白峯 凛は防人となる 作:秋嘉
今回も他の方の作品からのゲストキャラが居ます
『各班、被害状況を報告』
国土さんを連れての植樹作業――2度目の御役目を終え、楠隊長からの無線に各班の班長達が報告を上げていくのを聞きながら、私は葦原船の御神木に触れながら他の3人の様子を見る
前回の御役目で重傷を負っていた佐倉先輩も退院して参加したものの、傷が痛んだのか反応が遅れて星屑の体当たりが直撃して意識を失っており、春日さんと冬花先輩も星屑の数に押されて、噛まれたり船体に叩きつけられたせいで身体中が痛むのか立っているだけで辛そうだ
「こちら第七班…負傷者3名、内2名…重傷…です」
緊張が解けたのか、報告をしている最中に春日さんが倒れ、言い終わるのと同時に冬花先輩まで倒れてしまった
一度目の作業時と違って星屑達も融合して進化体になるなど妨害が激しく、他班にも重傷者が出ており、無線機から聞こえてくる負傷者の数は二桁に届こうかという数になっていた
全員が病院へ送られて身体検査を受けた結果、
私達の第七班は、私以外の3人が入院することとなった
(私が……もっと上手く星屑を足止め出来ていたら…)
人通りが無い階段の踊り場で壁に背を預け、私は目を閉じてため息をつく
「こ~ら、ため息なんてしたら、せっかくのカワイイ顔が老けちゃうわよ?」
「ひゃ!」
誰かに頬を指で突かれ、驚いて振り向く
「…って、冬花先輩ですか。入院中のはずじゃ…動いて大丈夫なんですか?それと、何で制服を着ているんですか…?」
「アタシは、ただの疲労で倒れちゃってただけだから、心配しなくても平気よ」
腰に手を当てながら「ふふん」と自慢気に言っているが、スカートの裾から覗く太股にある傷や額に巻かれている包帯によって、その言葉が単なるやせ我慢であることが察しがつく
「それに、さっきまで班長達を集めた会議もあったしね……」
嘘がバレたからか真面目な表情に変え、制服を着ていた本当の理由を話してくれた
“班長達の会議があった”ということは、次の御役目に出る日も決まったのかもしれない
「次の御役目に出る日が決まったんですか…?」
「……次も3日後らしいわ。調査任務の時と違って、神官達はアタシ達に内緒で何かに慌てているっぽいわ」
不満や不信感を隠そうともせず、冬花先輩は大赦への怒りを表す
「やっぱり、私達は大赦にとって使い捨ての道具でしかないんでしょうか…」
前回の出撃の直前に、私が否定しようと認めさせるかのような雰囲気に私はこれ以上話すことが出来ず沈黙が漂う中、誰かの声が聞こえた
「まったく…2人共、なんちゅー面しとんねん」
聞き覚えはあるが、ここで聞こえるはずのない声が聞こえ、私と冬花先輩は同時に声のした方向へ振り向く
そこには、防人の御役目を退いて五岳市へ帰ったはずの桜井先輩が“防人隊の制服”を着て、そこそこ大きめな鞄を持って立っていた
「桜井先輩!?」
「一葉!?ウソ!?なんでここに居るの!?」
もう五岳市へ戻らないと出会うことは無いと思っていた人物との予期せぬ再会に私と冬花先輩は揃って驚き、冬花先輩に至っては喜びのあまり桜井先輩の両手を握ってブンブンと振ったと思いきや、直後に痛みが襲って来たのか呻き声を上げながら身を屈める
「おいおい、大丈夫かいな……ウチがここに居るんは、半月前に腕の手術が終わって、そっからリハビリでここに通っとる。ちゅー訳や」
手術を受け、まだ完治していないのだろう左腕を庇うように擦りながら、自身のことを軽く教えてくれる
「……と、ちょっとした野暮用もあるんやけどな」
何か小さく呟いているように聞こえたものの、それは一旦置いておいて、何故防人の制服を着ているのかを聞いてみることにした
「そこは分かりましたけど……何で、私達と同じ防人用の制服を着てるんですか?」
「ん?あぁ、これな。3日前に、ここでバッタリ会った雀やら入院中の防人の子から聞いたんやけど、急に忙しくなったんやろ?自分らが音ぇ上げとらんか気になってな、潜入の為に引っ張り出してきたって訳や」
