優者が行くッ! 作:いちろー
「――――成程、冒険者」
そう呟いた少年の後頭部を見上げて、少女は頷く。
「そうですよ。私は、アークウィザードとしてそれはもう引く手数多の職なんですから」
「…………成程?」
「あ、信じていませんね!先程路地に居たのは、その……アレです!ちゃんと理由が有るんですから!!」
キャンキャンと咆える少女に、
お人好しを発揮して、ナルミは結局路地に倒れていた少女を拾ったのだ。
少女曰く、当てがあるからとりあえず冒険者ギルド迄自分を運んでほしい。という訳で、少女を背負って言われるがままに冒険者ギルドを目指している。
「それにしても、ナルミ。貴方も冒険者になるんですか?」
「うーん……どうしようか。僕自身、特別何かしらの武芸や技能を持ってる訳じゃないからね」
「その点は大丈夫だと思いますよ?冒険者になってレベルが上がれば、その分色んなスキルと体得できますから」
「へぇ?それは便利だね」
少女の説明を受けて、ナルミは頷く。
スキルの存在は、そのまま冒険者という職の門戸を大きく開く役割を果たしていた。これにより、元々荒事に関わる事の多い冒険者という職に対して戦闘技能を持たないような者でも参入できるようになるのだから。
勿論、便利ではあっても万能ではない。スキルにはレベルが存在しており、使い込めば使い込むほどに武器などが馴染むように体に馴染んでいく特性があるのだから。習得したてと、ある程度スキルを使い場数を踏んだものではその効力に隔たりがある。
少女からの授業を受けながら、ナルミは石畳の道を行く。
程なくして、大きな石造りの建物の前にまでやってきた。
「ここかい?」
「そうですよ」
「ふーん?」
少女を落とさないように背負い直してから、ナルミは木製の扉へと手を伸ばした。
明るい外から、光量の落ちる室内に入ったせいか一瞬眩む視界。視界が落ち着くのを待って、改めて見渡せば少なくない人の数を確認できる。
ナルミが入ってきた事に気付いたのか、一人の女性が近づいてくる。
「ようこそ!冒険者ギルドへ!お食事宴会は、あちらの酒場を。手続きは、あちらのカウンターへとお進みください!」
「あ、はい。えっと…………」
「ナルミ、ナルミ。カウンターへと向かってください」
「え?ああ、うん。了解」
女性へと小さく頭を下げてから、ナルミはカウンターへと向かう。
横並びの幾つかのカウンター。職員が在中しているにも拘らず、何故だか男性が多く並んでいるカウンターがあった。
そちらへと一瞬だけ目を向けるナルミ。そして首を傾げた。
「……手続きって、カウンター毎に違うのかな」
「そんな事ありませんよ。ただ、あのカウンターを担当してるギルド職員が人気なだけです」
「へぇー……そんなに仕事ができる人なんだ」
「違います。いえ、仕事ができる人だとは思いますけど…………まあ、他のカウンターで良いじゃないですか」
「まあ、そうだね」
少女に言われ、ナルミは空いているカウンターへと足を向けた。
その途中で人気のカウンターを見て、そしてその理由を知る。
美人だった。美女だった。艶のある金髪に、愛嬌のある顔立ち。オマケに胸元の緩いギルド職員の制服から覗く豊かな双丘。
男の夢をこれでもかと詰め込んだ女性は、成程人気にもなるだろう。
しかし、ナルミは彼女を一瞥するに留めてアッサリと別のカウンターへと並んでしまった。
「すみません、今大丈夫ですか?」
「!はい!ほ、本日はどの様なご用件でしょうか!?」
完全に油断していたのか、小柄なギルド職員の女性は大きく肩を跳ねさせる。
オマケにやってきたのが黒髪の柔和な表情の少年と、その少年に背負われた特徴的な黒髪と紅い瞳の少女となればその驚きも一入だ。
とはいえ、用件を聞かれてナルミは困ってしまった。
そもそも彼は、背負った少女に言われるがままにここまでやってきたのだ。彼自身は、特別目的意識など無くこの場に立っている。
そんな少年の困りごとに、しかし原因の少女は気にせず動く。
「彼の冒険者登録をお願いします」
「!?」
「冒険者登録ですね。で、でしたら1000エリスいただきます」
「はい、ここ「ちょ、ちょっと待ってください!」むぐぅ!」
背負っていた少女を小脇に抱える様にして動かして、その口を塞いだナルミは一言断りを入れてからカウンターを離れた。
そして、顔を突き合わせるようにして少女に詰めよる。
