ラブライブ!~μ'sとの日常~【完結】   作:薮椿

40 / 64
ついに40話目です。UA数やお気に入りの数で感謝する作者様は多けれど、話数で喜んでいるのは多分自分だけでしょうね。


怪奇な部室

 今日もいつもと変わらない放課後。絢瀬絵里は生徒会の仕事を素早く終わらせてアイドル研究部部室へ向かっていた。外は快晴で風も程よく、絶好の練習日和だ。ラブライブの予選も近いためか、最近みんなはいつも以上にやる気に満ち溢れている。その様子を見ていると、自然と自分のやる気もアップしてしまう。

 

 

 

(もうみんな着替えているかしら?)

 

 

 今日の生徒会仕事はやるコトが少なかったので、希には先に部室に行ってもらっていた。この時間だったら放課後掃除も終わり、みんなが着替え終わっている頃だろう。

 

 

 絵里は部室の前に到着し、ドアノブに手を掛けようとする。

 

 

 

(ん?部室がやけに騒がしいわね。何してるのかしら?)

 

 

 

 部室の中から穂乃果の声が聞こえる。

 

 

 

『やっぱり半殺しにしない?』

 

 

 

(え!?)

 

 

 いきなり飛び込んできた穂乃果の言葉に絵里は唖然とする。あの穂乃果がそんな言葉を使うとは思ってもいなかったからだ。

 

 絵里はドアノブから手を離して、部室の外から耳を傾ける。

 

 

 

『アンタ、さっき皆殺しにするって言ったばかりじゃない』

 

 

(にこまで!?)

 

 

『ホントにコロコロ考えが変わるなぁ。皆殺しって言ったり、半殺しって言ったり』

 

 

(希!?あなたもなの!?)

 

 

 3人のおぞましい会話に思わず部室のドアから遠ざかる。人間は本当の恐怖に晒された時は声も出なくなると言うが、今まさにその通りだと実感した。

 

 

「あれ~、絵里ちゃんどうしたの?」

「入らないの?」

 

 

「凛!?真姫!?」

 

 

 絵里の元に凛と真姫がやって来た。2人は掃除当番で本来なら既に終わっているハズだったのだが、サボっていた凛を真姫が探すという無駄な時間のせいで部室に来るのが遅れてしまったのだ。

 

 

「絵里ちゃんどうしたの?怖いものでも見た?」

「何?もしかしてお化けでもいた?」

 

 

「ち、違うの……部室で穂乃果たちが喋ってるから、とりあえずこっそり聞いてみて」

 

「「?」」

 

 

 よく分からない事態に凛と真姫は疑問に思いながらも絵里のこんな風になったのも気になるので、2人はドアに耳をくっつけて中の会話を聞いてみる。

 

 

 

『ことりも半殺しにさんせ~い!』

 

 

(ことりちゃん!?)

(ことり!?何言ってるのよ!?)

 

 

『初めは皆殺しのハズだったのですが、仕方ありませんね』

 

 

(海未ちゃーーん!?)

(海未!?)

 

 

『じゃあ、私も半殺しで賛成です』

 

 

(かよちーーーーーーん!?)

(あの花陽まで!?まさか……そんな……)

 

 

「どう?」

 

「どうって……みんなどうしちゃったのかにゃ?」

 

「まさか私たちに内緒で誰かを……」

 

「まさか暗殺!?」

 

「凛、声が大きいわよ!」

 

 

 

『あれ?外に誰かいるのかな?』

『もしかして凛ちゃんと真姫ちゃんかも。さっき遅くなるって連絡来てたし』

『外でコソコソされると気味悪いわね』

 

 

 部室内から足音が聞こえる。恐らくにこが外に出てくるのだろう。

 

 

 

「このままじゃマズイにゃ!!」

「逃げるわよ!!」

 

 

 絵里の号令と共に3人は一斉に廊下を走り出す。絵里にとっては、もう生徒会長とかそんな肩書きはどうでもよくなっていた。

 

 

ガチャッ

 

 

 

「にこっち、誰かいた?」

 

「いや、誰も……おかしいわね、声がしたと思ったのに」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「「「はぁ……はぁ……はぁ……」」」

 

 

 3人は階段の踊り場まで走った。いつも基礎体力をつけるために練習しているつもりだったが、今は息切れが半端ではない。"恐怖"という感情が煽りを掛けているのかもしれない。

 

 

「でもどうして穂乃果たちがあんなコトを……」

 

「かよちんも、もしかして殺人鬼になっちゃたのかにゃ!?」

 

「お、落ち着いて2人共。ま、まだそうと決まった訳じゃ……ないわよ?」

 

「絵里……あなたも落ち着いてないし、疑問形になってるわよ」

 

