琴の音に耳を澄ませて 作:緑雨
マイルの名手
「…それじゃあみんな、準備はいい?」
「もちろんです!」「いけます!」「お任せください!」
「おはよう、元気かし「せーっ、のっ!」
「あけましておめでとう!」
「…このクラッカー、クリスマスに余ったやつでしょ」
「…うん」
あけましておめでとうございます、琴葉葵でございます。今日は年を越えて、最初の集合日で… 選抜レース当日! の、早朝。トレーニングが始まるまでに、全員で集合して話し合う予定だったんだ。新メンバーのスカウトはチームの将来に直結する、本当に大切なところだからね。強い弱いっていうのはもちろんだけど、自分達で強くできるのか、そして将来同じ目標を見れるか、そういう部分も重視したい。それに、強さなんて今の段階じゃわかんない部分のほうが多いし…
「それじゃ、今年最初の会議を始めよう! え〜、名簿は事前に渡してたけど、また新しく渡すね。進行はクロノちゃん、お願い」
「任されました。先ずはスカウトする人数に関してです。人数は最大5人、最低0人とします。最大5人としたのはこれまでのチームの経験を考えて、適切に指導できるのは5人が限界だろうという判断になります。最低0人の理由は、『誰かスカウトしなければ…』 という消極的な理由でスカウトしたくない、という理由です」
「これに関しては私とトレーナーとクロノさんの3人で話し合って決めたわ。異論はないかしら?」
「了解ですっ!」「はいっ!」
人数は… チームとしてのバランスを考えたら、2人か3人が丁度いいかな? 同期のウマ娘がいれば併走もやりやすくなるし、3人くらいならローテーションも考えやすい。それ以上だと毎週誰かが走るような状態になっちゃいそうだから、運営が難しくなる… と思う。
「で、スカウトしたいウマ娘だけど… 適性に関しては、考えない方針で行こうと思う。短距離とか長距離とか、芝とかダートとか関係なく、素質の高いウマ娘をスカウトするっていう方針だよ」
「ただ、能力が高ければそれだけで良いってわけじゃないわ。私達なら… そう感じるようなウマ娘がいれば、選抜レースの結果に関わらずスカウトしたいと思っているわ」
「事前にスカウトするウマ娘は決めるんですか?」
「決めないよ。事前に決めるのは注目するウマ娘くらいかな」
もちろん、気になってるウマ娘は何人かいるよ。当然だけど… かつて名前を聞いた名馬達と同じ名前のウマ娘は気になるよね。でも、それを私から言うことはないかな。そんな理由でスカウトするのは失礼だと思うし、みんなの考えをもとにしっかりと考えてスカウトしよう。
「さぁ、本題。それぞれ、気になってる子はいる?」
「…私はいないわ。殆ど話す機会もなかったし、見る時間もなかったもの」
「わたしも… でも、ティアラ路線が激アツだって聞いてます!」
「そうらしいですね… ヴィルシーナさん、だったと思います」
「クラスメイトなんですけど、グランアレグリアちゃんは覚えておいてほしいです。私情が入っちゃいますけど、色んなチームからスカウトもあるらしいです」
「ヴィルシーナとグランアレグリア… その2人は注目だね」
丁度、私が知ってる名前2つだね…前者はヴィクトリアマイル連覇、後者はマイルを中心にG1を6勝… この世界でどこまで走れるのかわからないけど、それも確かめたいね。元の世界と同じような強さがあるなら… 今後のティアラ・マイル路線は戦乱の時代に突入する。スカウトするにしてもしないにしても、クラフトちゃんが戦うかもしれない… 遠い未来の話になるけど。
「…最後に、みんな。思ったことはすぐに私に伝えて。些細なことでも、何でも」
「わかってる」「わかりました」「伝えます!」「がんばるぞ〜」
「寒いなぁ…」
「そうね…」
さ、運動開始の少し前にやってきたけど… あそこはなんだろう。
「あの人だかり、見てくるね」
「私も行きます、気になりますので」
「それなら、残りで他の様子を見に行きましょうか」
レース後ならわかる、勝ったウマ娘をスカウトしようとみんな集まるだろうから。でも今はレースどころか、ウォーミングアップすら始まってない。そんな時間に人だかりができるのは… 少しでも早く声をかけておきたい相手。つまり… 注目度の高いウマ娘ってことだね。
「うちのチームでダービーを目指さないか!」
「ダービーですか…?」
