引きこもり、魔法学校にぶち込まれる   作:年中有休

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【前回までのあらすじ】

 前校長 ギルバート・モーリスは、刑事事件により身柄を拘束されたことを受け、職務規定に基づき、本日付で懲戒解雇といたします。

 また、教員エインは、一定期間にわたり授業および校務への参加が確認されなかったため、同じく職務規定に基づき、同日付で解雇処分といたします。

王立魔法学校 校長 レオナルド・グリムフォード




【悲報】元引きこもりワイ、再び魔法学校を追い出される

1:元引きこもり転生者

助けて、解雇された。

 

2:名無しの転生者

またですか

 

3:名無しの転生者

こいついつも学校に出たり入ったりしてるな

 

4:名無しの転生者

で、今度はなにやらかしたの?

 

5:元引きこもり転生者

>>4

いや今回はガチで何もやってない

新校長が国家反逆罪で逮捕されたから、巻き添えでワイもクビになった

 

6:名無しの転生者

えぇ……

 

7:名無しの転生者

逮捕する相手間違ってないか?

 

8:名無しの転生者

それにしても国家反逆罪で逮捕とかロックな新校長だな

 

9:名無しの転生者

もう校長じゃないぞ

 

10:名無しの転生者

それなら投票で新しい呼び名を決めないとね

 

11:名無しの転生者

>>10

それは元校長で決まったやろ

 

12:名無しの転生者

>>11

その元校長は別の校長やろ、校長じゃなくなってるけど

 

13:元引きこもり転生者

>>12

いや、元校長は校長に戻ったからもう元校長じゃないぞ

 

14:名無しの転生者

じゃあ新校長の新しい呼び名は元校長でええか

 

15:名無しの転生者

それじゃややこしいやろ、元新校長にしよう

 

16:名無しの転生者

ほなら元校長は元元校長やな

 

17:名無しの転生者

なんか余計ややこしくなってない?

 

18:元引きこもり転生者

じゃあこうしよう、これからは

元元校長をカツラずれ太郎

元新校長を逮捕され次郎と呼ぼう

 

19:名無しの転生者

おお、それならわかりやすい

 

20:名無しの転生者

その場合、イッチは解雇され三郎になるわけだがどうするのよ

 

21:名無しの転生者

学生もだめ、教師もだめならもうどうやっても学校にいられないじゃん

詰んでね?

 

22:元引きこもり転生者

フフフ……

実はもう復帰の算段は付いてるんだよなぁ……

 

23:名無しの転生者

ほんまか?

 

24:名無しの転生者

またまともな方法じゃなさそう

 

25:元引きこもり転生者

>>24

ちゃんとした手段やで。かつらズレ太郎が、ワイに復学試験を受けさせてくれるんや

 

26:名無しの転生者

思ったより普通の方法だな

 

27:名無しの転生者

今までロクなことしてないのによく受けさせてもらえたな

 

28:元引きこもり転生者

>>27

いやな、そもそも退学になったのは次郎が校長になるために強引に決めたんやって、

太郎の監督責任がどうとかで。だから退学は不当なものやったんや。

 

29:名無しの転生者

言うほど不当か?

 

30:元引きこもり転生者

ほんで、太郎が校長に戻れたから、今度はワイを復学させてくれるらしい。

教職クビになったのも、その前準備やったってわけや。

ありがとう、かつらズレ太郎!

 

31:名無しの転生者

ホンマにこいつ復学させてええんか太郎!?

 

32:名無しの転生者

まだ次郎が校長やったほうが良かったんじゃないか?

 

33:名無しの転生者

それだとイッチは教職のままだからもっとまずいぞ

まだ生徒のほうがマシだろ

 

34:元引きこもり転生者

そろそろ復学試験あるからいってくるわ

といっても建前で必要なだけでクッソ簡単らしいから心配いらんけどな

 

35:名無しの転生者

おっそうだな

 

36:名無しの転生者

前にも見たぞこの流れ

 

37:名無しの転生者

フラグビンビンですよ

 

────────

 

王立魔法学校、職員会議室──。

ギルバートの逮捕を受けた緊急会合──しかし会議室は、重苦しさとは正反対の、浮かれた祝宴のような空気に包まれていた。

 

「いやあ、レオナルド校長!この度はご復帰、誠におめでとうございます!」

「これで、あの男の独裁も終わりですな!」

 

