朝起きたらBW2の主人公になってました(全年齢版)   作:とも667

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 VSフウロ。


第17話 ぶっとぶギミック、ぶっとびバトル

ユウリのことで、冷や汗をダラダラ流していたコウキは、ジムに入って深呼吸する。せめて、バトルの時は落ち着いてやるためだ。

 

「……よし、少しは落ち着いた」

 

 コウキがそう言った、次の瞬間。コウキの目の前から、回転しながら男が突っ込んできた。コウキはそれに激突して、せっかく吸った空気を吐き出してしまう。

 

 ──ドゴォォン!!

 

「ごぶっはぁ!?」

 

「いやぁ、すいません!! このジムのギミックの、風でぶっ飛んできちゃいました!! お怪我は無いですか?」

 

「はぁ、はぁ……はい、大丈夫です。お構いなく……」

 

 コウキは起き上がって、男からこのジムのギミックを聞く。このジムが風でぶっ飛んでいくという、他にはないぶっ飛んだギミックのジムであることを。

 

「……というわけで、ここは風でぶっ飛びながら進むジムなんすよ!! どうです、ぶっ飛んでるでしょ?」

 

「なるほど、ありがとうございます。行ってきますね!!」

 

「あっ、言い忘れてたっす!! ぶっ飛ばされる時は……」

 

 コウキはそれを聞かないまま、風の前に立つ。そして……凄まじい風が吹き始めた。コウキは風を受けて……

 

 ──ビュオォォォォ!!

 

「のわぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「滅茶苦茶回るから注意してくださいっすー!!」

 

「先に言えやぁぁぁぁ!!!」

 

 まるでコマのように回転しながら、コウキはフキヨセジム内を周っていった。くるくる回りながらジムを周ったコウキは、やっとフウロの前に着いた時には……

 

「よく来たね!! そろそろ来る頃だと思っ……ってあれ?」

 

「ちょっと待って、目が回って……ぐはっ」

 

 ──ドサッ。 

 

「えっ、だ、大丈夫!? やっぱりギミック変えた方がいいかな……」

 

 コウキは、しばらくその場で目を回したあと……立ち上がってフウロにお礼を言う。

 

「すみません、介抱してもらっちゃって」

 

「ううん、こっちこそごめんなさい。大変だったでしょ?」

 

「まぁ、結構ね……すぅー、はぁー」

 

 コウキは体を滅茶苦茶回されて、まだ少し気持ち悪かった。もう一度深呼吸をして、吐き気を体から追い出す。

 

「落ち着いた?」

 

「はい、お陰様で……よし、始めましょうか」

 

「ジムに挑戦するんだね?」

 

 コウキはそう言われて、ボールを構えた。

 

「よろしくお願いします」

 

「あなたはチャンピオン三人に勝った、規格外な相手だ。だから……アタシも、リーグに決められたポケモンじゃなくて、私が鍛えたポケモンを使うよ」

 

「そりゃあ嬉しいですね。認めてもらえてるってことでしょ?」

 

 コウキとフウロが、お互いに笑みを浮かべる。

 

「噂通り、目付きが変わったね。そういうの嫌いじゃないよ!! このバトル、楽しくなりそう!!」

 

「僕もそう思いますよ!!」

 

「行け、ムクホーク!!」

 

「ムクホークか……頼むぜ、シンボラー!!」

 

 お互いにポケモンを繰り出して、ムクホークとシンボラーが雄叫びを上げた。

 

「ヒュイィィィーッ!!」

 

「ボラァァァァッ!!」

 

「特殊型だから、特性『いかく』の効果はないか……でも、シンボラーは低耐久のはず!! 行け、ムクホーク!! 『ブレイブバード』!!」

 

 コウキはそれを見て、シンボラーに指示を出す。

 

「ムックゥゥゥッ!!」

 

「シンボラー!! 『サイコキネシス』!!」

 

