクにデッキをセット。
「朝比奈! その虫に身の程を分からせてやれ!」
なぜかいる海馬社長に激励? をもらい、羽蛾との決闘が始まる。
「所詮は学生。僕の足下にも及ばない!」
「……」
「「決闘(デュエル)!」」
インセクター羽蛾:LP4000
朝比奈遊輝:LP4000
決闘が始まる。
先攻は。
「君に先攻を譲ってあげるよ。僕は優しいからね」
「……いいのか? 俺に先攻を譲って」
俺になる。何を考えているのかは知らないが、羽蛾は変な笑い声をあげるだけだ。
〈何考えてるわけ? アイツ〉
〈……気持ち悪い〉
〈う~ん、よほど自信があるのかもしれませんね~。もっとも~〉
何を考えていようが関係はないが。
「もう一度聞く。本当に俺が先攻でいいんだな?」
〈マスター様を~、ここまでキレさせた時点で~、相手の命はないも同然ですが~〉
失礼な。命まで取る気はない。
「しつこいな。良いって言ってるだろ! 早くドローしろ!」
言われた通りにドローする。ドローしたカードは……寄生虫パラサイド。
(やっぱり、シャッフルで仕込まれたか)
「俺は手札からパラサイドの効果を発動。このカードを特殊召喚し、1000ポイントのダメージを受ける」
寄生虫パラサイド 地属性 レベル:4
昆虫族・通常モンスター
ATK/500 DEF/300
このカードが手札にある時強制的に場に出る。ライフを1000失う。
自軍のモンスターに寄生し、自分フィールド上に表側表示で存在するモンスターは全て昆虫族となる。
朝比奈遊輝:LP4000→3000
出てくるのはクッソきもい見た目のモンスター。ソリッドビジョンで反映されている分キモさ倍増だな。案の定女子生徒から悲鳴が上がってるし。
「ちょ、遊輝! お前そんなモンスターなんで入れてんだよ!?」
十代から信じられないような声が届くが俺も知らん。入れた覚えがないからな。
「知らねぇよ。勝手に入れられたとか仕込まれたんじゃねぇの?」
「おいおい、言いがかりはよしてくれよ。僕がやった証拠でもあるのか~い?」
「別にお前がやったなんて一言も言ってねぇけどな。俺はフィールド魔法ペルレイノを発動。発動時の効果処理でシェイレーンを手札に」
素直にパラサイドを出したが、なんの障害にもならん。手札を確認する。
・ティアラメンツ・シェイレーン
・天使の施し
・苦渋の選択
・処刑人-マキュラ
・ティアラメンツ・メイルゥ
・墓守の罠
デッキ 39
仕込まれたのはパラサイド1枚だけか。許容範囲内だな。
お前は気づかなかったのかとか思うかもしれないが、気づいてるに決まってる。てかシェイレーンたちが教えてくれるからな。
仕込ませたのはわざとだ。そうした方が、負けさせた時の屈辱も倍になる。今回ばかりは、礼儀を欠いた決闘になるだろう。
必殺のパーツは揃いつつある。始めるか。
「俺は手札から《天使の施し》を発動。デッキからカードを3枚ドローし、2枚捨てる」
今引いたカードは。
・ティアラメンツ・クシャトリラ
・強欲な壺
・現世と冥界の逆転
デッキ 39→36
あぁ、今こそ運命力に感謝しないといけないな。これほどまでに引きが良いとは。
「手札からメイルゥとクシャトリラを墓地に送る。この瞬間、メイルゥの効果をチェーン①、クシャトリラの効果をチェーン②で発動! デッキからカードを2枚墓地へ!」
・壱世壊=ペルレイノ
・壱世壊に奏でる哀唱
デッキ 36→34 墓地5枚
「メイルゥとクシャトリラをデッキに戻して融合召喚! 現れ出でよ、《ティアラメンツ・キトカロス》!」
〈遊輝。あの汚らわしい虫に鉄槌を下しましょう〉
キトカロスが召喚されたことによりパラサイドの効果が起動。キトカロスへと襲い掛かるが。
〈誰に向かって牙を突き立てようと? 消え失せなさい!〉
「ペルレイノの効果を発動。墓地のティアラメンツモンスターがデッキに戻ったことでフィールドのカード一枚を対象に取る。パラサイドを対象に。さらにキトカロスの効果とサリークの効果も発動だ」
パラサイドをキトカロスはなんかすごいビームみたいなもので蒸発させる。なんだそのビーム、初めて見たぞ。
「サリークの効果でレイノハートを手札に、キトカロスの効果でさっき戻したクシャトリラを手札に加える。最後にペルレイノの効果でパラサイドを破壊だ」
「な!?」
「ペルレイノの破壊効果は俺の場も対象に選べる。故にパラサイドの破壊も可能だ」
これでデッキは36枚。墓地のカードは4枚だ。まだまだ全然足りんが、ここから加速させる。
「俺は手札からシェイレーンの効果を発動! このカードを特殊召喚し、手札のモンスターを1枚捨てる」
〈さぁ、行くわよ遊輝!〉
「俺が捨てるのは《処刑人-マキュラ》。その後デッキからカードを3枚墓地に捨てる」
・古尖兵ケルベク
・ティアラメンツ・ハゥフニス
・宿神像ケルドウ
デッキ 36→33 墓地7枚
まだまだ、加速が足りねぇぞ!