緊急の会合であるにも関わらず、テーブルにはワインが並び、あちこちでグラスが打ち鳴らされる。その中心にいるのは、校長の座に返り咲いたレオナルド・グリムフォード。教師たちの賞賛の言葉を受けながらも、彼の表情は硬いままだった。

 

「まさに天罰ですな! あの強欲な男が失脚し、せいせいしましたぞ!」

 

ひときわ大きな声でそう叫んだのは、ハーゲン教授だった。彼は上機嫌にワインを呷り、満足げに続ける。

 

しかし、その高笑いが響く中、レオナルドの心は晴れなかった。ギルバートの性急すぎる破滅に、どこか腑に落ちないものを感じていたのだ。あの男が、ただ権力欲だけで自滅するような単純な輩だっただろうか、と。

 

「校長、見ましたぞ、学会での奴の無様な最期を」

ハーゲンが、愉悦を隠さずに声を潜める。

「なんとあの男、発表の場で【啓導の光輪】について言及しおったのです! 発表が始まった途端、警備の衛兵が駆け込んできて、壇上から連行。論文も没収され、何を言いたかったのか誰にも分からんまま──まったく、滑稽な話ですなあ」

 

(……なんだと?)

 

その一言が、レオナルドの思考を貫いた。

 

【啓導の光輪】──あの深淵に、ギルバートもまた手を伸ばしていたというのか。

 

ハーゲンの嘲笑をよそに、彼の脳裏では、点と点が急速につながり、一つの恐ろしい輪郭を形作り始めていた。

 

(……まさか、あの男)

 

思考が、深く沈んでいく。

 

(エイン君を教師として手元に置いたのも、校長の座に執着したのも──

すべては【啓導の光輪】に秘められた何かを暴くためだった?

そして、学会の場で全てを公にし、自らの破滅と引き換えに……真実を訴えようと?)

 

(そして……エイン君は、その【啓導の光輪】を改造した張本人じゃ)

レオナルドの背筋に、冷たいものが走る。

(あの少年が無自覚に触れたものを、ギルバートは意図的に暴こうとした。ならば──)

 

ギルバートは、自分ひとりが罪を被ることで、関係者を守ろうとしたのかもしれない。

王家の禁忌に触れれば、誰もが無事では済まない。

だからこそ、あえて独断で校長となり、すべての責任を引き受けて、闇に切り込もうとした──?

 

もしそれが真実なら。

それは、あまりにも愚かで、そして危険なまでに自己犠牲的だ。

 

ギルバートは何を掴み、何を訴えようとしていたのか。

その真意は、今や闇に葬られてしまった。

 

だが、その捨て身の行動だけは、何より雄弁に語っていた。

──【啓導の光輪】は、レオナルドの想像を遥かに超える、暗い秘密を孕んでいる。

 

(……ワシは、とんでもないものを見過ごしていたのかもしれん)

 

やり場のない焦燥と、かすかな畏怖が、静かに胸を締めつけていた。

 

「おまけに、あの問題児エインもクビになった! まったく、祝杯をあげるには十分すぎる理由ですな! フォッフォッフォ!」

 

そんな彼の内心を知るはずもなく、ハーゲンは得意げに、エインへの罵詈雑言を続けようとする。

だが、その言葉は──レオナルドの、静かな一言によって遮られた。

 

「ハーゲン君。その話だが……ワシは、エイン君を生徒として復学させるつもりじゃ」

 

祝宴のざわめきが、まるで嘘のようにぴたりと止んだ。シン、と静まり返った会議室で、誰もがレオナルドの顔を凝視する。

 

「なっ……!?」

ハーゲンの顔から血の気が引く。

「あのような素行不良の塊を、再びこの学び舎に!? 正気ですかな!」

 

他の教師たちも懸念の声を上げる中、レオナルドは静かに首を振った。

 

「確かに、エイン君の素行に問題がなかったとは言えん。じゃが――彼の退学は、ギルバートがワシを追い落とすため謀略に巻き込まれたに過ぎん」

 

ギルバートがエインを教師として傍に置いたのは、おそらく“復学”という選択肢を未来に残すためだった。

ならば、その意志を受け継ぐのは、自分の責務である──彼はそう判断していた。

 

そして、穏やかながらも有無を言わせぬ口調で言葉を継ぐ。

 