「シィィィィッ!!」

 

「無駄だ、そんな程度じゃムクホークは止められないよ!!」

 

 フウロの言葉通り、ムクホークはサイコキネシスを受けても構わず向かってきている。激突すれば、タダでは済まないだろう。しかし、コウキもそれは理解している。

 

「シンボラー今だ、自分に下方向へ『サイコキネシス』をかけろ!!」

 

「なにっ!?」

 

「ボラァァァッ!!」

 

 自身にサイコキネシスをかけたシンボラーは、下方向に飛んでいく。そして、突然シンボラーが落下していったので……ブレイブバードは空振りに終わってしまう。

 

「やるね……!! でも、ムクホークも無傷だ!! ムクホーク、もう一回『ブレイブバード』!!」

 

「ヒュイィィィィ!!」

 

「今だシンボラー、『サイコシフト』!!」

 

 シンボラーの目が一瞬輝く。しかし、一見すると何も起きていない様子に、フウロは空振りだと勘違いする。

 

「空振りみたいだね!! そのまま貫け、ムクホーク!!」

 

 ──ズドォォォン!!

 

「ボラッ……!!」

 

「……隙あり!! シンボラー、ムクホークに『エアスラッシュ』だ!!!」

 

 ブレイブバードを受けたシンボラーは、元気なままだった。フウロはそれに驚く暇もなく、ムクホークがエアスラッシュを受けるのを見る。

 

「シィィィィッ!!」

 

 ──ビュババババッ!!!

 

「ムックゥゥッ!?」

 

「ッ、どうなってるの!? 確かに命中したはず!? 攻撃に全振りしてるのに……」

 

 コウキはその様子を見て、種明かしをする。

 

「ムクホークをよく見てくださいよ、動きが鈍いでしょ? その原因は……」

 

「……!? 羽に火傷が!? 一体、いつ炎技を……」

 

「『サイコシフト』。その効果は、『自分の状態異常を相手に移す』効果。そして、シンボラーの持ち物は『かえんだま』……」

 

 それを聞いて、フウロが気づく。サイコシフトが空振りではなかったことに。

 

「そうか、最初からそれが狙いで……発動するまでの時間稼ぎだったのか!!」

 

「そういうことです!! そこだ、シンボラー!! 『サイコキネシス』!!!」

 

「シィィィィッ!!!」

 

 エアスラッシュで怯んだところにサイコキネシスを受けては、流石に抵抗できない。体を振り回されて、あちこちに叩きつけられる。

 

 ──ドゴゴゴォォン!!

 

「ムクゥゥゥ……!!」

 

「今だ、地面に落とせ!!」

 

「ボォラァァァァ!!!」

 

 ──ズドォォォォン!!

 

 サイコキネシスで地に堕ちたムクホーク。これは流石に耐えきれずに、戦闘不能になっている。

 

「よし、まずは俺がリードだな!!」

 

「……やるね。流石は、チャンピオンに勝っただけあるよ」

 

「それ程でもありませんよ」

 

 コウキは謙遜を口にする。しかし、フウロの目から闘志は消えていない。

 

「だけど、まだまだここからだ!! 行け、エアームド!!」

 

「キュヒィィィッ!!」

 

「エアームドか……シンボラー、戻れ!!」

 

 シンボラーを戻して、コウキは次のポケモンを繰り出す。

 

「頼むぜ、エンブオー!!」

 

「ブァァァァァッ!!!」

 

「エンブオーか……出てくるとは思ってたけど」

 

 エンブオーとエアームド。お互いに抜群を取り合える盤面だ。お互いに思考を巡らせる。

 

(相手の次の行動がなにかだけど……どの行動でも『がんじょう』で一回は耐えられる。でも、一回耐えて飛行技を撃っても、仕留め切れるとは思えない……それなら!!)

