白峯 凛は防人となる   作:秋嘉

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遅くなってしまい、申し訳ございませんでした!

今回で、調査任務編は終了となります!


第七話「射手座」

楠隊長とシズクさんの決闘から数日の間に私達は3度目、そして4度目となる御役目を終え、神樹様の壁の上へ帰ってきた

「各班、葦原船の損傷確認及び採取したサンプルを提出して貰ったら、後は皆さんフリーで大丈夫です。お疲れ様でした」

楠隊長の言葉を聞き、各班が一斉に自分達が乗っていた葦原船の点検を始める

「船体へのダメージは無しで、負傷者は綾川さんが軽症を負ったのみ…っと」

「今回は進化体も出てこなかったのもあって、楽勝でありましたな」

「他の班でも、多少の怪我こそあれど重傷を負った方は居ませんでしたし、初陣の時に比べて皆さん和やかな感じですね」

佐倉先輩と春日さんと私の3人で分担して船体チェックしつつ雑談をしていると、楠隊長との話を終えた冬花先輩が帰ってきた

「お疲れ様!明日なんだけど、皆何か予定あったりする?」

「自分は、弥勒殿よりお茶会に誘われていますので参加させて頂き、その後は家の手伝いに行く予定であります」

「ボクは、玉藻市時代の仲間たちに会いに行く予定だね」

「私は、自主トレをしようかと思ってますが…何かあるんですか?」

皆それぞれに予定があることを知って「しくじったなー」とでも言いたげな表情を浮かべ、私からの質問に答える

「あー…いやね、別に大したことじゃないんだけど、4人揃って出掛けたことも無いし、一緒にラーメンか何かを食べに行かない?って誘いたかったんだけど……皆それぞれ用事があるなら仕方ないわね、何も聞かなかったことにして!」

自分から誘ったくせに、言っていて恥ずかしくなったのか途中から手で顔をパタパタと扇ぐ

そんな空気の中、突然佐倉先輩が「よし!」と言って手を叩いたので、私達の目線が佐倉先輩に集中する

「じゃあ、次のお役目が終わったら、皆で何かを食べに行かないか?」

「それでしたら、自分の家は喫茶店をしているので是非来て欲しいであります!」

「え!?春日さんの家って喫茶店やってたの!?」

「……初めて聞きました」

春日さんのカミングアウトに私と冬花先輩が驚いている表情を見て、自慢げに言葉を続ける

「3年前から、新しい看板娘として給仕しているのでありますが、自分も結構人気あるのでありますよ?…こほん。いらっしゃいませ、本日のオススメメニューのフワトロたまごが乗ったオムライスと、沢山のフルーツが乗ったプリンパフェ、当店オリジナルブレンドコーヒーのセットはいかがでしょうか♪」

咳払いをして喋り始めると、普段の喋りと一変して可愛いウェイターさんみたいな喋り方になり、3人揃って感嘆の声を漏らす

「普段と喋り方が違うだけで、全然違う人ですね…」

「その喋り方でも可愛いじゃない。試しに、その喋り方で一日過ごしてみない?」

冬花先輩の提案に対し、春日さんはブンブンと手を振って拒否を示す

「それは流石に嫌であります!拒否させて貰うであります!恥ずかしいのであります!」

(普段の喋り方は恥ずかしいとか無いのかな…?)

多分、私だけでなく2人も同じように思っているのだろうが、誰もそれを口に出すことは無かった

話題が途切れたことを認識した冬花先輩が咳払いをしてから喋り始める

「…話も纏まったみたいだし、次のお役目が終わったら春日さんのお店でお疲れ様会をやりましょうか!」

「はい!」

「あぁ!」

「了解であります!」

3人共、言葉はバラバラだがタイミングが揃った返事をして、今日はそのまま解散することとなった

 

 

翌朝になり、私は桜井先輩達がタワーから去った以降から毎日行っている朝のランニングを終え、臨海公園で大橋を見ながら少し休憩しようと歩いていると、誰かの話し声が聞こえてきた

「――こうして、優雅にティータイムを楽しむのも淑女の嗜みなのでしてよ」

「なるほど!勉強になるであります!」

第一班の弥勒先輩と春日さんの声だ

何をしているのか気になり2人の様子を覗いてみると、臨海公園に本来は置いていないはずの白い丸机に向かい合って座っているようだ

「おはようございます。お二人とも、朝からお茶会ですか?まだ寒いと思うんですが……」

「あら、おはようございます。こんなに爽やかな朝を前にして、弥勒家の人間たる者、風や寒さ程度で気品あるティータイムを止めることはありませんわ。……でも、今日ほどストッキングを履いていて良かったと思った日はありませんわね…」