「それに、若くして道を踏み外した者にこそ、学び直す機会が必要じゃ。

それを認め、導くことこそ──教育者の務めではないかね?」

 

それは、あまりにも真正面からの正論だった。

 

教育者としての理念を突きつけられ、ハーゲンはぐっと言葉に詰まる。

顔を怒りに紅潮させながらも、何かを言い返そうとしては飲み込み、沈黙が数秒、会議室を支配した。

誰もが、ハーゲンの次の言葉を待っていた。

 

やがて――

彼は絞り出すように、しかしどこか計算高い響きを含んだ声で口を開く。

 

「……校長の教育理念、感服いたしました。

そのお考え、まさしく教育者の鑑。寸分の曇りもございませんな」

 

思いがけない“同意”に、レオナルドだけでなく、他の教師たちも目を見開く。

だが、ハーゲンはすぐに言葉を継いだ。

 

「――ですが」

 

ひと呼吸置き、レオナルドの表情を伺いながら続ける。

 

「それならばこそ、然るべき手続きを設けるべきでしょう。

形式上、彼は一度退学となった身。ならば復学にも、それ相応の形式を経るのが筋。

ここはひとつ、“規則に従い”、入学希望者と同様に選定検査を形式的に受けさせるのが理に適っておるかと。

もちろん、彼ほどの逸材であれば、何の問題もございますまいが」

 

(……ふむ。ハーゲン君らしい、実に杓子定規な提案じゃな)

 

レオナルドは内心で静かに頷いた。

 

あれほど強硬に反対していた彼が、今こうして“形式”という落としどころを持ち出してきた。

それは、ハーゲンなりに筋を通しつつ、レオナルドの決定を受け入れる意思表示でもあった。

 

老獪な教育者の顔に、ふっと安堵の笑みが浮かぶ。

ハーゲンがエインを受け入れてくれた──それだけで、今日の会議は十分な成果だとさえ思えた。

 

「うむ、もっともな意見じゃ。ハーゲン君、君も道理を理解してくれたか。

よかろう。その形式に則って、選定検査を受けさせようではないか。

皆の前で、エイン君の復学を、しかるべき形で示してみせよう」

 

──

 

そして、復学試験当日。

 

レオナルドの期待と、ハーゲンの思惑が交錯する中。

試験官として立ったハーゲンが、やけに誇らしげな声で高らかに宣言した。

 

「第一検査は──魔力量の測定だ!

何、心配するなエイン。授業でいつもやっていた訓練より、よほど簡単だぞ!」

 

その声は、勝利を確信している者のそれだった。

 

────────

 

50:元引きこもり転生者

試験落ちた

 

51:名無しの転生者

はい

 

52:名無しの転生者

魔法チートあるのに落ちるってどんな試験やったんだよ

 

53:元引きこもり転生者

>>52

入学者決めるときの試験っつーか検査だな

魔力量測定したけど基準値に達してなくて落ちた

 

54:名無しの転生者

 

55:名無しの転生者

そういえばこいつ魔力量少なかったな

 

56:名無しの転生者

魔力少ない割にはこないだ貴族達に精神魔法撃ちまくってた気がするが

 

57:元引きこもり転生者

>>56

そら効率化よ。

普通の攻撃魔法と違って起こす現象のエネルギー量が小さいから極めればいくらでも効率化できる。

学校に入学してから使う機会増えたから頑張って効率化したんだよ。

 

58:名無しの転生者

どんな学校に通ってんだよ

 

59:名無しの転生者

人間の血は通ってないだろうな

 

60:名無しの転生者

あれ?

入学者決める検査やって落ちたならそもそも何で入学できたの?

 

61:元引きこもり転生者

>>60

いやな、太郎が入学前にワイに会いに来たときにバトルしたやろ?

それで太郎がワイは入学者の資格あると思い込んで、検査忘れてたみたいなんや

 

62:名無しの転生者

えぇ……

 

63:名無しの転生者

ボケちゃったのかな?

 

64:名無しの転生者

おじいちゃんだからね、しょうがないね。

 

65:元引きこもり転生者

>>63

>>64

それがな、実はワイのせいなんや

 

66:名無しの転生者

どういうこと?

 

67:元引きこもり転生者

バトルのとき太郎に【忘却】(オブリヴィオン)撃ちまくったけど、全部防がれて魔力切れで負けたやろ?