 

(エアームドの特性は恐らく『がんじょう』だ。それなら、ここで選択すべき技は……)

 

「エアームド、『つばめがえし』!!」

 

「エンブオー、『ふいうち』だ!!」

 

 お互いの命令が同時に響き、エアームドの翼とエンブオーの拳が、同時に相手にぶつかり……クロスカウンターの形になる。

 

 ──ズガァァァッ!!

 

 ──ジュバァァッ!!

 

「ムゥゥドォ……!!」

 

「ブォォゥッ……!!」

 

「この機を逃すな!! エンブオー、『フレアドライブ』だ!!」

 

 コウキは確実に仕留めるために、エンブオーが使える中で最強の技を指示する。エンブオーが雄叫びを上げて、凄まじい炎熱を身に纏う。

 

「ブォォォアァァァァ!!!」

 

「エアームド、離脱して!!」

 

「逃がすな、突っ込め!!!」

 

 エンブオーが離脱しようとするエアームドに、拳を向けて突撃する。どう足掻いても直撃コースだ。

 

「……今だ!! 戻れ、エアームド!!」

 

「なんだって!?」

 

「行け、ぺリッパー!!」

 

 そこで出てきたのは、ぺリッパーだった。コウキはそれを見て、まずいことを一瞬で察する。

 

「ペッパァー!!」

 

 ──ザァァァァ……

 

「特性『あめふらし』だよ!!」

 

「ッ、まずい……!!」

 

 ──ドゴォォォォン!!!

 

 フレアドライブは命中したが、ぺリッパーの体力はほぼ削れていない。それどころか、隙を晒した上に、反動といのちのたまによるダメージもあり、ピンチなのはエンブオーの方だ。一気に情勢が逆転してしまった。

 

「まずい、避け……」

 

「ぺリッパー、『ぼうふう』!!!」

 

「ペェリィィィィ!!!」

 

「ブォォォォォ!?」

 

 ──ゴァァァァァッ!!!

 

 凄まじい暴風がエンブオーに襲いかかる。この技は雨が降っていると必中になるので、避ける術はない。為す術なく暴風に巻き込まれて、風圧と風の刃のミキサーの中で苦しむエンブオー。

 

「ブゥゥ、オォォッ……!!!」

 

 ──ドゴォォォン!!

 

「エンブオー、大丈夫か!?」

 

「ブゥ、オッ……」

 

「耐えたか。やるね、よく鍛えてる証拠だ」

 

 しかし、エンブオーはボロボロだ。あと一発、反動技を撃てば……終わってしまうだろう。

 

「そりゃどうも、光栄ですよ……」

 

「だけど、これで終わりだよ!! ぺリッパー、『ぼうふう』!!」

 

「ペッパァァァァ!!!」

 

 またもや暴風がエンブオーに迫り来る。それを見て、コウキは……

 

「エンブオー、暴風の中に突っ込んで『ワイルドボルト』だ!!!」

 

「何のつもり!?」

 

「焦るな、これも戦法のうちだよ!!!」

 

 エンブオーは言われた通りに、電気を纏って暴風の中に突っ込む。これはコウキにとっても賭けだ。

 

「エンブオー!! 風の勢いで上に登れ!!!」

 

「ウォォォォォォォ!!!」

 

「上? 上に何が……」

 

 コウキはそこで、不敵な笑みを浮かべて言う。

 

「雨を降らせるってことは、雨雲を用意するってことだ。基本、雲がないのに雨は降らないからな……!!」

 

「それがどうしたっていうの?」

 

「そして、雨雲は電気を溜め込む……!! 今のエンブオーは言わば、大きな電気の塊だ!!! ここまで言えば、わかるんじゃないか!?」

 

「……まさかっ!?」

 

 エンブオーは、雲の中で電気を放出し続けている。帯電した雨雲は、電気を溜め込みきれなくなり……それを地面に向かって解放する。次の瞬間、激しい閃光と地鳴りのような轟音が、空間を支配した。

 

 ──ズゴォォォォォン!!!

