引きこもり、魔法学校にぶち込まれる   作:年中有休

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【悲報】元引きこもりワイ、何故か首席としてスピーチとか儀式とかするハメに【儀式編】

115:元引きこもり転生者

助けて

 

116:名無しの転生者

おかえり

 

117:名無しの転生者

はえーよ

 

118:名無しの転生者

いつもの

 

120:名無しの転生者

で、今度はなにやらかしたん?

 

121:元引きこもり転生者

魔法陣起動しない

 

122:名無しの転生者

さっき言ってたなんか光るってやつ?

 

123:名無しの転生者

魔力流すだけって自分で言ってたじゃん

 

124:名無しの転生者

なんで起動しないの、壊れてたとか?

 

125:元引きこもり転生者

>>124

いや、普通にワイの魔力が足りなかった。

 

127:名無しの転生者

えぇ…

 

128:名無しの転生者

無能すぎない?

 

129:名無しの転生者

イッチって魔法チートあるんやろ?

それでも魔力足りないってどういうこと?

 

130:元引きこもり転生者

>>129

ワイのチートは細かく言うと“魔法の知識”だけなんや。

魔力量そのものはマジで並やで。

 

132:名無しの転生者

それで起動せんかったのか

 

133:名無しの転生者

よく今まで問題にならなかったな

 

134:名無しの転生者

まぁ首席なれるようなやつなら魔力も十分あるやろうからな

 

135:名無しの転生者

なお今年の首席

 

136:名無しの転生者

結局どうすんの、中止?

 

137:元引きこもり転生者

>>136

今は魔力回復薬がぶ飲みしながら再挑戦してる

クソまずいし腹パンパンだしもう吐きそう

 

138:名無しの転生者

キツそうやな

 

139:名無しの転生者

がんばれ!

 

140:名無しの転生者

イッキ!イッキ!

 

141:元引きこもり転生者

ダメでした。

 

142:名無しの転生者

あっ(察し)

 

143:名無しの転生者

やっちまったか

 

144:名無しの転生者

ゲロった?

 

145:元引きこもり転生者

うん、ゲロっちゃった

 

146:名無しの転生者

かわいい

 

147:名無しの転生者

やってることは全くかわいくないけどな

 

148:名無しの転生者

入学式で倒れるやつはいるけどゲロるやつまでは見たことねぇよ

 

149:名無しの転生者

全校生徒の前で汚い絵面流すな

 

150:元引きこもり転生者

>>149

それは大丈夫、ゲロった瞬間にゲーミングカラーに光らせたから

 

151:名無しの転生者

 

152:名無しの転生者

そっちを光らせてどうすんだよ

 

153:名無しの転生者

逆に見てみたいわ

 

154:名無しの転生者

もうどうすんだよ、儀式ってやつも終わらないじゃん

 

155:元引きこもり転生者

マジでどうしよう、会場もものすごい空気になってる。

 

156:名無しの転生者

そらそうよ

 

157:名無しの転生者

これが首席のやることか…?

 

158:名無しの転生者

今度こそ入学式は中止だな

 

159:名無しの転生者

詳しくはわからんけどその儀式ってやつが終われば収まりがつくんちゃうか?

イッチのチートでなんとかならんのか

 

160:名無しの転生者

確かに、魔法知識があるってんなら魔法陣の効率化とかできるやろ

 

161:元引きこもり転生者

>>160

それや!術式の構成見直せば、必要魔力を減らせるはずや!

ワイの得意分野やからな!

 

162:名無しの転生者

ほんとぉ?

 

163:名無しの転生者

今度もやらかすやろ

 

164:元引きこもり転生者

大丈夫だって!効率化の方法も思いついたし!

もう校長が最後の挨拶してるけど泣きの一回たのんでくる!

