琴の音に耳を澄ませて 作:緑雨
どうも、琴葉さんだよ。年も明けてトレーニングを始める日、だけどまずは会議だね。今年の予定を決めないと。クラフトちゃんの今後もそうだし、チームとして今年どうするかも決めないと。それに… 新しいウマ娘と契約するって選択肢もあるからね。選択肢もあるっていうか… 普通は、世代毎に1人は契約してるんだろうね。私達がどうするかは未定だけど… 今はクラフトちゃんに向き合いたいって思う。
「…静かなものね」
「年末はあんなに騒がしかったのに、街中が静かになっちゃったね」
アヤベさんと2人きりでの会議、炬燵があるから会議って感じもしないけどね。寒いし、炬燵は当分借りたままにしとこうかな… もちろん、追加で申請するよ。 …私は別に、一年中あっても気にしないけど。
「この時期はトレーニングしてるウマ娘も少ないわね… 来週走るウマ娘だけかしら?」
「後は、選抜レースを走るウマ娘かな?」
「そういえば、明日だったわね。 …私達がクラフトさんをスカウトしてから、丁度1年になるのね…」
「感慨深いね… 今年も見に行く?」
「…契約するつもりなら。私はしなくていいと思ってるわよ」
「…私も。来年は見に行こうね」
「そうね… 2人はいないと、何かと面倒だもの」
選抜レースは不参加、チームとして初めてのクラシックを走りきってから、メンバーを増やしに行こう。今はまだ初めてのことが多いし、新しく契約したら手が回らないよ。 …普通に考えたら2人でも十分少ないような? ま、まぁ、まだ小さいチームで良いんだよ。急ぐ必要はない、はず。
「クラフトちゃん、今年はどこから始動する?」
「桜花賞を目指すなら、そのトライアル… チューリップ賞かフィリーズレビューが無難じゃないかしら?」
「阪神のマイルか、阪神の1400m… 条件的には大きな差はないけど、どっちにする?」
「…本人次第じゃないかしら? 一応、トライアルを使わない選択肢もあるけど…」
「どっちかは使おう。ぶっつけ本番はリスクが高いと思う」
「私も、そう思うわ」
次走についてもこれで決定。 …クラフトちゃんに決めてもらうわけだから、まだ決まってはないか。でも、ここで話し合うのは終わり。さて、後は何を話し合えばいいかな…?
「そこの袋、何が入ってるの?」
「え? ん〜、秘密」
「いかがわしい物じゃないでしょうね?」
「そんな物持ってないし、持っててもここに置かないよ!」
「…でしょうね」
袋は後で部屋に持って帰らないと、パーティーの日から置きっぱなしだったよ。まぁ、それはいいとして… そういえば、トレーニングの内容を決めてないような? …今日からトレーニングだし、クラフトちゃんが来るまでに決めないと。
「今日、トレーニングどうする?」
「…私は持続走でスタミナの面を鍛えて、オークスの距離に備えるのが得策だと思ってるわ。トレーナーは?」
「芝コースを使って走り方とか、加速… スピードを上げるトレーニングが良いかなと思ってる」
「…割れたわね、珍しく」
「だねぇ… さ、話し合おうか」
「そうね… 人らしく、話し合いで決めましょう」
私の考え、まとめとくね。前走の阪神JFはトリプルティアラの1冠目である桜花賞と条件が同じ。その条件で負けたんだから、そこを勝てる対策は必須だよね。阪神マイルで勝つ為にクラフトちゃんに足りてないのは、最終直線の加速と上がりの最高速度。つまり… 絶対的なスピード。マイル戦を走りきれないほどスタミナがないとは思ってないし、走り方もマイル戦に適してる。だから、スタミナよりスピード。
話し合って、アヤベさんの考えも聞いたからまとめるよ。前走に関しては、展開次第で逆転もあり得るほど接戦だった。そして、有利な展開を自分から作りに行くには、スタミナが必要。それに、今から鍛えないとオークスには間に合わない。トリプルティアラを目指すなら、桜花賞に怖さがあってもオークスに向けてスタミナを鍛えないといけない… って感じかな。まぁ… よくわかるし、私も同感。オークスを目指すなら、死ぬ気でスタミナトレーニングを積まないといけない。
「…オークス、か」
「…言いたいことはわかるわよ」
「…それなら、当ててみてよ」
「オークスより、NHKマイル
「…お見事、そのとおり。オークスを勝ちたい思いはあるけどさ、桜花賞とNHKマイルCに狙いを定めたら勝てる確率はもっと上がると思うんだ」
「距離適性の壁は、私もよく知っているわ。それも… 3冠を目指す過程で、突きつけられたもの。だから… オークスを避けたい思いも、マイルを使いたい思いもよくわかる。私だって… 同じ思いよ」
…何度も言ったかもしれないけど、私の知る史実において、ラインクラフトはマイルから短距離を主戦場にしていた。所謂、1800mを得意とする中距離よりのマイラーじゃなくて、1400mを得意とする短距離のマイラー… 中距離の秋華賞だって無理なわけじゃなかった、だけど… 秋華賞は、オークスよりも後にあって、それでいて距離も短い。秋華賞がぎりぎりと仮定するなら、オークスは無理。 …私に、天才的な指導力があったならオークスだって勝てるのかもしれないけど、私は素人… だから、素人なりに考えないといけないんだ。
私だって、クラフトちゃんのトリプルティアラへの熱い思いはわかってる。それに、オークスを走るクラフトちゃんの姿は見たい。だけど… 勝てない選択肢を選ぶのは、トレーナーとして正しいとは、賢いとは思えないんだよ。もしもが起これば勝てるのかもしれない。でも、そんな奇跡に
「私は、菊花賞を走らなければ良かったと思ったことはないわ。だけど… もしも私にトレーナーがいたら、走らせなかったと思うの。距離の壁を越えるために、無茶と言えるほどに追い込んで、それでいて大敗して、脚も痛めた。 …最善の道を探しましょう?」
「…そうだね。今度、クラフトちゃんも入れて話し合おう。私達2人だけで決めていいことではないし、決められることでもないもんね。 …それまでに、自分の中で答えを考えておかないと」
「そうね… お互いに、考えを持って、覚悟を決めておきましょう。 …トレーニングに関しては、今決めないといけないけど」
「坂路にしよう。あれなら、スピードを出す体づくりも、最後まで走り切るスタミナも鍛えられる」
「…確かに、それがいいわね。急いで申請してくるわ」
「じゃあ、飲み物とか準備しとくね」
アヤベさんを見送って、飲み物取りに行こっと。トレーナー室は年越しパーティーの物で一杯だから、寮の方に置いてるんだよね。トレーニング中に飲み切って無くなったら困るから、多めに用意はしてるのを、コースに持って行くんだけど… ちょっと骨が折れるかもね。トレーナー寮から坂路まで、結構遠いし結構重い。
まぁ、動かないとなんにもならないし、早く行こっか。ちょっと寒いし、走っちゃおうかな? …やめとこ、今走ったら飲み物運んでる間に倒れる。
「トレーナーさん、こんにちは」
「あ、クラフトちゃん。今から物取ってくるから、着替えて待っててもらえるかな」
「わかりました、着替えてぬくぬくしてます!」
「じゃ、行ってくる!」
「いってらっしゃいでーす……」
クラフトちゃん、もう来ちゃったか。それなら、急がないとね。
