琴の音に耳を澄ませて 作:緑雨
「…バ場は合ってそうね」
「予報通りならここからレースの日まで天気は晴れのまま。運は向いてるね」
「もう少し… 走って確かめたいです」
「わかったわ… 少し休んだら、もう1本併せましょう」
時間の流れは早いもので、もう金曜日だよ。今はスクーリング、クラフトちゃんに阪神レース場を試してもらってるところ。もちろん、ここで疲れをためると不味いから、アヤベさんと緩く併走してるだけだけどね。
バ場は梅雨時にしては珍しいほど乾いた良バ場、クラフトちゃんの陽の気が雲を晴らしたのかな? 予報通りなら土曜も日曜も晴れだから、今日と同じだと思う。ペースは速くなりそうだし、昨日までに話し合った想定と近くなりそう。
レースの情報を説明しよう。コースは阪神外回りのBコース、1600m戦。阪神だからもちろん右回りだよ。このコースの特徴としては、スタートが向こう正面の真ん中より少し左側で、最初のコーナーまでの直線は約444m… だったかな? まぁ、そこそこ長い直線だから、コーナーまでに入りたい位置には入りやすいと思う。コーナーは大きく膨らんだ形だからペースはそこまで落ちないし、下り坂だからスピードも乗りやすいはず。で、最終直線が長くてゴール手前に上り坂。総合すると、前でも後ろでも戦えるコース形態、かな。直線が長いから後方勢も追い込みやすいし、コーナーが大きい分ロスなく内を回って逃げ切りもある。共通して言えるのは… 長い最終直線でいかにスピードを出せるか。コーナー回りきってからのスパート勝負… っていう認識でいいと思う。
「失礼しまーす… えっと、ここの打ち合わせなんですけどぉ…」
「…周りに人は居ないから、芝居しなくて大丈夫だよ?」
「…ですね! えっと、気になったことがあって… コーナーに入るところなんですけど、あそこは内に入られないように詰めておいたほうがいいかもしれません。外に弾き出されると、ロスが大きいので…」
「…確かに、阪神のコーナーは大きいから外を回るのは嫌だね。内に入りこまれるのは気をつけたほうがいい、ありがとう」
「役に立てて良かったです! …っと、記者の方が来たので隠れますね…」
「変装してるし大丈夫だとは思うけどね…」
私がいるのは客席の最前列、ターフのすぐ目の前のところね。で、トップロードさんは椅子を使って人目につかないように隠れて、話すときだけ飛び出てきてる。 …隠れてる方が目立つ、っていうのは秘密ね。
っと、レースの想定について話してなかった。出走人数は8、1枠から8枠まで1人ずつでわかりやすいかな。トゥインクルシリーズが幾ら大規模と言っても、メイクデビューからフルゲートになることはそうそうないみたい。まぁ… トレーナー不足が深刻って話も考えると、走りたくても走れないウマ娘がいるだけで、本当はフルゲートになるだけのウマ娘はいるのかな。考えても仕方ないか、話を進めるよ。
クラフトちゃんは4枠4番、真ん中の枠だね。枠順は普通、かな。コーナーまでに内に入りたいわけだけど、まず2枠2番の子が逃げるはず。トレーニングを見ても、入りからスピードが出せてそのまま逃げ切る展開を狙ってくるはず。
逆にその横、1枠1番と3枠3番の2人は後ろ。特に3番の子はゲートからスピードが出せるタイプではないから、間違いなく後方に下げる。1番の子も前には来ないと思うけど、先行してもおかしくはない。1番の動き次第だけど、内には入りやすいはず。
クラフトちゃんより外を見ると、5枠5番の子はトレーニングのラップが後ろ偏重、というか上がり… 最後の事ね。その時計が良いから追い込んでくると思う。6枠6番の子は逆に上がりの時計に強みはなくて、スタートから前で前で押し切るタイプ。瞬発力勝負、スパート勝負になるのは間違いないこのレースでは苦しいはずだから、絶対に逃げ切りにいく。
7枠7番の子は5番以上に追い込み特化な形かな。アヤベさんに近いような、最終直線だけでレースを終わらせにくるタイプ。まぁ… 警戒のしようがないよ。向こうは好きに走ってくるだろうから、こっちも好きに走る。それしかない。
8枠8番の子は特に怖いね。クラフトちゃんに近い位置で進めてくる、先行タイプ。だけど、上がりのタイムも今回のメンバーの中で上位なんだよ。先行と追い込みを合わせたような、そんなウマ娘。さっきトップロードさんが言ってたように、この子に内を切り込まれたら不味い。上がり勝負でも勝てる自信はあるけど、距離のロスが生まれると危険だから。
作戦としては、理想は2番と6番に逃げてもらって、その後ろ、内側につける形。それで8番に外を回らせて、コーナーのタイミングで逃げ2人の内を突くか間を突く。外は回りたくない。後方勢に関しては、意識せずに届かないと信じて走る。下手に後方勢を意識して塞ぎに行く方がリスクが大きいしリターンもない。怖いけど、先行押し切りにかける。その方が、勝てると思う。
「どうも、順調ですか?」
「乙名史さん、お久しぶりです。順調ですよ。今日はどうしてこちらに?」
「ラインクラフトさんがデビューすると聞いて、スクーリングを撮影させていただこうと思い、伺いました。よろしいですか?」
「もちろんです。ただ、ネット記事を投稿するのはレース直前まで待ってもらえると助かります」
「何か隠したいことがあるんですね? わかりました、レース直前まで温めさせていただきます」
「口止め料として、こちらをどうぞ。出走するウマ娘のデータです」
「! これが噂の… ありがとうございます」
アヤベさん達にも配った、例の6部ある資料だよ。乙名史さんは忙しくて全部は知らないだろうから、プレゼント。 …それに、詳しい記事を書いてもらえたほうがレースの注目度が上がる、でしょ? 勝ち負けはまだ分からないけど… 応援は力になる、そう信じてるから。1人でも多くの人に、レースを見てもらえるといいね。
後1部残ってるんだけど、これは渡せるかな? 誰に渡すかは決まってるんだけど、阪神レース場に来てくれるかどうか… 連絡先もないからわからないけど、この資料を喜んで貰ってくれそうな人を1人だけ知ってるから、渡したいんだよね。 …この間のお礼も兼ねて。
「…あれ? 尻尾が見えますけど… こちらにいらっしゃるのは?」
「えっ、あぁ…」
「お、お願いします… どうか、どうか秘密に…」
「ナリタトップロードさんっ!? も、もちろんです、ウマ娘のプライベートを記事には致しません。ただ… 心身の休養の為に旅行していると聞いていたので、驚きましたが…」
「あれは嘘なんです… 本当は、クラフトちゃんの応援に…」
「あまり… 余計なことを喋らないほうがいいかもよ…?」
「はっ!? い、今のも秘密で…」
「安心してください、全て見なかった、聞かなかったことに致しますので」
「助かりますぅ…」「ありがとうございます…」
まぁ、バレないわけがないよね。でも乙名史さんでよかった、乙名史さんはウマ娘第一な人だからね。 …話してばかりじゃなくて、クラフトちゃんの調整にも向き合わないとね。
「内を閉める、確かにその方がいいわね。開催最終週で、内のバ場が少し傷んでいるのが気になるけど…」
