願いの物語シリーズ【エレメンタル】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第2話『俺は風間理仁(かざま りひと)だ』

帰り道の公園で変な男の人を拾った次の日。

 

私は久しぶりの徹夜で、イマイチ働かない頭を何とか動かしながら朝ごはんの準備をしていた。

 

風香さんは深夜に眠ったらしく、まだ夢の中に居る様だった。

 

オーナーに勧められて、3LDKの部屋を借りたのだけれど、意外な所で役に立ったみたいだ。

 

まぁ、そのせいというか。そのお陰というか。風香さんもちょくちょく泊まりに来るのだけれど。

 

それは良い。むしろ嬉しい話だ。

 

風香さんは良い人だし。なんかお姉ちゃんが出来たみたいで嬉しいのだ。

 

頼りになるし。まぁ、駄目な所もあるけれど、そういう所も可愛く思える。

 

私は長ネギを切りながら、鼻歌などを歌っていたのだが、ふとあの男の人が寝ている部屋の扉が開き、まだふらついている男の人が出てきた。

 

そしてフラフラとした体でこちらへ歩み寄る。

 

そんな様子に私はとりあえず包丁を置いて、男の人の所へ向かうのだった。

 

「まだ寝てないと駄目ですよ」

 

「……ここは?」

 

「私の家ですよ」

 

「アンタは」

 

「高垣麻衣ですけど」

 

「誰だ?」

 

「レストラン『夕焼けの里』で働いてる店員ですね」

 

「……夕焼けの里。って昨日行った店の店員か。俺に何の用だ」

 

「何の用って。貴方が雪の降ってる公園で倒れてたから家まで運んだんですよ」

 

「……何が目的だ」

 

「目的? まぁ、目的っていうのなら、さっさと元気になって出てって下さい」

 

「……意味が分からん」

 

「こんな話も分からないなら重症ですよ。ほら、さっさと寝る。お腹すいたんなら、後でご飯持っていきますから」

 

「待て! 何なんだお前は」

 

「いや、さっき言ったじゃないですか。夕焼けの里の、高垣麻衣ですって。大分熱があるみたいですね。寝た方が良いと思いますよ」

 

「お前は、寝たいのか?」

 

「いや、まぁ昨晩は徹夜だったので、寝たい気持ちはありますけど。とりあえず朝ごはんの準備をしてからですね。後、貴方のご飯も用意しないと。あー。でも薬局が開いたら薬とか買いに行かないとですね。という訳なので、私も速く寝たいので、布団に戻って下さい」

 

「……意味が分からない」

 

「それだけ熱があるって事です。ほら。さっさと布団に行く!」

 

私は呆然としている男の人を追いやって、布団に寝かせた。

 

まだ話足りないのか寝ている男の人に手を掴まれ、私は朝ごはんの準備に戻れない。

 

「俺の、服は」

 

「そこに掛けてますよ」

 

「脱がしたのか」

 

「まぁ、寝にくいでしょうし。寒かったですか? 一応部屋は暖かくしておいたんですけど」

 

「いや……ちょうどいい」

 

「そうですか。なら良かったです。じゃあ私はそろそろ戻りますので」

 

「ちょっと待て」

 

「……何ですか」

 

「お前、俺の事を知ってるか?」

 

「いや、昨日店に来たお客様ですよね。分かりますよ。流石に。同じ服着てましたし。声も同じですし。大きさも同じですし」

 

「俺は冬風間理仁(かざま りひと)だ」

 

「はぁ。そうですか。私はさっきも言いましたけど。高垣麻衣です。はい。それで終わりですか?」

 

「……あ、あぁ」

 

「そうですか。じゃあ私は朝ごはんの準備がありますので、失礼しますね」

 

「ま、待て!」

 

私は立ち上がろうとして風間さんに引っ張られた。

 

思いのほか力が強くて私はよろけてしまう。

 

そして風間さんの顔が何故か私に近づいてきて……私は風間さんの額に自分の頭をぶつけていた。

 

「ぐおおおぉぉおおお!!」

 

「いだぁぁああああ!! 何するんですか!? 何か気に入らない事でもあるんですか!?」

 

「いや、キスしようとして」

 

「キスぅ!? はぁ!? いや、貴方風邪引いてるんですよ!? 私にうつしたら、誰が貴方の看病するんですか!? バカなんですか!? ……いや、熱があるんでした。今の発言は失言でした。ごめんなさい」

 

「いや」

 

「もう。判断力が落ちてるんだから。さっさと寝て下さい!」

 

「さ、最後に、一つだけ。聞かせてくれ」

 

「はいはい。なんですか。これで最後ですよ。寝ないと治るものも治らないですよ!」

 

「俺、格好良いか?」

 

「……」

 

よほど熱が高いらしい。可哀想に。

 

私は同情する気持ちが湧き上がるのを感じながら、風間さんを見る。

 

まぁ、よく分からない。

 

「格好いいと思いますよ」

 

「そうか。そうだよな。うん」

 

「満足しましたか? じゃあ私は行きますよ」

 

「待ってくれ」

 

いや、さっき最後って言ったでしょ。

 