「どうしよう、真姫ちゃん!絵里ちゃん!」

 

「とにかく、こういう時は……」

 

 

 絵里は携帯を取り出して、ある人物へと通話をする。

 

 

 

 

プルルルルル

 

プルルルルル

 

 

『はい、もしもし』

 

「零!?」

 

『うるせぇな!?そんな大きな声出さなくても聞こえるわ!!』

 

 

 絵里が電話を掛けたのは神崎零。いつもはお調子者で自信家でセクハラ発言の絶えない彼だが、μ'sにとって彼よりも頼りになる人物はいない。

 

 

『それで何か用か?今買い出しの途中なんだけど』

 

 

 零には次のライブで使う備品の調達に行ってもらっている。備品の中には重量があるモノも多いので、男性の彼に頼んだのだ。

 

 

「それより、聞いて欲しいコトがあるの!!」

 

『どうした?お化けでも見たのか?』

 

 

 本日2度目のボケを華麗にスルーし、絵里は部室の中から聞こえた穂乃果たちのおぞましい会話の内容を零に伝える。

 

 

「半殺しとか皆殺しとか、凛たちどうなっちゃうの~!?」

「零は何か知らないの!?このままだとみんなが……みんなが……」

 

 

 凛と真姫は衝動に耐え切れず、絵里の携帯を交互にひったくってはお互いの心境を包み隠さず暴露する。

 

 

『落ち着けお前ら!!今すぐにそっちに戻るから、くれぐれもアイツらを刺激させるなよ。どっかに隠れとけ!』

 

 

「どっかってどこ……あっ」

 

 

 通話はそこで切れてしまった。どうやら零の方から切ったらしい。

 

 

「これからどうする?」

 

「零くんが隠れろって言ったんだから隠れるにゃ!」

 

「でもどこに?部室に私たちが来ないって分かったら、きっとみんな絶対に探しに来るわよ。適当なところに隠れても見つかっちゃうわ」

 

 

 もう既に練習を始めていてもいい時間なのに、これ以上時間が掛かるとみんなは確実に絵里たちを探しに行くだろう。もしそこで見つかってしまえば一貫の終わりだ。半殺しか皆殺しにするかで迷っている人たちだ、ミンチにされるコトぐらいは覚悟しなければならない。

 

 

「私、もう一度部室へ行ってくる」

 

「絵里ちゃん!?」

「絵里!?無謀よ!!」

 

「敵の情報を知らないと、どこへ逃げても無駄だわ。そのためにはもう一度部室へ行って情報を得ないと」

 

「でも……」

 

「私の方が先輩なんだから、ここは任せて」

 

「絵里……」

 

「2人はここにいて」

 

 

 絵里は単独で再び部室へ戻る。2人はただ絵里の背中を見届けるコトしか出来なかった。

 

 

(守ってみせるわ。凛も真姫も……μ'sも!!)

 

 

 

 

~※~

 

 

 

「着いたわ。中から声が聞こえるってコトは、まだみんな部室にいるのね」

 

 

 こんなにも緊張するのはライブの時以外では初めてだ。むしろライブよりも緊張している。絵里は覚悟を決め、部室のドアに近付いて中の会話を盗聴する。

 

 

 さっきもしたのだが、明らかに部室の中から匂いがする。

 

 

(これって……)

 

 

 絵里が匂いの元を思い出そうとした瞬間、耳に部室内の会話が飛び込んで来た。

 

 

 

『あ~あ、にこは皆殺しがよかったなぁ~』

 

『ゴメンゴメン、次は皆殺しにするよ。そうだ!にこちゃん、今度ウチにおいでよ!』

 

 

(穂乃果の家で誰かを皆殺しに!?嘘でしょ!?)

 

 

『でも半殺しの方が簡単やから、たくさんするにはええやろ?』

 

『時間も短縮できますし、今回はそうしましょうか』

 

 

(たくさんするって……たくさんの人間を半殺しに!?それも短時間で!?)

 

 

『それにしても絵里ちゃんたち遅いね。……花陽ちゃんどうしたの?』

 

『ちょうどいいし、これもう半殺しにしちゃおうかなぁって』

 

 

(!!!!!!!!!!)