「俺はキトカロス第2の効果を発動! キトカロスを対象に手札のレイノハートを特殊召喚、キトカロスを墓地に。そしてキトカロス第3の効果とレイノハートの召喚時効果を発動! デッキからシェイレーンを墓地に!」
「ち、大量墓地送りか……ま、好都合だけどね」
あくどい笑みを浮かべてんなおい。何を考えているのやら。
・宿神像ケルドウ
・古衛兵アギド
・古尖兵ケルベク
・強欲な壺
・ティアラメンツ・クシャトリラ
・ティアラメンツ・シェイレーン
デッキ33→27 墓地13枚
これで起動の条件は整いつつある。後もう少しだ。
「アギドとケルベクの効果を起動。お互いのプレイヤーはデッキからカードを5枚墓地に送る。合計10枚墓地に送ってもらおうか」
「ちっ、陰湿な手を」
デッキにカード仕込むお前に言われたくねぇよ。
・ティアラメンツ・ハゥフニス
・剣神官ムドラ
・古尖兵ケルベク
・古衛兵アギド
・ティアラメンツ・レイノハート
・壱世壊に渦巻く反響
・天使の施し
・壱世壊を劈く弦声
・天よりの宝札
・剣神官ムドラ
デッキ 27→17 墓地23枚
「さらに手札から《ティアラメンツ・クシャトリラ》の効果を発動。このカードを特殊召喚し、墓地のハゥフニスを除外する。特殊召喚に成功したことでさらにデッキから3枚墓地に送る」
・現世と冥界の逆転
・墓守の罠
・壱世壊に澄み渡る残響
デッキ 17→14 墓地22枚
「クライムの効果で除外状態のハゥフニスを手札に戻す。さて、準備は整ったか」
デッキが削れる度に笑っているが、何を考えているのやら。
「いいのかな遊輝くぅん。そんなにデッキを削っちゃって」
「……何が言いたい?」
「いやいやぁ、そんなに削っちゃうと心配になるんじゃないのかい……デッキ切れが」
あぁ、何を狙ってるのかと思えば。
「昆虫族にもいたな。俺のデッキを削るカード……ニードルワームだったか?」
ニードルワーム 地属性 レベル:2
昆虫族・効果モンスター・リバース
ATK/750 DEF/600
リバース:相手のデッキの上からカードを5枚墓地へ捨てる。
「あぁ、確かにいるね。それがどうか?」
「大方お前の狙いは俺のデッキ切れだろ。つーか、今の反応で確信したわ」
羽蛾は笑い出す。おかしくって仕方ないとばかりに。
「その通りさ! ティアラメンツは確かに墓地に落とせば効果が起動する……でも、デッキがなければ何の意味もない!」
その通りではある。たとえどんなに有利な盤面を作っていようが、デッキからカードを引けなくなったら負け。決闘の常識だ。
羽蛾の狙いは俺のデッキ切れ。目的が判明したことで、周りはかなりざわついている。
「た、確かに。ティアラメンツはその性質上、デッキからかなりの数を墓地に落とす。デッキの消耗も激しい」
「デッキからカードを引けなくなったら負け。シンプルすぎて気づきもしなかったっす!」
「……フン。奴がその程度で負けるタマか。それで勝てるんだったら苦労はせん」
三沢と翔はその手があったか、みたいな顔をしているが、万丈目は分かっているのだろう。その程度で勝てるわけがないと。評価されてるみたいで超嬉しい。
「ひょ~っひょっひょ! お前のデッキは残り何枚かな~? ん~?」
「14枚だ。墓地に落ちたカードは、少なく見積もっても15枚以上はあるだろうな」
「ひょひょひょのひょ~! これで僕の勝ちは決まったも同然だ! 君のティアラメンツは僕が貰うよ!」
そんなに手札がいいのかね。ま、せいぜい喜んでおけばいい。
──お前の敗北はすでに決定しているのだから。
「俺は墓地にあるムドラの効果を発動する。このカードが墓地にある時、このカードを除外して墓地にあるカードを5枚までデッキに戻すことができる」
剣神官ムドラ 地属性 レベル:4
天使族・効果モンスター
ATK/1500 DEF/1800
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:手札から他の天使族・地属性モンスター1体を捨てて発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。その後、デッキから「墓守の罠」1枚を選んで自分の魔法&罠ゾーンに表側表示で置く事ができる。