(それって、部外者が勝手に入ってきてるってことじゃ……)
私達2人揃って微妙な表情を浮かべていることに気づいたのか、咳払いをしてから別の話題に話を変える
「……ところで2人共、千秋のことは何か聞いとるか?」
出水さん――彼女も御役目を辞めた後は、五岳市へ帰って今まで通りの日常に戻っていると思っていたけれども、この口ぶりだとどうやら違うらしい
「……いいえ、アタシ達のところには何の情報も来てないわ」
冬花先輩も私と同じように何も知らないらしく、私よりも先に否定の言葉を口にし、私もそれに続くように首を横に振る
「そっか……、千秋な、軽めやけど“天恐症”みたいなのになってしもたみたいでな。……天恐症って、覚えとるか?」
御役目を辞めた人のその後の情報が知られていないのを知って、自身が分かっている範囲内で教えてくれる
天恐症――正式名称を“天空恐怖症候群”と言うのだったか、初陣直前の勉強会で見た資料の中に書かれていたはずだ
「私が……もっと皆さんのことを考えていたら…」
(あの時、私が葦原船から飛び出さず一緒に居たなら、2人とも防人を辞めることも無かったのかもしれない……)
そう考えている内に、スカートの裾を無意識に強く握ってしまっていたようで、冬花先輩が手を優しく重ねてくれる
「凛、もうその事を悔やんでも仕方ないのよ。……でもアタシは、防人を抜けた一葉達の事を何も知ろうとすらしてなかったのね……」
冬花先輩は、私を励ましながらも自身の無知を悔いるような表情を浮かべてから目を閉じ、すぐに何かを決めたかのような表情に変わる
「……アタシ、他の班長達と話して情報を集めてみるわ。2人は千秋ちゃんのことをお願い!」
冬花先輩は、それだけ言うと私達の返事を聞かずに過去に脱落者を出していた第八班の班長――葛城さんの元へ駆けていった
「あっちはもう大丈夫そうやな。……で、凛。話は変わるんやけど、初陣の時の約束覚えとるか?ほら、初陣から帰ったら名前の方で呼ぶって」
「あー……、そんなことを言ってましたっけ…?」
正直、色々とありすぎて殆ど約束の内容を忘れてしまっていた
「せっかくの機会なんやし?ほら、言ぅてみぃや」
「どうしても名前で呼ばないとダメですか?桜井先ぱ……一葉先輩」
断らせないと言わんばかりの圧に押されて、仕方なく名前で呼ぶと「妥協点かな」とでも言いなげな表情浮かべる
「んー…ホンマは、“一葉さん”って呼んで欲しかったけども、まぁええわ。この調子で千秋んことも――」
話していた最中に、スマホのチャットアプリから通知が届き「すみません」とだけ断ってから内容を確認する
送信者は加賀城さんで、防人番号25~32番の人を集めたグループ[防人底辺層仲間]の皆へ《話したい事があるから、みんな私の部屋に集まって~》と送られていた
私はそれに《30分後くらいに行きます》と返して、スマホを仕舞う
「加賀城さんからでした。話したい事があるって」
「おっ!せやったら、雀に渡して欲しい物があるんや」
そう言いながら鞄の中をゴソゴソと漁り、「おっ、あった」と呟いてから何かを取り出す
それは透明な袋で梱包された橙色をした乾麺で、パッケージに“みかんのおそうめん”と書かれているそれを私に手渡してくる
「何です?これ…?」
こんな商品見たことが無く、そう言葉が漏れてしまう
「何って、素麺やけど?雀に『この前のお礼』ってのと『例の件、任せた』って伝えて渡してな~」
それだけ言って鞄を持ち直すと、そのまま廊下を歩いていき各病室入口に掲げられている名札をチェックしていく
(……私も、加賀城さんのところへ行かないと)
そう思い、病院から出てゴールドタワーへ向かうことにした
病院からゴールドタワーへ向かって歩いていると、突然後ろから強く押され、私は勢いよく地面に倒れ込んだ。
「きゃっ!」
何事かと弾みで振り向いた視界の先を、フルフェイスのヘルメットを被った男が駆け抜けていく。その手に握られているのは、私が持っていたはずの鞄だ。
(鞄を……盗られた……!?)