「……………」
今は寮を出たところ、両手で飲み物の入ったクーラーボックスを持ってるんだけど… これから私は何を言えばいいのか、必死に考えてるところって言ったほうがいいかも。ごめん、何があったのか順を追って説明するね。
まず寮の屋外階段から5階に上がって部屋に向かったわけなんだけど、なんだか足音が多いなぁって思ってちらっと下を見たんだよね。他のトレーナーさんなら挨拶しようって思ってさ。そしたら、白い何かが見えたんだよ。 …毎日のように見てるから、それだけでわかるんだよね。クラフトちゃんの流星だ、ってね。
ついてきたのかぁ、どこかで驚かしてくるのかな? なんて思いながら屋外階段から寮に入って、ちゃんと戸締まりしたら、扉を開ける音なんてしなくて、もしかして帰ったのかな? って思いながら、クーラーボックス取って部屋を出て、階段下ったんだよ。そしたら、正面の木から流星とカメラが生えてるんだよ。
…どう、ツッコミを入れればいいのかな。ここで入れちゃいけない可能性もあるし、難しいんだよね… クラフトちゃんの場合、まだバレてないと思ってて、本気で隠れてるつもりかもしれないし… ここはあえて私がボケる? いや、そんなセンスに自信はないし… 何か、何か良いツッコミを…
「………」
この感じ、クラフトちゃん本気でバレてないと思ってるね。私がちらっと目線向けたら、すって屈んだ。流星見えてるんだけどね… 仕方ない、面白くもないけど、普通にクラフトちゃんにバレてるよって教えよう。下手にツッコんだらシラケるだろうし、気づいてないフリは難しいからね。
「流星見えてるよ、クラフトちゃん」
「!! わた、わたしは、ラインクラフトではない、ですよ〜?」
「怒ってるわけじゃないから、大丈夫だよ。トレーニングの準備、しよ?」
「…はい、ラインクラフトです。ごめんなさ~い!」
「怒ってないって、頭上げて?」
…どうするのが正解だったんだ、これ。
「アヤベさん、もう1本お願いします!」
「幾らでも付き合うけど… もう?」
「…はいっ!」
「…元気そうだけど、もう少し休みなさい。呼吸、ちょっと乱れてる」
「私からも、もう少し休もう。流石に連続して走りすぎだよ」
…クラフトちゃんの様子がおかしい。トレーニングのやる気がありすぎる、って感じなんだよ。だって、今もうすでに坂路4本走ってるのに、飲み物飲んだらすぐに走ろうとしてる。チームによっては連続で何本も坂路を走るなんて事はあるんだけど、それでも4本は多い。それに、普段はそんなことしない。だから… クラフトちゃんらしくない。
普段はもっと休んでるとか、やる気がないってわけじゃないよ。だけど、今はちょっと… 焦ってるように見える。走りたくて走ってるんじゃなくて、走らないとだから走ってる、そんなふうに見えるんだよね。さっき私を尾行してたのも変だし、何かあったのかな。
「……いけます。いきましょう、アヤベさん」
「わかった、走りましょう。 …トレーナー、これで最後よね? 時間的にも…」
「…そうだね、他のチームの予約が入ってるから、坂路はこれがラストで」
「そうよね、そうだったはずよ」
予約なんて知らないし、申請してきたのアヤベさんなんだけど… 多分、嘘だよね。本当に他のチームの予約が入ってるなら、当日予約の私達が使えるわけないし… でも、こう言って欲しそうにしてたから、適当なこと言っといた。アヤベさんの意図はわからないけど… 1回トレーニングを止めるため、だと思う。クラフトちゃんの様子… アヤベさんも、何か感じてるんじゃないかな。
「頑張るぞ〜…」
「少し、今後の話をしない?」
「…わかりました」
「今年最初の会議だね」
トレーニング終えて、トレーナー室。次走の話し合いとか、トレーニングの予定はさっき2人で話し合ったから… クラフトちゃんの話、だね。
「…単刀直入に聞くわ。私達の話し合い、聞いてたわね?」
「え…」
「…はい。ちょうど、部屋に来たら、話し声が聞こえて…」
…なるほどね。私とアヤベさんの話し合いってことは… オークスが厳しいとか、マイルが向いてるとか、そんな話を聞かれちゃったのか。 …もっと場所を考えたほうが良かったね。聞かれたらまずい話だったんだから。
「坂路を沢山走ろうとしたのは、オークスを走りたいから?」
「はい… 沢山走ったら、スタミナあるって、オークスでもいけるって、思ってもらえるかなって…」
「…ごめん、嫌な話をして」
「…何を走るのか、最後に決めるのはクラフトさんよ。だから、無理はしないで。それに… 私は、クラフトさんの意思を尊重するから」
「もちろん、私もクラフトちゃんの選択を尊重するよ」
…気まずいな。私とアヤベさんの話し合いは、少なくともクラフトちゃんが嬉しい内容じゃなかったのは確かだもんね。それに、無理して坂路を何本も走ってまで、オークスを走ろうとしてたんでしょ? …それだけ強い決意を持って、オークスを目指してるんだよね。それなら、私が他のレースのことなんて考えちゃだめだね。クラフトちゃんの思いを、踏みにじっちゃいけないからね。
「…本当に、悪かったわね、クラフトさん抜きで話を進めて。何度も言うけど、私達もオークスを走るなとか、他のレースを走ろうって言ってるわけじゃないわ。何が正しいのかなんて、誰にもわからないもの。それに… クラフトさんが走りたいレースを走れるようにするのが、私達の役目だもの。 …今は、忘れていいわ」
「…いえ、大丈夫です。もう、決めてます」
…オークスってことだろうね。よし、頑張ろう。奇跡を起こさないといけないんだ、やれることはやらないと。人事を尽くして天命を待つ、だからね。 …素人なりに、やれることを考えないと。トレーナーになってから、一か八かの勝負は避けようとしか考えてなかったけど… 博打は好きなんだ。合理的じゃない賭けも、否定する気はないから。
「…わかったわ」「…頑張ろ」
「アヤベさん、勝負してください」
「…え?」「しょ、勝負?」
「2400mでお願いします。勝ったら、オークスに行きます。負けたら… NHKマイルCでお願いします」
「ま、待って。今のアヤベさん、全然衰えたりしてないよ? それに、クラフトちゃんのスタミナはこれからだから、今2400mで勝負したら…」
「そうよ、今は2000mでも…」
「…そんなの、わかってますよ。でも、2400mでお願いします。 …自分を、納得させたいんです」
…クラフトちゃんの思いを、尊重しよう。
ウマ娘は本能的に、走ることが好きで好きで仕方ない。レースを走れば高揚感に包まれ、勝てば更なら興奮がやってくる。負けても、心が燃えるように熱くなり、次は負けないと決意する。それが… ウマ娘の
初めて走って妹のことを知った時も、妹のことだけを思い走っていた時も、菊花賞で崩れ落ちた時も、その後の勝てずに苦しんだ時も、サブトレーナーとして併走した時も、楽しさがあった。なのに、今だけは、勝ちたいと思うことすらできない。
クラフトさんと本気でレースをしないといけない。 …はっきり言って、負けることはないわ。私が、まともに走れば。問題は、私がどう走るのか、ということよ。わざと負けるのは、クラフトさんの思いを裏切ることになるわ。でも… 勝って、いいの?