 

165:名無しの転生者

がんばれ~

 

166:名無しの転生者

入学式終わるところだったのかよ

 

167:名無しの転生者

もう何もしないほうがいいだろ

 

    ◆

 

「では最後に、レオナルド校長から締めのご挨拶をいただきます」

 

 司会の声が響き、ざわついていたホールが、ようやく静まり返った。……長かった。入学式は、とにかく色々なことがあった。……本当に、色々なことが。

 

──「あっ、これ無理!」

──「光出すだけなのになんでこんな魔力喰うんだよ!」

──「魔力回復薬、ありったけ持ってきて!」

──「まっず! なんだよこれ、腐ってんのか!?」

──「はちみつとかない?」

──「いつまで魔力込めればいいのこれ!?」

──「もう無理……入らない……」

──「ヴォッ」

 

 ……うん。思い出すんじゃなかった。色々あった結果、【啓導の光輪】は前代未聞の延期となった。式は仕切り直され、ようやく、終わろうとしている。

 

「──それではレオナルド校長、よろしくお願いします」

 

 今度こそ、何も起きないだろう──。

 

「コラッ、あなたは引っ込んでいなさい!」

 

「もっかいだけ! もっかいだけお願いします!」

 

 ……一瞬でもそう思った僕がバカだった。舞台裏から、教師を引きずりながらエイン君が再登場──いや、これは登場じゃない。乱入だ。足が床を擦る音と、慌てた制止の声が、静まり返ったホールにやけに響く。

 

「エイン君、落ち着きなさい。今は校長の──」

 

「このまま失敗したままじゃ終われません! 今度こそ、絶対にできます! お願いします!」

 

 彼は教師の手を振り払い、校長の前に立つと、深く頭を下げた。その声は、今までに聞いたことがないほど真剣だった。……正直、信じがたい光景だった。言動には問題がある。致命的なくらいに。だが、それでも──彼の魔法の才能と、この場に舞い戻ってきた熱意が、本物であることだけは否定できない。

 

(少し見直したかもしれない。……いや、悔しいけど、ほんの少しだけ、だ)

 

 校長はしばらく黙って彼を見つめ、そして表情を緩めた。

 

「……そこまで言うのなら。やってみなさい」

 

「ありがとうございます!」

 

 エイン君は顔を上げると、ぱっと表情を明るくした。切り替えが早すぎる。

 

「では、王立秘術院の職員諸君。申し訳ないが再度、陣の顕現を──」

 

「いえ、自分でやります。たしか、こんな感じで……【秘式顕現】(アンシールライト)!」

 

 校長の言葉を遮り、エイン君が魔法を放つ。次の瞬間、床に刻まれた紋様が淡く光り、先ほどと同じ魔法陣が足元に浮かび上がった。……一度見ただけの魔法を、そのまま再現した? 冗談だろ。才能、なんて言葉じゃ片づけられない。

 

「……あれ、なんだこれ?」

 

 不意にエイン君が呟く。次の瞬間、足元が淡く脈打った。気づいたときには、生徒たちの足元──いや、ホール全体を覆うように、巨大な魔法陣が広がっていた。教師たちが一斉にざわつく。どうやら、彼らにとっても完全な想定外らしい。ただ一部──王都から来たという職員たちだけが、明らかに様子が違った。驚きではない。焦りだ。

 

(……なんで、あの人たちだけ?)

 

「そうか、これか!」

 

 対照的に、エイン君は満面の笑みで指を鳴らす。

 

「コイツのせいで、ムダに魔力食ってたんだ! なら、このパスを切れば──【魔路切断】!」

 

 詠唱と同時に、魔法陣の光が歪む。次の瞬間、床を覆っていた巨大な陣は、跡形もなく掻き消えた。

 

「ついでに【構文再編】(リライトスクリプト)! 構成いじって、魔力効率も上げときました! これで準備OKです!」

 

 自信満々の報告。……いや、あの魔法陣、何十年も使われてきた由緒正しいものじゃなかったか? 勝手に構造を変えていい類のものだったのか、それ。

 

「レガシーシステムの保守くらい、やっといてくださいね! では、いきます!」

 

 僕の疑問など意にも介さず、エイン君は再び魔力を流し込む。今度は、魔法陣が素直に応えた。光が集まり、渦を巻き、天井へと昇っていく。輝きが最高潮に達した、その瞬間──視界の上方が、まばゆく弾けた。

 

「……!」

 

 僕たちは一斉に顔を上げた。天井には、幾何学的な模様で構成された、美しく複雑な学校の紋章が浮かび上がっていた。淡い光が揺れ、紋章全体を包み込む。

 

 なるほど。これは──確かに「儀式」と名がつくのに相応しい。

 

 ただ美しいだけではない。どこか厳かで、見上げているだけで背筋が伸びるような、静かな圧があった。

 

 生徒たちから、思わずといった調子で感嘆の声が漏れる。

 

「すごい……」

「これが、本物の儀式魔法……」

「こんなの、今まで見たことない……」

 