2人に挨拶をすると、2人は口に運んでいたティーカップを置き挨拶を返してくれた

弥勒先輩の方は、寒さのせいか僅かに手が震えているが何ともない表情をしている

(そもそも、こんな所でお茶会などせずに食堂や談話室に行けば良いのに…)

2人の様子を見てそう思っていると、私が制服ではなくジャージを着ていることに疑問を持ったのか、春日さんが質問してきた

「白峯殿のその格好は…ランニング帰りでありますか?」

「楠隊長から、護盾隊は体力増強を心掛けるように。と言われましたから、その為に出来ることはやっておきたいですから…」

2度目の御役目の際、進化体だったとはいえ一体の星屑相手に弾き飛ばされた事を思い出す

(もし、あの時狙われていたのが山伏さん以外だったら…ううん、何か1つでも違っていたら何人か犠牲になっていたはず…)

「…よろしければ、凛さんもご一緒にいかがです?」

黙り込んでしまった私に気を遣ってくれたのか、弥勒先輩が予備のティーカップに紅茶を注ぎ差し出してくれた

「ありがとうございます。……ぁ、美味しい」

差し出されたティーカップを受け取り口に運び紅茶を飲む。それは想像以上に美味しくて、つい声がこぼれてしまった

その様子を見た春日さんが、まるで自分が褒められたかの様に自慢気に喋る

「その紅茶は弥勒殿が目利きされた茶葉を使っているのであります!調理や裁縫だとかも自分達よりも上手くて、あの“赤嶺家”と共に内乱を治めた名家の生まれだそうであります!凄いお方なのであります!」

「ほほほ、それほどでも…ありましてよ」

春日さんがキラキラとした目をして弥勒先輩をおだて、それも当然と言った雰囲気で高笑いを始める

2人を横目に、私は今の話で出てきた名前が気になり弥勒先輩に聞こうとしたが、弥勒先輩のほうから私に話題を振ってきた

「…凛さんは、2年前に崩れた大橋に名誉ある家名が刻まれた石碑があったのをご存知ですか?」

「小学校時代にクラスで話題になっていましたので一応、知識としては知っていますが…」

ティーカップを置いてから、肯定の意味を込めて首を縦に振る

赤嶺家――神世紀72年の四国内で発生した大規模なテロ騒動を鎮圧した功績で乃木・鷲尾・三ノ輪を始めとする大赦内でも特に力を持つ九家の家名が刻まれた石碑が置かれていて四国を守っている。と教科書に書かれていたのを思い出す