「…トレーナー」
「…わかってる。責任は私が取るから、本気で走ってきて」
「…わかったわ」
…やるしか、ないのね。クラフトさんに、叩きつけないといけないのね… ずっとずっと、目を逸らし続けた、距離の壁を。 …私だって、一線級を走り続けたウマ娘なのよ。クラフトさんにオークスが難しいことなんて、半年前にはわかってたわ。わかった上で、黙り続けていたのよ。オークスを… 走らせてあげたかったから。
「…いいのね、本当に」
「…はい。負けるつもりは… ありません」
声で、わかるわよ。低くて、詰まって、嫌なんでしょう? …でも、それでも走るのね。それなら、私は… 勝たないと、いけないわね。覚悟を、裏切るわけにはいかないもの。
ごめんなさい。オークスに、連れて行ってあげられなくて。
夢を、追わせてあげられなくて。
叶えて、あげられなくて。
…ごめんなさい。
「…ごめんなさい、クラフトさん」
「うぁっぁ…!」
…私は、勝った。接戦ですらなく。
「今日もトレーニング、よろしくお願いします!」
「オーケー、坂路行くよ。アヤベさん、準備できてる?」
「もちろん。待ってたもの」
1月、2週目の土曜日。普段は休みだけど、今日はトレーニング。 …阪神JFの後、年末から年始は美味しい食べ物が多いでしょう? だから… 少し、絞らないといけないの。太ったってほどじゃないわ、少し調整の為に絞るだけ。特別ハードなトレーニングはしないし、休日返上するだけで済みそうよ。
「そうだ、クラフトちゃん。今日はスタートから本気でお願い。最後はバテても大丈夫だから」
「わかりましたっ!」
「1000mとはいえ坂路よ、大丈夫?」
「頑張り、ます!」
「全力で走るといっても、無理はしないでね? トレーニングなんだから」
「それもわかってます、任せてください」
…骨の折れる併走になりそうね。スタミナとか考えずに走ったら、私とクラフトさんに大差はないもの。私に直線一気の末脚があるように、クラフトさんにもメイクデビューで繰り出した末脚がある。 …私だって、坂路を全力で走るのはキツイわよ。キツくなかったらトレーニングにならないものね…
…今後のトレーニングの予定は、桜花賞を勝つことだけを考えて組むことになったわ。私達が、チームで決めたことよ。 …トレーナーだけでも、クラフトさんだけでもなく、全員で決めた。もちろん、私だって、この決定に責任を持つわ。 …オークスを諦めてまで、マイルの道を進むと決めたんだから。負けるわけにはいかないのよ。
他の有力なウマ娘は、当然のようにオークスを意識したスタミナトレーニングを行っている。桜花賞すら走る気のない、生粋のスプリンター以外は、桜花賞からオークスへの転戦を考えるのよ。だからこそ、私達には利がある。 …ここで、負けてはならないのよ。ここを落とせば、クラフトさんの大好きなティアラは、1つも取れない。1番勝機のある桜花賞を… どんな手を打ってでも、勝ちに行く。
それと… 言い忘れていたことがあったの。去年の末に、とある書類を学園に提出したわ。1つは、正式にチームリラのサブトレーナーになるというものよ。 …一応、去年は新人の補助だったもの。今年からは、名実ともにサブトレーナーよ。それと、もう1つ書類を提出したわ。
現役復帰よ、形式上だけね。本気で復帰するつもりはないわ。 …クラフトさんとトレーニングし続けているから、走れないことはないのだけどね。それでも… かつてのように、G1を走れるとは思えないから。じゃあ、何で復帰したのかって疑問でしょう? それは、チームの人数を2人にするためよ。形だけでも、現役のウマ娘が2人の方が… できることが多くなるもの。
…流石に理由なく復帰はできないから、ダートに挑戦するため、としておいたわ。そのせいで、今年中にダートレースを走らないといけないのだけど… 暇な時に適当なレースに出て、挑戦したって事実は作っておく予定よ。勝てなくてもいいわよね、挑戦するだけだもの。 …話題にもならないといいけど。
「私は後ろからスタートするけど、あなたはトレーナーの旗を見てスタートしなさい」
「わかりました、任せてください…!」
私が少し後ろからスタートして、クラフトさんに並ぶタイミングでトレーナーが旗を上げて、そしてクラフトさんがスタートする。このやり方の利点は、私が多少速度に乗った状態で始まることね。クラフトさんより確実に速い状態で始まるのだから、クラフトさんの走る目標にできるわ。私に並ぶように走る… そうすれば、自然と速度を上げていけるもの。私は初速に強みはないし、衰えもある。並んでスタートだと私が後ろから追走して、最後並ぶような形になってしまうわ。 …クラフトさんのトレーニングとして、適切じゃないのは明白ね。
「いきましょうか」
「……今!」
このトレーニングには、1つ欠点があるわ。それは、私にはクラフトさんの様子が何もわからないってことよ。全力を出さないと、クラフトさんに抜かれてしまうのだから、後ろを見る余裕なんてないのよ… クラフトさんに抜かれないペースで、尚且つ自分も最後まで走りきらないといけない。 …誰かに横で細かく指示を出してもらえれば楽なのだけど、そんなことできないから仕方ないわ。本気のウマ娘と同じ速度で走りながら指示出しできるなら、私は要らないわ。
「ふぅ… どう? 来て… るわね」
「う、あぁ… ふ、はぁっ、あぁ」
「お疲れ様、椅子と飲み物とキャンディだよ」
「ありがと… キャンディは返すわ」
「…なら私が食べよ」
「…どうして?」
ある種のジョークかしらね、構わないけど。ひとまず、坂路が1本終わって… しっかりと休んで、2本目に行くか決めましょう。本数は抑えめにしてるの、その分1本の負荷を高める方針ね。走れば走るだけ鍛えられるとは思うのだけど… 脚への負担とか、体全体の疲労を考えたら、本数を増やしすぎるわけにもいかないの。それに、スタミナを増やすことが目的ではないもの。大切なのはスピード、それなら1本を強くする方が良いと思うわ。 …あくまで、私とトレーナーの個人的な見解よ。
…トレーニングについて語るのはここまでにしましょうか。どんどんと… こなしていきましょう。
「こうしてインタビューさせていただくのは、1年ぶりになりますね。本日は、よろしくお願いいたします」
「お願いします」
「よろしくお願いします」
