引きこもり、魔法学校にぶち込まれる   作:年中有休

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生活編
【悲報】魔法学校の授業、地獄


1:元引きこもり転生者

授業中だけど暇すぎてスレ立てた

助けて、脳が腐る

 

2:名無しの転生者

でたわね

 

3:名無しの転生者

元々腐ってるだろ

 

4:名無しの転生者

てか何の授業受けてんのよ

 

5:元引きこもり転生者

>>4

「火球の正しい発動手順」だってよ。

そんなもんあるかいな……

 

6:名無しの転生者

えっ火球って普通に「燃えろォォ!」って叫んで出すのが正解じゃないの??

 

7:名無しの転生者

>>6

おまえんちの火球荒ぶりすぎだろ

 

8:名無しの転生者

でも火球って燃焼+構成制御+方向付け+魔力流動管理が基本構成じゃね?

 

9:名無しの転生者

>>8

急に真面目なやつ来るのやめろ

 

10:名無しの転生者

おれの魔法は気合で出す派

 

11:名無しの転生者

おれの魔法は尻から出る派

 

12:名無しの転生者

まぁそこら辺の法則は転生先によるわな

 

13:名無しの転生者

>>11

流石に尻から出る法則はありえない

 

14:名無しの転生者

ワイの転生先は魔法すらないぞ

魔法使ってみたかったのに(´;ω;`)

 

15:元引きこもり転生者

うわー、またハゲ教授がワイのこと指してきた。

たった一回ヅラ剥がしただけなのに、まだ根に持ってんのか?

 

16:名無しの転生者

毛根はないのにね(笑)

 

────────

 

まさか、自分がAクラスに配属されるなんて思ってもみなかった。

 

入学試験でやったのは、せいぜいちっぽけな【照光】(ライト)だけ。派手な演出もなければ、炎が暴れるような凄い魔法を使えたわけでもない。

当然、Eか良くてDクラスだろうと覚悟していたのに──蓋を開けてみれば、Aクラス。しかもあのエイン君と同じクラス。

 

最初は、何かの手違いじゃないかとすら思った。

 

……けれど、思い返してみれば、あの試験のとき。

ただの【照光】だったのに、あの人たちは、しっかりと見てくれていた。

そして昨日、エイン君に言われたあの言葉──

『なんというか、基本ができてるんだよな』

 

僕なんかに、そんな評価を……?

あの審査官たちも、そう思ってくれていたんだろうか。

まだちょっと信じられない。でも、それを思い出すだけで少しだけ──胸が、あったかくなった。

 

 

そうして迎えた、今日の座学授業。

 

「魔法とは、魔力を物質や現象に変換する技術であり……」

 

座学の授業は、魔法の仕組みや構造を系統立てて学べる貴重な機会だ。僕にとっては、新しい世界を知る楽しさで胸が高鳴る瞬間のはずなのだが──

 

……教室の隣に座る彼、エイン君の様子は、それとはだいぶ違っていた。

 

「詠唱には明確なイメージが必須で……」

 

今日も彼は、肘をついてぼんやりと宙を見ている。ぱっと見は寝ているようにも見えるが、よく見ると目は開いていて、妙に澄んでいる。

 

きっと、頭の中では別のことを考えているんだろう。

 

「エイン!」

 

ビクッと肩が跳ねる。突如、教室に響いた怒声に、クラスの全員が一斉に顔を上げた。

 

「あっ……」

 

僕は思わずため息を漏らす。声の主は、よりによってハーゲン教授だった。例の……試験で秘密を暴かれてしまった教授だ。

 

以来、ハーゲン教授はたびたびエイン君を名指しで当てては、どこか意地の悪い態度をとってくるようになった。今日もそのパターンだ。

 

「お前に質問だ、エイン! 【火球】(ファイアボール)の発動に必要な正しい手順を言ってみろ!」

 

その声には、明らかに罠の気配があった。エイン君が何を答えようと、突っ込む気満々なのだろう。

 

エイン君はゆっくりと顔を上げた。教室中の視線が彼に集中する。

 

「あー……正しい手順?」

 

困ったように頭をかくエイン君。

 

「……そもそも魔法に、正しいとかないでしょ」

 