…が、教科書には赤嶺家が単独でテロを鎮圧したと書かれていたはずだ

「でも…それが本当なのでしたら、何で弥勒家の名前は残っていないのですか?」

「それには色々と事情があるのですが…アルフレッドー!」

それが事実なのだとしたら、弥勒家の名を消す必要は無いはずだ。それが気になり尋ねると、弥勒先輩はティーカップを机に置いてパンパンッと手を叩いて叫ぶも誰も来ない

「…今、執事のアルフレッドは休暇中のようですわね。仕方ありません、弥勒家の華麗なる歴史を記した本【弥勒家三百年史】を後で凛さんのお部屋までお届けしますわ」

「ぶふー!」

3人の誰のものでもない声が聞こえて振り返ると、弥勒先輩が喋っている間に加賀城さんと国土さんが来ていたらしく、加賀城さんが噴き出して笑いながら言葉を続ける

「み、弥勒さんさぁ、いつまでお嬢様設定続けるのさ。流石に無理があるって」

「設定ではありませんわ!弥勒家は、かつて赤嶺家と共に内乱を治めた本物の名家ですわ!」

加賀城さんと弥勒先輩が漫才みたいな言い合いを始め、春日さんが2人を諌めている横で、国土さんがキラキラした目を弥勒先輩に向けているのに気づいた

「国土さん?どうしたんです?」

「私、弥勒先輩みたいになりたいです!」

国土さんが発したその言葉を聞いた瞬間、私と春日さん、そして加賀城さんまでも動きが止まった

「「えっ…」」

「ええーーっ!?あやや早まっちゃダメーー!!」

「そうであります!気は確かでありますか!?確かに弥勒殿は凄い人でありますが、国土殿が弥勒殿みたいになる必要なんて――」

「雀さんに春日さんまで!どういう意味ですの!?」

加賀城さんと春日さんが国土さんを引き留めようとしているのに弥勒先輩が抗議しているのを横目に、私はツッコミを入れるよりも先に理由を聞くことにした

「…国土さん、どうして弥勒先輩みたいになりたいんですか?」

「弥勒先輩は凄いです。雀先輩に、いっぱいツッコミを入れられても決して挫けず、家庭的で女性らしくて、私、憧れてしまいます♪」

「…確かに、お嬢様みたいな変な口調?だとか、功を焦る勢いが無ければ、いい人ですよね」

「凛さんまで!?褒めているのか、貶しているのかどっちなんですの!?」

自立した強い女性に惹かれている…ということなのだろうか、一応の理解を示すも言葉が悪かったのか弥勒先輩からツッコミを受けてしまう

「…とにかく、誰かに憧れるのは良いことだって私は思いますよ」

長話をしていて冷めかけていた紅茶を飲み干し、そのまま席を立つ

「ごちそうさまでした。私、もう行きますね」

紅茶のお礼を伝え、国土さんに座るように促すと弥勒先輩の隣に座って淑女の心得について質問し始める

「う~ん…弥勒さんのことだから、余計なことまで教えそうで心配だなぁ…凛さんは本当に大丈夫だって思う?」

国土さんに頼られて天狗になっていってる弥勒先輩を見て、加賀城さんが呆れた様な声で私に問いかける

加賀城さんとは、「私達は同じ護盾隊で、お互いの班の中で1番数字が大きい者同士だから」と言う理由でメッセージアプリで何度かやりとりをしており[護盾隊グループ][防人底辺組]と言うグループに誘われ、普段の訓練での愚痴を聞いたりしている

「流石に心配し過ぎだと思いますよ?弥勒先輩だって、真面目な人なんですから」

「甘い!甘いよ凛さん!ああなった弥勒さんは止まらないんだよ?私、もう知らないからね!」

加賀城さんは楽観視している私を一喝すると、タワーの方へ走り去ってしまった

加賀城さんは、お喋りが趣味だと豪語しており他の人の事をよく知っている

そんな人が心配していたのなら、私も聞いておくべきだったのかもしれない

(そこまで言うんだったら、私も2人を注視してる方が良いのかな…?)

国土さんに頼られたことで高笑いをしている弥勒先輩を見て、何だか心配になってきたので見守ることにした

この日から、時間が許される限り弥勒先輩の傍に国土さんが付いて歩き、国土さん愛好家を自称している防人達の一部に羨望の眼差しを向けられていたり、晩ご飯に出てきた焼き魚に柚子を搾る際に、弥勒先輩が国土さんの眼に柚子汁を飛ばすというアクシデントがあったものの、順調にお嬢様としての振る舞いを勉強し続けていった

 

 

国土さんが弥勒先輩みたいになりたいと言ってから数日後のある日、私達防人全員での合同訓練が一段落したタイミングを見計らって国土さんがお茶を用意してくれた

「皆さま、そろそろ休憩にいたしませんこと?お菓子とお紅茶の用意が出来ましたわ」

弥勒先輩のマネをしているのかお嬢様みたいな口調で喋りながらクッキーをお皿に盛り付けていく

「……そうね。10分くらい休憩しましょうか」

楠隊長の言葉を聞いて、加賀城さんを筆頭に数人の防人が国土さんが持ってきたクッキーと紅茶を我先にと受け取りボリボリと食べ始める

「ま!お菓子をボリボリと零しながら食べられるのはメッ、ですわよ!どうぞ、お皿をお使い下さいまし」

国土さんが叱りながら、ささっと素早くお皿を渡す光景を目の当たりにし、数人の防人達が意外だと言いたげな表情を浮かべる

「驚いたな……亜耶くんが人を叱るだなんて初めてじゃないか?」

「国土さんって、こんなに声を張れたのね…」

「内面まで弥勒先輩になりきってる…ってことでしょうか…?」

佐倉先輩と冬花先輩がポツリと呟き、それに続いて私も呟いてから受け取った紅茶を飲む

「アルフレーーーッド!皆さまにおかわりのお紅茶をご用意して下さいまし~!」

訓練所内に突然響いた国土さんの大声を聞き、弥勒先輩を除いた防人全員の動きが止まり、ある者は膝から崩れ落ち、またある者は飲んでいた紅茶が気管に入ったのかむせ返っていたり、またある者はブツブツと小さく何かを呟いくことで現実逃避をしていた