「確かに、バ場の状態は気になるね… アヤベさんはどう感じたかな、内を避けたほうがいいくらい荒れてる?」
「…避ける必要はないわ。そこまでは… 悪い状態じゃない。嫌がる必要はないわ、内を攻めましょう」
「わかった、それなら迷わず内で行こう」
「えっと、スタートしたら2番のウマ娘に前を行かせて、それについて前に進みつつ内に寄って、コーナーに行く。で、あってますか?」
「オーケーだよ」「あってるわ」
スクーリングも終わって、ホテルの部屋で作戦会議。コースが描かれたお手製のシートに、色付きの駒を置いて話し合い。4枠だから青、みたいな感じ。
アヤベさんが内のバ場も通れるって言ってるし、作戦はシンプルで良さそうだね。道中は逃げの後ろで、内の仮柵沿いを進む。最終直線になったら逃げてるウマ娘を捕まえて、そのままゴール。8人だけのレースだし、前が塞がることはないはず… 一瞬、進路が見つからなくても、最終直線は長いから間に合う… と思う。クラフトちゃんより前で走るのは2人だけだと思うから、これで進路がなくて走れないってなったら… 運がなかったと割り切るしかないかな。
「意識するのは、内を回ること… だけでいいですよね?」
「うん、そうだね。それ以外は、レース中のクラフトちゃんの判断で動いていい」
「選択肢は… 私達が、いくらでも提供するわ。だから… 好きな道を通りなさい」
「どんな道でも、クラフトちゃんなら必ずトップに辿り着けます! 自信を持って、頑張ってください!」
「はいっ、頑張ります!」
「…走るは明後日よ、今からそのテンションでは保たないわよ?」
作戦会議、まだまだやることはあるんだから。レースは予想通りにはいかない、だから沢山予想する。色んなパターンを予想すれば、的中する確率は上がる。1%で当たる予想でも、10個予想したら10%だからね。 …まぁ、そんな単純じゃないんだけど。レースの予想は、何百個しても終わらないくらい、可能性で言えば無限にあるから。その中でも、確率の高いケースを対策しつつ、確率の低いケースも頭に入れておく。それが… 大切。
「…当日、か。あー、緊張してきた」
「メイクデビューは第5
「う〜、不安です…」
「…少し外を歩く?」
「そうします…」
「トレーナー、レース1時間前には控室に行くわ。それまでは… トレーナーも、休んでなさい」
「うん… パドックでも見て休んでるよ」
「…レースじゃなくてパドックなのね」
6月最終日曜日。クラフトちゃんの、メイクデビューの日。緊張するなとか、落ち着いてろとか、無理だよ。アヤベさんは凄いな… ダービーを勝ってるんだもんね、緊張には慣れてるか。私も… いつかは慣れるかな。まだ第1
「へぇ… こんな形なんだ」
パドック、元の世界で見慣れたものとは少し違う。まるでシアターのような門があるから、きっとあそこから登場するんだろうね。そして、広間のような場所を好きに歩いてレースに備える… なるほど、レースに出走するウマ娘の紹介場所、って感じかな。
「昨日のレースを考えると、先行有利… しかし第1
この声は… あの端の席に座って何かメモを書いている、芦毛のウマ娘… 前にトップロードさんとクラフトちゃんの併走を一緒に見た、レースに詳しいウマ娘さんだ。ちょっと挨拶に行こう。 …一般の入場ってまだだけど、どうしてパドックを見ているんだろう?
「お久しぶりです、おはやいですね」
「!!! お、お久しぶりです。広報委員なのでここにいるだけであって、決して不法侵入では… あれ、あなたもどうしてこの時間に?」
「担当のウマ娘が第5
「トレーナーだったのですね。すいません、失礼なことを… 第5
「ラインクラフトですよ、前に一緒に見たじゃないですか」
「!!!! そうだったのですね…! あの時は、何も知らずに失礼なことを…」
「気になさらないでください、私が名乗らなかっただけですから。それに、あの時意見をいただけて、感謝しています」
名前も知らない芦毛のウマ娘、再会できてよかった。学生さんだし、私が知らない情報を持っているとはあまり思えないんだけど… データの使い方は、この人に聞けばわかると思ってるから、会いたかったんだ。あの時も思ったけど、今日会って確信したんだ。この人、予想家だって。
勝ち負けを予想して馬券を買う、半年前の私みたいなタイプではないよ? 純粋な気持ちでレース展開を予想して、予想通りに行くと嬉しいタイプ。この世界に馬券があるのか知らないけど、トレセン学園の生徒ならそもそも年齢的に買えないか。でもこの子は、レースを楽しんでる感じがするから、あっても買わないと思うけど。
「えっと… まず、名乗らないと、ですね。私はクロノジェネシスと申します」
「クロノ、ジェネシス… さん」
…えぇ。ただのレース好きなウマ娘だと思ってたのに、凄いウマ娘じゃん… この感じ、デビュー前なんだろうけど、クロノジェネシス、かぁ… いや、下手に意識しない方がいいね。未来は誰にもわからないんだから、気にしないでおこう。でも、クロノジェネシスかぁ…
「クロノジェネシスさん、難しいかもしれませんが… 第5
「お任せください…! 鍵は、2番のウマ娘の逃げだと思っています。自由に逃げる展開になれば勝利は近づきますが、同じ逃げの6番、更に先行策の4番が楽には逃がしてくれないはずです。このレースは前目でレースを進めるウマ娘が強力ですから、2番が逃げ切るのか、4番が捕まえるか、その対決だと思っています!」
「なるほど… ありがとうございます。お礼と言ってはなんですが、こちらをどうぞ。出走するウマ娘のデータです。要らなければ、燃やしてしまって構いません」
「あ、ありがとうございます! これだけ詳しいデータがあれば、もっと…」
2番と6番の逃げ、その後ろに4番のクラフトちゃん… 私達の立てた予想と概ね同じ感じだね。後方勢を意識していないのも同じ… まぁ、安心かな。勝ち負けはわからないし、聞かないけど、展開の予想が間違ってなかったってことだから。少し… 自信はついた。正しいって確証はないけど、的外れではないってことだからね。
「1週前にこの時計… 更に前の時計も考えると…」
「隣で、私も予想しますか…」
「そうです! なので、ここは2番を軸に先行勢の決着になると思います!」
「5番はどう見ますか? 中段後ろで回ってることが多いですけど、今回のメンバーなら先行もあり得ると思うのですが…」
「5番は… あると思います。先行策が取れないわけではありませんから、先行して中団から抜け出して… ただ、一着は厳しいと思います」
「なるほど…」
今はクロノさんと予想中。次のレースはクラシック級の未勝利戦、芝2400m。データが殆どないんだけど、先行勢が強そうなのはわかる。お互いに包み合ったりしなければ、先行勢で決着は間違いないと思うな。
「…トレーナー? 時間見て」
「ん、アヤベさん… もう1時間切ってるじゃん! すいませんクロノさん、お先に失礼します」
「はい、応援しております」
アヤベさんに言われなければ、気づかなかった… というか、よくわかったね。私がパドックを見ているって。助かったけど、私何か言ってたっけ… 多分、ずっと探してくれてたんだよね。本当に… 申し訳ないな。