……あ、これ絶対まずいやつだ。

 

「ふざけるな! ごまかすなと言っている!」

 

案の定、ハーゲン教授が怒りをあらわにする。

 

エイン君は小さく息を吐き、面倒そうに口を開いた。

 

「……じゃあ、空気中の酸素を集めて、火花で着火して、それを球形に保ちながら、全体に運動エネルギーを加えて──発射……ってのが一番効率いいんじゃないんすかね?」

 

数秒の沈黙。

 

教室全体が固まった。

 

「……えっ?」

 

「なっ、なにを訳の分からんことをッ……!」

 

ハーゲン教授は目を見開いたまま、言葉にならない声を漏らした。そして、机をドンと叩き、立ち上がる。

 

「酸素?火花?運動エネルギー?何をぬかしている!魔法にそんな回りくどい手順は必要ない!」

 

彼は手のひらを突き出し、即座に【火球】を生成してみせた。大きく、乱暴に渦を巻く火球。

 

「炎を出す。形を保つ。前に飛ばす。まずは、それを覚えろ!」

 

「えー、ダメじゃないけどそれ絶対ムダ多いじゃん……」

 

エイン君がぼそっと漏らす。

 

声は小さかったけれど、教室にはしっかり届いていた。

 

「──貴様ァ!! 出ていけッ!」

 

ハーゲン教授の叫び声に、クラス中がビクッと肩をすくめた。

 

「そんな屁理屈ばかり抜かすようなやつは、教える価値もない!」

 

エイン君は肩をすくめ、椅子を引いて立ち上がると、何も言わずに教室を後にした。

……と、思ったその瞬間。

 

「これだから頭の硬いロートルは……【魔路切断】(パスサンダー)

 

彼が小さく呟いた。

 

そして教室の扉が閉じる。

 

──次の瞬間。

 

バサッ。

 

ハーゲン教授の頭頂から、何かが滑り落ちた。

 

それが何かを理解するまで、みんな、ほんの数秒、声も出なかった。

 

だがそれもつかの間、すぐさま喧騒が教室を支配する。

 

僕はそっと目をそらした。

 

ああ、もうダメだ……今日の授業、完全に終わった。

 

そしてたぶん明日も、また波乱の一日が始まる。

 

────────

 

82:名無しの転生者

今更だけど授業って座学だけじゃなくて実技もあるやろ

そっちはどうなん。

 

83:元引きこもり転生者

>>82

そっちのほうがキツイんよ……

 

84:名無しの転生者

なんで?

 

85:名無しの転生者

実技って一番楽しいとこちゃうんか?

 

86:名無しの転生者

正々堂々と魔法ぶっ放せるんやろ?逆にご褒美やん

 

87:元引きこもり転生者

>>86

何の魔法撃ってると思う?

ただの初級攻撃魔法や

 

88:名無しの転生者

地味すぎて草

 

89:名無しの転生者

まぁ最初はそんなもんか

 

90:名無しの転生者

耐えろやそのくらい

 

91:元引きこもり転生者

>>90

いや基礎練とか言われて毎日何十発も撃たされるんやで?

ワイの魔力量でできるわけ無いやろ

 

92:名無しの転生者

そういや前スレで魔力量はパンピー並みとか言ってたな

 

93:名無しの転生者

それでどうしてんの?ノルマ無理やん

 

94:元引きこもり転生者

そらもう毎日、魔力回復薬をガブ飲みよ

 

95:名無しの転生者

身体壊す未来しか見えん

 

96:名無しの転生者

あのクソマズいやつか?

 

97:元引きこもり転生者

そう。吐きそうになるレベルで不味いし、

授業のたびに資材課の人に「またですか……」って目で見られるし、

それでも足りんから居残りやし。マジで地獄やで。

 

98:名無しの転生者

スパルタの極みやな

 

99:元引きこもり転生者

あっ、やばい

 

100:名無しの転生者

なんや急に

 

101:名無しの転生者

どうした

 

102:元引きこもり転生者

今も居残りしてたんやけど、魔力回復薬なくなった。

魔力切れでガチで動けん……

 

103:名無しの転生者

雑魚すぎて草

 

104:名無しの転生者

気合だ気合!

