白峯 凛は防人となる 作:秋嘉
何とか、第三話書き終わりましたが「第一話+第二話」と同じくらいの文字数があります!
時間がある際にお読みください…!
展望台で防人番号と所属する班を伝えられた夜、私達4人で集まってお疲れ様会を開いていた
「えー、皆、今日はお疲れ様!乾杯!」
私達4人を纏める防人隊第七班の班長だからと、桜井先輩が冬花先輩にお疲れ様会を開くように要望し、様々な種類のお菓子やジュースを買わせていた
「「「乾杯!」」」
各々好きな飲み物を入れた紙コップを掲げ、飲み始める
「まさか、アタシ達全員が同じチームになるなんてね」
「てっきり、全員バラバラに配属されると思ってましたので、わたし嬉しいです!」
お茶を軽く一気飲みをした冬花先輩とりんごジュースをちびちび飲んでいる出水さんが喜びを隠さずに感想を述べる
「せやけど、ウチら第七班は他と比べて番号の合計高ぅないか?他の班は65辺りやのに、ウチらの場合は72やで?」
豪快に炭酸ジュースを一気飲みしている桜井先輩の言う通り、楠さん達のチーム――第一班は1+9+20+32で合計62、私達の第七班は7+17+22+26で合計72…神官様は実力が均等になるように分けた。と、言っていたものの、班員全員が勇者選抜試験参加組で固められたチームもあると聞いた
「神官様の気まぐれ…じゃないでしょうし、私達の場合は、元が同じチームだったので上手く連携出来るって期待しているんじゃないですか?」
ミルクティーを飲みながら、私なりの推測を伝える
「期待されてるってのなら、アタシ達はそれに応えなきゃね!皆、これから頑張りましょう!」
「おぅ!」
「はい!」
「ええ!」
冬花先輩の掛け声に皆バラバラに返事をして、開けているお菓子と飲み物を食べきってから解散する事になった
翌朝、食堂で朝食を食べ終わってタワーの展望台へ向かうと、初めて来たときに説明をしていた神官様と私達と同じ制服を着た金髪の子が私達全員が揃うのを待っていた
(あの子、誰だろう…?)
そう思っている間に、皆揃ったらしく神官様が口を開く
「揃いましたね。あなた達には、今日から御役目に向けた訓練以外にも、普通の授業も受けて貰います」
「ちょい待ち!ウチら、御役目だけでも大変やのに、普通の授業も受けろって言うんか?それは流石に無茶ちゃうんか?」
「桜井さん、確かに私達は皆さんに御役目をお願いしました。ですが、あなた達は防人である前に一人の中学生です。学生として勉学にも励むように」
神官様の言葉に桜井先輩が異議申し立てをするも、正論を返されて「ぅぐ…!」と唸ったのを最後に黙ってしまった
その後、時間割を教えられた際、何点か普通の学校と違いがある事を同時に伝えられる
違いは
〈御役目に向け、訓練の時間を確保する為に普通科目は少ない〉
〈御役目にて使用する【祝詞】の勉強がある〉
御役目を解かれた時の事を考えると、普通の学生生活も送れと言う意味は理解出来る。けれども、最後に伝えられた【祝詞】がいったい何に使う物なのか見当もつかない
「祝詞に関しては、こちらの国土亜耶さんに教わって貰います」
「初めまして、国土亜耶と申します。大赦に所属する巫女の1人です」
神官様の隣に立っている小柄な少女―国土さんが自己紹介をすると「亜耶ちゃーん」と言った声が小さく聞こえたが、神官様はその声を無視して資料を配る
「まずは、この資料を読んで下さい。壁の外へ出る際に皆さんに乗って貰います【葦原船】について書かれた資料です。この船は、祝詞を唱えて神樹様の力を制御する事で動きます」
渡された資料には、帆の付いていない赤い柱が立っている変わった形をした大きな木造船が描かれている
「実物は、また後日お見せします。では、これから授業を始めますので、学年ごとに別れて教室へ移動してください」
それだけ言って神官様が退室したので、私達も続いて退室し指定された教室へ移動して授業を受ける