「こっちよ」
「ありがとう… ごめん、時間を忘れてた」
「別に… 緊張が解れたわ」
「アヤベさんも、緊張してたの?」
「少しね… あなたも、朝は緊張してたようだけど、大丈夫かしら?」
「最初は緊張したけど、もう楽になったよ。それに、私にできるのは、信じて待つことだけだから」
「…ベテランみたいなことを言うのね」
「そう? でも、そのほうがいいでしょ?」
「…そうね」
アヤベさんには後で何かお礼を渡すとして… 今はクラフトちゃんのことに集中しよう。今いるのは… 一昨日に確認したからわかる、確かこの廊下に控室があるはず。廊下というか… 本バ場にも繋がってる、地下バ道だから凄い場所なんだけどね。
「クラフトさん、入るわ」
「はーい、開けますね!」
「ごめん、遅れて」
「話はこっちで。外で騒がないで…」
「こちらをどうぞ、バ場状態とこれまでのレース結果の資料です」
「ありがとう、トッ… さん」
レース結果はわかってるけど、クラフトちゃんにバ場を説明するのに使えるかな。ずっとパドックでクロノさんと話してたからね、私はわかってる。でも、言葉にできなかったら意味ないから… 説明に使わせてもらおう。
「今日の芝のレースは、前で押し切れる状況だよ。後ろからも届かないわけじゃないけど、よほど力がない限り届かない。だから、想定よりも前目の位置取りを意識してほしい。2番のすぐ後ろにつけて、最終直線で前に出る、そんな感覚でオーケー。責任は私が取る」
「異論はないわ。私も… それがいいと思う。これで負けたらクラフトさんの責任ではないわ、安心していきなさい」
「前で行って、直線で先頭… わかりました! やってきます!」
「クラフトちゃんなら勝てます! クラフトちゃんは強いです! 私が、保証します!」
「応援、ありがとうございます! 必ず、勝ってきます!」
「…レースまで、まだ30分はあるわよ。そういうのは… もう少し後にしなさい」
…そうだね。クラフトちゃんもトップロードさんも、胸に握り拳を当てて、今すぐに走るような雰囲気だから… でも、その気持ちもわかるな。レースは一発勝負、やり直すことはできない。たった2分にも満たない時間で全てが決まる… 気合いを入れ続けていないと、不安になって押し潰されてしまう。緊張と、不安と、好奇心… 自分でもわからない、感情の渦に囚われたような感覚なんだよ。だからこそ… 私は、落ち着かせないと。
…アヤベさんが落ち着いていて、トップロードさんが緊張しているのは逆じゃないかな? アヤベさんが緊張して挙動不審なイメージはわかないし、トップロードさんが静かに椅子に腰掛けてるイメージもわかないけどさ… アヤベさんはサブトレーナーとしてプレッシャーとか感じないのかな。
「さ、少し雑談でもしない? 私は軽いシリアルバーを食べたけど、みんなはお昼、何食べた?」
「食べてません!」「食べられなくて…」「…普通に定食を食べてきたけど」
「食べてない2人は、何か食べなくて大丈夫?」
「朝ごはんを遅らせたので、大丈夫です! 体重管理も、ばっちりです!」「私は何も食べてないだけなので、大丈夫じゃないですけど… 後で食べるので、心配しないでください」
「それならよかった」
…レースまで、適当な話で場を持たせよう。
「…でね? そこで食べたマカロンがまた美味しくって… どう、今度行く?」
「行きたいです!」
「それに、その近くにコンサートホールがあってね。私が行った日は綺麗なヴィオラのソロコンサートで、心が震えてさ。本当に楽しかったよ」
「なら、デザートを食べたら行きましょう! 日付、調べておきます!」
「…楽しく話してるところ悪いけど、クラフトさんはもう準備して。パドックまで案内するわ、ついてきて」
「は、はいっ!」
「…悔いのないように、楽しんできて」「頑張ってください!」
私はどこから見るか… スタンド、いや控室… そうだ、トップロードさんに聞こう。
「トップロードさん、私はどこに行けばいいかな」
「えっと、控室に待機して、あのモニターでレースを見ます! それで、レースが終わったら… クラフトちゃんを、迎えに行きます!」
「わかった、トップロードさんはどうする?」
「実は、URAが私専用の部屋を用意してくださったんですが… この控室を出るタイミングを逃してしまったので、ここで琴葉さんと一緒にレースを見ます!」
あぁ… 確かに、トップロードさんが今控室を出ると他のウマ娘に鉢合わせちゃうのか。これから走るウマ娘が萎縮しちゃうかもしれないし、動けないよね… クラフトちゃんの事はアヤベさんに任せて、私とトップロードさんはここで応援しよう。
「あ! 次、クラフトちゃんですよ!」
「緊張は… してなさそうだね。よかった… そのまま、走ってきて…」
「アヤベさんもチラチラしてますよ!」
「ふふ、本当だね。壁の後ろから… 大きな耳が飛び出してる、顔は映らないように気をつけてるみたいだけど… アヤベさんってわかっちゃうね」
「ですね!」
パドックにクラフトちゃんが入場。入口からアヤベさんの耳が飛び出してるけど、心配でずっと見てくれてるんだろうね。 …あ、いなくなった。そろそろ次の子が入場するから退かされたのかな。クラフトちゃんも落ち着いてるし… 焦らず、気負わず、その調子で…
「本バ場入場… もうすぐスタートか」
「ですね… クラフトちゃん、しっかり動けてますし、大丈夫、ですよ」
「…信じよう」
本バ場入場、返しウマ。実際に走るコースで、ウォーミングアップとして軽く走りながらゲートに向かう。クラフトちゃんは… 大丈夫、まだ落ち着いてる。いつも通り、軽く走って… うん、問題ない。この調子なら… いけるはず。
「もうゲート入り…」「ゲート入りの時間ですね…」
「しっかり、入って… 大外の子が入った」
「スタートですね!」
レースが始まった… クラフトちゃんはゲートを上手くでてくれたかな、抜群のスタートではないけど前目に楽に出れた。他には… 逃げの2人もしっかり出てる、だから予想通りに進みそう。バ群は少し縦長…? メイクデビューならよくあることかな、レース経験のないウマ娘ばかりだろうから。
「ペースはあまり速くない、ですね」
「このペースなら、切れ味勝負か…」
「ここからコーナーですけど、内に入れてますね」
「…バ場の問題はなさそうかな、傷んだバ場で走りづらいとは思うけど、前とは離されてない」
「前の2人が競り合ってスピードを上げてますね。クラフトちゃんは、ついていかないほうがいいんですけど…」
「…ついていってない、自分のペースで走ってくれてる。よかった…」
…人とレースを見るの、楽しいな。思ったことは全部話しながら観戦しよう。
「3コーナーで少し離されたけど、絶対に前が垂れるはずだから、届くかどうか… って感じかな?」
「ですね! 4コーナーも綺麗に回って… さぁ、最終直線ですよ!」
「こっから一気に、行け!」
「す、すごい脚ですよ! 2バ身差ありますけど、これなら届きます!」
「届くというか、もう並んだ! 残り200!」
「後ろは… すごい、離してます! すごいです!」
「一着でゴール… 迎えに行ってくる!」
