願いの物語シリーズ【エレメンタル】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第9話『琉生にエレメンタルをまたやりたいって言わせて欲しい』

長い距離を走って、私たちは火野坂さんの地元だという町に来ていた。

 

地図上で言えば、私の生まれた場所とは遠く離れているが、私の生まれた場所と同じく山の中にある様な町であった。

 

でも、こっちの方が何となく寒い様な気がする。

 

北にあるからだろうか?

 

しかし、何となく車から窓の外を流れる風景を見ていると、そこまで大きな違いはない様に思える。

 

「そろそろだね。この通りの向こうに見えるあの大きな建物が、琉生の家だ」

 

「風間さん」

 

「何かな」

 

「一つ疑問があるんですが、どうして火野坂さんの地元に来たんでしょうか?」

 

「そう、だね」

 

風間さんは微かに迷ったような空気を纏いながら、火野坂さんの家近くで車を路肩に止めて、私の方を見る。

 

それは少し前、山の中で行われた事と同じような物であったが、あの時の様な空気は感じなかった。

 

「一つは今回の事件が迂闊な琉生の発言から起こってるって事だ」

 

「……」

 

「そしてもう一つ。これは俺たちの勝手な願いなんだが、まだエレメンタルを続けていたいんだよ」

 

その風間さんの言葉で、私は火野坂さんがエレメンタルを辞めるという発言をしてしまった事を思い出していた。

 

本来であれば、私の件も含めて『種類は違うけど、いつもの炎上』で終わるはずだった事件が大事件へと発展してしまったのだ。

 

土屋さんが言うにはネット上は阿鼻叫喚の地獄絵図になっているという。

 

「だからさ。我儘ついでで申し訳ないんだけど、麻衣ちゃんには琉生の説得をお願いしたい」

 

「説得。ですか?」

 

「そう。説得。琉生にエレメンタルをまたやりたいって言わせて欲しい」

 

「でも、難しいですよ」

 

「だろうね。俺たちがいつも起こしている様なトラブルじゃない。今回の琉生は本気だ。本気でファンを憎んでて、本気で芸能界なんて、アイドルなんて辞めてやるって思ってる。でもさ。この何か月か琉生の近くにいた麻衣ちゃんなら、分かってるでしょ? アイツは本気でアイドルを辞めたい訳じゃないって事」

 

「……はい」

 

「勢いのままに発してしまった言葉のしまいどころが見つからないだけなんだ。でも、ファンの声じゃ駄目だ。俺たちの声でも駄目だ。琉生を、アイドルでもなく、エレメンタルの火野坂琉生でもなく、ただの一人の人間として見てくれる。麻衣ちゃんじゃないと、届かない。だから、頼む」

 

「風間さん」

 

「図々しい願いを言っているのは分かる。君に酷い事をした俺が言うのかって気持ちも分かる。それでも、だ!」

 

私は車の中で必死に頭を下げる風間さんを見て、胸の奥に湧き上がる気持ちに目を向ける。

 

そして、それを掴む為に、風間さんへ一つ質問をしてみる事にした。

 

「一つ。聞いても良いですか?」

 

「あぁ、何でも聞いてくれ」

 

「では遠慮なく。あの山で、私に言っていた言葉。『このまま誰も居ない場所に行こう』っていうのは、どういう意味ですか? エレメンタルを辞めて二人で何処か遠くへ行きたいっていう気持ちだったのですか?」

 

「いや……それは、その。なんと言うか。くっ……! 君を、独り占めにしたかったんだ!!」

 

「……はぁ?」

 

「エレメンタルは勿論続けていくつもりだった。でも、それはそれとして、君を誰も知らない場所に連れて行って、俺だけの物にしたかったんだ。って、我ながら酷い事を言ってるな」

 

「はぁ。そうですね」

 

呆れたような溜息を吐きながら、私は目を閉じる。

 

私には全てを捨てる様に言いながら、自分は大切な物を何も手放さずにいたいだなんて……本当に我儘な人。

 

でも、それだけエレメンタルという繋がりが、絆が大事なんだという事も何となくわかる。

 

血の繋がった家族がおらず、信頼できる人も殆ど居ない中で、ずっと一緒に戦ってきた仲間が、それだけ大事なんだろう。

 

運命だなんだと私に言っておいて、これだ。

 

まったく。しょうがない人だなぁ。

 

「でも、私も同じですね」

 

「麻衣ちゃん?」

 

「分かりました。私がどれだけ力になれるか分かりませんが、この高垣麻衣。誠心誠意。全力で火野坂さんの説得に務めさせていただきます」

 

「っ! ありがとう! ありがとう!! 麻衣ちゃん!!」

 

私の手を握りながら、首が取れそうな勢いで頭を下げる風間さんの手を外し、私は後ろからバッグを取って、車のドアを開けた。

 

そして、風間さんに笑いかけながらお礼を言う。

 

「ここまでありがとうございました。助かりました」

 

「いや、構わないよ。じゃあ、気を付けて」

 

「はい。理仁さんも」

 

「あぁ。って!? 麻衣ちゃん!? 今、俺の名前!!? 麻衣ちゃ」

 

私は勢いよく扉を閉めて、バッグを肩に掛けながら、火野坂さんの家に向かう。

 

話は既に通っているのか、門の前にはそれなりに年を取った男の人と、女の人が立っており、私の方を見ていた。

 

覚悟を決めよう。

 

もしかしたら火野坂さんの事で怒られてしまうかもしれないけど、それでも、火野坂さんをエレメンタルに戻す為に説得すると風間さんと、理仁さんと約束したんだ。

 

「こんにちは。私、火野坂琉生さんのお友達で、高垣麻衣といいます。本日は、お友達に、会いに来ました」

 

