『ポンコツ主人は実は有能!?レギオン=アーク・オンライン裏戦記』   作:芥川まのん

5 / 21
第五話:奇跡なんて信じてないけれど

 

PC画面に、イベント開始の告知が表示された。

 

【期間限定ボスモンスター討伐イベント】

 

選択肢はふたつ──

【参加する】/【待機する】

 

リカは一瞬だけ迷った。前回のイベントでなすすべもなくやられた苦い記憶がよみがえる。だが、みるちんの熱量に背を押され、マウスをそっと【参加する】へと動かす。

 

「……うん……みるちん。大丈夫かな?」

 

すると、みるちんがニヤリと笑い、腕を組んで宣言した。

『へへ、燃えるね! 師匠との名コンビならなんだっていける☆彡』

 

だが、ダイの表情は不安に染まっていた。

(迷コンビの間違いだろ……このふたりじゃ、無謀すぎる)

 

その思いが通じたのか、リカの指もいったん【待機する】に揺れかけたが──

 

躊躇なくみるちんが【参加する】を実行した。

 

「心の準備ってものがー!!」

 

リカの抗議もむなしく、問答無用でイベントフィールドへの転送が開始され、画面が切り替わる。

 

***

 

イベント開始の合図とともに、空に真紅の稲妻が走った。いくつもの専用フィールドが用意され、期間限定ボスモンスター「オーガ」が降臨する──それが今回のイベント内容だ。

 

(よりによってオーガ!? なんでまた……!)

 

ダイは、己の不運を呪った。

 

オーガはレベル30推奨の高難度ボス。今のリカとみるちんのレベルは19。二人がかりでも到底勝てる相手ではない。

 

『わー、でっかーい! あたし、こういうの燃やしたい☆彡』

 

(ダメだ……テンションが間違った方向に高い!)

 

巨体のオーガが、轟音とともに突進してくる。その速度は見た目に反して驚異的で、即死級の踏みつけ攻撃《グラウンドインパクト》まで持っている。

 

本来なら、上級タンクを含めたフルパーティで挑むべき敵。それなのに、周囲には援軍もいない。

 

(……やるしかない、か)

 

ダイは覚悟を決め、グレートソードを構えた。

 

戦闘が始まると、リカは緊張して操作がほとんどできなくなる。今もキャラクターはほぼ硬直状態だった。

 

『師匠、援護いくよー☆彡』

 

そう叫んだみるちんが、《メテオ》の詠唱を開始する。

 

(だから! この距離でメテオは……!)

 

バシュゥゥゥウン!

 

火球が空を裂き、オーガの背中を焼く。が、案の定、ヘイトがみるちんに向く。

 

グォォオオオ!!

 

咆哮とともに、オーガが突進してきた。

 

『師匠ぉ!? タゲ取ってー!!☆』

 

ダイはみるちんの前に跳躍し、剣を振る。

 

《パリィ》発動──成功。

 

オーガの棍棒をギリギリで弾き、攻撃を無効化する。だが衝撃は大きく、ダイのHPがじわじわ削られていく。装備の耐久も限界寸前だ。

 

(くそっ……タイミングが完璧でも、確率発動じゃ限界がある……!)

 

再び突進──

《パリィ》──成功。

《パリィ》──成功。

《パリィ》──成功。

 

(……今の俺、なんか……いつもと違う?)

 

ラックだけでは説明できない。なにかが違う。けれど、今は考えている暇などなかった。

ダイは《庇護の盾》を発動。みるちんへのダメージを肩代わりする。

 

『師匠、やばいってば! 回復もアイテムも切れかけじゃん!★』

 

「いやぁぁ! 撃って!! 撃ちまくってー!!」リカはパニックを起こしている。

 

みるちんが最後のマジックポーションを飲み干し、渾身の詠唱を完了させる。

 

《メテオ》──発動。

 

巨大な火球が再び降り注ぎ、オーガの頭上に炸裂した。

だが、オーガも最後の力で棍棒を横薙ぎに振るう。

 

(パリィしても、衝撃だけで死ぬ──!)

 

覚悟を決めたその瞬間。

 

リカのマウスが、コップにガタンと当たった。

 

その誤操作で発動したのは──

《ジャンプ斬り》。

偶然にも、横薙ぎの攻撃を飛び越え、頭上からの一撃がクリティカルヒットとなる。

 

オーガのHPゲージがゼロに沈み──

空が晴れ渡った。

 

フィールドに勝利のファンファーレが鳴り響く。

 

***

 

「や、やった……」

『いえーい!! あたし、初オーガソロ討伐かもー! 師匠すごすぎwww』

 

 (ソロって単語の意味、辞書で引いてこい……)

 

呆れたように、しかしどこか満足げに、ダイはそっと剣をしまった。

 

*** 

 

その頃。

 

管理AI「シャル」は、イベントログを開いていた。

 

【ふふん、四連続でパリィ成功なんて……人間が偶然でやれる確率じゃないよ?】

 

猫耳型のUIがぴくりと動く。

興味を引かれたように、ダイの過去一週間分ほどのログを何度も再確認する。

驚くことに、リカが操作していない状況での行動が散見される

 

【これは、もしかして……。】

 

【もうちょっとしたら、“会いに”行くべきかしら……?】

 

期待と不安の入り混じった表情で、シャルは静かに呟いた。

──夜のフィールドに、星がまたたく。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。