明日井君は誰かと一緒に帰りたい。 作:Raitoning storm
『…ユウタ。6時です。就寝前に予約していたアラームが鳴っていますよ。』
「…」
気象台。部員が一人しかいないにもかかわらず、大きな大きな設備が整っているこの場所で、薄い布団を被って眠っていた男子生徒がいる。
布団の中でモソモソと動き、手だけを出して携帯のアラームを切った。
「…おはよ。ミゾレ」
『はい。おはようございます。とても良い朝ですね。』
「…それは、人によると思う。」
『そうでしょうか。ですがこの時期にしては雲量が非常に少なく、朝霧も薄いため視程も長く…』
「…うん。」
『また晴れが続いているため朝の気温も例年より高いです。それによって朝の目覚めが…』
「…ねぇ。」
『はいなんでしょう。』
「…わざとやってる?」
『さあ?一体なんのことでしょう。私は優秀なAIですから、わからない質問にはすぐわからないと答えますが…』
「…はぁ。やっぱりなんでもない。」
そういって奥にある男子更衣室へ向かう。寝巻きから制服へと着替えるためだ。
「それより、昨晩は何かあった?気圧の変化とか…」
『いえ。降水も猛風もありませんでした。』
「…そっか。最近は異常気象も多いから心配だったけど…予報が外れなくてよかった。」
『この前のゲリラ豪雨は大変でしたね。まさかあんな量の雨が降るとは』
「…予報が外れることもあるよ。それは僕が一番よくわかってる。」
『……』
制服に着替え終わったのを確認したら、ミレニアム校舎に戻るための準備を進める。
「…まあ、外れたからって悪いことばっかりじゃないし。」
『あの日、才羽ミドリさんと会えたのは幸運でしたね。私も近くでずっと見ていましたが』
「…うん。ゲームなんて、久しぶりにやったし…」
『楽しかったですか?』
「…うん。」
『つまり、私と一緒にいるときは楽しくないということですか?』
「…別の楽しさがあっただけ。」
『冗談です』
「……」
『ほら、うっかりしていると7時になりますよ。今日はウタハさんに会うんですよね。応援しています。』
「…うん。行ってきます。気象台はよろしくね」
『はい。ミゾレにお任せを』
「…失礼、します。」
重いエンジニア部の扉を開けて、中にいる人に声をかける。
「…あ。部長。あっち。」
「…!ごめん。ちょっと外すね。」
隣にいる人に声をかけて、ウタハ先輩はこちらに来る。
「やあ。よく来たね…一ヶ月ぶりかい?」
エンジニア部部長、白石ウタハさんだ。
「…すいません。お取り込み中でしたか?」
「大丈夫。ちょうどひと段落したときだったし。」
「…ならよかったです。」
「立ち話もなんだし、おいで。」
そう言われて、2人で端っこの方にかける。周りでは相変わらず、エンジニア部の人たちが部活を続けている。
「…急にきて、すみません。」
「気にしないよ。どうだい?調子は」
「…特に、変わりません。最近はずっと気象台にいますし…」
「…そっか。それで?今日は何か用があってきたのかい?」
「最近、銃の調子が悪くなってきたので、見てほしいんですけど…」
そう言ってよそよそと銃を下ろす。
「わかった。でも、ちょっと時間がかかっちゃうかもね…どこか見てくる?今日なら…チーちゃんがヴェリタスにいるよ?」
「…じゃあ、色々見てきます…」
「うん。ゆっくりしてきな。」
「…あっ。」
そうして廊下を彷徨いていると、
「あっ、ユウタくん!」
ミドリに会った。
「…久しぶり。」
「うん。久しぶり!元気だった?」
「…まあ、うん。」
「よかった。今日はミレニアムにいるの?」
「うん…ウタハ先輩に、銃のメンテナンスしてもらってるから…」
「そうだったんだ。なんかすごそうだね。」
「うん。ウタハ先輩の、お手製だから…」
そう言って、ユウタは少しだけ笑みを浮かべる。
「…ふふっ」
「…?」
「そうだ!今日もゲーム開発部来る?今日はお姉ちゃんたちがいるけど…」
「…行きたいけど、先にチヒロさんに会おうとおもってて…」
「…そっか。まあ、いつも部室にいるから、来たくなったら来て!またゲームしよ!」
「…うん。」
そう言って、ミドリは走り去った。
「…コンコンコン」
「…どうぞ。」
「…失礼します」
ゆっくりとドアを開ける。見たところ、今日はチヒロさんしかいないらしい。
「…ユウタ。来てたんだ。」
「…はい。ご無沙汰しています。」
「相変わらず固っ苦しいね。もっと砕けた言い方にしてもいいのに。」
「…ごめんなさい。でもまだ…」
「…ううん。こっちこそ、急に変なこと言ってごめんね。とりあえず適当に座ってよ。」
「…はい。」
そう言ってチヒロさんは近くの椅子を引く。誰の椅子は定かではないが。
「どう?最近は。変わったこととかない?」
「特には…そんなに…」
「…そっか。まあ、何もないのが一番だよね。」
「…あ、でも…」
「?」
「…この前、才羽ミドリさんと一緒に帰りました。」
「…!ああ、ゲーム開発部の。たのしかった?」
「…はい。」
「…ならよかった。じゃあ、次は私だね。昨日はハレが…」
「…今日は、ありがとうございました。」
「ううん。…元気そうで、安心したし。」
「…はい。」
「…来たくなったら、いつでも来な。大体いるから。」
「…はい。多分、また来ます。」
「…そっか。」
「…失礼しました。」
「うん。気をつけてね。」
自分で扉を閉める。会うのは久しぶりだったが、色んな話ができたのは楽しかった。
「…失礼します…」
「お帰り。お話は楽しかったかい?」
「はい…お待たせしてしまいましたか…?」
「ううん。ちょうど終わったところさ。」
そう言って銃をもらう。
「大体元通りだけど…経年劣化かな。銃全体が劣化してきてる。もしかしたら、いずれ…」
「…わかりました。でも、もう少しだけ使おうと思います。」
「…そうか。まあ、またガタついてきたらまた言ってね。」
「はい。今日は、ありがとうございました。」
「うん。またね。」
そう言ってしばらく廊下を歩いていると、遠くに一緒に歩く三人組が見える。
(…ゲーム開発部の人たちか。)
なにやら2人が言い争っているようだ。その2人を止めようと1人がオドオドしている。
(…楽しそうで、いいな。)
誰に聞かせるわけでもなく、そう思った。