白峯 凛は防人となる   作:秋嘉

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お待たせしました…!
遅くなって申し訳ありません…


第三章 トヨアシハラ作戦~
第九話「豊葦原」


神官様から次のお役目のことで話があると言われて、私達防人全員がタワーの展望台へ集められた

「揃いましたね。壁外への調査任務、大変ご苦労さまでした。あなた達の努力のおかげで壁外の大地と炎に関する調査は終了しました」

普段なら言われることのない私達を労う言葉を送られ、ある者は[認められた!]と言わんばかりの笑みを浮かべ、またある者は[これを言う為だけに集めたはずがない]と硬い表情を見せる

(あの神官様が、私達を褒めるなんて…)

ただただ、私は驚きと困惑が混ざったような表情を浮かべる

そんな私達の顔を見終わった神官様が言葉の続きを発する

「防人の任務は、調査から次の段階へ進みます」

“任務”…その言葉を聞き、皆の表情が真剣なそれに変わったのを確認するとプラスチック製のシャーレを取り出す

皆が順に近づいて中を見ていくと、何かの植物の種が入っているように見えた

「この種を壁外の土壌へ埋めてください。その後、巫女が祝詞を唱えることで発芽し、植物として成長します。想定通りに行けば、その周囲に緑が戻るでしょう」

「え?巫女の祝詞を…って、あややを外に連れて行くの!?」

神官様からの説明に対して加賀城さんが驚愕の声を発したのを発端に、他の子達も「危険過ぎます!」「戦衣無しでは熱に耐えられない!」と異を唱え始めるも、神官様は意にも介せず説明を続ける

「国土さんがタワーに居るのは、この任務を想定していたからです。戦衣と同様の巫女専用装備の【羽衣】が用意されますし、危険だと言うのならあなた達防人が守れば問題ないはずです。出来ますね?楠さん」

神官様からの問に楠隊長は何も答えず、代わりに弥勒先輩が疑問を問いかける

「今後は種を植えていき、壁の外の大地に植物を復活させていくつもりなのですか?」

「いいえ、そうするには種も時間も足りません。ですので、植物が復活した場所を橋頭堡として陣地を築くこと。そこまでがあなた達の任務です」

「その後は、勇者達に任せる…と?」

2人の問答を聞き、楠隊長も話に加わる

「それを知る必要はありません。伝達事項は以上ですので、各自解散してください」

そう一方的に告げて神官様は展望台から出て行き、ここには新たな任務を通達され困惑する私達だけが残された

 

 

午後になり戦闘訓練が始まった

今日の訓練は普段と違い、班別に訓練するのではなく楠隊長が両手に銃剣を持つ攻撃特化スタイルで一人一人と打ち合う決闘式となっていて、今は防人番号09を掲げるシズクさんと戦っている