と思いつつも、私はまた風間さんの横に移動する。

 

「なんですか?」

 

「抱きしめても良いか?」

 

「嫌です」

 

寂しいのか何なのか知らないけど、大人なのだから少しは我慢してもらいたい。

 

メンドクサイ人だなぁ。まったく。

 

私は立ち上がり、部屋から出ていこうと扉に手を掛けた。

 

ベッドからはまだうめき声を上げながら起き上がろうとしている風間さんが居る。

 

「お、お前、面白い女……だな」

 

「アホ言ってないで、さっさと寝て下さい!」

 

私は部屋の外に出て扉を閉める。

 

何を考えているのだろうか。いや、そうか熱があるんだった。まともに思考出来ないんだった。

 

しょうがない。

 

父や母の様に交互にごちゃごちゃ言ってこないだけまだマシだ。

 

私は溜息を吐きながら、手早く準備をしようと台所へ戻るのだった。

 

それから。

 

風間さんは大人しくなり、私は順調に朝ごはんの準備を終えた。

 

そして風間さんが食べられる様におかゆを作って、持っていく。

 

風間さんは私が入ると、上半身を起こして、ごちゃごちゃとまだ喋っていたが、とりあえず黙らせようと、適温にしたおかゆを口に突っ込んだ。

 

口を開き余計な言葉を出そうとする度に、逆におかゆを詰め込んでゆく。

 

そんなことを繰り返して、おかゆをある程度食べ終わった所で、コップを渡し、水を飲むように言ってから、既にぬるくなっていた濡れタオルを再び冷たくして、額に押し付けつつ、ベッドにまた寝かせる。

 

そして、私は薬を買うべく家を出る事にした。

 

「じゃあ。私は薬買いに行ってきますから。寝ててくださいよ」

 

「……あぁ」

 

それからなるべく早く薬局へと向かい、風邪薬を買ってから、戻ってきて、薬を飲ませた。

 

後は良くなるまで、繰り返すだけだ。

 

穏やかに眠っている風間さんに安心し、私は少しだけ仮眠する事にした。

 

リビングのソファーに横になって、クッションを抱きしめる。

 

部屋の中はちょうどいい温度で、私はすぐに眠りの世界へと向かうのだった。

 

 

 

夢の世界。

 

私はわたあめのクッションの上で飛び跳ねながら、その上で大の字になり、空から降りてくる太陽の光を全身に浴びていた。

 

心地よい。甘い空気が私を笑顔にしてくれる。

 

この世界はまさに天国だ。

 

そして、綿あめのクッションを滑り降りて、近くにあるお菓子の家に入り、カップを用意する。

 

ここで用意するのは、ストレートの紅茶だ。これから甘い物を食べるのだから、紅茶は甘くない方がバランスが良いだろう。

 

んー。素敵な組み合わせだ。

 

私は今日のおやつはクッキーにしようと立ち上がろうとして……強い衝撃に、夢の世界から現実の世界へと無理矢理引き戻された。

 

「っ!? な、なに!?」

 

驚きキョロキョロと周りを見ると、どうやら寝ぼけてソファーから落ちてしまったらしい。

 

眠りに入ってから三時間くらい。

 

十分眠れたなと思いながら、起き上がり、風香さんの様子を見に行ったが、どうやらまだ夢の世界に居る様だった。

 

起こさなくて良かったと安堵しつつ、今度は風間さんの部屋に行くと、どうやら風間さんは起きている様だった。

 

そして、誰かと電話をしている。

 

「……分かってるよ。本当だって。マジで風邪引いてんだよ。そう。そう! 嘘じゃないって言ってんだろ」

 

『ーー!! ーー!?』

 

電話の向こうの人と口論している様だった。

 

仕事の電話だろうか。

 

「とにかく! そういう事だから! 今日は行けない! じゃあな!」

 

風間さんは怒りのままに電話を切り、溜息を吐いた。

 

そして私が居る事に気づくと、申し訳なさそうに謝る。

 

「騒いで悪かったな」

 

「いえ。何か大事な用事ですか?」

 

「あぁ。まぁ仕事の連絡」

 

「そうですか」

 

「聞かないのか?」

 

「まぁ。あまり興味が無いので」

 

そう言うと、風間さんは上半身を起こしたまま座り直した。

 

「俺はな。アイドルをやってるんだ」

 

「そうですか」

 

「グループ名はエレメンタルっていうんだ」

 

「はぁ」

 

「そして俺は風間理仁だ」

 

「朝聞きましたよ」

 

話をしていると、何故か風間さんは落ち込み項垂れてしまった。

 

忙しい人だな。

 

疲れてるんだから、寝てれば良いのに。

 

「俺は! あの人気グループの!」

 

「分かりました。分かりましたから。調べておきますから、今は寝て下さい」

 

「くっ、こんな屈辱は初めてだ」

 

「まったく。体力が有り余ってる人は大変ですね」

 

また布団の中に無理矢理叩きこみ、私は部屋から出て、彼が言っていたエレメンタルというアイドルについて調べる事にするのだった。

 

あまり興味は無いけれど。

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