虚無の一太刀、運命を斬る   作:多分豆腐

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また電波受信したので供養


第1話

 

 

気が付けばその女性は見知らぬ土地に立っており、前が見えない程の砂嵐の中、身に覚えのない大きな荷物を背負ってそこに立っていた。

 

「はぁ...またか...」

 

自分のこの症状にはいい加減慣れたが、こんな酷い環境に放り出されてしまえば文句のひとつでも言いたくなるものだ、とその女性はため息をついた。

その女性は長くふわりとした紫色の長髪で、身長が高く、スラッとした体型だ。虚ろな目に落ち着いた雰囲気を纏っている。

その腰には長い刀を携えていた。

名前は黄泉。「巡海レンジャー」を自称する旅人。いつも1人で銀河を旅しているのだが...

 

「ここは...一体何処なんだ...?」

 

全く見覚えのない砂漠に1人ポツンと立っていた。幸いいつの間にか背負っていた荷物の中に食料や水、コンパス(何処に何があるか分からないので使えないが)等が入っていたためすぐに命を落とすことは無いだろう。

そしてこの記憶が曖昧な症状に関しては腰に携えているこの長刀を少しでも抜けば鮮明に蘇る。人にはあまり見られたくないのだが、幸運なことに周りには誰もいない。いつも通り少しだけ引き抜こうとする...が、全く引き抜けないのである。

 

「何故だ...?ん?これは...」

 

自分の刀が引き抜けず困惑していると、柄の部分に紙がついており

『少しの間だけどこの刀は引き抜けないよ!!!』

と面白おかしく書かれていた。

 

この黄泉と呼ばれている女性はかなりの実力者であり、説明すると長くなるので省くがそんじょそこらの人間に抑え込まれるような者ではない。

そして面白おかしく書かれたこのメモを見て、黄泉は犯人...いや、犯神と呼ぶべき存在を悟った。

 

「アッハか...となると面倒だな。」

 

アッハ。全宇宙の最上位存在である星神の1柱。「愉悦」の運命を司る。

高い分析力と観察眼を有するが、その行動には愉快犯的な思想が強く、損得や善悪の区別は無く「自身が楽しむ」ために小さな虫から自身と同じ星神にまで干渉する、非常に混沌とした存在だ。

何故こんなことをするのかという疑問は考えるだけで無駄なものとなった。

其の気まぐれにより見知らぬ土地に放り出されてしまったのだ。

黄泉はまたため息をつくと、宛もなく静かに歩き始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

進めど進めど目に映るのは砂、砂、砂。人の気配は無く、砂嵐のせいで遠くの景色も全く見えない。水や食料があるおかげですぐに死にはしないだろうがこのままだといずれ...。

そんな考えを振り払いひたすらに前に進む。前も後ろも分からないまま、目的も何も無いままに進んでいく。

砂嵐が止むまで待ってから歩き始めるという考えもあったが、もしかしたらこの星が常に砂嵐で覆われており、ただひたすらに時間を潰すだけの可能性があったため無茶を承知で黄泉は進み続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれだけ歩いただろうか。未だ長刀が引き抜ける気配もなく、ずっと同じ景色に精神を蝕まれ始めた頃、漸く人の気配を感じた。

 

気配がする方へと歩みを進める。もしかしたら賊か何かかもしれない。唯一の武器である長刀が引き抜けない今、普通に考えれば危ないかもしれないが黄泉に取っては全く問題ない。

黄泉はそこらの相手には長刀を鞘から抜かずに圧倒できる程の実力を持っていた。もし襲われても返り討ちにし、相手のアジトだったり近くの街だったりに案内してもらうつもりだった。

 

 

気配が近くなってきたので黄泉は気を引き締め、何時でも長刀を振れるよう構えた。そして人影が見えた。

その人影は1人で、おぼつかない足取りて歩いていた。

もしや自分と同じ遭難者か...?そう思った黄泉はその人影に近付く。

その人物は高身長で胸が大きく、髪は膝ほどまであるロングヘアーで緑がかった薄い水色、恐らく学生なのであろう服装はチェックのスカートに入れた白シャツだった。

そして頭上には中央に太陽を象ったかのような形のヘイローが浮かんでいた。

 