隣りにいるのは去年に続いてトップロードさん。部屋も服装も去年と同じで、少し懐かしさもあるわ。ただ1つだけ、去年はなかった気になるものがあるわ。見当はついているけど…
「あの、そのお花は?」
「こちらは、ナリタトップロードさんの前年の活躍を祝して、ささやかながら贈り物として、用意させていただきました。受け取っていただけますか」
「もちろんです! ありがとうございます!」
「…もう1つの花は?」
「こちらは、アドマイヤベガさんにお渡しさせていただきます」
「…私は何もした覚えはありませんが」
「そんな、ご謙遜なさらず。前年のチームリラ、ラインクラフトさんの活躍は目覚ましいものがありました。これから先の更なる活躍を願い、私からのプレゼントとして、お渡しさせていただきます」
「…ありがとうございます」
花に詳しくはないのだけど、青色と桃色の綺麗な花束を受け取ったわ。 …トレーナー室に生ける場所を用意しないといけないわね。折角貰ったのだから、飾りたいもの。
…2つあったから、片方が私宛なのはわかってはいたけれど… 花束を貰うほどの事をした自覚はなかったから、不思議な気分ね。でも… そうね。初年度から重賞勝利、更にG1出走、それも3着。普通に考えたら、素晴らしい結果ね。 …これで満足するつもりはないけど。
「それでは、昨年と同じ質問から始めさせていただきます。今年の目標、そして抱負を聞かせてください。まずはナリタトップロードさんから」
「今年は、最高の終わりに向けて、去年と同じ道を、去年以上の走りで駆け抜けます!」
「それは…」
「今年で、引退されるのでしょうか?」
「…あ、はい、そのつもりです。今年の有マ記念でアヤベさんを倒して、引退するつもりです!」
「バカ…」
「アドマイヤベガさんを、ですか?」
なぜ、なぜ言ってしまうのかしら… 確かに現役復帰はしたけど、私は有マ記念を走るつもりなんてないわ。走ったところで勝てるとは思えないし、走れるとも思えないわ。なにせ、有マ記念はその年の総決算たるグランプリ。その年を代表するウマ娘達が、ファンの思いに応えるべく駆け出す舞台。 …そこに、私は相応しくないわ。
「アヤベさん、現役復帰したんですよ。ですよね?」
「…そうね、だけど有マ記念は無理よ。ちょっとダートを試そうと思って復帰しただけだもの」
「流石です! 担当にトレーニングを強いるわけでなく、自身も共に鍛え、そして復帰する! まさに、現役のウマ娘と同じ目線で歩む指導者の鑑! アドマイヤベガさんっ、素晴らしいです!」
えぇ… 去年は普通に終わったのに、どうして今年はこうも荒れるのかしら。お願いだから、この部分は記事にしないでよ…
「でも… ごめんなさい。アヤベさんの思いも知らずに、有マで走りたいなんて言って… すいませんでした」
「別に、気にしてないわよ。ちゃんと伝えてなかった私にも非はあるもの」
「…こほん。では、ナリタトップロードさんの予定は今の通りで大丈夫ですか?」
「…いえ、変えます! アヤベさんが走るレースに、私も行きます!」
「どうして…?」
「アヤベさんと戦わずに引退なんてできませんから!」
「熱く硬い絆で結ばれているのですね…!」
…私が、おかしいのかしら。こうなるとわかっていれば現役復帰なんてしなかったのに… いえ、予想はできたわね。はぁ… ちゃんと考えればよかった。
「この話は終わりにしましょう。何も決まったことではないですし、チームで話してこれから決めることですから」
「そ、そうですね…」
「…取り乱してしまい、失礼しました。それでは、アドマイヤベガさんの今年の目標は何でしょうか?」
…ウケが良いのは、不可能だとしても大きなことを言うこと、よね。クラフトさんとトリプルティアラを目指すと言えば、話題にもなるし、記事になるのは予想できるわ。 …でも、嘘をつくのは嫌いなの。だって… 走らないと、決まっているのだから。
「チームとして、ラインクラフトさんが桜花賞を勝つこと、それが最大の目標です。 …年末までの長期的な目標としては、1つでも多くのレースを勝つこと、です」
「先ずは桜花賞、ですね!」
「桜花賞、そしてオークス、秋華賞と転戦していくと思われますが、その中でも桜花賞が最大の目標、ということでよろしいでしょうか?」
「……いえ、違います」
「???」
「桜花賞だけが、目標です」
「……なるほど、理解しました」
「…?」
オークスを走らないと明言してもよかったのだけど、今言うことではないと思ったから、黙っておくことにするわ。 …きっと、乙名史記者は薄っすらとわかっているでしょうけど。それに、桜花賞の後どうするのかはまだ決まっていないの。NHKマイルCに行く予定だけど… 他のレースになる可能性だって、残ってはいるもの。決めたのは、桜花賞を狙うことだけよ。
…クラフトさんの決意もわかってるけど、私が言うのは違うでしょ? それに、オークスのことなんて言う必要はどこにもないもの。時が来たら、クラフトさんかトレーナーが… 言ってくれるはずよ。
「それでは、ここから今年のG1展望に参ります。クラシック戦線はどのウマ娘に注目していますか?」
「キングヘイローさんの話をよく聞きます。距離の問題も感じませんから、良い結果を残せるんじゃないでしょうか?」
「自分のチームのウマ娘以外で言うと、シーザリオさんが気になってます。ティアラ路線なのかクラシック路線なのか、詳しく聞いたことはありませんが、すごい末脚でした」
クラシック3冠とトリプルティアラ、全く違う世界のようだけど、同じ世代のウマ娘が近い時期に走る、いわば
「アドマイヤベガさんには、ティアラ路線のことを詳しく伺います。ラインクラフトさんを含め、今のティアラ路線はどう見ていますか?」
「…コメントしづらい質問ですが、私から言えることは1つだけですね。阪神JFの結果が示すとおり、全員にチャンスがあるような、横並びの状況だと思います。蓋を開けてみるまで、何がどうなるのかわかりません」
「ふむふむ… すごい、深いコメントですね」
「なるほど… ナリタトップロードさんは、どう見ていますか?」
「チームの後輩と、クラフトちゃんを応援してます!」
「な、なるほど…」
…私のコメントが深いんじゃないわ。あなたのコメントが浅いのよ、トップロードさん。 …そんなことを考えている場合じゃないわね。今の質問は答えを用意してたけど、次の質問は何かしら?