「はぁっ!」

「ちぃ!あっぶねぇ……何なんだよ、気合い入り過ぎだっての」

シズクさんが持つ銃剣を打ち払おうとした勢いによって、シズクさんの身体が吹っ飛ばされる

バク転して何とか体勢を立て直した彼女は、降参を示すように両手を少し上げる

楠隊長は、もう戦えないシズクさんに興味を無くしたかの様に次の相手を求めて叫ぶ

「次!指揮官型の誰か!来なさい!」

「はっ、はい!」

8番の指揮官型防人の子――葛城 御影(カツラギ ミカゲ)さんが前へ出て対峙し、銃剣を構える

先に動いたのは楠隊長で、一気に距離を詰めて両手に持つ銃剣で斬りかかる

相手の子も、応戦する為に銃剣を縦に構えて鍔迫り合いの格好になるも楠隊長は力任せに押し切り、体勢を崩した隙に銃剣を弾き決着がつく

「…次!来なさい!」

やはり対戦が終わった相手には興味がないらしく、次の人と早く変わるように促す

番号が若くなる順に進む雰囲気らしく、冬花先輩が前へ出て対峙する

力押しでは負ける。そう判断したのか、後ろや左右に跳んで距離を取りながら銃剣を撃ち、近づけさせない事を最優先とする

しかし、楠隊長は射撃を剣で切り払いながら一気に近づいていく

冬花先輩は慌てて近接戦に対応しようとしたが、すれ違い様に銃剣を弾き飛ばされ、返す刀で首筋に銃剣を突き付けられて決着となった

「…次!」

首筋から銃剣を離し、更に別の人が来るように促す

冬花先輩も素早く銃剣を拾って私達の場所へ帰ってきた

「何だか、今日の楠隊長はかなり荒れてるでありますな…」

「今回の作戦は、亜耶ちゃんが参加するから余計に敏感になってるんじゃないかしら?」

春日さんが、私語を咎められないように小声で喋り、冬花先輩は小さく肩をすくめながら自身の感想を述べる

「だとしても、ちょっとやり過ぎな気もしますが……」

2人の話を聞き、私も小声で会話に参加する

確かに、今回の戦闘訓練は非戦闘員である巫女の国土さんを私達が守る為のものだとしても、楠隊長はいつもと違い動きが荒過ぎる気がする

「みんな、全然訓練が足りてない!」

話をしている最中、楠隊長の叫び声が響く

見ると、いつの間にか対戦相手が弥勒先輩となっていて、部屋の片隅には今にも泣きそうな表情をした加賀城さんが座っていた

「こんなことじゃ、次か、またその次か、いずれ命を落とすわよ!大赦は私達のことを使い捨ての道具としか見ていない!自分の身は自分自身で守らなくちゃいけないの!そんなだから…弱いから勇者になれず、こんな下らないを任務しか任せられないのよ!」

楠隊長が一通り言い終わると、私や冬花先輩を含めた数名がその言葉を噛み締めるかの様に顔を伏せる

(……桜井先輩や出水さんが抜けた穴も、すぐに埋められた。まるで、脱落者が出る事を事前に知っていたかの様に……)

「……確かに、あなたの言うことは正論ですわ。芽吹さん」

静寂に包まれる中、弥勒先輩が口を開き楠隊長の言葉を肯定し、そのまま言葉を続ける

「ですが、わたくしは与えられる任務を下らないとは思いません。確かに、今はまだ地味な仕事しか任されていませんが、実績を積み重ねていけばいずれ大赦もわたくし達を軽視出来なくなる」