1限目から3限目は普通の授業を行い、4限目に国土さんによる祝詞の授業が3学年合同で行われた
(祝詞…慣れない単語が多くて難しいな…)
ちらりと3年生グループを見ると、桜井先輩がダウンしていて国土さんに心配されているのが見えて授業が終わった
「あ″~、つっっかれた~…何でウチら、御役目に就きながらも勉強せなアカンねん…」
「神官様も言ってたでしょ、アタシ達はまだ中学生なのよ」
食堂にて、桜井先輩が机に突っ伏しながら愚痴を吐くも、冬花先輩からも一蹴され更に深く突っ伏す
そんなことを言いつつ昼食のうどんを食べていると、2人組の防人の子がうどんが乗ったお盆を持ってこちらへ近づいて来た
「ね、ね、綾川さんって勇者様を選ぶ選抜試験に参加してたなら、勇者様に会った事あるんですよね?どんな人だったんです?」
「私達2人とも所謂ハズレ組だったから勇者様の事を教えて欲しいんだにゃー」
2人共、私達と同じく勇者に選ばれなかったグループ出身の子らしく、勇者選抜試験組なら勇者様に出会ってると踏んだのだろう
「あー…ごめんなさいね、アタシも少しの期間しか―」
「三好様は凄いんですよ!何も見なくても攻撃を躱せるくらい強くて、後光が差してるみたいに輝いていたんです!」
冬花先輩の言葉を遮って出水さんが目を輝かせながら立ち上がり語り始める
その際、立ち上がる際に机が揺れて私のお昼ご飯のきつねうどんの汁がこぼれかける
「おや?キミも選抜組なのかにゃ?」
「いえ、勇者様の選抜試験は受けていませんが、部活動で1度ご一緒したことがあります!で、三好様って動きもホントに速く――むぐっ!」
出水さんは語るのに夢中になっている為か、何度か身体が机にぶつかるも一切気にしておらず、これ以上喋られて私達のお昼ご飯が犠牲にならないよう、出水さんの口を塞いで動きを止める
「お二人ともごめんなさい。私達はその1回しか会った事が無くて、実はあまりよく知らないんです」
「え、えぇ!アタシ達よりも、選抜試験で最後まで居たらしい楠さんに聞いて貰った方が良いかもしれないわね!」
出水さんの口を私が塞いでいる間に、冬花先輩がアタフタしながらも2人からの質問の矛先を楠さんへ向けさせる
「あー、そうなんだ…」
「じゃあ、また後で聞いてみるかにゃー」
離れた席へ向かって歩き出した2人に手を振って見送ってから、冬花先輩が出水さんの方へ向き直す
「…千秋ちゃん、どうしてあんな事を言ったの?」
「どうせやったら、もっとオモロイ感じになるように話を盛るべきやったんちゃうか?」
誤解を生むような事を言ったのを咎める冬花先輩と、話に参加して内容を盛るべきだったと惜しんでいる桜井先輩による2人の対立を横目に、私はきつねうどんを啜る
「三好様、ホントに凄いんですもん…」
出水さんは自身の話を打ち切らされて、少しふて腐れながらコロッケを突く
「勇者様の目からはビームが出るとか、身体は刃物すら通さないとかどないや!」
「はいはい、一葉の発想は凄いわねー」
「桜井先輩、早く食べないと時間無くなりますよ」
桜井先輩は、まだ懲りずに話を盛ろうとしているが私達に軽くあしらわれてしまい、「はい…」とだけ言って大人しくうどんを食べ始め静かに時間が過ぎていった
それから数日経ったある夜、冬花先輩から集合命令がかかり冬花先輩の部屋に集まる
「冬花先輩、失礼します」
部屋に入ると、既に桜井先輩と出水さんも到着しており、2人ともジュースを飲んでくつろいで居た
「凛も来たわね。じゃあ早速始めましょうか」
そう言って冬花先輩が机の上にある書類の山から数冊の本とタブレット端末を私達に差し出し、タブレット端末の電源を入れると、西暦時代の物と思われる歩兵や戦車、戦闘機のフォーメーションについて書かれたホームページが表示される
「あの…綾川先輩、この本は…?」
「先ずはこっちよ。葦原船に乗った時のフォーメーションを決めましょ」