「では、シニア級の王道路線のことを伺います。昨年はナリタトップロードさんが絶対王者として、5つのG1を制し年度代表ウマ娘に輝きました。今年の王道路線も主役間違いなしだと思われますが、対戦相手として気になるウマ娘はいますか?」
「オペラオーちゃんです。普段から話すことも多くて、クラシックでの圧巻の走りも見ていたので… 勝てるように、頑張りたいと思っています!」
「アドマイヤベガさんは、今年の王道路線について、どう感じますか?」
「昨年のトップロードさんの圧倒的な強さは、私もよく知っています。ですから… 誰がトップロードさんを玉座から引きずり下ろすのか、それとも全てを退け王者としてターフを去るのか… 楽しみながら見ようと思っています」
「譲るつもりはありません!」
絶対王者は、いつの時代も存在していた。だけど… 皆、地に落とされた。どれだけ盛んな大火であっても、突如として吹く新風に揺られ、跡形もなく消えてしまう。そして、最後にもう一度花を咲かせ、ターフを去る。 …そんな歴史は、何度も積み重ねられた。トップロードさんがどんな道を辿るのか… 現実の怖さよりも、好奇心が勝ってしまうわね。
「ありがとうございます。最後に、他の路線で気になっているウマ娘はいますか?」
「…去年と同じで、あまり詳しくはわかりません。去年以上に余裕がなかったのもあり、私は控えさせていただきます」
「…私も、わかりません。でも、短距離戦線に関しては、去年は新しいウマ娘が勝ちましたよね。その前も、さらに前もそうだったと思います。なので、今年もそうなるのかなって、思ってます」
「ありがとうございました。今年の展望はここまでと致します。昨年の好評を受け、今年はこの後フリートークとさせていただきます。こちらに… 話題の書かれたカードが沢山入った箱がありますので、1枚カードを引いてください」
「お〜! 私が引きますね!」
…今年の展望が終わったなら、もう適当に話せばいいわね。何を言おうが言わまいが、大した問題にはならないわ。展望は少し… 気を使うもの。それに対して、ここからは私的な話。何を言っても、誰かに文句を言われることはないわ。
「好きな人はいますか?」
「いない、次」
「え… わ、私はアヤベさんのこと、好きですけど、えっと… 私のこと、嫌いだったんですか…?」
「ライクの意味で言うなら、普段から話す人はみんな好きよ。ラブの意味なら誰もいないってだけ」
「なるほど… 私はアヤベさんのこと、ラブですよっ」
「そう…」
「うっ、興味なさそう… 次、引きますね」
「メモメモ…」
…次もトップロードさんが引くの? 普通、交互に引いていくものなんじゃないの? まぁ… トップロードさんがそれでいいなら、私はなんだって構わないけど。なんなら、自分から話さなくていい分、楽かもしれないわね。 …さっきの質問みたいな、変な質問が出ないといいけど。
「チームの雰囲気はどうですか?」
「私は最高だと思ってるわよ、うるさくもなければ静まり返ってるわけでもない、快適だわ。 …チーム関係者以外が良く入ってくることだけが問題だけど。トップロードさんは?」
「私も、チームの雰囲気は大好きです。みんなやる気もあって、頑張ってます!」
「…用事で行くことが何度かあったけど、いつも楽しそうだったわね」
「はいっ! …次の引きますか?」
「…引かせてもらうわね」
さぁ、どんどん引いていくわよ。乙名史さんが良い記事を書くためにも、私達は話題を提供しないといけないもの。正直に言うなら、記事が盛り上がろうがどうだっていいのだけど… 書く内容が多くなれば、トップロードさんの失言を揉み消せるんじゃないかって思うの。ほら… 私の現役復帰の話とか、他の話題で押し潰せばなかったことにできるんじゃないかしら?
「1番印象に残ってるレースはなんですか… トップロードさんはなにかしら?」
「アヤベさんと走った有マ記念です。初めての負けでしたし、アヤベさんとレースで戦った最初で最後のレースなので… アヤベさんは、どのレースですか?」
「…菊花賞ね。私にとっての、転換点だったと思うから」
「あの時を思うと… 今、こうやって2人で話してるの、夢みたいですね」
「そうね… きっと、一生忘れられないわ。忘れたくも、ないけど…」
…そういえば、菊花賞のことはトレーナーに話したことなかったわね。今度、話してみようかしら。トップロードさんやカレンさんはよく知っているでしょうけど… トレーナーも、嬉々として聞いてきそうだもの。まぁ… 手放しに笑えるような話ではないのだけど。
「次は… 憧れのウマ娘は誰ですか? 私はアヤベさんです!」
「…特にいないけど、強いて言うなら母親かしら。レースを生で見たことはないけれど、子供の頃から側にいたのだもの。良くも悪くも、親の背中には憧れたわ」
…この後も、順調に進んでいったわ。
「今月のトレーニングはこれで終わり! お疲れ様ー、氷いる?」
「氷なんて貰ったら手が凍っちゃいますよぉ… タオルとお水をお願いします」
「はい、どうぞ」
「私も貰えるかしら」
「はーい、これをどうぞ」
1月末、最終金曜日。トレーニングは坂路、今日で終わりだけどね。来週からは芝コースを確保しているわ、前にトレーナーが話してた実戦式のスピードトレーニングね。 …ここ最近、ずっと併走だから疲れてきたわね。だからといって、弱音を吐くつもりはないけど。どんなハードトレーニングだろうとこなすわよ、ダービーウマ娘のプライド… というより、サブトレーナーとしてのプライドね。トレーニングに支障をきたすわけにはいかないのよ。クラフトさんの為にも… 私は自分の仕事を完遂するわ。
「部屋戻れる? 次走に向けてのデータを見せたくて」
「私は行けるわ。クラフトさんはどう?」
「大丈夫です! 次走ってフィリーズレビューでしたよね、他は誰が出走する予定なんですか?」
「まぁまぁ、そこも部屋でね」
最近は私が書類仕事を担当して、トレーナーには他のチームの偵察を頼んでいたの。立場が逆じゃないか、とか、誰も言わないようにね。私だって好き好んでやってるわけじゃないわよ、私には偵察なんてできないからってだけ。クラフトさんを勝たせることだけを考えるなら、事務仕事は私がやったほうがいいの。
書類の量って、チームが大きくなったら増えるのかしら? 担当のウマ娘が増えたら、その分増えそうなものだけど… イベント参加の可否とか、機材の貸し出しの書類は担当が増えても変わらなさそうよね… チームによっては事務担当の職員もいるんでしょうけど、私達も将来は考えたほうがいいのかしら。 …その規模になる時には私は併走なんてできないでしょうし、私がやればいいわね。まぁ… そうなるかなんて、わからないんだけど。
…書類の話で、1つ思い出したことがあるわ。定期的に提出しないといけない書類として、チームに所属する全メンバーの名前を書く書類があるの。所属してるウマ娘と、携わるスタッフの確認を目的とした書類なのだけど… トレーナーと私とクラフトさんの名前を書いて提出しようとしたら、トレーナーに止められたのよね。 提出期限は今月末、今日までだったはずだけど、提出したのかしら? …不安だから、聞いておきましょうか。
「トレーナー、この間の書類は出したかしら?」
「この間の書類… あぁ、メンバー確認? 出したよ」
「そう… あの書類、どうして1度止めたの?」
「あ〜、この後わかるよ」
「もしかして、新しいメンバーが?」
「そんな話は聞いてないわよ」
「契約を結んだりってわけじゃないから、安心して? …安心してっていうのも変だけど、大事なことはちゃんとアヤベさんに話すから」
「本当に…?」「わ、わたしにも教えてください…!」
「チーム運営の話にクラフトさんは巻き込めないよ、何も気にせず走ってほしいからね」
…はぐらかされた気がするわね。この後わかるって前振りで、本当にわかることなんて、まずないわよね。すぐにわかるなら言ってしまえばいいし、それっぽく誤魔化しただけでしょうね… まぁ、それならそれでいいけど。疑いはするけど、チームに関する重要なことは話してくれるでしょうから。
「あ、話してたらもう着いちゃいましたね」
「そうね… トレーナー? 扉、開けないの?」
「…ふぅ。戻ったよ、準備できてる?」
「…何をですか?」「突然何を言ってるの?」
「準備、できています」
「…誰?」「は、はじめまして!」
