前半は珍しくシリアスとなっています。
ではどうぞ!
ザー
西木野真姫は昇降口で立ち往生していた。外は雨が降っているのだが、傘を忘れてしまったので帰るに帰れない状況である。彼女としたことが朝少し急いでいたため、天気予報を見るのを忘れてしまったのだ。しかも昼間では晴れていたので大丈夫だろうと思った矢先にこれだった。
今日は2年生組は生徒会、3年生組は受験勉強、凛は宿題を忘れたので、花陽を巻き込んで宿題消化中である。もちろん練習ができないので帰ることにした。帰る時に凛が『手伝わないとか鬼だにゃ~』とか言っていたからデコピンしてきた。
「はぁ~……どうしよう」
大人しく花陽と凛に合流してもいいが、凛に『やっぱり戻ってきたんだ〜。真姫ちゃんはツンデレさんだにゃ〜』とか言われそうなので戻りたくない。それに今日は買いに行きたいものがあるから、あまり長い時間学校にはいられない。
「真姫?」
「零!?」
「どうした?今日は練習休みだろ?帰らないのか?」
「帰りたくても帰れないのよ」
「まさか傘持ってきてないとか?」
「そのまさか」
正直、零に言うと『あの真姫が忘れ物とか(笑)』と、からかわれそうだったので言いたくなかったが、バレているのなら仕方ない。
「だったら一緒に帰るか?」
「え?」
一緒に帰る?2人で?
「この傘大きいし、真姫なら入れると思うけど」
「そ、それって」
そして成り行きで一緒に帰ることになった。
~※~
(どうしてこんなことに)
一つの傘に2人、紛れも無い相合傘であった。男性経験が今まで皆無だった真姫には、この状況は凄く恥ずかしい。零は何とも思ってないのだろうか?
「真姫!」
「な、何よ!大きな声出さないでよ」
「さっきからずっと呼んでただろ」
「そ、そう。ごめん」
相合傘に気を取られていて零の声が全く聞こえていなかったらしい。
「そっちは濡れてないか?」
「大丈夫…って、あなた肩少し濡れてるじゃない!?」
「ああこれか。やっぱり2人じゃ狭かったな」
「狭かったなじゃなくて!」
「仕方ないだろ、俺がそっちに寄ればお前が外に出ちゃうんだから」
「でもこれあなたの傘なんだから」
「いいっていいって。スクールアイドルのお前が風邪なんて引いたら大変だ。それだったら俺が代わりに引いてやる」
来た。と真姫は思った。いつも気になっていたことを聞いてみよう。零とは学年の違いもあってか、中々2人きりになる機会がないため、今はチャンスだ。
「いつも思っていたけど、あなた自分自身を大切にしないの?」
「え?」
「あなたいつも誰かに気を使ったり、心配したりしているでしょ?」
「いつもの俺を見てみろ、欲望丸出しじゃないか。セクハラ発言もするし」
「自覚はあるんだ…」
「自分の発言にはしっかり責任を持たなくてはな」
「その言葉はそういう意味ではないと思う……じゃなくて、そんなことはどうでもいいの。あなたが自分自身を気遣っていないって話!」
零はこの話をはぐらかしにくる。あまり踏み込んで欲しくないのだろうか。
「どうしてそう思う?」
と思ったら、そうではないみたいだ。
「穂乃果が言ってた。あなたがファーストライブの時に必死になって生徒を集めようとしていたこと、他にスクールアイドルをやってくれる人がいないか探していたこと、まあそれは私もその中に入っているけど。ことりも海未も同じことを言ってたわ、零は自分たちより一生懸命スクールアイドルの活動に取り組んでいるって」
だからこそ、μ'sのメンバーは何だかんだいって零を頼りにしている。
「……」
零は黙っている。様子を見る限り、自分でも分かっているようだ。
「9人が揃ってからもそれは変わらず。ことりの留学の時、バラバラになったμ'sを再結成しようと奔走していたのもあなた。その時の穂乃果を元気づけたのもあなた」
「……」
「どうしてそこまで人の為になれるの?」
これが私が聞きたかったこと。零はいつも素直になれない私とは全くの逆の性格。自分の意見ははっきりと言え、みんなを導ける人。
「俺はただ廃校を阻止したかっただけだよ。スクールアイドルを利用してただけだ」
「嘘」
即答した。間違っていない自信がある。
「あなたが人を利用するなんて考えないはず。いつも自信満々で、何でもできるあなたなら……「やめろ」……え?」
「結局俺1人では何も出来なかったよ。廃校を阻止するなんて大規模な問題。でも穂乃果たちに可能性を感じたんだよ。こいつらなら廃校を阻止できるかもってな。今まで俺は『自分が動けば、全て何とかなる』って思ってたから」
「それはわかったけど、納得できない部分があるわ」
「何だよ」
「廃校の阻止が目的だったら、もうそれは達せられた。でもあなたはまだμ'sにいる。これはどう説明するの?」
なんて意地の悪い質問だと私は思う。傍から見たら嫌な人だって思われるだろう。だが、それを差し置いてでも聞いておきたいことなのだ。
「はぁ~」
零は大きなため息をつく。
「負けた負けた。そこまで見抜かれているんなら隠す必要はないか」
「お前らが好きだからだよ」
「え!?」
予想外の答えに言葉が詰まる。正直もっとシリアスな話題が飛んでくるのだと思ったからだ。それに『好き』って?