真面目な口調で話す弥勒先輩の言葉に、楠隊長は何も口を挟むことをせず聞き続ける

「わたくしたちがしている事は、建物建設で言うところの基礎工事の様なものですわ。大工の娘であるあなたなら、その重要性を理解出来るのではなくて?」

「……そうですね。弥勒さんの言うとおりです。みんな、八つ当たりしてしまってごめんなさい」

弥勒先輩の話を聞き、楠隊長は私達に向かって頭を下げて各班ごとに訓練を続けるように言って退室していった

張り詰めていた空気が緩み、一部の防人が弥勒先輩を話題に喋り始める

「亜耶ちゃんがお嬢様になろうとしてた時もだけど、弥勒さんって人を説得するの上手よね。アタシには無理だわ」

冬花先輩が自虐的にそう呟きながら、弥勒先輩へ視線を送る

あの状態の楠隊長を一喝し、落ち着かせてから自身の思いを相手がイメージしやすい例えを用いて伝える

私達4人共、同じように出来るかも怪しいことだと思う

「そうなのであります!弥勒殿は凄いお方なのであります!毎日、楠隊長のトレーニングに唯一付いて行けるお方で――」

「春日くん、その話は一旦置いておこうか……だけど実際、ボクから見ても弥勒さんは副隊長に向いていると思うね」

春日さんと佐倉先輩までもが話題に乗っかり、弥勒先輩を褒め始める

周りを見ると、他の班も同じように弥勒先輩を褒める様に話していた

「み、皆さん、そんなに褒められたらわたくし…ホホ、オホホホ」

この場に居るほぼ全ての防人達に褒められて恥ずかしいのか、お嬢様っぽく笑いながら見覚えのある本――【弥勒家三百年史】を取り出す

「今でしたら、こちらの弥勒家三百年史に加えて、わたくしの直筆サイン入りブロマイドをお付け致し――」

弥勒先輩の話を遮るように、楠隊長が居ない時に隊長代理を務める防人番号02番の少女――藤堂 霞(トウドウ カスミ)さんが、手を叩いて注目を集める

「はいはい。お喋りはこの位にして、そろそろ訓練を再開するわよー」

彼女の声に「はーい」と各々が返事をして、何事も無かったかの様にそれぞれの班ごとに集まって訓練を再開する

「……なんだか、わたくしの扱いが日に日に雑になっていっていませんこと?」

弥勒先輩は、そう不満を言いながらも第一班の仲間の元へ歩いて行く

「さ、アタシ達も訓練に戻りましょうか。凛、盾を構えてアタシ達からの攻撃を凌ぎなさい」

冬花先輩が訓練の再開を促し、銃剣を振るう

私はそれを何とか弾いて防いで、続く2人からの連撃も防ぐのを時間一杯続けていった

 

 

訓練、そしてその後の自由時間まで終わって就寝時間を待つだけとなり、私は自室のベッドに寝転んでいた

(使い捨ての道具としか見ていない……か)

楠隊長の言葉が頭の中で繰り返されるせいで、消灯時間が近づいているが眠ることが出来なかった

そう言われて思い浮かぶのは、大赦の御役目によって死んでしまった三ノ輪さんや、御役目の都合で神樹館に来れなくなった2人のことだ

3人の姿を見なくなった翌年から、私達が所属していた【お助け部】や、加賀城さんの学校の【勇者同好会】等を全国各地で発足させ、彼女達の代わりに勇者となれる人物を探していたのだろう

だとしたら、勇者ですらも大赦に利用されて使い捨てにされる消耗品に過ぎないのかもしれない

(いや、流石にそんなはず無いよね。……1回夜風を浴びて意識をリセットさせよう)

頭を左右に振って一旦考えることを止めてカーディガンを羽織って、いつもの臨海公園へ歩き、転落防止用の柵にもたれかかる

(次の御役目……トヨアシハラ作戦で橋頭堡の確保に成功すれば、外の世界に植物が戻って人が住めるようになるって話だったはず。そうなれば、私達も三ノ輪さん達だって、もう使い捨ての道具だなんて――)

「白峯殿?何でここに居るのでありますか?」

考え事をしていた最中に私を呼ぶ声がして振り向くと、そこには厚手のパジャマを着た春日さんが立っていた

「眠れなくて。春日さんは?」

肩をすくめながらそう答え、私も春日さんへ同じように質問をすると「似たようなものであります」と言ってながら私の隣まで歩いてくる

「この程度の実力では、いつか命を落とす……楠隊長にそう言われて、自分も何かしなきゃと思って自主トレ内容の見直しをしていたのであります」

そう語る彼女の顔は、悔しさが隠しきれていない様に見えた

楠隊長に言われたものだけでなく、彼女にとっての初陣である2度目の調査任務の際、一体の星屑を相手に思うように戦えなかった悔しさもあるのかもしれない

「……こんなことじゃ、いつか命を落とす。なんて言われて、春日さんは御役目を辞めたいとかって思わなかったんですか?」

「……御国の為と散っていった多くの“英霊”達と同じく、遂に自分も御国の役に立てる時が来た。そう思えば、死ぬかもしれないなんて怖さよりも、嬉しさの方が強いのであります」

「そう……ですか……」

まっすぐと私の目を見ながらそう答える春日さんの顔を直視することが出来ず、私は再び海の方へ顔を向けた

(春日さんは、前までの私みたいに自己犠牲も受け入れているの…?)