でも最後に油断してた太郎に、こっそりもう一発撃ったんや。魔力不足で不発やと思ったからわざわざ言わんかったけどな。

でもな、不完全ながら効いてたみたいで「検査することを忘れる」って効果だけは出てたみたいなんや。

もしやと思って【想起】(リメンバー)使ったら、案の定それで忘れてたのが判明したわ。

 

68:名無しの転生者

えぇ……

 

69:名無しの転生者

じゃああれか、イッチが太郎に余計なことしなければ学校に行くことはなかったわけか

 

70:名無しの転生者

というかそれ以前に検査官の記憶消したりしないで素直に検査受けていれば、そもそも太郎も来なかったし、入学者に選ばれることもなかったってことやん。

 

71:元引きこもり転生者

>>70

ほんまや、ワイはなんて無駄なことを……

 

72:名無しの転生者

入学する意思も資格もないのに、自ら裏口入学するアホがここにいます

 

73:名無しの転生者

カツラずれ太郎はイッチを魔法学校に連れ出した戦犯だと思ってたけど、まさかイッチ自身が戦犯だったとはね……

 

74:名無しの転生者

ほんで結局これからどうするんや

また食い扶持なくなってもうたやんけ

 

75:元引きこもり転生者

>>74

あるぞ

退学の時は次郎に着の身着のまま追い出されたけど、今回は荷物整理する時間あるからな。

現金を持ち出す時間もあるし、作る時間もある。とりま明日からは宿ぐらしや。

 

76:名無しの転生者

作るな

 

77:名無しの転生者

やっぱ刑務所ぐらしのほうが似合うよお前は

 

────────

 

その頃、とある寮の一室。

フレッドは机に突っ伏すようにして、妹からの一通の手紙を何度も読み返していた。

筆跡は拙く、どこか震えている。

 

『むらがたいへんです

おにいちゃん

はやくかえってきてください』

 

その短い文面が、胸に重くのしかかる。

 

「まさか、村で何かが……」

 

不安を押し殺しきれないまま、フレッドは手紙をじっと見つめ続けた。

やがて訪れる旅立ちを、まだ知らぬままに。

 

────────────────────────────────────────────

 

おまけ

 

────

 

王都調査局・第三分室の日常は、今日もまた、くだらない雑用に駆り出されていた。

 

「で、なんで俺たちがペットの猫探しなんか……」

 

若手捜査官ロイスは、人通りの多い王都の街角で、心底うんざりしたようにため息をついた。

 

隣を歩く年配の捜査官グレアムは、そんな彼のぼやきを気にも留めず、淡々と答える。

 

「"調査局"だろうが。迷子の子猫一匹、調査対象としては十分だ」

 

「そういう問題じゃないですよ! もっとこう、凶悪犯罪とか、国家を揺るがす陰謀とか……そういうのを解決するのが俺たちの仕事じゃないんですか!」

 

「最近は書類整理ばかりだったからな。身体がなまっていたところだ。散歩にはちょうどいい」

グレアムは、どこか楽しむような皮肉を口元に浮かべた。

 

ロイスが天を仰ぎ、さらなる不満を口にしようとした──まさにその時だった。

 

「グレアムさん、ロイスさん!」

 

石畳を蹴る軽やかな足音とともに駆けてきたのは、新人のフィーネだった。額にはうっすら汗がにじんでいるが、その表情には達成感が満ちている。

 

「見つけましたよ!」

 

小走りで近づいてくる彼女の腕の中には──白くふわふわした毛玉のような子猫がいた。まん丸な瞳に、ピンク色の小さな鼻。依頼主が血眼になって探していた“タマちゃん”に間違いない。

 

「魚屋さんの裏で、お魚の匂いにつられてたみたいです!」

 

嬉々として報告するフィーネ。

「ニャー」と一鳴きした子猫は、彼女の腕の中で人懐っこく丸まり、通りすがりの市民までもが足を止めて見惚れるほどの可愛さだった。

 

「おお、よくやったな」

 

グレアムが満足げに頷いたその時──ロイスの表情に、かすかな陰が差した。

 

無邪気なフィーネは、子猫を高く掲げる。

 

「ほら見てください、ロイスさん! めちゃくちゃ可愛いですよ!」

 

タマちゃんのまん丸な瞳が、真っすぐロイスを見つめた。

だが彼は、わずかに口元を引きつらせながら、一歩だけ後ずさる。

 

