朝起きたらBW2の主人公になってました(全年齢版) 作:とも667
VSフウロ。
ユウリのことで、冷や汗をダラダラ流していたコウキは、ジムに入って深呼吸する。せめて、バトルの時は落ち着いてやるためだ。
「……よし、少しは落ち着いた」
コウキがそう言った、次の瞬間。コウキの目の前から、回転しながら男が突っ込んできた。コウキはそれに激突して、せっかく吸った空気を吐き出してしまう。
──ドゴォォン!!
「ごぶっはぁ!?」
「いやぁ、すいません!! このジムのギミックの、風でぶっ飛んできちゃいました!! お怪我は無いですか?」
「はぁ、はぁ……はい、大丈夫です。お構いなく……」
コウキは起き上がって、男からこのジムのギミックを聞く。このジムが風でぶっ飛んでいくという、他にはないぶっ飛んだギミックのジムであることを。
「……というわけで、ここは風でぶっ飛びながら進むジムなんすよ!! どうです、ぶっ飛んでるでしょ?」
「なるほど、ありがとうございます。行ってきますね!!」
「あっ、言い忘れてたっす!! ぶっ飛ばされる時は……」
コウキはそれを聞かないまま、風の前に立つ。そして……凄まじい風が吹き始めた。コウキは風を受けて……
──ビュオォォォォ!!
「のわぁぁぁぁぁぁ!?」
「滅茶苦茶回るから注意してくださいっすー!!」
「先に言えやぁぁぁぁ!!!」
まるでコマのように回転しながら、コウキはフキヨセジム内を周っていった。くるくる回りながらジムを周ったコウキは、やっとフウロの前に着いた時には……
「よく来たね!! そろそろ来る頃だと思っ……ってあれ?」
「ちょっと待って、目が回って……ぐはっ」
──ドサッ。
「えっ、だ、大丈夫!? やっぱりギミック変えた方がいいかな……」
コウキは、しばらくその場で目を回したあと……立ち上がってフウロにお礼を言う。
「すみません、介抱してもらっちゃって」
「ううん、こっちこそごめんなさい。大変だったでしょ?」
「まぁ、結構ね……すぅー、はぁー」
コウキは体を滅茶苦茶回されて、まだ少し気持ち悪かった。もう一度深呼吸をして、吐き気を体から追い出す。
「落ち着いた?」
「はい、お陰様で……よし、始めましょうか」
「ジムに挑戦するんだね?」
コウキはそう言われて、ボールを構えた。
「よろしくお願いします」
「あなたはチャンピオン三人に勝った、規格外な相手だ。だから……アタシも、リーグに決められたポケモンじゃなくて、私が鍛えたポケモンを使うよ」
「そりゃあ嬉しいですね。認めてもらえてるってことでしょ?」
コウキとフウロが、お互いに笑みを浮かべる。
「噂通り、目付きが変わったね。そういうの嫌いじゃないよ!! このバトル、楽しくなりそう!!」
「僕もそう思いますよ!!」
「行け、ムクホーク!!」
「ムクホークか……頼むぜ、シンボラー!!」
お互いにポケモンを繰り出して、ムクホークとシンボラーが雄叫びを上げた。
「ヒュイィィィーッ!!」
「ボラァァァァッ!!」
「特殊型だから、特性『いかく』の効果はないか……でも、シンボラーは低耐久のはず!! 行け、ムクホーク!! 『ブレイブバード』!!」
コウキはそれを見て、シンボラーに指示を出す。
「ムックゥゥゥッ!!」
「シンボラー!! 『サイコキネシス』!!」
「シィィィィッ!!」
「無駄だ、そんな程度じゃムクホークは止められないよ!!」
フウロの言葉通り、ムクホークはサイコキネシスを受けても構わず向かってきている。激突すれば、タダでは済まないだろう。しかし、コウキもそれは理解している。
「シンボラー今だ、自分に下方向へ『サイコキネシス』をかけろ!!」
「なにっ!?」
「ボラァァァッ!!」
自身にサイコキネシスをかけたシンボラーは、下方向に飛んでいく。そして、突然シンボラーが落下していったので……ブレイブバードは空振りに終わってしまう。
「やるね……!! でも、ムクホークも無傷だ!! ムクホーク、もう一回『ブレイブバード』!!」
「ヒュイィィィィ!!」
「今だシンボラー、『サイコシフト』!!」
シンボラーの目が一瞬輝く。しかし、一見すると何も起きていない様子に、フウロは空振りだと勘違いする。
「空振りみたいだね!! そのまま貫け、ムクホーク!!」
──ズドォォォン!!
「ボラッ……!!」
「……隙あり!! シンボラー、ムクホークに『エアスラッシュ』だ!!!」
ブレイブバードを受けたシンボラーは、元気なままだった。フウロはそれに驚く暇もなく、ムクホークがエアスラッシュを受けるのを見る。
「シィィィィッ!!」
──ビュババババッ!!!