「白峯殿?どうしたのでありますか?」

考えることに集中し、言葉を発さなくなったのを不思議に思ったのか、私の顔を覗き込んでくる

春日さんに「何でもありません」と伝えるも、まだ心配そうな顔で私を見つめてくる

「……ちょっと、身体が冷えてきたみたいです。そろそろ戻りますね」

詮索されないように、私はそう言って春日さんからの返事も聞かずに宿舎の方へ歩き出す

1人残される事を嫌ってから、春日さんも私の後を付いてきており、2人揃って宿舎のエントランスを通り、春日さんの部屋まで行く

「今日は、白峯殿と話せて良かったであります。では、自分はこれで失礼します」

そう言って、脇を締めて背筋を伸ばした綺麗な敬礼をしてから自分の部屋へ入っていった

ドアが閉まるのを見届けてから、私も自分の部屋へ入りベッドに寝転ぶ

(英霊……か)

英霊――その言葉で思い出すのは、三ノ輪さんの葬儀に参列していた神官様や大人達の言葉だ

『三ノ輪銀様は英霊となられた。それは、とても喜ばしいことである』

『三ノ輪家は大赦から莫大な援助を受けられるなんて、羨ましいわねぇ』

『これで大赦内における三ノ輪家の発言力もさらに増すだろう。身を挺してお家に貢献できたのだ、あの子もさぞ誇らしいはずだ』

家族を除いた大人達は周りに聞こえるか聞こえないかという声量で、三ノ輪さんをそう褒めたり功績を羨んでいた

(大赦は――ううん、大人達は私達を1人の人間としてじゃなく、駒や道具としか見ていないなんて…)

認めたくない。だけど、現に御役目を抜けた人の穴はすぐに補充された光景を見た後なので認めるしかないのかもしれない

(だとしたら、今の私に出来ることは――)

私はベッドから起き上がり、机の上に置いていた資料の1つを手に取る

表紙には【バーテックス交戦記録】と書かれており、ページをめくると交戦回数が乏しい獅子座を除いた11体のバーテックスとの交戦で得られた記録が書かれている

(前回は、射手座に撃たれて戦えなかった……もう、あんな不覚は取らない。私が皆を――)

「守るんだ…」

射手座に牡羊座、そして蠍座のページを見ながら、私はそう小さく呟いた

 

 

次の日、灼熱の世界の中を私達32人の防人と1人の巫女を乗せた8隻の葦原船の船団が、神樹様の種子を発芽させて橋頭堡を確保する為に目標ポイントへ向けて飛んでいく

「現在、船団の周囲に敵影無し…にしても、前以上に暑く感じるわね……皆は大丈夫?」

バイザー越しの為、目元はよく見えないが額の汗をぬぐって手で扇ぎながら私達を心配してくる

「私は大丈夫です」

ちょっとだけ暑くは感じるものの、我慢出来ないものではなく平気だと伝える

「自分も平気であります!」

「ボクも同じく。それに、ボク達が纏う戦衣は耐熱性を重視して設計されているから、このくらいなら――」

続いて春日さんと佐倉先輩が返事をしてから戦衣の性能を説明しようとし始めた瞬間、無線機に楠隊長からの言葉が届く

『もう少しで目標ポイントに到着します。ポイント到着後1番船のみ降下し、植樹作業を始めます。2番船から8番船は、作業終了まで警戒体勢を維持してください』

楠隊長がそう言うと、各班の指揮官達からの返事を聞いてから一番船を降下させ始める

着陸すると、すぐさま4人が手際よく国土さんと資材を下ろしていく

『芽吹さん、準備出来ましたわ』

『亜耶、頼む』

楠隊長が弥勒先輩からの準備完了の報告を聞いて、国土さんに祝詞を唱えることを促す

遠くて詳しく見えないが、4度のお辞儀に4回の手拍子をしたのが見えた

私達の元まで国土さんの声は聞こえないが、唱えているはずの祝詞に呼応する様に、種が植えられた場所から何種類かの植物が生えていく

しかし、国土さんが祝詞を唱え終わりお辞儀をしたのとほぼ同じタイミングで枯れてしまった

(失敗したの…?)