 誰もが、しばし言葉を失い、その光景に見惚れていた。──だが。

 

「……あれ? なんか色、変わってきてないか?」

 

 訝しげな声に釣られ、再び紋章を見上げる。純白だった光が、次第に淡い緑へ。そこから水色、紫、赤、オレンジ、黄色へと──まるで波打つように、色が移ろっていく。

 

「さっきのお詫びに、ゲーミング紋章をお楽しみください!」

 

 エイン君の声が、ホール中に響き渡った。神聖さは、あっという間に消え去った。紋章は虹色にチカチカと輝き、やたらと主張が激しい。……というか、あの色。ちょっと前に、彼の口からも飛び出してなかったか?

 

「エイン、貴様……神聖な紋章を、なんと心得るか!」

 

 怒声とともに、ハーゲン教授が壇上へ駆け寄る。エイン君の襟首を掴み、そのまま舞台袖へと引きずっていった。

 

「ちょっ、待って! まだ途中なんですって! 放してくださいってば!」

 

 魔力注入に集中していた彼は、抵抗する間もなく、あっさり回収された。紋章は数秒ほど、名残惜しそうにギラギラと輝き続け、やがて光を失い──天井は、元の石造りの暗がりに戻った。

 

 ……また、混乱のまま終わってしまったな。呆れたような、笑いたいような、不思議な感覚が胸に残る。だが。

 

「なんか……あれもあれで綺麗だったかも」

「うん。最初のやつも良かったけど、こっちもインパクトあるよね」

「もっと見ていたかったな……ああでも、なんか頭クラクラする……」

 

 生徒たちの反応は、意外にも前向きだった。ゲーミング紋章、か。……まあ、言われてみれば、たしかに綺麗ではあった。ただ一つだけ、確信をもって言える。──あの色は、絶対に目に悪い。

 

    ◆

 

 

253:名無しの転生者

ワイもゲーミング紋章見たかったわ

次やるときは視界共有して貼ってくれや

 

254:名無しの転生者

ほんでその魔法陣がなんかあったんか?

 

255:元引きこもり転生者

>>254

せや、その魔力バカ食いしてたクソデカ魔法陣なんやけど呪いが仕込まれてて、その呪いが

あっちょっと待って、部屋にフレッド君来た

 

256:名無しの転生者

また出たなフレッド

 

257:名無しの転生者

だからフレッドて誰やねん

 

258:名無しの転生者

確か隣の部屋のやつよな

 

259:名無しの転生者

いや呪いって何やねん、気になるわ

 

260:元引きこもり転生者

なんかワイが大変らしくて心配してる。

 

261:名無しの転生者

他人事で草

 

262:名無しの転生者

お前はいつも大変だろ

 

263:名無しの転生者

大変って何があったん?

 

264:元引きこもり転生者

式のスピーチで原稿パクったやん?

そのパクリ相手が第一王子だったらしいねんけど

 

265:名無しの転生者

!?

 

266:名無しの転生者

王子!?

 

267:名無しの転生者

シャレにならん相手から原稿パクってて草

 

268:元引きこもり転生者

原稿パクったのもまずいんやけど、その原稿の内容がもっとまずいらしい。

 

269:名無しの転生者

どんな内容や?

 

270:元引きこもり転生者

学校の理念に「同じ学生として身分は関係ない」って標語があるんやけど、

原稿の中に「王族として~」みたいな文言が入ってたんやって。

しかもそれ、王子が2年前に言って怒られたやつらしい。

ワイが同じの読んだことで煽られたって誤解されて、めっちゃ怒ってるらしい。

知らんわそんなん。

 

271:名無しの転生者

 

272:名無しの転生者

やばくね?

 

273:名無しの転生者

ヤバイわよ!

 

274:名無しの転生者

え、てことは何?

イッチも王族宣言したってこと?

 

275:元引きこもり転生者

>>274

あーそういえばしてたな、「王族として」って言ったあとに自分の名前名乗っちゃったわ

 

276:名無しの転生者

えぇ……

 

277:名無しの転生者

不遜すぎる

 

278:名無しの転生者

王子どころか国にも喧嘩売ってるじゃねーか!