「ぁ…亜耶ちゃんが…亜耶、ちゃん…が…」

「ね…ねぇ!亜耶ちゃんに何があってこうなったの!?」

「弥勒!てめぇ、国土に何吹き込みやがった!」

以前楠隊長と決闘していた方の山伏さん――シズクさんが出てきて、弥勒先輩へ銃剣を向ける

「わ、わたくしはただ国土さんに淑女としての振る舞い方や心構えについてを――」

「いやいやいや!どうせアルフレッドさんなんて居ないんだから、そこは教えなくても良かったじゃん!」

「な!?アルフレッドは居りますわー!」

ギャーギャーと騒ぐ防人達とは別に、先ほどまで呆然としていた子達の一部が加賀城さんの元へ駆け寄って何かを頼み込むと、それまで黙っていた加賀城さんがようやく口を開く

「…弥勒さん、皆の顔を見てよ。こんなに悲しんでいるんだよ?それを見ない振りして我を通すのが弥勒家の正しいやり方なの?」

加賀城さんの言葉に弥勒先輩がハッとした表情を見せてから国土さんの方へ向き直す

「国土さん…あなたは、人真似などせずとも立派な淑女でしてよ。国土家の亜耶として、あなただけの道をお行きなさい」

国土さんの頬をそっと撫でながら、優しく語りかける

その言葉を聞き、国土さんは少し悲しそうな顔をしたが、すぐにいつもの表情に戻る

「弥勒先輩…分かりました。私、しっかり自分を持って頑張っていきます。これまで、色々とありがとうございました!」

「それじゃあ、そろそろ訓練を再開しましょうか」

一件落着した頃合いを見計らったのか、楠隊長が休憩の終わりを告げると皆がそれぞれの班ごとに集合し始める

「国土殿は、他の方に影響されやすいのでありましょうか?」

「そういえば、国土さんは小さな時から、親元を離れて大赦暮らしをしている…って加賀城さんが言って聞きました」

春日さんがボソリと呟いた言葉を聞いて、私も加賀城さんのお喋りの際に聞いた情報を伝える

それを聞いて、佐倉先輩が自身の推測を話し始める

「…もしかしたら、ボク達防人隊が壁の外で戦っているのに、自分だけ役に立てていない事を気にしている可能性もあるのかもしれないな」

壁の外へ出て戦う防人と、神樹様からの神託を受け取って皆に伝える巫女――

お互いに役割が違うのだから仕方ないと思うのだが…

(国土さんは…あの時の皆と、同じ気持ちなの?)

2年前、三ノ輪さんのお葬式の最中に消えた2人を見て「自分達も2人に何か出来ないか?」と考えて、横断幕を作ろうと皆に呼びかけていた子も居たのを思い出す

私達が御役目に出て怪我をして帰ってくるのを、ただ見ているしか出来ない無力感や孤独感が彼女を動かしているのかもしれない

「ちょっと、アンタ達いつまでお喋りをしてるのよ!ぼちぼちアタシ達も訓練を再開するわよ!ほら、3人纏めてで良いから早く来なさい!」

私達が国土さんの事で盛り上がっていたせいで、1人蚊帳の外に置かれていた冬花先輩が怒った感じの声で訓練再開を急かす

それを聞いた春日さんと佐倉先輩が同時に駆けていき、私は2人の後ろについて行って冬花先輩からの攻撃を盾で防ぐことに集中する事にした

 

 

翌日、私達は5回目となる御役目に出てサンプルの採取を始める

『前回までに比べて、今回は人数が少ない。余裕がある班は人が少ない班のフォローに入ってください』

今回の御役目では、指揮官型を含めた銃剣持ち防人の数人が体調不良という事でタワーで療養しており、楠隊長は神官様に出撃の延期を求めていたらしいが、護盾隊は全員揃っていることもあり、覆すことは出来ず私達はいつもより人数が少ない状態で壁の外へ送り出された

『心配は無用でしてよ。この弥勒夕海子が、皆さま方をお守り致しましょう。大船に乗ったつもりで頼って下さって構いませんわよ』

周囲警戒で立っている指揮官達に混じっている弥勒先輩が、休んでいる人の代わりとして動くことを自信満々に宣言するも、直後に加賀城さんが『弥勒さんの場合は、泥船だと思うけどなー』と言った独り言が無線に載ってしまい、それを聞いて『雀さん!いつもいつも、一言余計ですわよ!』と、ツッコミを入れると、無線を聞いている他の子からの笑い声が続く