「間に合った… 行くわよ、トレーナー」
あ、アヤベさんが走って迎えに来てくれた… よし行こう、クラフトちゃんの場所まで。
「やりました! 勝ちましたよ!」
「おめでとう、クラフトちゃん!」「おめでとう」
「ティアラへの第一歩… 踏み出せました!」
「本当に、凄かったよ。軽やかに、力強く… 一瞬で、差し切って。本当に… おめでとう!」
「…これで終わりでなく、ここがスタート、気は抜けないわ。 …でも、今だけは。素直に、喜びたいわね。何度でも言うわ… おめでとう、クラフトさん」
「ありがとうございます! ウイニングライブも頑張りますね!」
「その前に… 1回、控室に戻ろう。待ってる人もいるから」
「そうでした!」「そうね…」
クラフトちゃん、走り終わった直後でも元気だな… それがいいところ、なんだけどさ。今いるのはウィナーズサークルの近くの地下バ道。クラフトちゃんが応援してくれた人に手を振り終えて、走ってきたところを待ち構えてたの。
下から、手を振ってるクラフトちゃんのことを見てたんだけど、楽しそうだったよ。笑顔で、ファンサービスして… 今日デビューしたばかりだけど、そこそこ人が集まってたのは嬉しかったな。クラフトちゃんを応援してくれる人は、多いほうが嬉しいよ。まぁ… プレッシャーも増えるんだけどね。プレッシャーは私が背負うから、クラフトちゃんには応援を背に楽しく走れるようにしてあげよう。
「お疲れさまです! すごく、すごかったです!」
「ありがとうございます! トップロードさんに教えていただいた走り方、実践できました!」
「それは良かったです! でも、今回はクラフトちゃんの力ですよ。私が何かしたんじゃなくて… クラフトちゃんの力で、勝利を掴み取った、んです!」
「えへへ… そう言われると、嬉しくなっちゃいます」
「…座って、少し休みなさい。疲れたでしょう?」
「そうですね… 椅子、ありがとうございます」
トップロードさんも、アヤベさんも、心から笑って、幸せそう。満面の笑みなトップロードさんと違って、アヤベさんは含み笑いのように口を閉じて隠したような笑い方だけど… 声を聞くと、よくわかる。いつもより声のトーンが高いんだよ、喜んでるのがよくわかる。 …多分、みんなからは私も同じように見えてるんだろうね。実際、今でもゴール板を通過したあの時の景色が、頭を離れないくらいには… 嬉しくて、幸せだよ。
「…トレーナー、少し外に」
「ん、わかった」
「…はっ! クラフトちゃん、今のレースの振り返り、しませんか?」
「します!」
アヤベさん、神妙な雰囲気で話しかけてきたけど… さっきも言ったとおり、嬉しそうな笑みを隠しきれてないから、全然真剣な感じがしてこない。多分、真面目な話なんだけど… 大丈夫かな、ちゃんと目を見て話せるかな。
「クラフトさんをスカウトした時に、あなたが言った言葉の意味が、私にもよくわかったわ。ティアラの夢… 確かに見えた」
「それはよかった。こんなに早い時期から意識することじゃないのかもしれないけどね…」
「…次走はどうするつもり? 早めに… 明言しておくのもありよ」
「…他のウマ娘に、牽制するってこと?」
「そう。重賞ならそうはいかないでしょうけど、そうでないなら… 早めに言っておけば、他の有力なウマ娘は回避する可能性が高いわ」
「…それなら、言わないでおこう。次は負けても桜花賞までは余裕がある。 …クラフトちゃんの将来を考えるなら、負けてもいいから強い相手に挑まなくちゃ」
「あなたなら、そう言うと思ったわ。明言しないなら、ゆっくり決めましょう。焦る必要はないもの」
次走は、どこにしようか… 夏の
「…戻りましょうか。トップロードさん達の振り返りも終わってるでしょうから」
「そうだね… クラフトちゃんをもっと称えにいこう」
「それはいいけど… すごかった、以外の言葉も使いなさいよ。少し… チープに聞こえるわ。 …あなたのクラフトさんへの思いはわかっているから、もう少し言葉をなんとかしなさい。 …トップロードさんにも、よく言うことだけど」
「…善処するよ」
レースは終わった、今後の予定はまだ決めなくてもいい。ウイニングライブは見るけど、他にすることなく… ここで一段落、ってところかな。明日からは忙しく… ならないか。休みにする予定だから、忙しくなるのは半月後… よーっし、気合入れて… 次のレースまでに、もっと力をつけていこう!
「…疲れた」
「大丈夫ですか?」
「…静かにして」
「むぅ… はーい、静かにしまーす」
私よ、アドマイヤベガ。クラフトさんのメイクデビュー翌日、寮に帰ってきて、休んでいるところ。 …ホテルもいいけど、寮のほうが休まるわ。クラフトさんとの2人部屋が嫌なわけじゃないわ。ただ、慣れない場所で眠るのが苦手なだけ。クラフトさんに心配されるわけにはいかないから、堪えていたけれど… 遠征、好きになれるかしら。
…頭から、クラフトさんの走りが離れないの。常に考えてるわけではないわよ? だけど、休んでいると、ふと… あの時の景色が浮かんでくるの。トレーナーは、みんなこうなるのかしら。 …担当の勝利を忘れるトレーナーは嫌ね。
あの時は、クラフトさんを案内した後… 控室に向かう途中でモニターを見つけたから、そこでレースを見てたわ。今でも… 実況の声と、クラフトさんの走りが鮮明に思い出せる。
『1番人気のラインクラフトはここ、3番手の好位につけています』
スタートよく内に切り込んで、逃げウマ娘のすぐ後ろに控えた。軽く、楽に形で理想的な位置に入り、コーナーへ。
『前2人がペースを上げて競り合う中、ラインクラフトは少し離れて追走』
逃げ同士の競り合い、走る側になると凄く嫌な展開。私もいつも、最後に届くか不安に思いながら走ってた。でも、サブトレーナーとしてレースに向き合うようになった今は、安心感のほうが強かった。このペースなら前は潰れる、それに直線に向いた時に進路も開いた、ってね。クラフトさんがしっかりセーブして、無理に追わないでくれたおかげで… 勝てると、この時に思ったわ。
『一気にラインクラフトだ、これは強い!』
先行策から繰り出された、他を突き放す末脚。1人だけ、別の世界にいるように見えたわ。時間の進み方が違う、そう思ってしまうほど、周りとはスピードが違った。
…何度思い出してもいいわね。幸せな思い出は、何回だって、いつ思い出したって幸せな気分になれるもの。 …幸せでない思い出だって、忘れることはないけれど。
レース後に、ウィナーズサークルで手を振るクラフトさんの写真を撮ったの。地下バ道からね。ちゃんと許可は取ったわよ、運営に。その写真は、部屋に飾ってあるわ。 …あの子にも見てほしいから、ベッドの上に吊るして。紐が切れたら… 私の顔に直撃ね。小さな写真だけど…
…少し、眠たくなってきた。おやすみ。
「プランを2つ用意したんだけど、アヤベさんはどっちがいいと思う?」
「…聞かせて」
「夏場に1レース使って、その後はファンタジーステークス*1を叩いて阪神JFに向かうプランと、夏場は休んで秋に紫菊賞*2か芙蓉ステークス*3を使って、そこからファンタジーステークス、阪神JFに向かうプラン」
「…前者の方がいいと思うわ」