出水さんの疑問を一旦スルーしてタブレット端末をスクロールし始め、目当ての物を見つけたのかスクロールを止める
「ダイヤモンドフォーメーション…菱形陣形とも言うこれを基本としましょう」
解説を読むと、先頭と
「艦首側にはアタシが入るから、艦尾側には一葉が入ってくれる?」
「ホンマは先頭に行きたかったけど、しゃーないな」
班の指揮をする為か、冬花先輩が艦首側へ。艦尾側には、次点で訓練成績の良かった桜井先輩が入る事になり、私が右舷側、出水さんが左舷側担当となった
「で、次は隊長から射撃命令が出た際の攻撃陣形…アローフォーメーションよ」
そう言って出された画像は、護盾隊を囲むように銃剣隊が立つことで上から見ると逆Yの字っぽくなっている
「これは凛を中心にアタシが艦首側、両隣を一葉と千秋ちゃんが立って、攻撃が来たら凛がアドリブで防ぎに行く…って感じね。ここまでで質問は?」
「この2つは分かったわ。はよ次のフォーメーション紹介してーや」
「えっ、他の陣形なんて無いわよ?」
陣形について話終えたのか、疑問点が無いかの確認にするも桜井先輩に続けて説明する事を促されるも、この2つ以外は不要だと考えていたのか無いと正直に答え、部屋の空気が凍りつく
「ま、まぁ…気を取り直して、次は何かを見つけた時の報告の伝え方についてよ」
そう言ってタブレット端末の隣に小さいアナログ時計を置く
「そのまま、前方に敵!とか言っても、誰の正面か分かりにくいから、進行方向を正面12時の方向として時計順に1時方向2時方向と続けて12分割して言いましょうか」
冬花先輩の言っている事を全員理解したようで首を縦に1度振り、それを見た冬花先輩は次の話題を持ち出す
「じゃ、次は葦原船に祝詞を唱える担当を決めましょうか」
葦原船の上面図が表示され、前後左右に私達を示す点が一つずつ書かれる
「まず前提としては、護盾隊の凛は除外するわ。防御が疎かになったら危ないしね」
「せやったら、ウチがやるわ」
桜井先輩が自ら志願したことに、私を含めた3人が意外そうにしているのに気付いたのか不満げに言葉を続ける
「なんや?やけに意外そうやな。忙しい指揮官殿と護盾隊の凛を除いたらウチと千秋の2人しか残らんやんか」
実際、戦闘時に戦闘指揮を担う冬花先輩と臨機応変に動いて盾を展開しなくちゃいけない私の2人が忙しくなるだろう…でも…
「いえ…桜井先輩、祝詞の授業に苦戦してるじゃないですか」
そう、桜井先輩は先祖代々受け継いできたと言う[関西弁]と言う喋り方に発音が寄ってしまい何度か国土さんに注意されており、それなら出水さんに頼った方が早いとの思いで意見を述べる
「ぅぐ…い、いや、ウチにも最年長の矜持ってのがあってな…せやから、ウチにやらせてや」
普段のおちゃらけた態度と違い、最年長としての意地からか真面目な雰囲気に飲まれて、私達は桜井先輩の言葉を受け入れるしかなかった
「…それじゃあ一葉、頼むわね」
そう言ってタブレット端末の電源を消し、同時に持ってきていた本を取り出す
「で、こっちは西暦時代の資料よ。神官様に無理を言って借りてきたの」
無理を言ってという部分が、どういう意味かと疑問に思いつつ本を適当に開く
そこには、今まで聞いた事も無い“7.30天災”や“天空恐怖症候群”と言った単語から、バーテックスの特徴、果ては“うどん玉で気を引く作戦”“バーテックスの
「これ……本物なんですか?」
「本物…らしいわ。初代勇者様の資料を元にしたとか」
数冊積まれた本の間に小さな手帳が挟まっているのを見つけ、取り出して内容を確認するも大部分が黒く塗り潰されていて、殆ど内容に読むことが出来なかった
「真っ黒…」
「冬花先輩…何でこんな物を借りてきたんです?」
私だけでなく、ひょこっと隣から顔を覗かせる出水さんも少し非難を込めた視線を冬花先輩へ向ける
「んー…それは他の資料を借りた時に、こっそり拝借した…と言うか何と言うか…」
「勝手に持って来たんか?自分そんな事しよったんか…」
