サブキャラたちとの絡みが続きます。
「人が多い……」
この俺、神崎零は1人で街へ繰り出していた。本来なら人混みは嫌いなので、誰かから誘われない限り滅多に休日は出掛けない。ただ1人暮らしゆえ、食材の補充なり生活用品の買い足しも1人で行わなければならない。よって平日が忙しかった場合は休日に出掛けるしかないのである。
「くそぉ~寝過ごさなかったらもっと早く来れたのに……」
経験のある人は多数いると思うが、休日前の夜はどうも夜更ししてしまう。そのせいで起きた時には既に昼前になっていた。この時間帯になると昼食を取ろうとする人や、もう昼食を終えて次の目的地へ向かっている人など、様々な人たちが街にごった返す。そんな中で俺はトボトボと歩いていた。
「ん?あれは……?」
明らかに1人でいてはいけない小さな子が周りをキョロキョロしながら歩いている。背丈は小学生ぐらい。綺麗な黒髪で、向かって右側に髪を結っている。迷子にでもなったのか?それにしても、誰かに似ている……というよりどこかで会ったコトがあるような……
あっ、思い出した!
「こころちゃん!」
「え!?」
突然名前を呼ばれたせいか、驚いた表情でこちらを振り返った。
「神崎……零さん?」
「よっ!久しぶりだな」
彼女は矢澤こころ。あの矢澤にこの妹である。にこが高校3年生だから、小学生の彼女とはかなり年の離れた姉妹になる。ちなみに会うのはにこの家にお邪魔した時以来だ。
サッ!
俺が挨拶をした瞬間、こころちゃんは俺から一歩遠ざかった。
「オイ……何で身構えているんだ?」
「お姉さまが言ってました、『零に気を付けろ』って」
「アイツ……何吹き込みやがった」
「『零は女を喰う魔物、出会ったらすぐに警察を呼びなさい』、と」
「なんでやねん!!俺は地球上で最も無害な人間だ!」
「そんな人間いないと思います」
「急に正論を言うなよ……」
この子、本当に小学生かよ。前にあった時も思ったけど、かなりしっかりしている。いや、しっかりし過ぎているような気がする。それ故、『μ'sのみんなはバックダンサー』だの、『パパラッチに追われている』だの、にこの堂々した嘘も信じ込んでしまう。
「とにかく落ち着けよ、な?」
「鳴らしますよ」
「防犯ブザーはやめてくれ。頼むから」
こころちゃんは今にも防犯ブザーの紐を抜き取ろうとする。こんな小さな子にブザーを鳴らされては俺に弁解の余地はない。まさにあの紐は俺の命綱だ。
「何でも好きなモノ買ってやるから、それから手を離して!」
「まさに変質者と同じセリフですね。それで私が引っかかるとでも?」
「ぐっ……」
どうする?この状況を打破するするには……
「分かった。花瓶を買いに行くんだろ?手伝ってやるよ」
「えぇ!?」
「図星のようだな」
「…………どうして分かったんですか?」
「まずお前の右人差し指。絆創膏が貼ってあるだろ?」
「あっ」
「それは何かを摘んで怪我をした証拠。指の表面の傷といったら切り傷だ。家にあるモノで、指に切り傷っていったらガラスや皿、花瓶などに限定される。お前の家ではにこが料理の担当をしてるから皿の線は薄い、ガラスなんて壊したら一大事すぎてこんなところにはいない。だから花瓶って訳だ」
こころちゃんは目を大きく見開いて俺を見つめている。まだまだこんなもんじゃないぞ。
「現に前に俺がお前の家に行った時、にこが大切にしている花瓶と生けてある花を見せてもらったから、それを割っちまったんだろ?その傷は花瓶の破片を回収した時についたんだ」
「すごいですね……」
「まだあるぞ。今俺たちがいるところ、ここは骨董品やガラス細工など雑貨屋が多い。普通の小学生ならあまり興味を示さないところだ。でもお前は何かを探すようにキョロキョロしていた。それは同じ花瓶を売っている店を探していだんだろ?」
「参りました、降参です」
こころちゃんは防犯ブザーの紐から手を離し、カバンのポケットに突っ込んだ。どうやら最悪の事態は回避できたみたいだ。危なかったぁ……
「その様子だと、にこには言ってないようだな」
「はい……絶対に怒られると思って。幸いにも今日はお友達と昼まで予備校に行ってますから」
「だから1人でこんなところまで来たんだな」
俺はポンポンとこころちゃんの頭を軽く叩く。
パシ!!