「私も同じ考えだけど、理由は?」
「純粋に、2000m戦を走れるとは思えない。少なくとも、今はマイルが限界よ」
「…そうだね。今はマイルから短距離のレースでいこう」
…トレーナーは、勝っても負けても考えることが多いわ。負けたらその理由を探して、改善して、次のレースに進むだけ… 今回のように、勝って自由にレースを選べる時の方が悩ましいわ。負けた理由に比べて、勝った理由は探しづらい… 今回は距離が勝因だと私は思うわ。
詳しく話す前に、レースのラップタイムを並べておくわね。12.7ー11.5ー12.4ー12.4ー12.8ー12.3ー11.2ー11.9、合計すると1分37秒2。合計タイムで見ると平均的、開催最終週と考えたら十分よ。ペースは… 3コーナーから4コーナーにかけての4ハロン目に出た12.4と、4コーナーから最終直線に向く6ハロン目にでた12.3の2つを見ればわかりやすいわね。前が競り合ってペースが速くなりすぎて、最終直線に向いたときには前が垂れて、7ハロン目に入る前に先頭が入れ替わった。個人ラップは、4ハロン目に0.4近く遅れているけれど、6ハロン目にその分の差が詰まった、そんな認識でいいわ。
「本当は中距離を試したいんだけど、ラスト3ハロンの時計を見ると、今は無茶したくないよね…」
「そうね… 流した、にしても遅れすぎよ」
「体力を削られる展開だったのは間違いないんだけど、11.2から11.9まで落ちるのはね… 1800mだったら、差されていたかもしれない」
「開催最終週の7ハロン目に出した11.2、これは数字以上に評価できるわ。 …だからこそ、距離を伸ばしたくないわね」
…これが、私達の見解。他のチームなら、ここから中距離に向かうのかもしれないけど… トレーナーも、私も、元からマイルの適性を高く見ていた。その上でこの時計。 …中距離よりも、マイルから短距離の方が輝けると思う。
「で、次のレースはどうしようか。早めに決めて伝えてあげたいんだけど…」
「…マイル戦で夏場に行われるレースなら、〝新潟ジュニアステークス〟を提案するわ。重賞だけど、出走はできるはずよ。それに… ハイレベルなマイル戦を経験するなら最適よ」
「確かに… 新潟なら、ついでに左回りも試せる。阪神と同じ直線の長いコースだし… うん、それでいこう。負けるとファンタジステークスを走れるか厳しくなるし、勝ちにいかないとね」
「ええ… 負けられないレースよ」
重賞には、無条件に出走できるわけではないわ。出走を希望した全てのウマ娘が走れると仮定したら、人数が多すぎる… だから、レースの結果によってもらえる… 収得点数、だったかしら。その点数が高いウマ娘が出走するの。他には、前哨戦に位置づけられるレースには優先出走権が割り当てられているから、点数が低くても、そのレースで結果を出すことで本戦に出走できるわ。
今、もっとも収得点数が高いウマ娘はメイクデビューを制したウマ娘達。つまり、クラフトさんも最高点数ということよ。だから、今なら好きな重賞を選べる。新潟ジュニアステークス以外のレースだって、自由に走れるわ。ただし、ファンタジーステークスはそうはいかない。ファンタジーステークスは11月前半なのよ、その時期になるとメイクデビューの点数だけでは足りない。足りる、可能性もあるけど… 確実とは言えないわ。
だから、新潟ジュニアステークスを勝たないといけないの。重賞は他のレースに比べて収得点数が高い。それに、ジュニア級からクラシック級にかけての重賞は数が限られるわ。それはつまり、1つでも重賞を勝てばジュニア級からクラシック級の間は同期に収得点数で優位に立てる。 …それだけの収得点数があれば、クラフトさんとトレーナーの目標であるトリプルティアラには出走できる。新潟ジュニアステークスはただのG3であって、G1ではないけれど… それに近いだけの価値が、確かにあるのよ。
「クラフトちゃんにこれでいいか、確認してくるよ。今は… どこにいるか、心当たりがあるから」
「そう、待ってるわね」
…クラフトさんが、この出走ローテを嫌がるとは思えないわね。予定は、きっとこれで決まり。後は… 休養が終わってからの、トレーニングへ。新潟ジュニアステークスは2ヶ月後。メイクデビューよりも、厳しいレースになることは間違いない。 …もう一度、仕上げるわよ。
「…人が増えたわね。どこまでファンを増やすつもりなの?」
「いくらでも増やします! それに… アヤベさんのファンも増えたんじゃないですか?」
「…そうかしら。何もしてないわよ」
「クラフトちゃんが勝ったじゃないですか。アヤベさんに指導されたいって言ってる子、見ましたよ」
「…そう言ってもらえるのは嬉しいけど、あなたと比べるのは失礼なほど少ないわよ」
「そう、ですかね…」
今は、7月1週の土曜。トップロードさんに呼び出されて、トレセン学園近くのカフェでコーヒーを飲みながら、話をしていたところよ。 …なんとなくで、窓際の席に座ってしまったの。外からもよく見える目立つ席に、変装もせずに。直接話しかけてくる人はいないけど、近くの席から見てきたり、窓の外の道で立ち止まったり… 昔はこんな場所にいても何もなかったのに、同じ感覚でいてはダメね…
「…お店の人にも迷惑かもしれないから、話は早く済ませましょう?」
「そうですね、済ませちゃいましょう。アヤベさんには招待状を渡したくて…」
「招待状… あぁ、夏合宿ね?」
「はい!「静かに…」
「あっ、すいません。去年と同じ、夏合宿の招待です。去年はチームの夏合宿に誘ったんですけど、今年から私、ソロで…」
夏合宿は、学園が主催して行うわ。だけど、申請はチーム単位でトレーナーが行うもの。私自身、興味はなかったから困ってもいなかったのだけど… 昨年、トップロードさんが一緒に来てくださいって招待状を渡してきたから、渋々ついて行って… トップロードさんのチームに紛れて、7月後半から8月後半にかけて参加したの。 …ただ、今の私が夏合宿に行く意味はないと思うのだけど。
「今回は、断らせて貰うわ。私は引退しているし、クラフトさんの面倒も見ないといけないから」
「そう言うと思ったので、もう1枚あります。クラフトちゃんも一緒に、どうですか?」
「…それなら、クラフトさんとトレーナーに確認してみるけど… そもそも、招待状って誰が作った何なの?」
「詳しく説明すると、長くなってしまうんですけど…」
「それなら大丈夫、後で調べるわ」
招待状について、トレセン学園に制度を確認したわ。まず、明確に制度としては存在していないそうよ。かといって、全く存在しない制度でもないそう。この制度について知るなら… 夏合宿に参加する条件から、説明する必要があるわね。
第一に、夏合宿はチーム単位で行うものよ。だから、去年の私や、今年のクラフトさんは参加できないの。たった1人しかメンバーのいないチームリラには、夏合宿に参加する資格はないのよ。夏合宿は人気のコンテンツだから、無条件に全員を参加させるわけにはいかない。海辺で遊ぶために参加する、そんな理由での参加を減らすために、チーム単位という縛りがあるの。チームに所属しているウマ娘が、勝手に遊び呆けることは… 基本的にないわ。そんなことをしたら、トレーナーからの信頼を失うから。
