願いの物語シリーズ【エレメンタル】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第8話『許さなくても良いから。忘れる事だけは止めて欲しい』

男の人に襲われそうになった日から数日が経過。

 

私はと言えば、誰もが寝静まった深夜にコソコソと自室を抜け出す準備をしていた。

 

着替えを入れたバッグを持ち、玄関で待っていた風間さんに無言で合図をする。

 

そしてフードを被って、顔を隠し、風間さんと一緒に外へ静かに出て階段を降りていこうとして……。

 

「バッグ貰うよ」

 

「あ」

 

「急ぐからね」

 

静かに階段を下りてゆく風間さんにバッグを持ってもらい、一階まで向かう。

 

そのままロビーを抜けて駐車場へ向かおうとしたのだが、マンションの向こう側にある道路に止まっていた車から人が飛び出してきたのが見えた。

 

それを見た風間さんは私の手を握り、車の所へ走る。

 

鍵を開けて貰った車の後部に乗り、顔を隠す様に風間さんに言われ、私はフードを掴みながらシートにうつ伏せになった。

 

「出すよ!」

 

「風間さん!? エレメンタルの風間さんですよね!? お話を!」

 

ドアの向こうから誰かの声が聞こえたけど、風間さんは気にした様子も見せず、車を急発進させて道路に飛び出した。

 

そしてその勢いのまま車を走らせて行く。

 

結構走らせてから、風間さんが話しかけてきた。

 

「もう顔を上げても大丈夫だよ」

 

「……はい。あの人たちは」

 

「こっちには追い付けないよ。ただ、俺の地元とかは待ち伏せされてそうだし。当初の予定通り火野坂の実家に行こうか。そこで麻衣ちゃんを降ろしたら、俺はそのまま別の場所に行くから少しは散らせると思う。海斗も競馬場でスキャンダルを起こして注目を集めてくれるみたいだし。リーダーも大々的に海斗の謝罪会見を開いてくれるみたいだ。上手くいけば謹慎中の琉生のところが一番手薄になる」

 

「ここまでしていただいて、ありがとうございます」

 

「いや。完全にこっちのせいだからね。むしろ申し訳なく思うよ」

 

「それでも。前に助けていただいた事もありましたし。何かお礼をさせて下さい」

 

「あー。ならさ。今度デートしてよ。結局出来なかったからさ……なんて」

 

「はい。わかりました」

 

「え!? 本当に良いの!?」

 

「はい。私で良ければ」

 

「そっか。なんかごめんね。弱みに付け込んだみたいでさ」

 

「いえ。以前約束していましたし。私も楽しみにはしていましたから」

 

私は後部座席でシートベルトをしながら、風間さんに話しかけた。

 

そして、いつもの様な気軽な話をしながら窓の外を流れていく景色を眺める。

 

かつて都内に来るときは電車で移動した景色を今度は車で進んでいく。

 

そのまま車は地上の道路から高速道路に入り、ビュンビュンと速度を上げて走って行った。

 

「琉生の地元は結構遠いから眠いなら寝ちゃいな」

 

「いえ。運転していただいているのに私だけ寝るのは申し訳ないので」

 

「そう? 悪いね」

 

「あ。途中に休憩所はありますか? あるなら寄って欲しいんですが」

 

「うん。すぐそこにあるから行くね」

 

そう言いながら風間さんは車をサービスエリアという場所に止めてくれた。

 

私はそこで飲み物を二つ買い、助手席に座らせてもらった。

 

「さぁ、どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

「あ。飲み物はここに置いてね」

 

「持ってなくても良いんですか。じゃあ助手席に座らなくても良かったですね」

 

「ん? どういう事?」

 

「あ。いえ。飲み物を飲めなくて大変かなと、持ってる係をやろうと思っていたのですが。これなら後ろに座った方が邪魔じゃないですかね」

 

「いやいや。気にしないで。話をするなら横の方が楽だからさ。嫌じゃ無いなら助手席に座っててよ」

 

「そういう事なら、お邪魔しますね」

 

私は後ろよりも視界の広い助手席に座って、先ほどよりも明るい風間さんと様々な話をした。

 

風間さんは思っていたよりも話しやすくて、思わず話すつもりではなかった事も話してしまった。

 

車の心地よさが口を滑らせたのかもしれない。

 

「本当に夕焼けの里の人たちの事が好きなんだね」

 

「はい。都内に出てきて、どうすれば良いか困ってた私に手を差し伸べてくれて、相談にも乗ってくれて。本当の家族みたいに思ってるんです」

 

「そうなんだ。でも本当の家族も地元にはいるんだろう?」

 

「本当の家族なんて居ませんよ。ただ血の繋がった他人が居るだけです」

 

「……そんなに?」

 

「えぇ。私にとっては、そうですね」

 

「その理由を聞いても良いかな? もし、嫌なら言わなくても良いんだけど」

 