「へ?」
「気安く触らないでください。まだあなたを完全に信じた訳ではないので」
「可愛くねぇなぁお前」
「ロリコンに言われたくありません」
「な゛ぁ!?」
「『外で突然男に話しかけられたら、その人はロリコンだと思え』ってお姉さまが」
「誰がロリコンだよ!!誰が!!」
「ん」
小さな左人差し指が俺に向けられる。人に指をさされるのは久しぶりだ。……ってそんなコトを言ってる場合じゃない。周りには普通に通行人がいる。あらぬ誤解をされないようにしないと。
「まぁそれはさておき、花瓶探しに行くか!」
「さておいちゃったよ……というコトは……認めました?」
「もうロリコンでも何でもいいよ。とりあえず今は花瓶探しに集中しろ」
サッ!
「防犯ブザーを構えるのはやめてもらえるかな!?」
~※~
「花瓶の写真とか何かないのか?さすがに一度見ただけじゃ思い出せなくって」
「これです」
こころちゃんの携帯に写っている写真を見る。……これって花瓶なのか?結構なピンク色だし、装飾もついてるし、花瓶にはかなり似合わないな。まあにこらしいって言えば、にこらしい柄だけども。
「あっ!あの店なんてそれらしくないですか?ロリコンのお兄さん」
「今すぐ口を閉じろォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
ここにいるのは俺たちだけじゃない。周りに人がいるって言っただろうに!!
「うるさいですよ。高校生にもなって街中で騒がないでください」
高校3年生にもなって『にっこにこにー☆』とかやってる奴もよっぽどだと思うぞ……。これを言うと過激な反発が来るだろうから言わないけど。
「その呼び方だけはやめてくれ……誤解されるから」
「じゃあなんと呼べば?」
「零サマとでも呼んでくれ」
ジトー
「何だその目は!?」
「小学生に自分を"サマ"付けで呼ばせるなんて……」
「冗談だよ。苗字でも名前でもいいから」
「それでは"ロリコンの零さん"ですね!」
「変えるのそこかよ!!せめて"ロリコン"の部分を変えてくれ!!」
「いちいち注文が多いですね」
コイツ……小学生だからって自分が手出しされないと思ってるな。しかし、俺は小学生にも容赦ないぞ。いつも俺がアイツらにしている鋭いツッコミを…………あっ、このままでは本当にロリコンのレッテルを貼られてしまう。ここは人生の先輩らしく耐えなければ。相手は小学生、相手は小学生なんだ。
「何しているんですか、行きますよ」
「あ、ああ」
あれ?もしかして俺、小学生に主導権握られてる?
~※~
「うわぁ~可愛いお店ですね~!」
俺たちが入ったのは女の子用アクセサリや小物などを扱っている店だ。それだけではなく、女性向けのインテリア家具まで幅広く揃っている。にこやことりがよく来そうだな。
「えぇ~と、花瓶は……」
こころちゃんは店に入るなりさっさと奥へ行ってしまった。入口にはいかにも小さな女の子が好きそうなぬいぐるみやおもちゃが置いてあるのに、それには目もくれなかった。よほど焦っているのだろうか。
そもそも花瓶がある保証はどこにもなかったが、ちゃんと店の奥に陳列されていた。しかも結構な数だ。最近は和のスイーツやテイスト、インテリアが女性の間で人気があるとニュースでやっていたのを思い出した。そのせいで若者向けの花瓶にも色々種類があるのだろう。
「これだけあっても、この写真と同じ花瓶はなさそうだな」
「はい……」
「元気出せよ。ほら!これなんてそっくりじゃないか」
俺は棚から1つ花瓶を手にとってこころちゃんに見せる。写真の花瓶と形状や色、装飾などは大体同じだ。
「でも……お姉さまはこの花瓶を気に入っていました。同じモノでないと……」
どんどん自分を追い込んでしまっている。我慢しているようだが今にも泣き出しそうだ。まだ小学生なのにここまで責任を負っているとは……
「コレにしよう!コレ買って帰えろう」
「ダメ……ですよ」
「昼過ぎにはにこが帰ってくるんだろ。その時にお前がいないと心配するんじゃないか」
「でも……」
「あのな、にこなら素直に謝れば許してくると思うぞ。それはお前がにこの妹だからとか、そういうコトじゃない。アイツはああ見えて優しいし、素直な心をぶつければにこはしっかりと受け止めてくれるさ。俺はお前と違って、にことの付き合いは長くないけど、俺にはそれが分かる。生まれた時からずっと一緒にいたお前なら、自分のお姉ちゃんがどんな人かなんて俺より分かるんじゃないのか?」