私達がチームなのに参加できないのは、その影響ね。トレセン学園として、全てのチーム、全てのウマ娘を管理することはできない。だから、1人だけのチームはまとめて夏合宿に参加できないように決まっているの。 …自分だけのチームを作って遊びに行ったウマ娘が、過去にいたんでしょうね。
そこで、招待状という制度をトップロードさんが作った。 …作ったのよ、昔からある制度ではないわ。なんなら、制度と言っていいほどの物でもない。なにせ、特例的に私を夏合宿に参加させる為の制度だもの。それに… 昔から、一部のチームで行われていたグレーな行為を、トレセン学園に申請したから作られた制度なのよ。
夏合宿に参加したくても参加できないウマ娘に対して、仲のいいウマ娘が自身のトレーナーに頼み、〝スタッフ〟として夏合宿に帯同させる。それが昔から行われていたこと。 …トレセン学園としても、夏合宿に参加するウマ娘が増えることは悪いことじゃない。それに、チームのスタッフとして参加するなら、トレーナーが明確な責任者となる。だから… 黙認されていた。
トップロードさんは、自分が責任を取るからアドマイヤベガ… 私を、夏合宿に連れて行かせてほしいと直談判したらしいわ。 …スタッフとしてチームに帯同させることと、やっていることは何も変わらないわ。責任をトレーナーが取ることも含めて、全く同じ。トレセン学園としては、この提案を却下することはできず… これを機に、制度として定めることになったそうなの。
…招待状の説明はできたかしら。長くなったけど、要約すると… 夏合宿に本来参加できない生徒を参加させるための制度、ということよ。
招待状のことは、トレーナーにもクラフトさんにも伝えたわ。返答はまだないけど、来週末までには返ってくるはず。夏合宿で調整して次走に向かうことも含めて、結論は… すぐにわかるわ。
…今年は七夕、何もせずに終わってしまったわ。忙しくても、何かしようと思っていたのに。 …落ち着いたら、星を見に行きましょう。あの子に、プレゼントを持って。
「…本当に1人なのね」
「みんなと同じ場所だと、混乱が起こっちゃうからと… 隔離されました」
「あの、トレーナーさんはどうしたんですか?」
「私のトレーナーはチームの方にいます! 琴葉さんは、許可が降りませんでした!」
「そうなんですね…」
…トップロードさんは、トレーナーから信頼されてるのよ。1人でもトレーニングができる、1人でも体調管理ができる、全てを任せても問題ないって。 …本心で言えば、トレーナーとしてはトップロードさんの夏合宿から離れるのは嫌だと思うわよ。だって、G1戦線で結果を出し続けているトップロードさんに、何かあったとしたら… トレーナーとしては、悪夢としかいえないもの。それでも、他のウマ娘を見ないわけにもいかないから… トップロードさんを1人にするしかなかった。 …トレーナーからしたら、私とクラフトさんには来てほしかったでしょうね。トップロードさんを1人にするよりは、部外者でも人がいたほうがいいもの。
あぁ、私のトレーナーは悲しそうにしてたわよ。夏合宿のことを知って、水着も新調してウキウキだったもの。 …ちゃんと、あなたは行けないと思うって何度も事前に伝えたわよ? それなのに、浮かれて… 制度の趣旨を考えたら、トレーナーが行けるわけがないのに。少し… 滑稽だったわ。
「今は7月半ばなので、まだ先の話ですけど… クラフトさんは途中で帰ってしまうんですよね?」
「そうなんですか?」
「8月4週の金曜日にはここを出て、新潟に行くのよ。 …合宿は8月4週の日曜日まででしょう? 殆ど、最後までいるわよ」
「なるほど、次走は新潟なんですね! それなら、抜群の仕上げをしましょう!」
「クラフトさんの状態は私がチェックするから、トップロードさんは自分のことに集中しなさい」
「です!」
新潟ジュニアステークスは8月4週、トレーナーがこれない分… 夏合宿の間に、私がクラフトさんの調子をレースできる状態まで持っていかないといけない。元々、トレーニングはトレーナーではなく私が主導していたから、問題はないけれど… 予定づくりから、全てやるのは骨が折れるわね。それに… トップロードさんも、私が見ないと。 …頼まれたのよ、トップロードさんのトレーナーに。踏み込んだことはしなくていいから、トップロードさんが無茶をしないように見張ってほしいって。
「ずっと話していても進まないわ。さぁ… はじめましょう」
「おー!」「はい!」
「ここです! …あれ?」
「すいません! 私の指示が悪くて…」
「そんな、わかりやすかったです!」
「わかりやすくても、正確じゃなかったらスイカは割れないわよ」
最初の週末、2人は楽しくスイカを割っているわ。 …割れたのは、トップロードさんだけだけど。私は参加しないわよ、参加したら楽に割ってしまうもの。 …指示する側の話ね、トップロードさんの指示では割れないわ。クラフトさんの指示でも… 私では、無理でしょうね。2人とも… 抽象的すぎるのよ。
それと、私が参加しない理由はもう一つあるの。学園に残っているトレーナーから、大量のデータが送られてくるの… 暇なんでしょうね。毎日、クラフトさんの様子も聞いてくるし… 少し面倒だけど、データは確認するし、様子も報告するわよ。さて、2人は…
「えっと、右に進んで、左向いて、下がって… ええっと、前で、また右向いて… あ、アヤベさーん…」
「…左20度、それで5歩、右に45度向いて2歩、左に25度戻して、そこよ」
「とぉー! あたりました!」
「流石です! どうすれば私も…」
「…それらしい角度と歩数を言うだけよ。角度が難しいなら、直角に曲がるだけでもいいけど。 …歩数を言わないと、クラフトさんは止まらないわ」
「なるほど!」「止まりませんよー!」
ほらね、私が言うとすぐに終わるわ。 …スイカ割りを、1時間も続けている2人が異質な気もするけど。スイカの周りをくるくる回って… 酷いものを見たわ。
「左に一歩、左に一歩、左に一歩です!」
「それ、後ろに一歩下がるだけよ」
「あれー?」
…スイカの話はやめるわ。あの2人には… 一生、遊んでてもらいましょう。夏合宿の話をするわ。トップロードさんがトレーニングを考えてきてくれたようで、砂浜を走ったり、山を走ったり、泳いだり、そんなところね。 …夏合宿が特別トレーニングにいいのかはわからないけど、楽しそうよ。メンタル的には… 普段の何倍も、有効なトレーニングになっていそうね。
夏合宿にトレーニング機材は持ってこなかったから、トレッドミル軍団の出番はないわ。持ってきたのは… ソリだけよ。砂の上でも引けば動く、重しが欲しかったから… 合宿地に向かうバスには積めなかったら、トラックで学園のスタッフに運んでもらったわ。 …タイヤなら、バスにも積めたかしら。ただ… ソリと同じ重さとなると、何個になるのか…