「別に大した理由じゃ無いですよ。ただ母も父も兄を優先して私をただの同居人みたいにしか思ってなかった、ってだけですよ。私はあの家じゃお手伝いさんみたいな感じでしたし。愛された思い出も、何かして貰った事も無いです。勿論ここまで大きくなれたのだから、それを感謝しろと言われれば、しなければいけないんでしょうけどね。でも私はあの家で、ずっと一人だったんですよ。だからあの人達の事を家族だなんて、思いたくもないんです」

 

「そっか。血が繋がってても、そういう事はあるんだね」

 

「風間さんも……家族と何かあったんですか?」

 

一瞬風間さんがこっちに視線をチラッと向けた。

 

そしてすぐに前を向いて運転を継続しながら、小さく呟く。

 

「聞きたい?」

 

「差支えが無ければ」

 

「そっか。うん。こんな話をするのは麻衣ちゃんが初めてだから、ちょっと緊張するな」

 

「……」

 

「実はさ。俺って捨て子なんだよね。秋の中頃にさ、小さな町の教会の前に捨てられてたんだ。そこのシスターさんに育てて貰えたから今日まで生きてくる事が出来たけどね。ずっと考えてたんだ。本当の父と母が居ればもっと違う人生があったんじゃないかって、考えても無駄だって分かってるんだけどね。だから、かな。麻衣ちゃんの話を聞いて不思議な気持ちだ。全然違う生き方なのにね。初めて会った時から他人みたいな感じがしなかったけど、なんか納得した様な気持ちだよ」

 

「……そうですね」

 

なんて。殆ど意味のない言葉を返し、車内はすっかり静かになってしまった。

 

風間さんは先ほどまでとは違って、楽しげな雰囲気から恐ろしくなる様な冷たい雰囲気になっていた。

 

そして、運転も気のせいか先ほどよりも荒いものになっている。

 

それが何だか怖く感じるのだけれど、それでも何かを喋る事は出来なかった。

 

しかし、私が何も話せずにいても、車は荒々しく高速道路を進んでゆき、やがてある場所で出口に向かって行った。

 

でも、その場所は最初に聞いていた場所とは違う場所で、車とか道路に詳しくない私には、それが正しいのか間違っているのか分からない。

 

だからそれを指摘する事も出来ずにいた。

 

そんな私の気持ちを置き去りにして車は山道に向かって走りだし、やがて人気のない山の中腹辺りにある駐車場に止まった。

 

周りには車が一台も止まっておらず、私達以外には誰も居ない場所だ。

 

当然の様に民家は見つからず、ここには私と風間さん以外は誰も居ない様に思える。

 

「……風間、さん?」

 

「例えばさ」

 

「っ」

 

「このまま誰も居ない場所に行くっていうのは、どうかな」

 

「どう、と言われても……その」

 

「俺達なら良い家族になれると思わない?」

 

「まだ、分かりません。風間さんの事、私、そんなに知らないので」

 

「これから知っていけばいい」

 

「どうして私なんですか?」

 

「何でだろうね。自分でもよく分からない。でも、君が良いって思ったんだ。麻衣ちゃんはどう? 俺に運命を感じてない?」

 

「私は、分からないです」

 

「そっか。じゃあ分かって貰うっていうのも、アリかな」

 

風間さんは私をジッと見つめて、手を伸ばしてきた。

 

私は思わずそれを振り払ってしまったけど、風間さんは怒る事なく大丈夫だからと言葉を繰り返す。

 

「これでもさ。経験だけは多いから、麻衣ちゃんが初めてでも、大丈夫だよ。初めてが車の中ってのは申し訳ないけど。後悔はさせないよ」

 

「……っ! そういう話じゃないです! 子供が出来たら、どうするんですか!?」

 

「出来ないよ」

 

「え?」

 

「俺、そういう病気なの。まぁ、それでも一応出来る可能性はあるみたいだけど。出来たら、本当の運命じゃないかな。子供が出来るなら、本当の家族になれる」

 

「か、ざまさん! 離して!」

 

私は思わず風間さんの頬を勢いよく引っぱたいてしまった。

 

それで、風間さんはまるで正気に戻ったみたいに、茫然と私を見ていた。

 

「私は! 風間さんの事を大切なお友達だと思ってます。こんな事をしなくても、私は急に居なくなったりはしません!! だから、そんな迷子の子供みたいにならないで下さい」

 

「……ごめん」

 

風間さんは運転席に体を戻して、ハンドルに頭をつけた。

 

そして、絞り出すように謝罪を口にして、また無言になってしまった。

 

「風間さん。疲れてたんですよ。忘れましょう。私なんかじゃなくて、風間さんの事を分かってくれる人はちゃんと居ますよ」

 

「俺は! そんな……いや、今は何言っても言い訳だね。ごめん。本当に」

 

「……」

 

「今度こそちゃんと送るから。今日の事は忘れないで。許さなくても良いから。忘れる事だけは止めて欲しい。酷い我儘だとは、思うけど」

 

「……分かりました」

 

私は無言のまま窓の外を見た。

 

そして、風間さんはここに来た時とは違い、ゆっくりと車を発進させると、また高速に乗って目的地を目指して走り始めるのだった。

 

それから私は火野坂さんの所に行くまで風間さんと何も話が出来ないままだった。

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