あの鞄の中には、私のお小遣いを管理している大赦支給のカードを入れた財布も入っている
「しまった…!待ちなさい!」
すぐに立ち上がって引ったくり犯を追いかけるが、女子中学生と成人男性の体力差もあって、全速力で走っているのもあって追いつく事が出来ない
(駅の方角へ向かっている…?もし電車に乗られたら、取り戻せなくなる!)
ここからだと、玉藻や象頭、讃州方面以外にも特急列車に乗れば香川県外にまで逃走出来てしまう
その事実を思い出し、より一層全力で走る
男が路地を曲がると、少ししてから「ぐぇっ!」と短い悲鳴が聞こえ、続けて女性の声が聞こえる
「私は“国防仮面”。人々が悪の驚異に晒された時、できるだけ現れます!」
私も路地を曲がると、旧世紀の軍服のような衣類を着てマントを羽織った私と同年代っぽさそうな少女が、ひったくり犯の男性を拘束していた
(春日さんが見せてくれた動画に出ていた国防仮面さんとは、服装に少し違いがあるような気が……?)
よくよく見ると、服の色やポケットのデザイン等が微妙に違っており、動画に出ていたのとは別人でないのかと違和感を覚える
「えっと、国防仮面……さん?」
私の声を聞いて、“青いポニーテール”をなびかせながら振り返って私を見ると、見るからに「げっ!」とでも言いたそうな表情を浮かべて、明らかに動揺しているものの彼女自身は平静を装っているつもりでひったくり犯が持っていた鞄を渡してくる
「こ、この鞄は君の物かな?取り返したから、大切に持っておくんだぞ!」
この声、そして髪型、間違えるはずもない
「あの……佐倉先輩、ですよね?」
入院しているはずなのに何故か居る佐倉先輩に、そう尋ねるとピタッと身体の動きが止まってから、言い訳を探そうとして目を泳がせてる
「あ~、えっと~……、はぃ……」
観念したのか、そう小さく呟いた彼女に駅のトイレで着替えてもらって、防人達に見つからず落ち着いて話を出来る場所――春日さんの実家の喫茶店へ共に移動することにした
「……で、何で佐倉先輩が病院の外に居るんです?まだ入院中のはずですよね?」
「これには、少し事情というものがあってだね……」
店内に入り、席に座ってコーヒーと紅茶を注文してから、何故勝手に退院しているのか問いかける
佐倉先輩は話しづらいのか、躊躇いつつも観念して話し始める
「実は……玉藻時代の友人達に、防犯啓発活動用の動画を撮るのを手伝ってほしいと頼まれて、春日くん達と見た動画の人物――国防仮面の格好をすることを推薦した手前、断りきれなくてね……」
座ったままだけども頭を下げる彼女を見つつ、私はため息をもらす
「はぁ……病院からの無断離院に、外出届無しでの活動。一体何をしているんですか…」
この事が神官様の耳に届けば、彼女は防人の御役目から外されてしまうかもしれない。それは私としても本意ではない
「……でも、騒ぎを大きくしても私達には不都合しか無さそうですし、何も見なかったことにしますから、早く病院に戻ってく――」
言いながら席を立とうとした瞬間、スマホにメッセージが届く
「冬花先輩から?内容は……ぁ」
《佐倉さん見なかった?一葉が変装してベッドで寝ることで成り代わってたの》
そのメッセージに続いて、1枚の写真を受信する
そこには、病室のベッド付近の床に正座させられている一葉先輩と、その隣には青い長髪姿に変装するためのウィッグが置かれている
「…………あの人は、何をやってるんですか」
一人で、そう呟きながら席に座り直す私を見て、事態を察したのか佐倉先輩も詳しく話し始める
「……桜井さん――彼女とは3日前の入院時に出会って、自身のことを元17番の防人と言っていたことから仲良くなってね。[抜け出す必要があるなら呼んでくれ]との言葉に甘えさせて貰ったんだ……」