ソリとタイヤについては何度も悩んでいるの。 …それだけ、トレーニングは順調なのよ。ソリとタイヤの悩みなんて、普段なら考える余裕もないわ。今は、そんなことを何度も悩めるだけの余裕があるの。だって… そもそも、ソリを使う予定もないのよ? 使う予定もないのに、持ってくる方法を理由に悩んでるのだから… 無駄と言われても、仕方のないことね。
「ていやー!」
「よーっし! これで3つ目! みんなで食べましょう!」
「…1人で1つ計算なの?」
食べ終わったら、次のトレーニングの準備をしましょう。 …使う予定はないと言ったけれど、ソリの手入れをするわ。今のトレーニングは負荷が足りていないと思っているの、だから負荷を増やすためにね。 …せっかく持ってきたのだから、使いたいという思いもあるわ。
それじゃあ、準備してくるわね。
「…今年は遅れてごめんなさい。友達を連れて… 会いに来たわよ」
「友達です!」「はい!」
「騒がしいけど、あなたを想って来てくれたの… 歓迎してくれるかしら」
7月最後の週末、新月の日に近くの山に星を見に来たの。 …七夕に星を見れなかった分の埋め合わせ、と考えてもらっても構わないわ。天上には、有名な夏の大三角が輝いているわ。わし座のアルタイル、はくちょう座のデネブ、そして… こと座のベガ。私達のチーム名である〝リラ〟はこと座のこと。そして、ベガは… 私の名前にも含まれている星よ。七夕の物語に登場する、織姫のことを表す星としても有名ね。
「今日は… いつもよりも、星空が鮮明に見えるわ」
「このあたりには街明かりもないですし、抜群ですね」
「えっと、あの星がベガ… ですよね?」
「そうよ。それで、あっちがデネブ、向こうにアルタイル」
「いつ見ても、ベガは綺麗ですね…」
「…そう…」
星は果てしないほどの数が存在するわ。私も、殆どの星は知らない。そんな無数の星の中でも、私にとってベガという星は特別なの。自分と同じ名の星に思いを馳せるのは、普通のことなのだと思うけれど… あの星を見ると、胸が静かに、熱くなるの。
あの星にとって、私は遥かに離れた星にいるただの1ウマ娘に過ぎないことは、よくわかっているわ。けれど… あの星は、まるで家族のように、私の背中を… 押してくれている、そんな気がするの。 …気の所為だって、わかっているわよ。
でも… あの星は、私の妹と共に… いつまでも、私を見守ってくれている。いつまでも、私を導いてくれている… そんな、気がしてしまうのよ。だから… 私は毎年、あの星に会いに行くの。ありがとうって… 遥か空の上で、妹のことをお願いって… 伝えるために。
「………」
「アヤベさん、このお菓子はどうするんですか?」
「星へのプレゼント… だけど、食べてしまいましょう。ここに置いて帰るわけにはいかないから」
「スイカ持ってきたんですけど、割りませんか?」
「いいですね!」「どうして…?」
…スイカは持って帰るように、約束させたわ。だって、暗い上に坂で、段差だってあるのよ。ここは砂浜とは違うの、スイカに飽きたとかそういう話ではなく、安全性の問題よ。 …スイカ割り、好きなのかしら? 相手の言葉だけを信じて、見えない道を進んでスイカを砕く… クラフトさんも、トップロードさんも、トレーナーも、カレンさんも… 好きそうね、全員。
「そろそろ帰るわよ、2人とも…」
「ふぁ〜ぁ、帰ります…」
「で
「…限界なようね」
最近のトレーニングについて話していなかったけど… 今度にするわ。今は、この2人が耐えられなくなる前に… 山を降りて、ふわふわの布団に寝かせないと。山といっても、そこまで高い山ではないから… ライトを手に、一気に駆け下りるわ。
「…また、会いに来るわね 」
「……?」
「まだ止まらないで、いけるはずよ」
…返事は返ってこないわ、2人は水泳中だもの。泳ぎながら言い返してきたら… 余裕があるということだから、水泳継続ね。もちろん、何かあったら助けられるように浮き輪も用意してあるわ。 …私は今、両腕に浮き輪を通し、ストップウォッチを手に砂浜を歩いているの。2人について歩かないといけないのだけれど、動きづらいったら…
「…タイムが落ちてきたわね。2人とも終わり、上がって」
今は8月最初の金曜日。 …合宿中は、曜日なんてあってないような物だけど。水泳トレーニングは、クラフトさんの心肺機能や持久力… いわゆる、スタミナを向上させることを目的にしたものよ。トップロードさんが一緒に泳いでいる理由は… 泳ぐのが好きだから、じゃないかしら? …真面目に言うと、衰えないように、でしょうね。今の時点で、トップロードさんのスタミナは最高点よ。鍛える目的ではないわ。
「飲み物よ。 …海水ではないから、安心して飲みなさい」
「アヤベさん特製のすごい… いいドリンクですね!」
「市販のスポーツドリンクよ」
「そこに何かを…?」
「…何か作って欲しいの? 知識はないけど、作れと言われたら作るわよ」
「アヤベさんが作ってくれたものなら、BLTドリンクでもなんでも飲みます!」
「その3つでサンドイッチ以外になることはないわ」
…思ったよりも、2人とも元気だったわ。これなら… もう少し、泳がせておけばよかった。苦しめたいわけではないわ… 限界まで追い込んだほうが、トレーニングになると思っただけよ。水泳なら… 脚を痛める心配はない、はずだから。
「ふぅ… 少し休めたので、私は走ってきますね。もう少し追い込みたいので」
「それなら、わたしも行っていいですか?」
「許可できないわ。今の状態で砂浜を走れば、怪我するわよ」
「う… わかりました、我慢します」
1番気をつけないといけないことは、怪我よ。怪我を恐れてトレーニング不足になると負けるから、怪我を恐れずトレーニングするべきと言う人もいるけれど… 怪我してしまったら、完治するまでの間はトレーニングが行えず、レースを走ることもできない。怪我を恐れてトレーニングを抑えても、1が0.9になるだけよ。それが、怪我をすれば1が0になるのよ。 …実際は、精神面、肉体面ともに、0よりも下に陥ることが多いわ。だから… 私は、怪我だけはさせない。 …走る楽しさを、嫌な思い出で塗り潰してほしくないから。
「そうですよ、常に全力も大切ですけど、怪我には気をつけないと… 私みたいに、トレーナーさんに苦労させちゃいますから」
「真面目に走り続けて脚を痛めた果てに三冠を成し遂げた、あなたが言うのね」
「うっ… でも、私が活躍したのは、トレーニングで脚を痛めなくなってからですから。脚を痛めてでも無理をしたほうがいい、なんてことにはならないはず… です」
「わかってるわよ、少しからかっただけ」
「アヤベさん、活き活きしてましたよ」
「…そんなことはないわ」
…怪我に気をつけながら、トレーニングを進めるわ。
「アヤベさん、やっぱりここにいたんですね」
「ええ… 静かに、星を見たくて」
「砂浜からでも、よく見えますね」
「そうね… 大三角も、周りの星々も、映えているわ」
「ベガは… あの星ですね?」
「そうよ」
8月2週、日曜日。夜の砂浜で、1人星を眺めていたの。 …人工の光のない、真っ暗闇で見上げる星空は、普段街で見る星空とは別物のように見える。暗がりを嫌う人もいるけれど、私は好き。星が見えるだけじゃなく… 1人の世界に入れるから。 …2人、とも言えるわね。今は… 3人?