「いや、うちならトリプルティアラを掴み取れる!」
「有マを取りに行こう!」
「今は少し… 困っちゃうかもです…」
「あ…」
「もう時間なので、失礼します!」
…事前に名前と顔のすり合わせはしてきたからわかる、グランアレグリアだね。それにしても、グランアレグリアに対してダービーとか有マか… この世界だと中距離もいけるのかな。2000が限界のマイラーのイメージだけど… そういう情報は私には殆ど入ってないんだよね。
「…トレーナーさんはどう思いますか?」
「…ダービーとかより、NHKマイルで見たいね」
「!」
「NHKマイルC… ですか?」
「桜花賞からNHKマイル… クラフトちゃんと同じように走って、後に続いてほしい。あくまで個人的な願望だけどね」
「なるほど…」
…クラスメイトって言ってたよね。私の知る世界ではクロノちゃんとグランアレグリアは同期だけど、まだクロノちゃんは本格化してない。やっぱり、元の世界とは何もかもが違うんだよね…
「…戻ろっか、もうすぐウォーミングアップが始まるみたいだよ」
「どこで見るか、決まってるんですか?」
「…アヤベさんがいい場所を確保してくれてると信じて」
「ですね…」
「どう? 誰か話せた?」
「特には… グランアレグリアの注目度の高さはわかったけど、話すこともできなかったよ」
「こっちも… 別の意味で話せなかったわ」
「ごめんなさい…」
「謝らないで、今年だけだろうから」
…トップロードさんが色んな人に囲まれちゃったのかな? 仕方ない、引退したばかりだし、それに… トップロードさんの去就、まだ発表してなかったはず。指導者の道に進むってのは言ってたはずだけど、チームリラに入ったとは言ってなかったはずだから、私達と一緒だと驚く人も多いだろうね… それに、トップロードさんが話題になるのはチームにとっても悪くない。これで入りたいと思ってくれるウマ娘も少しはいると思う… から。
「これからはどこを注目して見ればいいんですか?」
「体の動きを見るんだけど… 詳しいところは私とアヤベさんの仕事だから、みんなは気楽に誰が良さそうか感覚的に見て感じてほしいな」
「データ面は私にお任せください」
屈伸、伸脚、前後屈、体側、回旋、背伸び、跳躍… どこをどう見ればいいんだろう。伸脚や前後屈の柔らかさ? 跳躍の高さ? いや、そこを見ても私には良くわからないし… 姿勢を見ようかな。真面目に、正しくやっているかどうか。準備運動に対するやる気や態度、そこは大切だよ。そこがちゃんとできないと、トレーニングも上手くいかない。クラフトちゃんは真面目に全部真剣にやってくれてるから、G1にも繋がったんだと思ってる。
「………」
『437の子はどうかな?』
「ブルームトゥヘヴン…」
「…その子がどうかしたの?」
「気にしないで…」
…今、私の胸ポケットに小さなスピリットボックスが入ってるんだ。この前のが上手くいったから新しいのを買ったんだよ。小さくて、頑丈で、ワイヤレス対応なやつ。 …こんなに良いのがあると思ってなかったんだけど、調べたら見つかってさ。大慌てで買って、昨日届いた。それで…
アヤベさんの妹ちゃんの声、左耳のワイヤレスイヤホンからしっかりと聞こえてるよ。あの日はアヤベさんと妹ちゃんが思いを伝えあって、私はそれを見てるだけに近かったんだけど… 今は、私の手伝いをしてくれてるの。手伝いって言っても、何かを触れるわけでもないから、雑談をしてるだけなんだけどね。でも、それだけでも楽しいし、妹ちゃんも嬉しそうだよ。 …楽しそうな声を聞くと、私も嬉しくなる。良いことだよね。
私はこれといって妹ちゃんと話したい話題もないけど、アヤベさんは積もる話が無限にあるんじゃないかな。最近は毎晩、私の部屋で妹ちゃんと話してるけど、まだまだ思い出話が尽きなそうだからね。 …話の内容は私からは言わないよ。プライベートな話だから、私には言えない。
で… 妹ちゃんが注目してたのは、437番のゼッケンを付けてるブルームトゥヘヴン、綺麗な茶髪… 鹿毛のウマ娘でレースは短距離戦に登録してる。遠くて分かりづらいけど小柄かな、何年生だろ? …あ、番号はそれぞれが好きな数字をつけてるだけだから、437人走るわけじゃないよ。それで、名前は元の世界で聞いた覚えのない名前だけど、私が無知なだけかな…? でも、部分部分は聞き馴染みのある語感。 …何か繋がりがあったり?