「どういうつもりだい、
「1000エリス程度じゃ、一食食べてほぼ終わっちゃいますからね。となれば、今後も食べる事が出来る可能性の方に出資した方が合理的じゃないですか」
「それで、僕を冒険者に?」
「……騙し討ちみたいになった事は悪いと思っていますよ?で、ですが、その……私も余裕がなくて」
ションボリと項垂れる少女、めぐみんに対してナルミは頭を掻いた。
少し空中に視線を彷徨わせて、ため息を一つ。
「はぁ……まあ、うん。僕としても手に職を付けたいとは思ってたから、渡りに舟ではあるんだよね」
「!では――――」
「成ろうか、冒険者に。それで、君と組んだらいいのかな?」
「そうです、その通りです!そして、私と共に爆裂道を歩もうではありませんか!」
「ばく……?とりあえず、手続きしようか」
首を傾げるナルミだが、指針は決まった。
再び、二人はカウンターへ。
「すみません、お待たせしました」
「い、いえいえ!えっと、冒険者登録で宜しいでしょうか?」
「そうです。はい、1000エリス」
カウンターへと置かれた登録料を、女性職員は受け取る。
そして、一枚の書類とペンを差し出した。
「では、こちらにお名前と身体的特徴。その他、身長、体重、年齢などをご記入ください」
「分かりました」
ペンを受け取り、ナルミは書類へと視線を落とすとペン先を紙面に走らせた。
言われた通りに書類の空白を埋めていき、程なくしてペンを置く。
「出来ましたよ」
「はい……結構です。では、こちらのカードに触れてください」
「カード?」
「はい。冒険者カードと呼ばれるものです。こちらに触れた方の情報が記録され、モンスターなどを倒して経験値を獲得するとこちらの獲得した経験値の数字が記載されます。そして、その数値が一定の値を超えると急激な能力値の上昇が起きるんです。コレをレベルアップと呼びます」
「成程…………」(ゲームみたいだ)
勧められるままに、ナルミはカードへと触れた。
文字が浮かび上がり、初期ステータスが刻まれ女性職員もこれを覗き込む。
「チョウヤナルミさんですね。全体的なステータスは高めです。あ、でも幸運の値だけ谷に成る様に低いですね。ですが、冒険者にとって幸運の値はそれ程必要ないので問題はないでしょう。近接職ならどの職業でも活躍できると思いますよ」
「職業ですか?」
「あ、そうでしたね。職業というのは、いわば冒険者稼業における専門適性の様なものです。職業に応じて獲得できるスキルにも差がありますからね」
「成程。お勧めはありますか?」
「ナルミナルミ!ウィザードにしましょう!そして、爆裂道を究めるんです!」
小脇に抱えられためぐみんがパタパタと暴れる。
「さっきも思ったけど、その爆裂道って何さ」
「爆裂道というのは、人類最高峰の攻撃魔法である爆裂魔法を極め邁進するための道です」
「爆裂魔法?…………そんなに凄いものなら、直ぐに扱えるとは思えないけど?」
めぐみんに問いつつ、チラリとナルミは女性職員へと視線を送った。相手も気付いたのか、一つ頷く。
「スキルに関しては、スキル拾得者に習う事で習得する事は可能ですよ。勿論、適性や職業によって得手不得手はありますが。何より、教えてもらったかといって最初から使いこなせる訳ではありません」
「ですよね。だそうだよ、めぐみんさん」
「勿論、分かっていますとも。だからこそ、先人としてこの私が導こうではありませんか。素晴らしき、爆裂ライフへと!」
「……近接職のお勧めお願いします」
「あ、えっと……そうですね、戦士や騎士、剣士など様々ありますよ?」
「無視しないでください~~~~~!!」
じたばた暴れるめぐみんであるが、如何せん空腹と元々小柄な体格も相まってナルミがある程度力を入れて押さえ込めば動けなくなる。
暴れるちびっこを抑えつつ、ナルミはカードへと視線を落とす。そして、その内一つが気になった。
「“ライダー”?」
「ライダー?……あ、本当ですね。時々いらっしゃるんですよ。既存の職業に縛られない職業を発現する方が。ナルミさんもその一人なのかと」
「成程……それじゃあ、ライダーで」
「かしこまりました。では、情報を登録しますね。職業に関しては、ステータス次第で後々変更も可能ですから、その際には受付カウンターまでどうぞ」
「ありがとうございます」
冒険者カードを受け取るナルミ。
かくして、彼の異世界生活は幕を開けるのだった。