 

 ──バヂュヂヂィィッ!!!

 

「ペリィィィ……」

 

「まさか、でんきタイプポケモンでもないのに、雷を落とすなんて……」

 

「エンブゥゥ……」

 

「ありがとうエンブオー、無理させてすまない……ゆっくり休んでくれ」

 

 二人がポケモンをボールに戻す。お互いに仕切り直しだ。コウキは何を出してくるか、大体読めている。しかし、それはあちらも同じことだ。

 

(私の知ってる彼の手持ちは、エンブオーとハハコモリ、ドリュウズと今回のシンボラー……あとの二匹はわからないけど……私のやることは変わらない!!)

 

「お願い、スワンナ!!」

 

「ヒュヒュエェェー!!」

 

 コウキはそれを見て、繰り出すポケモンを決めた。ボールを出して、投げる。

 

「……頼んだぜ、ドリュウズ!!」

 

「ドリュウゥゥッ!!」

 

「やはりドリュウズか……!!」

 

 これはフウロの予想通り。他のポケモンに電気タイプがいるのなら、エンブオーで突っ張る理由がないからである。そこで迷わずフウロは指示を出した。

 

「スワンナ、『ねっとう』だ!!」

 

「スワァァァァン!!」

 

「今だ、『わるだくみ』!!」

 

 コウキの指示に、フウロが驚愕の声を上げる。それもそのはず、『わるだくみ』は特攻を二段階上げる技。物理アタッカーのドリュウズに覚えさせる理由もないし、そもそも覚えない。

 

「嘘!? そんな技、ドリュウズは覚えてなかったはず……それに、覚えさせる理由がない!! どういうことなの!?」

 

 ──ドジュウゥゥゥッ!!!

 

「ドリュッ……フッ!!」

 

「姿が変わって……いや、これはまさか!!」

 

 フウロはそこで、それの正体に気づく。しかし気づいた時には、もう手遅れだ。火傷状態の攻撃半減は痛くない。何故なら……ゾロアークは、特殊アタッカーだから。

 

「ゾロアーク!! 『ナイトバースト』!!!」

 

「きゅあぁぁぁーっ!!!」

 

「しまっ……!!」

 

 ──ドゴォォォォン!!!

 

 完全にゾロアークに化かされたフウロとスワンナは、対応することができなかった。飛んできた黒い波動が直撃して、スワンナが吹っ飛ぶ。

 

「スワァァァ……!!」

 

「スワンナ!! くっ……!!」

 

「『わるだくみ』を積んだおかげで、スワンナを落とせましたね。さぁ、コレであと一体ですよ!!」

 

 フウロはそれを聞いて、最後のボールを取り出し……雨に濡れた髪をかき上げて、言った。

 

「そうだね……でも!! ネバーギブアップ、です!! 戦うポケモンに失礼だもの!! お願い、エアームド!!」

 

「キュヒィィィィッ!!!」

 

「ゾロアーク、お疲れ様。戻ってくれ」

 

 まだ雨は続いている。それを見て、コウキはぺリッパーの持ち物を察した。

 

「ぺリッパーの持ち物は『しめったいわ』ですか……」

 

「ご名答。よくわかったね?」

 

「雨が長すぎるような気がしましてね……」

 

 雨が降っていては、『かえんほうしゃ』でのダメージは期待できない。かといって他の技は半減されてしまう。だから……コウキも天候を利用することにした。

 

「頼んだぜ、マリルリ!!」

 

「マッリィィィ!!」

 

「雨天候を利用するつもりか……だけど、甘いよ!! エアームド、『はがねのつばさ』!!」

 

 一定確率で防御が上がる、はがねタイプの技。コウキはそれを見て、取る行動を決める。

 

「マリルリ、エアームドの攻撃をよく見るんだ!!」

 

「ムゥゥゥドッ!!」

 

 ──ギャギィンッ!!