気合を入れて、火野坂さんの関係者と思われる二人に突撃した私だったが、あれよあれよという間に、気が付いたら火野坂さんの家の中に入れられ、客間でお茶を飲みながら、火野坂さんとの関係なんかを話していた。

 

いったい何が起きたのか。当事者である私にもサッパリ分からない。

 

「そう。話してくれてありがとう。麻衣さん」

 

「い、いえ」

 

「麻衣さんは本当に琉生の事を大切に想ってくれているのね。わざわざこんな場所まで来ていただけるなんて」

 

「あ、いや。私も、ちょっと追われている身でしたので、ちょうど良かったといいますか」

 

「それでも、ホテルに逃げるなり、実家の方に戻られるなり、行く場所はどこでもあったはずよ。それでも貴女がここに来てくれたのは琉生の事が心配だったからでしょう?」

 

火野坂さんのお母さんが発した言葉が、私の胸に刺さる。

 

確かに、そうだ。

 

理仁さんに火野坂さんの家に行くと言われた時、あの日以来会えていなかった火野坂さんが心配で、無事を確認出来る事が嬉しかったと思う。

 

だから、私はきっとそうなのだろう。

 

「麻衣さん。不躾な願いではあるが、どうか頼みを聞いてくれないだろうか。自分の世界に閉じこもってしまった琉生を、外に出す手伝いをして欲しい」

 

「……分かりました。私に出来る事なら、協力します」

 

「ありがたい!」

 

「ありがとう麻衣さん」

 

「いえ。それで火野坂さんの部屋は……」

 

「ちょっと待って。麻衣さん。一つ確認なのだけれど。貴女お付き合いされている方は居るのかしら」

 

「お付き合い、ですか? 居ませんけど」

 

「そう。でしたら、火野坂と呼ぶのは困りますね」

 

「え?」

 

どういう事だ?

 

まったく意味が分からない。

 

でも火野坂さんのお父さんもお母さんもそうだなと頷いている。

 

「え、っと、ではどの様にお呼びすれば……」

 

「大切なお友達なら、名前で呼ぶべきよ。ね? そうよね。あなた」

 

「そうだな。大切な相手は名前で呼ぶべきだ。うん」

 

「あ、はい。えっと、琉生さん、ですかね。本人に許可を取らないと、何だか申し訳ないですが」

 

「大丈夫! 琉生なら気にしないわ!」

 

「そうそう」

 

「そ、そうですか。一応後で確認は取っておきますが、それで琉生さんのお母さん。琉生さんのお部屋は」

 

「まぁ! 『琉生さんのお母さん』だなんて他人行儀な呼び方は止めて。お義母さんとかお義母様とか呼んで下さいな」

 

「あ、あの、母という呼び方には、ちょっと抵抗がありまして……申し訳ないのですが」

 

「あら、そうなの? 麻衣さんは母親とあまり良い関係では無いのですね。分かりました! では私が麻衣さんの母となりましょう!! それで嫌な思い出など吹き飛ばせば良いわ」

 

「それは良い考えだな。では私の事は父と思ってくれて構わないよ。麻衣さん」

 

「あ、あの。お二人とも……」

 

「お母様!」

 

「お父様!」

 

「あ、はい……お母様、お父様。そろそろ琉生さんの部屋に行きましょう」

 

「そうですね! 麻衣さん!」

 

「そうだね! 麻衣さん」

 

なんだか元気な二人に圧倒されてしまったが、強制されたとは言え、父、母と呼ぶのはやはり少し抵抗があった。

 

でも、何だろうか。あの何も反応がない壁に呼びかけるような気持ちとは違う。この温かい気持ちは。

 

ともすれば涙が溢れてしまう様な程に心が大きく揺さぶられる。

 

辛く、苦しい気持ちが私の奥には眠っているハズなのに。何故か溢れてくるのは嬉しいという気持ちばかりであった。

 

そして私は、琉生さんのお父さんとお母さんと共に、琉生さんの部屋の前に立っていた。

 

その固く閉ざされた扉の向こう側には、琉生さんがずっと引きこもっており、一切外には出てこないらしい。

 

ご飯は食べているから、生きている事は分かるが、現在がどういう状態なのかご両親は知る術が無いという事だった。

 

私などに何かできる事があるのか疑問はあるが、何もやらず傍観したままではいられないだろう。

 

とりあえずは、声を掛けてみる事にした。

 

「あの。ひの……「琉生!」えっと、琉生さん。私です。高垣麻衣です。少しだけお話しませんか?」

 

部屋の中で何やら大きな物音がして、大きな何かがドタバタと動く気配がした。

 

そして扉が勢いよく部屋の方に向かって開かれる。

 

「ま、麻衣ちゃん!? 本当に? 本物の麻衣ちゃん!?」

 

「はい。お久しぶりですね。琉生さん」

 

「なんでここに」

 

「琉生! 麻衣さんと話をするなら、まずはお風呂に入ってきなさい!」

 

「と、父さん!?」

 

「麻衣さんはリビングに居るからね。準備が出来たら貴方も来なさい。ちゃんと身だしなみは整えてくるのよ。人間の印象は外見が七割だからね。良いわね!?」

 

呆然と立ち尽くしている琉生さんにそう言い放つと、ご両親は私の手を引っ張って、一階へと降りて行った。

 

リビングに再び案内された私にはまたお茶を用意され、お菓子を出される。

 

何だか餌付けされている様な気分だが、食べる物はどれも美味しいし、歓迎されているという事は分かるので、嫌な気持ちにはならなかった。

 

そして、一時間ほどしてから、先ほどの格好とは違い、綺麗に見た目を整えた琉生さんがリビングに現れるのだった。

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