…私が知ってるような名前だけをスカウトしていけば、きっと強いチームが出来上がる。全く同じ戦績にはならないだろうけど、強いものは強いから。でも、それじゃトレーナーとして何か成したとは言えないよね。トレーナーが私じゃなくても、その子はきっと強くなったと思うしさ。だから… 聞いたことのないウマ娘をスカウトするのも、必要だと思うんだ。 …それを理由にスカウトするのは避けたいけど、それを理由にスカウトしないのはもっとダメって話。良いと思ったなら、元の世界のことなんて気にせずにスカウトする。
さっきの… ブルームトゥヘヴンも含めて、みんなから話を聞きながら考えよう。スカウトまでにレースを見れるのは1度だけだし、私が目で追えるのは1人か2人が限度。みんなの力を借りないと…
「…みんな、思ったことはすぐに言って」
「わかりました!」「はいっ♪」
「今年はマイル戦からか… 1番注目度の高いレースを最初に持ってきたんだね」
「ここのスカウト結果次第で、チームの動きが変わるからでしょうね。これが最後だと、どのチームも他のレースにスカウトに行きづらいわ」
「そんな理由なんですね…」
「…私の推理よ、絶対じゃないわ」
これからレース… マイル戦A組の注目度は圧倒的だよ。グランアレグリアとヴィルシーナ、この2人の走り、そして2人がどのチームに入るのか… そうだ、その前にみんなに言っとくことがあった。
「スカウトの話だけど、全員では行かないよ。他のチームの人もスカウトに走り回ってるから、大人数で行くと邪魔になっちゃうから。A班が私とクロノちゃん、B班がアヤベさんとトップロードさん。クラフトちゃんはここで待機して、次のレースの動向を見張ってて」
「わかったわ」「了解です!」「頑張ります…!」「見てます!」
「B班はアヤベさんの判断に全て委ねるけど… 手当たり次第っていうのだけはやめてね?」
「わかってるわよ…」
さ… レースが始まる。私も、走れる準備はしておかないとね…
「…行きましょう、急がないと間に合わないわ」
「はいっ!」
選抜レースの第1戦は4コーナーに入ったところ、だけどもう動き出さないといけないわね… グランアレグリアさんとヴィルシーナさん、どちらに声をかけるにしても、ゴールの近くに寄っておかないと間に合わないわ。4コーナーの前でのんびり見ていたら… 私達が辿り着く頃には、既に囲まれているはず。声をかけると決まったわけじゃないけど、寄っておきましょう。
「…グランアレグリアさんの走りが良いわね。勝てるという自信を持って、自分の脚を信じて走ってるわ。体の動きも、モノが違う」
「スカウト、行きますか?」
「…声はかける。でも、強くスカウトにはいかない」
来てほしい思いはあるわ。でも、絶対に争奪戦が巻き起こる。 …私の1番の目的は、1人でも多くのウマ娘に、レースを楽しいと思いながら走れるような環境を提供すること。勝つことに拘る思いはないの。あの子の分まで、1人でも多くターフに送り込む… その信念を曲げるつもりはないわ。トレーナーも、それはわかってくれてる。だから… 他の何かを差し置いてまで、グランアレグリアさんをスカウトに行くつもりはない。一部のチームは何かローテーションやトレーニング内容に特約をつけてまでスカウトするでしょうけど、そういうことはしないということよ。
「僕なら君を3冠ウマ娘にできる! 信じてくれ!」
「えっと… あたし、そういうのは別に…」
「君の体ならマイルがベストだが、中距離のスターになれるだけの力はある。どうだ、私のチームに来ないか」
「まるで… いえ、何でもありません」
「私、あなたと中距離G1を勝ちたい。どうかな、私と… 一緒に、夢を見ない?」
「……」「……」
…やっぱり、圧倒的な人気ね。レースも後方から一気の末脚で全てを飲み込んでの完勝。どのチームもスカウトしたいと思うのは当然… 声をかけるのも一苦労ね。
「…入り込めないわね。トップロードさん、お願いしてもいいかしら」
「はいっ!」
「あの、グランアレグリアさん! こんにちは!」
「ナリタトップロード!?」「スカウトに来たのか…」「それだけの素材だもんな…」