 

 

 花陽の一言で絵里の自信がポッキリ折れた。凛と真姫、後輩の前で大見得を切ったものの、今の会話で腰を抜かしてしまう。何とも情けないと思うと同時に、部室から流れ出る恐怖に怯える。

 

 

 

『ちょっと、やっぱり外に誰かいるんじゃないの?』

 

『にこっち、見てきてよ』

 

『言われなくとも。なにコソコソしてるのかは知らないけど、にこのファン以外だったら怒鳴りつけてやるわよ』

 

 

 

ドカンッ

 

 

 元々にこはドアの近くにいたためか、さっきよりも早くドアが開け放たれる。もちろんその場で腰を抜かしている絵里の姿も晒されてしまう。

 

 

「絵里!?」

「絵里ち!?こんなところで座り込んでどうしたん?」

 

 

「ヒィッ!!」

 

 

 絵里は慌てて体勢を整え、先ほどと同じく全速力で逃げる。

 

 

「なっ!?どうして逃げるのよ!!」

 

「何かあったんやろか」

 

「追いかけよ!!絵里ちゃんが困っているなら、穂乃果たちが協力するべきだよ!」

 

「そうですね。さっきの絵里の声、ただ事ではなさそうですし」

 

「ことりも行くよ」

 

「花陽も行きます!」

 

 

 6人は部室から出て、なぜ逃げ回っているのか分からない絵里を追いかける。

 

 

 6人が自分を目掛けて追いかけてくるコトに恐怖を感じながらも、絵里は再び階段の踊り場へと戻って来た。一刻も早く真姫と凛を連れて逃げなければならない。

 

 

「真姫!凛!逃げて!!」

 

 

「絵里ちゃん、さっきよりヒドイ顔になってるにゃ!!」

「どうしたのよ!?さっきより慌ててるけど」

 

 

「来るの!!」

 

 

「「え?」」

 

 

「穂乃果たちが来るの!!」

 

 

「「えーー!!」」

 

 

 真姫と凛も急いで立ち上がり、階段を駆け下りて全速力で走る。廊下では何度も生徒とすれ違ったが、もう自分たちが廊下を走っているとか、校則を守っていないとか、そんなコトはどうでもいい。今はあの殺人鬼たちから逃げるコトが先決だ。

 

 

「3人対6人じゃ、いずれ囲まれるわ。どこかに隠れましょ!!」

 

「教室はダメだし……トイレなんてどうかにゃ!?」

 

「そうね、そこなら窓からも脱出できるし」

 

「決まりね」

 

 

 3人は追っ手が来ていないコトを確認してトイレに飛び込んだ。幸いにも中には誰もいないようだ。一応、トイレの掃除用具箱の中にあった『現在点検中』の紙をドアに貼り付けておく。

 

 

 

「はぁ……はぁ……そうだ、零に連絡を」

 

 

 絵里はまた零に電話を掛ける。

 

 

 

 

 トイレの外では、穂乃果たちが絵里たちを探していた。

 

 

 

「あれ~ドコ行ったんだろう?」

 

「見失っちゃったね」

 

「そうやね……って、どうしたんにこっち?」

 

「ここのトイレ、点検中だって。このコト知ってた?」

 

「あれ?でも1年生はこのトイレを使うよ、今日も使ってたし」

 

 

 今日1日使えたハズのトイレがいきなり使えなくなっているコトに疑いを持つにこと花陽。トイレが封鎖されるなら、学校から連絡が来るハズだ。

 

 

「もしかして……」

 

 

 海未に1つの考えが浮かんだ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「絵里たちの慌てよう、アレは尋常じゃないぞ」

 

 

 俺は備品の買い出しを途中で放り出して学院へ戻っている。皆殺しとか、半殺しとか、そんな言葉を使う奴らとは思えないんだけどなぁ。聞き間違いとか?いや、どんな耳をしていればそんな言葉を聞き間違えるんだ。

 

 

プルルルルル

 

 

「電話!?絵里からだ」

 

 

 また何かあったのだろうか?俺は急いで電話に出る。

 

 

『零!!』

 

「だから大声出すな、落ち着け。それで今の状況は?」

 

『みんなが追いかけて来たから逃げて隠れたところ』

 

「そうか……ちょっと聞きたいコトがあるんだが、今大丈夫か?」

 

『えぇ……』

 

 

 返事が弱々しいな。よほど追い込まれているようだ。でも、情報収集は絵里たちからしか出来ない。もし不用意に穂乃果たちに連絡して、絵里たちに被害が加わったらマズイからな。

 

 

「部室の会話以外に気になったところはないか?」

 

『えぇ~と……あっ!そういえば、匂いがしたわ』

 

「匂い?」

 

『えぇ、あれはご飯の匂いかしら?』

 

「……他には?」

 

『後は……あぁ、穂乃果が自分の家で誰かを皆殺しにするって』

 

 

 俺は今まで絵里たちから得た情報を整理する。

 

 ご飯の匂い、穂乃果の家……それに、半殺しに皆殺し。逃げているのが絵里、凛、真姫……追っているのがその他、穂乃果たち。ん?このメンバーって……

 

 

 

!!!