…思わず誰と言ってしまったけど、見覚えがあるわ。芦毛のウマ娘で、髪飾りも特徴的で………思い出した、クラフトさんのメイクデビューの日に、トレーナーがパドックで話し込んでた相手ね。名前は知らないけど… あの日、控室にトレーナーが来ないから探しに行ったら、パドックで話してたのよね。チームとして初めてのレースの日のことだもの、よく覚えてるわ。名前は… 聞いていないような気がするわね。
「はじめまして、クロノジェネシスと申します。この度、データ分析担当としてチームリラに携わらせていただくことになりました。これから、よろしくお願いいたします」
「どうも… サブトレーナーの、アドマイヤベガです。気軽に、アヤベとお呼びください。長い付き合いになると思いますが、よろしくお願いします」
「ラインクラフトです! 現役で、今年のクラシック世代です! よろしくお願いします!」
「私は… 自己紹介いらないか。経緯を説明しておくと、これから桜花賞を目指すにあたって、データ分析のスペシャリストが欲しかったから、クロノさんを呼んだんだ。ほら、私って集める担当だから」
「スペシャリストと言って頂けるほどかわかりませんが、期待に応えられるよう精一杯努めさせていただきます」
クロノジェネシスさん… 聞いたことない名前ね。トレーナーとしての能力と現役時代の知名度は無関係だし、別に構わないのだけど… そもそも、トゥインクル・シリーズを走ったことあるのかしら? 私より上の世代… には、失礼だけど見えないわね。だとしたら…
「…デビュー前?」
「! はい、私はまだデビューの予定もないウマ娘… レースを走った経験もない未熟者ですが、データ分析はこなしてみせます」
「少し硬いわね… もっとラフに話しましょう? それと、別にあなたの力を疑ってはいないわよ。トレーナーが連れてきたんだもの、信じてるわ」
「はい… すみません、少し緊張してしまって」
「すぐに慣れますよ! わたしだって、最初は緊張してましたけど、今ではここで寝れますから!」
「それは誇らないで」
「が、頑張ります」
…デビュー前、か。経歴を気にするつもりはないけど、デビュー前っていうのは問題ね。今はなんてことないけど… 将来、クロノジェネシスさんがレースを走る時が来るわ。それがいつになるのか誰にもわからないもの、来年の可能性だってあるわ。そうなると… 少し困るわね。また別でデータ担当が必要になってしまうもの。流石に、クロノジェネシスさんが現役で走ってる時は、任せるわけにはいかないものね。
「さ、挨拶は終わりにして… 4人での初めての会議といこう」
「はい…! それでは、こちらの資料をご覧ください」
これは… フィリーズレビューのコース情報ね。阪神レース場の1400m戦、阪神だから右回りね。阪神はよく知ったコースだけど、過去に走ったのはマイル戦。マイル戦が外回りコースなのに対して、1400m戦は内回りコースになるのよね。スタートが全く違う位置だけど、コーナーまでの距離は結果的に同じ… その分、最終直線が短くなるのだけど。コーナーの角度もキツくなるし、末脚で捻じ伏せる戦い方は苦しいかもしれないわね。短距離的な、前で前で押していくレース… と、書かれているわね。
「基本的な作戦は、普段と同じ先行策がベストです! 2枚目に想定されるライバルと脚質をまとめてあるのですが、全体的に後方からの末脚に長けたウマ娘が多く、先手争いが激化する可能性が低いことも追風です」
「まだ一月以上先なのに、ここまで想定できるものなのね…」
「有力なウマ娘に関しては、トレーナーさんからいただいたデータと、過去のレース前のトレーニングパターンを照合して、フィリーズレビューの時期に走るかどうか念入りに確認しました。ただ、1週前のチューリップ賞とどちらを使うのかは見極めるのが難しく… ですので、展開予想は出走ウマ娘が確定してからにします」
チューリップ賞とフィリーズレビュー、1週違いで開催される桜花賞トライアル2つね。距離もコースも、殆ど同じ。どちらを目指していても、トレーニングに差はできないんじゃないかしら? …つまり、蓋を開けてみるまでどちらを走るのかはわからない。それは私達も同じで… 今からチューリップ賞に目標を変えることも可能よ。
「例年の傾向なら、チューリップ賞の方がメンバーが集まりますよね」
「はい。チューリップ賞は条件が桜花賞と同じため、好メンバーが揃いやすい傾向にあります。阪神JFとも同じ条件ですから、そこで好走したウマ娘が使うことが多いですね」
「…質問はないかな? なければ、会議は終わるよ」
「…なさそうね」
フィリーズレビューの情報はわかったわ。 …クロノジェネシスさん、優秀そうね。少なくとも… 私とトレーナーでやっていた時よりも中身があるわ。こんなに優秀な人を、トレーナーはどこで見つけてきたのかしら… 本当、人に恵まれるわね。 …トレーナーが徳を積んでるということなのかもしれないけど。
会議も終わったし、少し書類を確認したら星を見に行ってくるわ。まだ日が沈みきっていないけど… 少ししたら、日が沈んで星もよく見えるでしょうから。星は1日の間でも、時間によって少し見え方が変わるの。だから… 今日は、早くに行って見てくるわ。
「キレイですね、アヤベさん」
「そうね…」
…カレンさんにつかまったわ。嫌ってことはないけど… 今日は夜遅くまで、ずっと星を見るの。カレンさん… 飽きないかしら。
「飽きたら先に帰りなさいよ。私は遅くまでいるから」
「わかってますよ〜。まぁ… 帰らないですけど♪」
「…わかってるなら、好きにしなさい」
…星、綺麗ね。
「アヤベさん! こんなところで、奇遇ですね」
「…クロノさんか。一緒に食べる?」
「是非、お願いします」
2月1週の木曜日、日付で言うなら4日ね。食堂で昼食をとっていたら話しかけられたの。あ、食べてるのはラーメンよ。特に理由はないのだけど、何か惹かれたから醤油ラーメンにしたわ。食感が強くて、味も染み込んでいて美味しいの。明日も食べたいわね… 明日は味噌にしようかしら。
「クロノさんは鮭定食にしたのね。美味しいわよね」
「はい。昔ながらの和を感じられて、好きなんです」
「私も、そういう料理は好きよ」
…落ち着くわね。他の人は食事中も騒がしくて、楽しそうだけど… クロノさんは静かで、落ち着きがあって… どちらがいいというわけではないけど、食事って静かにするものでしょ? だから、このほうが… 料理を楽しめるわ。
「…ラーメン、お好きなんですか?」
「…特別、好きというわけではないわ。ただ… 美味しいわよ」
「ですよね… 私も時々食べるのですが、いつも美味しいです」
…美味しいのだけど、食べすぎないように注意は必要ね。これが休日なら、もう一杯頼むのだけど… 生憎、これからトレーニングがあるの。それも、芝コースを使った負荷のかかるトレーニングよ。あまり食べすぎてしまうと… 言い難いことが起こるかもしれないわね。
「ごちそうさま…」
美味しかった、本当に。さ、この後はトレーナー室に向かおうかしら。 …あの2人は今どこにいるのかしら。特にトレーナーとはトレーニングの話をしたいのだけど、見つからないのよね… 食堂にはいなさそうだし、部屋にいなかったら屋上を観に行こうかしら。
「………」
「…片付けないんですか?」
「? あぁ… クロノさんが食べ終わってからにするわ」
「そんな… お気遣い、大丈夫ですよ」
「…気遣いじゃなくて、私の我儘よ。 …人が食べてるのを見るのも、案外楽しいものだから。クロノさんは静かで丁寧で品があるから… 特にね」
「うぅ… 少し、照れくさいです」
楽しかった昼食も終わり… クロノさんももう食べ終わるから、私も動こうかしら。さ… どこ行こうかしら。
「ここでこう仕掛けたらどうなる?」
「そうなると… ここが下がって、こっちが内に寄せられますね。彼女にとって苦しい展開になりますね」
「で、こうなる確率はどのくらいって話だけど…」
「1年前であれば、あり得ないと切り捨てられたと思いますが… 最近の出遅れを考えると、十分にあり得ると思います」
2月の最終土曜日よ。今日はトレーニングがないから、事務仕事を手伝いに来たのだけど… ホワイトボードを前に、トレーナーとクロノさんが何か話し合っていたの。私に気づかずに。最初はフィリーズレビューに向けての作戦会議かと思って見ていたのだけど… マグネットの動かし方が、どう見ても左回りの動きなのよね。 …私は何を見ていたのかしら?