 

105:名無しの転生者

毎回居残りしてんのに備えてないのアホやん

 

106:元引きこもり転生者

いや、それがな

資材課の人いわく、最近在庫が急に減ってるらしくて

今日はちょっとしか渡してもらえんかったんや

 

107:名無しの転生者

なんでやろなぁ……(すっとぼけ

 

108:名無しの転生者

犯人に心当たりしかないんだが

 

109:名無しの転生者

・試験で全員ガブ飲み

・儀式で大量ガブ飲み

・授業で毎回ガブ飲み

 

110:名無しの転生者

全部お前のせいじゃねーか!!

 

111:名無しの転生者

てか、居残り中なら教師おるやろ

助けてもらえや

 

112:元引きこもり転生者

>>111

いや、教師はおらん。

居残りの時間になると、さっさと帰りやがる。

 

113:名無しの転生者

えぇ……

 

114:名無しの転生者

教育者としてそれはいかんでしょ

 

115:元引きこもり転生者

絶対私恨でやってるであいつ

一度や二度ヅラ引っ剥がしたくらいで嫌がらせするなんて狭量すぎやろ

 

116:名無しの転生者

回数増えてるやんけ!

 

117:名無しの転生者

つーか居残り誰も見てないんやろ?

そんならイッチも帰れよ

 

118:元引きこもり転生者

>>117

なんか負けたみたいだからヤダ

 

119:名無しの転生者

どこで張り合ってんねんw

 

120:名無しの転生者

まぁ気持ちはわかる

 

121:名無しの転生者

でも意地張った結果が今動けん状態やん

 

122:元引きこもり転生者

>>121

ぶっちゃけ今ちょっと後悔してきてるわ

 

123:名無しの転生者

飯とか風呂とかどうすんのその状態で

 

124:元引きこもり転生者

>>123

うわ、飯のこと完全に忘れてた!

もう夕食の時間なのに全然動けん!

今日のカレー楽しみにしてたのにー!!

誰か助けて!!

 

125:名無しの転生者

寝かせると美味しくなるっていうし明日食べようや

 

126:元引きこもり転生者

>>125

ワイが地面に寝かされてるんやけど……

 

────────

 

初等実技の授業が行われる訓練場は、石造りの円形広場で、壁沿いに魔除けの結界が張り巡らされていた。空は曇り気味で、火の魔法を撃つにはちょうどいいくらいの気温だった。

 

ハーゲン教授の登場とともに、空気がすっと張り詰めた。彼の甲高い声が訓練場に響き渡る。

 

「本日の課題は、【火球】(ファイアボール)の基礎制御だ。標準三連射を十セット、合計三十発。時間内に終えられなかった者は──居残りだ」

 

普段よりややきつめのノルマに、一部の生徒がざわめいたが、即座に静まった。

 

「エイン。お前も例外ではないぞ」

「……またかよ」

 

エイン君がぼそっと呟くのが聞こえた。案の定、彼にも標準ノルマが課されたらしい。

 

「貴様ほどの者が、これしきで文句とは……首席とは名ばかりか? 本当に魔法師になるつもりがあるのか?」

「なりたくて首席になったわけじゃないんスけど……、はいはい、やりますよ……」

 

エイン君は肩をすくめながら、訓練の開始位置へ向かった。このやりとりも既に恒例だ。僕は少し距離を置いて見守ることにした。

 

実技の間、彼はおそらく自分なりの試行錯誤をしていたのだろう。最初の数発は順調だったが、次第にペースが落ちていく。魔力の消耗が早いのか、額に汗を浮かべながらも、なんとか指示された数をこなそうと努力していた。

 

途中、明らかに隣の生徒の詠唱に合わせて、自分の魔力でその魔法の制御権を乗っ取った場面があった。

 

「はい、これで7発目!」

 

得意げな顔でそう言った彼に、周囲の生徒たちは一瞬あっけにとられた。すぐにざわめきが驚きと興奮に変わる。

 

「え、今のって他人の魔法……奪った?」

「マジかよ、そんなことできんの?」

 

技術としては高度すぎるそれに、どよめきが広がったのも束の間──

 

「そういうふざけた手を使うな、エイン」

 

ハーゲン教授が一喝した。表情は微動だにせず、冷たい声音が訓練場に鋭く響いた。

 