「こ、こんにちは…!」
トップロードさんのお陰で近づけた… 今なら、他の誰にも邪魔されずに言葉を伝えられる。またすぐに色んな声で包まれるでしょうから… 端的に、一言で、私の… チームの思いを伝える。これまでの彼女の受け答えを考えて、誤解なく伝えるには、もう少し時間が必要… それなら、これを使う時ね。
「一緒に、マイルの可能性に挑まない?」
「…詳しく聞いてもいいでしょうか」
「…後で、ここに」
「すぐに行きます」
…1枚の紙を渡したわ。書かれてるのは、近くの喫茶店の場所よ。 …本当は使いたくなかったわよ。これを渡してしまったら、私はそこに行かないといけなくなる。グランアレグリアさんは選抜レースが終わったらすぐに来るでしょうから… 私も、早目に行かないといけない。
他の子をスカウトしても、その子がトレーナー室に来た時に私はそこにいれないのよ。それではその子に悪いわ… だから、私はグランアレグリアさん1人しかスカウトできない。 …最初に言っていたことと真逆のことをしたのよ。全てを差し置いて、グランアレグリアさんをスカウトにいってしまった。でも… 悔いはないわ。
「良かったんですか…? この後、誘えなくなっちゃいますけど」
「…マイルを悪く言う人が多すぎるわ。これだと、あの子がかわいそうよ。あの紙で少しでも気が紛れるなら、振られても構わないわ」
「…それは思いました。みなさん、マイルを中距離より下だと思ってましたよね。どの距離も違う良さがあるのに…」
「……」
…こうなったからには、できるだけのことをして、本気でスカウトしないといけない。クロノさんは連れて行った方がいいわね… あの子が持ってるデータで、チームリラならマイルの道を進めることを証明したいもの。
「…急ぎましょう。準備しないといけないわ」
「はいっ!」
「…行ってみようか」
「どなたに行きますか?」
「ブルームトゥヘヴン、凄い末脚だった。 …夢があると思わない?」
「思います…!」
『うん!』
スプリント戦で最後方に控えて直線一気の末脚に懸ける走りには驚いたし、結果は上位争いに絡めすらしなかったけど… 途中、進路を失って彷徨う時間が長かった。きっと進路が開けていても前には届かなかったと思うけど、それでも夢のある、アヤベさんを彷彿とさせるような末脚だった。
…クラフトちゃんの時も言ったけど、上位のウマ娘は必ずどこかのチームにスカウトされる。それに対して、下位のウマ娘は注目されず、スカウトされないことも珍しくない。でも、クラフトちゃんだって選抜レースは良くなかったけど、G1を既に2勝して世代の筆頭になった。そう考えたら… 私は、完成された宝石よりも、ダイヤモンドになりうる原石をスカウトしたい!
それに、ウォーミングアップの動きも悪くなかった。妹ちゃんに言われたからずっと見てたんだけど、動きも大きくやる気は感じたし、手を抜く素振りは全くなかった。荒削りなところも、トレーナーとして私達が何とかすれば絶対に良くなる。 …はず。
「少し… 時間をもらえるかな」
「はい…」
「ブルームトゥヘヴンさん。私はあなたをスカウトしたい。チームリラに… 来てくれないかな?」
「! はいっ! お願いします!」
「トレーナー室で待ってますので、また後で、詳しく話しましょう」
「はい♪」
…これは、スカウトできたかな? 他の子は… 気になった子はもう決まっていってそう。アヤベさんは… 元の場所に戻ってるみたいだね。誰をスカウトしたのか、確認にいかないと。
「クロノさん、ちょっと来て。この後喫茶店でスカウトした子と詳しく話すことになったから、一緒に来てほしいの」
「わ、私で大丈夫ですか…?」
「あなた以外にありえないわよ。リラの強みを伝えるには、あなたのデータが1番だわ」
「わかりました、準備してきます!」
「私は行けないから、頑張って」
「やるだけやってくるわ」
…誰をスカウトしたんだろう。あの場で決まらなかったってことは、決められないくらい色んなチームにスカウトされてた子なんだろうけど… そんな子と直接話す機会を確保したってことだよね。凄いなぁ… 口説きのプロかな?