 

279:名無しの転生者

もう不敬罪で逮捕されるだろこいつ

 

280:元引きこもり転生者

まぁやっちゃったもんはしょうがないし、

これ以上変な輩に目つけられへんように頑張るわ

 

281:名無しの転生者

おうがんばれ

 

282:名無しの転生者

お前が一番変な輩定期

 

283:名無しの転生者

だから呪いって何なんだよ

 

    ◆

 

 式典を終えた講堂は、ようやく静けさを取り戻していた。先ほどまで魔力の光に満ちていた天井には、今はただ、くすんだ石材の地肌が広がっている。その中央で、倒れた椅子を片付けながら佇んでいるのは、老校長──レオナルドただ一人だった。

 

「……ふむ」

 

 視線を床に落としたまま、彼は小さく首を振った。

 

「やはり、言うべきではなかったか。──"責任は私が取る"などと……」

 

 床に転がっていた一本の瓶を拾い上げる。魔力回復薬。中身はまだ少量残っており、液面が不自然に揺れていた。レオナルドは瓶を傾け、光に透かして眺める。

 

「この色……間違いなく腐っておるな……」

 

 それ以上気に留めることもなく、瓶をゴミ箱へと放り込む。視線は、自然と天井へ向かった。──紋章は、すでに消えている。だが、脳裏にはまだ焼き付いていた。あの異様な輝き。神聖さを裏切るように、過剰で、奔放で──そして、あまりにも"目立つ"光。

 

「まさか、本当に成功するとは……」

 

 独り言のように呟き、言葉を選び直す。

 

「……いや。成功と呼んでよいものか」

 

 額に手を当て、思案に沈む。エイン──あの少年の足元に展開された魔法陣は、あらゆる点で常軌を逸していた。規模、構成、そして最終的な挙動。そのすべてが、既存の体系から外れている。思い出すのは、あの一言だ。

 

『コイツのせいで、ムダに魔力食ってたんだ!』

 

「……()()()、か」

 

 その言葉の意味が、今になって重くのしかかる。レオナルドは、ゆっくりと立ち上がった。この講堂の床下には、王直属の魔導職員のみが管理を許された【象徴陣】が封じられている。校長である彼ですら、正式な手続きを経ずに干渉することは禁じられていた。──だが。

 

「見てしまった以上、放置するわけにはいかぬな」

 

 ひそやかに魔力を練り、詠唱を始める。

 

「【秘式顕現】」

 

 青白い光が足元に広がり、床下に封じられていた構造が仮初めの姿を現す。そこにあったのは──もはや伝統でも格式でもない、"改変された陣"だった。長年守られてきた荘厳な構成は、随所が書き換えられ、繋ぎ直されている。

 

「……ふむ」

 

 短く唸る。

 

「やはり、元には戻らぬか」

 

 一瞬だけ、寂しげな色がその顔をよぎった。だが、次の瞬間には目を細め、姿勢を正す。研究者としての冷静な光が、瞳に宿っていた。

 

「ならば──見せてもらおう」

 

 彼の書き換えた"意図"を。あのとき、講堂全体を覆った"もう一つの魔法陣"。多くの教師たちは、構造も意味も理解できず、ただ戸惑っていた。だが──

 

「……焦っておったな」

 

 王都から来ていた職員たちだけが、明らかに違っていた。あれは驚きではない。"見られてはならないもの"を見られた者の反応だ。

 

(彼らは、知っておったのだな)

 

 あれが、何であるかを。魔路の断面、断ち切られたパス、再接続された構文。改変の痕跡を丹念に追い、逆算していく。──そして。

 

「……あった」

 

 本来、象徴魔法には不要な構文。だが、陣の中枢に、ごく自然に組み込まれている。

 

「主目的は……転送か。いや、正確には……」

 

 魔力の流れを辿り、目を細める。

 

「……供給」

 

 式典そのものが、別の"何か"を動かすための回路として機能していた。魔力を集め、送り、満たすための──隠された構造。

 

「これではまるで……この式典自体が"起動装置"ではないか」

 

 静まり返った講堂に、言葉だけが落ちた。代々受け継がれてきた象徴魔法に、密かに仕込まれていた"何か"。そして、それを暴いてしまったのが──あの少年だった。

 

「エイン……お主は一体、何者なのだ」

 

──────────────────────

 

例のごとく短くなったのでおまけです

 

────────

 

 ようやく、波乱続きだった入学式が終わった。特別に何かをした覚えはない。それでも、全身から力が抜けるような疲労感だけが、確かに残っていた。

 

 ──あれ……?