「授業の目的を履き違えるな。他人の魔法を横取りする練習ではない」

 

エイン君は不満げに、「だってこっちのほうが魔力使わないし」とぶつぶつ言いながら、再び自分の詠唱に戻った。

 

さらには、薬をあおるたびに顔をしかめ、吐き気を堪える姿に、誰もが反射的に半歩ずつ下がる。

もはや訓練場の床には、彼専用の結界でも張られているかのような半円状の空白ができていた。

 

彼はそんな周りの様子も気には留めず、なんとか時間内に終えようと粘っていた。だが結果は無情で、授業終了の鐘が鳴っても彼のカウントは足りない。

 

「居残り確定だな」

 

ハーゲン教授の声とともに、生徒たちは訓練場を後にしていった。

 

僕もその場を離れようとしたが、ふと気になって振り返る。エイン君と教授の二人だけが残っていた。

 

(……まあ、彼ならなんとかするだろう)

 

そんなふうに思いながら、僕は寮へと戻った。

 

……はずだった。

 

夕食の時間になっても、エイン君は戻ってこなかった。

 

(あれ?)

 

なんとなく胸騒ぎがして、僕は再び訓練場へ足を運んだ。途中、外で煙草を吸っているハーゲン教授の姿を見かけた。

 

(もう、帰ってる……? じゃあエイン君は……)

 

扉を開けた瞬間、中から聞こえる弱々しい声。

 

「たすけて……魔力、ない……」

 

見ると、彼が地面に倒れ込んでいた。

 

「エイン君、大丈夫!?」

 

急いで駆け寄ると、彼はうっすら目を開けて僕を見た。

 

「……フレッド……天使か……?」

「バカ言ってないで、立てる?」

「……無理。魔力ゼロ。マジで無理……」

 

仕方なく、僕は彼の腕を肩に回し、ずるずると引きずりながら寮まで戻ることになった。

 

「ちょっと……寄りかかりすぎ……! 少しは自分で歩いてよ……」

「疲れてるから……ヤダ……」

「そこは歩けないから、じゃないのね……」

 

ふらふらになりながらもなんとか寮へ到着し、ベッドに彼を寝かせた。

 

「フレッド……マジで感謝してる……困ったことがあったら言ってくれ、絶対助けるから……」

 

困ったことの九割は君が原因なんだけどな……。

 

「まぁ……、期待しないで待ってるよ……」

 

そう言いながらも、僕は思わず微笑んだ。

 

……ところがその夜。

 

「フレッド、さっきのお礼に俺のお気に入りの魔法、教えてやる……」

 

まだ魔力切れの影響が抜けてないのか、ふらふらな様子でエイン君が僕の部屋を訪れてきた。

 

「い、今から!?」

【隠形看破】(ピカー)って魔法だ。ちょっと難しいけどお前ならできるはず……」

「僕もうそろそろ寝たいんだけど……」

「マジでおすすめだから……!俺なんか毎日使ってるし……!」

 

結局、夜が明けるまでかかって魔法を習得する羽目になり──。

 

翌朝、僕たちは仲良く寝坊。

 

教室に駆け込んだ僕たちを待っていたのは、地獄のようなハーゲン教授の叱責だった。

 

──────────────────────

 

おまけ

 

────────

 

放課後の教室に、まばらに残った生徒たちの声が響いていた。

窓の外はすっかり夕暮れ。オレンジ色の光が差し込む中、僕は隣の席でカバンを整理しているエイン君を見ながら、ひとつの疑問を口にした。

 

「ねえ、昨日教えてもらったあの魔法……その、【隠形看破】(ピカー)ってやつ……実はまだよく分かってないんだけど、結局どういう魔法なの?」

 

「ん? ああ、アレね」

 

エイン君はあっさり頷くと、椅子の背もたれにふんぞり返った。

 

「簡単に言えば……カツラを暴く魔法だ」

 

「……は?」

 

僕は一瞬、聞き間違いかと思って聞き返した。が、彼は当然のような顔をしている。

 

「いや、マジで」

 

「また冗談でも言ってるの?」

 

「だからマジだって。そもそもこの魔法を開発したのも俺だし、それを使えるのは俺と、俺が教えたお前だけだ」

 