②:自分・相手ターンに、フィールド・墓地のこのカードを除外し、自分・相手の墓地のカードを合計5枚まで対象として発動できる。そのカードをデッキに戻す。自分のフィールド及び墓地に「現世と冥界の逆転」が存在しない場合、この効果の対象は3枚までとなる。
「おいおい、悪あがきのデッキ回復か? まぁ構わないけど」
「俺はお前の墓地のカード5枚をデッキに戻す……これとこれとこれ、これとこれでいいか。ほら、さっさとデッキに戻せ」
「ひょ?」
俺が戻すのは自分のカードじゃない、羽蛾のカードだ。ケルベクとアギドの効果で墓地に送ったからな。てか選ぶ必要ないじゃん。どうせ全部戻すんだから。
これには周りもざわつく。
「おい、何やってんだ遊輝のやつ!」
「相手の狙いは分かってるんだぞー! 自分のカード戻せよー!」
「デッキ破壊されちゃうわー!」
盛り上がってきたところで、もう一度発動するか。
「俺はさらにケルドウの効果を発動。このカードもムドラと同じ効果だ。このカードを除外し、お前の墓地のカードを5枚デッキに戻す」
宿神像ケルドウ 地属性 レベル:4
天使族・効果モンスター
ATK/1200 DEF/1600
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:手札から他の天使族・地属性モンスター1体を捨てて発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。その後、デッキから「現世と冥界の逆転」またはそのカード名が記されたカード1枚を手札に加える。
②:自分・相手ターンに、フィールド・墓地のこのカードを除外し、自分・相手の墓地のカードを合計5枚まで対象として発動できる。そのカードをデッキに戻す。自分のフィールド及び墓地に「現世と冥界の逆転」が存在しない場合、この効果の対象は3枚までとなる。
「ふん、気でも狂ったのか!」
「フゥン、朝比奈の狙いに気づかない時点で、貴様の格はその程度だインセクター羽蛾。貴様がプロなど片腹痛いわ!」
海馬社長の言葉。ちなみにインセクター羽蛾は社長に対して俺が提供した新カードを寄越せと脅したらしい。命知らずかよ。そして社長は俺に勝てたらくれてやるといったらしい。なんで俺を巻き込むんだよ。
これで相手の墓地は0枚。手札誘発なんかもないようだし、詰めに入ろう。
「インセクター羽蛾。お前は3つ、大きな見落としをした」
「ひょ?」
「1つ。なぜ俺が融合をしなかったのか」
墓地にティアラメンツのカードは落ちている。だが俺は融合をあえてしなかった。
「2つ。このデッキを使っていながら、俺がデッキ破壊の対策を怠ると思っているのか?」
これに関しちゃデッキ破壊される前に勝負決めるからあんまり関係ないんだけどな。
「3つ。俺が墓地に落としたカードを確認しておくべきだった。だからお前は俺の狙いに気づかない」
少なくとも墓地を確認すれば、俺の狙いには気づけたはずだ。だがそれをしなかった。現在進行形で舐めている証拠だ。
「ふん、負け惜しみを言う暇があったらさっさと進行しろ! どうせお前の負けで決まりなんだから!」
「そうか。なら……チェックメイトだ」
手札からあるカードを発動する。そのカードは。
「俺は《現世と冥界の逆転》を発動!」
「ッそうか、その手があったか!」
「……忌々しいカードだ」
三沢の驚愕した声。海馬社長は苦い記憶を思い出してか怒りがにじみ出ている。すんません本当に。
「……ひょ~っひょっひょ! お前、負けが確定してバカになったのか? 罠カードは伏せなきゃ使えないぞ!」
「バカはテメェだ虫野郎。俺がシェイレーンの効果で何を墓地に送ったのか忘れたのか?」
「……あっ!?」
思い出したのだろう。俺が墓地に送ったカードを。
「俺が墓地に送ったのはマキュラだ」
現世と冥界の逆転も処刑人-マキュラも、OCGではエラッタされたカードだ。だからこそ、あまり採用されることはない。採用されても大概がロマンコンボのパーツだ。
しかしここはエラッタ前。凶悪な効果を内蔵したまま、使用することができる。
さぁお見せしよう。これが、この世界における凶悪なティアラメンツデッキ!