 

 寮へ向かって歩いていた僕は、ふと足を緩める。視界の先、通路脇に見覚えのある後ろ姿があった。

 

 疲労の原因。つまり、エイン君だ。

 

「エイン君、どうしたの?」

 

 正直言って、今はあまり関わりたくなかった。できることなら、このまま見なかったことにして通り過ぎたかった。でも、ここで放っておけば、どうせまたロクでもないことになる──そんな嫌な確信が先に立ってしまい、気づけば声をかけていた。

 

「お、フレッドか。ちょっと見てくれよこれ」

 

 そう言ってエイン君は一歩だけ後ろへ下がり、視線で先を示した。

 

 そこにあったのは──

 

「歴代校長の胸像だよ。ほら、そこの通路沿いにも並んでるだろ」

 

 言われて初めて、僕は周囲を見回した。確かに、植え込みの陰や柱の隙間に、いくつかの胸像が無言で鎮座している。

 

「……気づかなかったな。で、それがどうかしたの?」

 

 問い返すと、エイン君はその中の一つ──レオナルド校長、つまり現校長の像の前に立ち、興味深そうに身を屈めた。

 

「これな、魔石製なんだけど、自己修復の魔法回路が仕込まれてるんだ。土台の下に魔法陣があって──ほら、こんな感じで組まれてる」

 

「へえ……そんな機能が……。じゃあ、壊れても勝手に直るってこと? ちょっと見てみたい気もするな……」

 

「お、乗ってきたな。じゃあ実際にやるか──ていっ!」

 

 言うが早いか、いつの間にか手にしていた小石で、彼は像の表面を軽く引っ掻いた。

 

 カリッ、と乾いた音。頬に細い傷が走った──と思った次の瞬間、淡い光が滲むように溢れ出し、その傷は見る間に消えていった。

 

「うわっ……」

 

「すごいだろ? 俺もちょっと感心してたんだよ。よくできてるよな、こういう仕組み」

 

 彼の表情は、いつになく無邪気で──どこか誇らしげですらあった。普段の言動はともかく、魔法そのものに向き合っているときだけは、本当に真剣なのだと、思わず感心してしまう。

 

「でもさ……これ、似てないよな?」

 

「似てない?」

 

 促されて、改めて像を眺める。たしかに、言われてみれば違和感があった。

 

「うーん……ちょっと、若すぎるかな?」

 

 レオナルド校長を模したその像は、妙に若々しかった。肌の張りがよく、年齢を感じさせる刻みはほとんど見当たらない。

 

 おそらく、この像は制作された当時の校長の姿をそのまま写し取っているのだろう。だからだ。今、僕たちが知っている校長と比べると、顔つきが全体的に引き締まり、どこかすっきりして見えた。

 

「だからさ、せっかくだし直してやろうと思ってな。【魔路切断】!」

 

「ちょ、いきなり何してるの!?」

 

 制止する間もなく、エイン君は像の土台へ手を伸ばしていた。

 

「言ったろ? 修復回路があるって。そのまま直そうとしても元に戻っちゃうから、まずその回路を一回切るんだよ。この【魔路切断】、もともとはカツラ外すために開発したんだけど──意外と便利なんだよな」

 

「そんなことのために開発したの!?」

 

 思わず声を上げたが、エイン君はそれに構う様子もなく、次の工程へと進んでいく。

 

【塑形変質】(モルフォスアレンジ)!」

 

 詠唱と同時に、像全体が淡い光に包まれた。石の輪郭が、生き物のようにゆっくりとうねり、顔立ちがぐにゃりと歪んでいく。

 

「うわっ……ちょ、ちょっと気色悪いんだけど……」

 

 反射的に一歩引いてしまった。像の顔がうねる様子は、流石に生理的に怖い。それでも彼は気にも留めず、手を止めることなく黙々と作業を続けている。

 

 僕はそれ以上近づく気にもなれず、少し距離を取ったまま、その背中を眺めていた。

 

 像の輪郭が何度も歪み、少しずつ形を整えていくあいだに、気づけば日は傾き、通路にはうっすらと影が差し込んでいた。

 

「ちょっと暗くなってきたな……フレッド、【照光】使ってくれないか?」

 

「えっ、あ、うん……【照光】!」

 

 彼の真剣な表情に気圧され、僕は言われるがままに魔法を使ってしまう。校長の像を勝手にいじくるなんて、どう考えてもやってはいけないことだ。

 