「あー、うん……可愛いな……」

 

明らかに気まずそうに視線を逸らしながら、さらに半歩下がる。

 

「あれ?」

 

フィーネが首をかしげた。

 

「ロイスさんって……もしかして猫、苦手なんですか?」

 

「いや、別に……そんなはずは……」

 

戸惑いの表情を浮かべながら、ロイスは無意識にまた距離を取ってしまう。

自分でも理由が分からず、さらに困惑する。

 

「避けてますよね?」

 

フィーネがじりじり近づくたび、ロイスもじりじりと後退していく。

──そんなやり取りを、グレアムが面白そうに眺めていた。

 

「前は平気だったと思うがな。いつからだ?」

 

「わかりません……急に、なんでこんな……」

ロイスの声には、自分でも理解できない変化への本気の困惑がにじんでいた。

 

だが、猫は変わらず「ニャー」と呑気に鳴いているだけで、特に害意などあるわけもない。

 

「まあいい。飼い主のところに届けてこい」

グレアムが、飄々とした調子で指示を出す。

 

「えー、せっかく仲良くなったのに……」

フィーネは名残惜しそうに子猫を見つめたが、素直にその場を離れていく。

遠ざかるタマちゃんの鳴き声に耳を傾けながら、ロイスはどこか安堵した表情を浮かべた。

 

──だが、そんな和やかな空気は、街の向こうから響いてきた喧騒によって、あっさりと断ち切られた。

 

「あれは……」

 

グレアムの視線の先には、数人の衛兵が一人の男を取り囲んでいる光景があった。男は衛兵に手を引かれながら、必死に何かを訴えているようだ。

 

「ま、待て、これは明らかな誤認逮捕だ! この論文を書いたのは私じゃない!」

 

興味を持ったグレアムが歩み寄る。

「おい、ジョンソン!どうした?」

 

衛兵の一人──ジョンソンが気づくと、ぱっと表情が明るくなった。

「おおっ、グレアム! ナイスタイミング!」

まるで救世主でも現れたかのような勢いで、グレアムに駆け寄る。

 

「さっきこの男を国家反逆罪で逮捕したんだが、厄介な案件……いや、忙しくて連行する暇もないんだ! 引き取ってくれ!」

 

そう言いながら、ジョンソンは男の腕を掴んだまま、グレアムに押し付けるようにする。

 

「いや、ちょっと待て、詳しい事情を──」

 

「ほら、証拠の論文もある! じゃ、あとは任せた!」

そう言って、ジョンソンは衛兵たちを引き連れ、早急に立ち去ってしまった。

 

「……国家反逆罪、か」

 

グレアムがポツリと呟く。

 

「良かったな、ロイス。念願の"国家を揺るがす陰謀"の登場だ」

振り返って皮肉を飛ばすグレアムの横で、ロイスは深いため息とともに頭を抱えていた。

 

────

 

「──で、状況を整理すると」

 

王都調査局の取調室に移動したグレアムが、手元のメモをめくりながら淡々とまとめ始める。

 

「氏名:ギルバート・モーリス。職業:王立魔法学校校長」

 

「生徒のエインが問題を起こして逮捕されたので、ついでに退学に。そのドサクサで前の校長に責任を負わせて新しい校長に就任。……ところが、そのエインが今度は"教職志望"とか言い出して戻ってきたので採用した」

 

「さらに、そのままエインに論文を書かせ、学会で発表しようとしたが……当日、論文の中身が差し替えられていて、今度は自分が国家反逆罪で現行犯逮捕。──で、今に至る」

 

隣でメモを書いていたロイスが、ペンを止めて顔を上げる。

「にわかには信じがたいが、当人はそう主張しているようですね」

 

「本当なのです!! 私は完全に騙されたのです! あの小僧……エインという名の悪魔に!!」

 

傍らでギルバートが怒りと屈辱の入り混じった声を上げるが、ロイスは露骨に眉をひそめて、ため息をひとつ吐いた。

 

「仮に話が全部本当だとして……【啓導の光輪】なんか研究して、いったい何がしたかったんだか」

 

「俺も魔法学校出身だから分かるけど、あれってただの光る儀式だろ? 入学式の演出用。あんなもんを論文にまとめる必要なんて──」

 