その言葉を聞きながら、私はどう返信しようかと悩み、1つ決心する
《冬花先輩以外に、誰か気づいていますか?》
そう送信するとすぐに返事が返ってくる
《今のところ、アタシだけよ。春日さんにも言ってないわ》
その言葉を聞いて少しホッと胸をなで下ろし、そのまま返信する
《今、目の前に居ます。すぐに帰しますから部屋に誰も入れないでください》
そうとだけ送り、このメッセージ画面を佐倉先輩に見せる
「そういうことですから、病院へ帰ってください。今、すぐに」
【誰にも気付かれなければ、無断離院は無かったことになるはず】そう伝えて席を立ち、佐倉先輩の背を押して出口へ向かい精算をしてお店から出てお互いに病院とタワーへ向けて走り出す
「すみません、遅れました!」
結局、約束していた時間から15分ほど遅れて、私は遅刻したことを謝りながらドアをノックすると、ドアが開いて加賀城さんが出迎えてくれる
「遅いよ、凛さん!何があったのさ!」
「鞄を盗られて、それを国防仮面さん?に取り返して貰ってたら、遅れちゃいました」
佐倉先輩の無断離院の一件は、神官様は当然として、私達以外の防人にも情報を伏せることにしたので「大丈夫だったの?」と聞いてくる加賀城さんに、当たり障りの無い感じに返事をしつつ促されるままに室内へ入ると、私と加賀城さん以外に3人の防人の子が机を中心にして集まっていた
「凛ちゃんは国防仮面に会ってたんだ。須美ちゃん達がオリエンテーションで着て体操を踊ってたのが懐かしいな」
防人番号31番の子――大西 詩さんが机に山積みされているみかんを食べながら、神樹館時代の光景を懐かしむ
「残りの3人は入院中ですし、これで全員ですね。今日は何の話ですか?」
大西さんの妹である、防人番号25番の子――大西 奏さんが全員集まったことを確認し、加賀城さんへ私達を集めた理由を尋ねると、加賀城さんはわざとらしく咳をしてから話し始める
「うぉっほん!来る11月20日が何の日か。そう!我らが天使あややの誕生日だよ!だから、私たちからあややをサプライズでお祝いしてあげたいな~って、咲楽さんと話してたんだ」
「でもウチと雀ちゃんの2人だけじゃ、これだ!って案を出せなかったから、皆からも何が良いか聞きたいんだよね~」
加賀城さんの話に防人番号30番の人物――青山 咲楽先輩が補足を入れて私達に説明をしてくれる
彼女も加賀城さんと同じくお喋りが好きな人で番号も近いこともあって、自由時間の際にお喋りをしている姿を何度か目撃している。その際に、2人で案を出し合っていたのだろう
「でしたら、防人全員に呼びかけて誕生日パーティーを開くのってどうでしょうか!」
奏さんがハイッ!と勢いよく挙手をしてから発言をすると、姉の詩さんが賛成を示しながらみかんを口元に持っていくと、奏さんも慣れているのか「お姉ちゃん…」と照れと呆れ半々の表情を浮かべつつも、拒否せずそのまま口に入れて貰う
その光景を横目に、私は加賀城さんへ質問する
「……パーティーを開くのなら、国土さんが好きな料理とケーキがないとですよね。誰か知ってますか?」
「うどんが好きみたいだよ。食堂だと、うどんとちくわ天をよく食べてるかな。ケーキは……ごめん、分からないや」
普段、国土さんは第一班の人達と一緒にご飯を食べているからか、加賀城さんがすぐに答えてくれる
「ここの食堂で食べられるうどんって、確か自家製手打ちの本格的な麺でしたよね?私達でも作れますか?」
「うどんなら、ウチのコマちゃんの実家がうどん屋だし、教えて貰えるかも」
(コマちゃん…?)