 ……でも、これで僕も共犯だ。

 

「あ、やっぱり明るいとやりやすいな。ありがと」

 

 そう言いながら、エイン君は像の加工を続ける。少しして、ふと手を止め、何か思い出したようにこちらを振り返った。

 

「そういえばさ、お前の【照光】、やっぱすげー安定してるな。試験のときも思ったけど、サイズも出力もほぼ変わってない。普通、そんなに一定にはならないもんなんだぜ。すごいよ、フレッド」

 

「そ、そうかな?」

 

 突然の言葉に、思わず声が裏返る。

 

「だって、お前さ……魔法使い始めたの、ほんの数週間前だろ? それでこれは、普通にすごいって。なんというか……、基礎がちゃんと身についてるんだよな」

 

 僕はどこか気恥ずかしくて、でも嬉しくて、口の中がくすぐったくなった。

 

 ──試験のときに感じていた不安が、考えすぎだったのかもしれないと思えて、胸の奥が軽くなるのを感じた。

 

「よし、だいたいできたかな。フレッド、どう思う?」

 

「えっ、あ、うん……彫り、もう少し深かった気がする……かも」

 

 自信はなかったが、正直に思ったことを口にする。

 

「だよな。じゃあ、こうして──……よし、今度こそ完成!」

 

 彼は満足げに頷き、一歩引いて像全体を眺めた。

 

「……すごい! そっくりだよ! 完璧だ!」

 

「──いや、まだ大事なとこが残ってる」

 

「えっ……?」

 

 褒め言葉を遮るように、エイン君は人差し指を立てた。

 

「仕上げだ! 【構文再編】!」

 

 三度目の魔法が放たれ、像がふわりと淡く発光する。だが、光はすぐに収まり、像は何事もなかったかのように静止した。見た目には、特に変化はない。

 

「えーっと……何が変わったの?」

 

 恐る恐る尋ねると、エイン君は一歩近づき、僕の耳元に顔を寄せてきた。

 

「魔法陣の機能をちょっと増やしてさ……決まった時間になると、頭のてっぺんが──」

「え、それ絶対バレるって! ……っていうか、なんでそんなこと……!」

「いや、だって……なるべくリアルに再現したいじゃん?」

 

 悪びれもせずそう言い切る。

 

 ──そのとき。

 

「エイン君、フレッド君。……なにをしているのかね?」

 

 背後から、低く落ち着いた声が響いた。

 

「「うわぁあっ!!」」

 

 反射的に二人同時に振り返る。

 

そこに立っていたのは、レオナルド校長だった。

 

「あ、あの、校長! その……像がちょっと古くてですね、修正を……」

 

 エイン君は引きつった笑顔を貼りつけたまま、じり、と一歩下がる。額に滲んだ汗が、こめかみを伝って落ちた。

 

「ふむ。これは──ほぉ」

 

 校長は像に視線を移し、顎に手を当てる。

 

「ずいぶんと精巧にできているではないか」

 

「ほんとですか!? 嬉しいなあ!」

 

 エイン君は途端に表情を明るくし、あからさまにテンションを上げて、小さくガッツポーズまで作ってみせた。

 

「いやはや、見違えたな……以前よりも、さらに貫禄が出ておる。うむ、実に良い出来だ」

 

 ──まさか、本当に満足している?

 

 そう思った瞬間だった。エイン君は校長から視線を外し、僕の方へわずかに顔を寄せて、そっと声を落とした。

 

「──そろそろ発動時間だ。逃げるぞ」

「えっ、今!?」

 

 その瞬間、校長の目がすっと細められた。

 

「……だがこの像、自己修復機構が仕込まれておったはず……いったい、どうやって……?」

 

「やばっ」

「あ、あの、校長! そろそろ夕食なので、僕たちこれで!」

 

「おお、そうか。若いうちは、きちんと食べておくものだ。ではな」

 

 僕たちは礼をしてから、踵を返して一気に走り出す。

 寮の前まで駆けつけ、ようやく息をついたところで──

 二人そろって、そっと後ろを振り返った。

 

 ──像のあった中庭からは、ひときわ強い光が、まるで柱のように天へと伸びていた。

 

 その直後。

 石畳を震わせるような大声が、あたりに響き渡る。

 ……だがそれは、声とも悲鳴ともつかない、異様な響きだった。

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