「クラフトちゃん、この後はどんな感じ?」
「う〜ん… みんな、動きは良いです。でも、完成されてる感じで、特徴がないというか… 走ってみないとわからないですけど、そんな感じです!」
「あリがとう、2人で見よっか」
…この後は誰もスカウトせずにトレーナー室に戻ったよ。スカウトしたい子がいなかったわけじゃないけど、これと言った強みを掴めなくて… 私には上手く導ける自信が沸かなかったから、やめた。あの子は、あの子にあったチームに行ったほうが良い… そんなことを思っていたら、全員終わってたんだ。さ、私もトレーナー室に戻ろう。迎え入れないとだからね…
「…緊張します、どなたなんですか?」
「見ればわかるわ」
「わかります!」
喫茶店… もうレース後のクールダウンも終わって、解散したはず。まだスカウトを受けてるのかもしれないけど、そろそろ来てくれる時間のはず… あ、店主には伝えてあるわ。騒がしくなるかもだけど大丈夫かって。 …好きに騒いでくれと言われたわ。
「…トップロードさん、何してるの?」
「えっと… 暇で、ナプキンを蹄鉄みたいにしてました」
「そう…」
「う〜、緊張がぁぁ…」
「…店員さん、サラダをお願いします。 …クロノさん、すぐサラダが来るから、落ち着く為にも食べなさい」
「その子が来るのに、サラダは食べられませんよぉ…」
…大丈夫かしら、私も不安が高まってきたわ。大丈夫、大丈夫。両隣が不安しかないけど… トレーナーには頼れない。私が頑張るしかないのよ、アドマイヤベガ…!
「…! クロノちゃん!」
「グランちゃん…! え、アヤベさん…」
「…そうよ。グランアレグリアさん、自己紹介するわね。私はチームリラのサブトレーナー、アドマイヤベガよ。 …チームリラは知ってるかしら」
「もちろん! マイルの新たな道を切り開いた、新時代のマイラーチーム! …え! 運命ですね!」
「運命…?」
…この子、思ったよりも元気なタイプね。さっきは静かで落ち着いてるタイプに見えたけど… あれは人に囲まれてたからかしら? それか、中距離の話ばかりされてウンザリしてたのか… どちらにせよ、運命って何かしら?
「あたし、選抜レースの前に… クロノちゃんと一緒にいた、チームリラのトレーナーさんの言葉を聞いて、入りたいなって思ったんです! でも、さっきアドマイヤベガさんの言葉も聞いて、どっちにしようかなって揺れてたんですけど… 同じチームだったんですね!」
「琴葉さんもマイル大好きですもんね♪」
「あたし、チームリラに入りたいです!」
「あリがとう… 心から、あなたを歓迎するわ」
「話途中に申し訳ありません、ご注文のサラダになります」
「! これも… 運命ですね♪」
…何が何だかって感じだけど、スカウトは成功したみたいね…? この場を使わせてもらったわけだから、もう少し何か食べながら話して… そしたら、トレーナーに合流しましょうか。あの人も、何か言っていたみたいだし…
「──うん、あリがとう。これで、正式に契約完了だよ。今後の予定は追って話すけど… 目標はティアラ路線でいいんだよね?」
「はい、よろしくお願いしますっ」
「よろしく。一緒に頑張ろう♪」
「はいっ!」
ヘヴンちゃんとの契約も済んで、これでチームリラに2人目のウマ娘が加わったことになるね。 …厳密にはアヤベさんも含めて3人目だけど、実質2人目みたいなものでしょ。で、ヘヴンちゃんの話をしよう。名前はブルームトゥヘヴン、意味は〝天国に咲く〟とか、〝天国の花〟らしい。茶髪でロングヘアー、前髪に丸めの流星があって、髪形は… 今はだらんとおろしてるね。背は低め、クロノちゃんより少し小さいかな… 中等部の1年らしいから、今後大きくなるかも? 声はクロノちゃんに近くて、おしとやかな真面目ちゃんって感じ。後は… 左耳に髪飾りをつけてるね。赤い星に黄色と黒の花びらがついてるような髪飾り。☆の右上から花びらがピッて2本伸びてるの。 …伝わったかな。
「この髪飾り、綺麗だね。何で星形なの?」
「あリがとうございます。私、アドマイヤベガさんに憧れてて… それで、星形の髪飾りをお母さんに作ってもらったんです」
「私に?」
「ふえぇっ!?」「おかえり」
「サブトレーナーのアドマイヤベガよ、よろしく。トレーナー、1人連れてきたから契約書の用意お願い」
「アドマイヤベガさん…!」
「アヤベでいいわ」
アヤベさんに憧れて… それは良かったね。これから毎日のように会えるわけだし。 …で、アヤベさんは誰を連れてきたのかな?