まるで誇らしげに語るその姿に、僕は言葉を失った。

……そんな用途の魔法を、あんな真面目な顔で、しかも徹夜してまで覚えさせられたのか。僕の睡眠時間、返して。

 

「な、なんでわざわざそんな魔法を……?」

 

「いや、最初はただの暇つぶしで作ったんだよ。でも、いざ使ってみると意外と汎用性があってな。原理的には、“人が隠しているもの”なら何でも感じ取れる。……まあ、そのためにはカツラをはっきり感じ取れるようにならないとダメだけど」

 

……どうして最初がカツラ特化で、そこから隠しもの全般になるんだろう。順番、絶対におかしい。

 

「……その、感じ取るって、どういう仕組みなの?」

 

「それがな、ちょっと複雑なんだけど──まず基本構造は【音響探査】(ソナー)。魔力で擬似的な音波を発生させて、対象の物体を探るんだ。で、そこに【精神感応】(テレパス)を組み合わせて──」

 

エイン君が急に早口になり始めた。

これは、来る。

 

「無意識下で『隠しているものはあるか?』って問いかけると、対象者の精神が、その物体に一瞬だけ意識を向ける。それを──」

 

「も、もう大丈夫だから! 分かったから!」

 

頭がついていかなくなった僕は、慌てて手を振って話を止めた。

まさか、カツラ暴きにこんな複雑な理論が必要だなんて。

 

「と、とりあえず! なんか見本とかないの?」

 

「お、いいタイミング。あそこ、見てみ」

 

エイン君が窓の外を指差す。

視線の先には、校門の前で煙草をふかしているハーゲン教授の姿。

 

「昨日教えたとおりに使ってみろ。そうすれば分かる」

 

僕は言われるがまま、恐る恐る魔力を指先に集中させた。

脳裏に魔法の構文を思い浮かべて──

 

【隠形看破】(ピカー)……」

 

その瞬間、視界が微かにきらめいた。世界が、ほんの少しだけ変わったような気がした。

 

「……なんか、ハーゲンの頭のほうが妙に……違和感があるような……?」

 

「当たり。あれ、ご存知の通りヅラね」

 

「……やっぱりそういう使い方するんだ……」

僕は振り返って静かにツッコんだが、エイン君はニヤリと満足そうな顔を浮かべた。

 

「慣れればもっと色々分かるようになる。たとえば、あいつの鞄の中にはなぜか予備のヅラが入っている」

 

……結局ヅラじゃないか。

それに予備のカツラがあるのは、君の普段の行いのせいじゃないのか? と心の中で思いながら、そこは黙って飲み込んだ。

 

代わりに、できるだけ当たり障りなくうなずいてみせる。

 

「……へ、へえ。そういうのまで分かるんだ……」

 

うなずきながら無難に返しただけなのに、

エイン君の目がじわじわと光り出す。

 

「よし、じゃあ次は実演だな! もっとすごいの見せてやる!」

 

彼はニヤッと笑うと、机を蹴るように勢いよく立ち上がった。

こっちはまだ座ったままだというのに、気がつけばもう、教室の外へ突進していく。

 

「ちょ、どこ行くの!? やめ……!」

 

僕の制止もむなしく、エイン君は廊下で次々に魔法を放ち始めた。

 

「お、あの教員もヅラ! 男子生徒の一人、ポッケの中身はあぶないお薬! 別のやつは奥歯に毒薬仕込んでるぞ──どっかの国のスパイだな! ほら、窓際の女子生徒のブローチ、あれは古の王家の血を引いている証明! で、廊下のメイドはナイフを大量に隠し持ってる! かっけー!」

 

「ちょ、やめなって!! やめなさいってば!!」

 

僕は後を追いながら叫ぶが、彼の勢いは止まらない。

 

「……あれ、あの女子制服のかわいい子……実は男子!? マジかよ! 普通に好みのタイプだったのに!!」

 

「……いや、今の中で一番反応するのそこ!?」

 

もう限界だった。僕は頭を抱え、深いため息をついた。

 

──夕焼けの中、魔法の光とエイン君の騒ぎ声が、静まり返った校舎にこれでもかと響き渡っていた。

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