植樹作業の詳しい流れを知らず、枯れたことに困惑している私達を国土さんは気にすることもなく、枯れた植物に向き続ける

彼女がもう一度深くお辞儀をすると、枯れた植物の下から別の植物がすさまじい速さで成長し、大木を中心に様々な植物が灼熱の大地を覆っていく

「あの種から、こんな大木が生える…のでありますか…?」

神樹様の苗の大きさにあっけにとられたらしい春日さんが、感心したかの様な声でそう呟く

「この計画が進んで行けば、ここも人の世界に戻せるはず……なのよね?」

根の隙間から青い海のような景色が見えそれを見て、少しずつでも世界を取り戻せているのを実感しているのか、冬花先輩の方からもそんな声が聞こえる

「……私達が終わらせるんだ。この戦いを」

私は誰に向けてでもなく、そう小さく呟くと黙っていた佐倉先輩が言葉を発する

「ああ、それがボク達の御役目なのだから――」

佐倉先輩の言葉を遮るように、加賀城さんの叫び声が無線から聞こえた

『ぎゃああ!メブ!来たよ!星屑が来たよぉぉ!!』

国土さんの行動を見つつ周辺警戒をしていた私達よりも早く、国土さんの近くに居る加賀城さんが星屑の接近を察して騒ぎ始める

『総員戦闘体勢!雀は亜耶と苗を守って!しずくと弥勒は、私と一緒にここを防衛!残りは葦原船から交戦!守りきれ!』

周囲をよく見ると、遠くから無数の白い物体が私達を包囲しようと近づいて来ているのが見える

「調査任務の時よりも星屑の数が多いか…!?どうする…!?」

「考えるのは後!第七班、アローフォーメーションで一斉射撃!凛は撃ちもらした星屑の足止めを!」

「「「了解!」」であります!」

佐倉先輩が接近している星屑を数えようとしているのを制止し、3人で銃剣を構えて放つ

一斉射撃をくぐり抜けたものを護盾隊が足止めして、それらを銃剣隊の2人が撃っていき、銃剣隊に狙いを変えた星屑を指揮官型が斬っていく

他の班も同じように動いて星屑に対処していると、状況の変化に気づいた班の人から無線が届く

『一部の星屑、ルートを変えました!対応お願いします!』

「直上に星屑!二手に分かれて移動中であります!」

無線を聞いた春日さんが叫び、それを聞いた私達も上を見ると星屑が船団の真上を飛んでいて、私達を通り越して直接国土さん達を狙いに行くモノと、真上から急降下して船体中央部の御神木を狙うモノの二手に別れて飛んでいるのが見えた

「行かせるか!」

1番速くに動いたのは佐倉先輩だった

1人で船を飛び出して、私達を素通りしようとしていた星屑の1体へ銃剣を伸ばして突き刺し、そのまま巻き取ることで一気に近づき近接戦闘を始める

それでも星屑の数が多すぎて、攻撃を避けようとして更に船から離れてしまう

「2人とも、佐倉さんの援護に行ってちょうだい!ちょっとだけなら、アタシ1人でも何とか持ち堪えてみせるわ!」

冬花先輩も気づいたらしく、私と春日さんへ指示を出す

「でも、そうしたら冬花先輩1人でこの数を相手にすることに――」

「上官の命令は絶対であります!」

冬花先輩を1人残すことを心配して、船から離れる事を躊躇う私の手を春日さんに掴まれて船から飛び出す

(どうか、ご無事で…!)