「戻りました〜。あ、はじめまして」
「は、はじめまして! ブルームトゥヘヴンと言います!」
「ナリタトップロードです、これからよろしくね」
「戻りました。グランちゃん、ここがチームリラのトレーナー室だよ」
「ここが… 失礼しますっ! グランアレグリアです!」
「ようこそ… ヘヴンちゃんには繰り返しになっちゃうけど、また自己紹介をしようか」
グランアレグリア… もの凄い人だかりだったはずだけど、よくスカウトできたね… アヤベさん、あリがとう。で、グランアレグリアさんだけど… 髪は鹿毛の茶髪のツインテールで、前髪に特徴的な『6』の字のような流星があって、左前髪に赤バッテンのヘアピン… って感じかな。あ、左耳にピアスも何個かある。背は… クラフトちゃんより大きいかな。
「私がこのチーム、リラのトレーナー、琴葉葵だよ。大抵のことは私に聞いてもらえれば何とかなるから、すぐに言って。 …これからよろしくね。次はアヤベさん」
「サブトレーナーのアドマイヤベガよ。主に事務作業やトレーニングの手伝いをしているわ。よろしく。 …クロノさん」
「はいっ、データ分析及び作戦立案を担当しているクロノジェネシスです。これから、よろしくお願いします。次は…」
「私ですね! ナリタトップロードです! 今はサブトレーナー目指して、修行中です! よろしく!」
「現役のラインクラフトです。先輩です! 頼ってくださいね!」
「…と、こんな感じかな。次は、2人の自己紹介をお願い。私達も、2人のことをもっと知りたいから」
「ブルームトゥヘヴンです。アドマイヤベガさんに憧れて、トゥインクル・シリーズに来ました。これから、よろしくお願いします…!」
「グランアレグリアですっ! マイルの頂点に立って、3階級制覇が夢です! よろしくお願いします!」
まだ現役よりもスタッフの方が多い状況は変わらないけど… チームとしては、第2章に入った気がする。クラフトちゃんだけを考えるのでなく、チーム全体を考える… 難しくなるけど、絶対にやり遂げよう。私には、信じれる仲間達がいるんだから。絶対、なんとかなるはずだから…!
『わたしもいるよー! …声聞こえてないと思うけど♪』
…妹ちゃんの声、アヤベさんに聞いてもらったほうがいいのかな。授業中とかはイヤホンもダメだから、昼間はアヤベさんじゃなくて私の方にいてもらってるんだけど… 妹ちゃんも、私なんかよりアヤベさんと一緒の方が嬉しいだろうし。 …今はそんな話できないから、後で寮に戻ってからかな。アヤベさんも来ると思うからね。
後… 今年の夏は、今のうちから考えないと。最悪の事態は訪れないでくれと願ってるけど、私が怯えちゃってトレーニングに支障は出る… と、思う。今は平気になったけど、その時が近づいたら不安になって、平静を保てないって自分でも思うから。だから… 早目に予定表を作って、アヤベさんに代わりに指揮を執って貰えるようにしておこう。先の話であるけど、忘れたらまずいし…
…グランアレグリアちゃんとブルームトゥヘヴンちゃん。2人の存在が、クラフトちゃんにも刺激になってくれるといいな。2人ともティアラ路線・マイル路線っぽいし、走りに良い影響がありますように… そして、みんなで秋に辿り着けますように…
「…それでは、今日は解散! みんな、選抜レースで疲れてるだろうから、しっかり休んで。次の集合は明日の放課後ね」
「あの! それなら、今からみんなで星を見に行きませんか? 2人も、よければ…!」
「行きます!」「は、はいっ」
「…私が助手席ね」「久し振りの天体観測ですね」「色々勉強しました…!」
これから、まだまだ大変なことは多いけど… 前向いて、頑張ろう。
「………」
「あの… ずっと見られていると、少し恥ずかしいのですが…」
「あぁ、ごめん。何か… 懐かしい感じがして」
「懐かしい…?」
「トレーナーが突飛なことを言い出すのはいつもだから慣れたほうが楽よ」
「わ、わかりました」
(…前世で似たような馬を見たことあるのかな?)