処刑人-マキュラ 闇属性 レベル:4
戦士族・効果モンスター
ATK/1600 DEF/1200
このカードが墓地へ送られたターン、このカードの持ち主は手札から罠カードを発動する事ができる。
現世と冥界の逆転
罠カード
自分の墓地にカードが15枚以上ある時、1000ライフを払い発動。お互いに自分の墓地と自分のデッキのカードを全て入れ替える。その際、墓地のカードはシャッフルしてデッキゾーンにセットする。
朝比奈遊輝:LP3000→2000
マキュラは言わずもがな、墓地に落ちた瞬間効果が適用される。チェーンブロックを作らない、このターンのみ手札からも罠を使える効果。現世と冥界の逆転は、自分の墓地にさえ15枚あれば発動可能の凶悪カード。
これがなにを意味するか?
「俺はデッキの残り14枚を墓地に送り、墓地のカードをデッキに戻す。お前は……0枚の様だな」
「あ、あ、あ……!」
羽蛾のデッキは0枚になる。そう、この瞬間──俺の勝利が確定した。ついでにデッキも回復した。
「お前は気づくべきだったんだ。なぜ俺がムドラとケルドウの効果をお前に使ったのか、疑問に思うべきだった」
「な、な、な」
「相手に有利になるようなことをすると思うか? するわけねぇだろうが。少し考えれば分かることだぞ」
皮肉を込めて忠告する。なぜこんな状況になったのかを。
観客席では三沢が解説をしていた。
「ティアラメンツは性質上デッキからカードを大量に落とす。そのギミックを利用することで、本来は後半に使用するはずの現世と冥界の逆転を発動したんだ」
「しかも先攻。妨害なんてできっこねぇ!」
「20枚も落とせば、処刑人-マキュラは高確率で落ちる。そうすれば、手札に抱えた現世と冥界の逆転を発動できる。なんて恐ろしいコンボなんだ……!」
「先攻ワンターンキル。フゥン、恐ろしいデッキだ」
融合をしなかったのもこのためだ。墓地にあった方が都合がいいから。ケルベクとアギドの効果で墓地に送られるのは10枚、ムドラとケルドウでデッキに戻せるのも丁度10枚。決めるには十分だ。
「お前の過ちは3つだ。インセクター羽蛾」
指を1つ立てる。
「俺に先攻を譲ったこと」
2本目を立てる。
「俺の行動に逐一疑問を持たなかったこと」
そして3本目。最も重要なこと。
「最後に……俺を怒らせたことだ!」
俺が一番怒っているのは、レッド生のカードをぞんざいに扱ったこと。決闘者の風上にも置けねぇ!
「俺はこれでターンエンド。さぁ、デッキからカードをドローしろ」
「あ、あ、あ……」
「ドローできないようだな。なら、俺の勝ちだ」
インセクター羽蛾:デッキ切れにより強制敗北
こうして俺の先攻ワンターンキルが決まった。
静まりかえった会場に、海馬社長の高笑いが響く。
「ワーッハッハッハ! よくやったぞ朝比奈!」
「はいはい、これでいいんですよね? 社長」
「あぁ、何の問題もない。むしろ期待以上の成果を見せてくれた! 褒美をくれてやる」
褒美は後日振り込まれる予定。やったぜ。
さて、項垂れている羽蛾のデッキを確認して……お、あった。
「約束は約束だ。彼のカードは返してもらう」
「……」
「対戦、ありがとうございました」
反応すらしないか。ま、あんだけの口を叩いて先攻ワンターンキルされたんだからな。こうもなろう。
ついでに手札を確認しておくか。え~っと……ニードルワームとかレインボーライフとかあるな。もしかして耐久しようって考えてたのか?
(俺のデッキが切れるまで耐える、ねぇ。できたらよかったな)
もっとも、耐えれるとは思わんが。
帰るか。そう思った時。
「すっげぇ、すっげぇぜ遊輝! まさか、先攻ワンターンキルを決めちまうなんてよ!」
「あんなコンボ、凄すぎっす!」
「なぁ、今度俺と一緒に語らないか? 君の理論を聞かせてくれ!」
「分かった、分かったからそんなに詰め寄るなって」
みんなが俺の勝利を祝福してくれた。万丈目も輪に加わりこそしなかったが。
「さすがだ」
そう一言褒めてくれた。やっば、原作キャラに褒められるの超嬉しい。
こうして社長によって仕組まれた決闘は終わった。インセクター羽蛾のその後? 知らない。
このデッキの何が酷いか?相手は初手でアトラクターがなければほぼ負けが確定するところ、ですかねぇ(手札次第ではうららも貫通、わらしも貫通する)
ちなみにこれでネタのストックが切れました。