この2人が普段通りなおかげで、皆もいつも通りの雰囲気で御役目に従事出来ている

私も周囲を警戒していると、視界の片隅で何かが一瞬何かが光ったのが見えた

「…?」

それが何だったのか気になり、身体ごとそちらに向かい注視する。そんな私を不思議に思ったのか冬花先輩が声をかけてきた

「凛?どうしたの?」

「冬花先輩。さっき、向こうの方で何かが光――」

冬花先輩からの問いに答え終わるよりも早く手に持っている盾を通して強い衝撃を受け、手元から盾が吹き飛び、私自身も吹き飛ばされ地面に転がる

「凛!」

『敵襲!?一体どこから!?』

『ぎゃああああ!何アレ無理無理死ぬ殺されるぅぅ!!』

身体の痛みをこらえながら立ち上がり、加賀城さんが指差す方向を見ると、そこには進化体以上に大きく、溶岩が集まったかのような物体が浮いていて、その姿を視認した楠隊長が敵の正体を呟く

『サジタリウス…バーテックス…!』

かつて勇者様が戦い、打ち倒したはずのバーテックスが空に浮かび、大きく口を開けながら私達を見下ろしていた

「こいつ…!」

反撃として、冬花先輩を含めた指揮官型の数人が一斉に撃つも、遠すぎるのか放たれた弾の光跡もバーテックスに届く前に消滅する

『芽吹隊長!周囲に星屑を確認!囲まれます!』

『サンプルの採取を中止!総員、葦原船へ!』

葦原船を守っている4人からの報告を受け、楠隊長は撤退を指示する

その命令を聞いた銃剣隊の防人達が採取を止め、それぞれの葦原船へ戻り離陸準備を始める

『全隊、離陸中止!ここに留まって迎撃します!銃剣隊、星屑へ一斉射撃!護盾隊はサジタリウスの矢を防いで!』

離陸しようと御神木に触れた直後に、楠隊長から離陸中止の命令を受けて、弥勒先輩を筆頭に私達を含めた他班からも驚きや困惑の声が上がる

『芽吹さん、何言ってやがりますの!?今、私達はサジタリウスと星屑の群れに囲まれていますのよ!それじゃあ――』

その言葉を言い終わるよりも先にサジタリウスから小さい矢が無数に放たれ、私を除いた7人の護盾隊の防人達密集しながら盾を展開して矢を防ぐ

「私も…行かないと…」

「ボクが行く!凛くんは下がっているんだ!」

ふらついて上手く盾を持てない私を見て、佐倉先輩がそう言いながら盾を奪い、展開して矢を弾くと私達を囲んでいた星屑達が貫かれ消滅していくも、それを上回る数の星屑が絶えず近づいてくる

「数が多い!このままじゃ、押し切られる!」

『ぎゃああああ!嫌だ嫌だ死にたくないーー!』

サジタリウスの矢の雨が止むと同時に加賀城さんが1人、隊列から離れてサジタリウスの方へ飛んでいってしまう

『雀さん!?何をやっていますの!?』

弥勒先輩が叫び、事態を察した防人達の何人かが連れ戻しに行こうとするも星屑が接近し、それを阻む

「ダメだ!護盾隊は動けない!銃剣隊の誰か――」

佐倉先輩が言い終わるよりも早く、サジタリウスが今までよりも巨大な矢を放つ

『こんなのまともに受けたら、死ぬに決まってるぅぅ!』

そう叫びながら盾を斜めに構えて矢の軌道を逸らして攻撃を防ぎきった

『今なら!全隊、離陸開始!逃げるわよ!』

周りを見渡すとサジタリウスの射撃に巻き込まれて私達を包囲していた星屑達の一角が消滅しており、四国まで逃げる為の道が開いているのが見え、それを視認した楠隊長から撤退指示が出る

「最大戦速!行くであります!」

春日さんが御神木に触れると、中央の御神木の先端部から大きな帆の様な物が展開される

他の船も同様に帆が展開されると、一気に速度が上がっていき、どんどんとサジタリウスから遠ざかっていき、遂に視界からサジタリウスの姿が見えなくなった

「アタシ達、生き残れたのよね…?」

「我が班の被害状況は、無傷1、軽傷2、戦闘不能が1…全員生きてはいるであります…が、採取出来たサンプル数は目標量を僅かに下回っているであります…」

「…しかし、御魂を持たないモドキだったとは言えバーテックスを相手に逃げ延びたんだ、神官様達だって文句なんて言えないはずだ」

生き残った事を実感したことで、今になって疲れが押し寄せてきたのか全員が葦原船にへたり込む

どの班も似たような状態らしく、誰も言葉を発することも無く船団は四国へ向かって静かに進んで行く

 