「あぁ~!そんな反応するだろうから言いたくなかったんだよ。俺はお前らが好きだからμ'sに関わってんの!!これでいいか?」
顔を真っ赤にして、ここまで取り乱す零は珍しい。もう雨が肩にガンガン当たっている。
「お前らってことは私も……?」
「当たり前だ」
「うぅ……」
面と向かって告白されるのがここまで恥ずかしいとは。というより何故こんな状況になった。
「真姫、お前を音楽室で一目見た時からμ'sに勧誘したかったんだ。初め穂乃果に聞いたときは、どんな堅物な奴なんだと思ったけど、話してみると楽しくってさ、俺は音楽のことはさっぱりだけど、お前のピアノと歌にすごい惹かれたよ。絶対μ'sに入れてやるって思ってたな」
「だからあんなに勧誘してきたのね」
「でも真姫が入ってくれて良かったよ。またこうして話ができるんだ」
零と同じぐらい顔が沸騰するかのように熱い。むしろ先程とは立場が逆転している。学院内では零はかなり人気だ。教室でも女子の間で時々名前が上がるぐらいには。変態なのはマイナスポイントだが、そこに目を瞑れば、その整った顔立ちや誰にでも優しい性格は女性ウケするに違いない。
今までピアノが上手だの、歌が上手だの色々は人に言われてきた。そうなると、上手なのが当たり前で何も特別なことには感じなかった。もちろん上手だと言われて嬉しいとも思わなくなった。
だが今は違う。零に自分のことを褒められると心が踊る。ドキドキする。ここまで感情が高ぶったことは初めてだ。春に音楽室で出会った時は何も思わなかった。歌が上手いとか言われても、『またか』と思ってしまった。
しかしあの時、零は自分の生き方を見つめ直させてくれた。その時の自分は医者になることが運命付けられていて、自分のやりたいことを押し殺していた。彼はそれを解き放ってくれた。背けていた自分の心と向き合わせてくれた。そして、μ'sという素晴らしいグループの一員にしてくれた。おそらくその時から彼に惹かれていたのだろう。
零はずっとこっちを見つめている。自分の心臓の鼓動が聞こえる。今にも爆発してしまいそうだ。
「真姫!」
「な、何よ!大きな声出さないでよ」
「さっきからずっと呼んでただろって、このやりとりやった気がする。まあいい、お前行くとこあるって言ってなかったっけ?」
「あぁ、作曲の時、メモに使う用紙と万年筆を買いたかったんだった」
零の告白が衝撃的すぎて頭から抜け落ちていた。
「高級なモノをお使いで…。じゃあ今から買いに行こうぜ!」
「いいわよ!雨降ってるし。一旦家に帰ってから行くから」
「一緒に行きたいんだよ。真姫と2人で買い物とかしたことないし。俺はもっとお前のことが知りたい」
またそんな恥ずかしいことをぬけぬけと。でも、この半年という短い期間でここまで彼と仲良くなれるとは思わなかった。初めての友達である花陽と凛と一緒にいても楽しいが、零と一緒にいると別の楽しさ、そしてドキドキがある。
「もう……しょうがないわね。着いてきてもいいわよ」
「ありがとうございます」
相変わらず素直にはなれない。でもいつかきっと……
今回はこの小説では珍しいシリアス回でした。短編集となると、オリ主とメンバーとの出会いや心情などが連載モノと比べて書きにくいという点があります。初めは零の心情回と真姫のデート回は別々で構成されていたのですが、心情回の文字数が劇的に少なかったので、真姫のデート回と統合したら上手く繋がった感じです。穂乃果回と同じく、真姫ももっと零と遊ばせてあげれば良かったのですが…それは今後描いていきたいと思います。
初投稿から2週間、多くの人に読んで頂いています。お気に入りが77件、UAも10000を超えました。まだまだ未熟ですが、これからもよろしくお願いします。
それではこの辺で、ありがとうございました!
次回はメイド喫茶で大騒動!?