星屑に囲まれかけてはいるものの、他班からの援護射撃もあって何とか持ち堪えられそうなのを確認して、葦原船から佐倉先輩の方へ視線を変える

そうしている間にも状況は悪くなっており、星屑の体当たりを避けながら銃剣で斬っていたが、遂には銃剣の刃先を咥えられ動きを封じられるとそのまま振り回され、別の星屑に何度か叩きつけられてから私達目がけて投げ捨てられる

「受け止めます!援護を!」

私は盾を手放して両手を自由にしてから佐倉先輩が落ちていく方向へ先回りをし、両手で抱きしめるように受け止める

勢いが強すぎたせいか、大きく後ろへ飛ばされて春日さんからも離れてしまったが、先に佐倉先輩の状態を確認する

「佐倉先輩!しっかりしてください!」

何度か呼びかけても返事すらなく、私に抱かれたままピクリとも動かない

口元に顔を近づけて呼吸の有無を確認してみる

(良かった。気を失ってるだけみたい…)

微かではあるものの呼吸をしており生きていることを確認でき、安心し胸をなで下ろす

「白峯殿!前を!」

春日さんの声を聞いて顔を上げると、かなり近い位置に数体の星屑が近づいていた

(しまった!この距離じゃ盾を取り出すのも間に合わないし、逃げきることも出来ない…)

「せめて、佐倉先輩だけでも――」

そう思い、私自身を盾にする為に身を翻して星屑に噛まれる痛みを想像し、堪える為に目を閉じる

(…まだ私は、生きてる…の?)

どれだけの時間が経ったのか分からないが痛みは無く、代わりに数発の銃声と誰かの声が聞こえた

「誰の犠牲も出さない!守りきれ!!」

「了解であります!」

それは、楠隊長と春日さんの声だった

国土さんの護衛は3人に任せて、他班の援護に回っていた際に私達の危機を察して駆けつけたらしい

「援護します!2人は早く船へ戻って!」

そう言いながら星屑を斬っていき、私達の退路を確保しつつ別の星屑の群れへ飛び込んでいく

「白峯殿!今のうちに!」

楠隊長の後を追うように春日さんが先に行き、私もそれに続いて七番船へ向かって一直線に飛ぶ

私達が戻って来ているのに気づいた冬花先輩の声が無線機越しに響く

『2人とも、そっちは大丈夫!?状況はどうなの!?』

船上から剣を伸ばして星屑の1体を捕らえ、それを振り回して別の星屑にぶつけることで応戦していた

私達へ無線を入れるのに意識を取られて、冬花先輩は背後から接近してくる星屑に気づいていないようだった

(ここから、飛びながら春日さんに撃ってもらっても当たると思えない…なら!)

「春日さん!佐倉先輩を頼みます!」

「白峯殿!?何を!?」

自分の中で結論づけ、春日さんに佐倉先輩を押しつけるように渡して一気に加速する

「はぁぁぁぁ!!」

全速力のまま、私は冬花先輩を狙っていた星屑の1体に体当たりをする

ダメージは与えられなかったが、少しだけ進路を変えれたようで冬花先輩の真横を掠めて私と一緒に船の壁に追突する

「凛!?あなた、なんて無茶するの!?」

一緒に墜落した星屑を銃剣を刺し、そのまま発砲して消滅させてから、怒りながらも私の手を掴んで立たせてくれる

「すみません…これしか方法は無いと思って…」

無茶をしたことを謝りつつ冬花先輩の身体を見ると、何度か噛まれていたのか至る所から血を流していたり戦衣が赤く滲んでいるのが見える

「綾川殿!ご無事ですか!」

少し遅れて佐倉先輩を背負った春日さんが着地する

「このくらいなら大したことないわ!それよりも、佐倉さんは大丈夫なの!?」

春日さんの背後から接近していた星屑を撃って消滅させてから駆け寄っていく

「今のところ、命に関わる怪我ではなさそうであります…ですが、余裕もないかと思うのであります」

「そう…春日さんはアタシと一緒に船の防衛を!凛は佐倉さんを守って!最悪の場合、佐倉さんを他の船まで連れて行ってちょうだい!」

冬花先輩は一瞬考えたあと、私達へ指示を出し星屑の再攻撃に備える

「星屑、来るであります!」

「春日さん構えて!一斉射!撃ち方、始め!!」

2人の声を合図に、私は予備の盾を取り出して佐倉先輩の前で構えて、ただひたすら守り続けた

 