 

「マリッ……リィッ!!」

 

 そしてマリルリは、エアームドを掴もうとしたが……掴もうとした時には、エアームドはそこにはいない。

 

「これは……!!」

 

「ヒット&アウェイ!! 基本の戦法だよね!! 今ので防御も上がったし、一発くらいは耐えられる!!」

 

「……マリルリ、『はらだいこ』だ!!!」

 

 コウキはそう命令して、マリルリがHPを削りながら自分の腹を叩く。

 

「マリィィィッ!!!」

 

「これでパワー全開……オボンの実で体力も回復だ!!」

 

「でも、HPは削れてる!! 次の『はがねのつばさ』で、仕留められるはずだ!!」

 

 コウキはそれを見て、ニヤリと笑う。

 

「来い、エアームド!!」

 

「エアームド、『はがねのつばさ』!!」

 

「キュヒィィィィ!!!」

 

 エアームドがマリルリに突っ込んでくる。マリルリもコウキも、それから目を逸らさない。避けるつもりもないのか、マリルリはその場で仁王立ちしている。

 

「仕留めろぉぉぉぉ!!!」

 

「……受け止めろ、マリルリ!!!」

 

「ルッリィッ!!」

 

 ──ガシッ!!

 

 はがねのつばさを使おうとしていたエアームドを、マリルリがガッチリ掴む。何故、効果抜群の技を受け止められているのか。理由は単純明快……パワーの差がつきすぎているからだ。

 

「まさか、リスク覚悟で『はらだいこ』をしたのは……!!」

 

「効果抜群の技でも、攻撃力が6段階上昇していれば……十分受け止め切れる!!」

 

「ムッ、ドォォォ……!!」

 

「ダメだ、抜け出せない……!!」

 

 コウキはそれを見て、マリルリに最後の指示を出す。

 

「トドメだ、マリルリ!! 地面に叩きつけてから『アクアブレイク』!!!」

 

「マッリィィィィ!!!」

 

 ──ズドォォォン!!

 

「キュヒッ……!!」

 

 地面に叩きつけられれば、流石に飛んで逃げることもできない。そのままマリルリの水を纏った打撃が、エアームドの体中に突き刺さる。雨と、はらだいこと、タイプ一致によるバフ。凄まじい火力の一撃を、受け止め切れるはずもなかった。

 

「マリィィィィィッ!!!」

 

 ──ドパパパパパァァッ!!!

 

「ムッ、ドォ……!!」

 

「マリィッ!!!」

 

 ──ドバァァァァン!!!

 

 エアームドはアクアブレイクを受けて、戦闘不能になった。それを見た審判が叫ぶ。

 

「エアームド戦闘不能、勝者……チャレンジャーのコウキ!!」

 

「やったぁぁぁぁぁ!!!」

 

「マリィィィィッ!!!」

 

 フウロはそれを見て、エアームドをボールに戻しながら……雨のあがった空を見る。

 

「ふぅ……負けたけど清々しい気分!! この戦い、忘れないよ!! これはリーグ公認のジムバッジ!! だけど、通過点ですよ!!」

 

「こちらこそ、ありがとうございました!!」

 

「これ、賞金とジムバッジね!!」

 

 ジムバッジと賞金を手にして、コウキがお礼を言う。

 

「ありがとうございます!!」

 

「あと、今のポケモン勝負を忘れないためにも、このわざマシンを受け取って欲しいな。はい、『アクロバット』の技マシン!!」

 

「ありがとうございます、有効活用させてもらいます!!」

 

 コウキの嬉しそうな様子を見て、フウロも笑顔になる。

 

「ふふっ、私の見込み通り。すごい人だね、あなたって!! また戦いたいな!!」

 

「えぇ、喜んで……では、またいつか!!」

 

「あ、無理にそこから戻らなくても……」

 

 しかし、コウキはもう風の前に立っていた。時すでに遅し、だ。

 

「えっ……あっ、ヤバっ……」

 

 ──ビュオォォォォォ!!!