ばつが悪そうに目を逸らす冬花先輩を、桜井先輩までもが非難すると「ご、ごめんなさい…」とだけ言って小さく座る
その様子を横目で見つつ、私は指先で黒く塗り潰された部分をなぞり何が書かれていたかの確認を行う
「…これ、7.30天災で逃げてきた人が書いた記録ですね」
薄くなったボールペンで書こうとしたからか、ペン先を強く押しつけて書いていた様で、文字を消されても痕は残っていた
目を閉じて指先に意識を集中し、感じ取れた文字を読んでいく
その本に書かれている事を要約すると
【ヤツらは空から降ってきた】【■■戦に持ち込む等、知■を持っている】【通常兵器は通用しない】【■われた人は、次第に空を■がるようになる】
数ページほど破られていたりで読めなかった所もあるものの、そんな事が書かれていた
「後は…すみません、これ以上は難しそうです」
「それじゃあ、今日の勉強会は終わりにしましょうか」
何とか読み取れた情報を纏め、冬花先輩が解散宣言をしつつ背伸びをする
「しっかし凛。自分、よー指先だけで読めるな」
「昔、お父さ―父から『検閲されて、目で読めない本は指先で読め』と言われた事がありましたから…本当に使うとは思いませんでしたが…」
桜井先輩からの言葉に返事をする際、無意識に父の事を昔の呼び方をしそうになり、一拍おいて訂正しつつスマホを手に取り葦原船上でのフォーメーションの再確認を行う
その際、視界に入った出水さんの顔色が少し悪そうに見えたので声をかける
「…出水さん、大丈夫?」
「え!?わ、わたしはもう全然!何ともありませんよ!」
声をかけられた出水さんは、明らかに挙動不審になりつつ何ともない感じをアピールする
「千秋ちゃん、無理しちゃダメよ…?」
「色々と情報多かったからなぁ…ウチが部屋に送ってくわ」
その様子を見た2人も出水さんを心配し、桜井先輩が肩を貸して立たせて、その際に出水さんが「すみません…」と小さく呟いて部屋を出て行った
私も、「手帳、ちゃんと返却して下さいよ」とだけ言い残して冬花先輩の部屋を退出して自室へ帰ることとした
班内の勉強会から更に数日が経過し御役目に就く前日、御役目前の最後の訓練として銃剣を用いた近接戦闘訓練をしていた
私は銃剣を使わない護盾隊なので、3人のフォームチェックを頼まれた
「ふっ、やぁ!」
「っらぁ!」
「えい!たぁ!」
先輩2人の動きは大丈夫だろうが、先日の勉強会終わりに体調を崩した出水さんは途中で何度か動きが固まり、訓練のやり直しをしていた
その影響もあり、訓練終了時には既に他の班の子達は居らず私達が最後となっていた
「はぁ…はぁ…ごめんなさい。わたし…」
「大丈夫よ。とは言え…この時間じゃ、今から行っても食堂の終業時刻に間に合わないわね…各自シャワーを浴びてからアタシの部屋に来てちょうだい。この間の残りのお菓子と非常食の乾パンで晩ご飯にしましょ」
冬花先輩がスマホを取り出し時計を見る、既に21時を超えておりラストオーダーにも間に合いそうにない
なので、非常食を準備しようと先に出ようとする冬花先輩を桜井先輩が呼び止める
「せっかくやし、このまま皆で先に大浴場の方に行かへんか?」
「わぁ!広いお風呂!良いですね!」
「大浴場…?」
「えー…汗さえ流せれば、自室のシャワーで良いんじゃないの?」
桜井先輩からの提案に3者様々な反応を示す
出水さんは先程までの落ち込み様が嘘のように大喜びし、私はそんな場所があったかな?との思いから聞き返し、冬花先輩に至っては大浴場に行きたくない感じを滲ませる
「ちょっとまて…千秋は別として、自分らのその反応…もしや、2人とも大浴場に行ったこと無いんか?」
私と冬花先輩が、大浴場へ行く事に乗り気じゃない事に疑問を持ったのか出水さんとヒソヒソ話をして、悪い顔を浮かべながら私と冬花先輩の方を見る
「私は別に構いませんが…何ですか?その顔は」
「これは…一旦逃げるべきかしら」