 

どのくらい時間が経ったのだろうか、星屑を殲滅し終え、付近から銃声や少女達の怒声も聞こえなくなっていた

『戦闘終了。各班、被害状況を報告』

国土さんも祝詞を唱え終わり、楠隊長が負傷者数の確認の為に各班の指揮官達へ報告を促す

『こちら二番船、負傷者3名。内1名重症です』

『こちら三番船、全員負傷。重傷者は居ません』

二班から順に報告が上がっていく内容を聞くに、どの班も多かれ少なかれ被害が出ているみたいだった

「こちら七番船、全員負傷。内1名重傷です」

私達第七班の番が来たので冬花先輩は、そう報告してから無線を切って船上にへたり込む

「……はぁ~、流石に疲れちゃったわ」

その言葉に相槌を打つ元気も無く、私達の船からは誰も一声も話さず壁の内側へ帰ってきた

待機していたヘリコプターに重傷者が乗せられて一足先に病院へ搬送され、残された私達も軽い手当てや検査を受けるために遅れて病院へ行くこととなった

私を含めた殆どの防人は軽い手当だけ受けて退院することになったが、佐倉先輩を始め重傷を負った人達は入院することになるらしい

(今までより襲ってくる数が多かったとは言え、星屑だけを相手にして5人が入院…か…)

初陣の時と比べて3倍近い数の重傷者が出た

彼女達は御役目を続けるのか、交代させられるのかも分からない状況にモヤモヤしつつ病院の廊下を歩いていると、冬花先輩の怒鳴り声が聞こえた

「――“私”は反対です!考え直してください!」

何事かと気になって声が聞こえた方向へ歩いて行くと、1人の神官様に対して襟元を掴みかかろうかという勢いで何かに対して抗議をしているようだった

その怒気に驚いて、咄嗟に身体を隠してしまった

(2人共、何の話をしているんだろう…?)

隠れて話を盗み聞きしている私の存在に気づかずに2人は話を続ける

「これは決定事項です。皆さんには3日後、次の植樹作業に出て貰います。従えないのでしたら、御役目を辞退してもらっても構いません」

相手は、私達の監督である神官様だったらしく、いつもと同じく感情を感じさせない抑揚のない声色であしらう

(3日後に次の御役目?じゃあ、今入院している人達はどうなるの…?)

話を盗み聞きして、私の中で膨らんだ疑問点を整理する為に視線を外している間に神官様は去っていたようで、話に納得しておらず怖い顔をしたままの冬花先輩が残されていた

姿を隠し続ける訳にもいかず、何も聞かなかったフリをして冬花先輩へ声をかけることにした

「冬花先輩…どうしたんですか…?」

「…入院している人達は、3日後の御役目までに退院させるって」

冬花先輩は私のことを一瞥し、神官様と何を話していたのかを教えてくれる

「退院させるって…何でそこまでして――」

「さあね…大赦の人達が何に焦って、慌ててるのか知らないけど、アタシ達は普通の中学生でしかないの。凛も無理しなくていいから、辞めたくなったらいつでも言ってちょうだい」

私の疑問を遮るように、行き場がない怒りを含めたような声でそう言い放って歩き去っていく

(たとえ、冬花先輩に言われたとしても、私は――)

「私は、御役目への参加を続けます」

誰も居なくなった廊下の中で、私はそう呟いた




二番と八番の指揮官型防人ちゃんもオリキャラとして出しました

次話も気長に待って頂けますと幸いです…!
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