 

 

 

「……そういやお前ら、どこに隠れてるんだ?」

 

『一階のトイレよ!』

 

「そうか、だったら早く窓から外へ出ろ」

 

『えっ!?でも……』

 

「いいから」

 

 

 

~※~

 

 

 

「で、出るの?」

 

「零がそうしろって」

 

「零くんがそう言うのなら、そうするにゃ」

 

『早く早く』

 

 ちなみに零との電話はまだ繋がっていた。絵里たちは個室のトイレから出て窓へ向かおうとする。

 

 

『多分だけど、そこに海未たちがいるんじゃないのか』

 

 

「「「!!!」」」

 

 

ガラガラガラガラ

 

「あ~!!絵里ちゃん発見!」

「真姫ちゃんに凛ちゃんも!」

「3人で一体何をしているのですか?」

 

 

 個室から出たのと同時に、穂乃果、ことり、海未の3人がトイレに入って来た。驚きで声も出せないまま、3人は急いでトイレの窓から脱出する。

 

 

「零、これはどういう……」

 

『そして窓から外に出ると、そこにも誰かいると思うぞ』

 

「へ?」

 

 

「ホントに出てきた……アンタたちよくそんなコト出来るわねぇ」

「絵里ちたちどうしたん?顔色悪いけど」

「凛ちゃん?真姫ちゃん?」

 

 

 外に出ると、そこにはにこ、希、花陽が待ち伏せていた。

 

 

 

「「ヒィ~~!!」」

 

 凛と真姫はお互いに抱き合いながら恐怖の声を上げている。

 

 

 

「零!!」

 

『もう諦めちまえよ』

 

「はぁ!?」

 

 

 

 あの零が白旗を上げた!?自分たちを見捨てた零に愕然としそうになる。

 

 

 

「大丈夫、絵里たちの勘違いだから」

 

 

 

 

「「「「零!?」」」」

「「「「「零くん!?」」」」」

 

 

 

 突如として希たちの後ろから声が聞こえ、零が姿を現した。あまりの突然さに絵里たちだけでなく、トイレから見ていた穂乃果たちまで声を上げる。

 

 

 

 

「とりあえず……みんな部室に集合だ!!」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「「「「「「「アハハハハハハハハハハハハ!!」」」」」」」

 

 

 部室に笑い声が響く。

 絵里、凛、真姫を除く俺たち7人は部室で絵里たちの話を聞き、大声で笑ってしまった。

 

 

「そりゃその会話だけ聞いてりゃあ、絵里たちが勘違いするのも無理ねぇな」

 

「穂乃果たち、ぼた餅を作ろうとしてただけなにねぇ」

 

 

 部室の机には、そのぼた餅の材料が並べられている。

 

 

「それで?半殺しと皆殺しって結局何なのよ?」

 

「ぼた餅は、餅米を半分潰して作るから"半殺し"。"皆殺し"は餅米を全部潰して、名のとおりただの餅にするコトだよ」

 

 

 絵里たちは、穂乃果たちのその部分の会話だけをピンポイントに聞いてしまったためこのような事態に陥ったのだ。

 

 

「今日は疲れたにゃ~~。そういえば、零くんはどうして分かったの?ココにいなかったのに」

 

「絵里がご飯の匂いがしたって言ったのが1つ、もう1つは『穂乃果の家でやる』って言った時かな。ホラ、穂乃果の家は和菓子屋だろ」

 

「なるほど~~」

 

「それに逃げているのが絵里と凛と真姫って聞いてピンと来たよ。和菓子屋の娘の穂乃果は言うまでもなく、お米好きな花陽なら知ってるだろうし、普段から料理しているにこや希もそう。穂乃果の幼馴染で、穂むらにもよく通っていることりや海未も知っていると思ったからな。知らないのは必然的にお前ら3人だけって訳だ」

 

 

 俺も初めは半信半疑で少し慌ててしまったけどな。コイツらに限ってそんなコトは起きないだろう。みんなが同じ人を好きになって争うというコト以外はな……

 

 

 

「よーーーし!!遅くなったけど、今から作業開始だよ!!」

 

「そういえば、どうしてぼた餅を?」

 

「お父さんが親戚からたくさん餅米をもらったから、どうせならみんなで作って食べたいなぁって思って」

 

 

「ハラショー……」

「今日はヒドイ目に遭ったにゃ~……」

「ぼた餅見るたびに思い出しそう……」

 

 

 

 

 

「まあ、それは……仕方ねぇか、アハハハ……」

 

 

 絵里たちは心に小さな傷を負わせられ、ぼた餅パーティは開催された。

 

 

 




今回はよくあるネタとして1本投下しました。


次回はμ'sの健康診断!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告