 

私達が神樹様の壁の上へ戻ると、連絡を受けていた救護班が既に待機しており、未だに右手が痛む私を連れて皆より一足先にタワーへ戻って医務室で先生に見てもらった

幸いにも骨や関節へのダメージは無く、数日もすれば痛みも引くと言って貰えた

診察も終わって診察室から退室すると、普段私達を監督している女性神官様と鉢合わせた

「白峯さん。身体に問題は無かったようですね」

「は、はい。何とか…」

私のことを心配してくれているのだろうが、感情を感じさせないその声色が私は苦手で少し言葉が詰まってしまったが、その様子を気にも留めずに彼女は言葉を続ける

「あなたの戦闘記録を見させて貰いました。あと少し、盾を構える角度が違っていれば腕が無くなっていたかもしれませんでした」

「…」

そう言われ、私は無意識の内に右腕をそっと撫でる

「今なら、その怪我を理由に御役目を辞めても構いません。どうしま――」

「私は!三ノ輪さん達が何を思って御役目を果たしていたのか、それを知るまでは辞めません!」

神官様の言葉を遮って、私は叫んでいた

辞めても構わない。そう言われるも、私が防人になった理由は勇者様達のことを知ることだ

それも出来ずに辞める選択肢なんて、私の中には存在しない

「…分かりました。今後も御役目に励んでください。では、私はこれで失礼します」

仮面で顔を隠している神官様がどの様な表情を浮かべているのか分からないが、私の言葉を聞くと話は終わったと言わんばかりに歩き出す

「凛!もう動いて大丈夫なの?」

神官様と入れ替わりに、冬花先輩を先頭に佐倉先輩と春日さんが駆け寄ってくる

「皆さん…身体に異常はありませんでした。数日もすれば痛みも引くそうです。ご迷惑お掛けしました」

3人の顔をそれぞれ見てから、私は頭を下げる

「ちょっ!凛!別に頭なんて下げなくても大丈夫だから!」

その姿を見て、冬花先輩が止めるように言いながら私の頭を掴んで無理やり顔を上げさせる

(相変わらず強引な人だな…)

1人で五岳市へ引っ越ししてから、遠慮がちだった私を強引に連れ出して街のあちこちを案内してくれたのを思い出す

そんな思いに浸っていると、隣に居た佐倉先輩がわざとらしく咳払いをしてから話し始める

「あー、もし良ければなんだけど、このまま皆一緒に外食する…なんてどうかな?」

「そう言う事なら!自分は一足先に、全員分の外出申請書を提出してからであります!」

佐倉先輩の提案に対し、私と冬花先輩の答えも聞かずに先々と春日さんが話しを進めて行き、神官様を追いかける為に駆け出して行ってしまった

「…何だか、勝手に話しが進んじゃったわね。さ、アタシ達も行きましょうか」

そう言いながら私の左手を掴んでタワーの外へ歩き出し、私達の後ろに佐倉先輩が続いて何を食べたいか等の雑談を始める

2人に挟まれながら、私は別のことを考えていた

(今まで気にした事も無かったけど、あの神官様の声…以前にも何処かで聞いたことが――)

「――とか良いと思うんだけど、凛は何にするの?」

いつの間にかお店の前まで来ていたらしく、冬花先輩が春日さんのお店のメニューが映ったスマホを見せ、何を食べるのか聞いてきたので、一旦考え事を止めて話しに集中する事にした

「えっと、この白玉ぜんざいにアイスを乗せてるのとか、どうでしょうか?」

(あの神官様の事は、また何か思いついたら考えることにしよう)

美味しそうな料理写真を見て、お腹が空いてきたのを感じながら私達はドアを開けてお店の中へ入ると、何故か防人の制服を着たまま接客している春日さんを見つつ、思い思いに注文してシェアしながら食べていった

 

 

そして、この日から1週間後、私達防人32人に告げられたのは壁外調査任務の終了と新たな御役目についてだった




次話からは、遂にトヨアシハラ作戦…
ゆっくりと書いていきますので、気長にお待ちください…!
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