 

「うわぁぁぁぁぁ~!?」

 

「……やっぱりギミック変えよう、うん」

 

 こうしてコウキは、木箱を何個か突き破りながら風に押し出されて……回転しながら、ジムの外に出ていったのだった。

 

「そうだ、忘れてた……最後の戻るところ、めちゃくちゃ、ぶっ飛ぶんだった……」

 

「お、おかえり……コウキ。待ってたよ」

 

「はっ!? ユ、ユウリ!? ここで待っててくれたのか!?」

 

 コウキはジム戦の後にやることを思い出して、一気に吹っ飛ばされた余韻から覚めて、代わりに顔が熱くなる。

 

「うん。いつ帰ってくるかなって、待ってたんだ」

 

「そ、そっか……ありがとうね。じゃあ、その……どこで話す?」

 

「あそこに公園があって、自販機もある。あそこで話そう?」

 

 コウキはそう言われて、赤面しながらもそこに向かう。

 

「う、うん。わかった、行こうか……ジュースは、何が好き? ミックスオレ? サイコソーダ?」

 

「コウキと同じやつがいい」

 

「じゃ、じゃあサイコソーダ二本だな!! うん!!」

 

 コウキはホミカの時とは違う理由で緊張しながら、公園のベンチへと向かっていった。そして……

 

 

 

コウキとユウリは、ユウリの言った公園に来て……二人でサイコソーダを手に持っている。しかし、二人とも全くそれを飲む気配がない。

 

「い、いい天気だね……」

 

「そうだね」

 

(ユウリは俺のことが好きだ、それは間違いない。こっちから言うべきなのか、それとも言い出すまで待つべきか……)

 

 コウキが悩んでいると、先にユウリが口を開いた。

 

「ねぇ、コウキは好きな人いるの?」

 

「……一人いる。タチワキシティに残してきた恋人がいるんだ」

 

「そう、なんだ……」

 

 声色からは、明らかに落胆の色が見て取れた。コウキはそれを聞いて、冷や汗をダラダラ流す。

 

(ヤバいヤバいヤバい!! どうしよう、アルセウス何とかして!! 二人同時に付き合おうなんて、そんなこと言う勇気はない……!!)

 

「……じゃあ、コウキ。大事なことを言うから、よく聞いててね」

 

「う、うん……」

 

 コウキはアルセウスの世界改変を知らないので、この世界が一夫多妻NGのままだと思っていた。しかし、そこでユウリがコウキにとっては衝撃的なことを言う。

 

「私も、コウキの恋人にしてくれない?」

 

「えぇぇっ!?」

 

「正直に言うよ。私はコウキのことが好きなの。PWTの時から、ずっと気になってた」

 

 それはコウキも知っている。しかし、ユウリとも付き合うということは……即ち、二股をかけるということになる。コウキはそう考えて、ユウリに言う。

 

「いや、でも……二股になるぞ?」

 

「知らないの? イッシュは一夫多妻制なんだよ。だから大丈夫」

 

「そうだったの!?」

 

 コウキはそう言ったあと、何となく真実に気づいた。アルセウスがやってくれたのだと。

 

(ありがとう、アルセウスさん!! これで何とかなりそうだ。はぁ~、助かったぁぁ……!!)