「逃がさへんで!待てや冬花ぁ!!」
冬花先輩はそう言い残して一目散に走り出し、桜井先輩も走り追う
先輩2人による全力の逃走劇を横目に、私は出水さんに連行されていく
「…出水さん、大浴場って何処なんです?」
「この訓練施設内にありますよー。普段は訓練終わりの先輩さん達で満員ですけど、今なら居ないはずです!」
そう言って脱衣所の暖簾をくぐり、2人揃って衣類を脱ぎ大浴場のドアを開く
「広い…」
「なので、ここがお気に入りな子も多いって話です!」
思わず無意識に漏れた言葉に出水さんが相づちを打ちつつ、ニコニコ顔のまま洗い場へ押してくる
「白峯先輩!先輩の背中洗っても良いですか?」
洗いっこをしてみたかった、と期待の眼差しで言われ、私は断る事が出来ずにしぶしぶと了承した
「んしょ…白峯先輩って綾川先輩だけ名前で呼ばれてますけど、何か理由ってあるんですか?」
「ん…出水さんには、まだ言ったこと無かったです?進学で大橋市から五岳市へ引っ越す事になって冬花先輩にルームシェアさせて貰ってたんです。それで、『同じ家に住むんだから、他人行儀は止めましょ』って、言われたんです。だから――」
「いよぉ!待たせたなぁ。凛、千秋、逃亡者を捕まえて来たで~」
話している最中に、当然勢いよくドアが開かれ、驚いている私達を気にせずに桜井先輩が喋る
その脇には、逃げ切れなかったのかヘッドロックされた状態の冬花先輩が桜井先輩の腕を叩いて脱出を試みている
「んじゃあ、冬花の服脱がすさかい、もう少し待ってや~」
そうだけ言い残してドアを閉めると同時に「ええ加減、観念せいや!」と言う声が、それに少し遅れて冬花先輩のものと思われる悲鳴が聞こえた
「何をしているんでしょうか…」
「…あまり気にしない方が良いですよ」
出水さんの疑問に対し知らない方が良いとしか答えられず、身体に付いた石鹸を流して先に湯槽に浸かる
遅れて出水さんも湯槽に浸かったタイミングで再びドアが開き、2人が大浴場へ入ってきた
桜井先輩は普段通りの雰囲気だが、冬花先輩はタオルと手で身体を隠し、顔が真っ赤に染まり若干涙目になっていた
「もう、お嫁に行けないわ…」
「…桜井先輩、冬花先輩に変なことしてないですよね」
「何もしてへんわ!変なこと言うんやない!」
真っ赤に染まった冬花先輩を見て、桜井先輩を怒りを込めた視線を送る
話について行けず頭の上に「?」が浮かんでいそうな出水さんを置いてさっさと2人共湯槽に浸かる
桜井先輩は私達の近くに、冬花先輩は1人だけ離れた位置で膝を交えて座る
全員の動きが一段落したタイミングで、私は聞いてみたかった事を聞くことにした
「…皆さんは、御役目が怖くないのですか?」
突然の私の問いに、真っ先に返事をしたのは桜井先輩だった
「凛、なんや?怖じ気づいたんか?」
桜井先輩が茶化しながらも「まぁ、でも」と言葉を続ける
「誰だって、こんなん怖いに決まっとるやろ?せやけど、ウチは“最年長”やからな、引っ張ってかなアカンしな」
「あれ?確か、桜井先輩の誕生日って綾川先輩よりも1週間早いだけですよね?」
最年長のところをやたらと強調していたが、そこに対して出水さんからツッコミが入る
実際、桜井先輩は1月11日、冬花先輩は1月18日の生まれであり、殆ど差は無い
そうツッコミが入ったが、桜井先輩は「1週間だけでもウチのが姉や!」と言い張るので放っておくことにして冬花先輩に話を振る
「アタシは…これは勇者選抜試験の続きだって思ってるから。それをもう一度途中で放り出すなんてしたくないのよ…」
恥ずかしさからか、口元まで湯槽に入れ顔が赤くなっている冬花先輩が答える
先輩2人が話したので、その流れで出水さんが話し始める
「きっと、大変でしょうけども、わたし達4人一緒なら何だって大丈夫です!」
そう言って桜井先輩、私と順番に見る
「あれ?綾川先輩は?」
「ん?上がってないはずやけど…」