と、そこで言葉を切り、ロイスは机の上に視線を向けた。

──先ほどまで、確かに置いてあったはずの"物証"が見当たらない。

 

「……論文、どこ行った?」

 

その時、背後から紙をめくる音が聞こえた。

 

振り返ると、いつの間にかフィーネが戻ってきていて、分厚い論文のページを夢中でめくっていた。その表情はまるで、寝る前にお気に入りの絵本を読んでいる子供のようだった。

 

「こらっ!」

ロイスが慌てて駆け寄り、彼女の頭をぺしりと軽く叩いてから、論文を取り上げる。

 

「あいたっ」

フィーネが頭を押さえつつ振り返る。その顔には、叱られた子供のような困惑──と、どこか楽しげなイタズラ笑いが浮かんでいた。

 

「勝手に物証を見るな」

 

「だって、面白そうだったんですもん」

フィーネの答えは屈託がない。しかし、その瞬間、彼女の目が何かを思いついたように輝いた。

 

「あ、そうだ!」

勢いよく立ち上がる。椅子がガタンと音を立てる。

 

そして──

 

「すべてを統べる王、エルディスの名のもとに──ロイスよ、我に従えっ!」

 

演劇の舞台に立つ役者さながらに、両腕を高く広げてポーズを決めるフィーネ。

その芝居がかった口調と真剣な顔に、室内の空気が凍りついた。

 

……数秒の沈黙。

 

グレアム、ロイス、そしてギルバートの三人が、揃って「……何やってんだ、こいつ」という目で彼女を見つめていた。

 

だが、当のフィーネはどこ吹く風。

王女気取りの芝居を、まだ引っ張る気らしい。

 

「その論文は私がまだ読んでいたものです、すぐに返しなさい」

 

フィーネが続けてそう言った瞬間──異変が起きた。

 

「……ん? なんだ?」

 

ロイスの身体が、まるで見えない糸で操られる操り人形のように動き出した。

彼の意志とは全く関係なく、その手に掴んだ論文を、そのままフィーネに差し出してしまう。

自分の身体が自分のものでなくなったような、恐ろしい感覚だった。

 

「……え?」

 

ロイスが小さく呟く。声が震える。

自分の行動の意味が、まるで理解できなかった。

 

「おおっ!」

 

フィーネの目が輝いた。

まるで新しいおもちゃを手にした子供のような、無垢な興奮。

 

「すごいすごい! 本当に書いてあった通りに動いた!」

 

手を叩いて喜ぶ彼女の声が、取調室に弾ける。

だが、その無邪気さとは裏腹に、空気は急激に重くなっていった。

 

「ねえねえ、さっきのお返しです! ロイスさん、スクワット百回やってください!」

 

「ちょっ……待て、それは──うわああああっ!!」

 

ロイスの身体が、またも勝手に動き出す。

ピシッと立ち上がると──カクン、と膝が曲がり、腰が沈む。

 

そして、淡々とスクワットを始めた。

それはまるで、訓練された兵士のような規則正しさだった。

 

「や、やめろ……! なんで……体が勝手に……!」

恐怖と困惑が混じったロイスの声が、スクワットのリズムに合わせて苦しげに漏れる。

自分の身体が自分のものでないという異常。それが、じわじわと彼の理性を侵食していく。

 

「あはははは! 面白いっ! 本当に動いてる!」

 

フィーネの笑い声が、無邪気に響いた。

まるでショーを楽しむ観客のように──危険性など、これっぽっちも理解していない。

 

「おい、フィーネ! 何をやった!」

普段冷静なグレアムが、初めて声を荒らげた。長年の調査官としての経験でも、このような事態は初めてだった。

 

「この論文にやり方が書いてありましたよ」

フィーネが無邪気に答える。その口調には、面白い手品の種明かしをするような軽やかさがあった。

 

「俺にも見せてみろ」

グレアムが低い声で要求する。彼は段々と事態の深刻さを理解し始めていた。

 

「はい!」

フィーネが素直に論文を差し出す。グレアムが緊張した手でフィーネの読んでいたページを確認すると──そこには、想像を絶する恐ろしい内容が記されていた。

 

『──以上が、【啓導の光輪】の主な術式である。なお、支配術式の起動には二通りの方法がある。一つは登録した術者の魔力をキーにして遠隔起動を行う方法。もう一つは登録された特定の言葉(別紙参照)をキーとして支配対象に聞かせる方法である。いずれのキーも術式に平文で示されているため、顕現さえしてしまえば解読は容易で、セキュリティ的にはお粗末である。さて、この【啓導の光輪】をセキュリティ面でも改善して、ご家庭で安全に利用する方法だが──』