 

「……正直に答えて。コウキは私のこと、好き? 友達としてじゃなくて……恋愛対象として」

 

「うん。ユウリのことも、好きだよ。ライバルとしても、恋人としても」

 

 それを聞いて、ユウリの顔がぱぁっと明るくなる。

 

「本当に!? 嘘じゃないよね!?」

 

「嘘なんてつかないよ、俺がそんな人間に見えるか?」

 

「嬉しい……ありがとう、よかった……!!」

 

 そう言いながら、ユウリが嬉し涙を流す。その様子を見て、コウキは慌ててハンカチを取り出す。

 

「お、おい。泣くなって!! ほら、涙拭いて……」

 

「しょうがないじゃん!! 完全に私、フラれると思ってたん、だから……」

 

(フラれたらユウリ、どうなってたんだろうか……考えたくもないな。とりあえず、アルセウスのおかげで危機回避成功だ……)

 

 コウキは内心で、アルセウスに全力で感謝していた。これでしばらくは、ユウリの精神状態は安定するだろう。

 

「じゃあ、今日からはライバル兼恋人ってことになるのかな?」

 

「そうだね。負けはいつか取り返す、ポケモントレーナーとしてね」

 

「いい闘争心だな、流石はガラル人」

 

 コウキがそう言っていると、ユウリがふと気づいたように言う。

 

「そういえば、恋人同士ってどんなことするんだろう?」

 

「別に、これまでと変わらないんじゃないか? まぁ、俺の認識だけど」

 

「せっかくだし、恋人同士で何かしたいね。何かないかな」

 

 コウキは考え込む。下世話な話は論外だし、かといって、タワーオブヘブンにはさっき行ったばかりだ。

 

「うーん……何をすればいいんだろうな」

 

「あ、そうだ!! いいこと考えた!!」

 

「ん? なにかあった?」

 

 ユウリが嬉しそうに頷いて、鞄から色々な物を取り出し始める。鍋や野菜、お肉や木の実にレトルト麺。そして、最後に出てきた……カレー粉と、飯盒。

 

「うん、とっても楽しいこと!!」

 

「もしかして、これは……カレーか?」

 

「そう、みんな大好きなカレー!! カレー作りは仲良くなる第一歩、カレーが嫌いな人は多分いない!!」

 

 カレーについて熱弁するユウリを見て、コウキがとあるゲームでのユウリの性格を思い出す。

 

(そうだ、そういえばユウリは……ポケマスでは、事ある毎にカレーの話をするカレー狂信者だったな!!)

 

「どれにする? ホイップカレーとか、レトルト麺カレーとか、たくさんあるよ!!」

 

「いや、普通のやつ作ろうよ!? どうしてそれをチョイスした!?」

 

 コウキが困惑を口にすると、ユウリはさもそれが当然かのように首を傾げて言う。

 

「えっ? でも、美味しいよ?」

 

「これがガラル人特有の感覚か……そうだ、これなんてどうだ? 美味しそうだし」

 

「お、ボブの缶詰!! よし、これ使っちゃおう!! あとは、オレンの実とクラボの実を入れて……」

 

 ユウリはそう言って、火を点けてご飯を炊き始めた。そして材料を鍋に入れて、火にかける。

 

「ほら、コウキ!! うちわ持って、火をあおぐんだよ!!」

 

「わ、わかった!!」

 

「そうそう、上手いよ!! そのまま……あぁ、あおぎすぎ!! コウキ、ストップ!!」

 

 そう言われてコウキは、急いで手を止める。それからユウリは、手際よく次の行程の準備をする。

 

「はい、次はこれでかき混ぜるんだよ!! 早すぎず遅すぎず、美味しくなるスピードでかき混ぜてね!!」

 

「ユウリの感覚で言われてもわかんないんですけど!?」

 

「こうだよ、こう!! はい、やってみて!!」

 

 コウキはとりあえず混ぜてみる。すると、コウキは一定の速度の時に、カレーが輝いているのが見えた。

 

(おぉ、ここもゲームと同じなのか。それなら、俺にもやれる気がする!! よし、このまま混ぜていこう!!)