「…もしかして、お邪魔でした?」
「別に… あなたがいても、夜の暗闇が照らされることはないから」
「む… ひ、ひかれーっ! って、そりゃ無理ですよね」
「…もしできても、明るくなるなら私は帰るわ」
「…はっ! それなら、暗くなれー!」
「…これ以上の暗さは、星が消えているわよ」
「確かに!」
「…騒がしい人」
…よかったわね、私達以外に人のいない合宿地で。誰かに見られていたら、笑い話にされていたわよ。 …真面目な委員長が、夜の砂浜で『ひかれーっ!』て尻尾回しながら騒いでた、なんて。 …ストレスでおかしくなったと思われても困るもの。元から… 変な人なのに。
「アヤベさんは、ベガが大好きですよね」
「…そうね。トップロードさんは、好きな星ってあるのかしら?」
「うむむ… 急に言われると、難しいですね。ベガも好きですし、カストルも好きです。もちろん、アヤベさんも」
「…その2つの星と並ぶには荷が重すぎるわ。それに… まだ星になるわけにはいかないのだけど」
「私の中では、アヤベさんは昔から一番星ですから!」
「……そう」
ほら… 変な人でしょ?
「新潟のコース形態…? 左回りで直線が長いわ」
「…他には、どうでしょうか?」
「…1000mの直線があるわ」
「ほ、ほかには…?」
「……トップロードさん、何かないかしら?」
「えっと、何か………すみません、行ったことがなくて、何も浮かびません」
「…私も、行ったことがないから詳しいことはわからないの」
「…トレーナーさんが詳しい情報を教えてくれると信じて、今は忘れることにします」
更に翌週、私とクラフトさんにとってはここで過ごす最後の週末。来週のレースに向けて、クラフトさんに新潟レース場について聞かれたのだけれど… 私には、全くわからないの。自分が走ったことはもちろん、見に行ったこともないから… 左回りで直線が長い、それしかわからない。 …トレーナーがわかりやすくデータを纏めてくれていると、信じてるわ。
「会議が終わったんでしたら… アヤベさん、今日はみんなで泳ぎませんか?」
「泳ぎたい、です、アヤベさん!」
「…そうね。1度も泳がずに帰ってしまうのは… もったいない、わね」
「じゃあ、先に砂浜に行って待ってますね」「わたしも行きます!」
「…先に着替えてたのね」
…あの2人は、学園指定の水着を着ているわ。いわゆる、スクール水着ね。 …ある種のトレーニングウェアとして指定されているのだけど、私は別にトレーニングなんてしないから… 違う水着を持ってきたわ。 …悲しい顔をしていた、トレーナーから譲り受けた物だけど。使わずに眠らせておくのも…
言っておくけど、肌が殆ど露出しないものよ。ワンピース水着、というのかしら。肩から膝上まで繋がっていて、フリルが各所に使われた、青色…
…トレーナーは、自分で着て遊ぶためにこの水着を選んだのよね。夏合宿に来れなかったから、私に譲ってくれたのだけど… あのトレーナーのことだから、ウキウキで水着を選んでいたと思うと… 考えるのはやめましょう、心が苦しくなってくるわ。
「す、すごいです! おしゃれで、大人っぽくて、アヤベさんって感じで、とにかくすごいです!」
「前半は語彙力もあったのに…」
「こ、これが大人の…」
「…そんなに、かしら?」
この後は、海でのんびりと楽しんだわ。トップロードさんが持ってきていたビーチボールで遊んだり、夏合宿の思い出を話しながら、ぷかぷかと泳いだり。2人は動きやすそうだったわ、水着の違いもあるけど、1番の差は慣れね。今年だけで何度も海に入っている2人と、1年ぶりに海に入った私では、同じようには動けないわ。 …プールなら、2人のようにスイスイと泳げる自信はあるわ。 …少し練習してくればよかったわね。それか、泳ぎやすい水着を着てくるか…
過ぎたことを嘆いても、何も変わらないわ。未来の話をしましょう。来週の新潟ジュニアステークスに向けて、少しだけレースの説明をするわ。コースは左回り、特徴は約658mという長さを誇る平坦な最終直線。他のレース場に比べると後方から差し切りやすい、と言えるわね。
最終直線の長さが理由で、4コーナーを回ってからバ群が横に広がることがあるわ。外に出るロスよりも、良いバ場を走れるリターンの方が大きい、と考えるウマ娘が多いのよ。それに加えて、第4コーナーは前半が緩く後半が急なスパイラルカーブ。コーナーの終わりが急カーブになるから、スピードに乗っていると自然と外に体が出ていくの。 …時折、スタンド目の前まで広がることもあるわ。走りやすいとは思うわよ、進路は開きやすいもの。
問題は、直線が長いことに加えて直前のコーナーが下り坂であることね。下り坂でスピードが上がって、外の綺麗なバ場に後方勢が流れて、長い直線。 …上がり勝負になるのは明白ね。上がり3ハロンが全て直線なのよ、トップスピードが物を言うわ。 …下り坂と長い直線のおかげで、切れ味がなくてもなんとかなる、とも言えるわね。
…トレーナーがクラフトさんをスカウトした理由、知っているかしら。 …後から聞いた話だけど、模擬レースを走ったメンバーの中で、コーナーを回ってからの加速力が抜き出ていたから… だそうよ。何が言いたいのか、わかってもらえたかしら。 …クラフトさんの強みである加速力は、このコースにはミスマッチということよ。
ペースは圧倒的な後半偏重になるわ。長い直線と4コーナーのことは全員わかっているもの。コース形態に加えて、ウマ娘の心理として、前半はスピードを抑えて最終直線に備えようと考えるの。最終直線でスタミナ切れを起こして逃げ切れるコースではないもの。クラフトさんもスタミナに自信はないから、この展開に助けてもらうとしましょう。 …それでもスタミナが残らないのなら、短距離路線に向かうことになるわね。
…最初に、差し切ることが多いとレース場と言ったのはコース形態が理由。けれど展開は、逆に後方脚質のウマ娘には不利な展開になることが多いわ。 …スローペースでは、逃げ先行脚質のウマ娘が最後まで止まらない。 …トップスピードが大切な理由ね。脚質問わず、純粋なスピードが問われる。それが、新潟外回り。
長くなったけど、纏めると… 加速力やコーナリングの重要度が低い代わりに、純粋なスピードとその速度を維持するスタミナ。長い直線によって、小細工無しのシンプルな実力勝負が演出される、なんて言う人もいるらしいわ。 …トレーナーの言葉よ。
…説明は終わり。今の話は… 今度、クラフトさんに伝えておくわ。
「頑張ってください! 私も、テレビで応援しますから!」
「期待に応えられるように… 精一杯、走ってきます!」
「…安心して、見ていなさい。負けるつもりはないから」
さぁ… 新潟ジュニアステークス、取りに行くわよ。同期の中で、誰が一番輝いているか… 1等星の力強さを示す戦いに!
〜8月後半