(天環族...?いや...似ているが違うな...。それより、かなりの脱水症状だ。長い時間水分をとれていないようだ...。)

 

「大丈夫か?声は聞こえているか?」

 

黄泉は目の前の人物にそう呼びかける。恐らく自分と同じ遭難者なのだろうが、何も知らない自分よりかはここについて知っているだろうと判断し、目の前で今にも倒れそうな彼女を助けることにした。

 

「み...水...を...」

 

焦点の合ってない虚ろな目をしながら彼女は掠れた声でそう言うと膝から崩れてしまった。

倒れないようにと黄泉は駆け寄り、体を支える。そして彼女をゆっくりと寝かしつけると背負っていた荷物から水を取り出し彼女にゆっくりと飲ませる。

 

「っ.....けほっ、ごほ、ごほっ......」

 

乾ききった喉が、久しぶりの水分を得た事で驚き、咳き込む。が彼女は一滴も零すまいとゆっくりとした動きで喉を鳴らす。

黄泉も水の量を調整し、彼女の負担にならないよう、こまめに止めては様子を見た。

 

「大丈夫だ。水ならまだある。......よく、頑張ったな。」

 

彼女を見る限りそれといった荷物は殆どなく、大きな鞄のようなものと、ホルスターについてある拳銃のようなものしか持っていなかった。とても砂嵐の砂漠で生き残れるような装備ではなかったのだ。それでも彼女は黄泉と出会うまでひたすらに歩き続けたのであろう。

その諦めない心は賞賛されるべきだと黄泉は思った。

 

虚ろな表情をしていた彼女の目に光が戻る。

その目から涙が溢れる。止めようと彼女は目を擦るが、もう助からないと思った状態から助かった安堵からか、その涙は止まらなかった。

 

「ぐすっ...わた、私...もうダメかと......このままホシノちゃ、んにも謝れないまま...死んじゃうかとお、思って...」

 

彼女は涙ながらにそう語った。

黄泉は何も言わずに彼女を撫でていると、突然大きな揺れが彼女達を襲った。

何かが...大きな何かが地面から現れたのだ。

あまりにも巨大で真っ白な金属で出来た蛇のようなものだった。頭には彼女のようにヘイローが浮かんでいた。

 

「え!?嘘...こんな時にどうして!?」

 

その白蛇は黄泉が抱えている彼女を狙っているようだった。

 

「私を置いて逃げて!!私を抱えて逃げるのは無理だろうけど...貴方1人だけなら逃げれると思うから...」

 

彼女はゆらゆらと立ち上がり肩にかけていた鞄のようなものを展開し、盾を構える。

泣きそうな目で震えながら、しかし1歩も引かない彼女を遮るように黄泉は前に立つ。

 

「ありがとう。でも、私に任せて欲しい」

 

「そんな!?無茶だよっ!あなた.....ヘイローもないのに!?」

 

彼女は少し掠れた声で必死に叫ぶが問題はない。他人を思いやる優しい彼女に敬意を評して、いつの間にか封印が解けた長刀を頭上に掲げ、ゆっくりと引き抜く。黄泉の瞳から赤い涙が流れ、世界が、モノクロに染まっていく。

 

 

 

涙雨 降りて溢るる渡り川

 

 

 

黄泉は長刀を引き抜きながら今ここにいる経緯を鮮明に思い出す。

 

(そうか......それで私はここに.....)

 

 

 

黄泉路をゆけず 常世帰らむ

 

 

 

長刀を抜ききった彼女は下から上へと振り上げる。

ただそれだけで、目の前の存在を断ち切った。

白蛇を両断するだけでは留まらず、彼女の斬撃は砂嵐を、空をも断ち切ったのだった。

 

「あ...えぇ...?」

 

目の前で起きた現象が信じれず、呆けた声を出してしまう彼女。

そして黄泉は長刀を鞘へと納めたのだった。




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