 

「そうそう、いい感じ!! このまま混ぜていこう!!」

 

「よいしょ、よいしょ……暑くなってきたな」

 

 二人が火の熱にあてられて、汗をかく。そしてユウリは、混ぜ終わったところで……手を離して、コウキに言った。

 

「これで最後だよ、真心を込めて!!」

 

「真心? そんなこと言われても、形がないし……」

 

「美味しくなって欲しいって思えばいいんだよ!! ほら、早く真心込めて!!」

 

 コウキはそう言われて、とりあえず目を瞑って祈りを捧げてみる。

 

「美味しくなりますように……」

 

「よし、完成!! コウキと私のジューシーカレーだ!!」

 

「みんなにも食べさせてあげないとな、みんな!! 出てこい!!」

 

 コウキはそう言って、空中にボールを投げる。そしてユウリも、ボールを投げてポケモン達を出した。

 

「みんな、ご飯だよ!! 今日はカレー!!」

 

「ガラルのカレーだ、みんな味わって食えよ?」

 

「さて、俺達も食べようか?」

 

「そうだね、食べよう!!」

 

 二人の分のカレーをお皿に盛って、二人で手を合わせる。スプーンを手に取って、お肉たっぷりのカレーを掬う。

 

「いただきます!!」

 

「いただきます……ん、美味しい!!」

 

「これは……わぁぁ、すっごく美味しい!!!」

 

 ユウリもコウキも、スプーンが止まらない様子だ。そこでユウリが言った。

 

「これはもうリザードン級だね、間違いない!! カレー作ってよかった!!」

 

「うん、めちゃくちゃ美味いしな。間違いないよ」

 

「これが恋人同士かぁ、こんなに美味しいカレーが作れるなんて、恋人の絆ってすごいんだね!!」

 

 ユウリはそう言って笑って、カレーを食べ進める。コウキはそれを見て、純粋に可愛いと思えた。

 

「可愛いな……」

 

「そ、そう? いきなり言われると照れちゃうな……えへへ」

 

「こんなに可愛いのに、ガラルではモテなかったのか、ユウリ?」

 

 コウキがふと気になって尋ねる。するとユウリは、苦笑いしながら答えた。

 

「惚れられたことはあるよ。でも、みんな私より弱かったから、断った」

 

「まぁ、そうなるよな。当然の結果だ」

 

「一人だけ、一方的に好きだった人はいたんだけど……違うところに行っちゃったからね」

 

 ユウリは遠い目をして呟く。コウキはそれが誰なのか、察しがついたが……知らないふりをして、尋ねる。

 

「いたにはいたんだ?」

 

「うん。ホップっていう、明るい人でね……私には劣るけど、強い人だった。戦ってると楽しくて、一緒にいるだけで気分がいい……明るい人だったんだ」

 

「今はどこにいるんだ?」

 

「研究所で博士の助手をやってる。チャンピオンの私とは、疎遠になっちゃって……ほとんど会えてない内に、勝手に失恋しちゃった」

 

 コウキはそれを聞いた後、自分に言えることを言う。

 

「……俺は、ホップさんの代わりにはなれない」

 

「わかってる。コウキはホップとは違う、だけど私を救ってくれた人。だから、好きになった」

 

「ユウリ……強いな」

 

 コウキがそう言うと、ユウリは謙遜を口にする。

 

「ううん、強くなんてない。コウキがいなかったら、私は壊れてたと思うし」

 

「それまで耐えただけでも、すごいと思う。よく頑張った」

 

「……グスッ」

 

 ユウリの目に涙が浮かぶ。これまで受けてきたストレスや圧力が、涙となって溢れ出す。

 

「大丈夫。もう、そんな思いはさせないから」

 

「うん……」

 

(ユウリ、泣いてる……よっぽど辛かったんだな。慰めてあげるのが、恋人としての義務だ)

 

 コウキはユウリを慰めるために、抱き寄せる。ユウリはコウキの胸の中で、啜り泣きを続けている。

 

「ぐすっ、うっ……」

 

「落ち着くまで、ここにいるといい」

 

「ありがとう……」

 

 こうして、コウキはユウリの心を今度こそ救った。

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