出水さんが辺りを見回して冬花先輩を探すも見つからず、桜井先輩は湯槽から上がっていないと言う…と、なると…
「冬花先輩!?」
そう叫んで居た辺りへ走り湯槽の中に沈んでいた冬花先輩を引っ張り上げる
「と、冬花が溺れよったー!!」
幸い、お湯をそこまで飲んでいなかった様で人工呼吸の必要は無さそうだが、危険なので桜井先輩と一緒に冬花先輩が溺れないように湯槽から出し、身体を冷やさないようにバスタオルで包む
「ここまでやれたら、後はウチが見とくさかい自分らは部屋に帰っとき」
桜井先輩にそう言われ、私と出水さんが大浴場から追い出される
「…綾川先輩、大丈夫でしょうか…」
「…大丈夫ですよ、きっと」
身体が動かなかったことを悔いているのか、落ち込んでしまった出水さんを励ますことしか出来ず、出水さんを部屋へ送り私も自室へ帰ることとした
「…眠れない」
ベッドに横になって既に十数分は経っているが、晩ご飯を食べ損ねた影響もあり一向に眠れる気がせず、給湯室に行って白湯を飲みに起きる事にした
パジャマ代わりに着ているジャージの上に制服用のカーディガンを羽織り、部屋を出ると誰かが宿舎から出て行くのが見えた
(アレは…冬花先輩?もう大丈夫なの?)
さっきの溺れていた光景を思い出し、心配なので私は冬花先輩の後をこっそりとついて行くことにした
臨海公園に行ったようで、物陰から覗くと冬花先輩は柵に寄りかかって海を眺めていた
そのまま数分ほど様子を窺っていたが、特に動きが無さそうなのでその場から離れようとした際に小石を蹴ってしまい音が鳴る
「誰!?」
全力で走れば逃げれそうだが、先輩と話をしたかったので逃げずに姿を見せる
「すみません冬花先輩。私です」
「凛?あなたも眠れなかったの?」
警戒を解き、自身の隣へ私を誘う
それに従って私も一緒に夜の海の
「さっきは迷惑かけたわね、ごめんなさい」
「いえ…それよりも、もう身体は大丈夫なのですか?」
冬花先輩が腰を曲げて、先ほどの大浴場でのことを謝罪する
私は、それを気にしてないと言いつつ先輩の心配を伝える
「アタシだって、自己管理出来ず肝心な時に動けない人って思われたくないからね」
ニッと笑いながら腰に手を当て、自身の思いを話す
「…大浴場での話の続きなんだけど、凛は御役目…怖くないの?」
「私は…ここで怖がる訳にはいきませんから」
冬花先輩からの問いかけに、私は目を見て答える
が、冬花先輩はその答えに満足していないのか言葉を続ける
「…本当に、理由はそれだけなの?」
「えっ…それって、どういう――」
聞き返そうとしたタイミングで、ぐぅ~、と私のお腹から音が鳴り、恥ずかしさで顔が赤く染まり、見られないようにしゃがみ込む
「アハハハ!そういえば、晩ご飯を配れてなかったわね」
そんな私を見て笑いながらポケットを探り、何かを取り出し私の手に乗せる
「はい、あげるわ。こんなのしか無くて悪いけど」
私の手に置き握らせる。その手の中には、サイコロを模した箱に入ったキャラメルが置かれていた
「ん、ふぁ~…そろそろ、アタシは寝るわね。凛も早めに寝るのよ?それじゃあ、おやすみ」
それだけ言い残して冬花先輩は宿舎の方へ帰って行った
その後ろ姿を見送って、私は再び海へ向き直してつい少し前に神官様の言葉を思い返す
『今回の御役目は危険が伴います』
防人として招集された直前に、神官様から言われた言葉から2年前の事も思い出す
『三ノ輪は…みんなのために…』
『…それが出来る強い子だったから、神樹様に選ばれたのよ』
2年前、神樹館で三ノ輪さんの告別式の翌日に、隣のクラスに居合わせた際に聞こえた会話を思い出した
(御役目の最中、もし誰かが危ない状況になるのなら、その時に私は…三ノ輪さんと同じように…自分を犠牲にしてでも動けるの…?)
その疑問に答えを出すことが出来ずに、私は宿舎へ向かって歩き始めた
そして、夜が明け私達防人隊の初陣となる御役目の当日となった
つ、次こそは初陣となります…!