「…フィリーズレビューの予想には見えないけど、何をしてるの?」
「アヤベさん! これはフェブラリーステークスの予想だよ、アヤベさんもやる?」
「やらない。私は書類を片付けに来たの。 …そもそも、何のために予想しているの?」
「予想が楽しいから… です。そ、それに、普段から予想をしていないと、本番でも上手くはいきませんので」
「そう!」
「大丈夫よ、ちゃんと仕事してくれてるなら、プライベートで何をしていても文句なんてないわ。ただ、気になっただけだから」
「よし、じゃあ続きやろう」
「あなたは仕事」
「はい…」
…フェブラリーステークス、か。東京レース場で行われる1600mのダートG1。私には縁もゆかりもないレースだけど、今年最初のG1なのよね… ここが大荒れだと、1年ずっと波乱が起こりそうで怖くなってくるわね。波乱を起こす側からしたら、楽しいんでしょうけど… 起こされる側からしたらたまったものではないわ。皐月賞でしてやられたのも、今となっては良い思い出だけど… ダービーを勝てたから、良い思い出って言えるのでしょうね。全て負けていたら、きっと苦い思い出として忘れようとしたでしょうから。
「これも好奇心で聞くのだけど、誰が勝つの?」
「…わかりません。1番確率が高いのは8枠14番のウマ娘だと思いますが…」
「…質問が悪かったわね。でも… それなら、今年のフェブラリーステークスは14番を応援することにするわ。クロノさんに、当ててほしいもの」
「お、お任せあれ!」
「私の本命は2枠3番ね。アヤベさんっぽいんだよ」
「…あなたはロジックではなく直感で予想しているの?」
「ロジックだよ!? ロジックで予想した上で、アヤベさんに似てるってだけ」
「そう… 手、動かして」
「はい…」
明日、東京レース場に行ってもいいわね。今年はまだ1度も現地に行ってないから、トゥインクル・シリーズが始まった感覚がしていないのよね。熱気を浴びて、レースの雰囲気を掴むのも大切だもの。 …トレーナーは置いていくわよ、クロノさんも置いていくわ。予想家と一緒にレースを見るのは嫌だもの、レースは気楽に見たいわ。 …あの2人、勝手に盛り上がって勝手に沈んでいきそうだもの。巻き込まれないように、離れておきましょう。
「ん〜、暇。トレーニングがないと暇だね」
「…そう? 仕事がたまってるように見えるけど? それに、トレーニングがない日はよく遊び歩いてるじゃない。あなた、暇とかあるの?」
「捲し立てられてる… でも、確かに暇なことってないかも。時間なんていつも足りてないよね」
「ついさっきの自分の言葉、忘れたの?」
「まぁまぁ、適当に話したっていいでしょ?」
「…そうね。気張って丁寧に話すより、反射的に話すほうが楽だわ。それでも、すぐに矛盾するようなことは言わないでほしいけど」
「は〜い。気をつけます」
「…凄く息が合ってますね。親子みたいです」
「…えぇ」
「嫌そうにしないで?」
…深く掘り下げるような話じゃないわね。適当に流してしまいましょう。
「口が寂しいなら、チョコでも食べる? 持ってきたのだけど…」
「もしかしてバレンタイン? それなら明日だけど…」
「当日は騒がしいし、あなたも忙しいでしょ? だから、先に渡しておくわ」
「それなら、私からも。 …私も同じ考えでね」
「よ、用意してませんでした…! ホワイトデーの日に、お返ししますね…」
…美味しいわね。
「それでは… フィリーズレビューの勝利を目指し、作戦会議を始めます!」
「いえーい」「わ〜!」「お〜!」
「…私はやらないわよ」
…いや、その前にどうしてトップロードさんがいるのかしら? まぁ… 別にいいか。トップロードさんのチームは誰も出走しないはずだから、本当に問題はないわ。 …部外者がいることを問題がないと思ってしまってる時点で、少しおかしいわね。でも… 本当に問題はないのよね。トップロードさんは信用できるもの。
「フィリーズレビューは来週末に行われる桜花賞のトライアル競走で、阪神レース場の1400m戦となります。コースは内回りを使用するため、前走の阪神JF、そして次走に予定している桜花賞とは少しコースが違うことを覚えておいてください」
「スタートから最初のコーナーまでの距離は同じで、最終直線が短い。そんなイメージで大丈夫だよ」
コース形態に関しては、少し前にも話したわね。聞き流すわ。
「続いて、出走を予定しているウマ娘の一覧になります。まだ確定はしていませんが、出走を明言している、または出走に向けて調整していることが確認されたウマ娘となります」
「15人… この通りに行くなら、全員通るのね」
「フルゲートにはならないんですね。確か、チューリップ賞も15人でしたよね」
「はい。人数がばらけた結果、丁度同じ人数になりました。ですが、レース的にはフルゲートと同じようなものだとお考えください。枠順はまだ決まっていませんので、枠の差については説明を省きます」
…桜花賞のトライアルが、2レースとも同じ人数なんて、ある種の奇跡ね。嬉しいことも特にない、どうだっていいことではあるのだけど… 気にはなるわね。このトライアルは運良く3着に入っただけでもG1に出れるんだから、一か八かで走りに来るウマ娘もいそうなのに… 私達の側からすれば、そういうウマ娘は居ないほうが助かるのだけど。玉砕覚悟の走りをされると、困る展開になることが多いもの…
「そして、こちらが各誌・予想家の予想や、一般のアンケート結果を元に、とある企業が作った人気表となります。これからは、この表をもとに上位人気、つまり評価の高いウマ娘を個別に見ていきます」
「わたしが1番人気なんですね…!」
「頭1つ抜けてるわね…」
…下手にプレッシャーを負わなければいいけど。トレーナーも確認してるでしょうから、クラフトさんに見せていいって判断したんでしょうけど…
「よ〜っし!」
「頑張りましょうねっ!」
…大丈夫そうね。クラフトさんは人に期待されて燃えるタイプだったわ。
「こちらはエアメサイアさんです。母親もトゥインクル・シリーズで目覚ましい活躍を見せており、その活躍がデビュー前から期待されていました。転戦過程も順調で、桜花賞でも対戦すると思われます」
「綺麗な緑髪ですね」
「どんなウマ娘なのかしら?」
「近走は先行策をとっていますが、本来の脚質は差しのように感じます。今回もバ群の中心近くでレースを進め、最終直線で末脚を使う戦法だと思われます」
「それなら、わたしと同じラインになるんでしょうか。どんな意識で走ればいいですか?」
「前をとることです。脚質的にもクラフトさんが前になると思われますが、意識的に前のポジションを狙ってください。そうすれば、末脚勝負の競り合いも優位に進められます。数バ身は前に行きたいですね」
「同じ位置から末脚を炸裂させたら、どっちが勝つと思う?」
「難しい質問ですね… 末脚の質は大差ないと思いますが、体力の面でエアメサイアさんに軍配が上がるかもしれません。ですので、一歩でも前で最終直線を迎えることが重要です」
なるほどね… まぁ、それはそうよね。差しウマ娘を相手に末脚勝負で勝てるなら、向かうところ敵なしだわ。クラフトさんには先行する分の物理的な距離の有利があるんだから、その分で逃げ切れればいいのよ。
「…質問はないですかね。次の方に移ります。次はこちら、ヒスイキセキさんです。その名の通り、翡翠色… エアメサイアさんと同じような緑髪のウマ娘になります。阪神JFでも対戦したことがある相手ですが、その時より状態は良さそうです」
ヒスイキセキ… 翡翠輝石、ってことね。宝石と同じ名前なんて、縁起が良さそうね。
「阪神JFの時は道中は9番手、クラフトさんの少し後ろにいました。そこから追い込んだものの、先頭争いには加われなかったのですが、今回は要注意です。前走と同じなら、エアメサイアさんと同じ位置取りになると思われます」
「有力なウマ娘が、同じような位置に集まるのね…」
「進路が包まれるのも怖いので、前目で行くのは本当に大切ですね」
「そうなのですが、ヒスイキセキさんは先行力もあります。現に、札幌ジュニアの時は3番手を追走し、そのまま4着に粘り込んでいます。ですので、今回は逃げると予想します」
「逃げか… 確かに、このメンバーならありそう」
先行押し切りも、後方からの差しもできる相手… 実績的にはそこまで警戒する相手ではないのだけど、何をしてくるかわからない相手というのは気になるわね。さっき話した、一か八かの攻めをしてくる可能性が高いってことよ。ただ、逃げの予想は少し危ない気もするけど… そこまで極端な策を取るのかしら?