 

「なんだ、これは……」

グレアムの声が震える。

 

一方、スクワットを終えてへとへとになったロイスも、その内容を横から覗き込んで戦慄していた。

「また、厄ネタじゃないですか……。 最近、こんなんばっかり……」

疲れ果てた身体に、さらなる絶望がのしかかる。ロイスの声は諦めにも似た響きを帯びていた。

 

「……まず、おそらくこの論文を書いた、エインとかいう奴から話を聞く必要がある。ギルバートの件の重要参考人として手配しておこう」

グレアムが額に手を当てながら、冷静に対応を考える。

 

「だが、このまま立件すると、例のごとく俺たちの立場がやばい。 別の罪で立件するしかないな」

 

「私は何も悪いことはしていない!全てはあの小僧の狡猾な策略なのだ!」

ギルバートが机を叩いて主張するが、もはや誰も信じる雰囲気ではない。

 

「別件って言っても、何をやったか分からないし、証拠もないでしょう?」

ロイスが困惑した声を上げる。

 

「……いや」

グレアムの目に、冷徹な光が宿る。

 

「ちょうどいい方法があるじゃないか」

 

そう言って論文を手に取り、グレアムはフィーネの真似をするように大仰なポーズを取った。

 

「すべてを統べる王、エルディスの名のもとに、ギルバート・モーリスよ、我に従え。今まで犯した罪を白状しろ」

 

「ば、馬鹿な……私はそんな……うああああ!」

 

ギルバートの体が震え出し、意に反して口が動き始める。

 

「裏口入学の斡旋をしました!金額は一人当たり金貨100枚! しかし、これは学校の運営費のためで……」

 

「言い訳はいらん。続けろ」

グレアムが冷たく促す。

 

「搬入業者との談合もしました! 備品の納入価格を三割水増しして、差額を受け取っていました!」

 

「それから?」

 

「クラス分け試験の結果改ざん……修繕費の不正請求……教材費のピンハネ……」

 

怒りと屈辱に満ちた顔を浮かべながらも、ギルバートの口は止まらない。

自動書記のように、次から次へと不正が暴かれていく。

 

その間、フィーネは再び論文に夢中になっていた。グレアムとロイスがギルバートの自白に集中している隙に、彼女は興味深そうに論文のページをめくっている。

 

「……これで十分だな」

グレアムが満足げな様子で取り調べを終える。

 

「ば、馬鹿な……私は……こんなはずでは……」

ギルバートは尚も震えた様子だ

 

「汚職、背任、横領……罪状には事欠かない。国家反逆罪で死刑にならなかっただけ、ありがたいと思えよ」

冷酷に言い放つグレアムの顔には、皮肉な笑みが浮かんでいた。

 

「あの~」

その時、フィーネが遠慮がちに報告する。

 

「この論文、最後にかわいいおまけがついてますよ」

 

「……かわいい?」

グレアムとロイスが同時に顔をしかめた。

 

緊迫した尋問の直後に飛び出した言葉には、さすがに反応に困る。

受け取った論文の最後のページには、これまでとは違った、妙に軽い調子の文章があった。

 

『発表はいかがでしたか? おまけとして最近改良したばかりの魔法のスクロールを配布します。 誰でも遊べるおもちゃになっていますので、お子様と一緒に遊んでみてくださいね』

 

論文の後ろには、確かにスクロールが数枚添付されている。

スクロールの上部には、子供向けらしい可愛らしい文字で説明が書かれていた。

 

『おうちでかんたん ぞうへいごっこ』

 

『すくろーるのうえにいらないものをのせて、まりょくをながしてみよう! なんと、きんかがれんせいできるぞ! これできみもりっぱなまほうつかいだ!』

 

グレアムとロイスが絶句する中、部屋の隅で小さな金属音がした。

 

カラン。

 

「やった! やりました! これで私も魔法使いですよ!」

 

いつの間にか、丸い、平たい金属がそこにはあった。

 

「グレアムさん、これってまさか……」

 

それは、本物以上に重く、本物以上に輝き、本物以上の価値を持つ──本物を超えた偽物だった。

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