誰のことだろうと思っていたら、第六班班長の“白駒 由布子”先輩のことだと加賀城さんが教えてくれた
初陣の際に私達を助けてくれた班長さんで、その時の縁で冬花先輩と仲が良くなったのか、一緒に夜食でカップ麺を食べている場面を稀に目撃したことがある
(彼女のことか)と一人納得している私をよそに、加賀城さんは議題を進めていく
「じゃあ、私たちの手作りうどんは決定だね。次はケーキについてだけども……何が良いかな?」
この会話を皮切りに、国土さんは何のケーキが好きそうかを順に言っていく
「亜耶ちゃんが好きそうなケーキか。私はチョコレートケーキだと思うな」
「抹茶ケーキなんてどうでしょうか!」
「ウチなら、イチゴのショートケーキが良いかな~」
「フルーツタルトだと良いなー。みかんがたっぷり乗ったやつ」
加賀城さんの口から“みかん”と聞き、私は一葉先輩から預かっていた素麺のことを思い出す
「あっ、そうでした。話の腰を折ってすみませんが、これを加賀城さんにって預かっているんでした。『先日のお礼』と『例の件、任せた』って伝言と一緒に」
一葉先輩に持たされていた“みかんのおそうめん”を加賀城さんへ渡す
「ってことは、一葉さんから?へぇ~、みかんの果汁を練り込んだ素麺なんてあるんだ」
「雀ちゃん、例の件って何なの?」
素麺を机にしまう加賀城さんに向けて、大西さんは奏さんにみかんを食べさせ終えたのか、抱き付いたままの姿勢で質問する
「そっか、皆にはまだ話したこと無かったっけ。“防人の願掛け”ってやつでね、ハート型の南京錠に名前を書いて、喜びも不安も、全部纏めて班の皆で共有して形に残す。って――」
「なにそれ面白そう!詳しく教えて!」
加賀城さんの説明の最中に、青山先輩が興味津々と言った感じに身を乗り出して、本来は西暦時代に恋人同士が名前を書いて絆が続くように願っていたものだっただとか、由来から何まで全てを聞いていく
「素敵な話~。ウチも南京錠買ってこよっと」
「奏ちゃん、私たちも後で買いに行こっか」
「班の皆で書く分と、お姉ちゃんと書く分もだね!」
「じゃあ、話の続きは明日にして、今日は解散しちゃおっか。誕生日会のこと、あややには内緒ね」
これ以上は誕生日会の案も出そうになく、防人の願掛けの方に意識を取られたこともあって、加賀城さんが解散を伝えると皆一斉に南京錠を買いに行ってしまった
(“喜びも悲しみも、全部纏めて共有する”……か)
ポケットの中に入れっぱなしにしている一葉先輩達3人の名前が書かれた南京錠を触りながら先ほどの言葉を思い返し、私も少し遅れて南京錠を買いに行くことにした
そして3日が経ち、私達は3度目の植樹作業に出撃した
今回は幸いにも作業中に星屑の襲撃はなく、帰り道の途中で少数の群れと鉢合わせた程度で済み、全ての班で重傷者を出すことなく四国へ帰還することが出来、春日さんを始めとする前回の怪我が癒えきっていない人物が一応、後から再入院する程度で済んだ
「皆さん、少しいいですか?先日、加賀城さん達と話したことなんですが――」
葦原船の船体チェックをしつつ、国土さんが神官様に連れて行かれたのを確認してから、私は班の皆へ国土さんの誕生日会について話すことにした
「亜耶ちゃんの誕生日会ねぇ。……うん、アタシも料理を手伝うわ」
「自分も手伝うであります!ケーキ作りなら、自分にも出来るはずです!」
「ボクは料理はからっきしだからな……せめて、会場の飾り付けくらいは手伝うよ」
3人共手伝ってくれることを加賀城さんへ伝えると、ほぼ同じタイミングで他の班の子からも声が聞こえ、纏めると防人全員が各々の得意分野で手伝ってくれるらしい
「ありがとうございます。それと……もう一つ、個人的なお願いなんですが……」
もう一つのお願いの為に、調査任務が終わってから使うことが無かった
「皆さんと“防人の願掛け”をしたくて……どうでしょうか?」