別ににこの優しさにつけ込もうとしている訳ではない。絶対にアイツは理不尽に怒ったりなんかしない。もし失態を犯してしまったとしても、にこなら必ず向き合ってくれるハズだ。
「それにさ……」
俺はこっちをジッと見つめているこころちゃんの目を見つめ返す。
「悪いコトをしちまったら、謝るのが普通だろ?忘れちゃダメだぜ」
こころちゃんは根本を忘れていたみたいだ。こんなところでコソコソする前にやるべきコトがある。
「ありがとうございます。何だか、胸がすぅ~と軽くなりました」
「そりゃよかった。でも本番はこれからだぞ」
「はい!分かってます!」
あれ?こころちゃんの顔が少し赤くなってるような……気のせいだろう。
その後、こころちゃんは俺が手に取った花瓶を購入した。初めは俺が金を出そうとしたのだが、『これは自分がケジメをつけなくてはいけない』と、こころちゃん自身が全額負担した。よくできた子だな。俺の妹にしたいぐらいだ。…………あっ、こんな発言するから誤解されるのか……
~※~
店を出た俺たちは、こころちゃんたちが住んでいるマンションへと戻っていた。
「こころーーー!!」
「あっ!お姉さまだ!」
向こうからにこがこちらに走ってきた。にこが帰る前に戻る予定だったんだけど、少し遅かったか。
「どこ行ってたのよ、家にいないから心配したわよ。出かけるならにこに連絡入れてよね」
「ゴメンなさい……」
「まぁまぁ落ち着け。これには色々あってだな」
「零!?何でアンタがこころと一緒に!?まさか……」
「たまたま会ったんだよ!!た・ま・た・ま」
「変なコトしてないでしょうね?」
「する訳ないだろ」
「どうだか、意外にロリコン気質があったりして」
「お前……この子に吹き込んだ分を合わせてシバクぞ」
「大丈夫ですお姉さま!今回は何もされてませんし、何も異常はありませんでした」
「そ、そう……」
『今回は』って何だよ、『今回は』って。まるで俺がいつも何かやらかしてるみたいじゃねぇか。
「ほら、言うんだろ?」
「は、はい!お、お姉さま!」
「ん?」
「実は……」
こころちゃんはにこに自分が誤って花瓶を割ってしまったコト、それがバレると怒られると思って勝手に街に同じモノを買いに出かけたコト、結局見つからなくて似た花瓶を買ったコトを伝えた。もちろん、最初に頭を下げて謝罪をした。
「ゴメンなさい!!」
「はぁ~、顔上げて」
「へ?」
「しっかりと謝ってくれたならそれでいいわ。許してあげる。それより、その指の怪我の方が心配よ。大丈夫だった?」
「は、はい……でもいいんですか?」
「いいわよ。それに、こころからプレゼントを貰ったんだもの。これ以上に嬉しいコトはないわ。大切にするわね」
「あ、ありがとうございます!」
「フフッ!どういたしまして……でいいのかな?」
こころちゃんの顔に笑顔が戻ってよかった。それにしてもあの2人、とても仲良さそうだな。何だか羨ましい。とにかく一件落着かな。
~※~
「こころがお世話になったわね。一応、お礼は言っとく。ありがと」
「別にいいよ。いいもん見せて貰ったしな」
俺もこうやって姉や妹と仲睦まじく笑い合えたらいいのにな。まあ、アイツらの性格上それは無理だな。
「あの~」
「どうしたこころちゃん」
「名前!」
「ん?」
「私の名前、呼び捨てでいいですよ」
「え!?どうして?」
「私がそうやって呼ばれたいというか……なんというか……」
さっきからずっとモジモジしている。まさかこれって……いや小学生だぞ……でも、本人がそう言ってくれているんだし。
「これからもよろしくな、こころ!」
「はい!!今日はありがとうございました!零さん!大好きです!!」
……………………………………は?
「零……アンタ……こころに何したの……?」
にこが殺人鬼と化して俺の元へフラフラとやってくる。今のコイツなら平気で人を殺めてしまいそうだ。こんな姿、今まで一度も見たことないぞ!
「待て!!小学生の言っているコトだ!!落ち着け!!話せば分かる!!」
「問答無用!!このロリコン!!!」
「だ・か・ら!!街中でそれ言うのはやめてくれぇえええええええええええええ!!!」
その後、しばらくロリコンのレッテルが剥がれるコトはなかった。
零君のカッコイイところを見せようと思ったのに、少ししか出ていない変態部分の方が目立っているような気がしてならない。
この小説で絡んでいないのは、ツバサを除くA-RISEの2人ぐらいですね。またいずれA-RISEは登場させます。
次回は絵里、凛、真姫が危険な目に!?