「ですので、対策は2パターン用意しています。前に行かれた場合は、その後ろにクラフトさんが入りに行きます。所謂、風除けとして利用させていただく形です。逆に後ろに行かれた場合は、忘れましょう。気にしなくて大丈夫です」
「わかりました!」
…本当に? 難しいことは言っていなかったけど、間違えてたら大変なことになるわよ。フィリーズレビューはG2、何か1つミスがあったらそれだけで負けかねないレースよ。一応… 後で確認しておきましょう。
「3人目はデアリングハートさんです。今回で3度目の対決となりますが、前走は中団からの差し、その前は逃げと、戦うたびに異なる戦法を取られています。今回はどの位置でレースを進めてくるのかわかりませんが、先行策だと思われます」
「さっきの子が先行して、こっちが逃げるっていうのもあり得るの?」
「可能性としては低いですが、ありえます。結果はレースをしなければわかりませんが、デアリングハートさんは前走で明確に控えようとするレースをしていました。ですので、逃げたくないのではないかと予想します」
「最初の頃は勝つのが大切だから逃げてたけど、G1で戦うために中団で走る練習として前走で控えてみたら、思ったよりも上手くいったから、今回も逃げないんじゃないかってことだね。私も先行だと思うよ、前走で差して届かなかったからね」
「…なるほどね」
デアリングハートさんは先行… 残念なことに、クラフトさんと同じラインに有力なウマ娘が集まるわね。先行策が1番安定するから仕方ないのでしょうけど、バ群に揉まれて自分の走りができないっていうのが怖いわね。上手に走ってくれるといいけど…
「質問はありますか?」
「なさそうですので、ここで作戦会議は終わります。ありがとうございました」
「お疲れさま」「ありがとう」「覚えないと…」「勉強になりました」
これで作戦会議も終わり… 枠が決まったらもう一度やるのかしら。枠次第では全部変わるかもしれないもの。例えば、逃げウマ娘が大外に入ったりとか。脚質が自在のウマ娘は、枠で作戦を変えるでしょうし… 私みたいな直線一気の追い込みタイプでもない限り、枠の影響は受けるもの。私はどこでも下がって内に寄るだけだけど。
「トレーナーさん、詳しく詰めたいのですが、時間ありますか?」
「もちろん、やろう。出遅れとか色んな場合を考えとこう」
…後は任せていいわね。当日までに、まとめてきてくれるでしょうから。
「平日の阪神レース場… 向こうを見てきてもいいですか?」
「…だめかな。調整で使わせてもらうわけだから、迷惑かけないようにね。迷子とか、気をつけて」
今は3月2週の木曜日、フィリーズレビューの3日前ね。今回も早めに現地に入っているわ。知ってるコースだから、スクーリングの必要はないのだけど… トゥインクル・シリーズに限ったことではないのだけど、長距離移動の直後は運動に向いてるとは言えないわ。だから、少し前に移動しているの。これは他のチームでもよく行っているわ。特に、重賞を走るなら必ずと言ってもいいわね。
「…折角なら、3人で併せましょうか。クロノさんは私の反対側、クラフトさんの内側でお願い」
「わ、私も、ですか? …頑張ります」
「クロノちゃんと走るの、初めてな気がする…」
「それじゃ、私はここで旗とタイマー持って見てるから」
レース数日前の併走… 調整として、必ず行っているのだけど、どうするのが正解なのかは未だにわかっていないわ。実戦感覚を補ったり、身体に負荷をかけて動ける状態にしたり、バ場を慣らしたり… 色んな意味があるのはわかってるからこそ、どんな併走が理想なのかわからないのよね。速ければいいってものでも、長ければいいってものでも、大人数ならいいってものでもないでしょうから…
「スタートは… ここでいいか。ここから、トレーナーがいるところまで。 …何メートルくらいかしら。1000mはありそうだけど…」
「えっと、あそこがフィリーズレビューのスタート地点です。それで、ここはその前ですから… 1200mのスタート近くですね。トレーナーさんはゴール前にいるので、走る距離も1200m程度です」
「ペースは私が刻むから… 2人は、併せて走って」
「はいっ!」「わかりました…!」
今のクラフトさんの状態は決して悪くない… トレセン学園で調整していた時から動けていたわ。だから… 少し、抑えめに走ろうかしら。
「…いまっ!」
「いってらっしゃい、楽しんできな」
「責任はトレーナーとクロノさんが取るから、作戦通りに楽に走ってきなさい」
「は、はい、責任は取ります。なので、頑張ってください!」
「…頑張ります!」
もう、今日がフィリーズレビュー… 信じて、待つとしましょう。
「現役復帰って簡単にできるの…?」
「簡単にはできません。能力検査など、時間も手間もかかりますが… アヤベさんの場合、実績もありますし、人気もありますので、特例的にすんなりと復帰できたのかもしれません」
「確かに、URAってフットワーク軽そうだもんね」
「それに、ファンから復帰を望む声は多く上がっていましたから… ナリタトップロードさんとの再戦を夢見るファンも多く、話題性もあります。ですので、現役復帰はURAとしてもトゥインクル・シリーズの盛り上がりを考えれば願ったり叶ったりだったのかもしれません」
「対戦成績でトップロードさんが負け越してるのってアヤベさんだけなんだっけ。1度だけ対戦したレースはどっちも負けたレースらしいけど、トップロードさんが負けたのはそのレースだけで、他に先着された相手には翌年にリベンジした… そしたら、アヤベさんとの再戦も見たいって思うよね」
「ですね…」
〜フィリーズレビュー