そう伝えると、春日さんと佐倉先輩の2人はそれぞれ「防人の願掛け?」「何でそんな所に南京錠を入れているんだ…?」と把握出来ていないような表情を浮かべ、冬花先輩は一瞬驚いたように顔が強張ってから表情が軟らかくなる
「変わったわね。凛」
突然そう言われ、今度は私の方が理解しきれず質問をする
「変わったって、何が……でしょうか?」
「だって、今までだったらアタシか一葉が提案して、千秋ちゃんが賛成して、それからあなたが付いてくる。それが当たり前だったのに、あなたから提案してくるなんてね」
言われて思い返すと、確かに五岳東中学校に居た当時の私自身から何かを主張していたことは少なかった気がする
防人となって、ここに来てからまだ2ヶ月も経っていないのに、懐かしい思い出に浸っていると隣から咳払いが聞こえる
「ンン…!凛くん、そろそろボク達にも説明をしてくれると助かるんだけどな」
2人だけで話を進められて、置いてけぼりにされていた佐倉先輩達が説明を求め、私は成り立ちを軽く説明しながら冬花先輩へ南京錠を渡す
「じゃあ、アタシから書いていくわね」
そう言いながら南京錠を受け取り、右上の方に丸みを帯びた字で小さく名前を書いて佐倉先輩に渡す
「ふむ、思いを共有する証……か。こんな感じで良いかな?」
受け取ると、右下の方に本格的なサインを思わせるような達筆な字で名前を書き、春日さんへ渡す
「自分、サインは苦手なのでありますが……」
受け取って書いていくも、難しかったのか角張ったような字で左下の方に名前を書く
「皆さん、ありがとうございます。タワーに戻ったら展望台にあるオブジェに付けてきますね」
私も、残った左上部分へ自分の名前をなるべく丁寧に書き終えて握り締めて船体チェックを終わらせる
そしてゴールドタワーへ戻ると、真っ先に展望台にあるオブジェに南京錠をかけに行く
まだ他の班の子達は来ていないのか、他にかけられている南京錠には防人の子の名前が書かれておらず、旧世紀にカップルがかけたと思われる物がそのまま残されている
「凛先輩?何をされているんですか?」
誰かの声が聞こえ振り返ると、神官様との話が終わった直後なのか羽衣を着たままの国土さんが居て、私が南京錠をかけていたことを不思議に思っているようだった
「防人の願掛けです。名前を書いた人と思いを共有して、いつまでも絆が続くようにって」
そう軽く説明してから国土さんの顔を見ると、キラキラとした目でオブジェにかけられた南京錠を見つめていた
「私も、ご近所さんの神社で皆さんの無事を祈っていますから、皆さんの思いも神樹様の元へ届いているはずです。ですから、神樹様は皆さんのことを守ってくださります」
言いながらも彼女は祈るように目を閉じ、手を合わせる
(彼女は、幼い頃から大赦で育てられていた影響で神樹様への信仰が強いのかな?……でも、この感じって――)
そう考えていた最中、祈り終えた国土さんから声をかけられる
「私、芽吹先輩達のお部屋の掃除に行ってきますね。お話ありがとうございました」
ペコリと頭を下げて、彼女はタワー中心部にあるエレベーターに乗って地上へ降りて行くと、展望台には私一人だけが残される
(国土さんは、私達のことを純粋に思ってくれているのは分かってる。だけど――)
――神樹様に縋りすぎているのではないか?
海の彼方にそびえ立つ壁を見ながらそう思っていると、2年前にお父様から言われた言葉がつられて思い出される
『――お前は、大赦の……神樹様のお言葉に従って生きていれば、それでいいのだ』
確かに、神樹様の加護さえ受け続けることさえ出来るのなら、全てを捧げても良いのかもしれない
でも、神樹様の顔色を窺っていなければ生きていけない世界なんて、私は、そんなもの――
「――認めたくなんてない……」
そう小さく吐き捨ててから、私はエレベーターで降りていった
「白駒由布子はこれでも防人である」より、青山咲楽さん【うどん屋@兎に角ゆゆゆを応援したい(@udonya_yuyuyu)様作】に出演していただきました
もう少しで、ようやく終盤…?
頑張っていきます!