「ムックゥゥッ!?」
「ッ、どうなってるの!? 確かに命中したはず!? 攻撃に全振りしてるのに……」
コウキはその様子を見て、種明かしをする。
「ムクホークをよく見てくださいよ、動きが鈍いでしょ? その原因は……」
「……!? 羽に火傷が!? 一体、いつ炎技を……」
「『サイコシフト』。その効果は、『自分の状態異常を相手に移す』効果。そして、シンボラーの持ち物は『かえんだま』……」
それを聞いて、フウロが気づく。サイコシフトが空振りではなかったことに。
「そうか、最初からそれが狙いで……発動するまでの時間稼ぎだったのか!!」
「そういうことです!! そこだ、シンボラー!! 『サイコキネシス』!!!」
「シィィィィッ!!!」
エアスラッシュで怯んだところにサイコキネシスを受けては、流石に抵抗できない。体を振り回されて、あちこちに叩きつけられる。
──ドゴゴゴォォン!!
「ムクゥゥゥ……!!」
「今だ、地面に落とせ!!」
「ボォラァァァァ!!!」
──ズドォォォォン!!
サイコキネシスで地に堕ちたムクホーク。これは流石に耐えきれずに、戦闘不能になっている。
「よし、まずは俺がリードだな!!」
「……やるね。流石は、チャンピオンに勝っただけあるよ」
「それ程でもありませんよ」
コウキは謙遜を口にする。しかし、フウロの目から闘志は消えていない。
「だけど、まだまだここからだ!! 行け、エアームド!!」
「キュヒィィィッ!!」
「エアームドか……シンボラー、戻れ!!」
シンボラーを戻して、コウキは次のポケモンを繰り出す。
「頼むぜ、エンブオー!!」
「ブァァァァァッ!!!」
「エンブオーか……出てくるとは思ってたけど」
エンブオーとエアームド。お互いに抜群を取り合える盤面だ。お互いに思考を巡らせる。
(相手の次の行動がなにかだけど……どの行動でも『がんじょう』で一回は耐えられる。でも、一回耐えて飛行技を撃っても、仕留め切れるとは思えない……それなら!!)
(エアームドの特性は恐らく『がんじょう』だ。それなら、ここで選択すべき技は……)
「エアームド、『つばめがえし』!!」
「エンブオー、『ふいうち』だ!!」
お互いの命令が同時に響き、エアームドの翼とエンブオーの拳が、同時に相手にぶつかり……クロスカウンターの形になる。
──ズガァァァッ!!
──ジュバァァッ!!
「ムゥゥドォ……!!」
「ブォォゥッ……!!」
「この機を逃すな!! エンブオー、『フレアドライブ』だ!!」
コウキは確実に仕留めるために、エンブオーが使える中で最強の技を指示する。エンブオーが雄叫びを上げて、凄まじい炎熱を身に纏う。
「ブォォォアァァァァ!!!」
「エアームド、離脱して!!」
「逃がすな、突っ込め!!!」
エンブオーが離脱しようとするエアームドに、拳を向けて突撃する。どう足掻いても直撃コースだ。
「……今だ!! 戻れ、エアームド!!」
「なんだって!?」
「行け、ぺリッパー!!」
そこで出てきたのは、ぺリッパーだった。コウキはそれを見て、まずいことを一瞬で察する。
「ペッパァー!!」
──ザァァァァ……
「特性『あめふらし』だよ!!」
「ッ、まずい……!!」
──ドゴォォォォン!!!
フレアドライブは命中したが、ぺリッパーの体力はほぼ削れていない。それどころか、隙を晒した上に、反動といのちのたまによるダメージもあり、ピンチなのはエンブオーの方だ。一気に情勢が逆転してしまった。
「まずい、避け……」
「ぺリッパー、『ぼうふう』!!!」
「ペェリィィィィ!!!」
「ブォォォォォ!?」
──ゴァァァァァッ!!!
凄まじい暴風がエンブオーに襲いかかる。この技は雨が降っていると必中になるので、避ける術はない。為す術なく暴風に巻き込まれて、風圧と風の刃のミキサーの中で苦しむエンブオー。
「ブゥゥ、オォォッ……!!!」
──ドゴォォォン!!
「エンブオー、大丈夫か!?」
「ブゥ、オッ……」
「耐えたか。やるね、よく鍛えてる証拠だ」
しかし、エンブオーはボロボロだ。あと一発、反動技を撃てば……終わってしまうだろう。
「そりゃどうも、光栄ですよ……」
「だけど、これで終わりだよ!! ぺリッパー、『ぼうふう』!!」
「ペッパァァァァ!!!」
またもや暴風がエンブオーに迫り来る。それを見て、コウキは……
「エンブオー、暴風の中に突っ込んで『ワイルドボルト』だ!!!」
「何のつもり!?」
「焦るな、これも戦法のうちだよ!!!」
エンブオーは言われた通りに、電気を纏って暴風の中に突っ込む。これはコウキにとっても賭けだ。
「エンブオー!! 風の勢いで上に登れ!!!」
「ウォォォォォォォ!!!」
「上? 上に何が……」
コウキはそこで、不敵な笑みを浮かべて言う。
「雨を降らせるってことは、雨雲を用意するってことだ。基本、雲がないのに雨は降らないからな……!!」
「それがどうしたっていうの?」
「そして、雨雲は電気を溜め込む……!! 今のエンブオーは言わば、大きな電気の塊だ!!! ここまで言えば、わかるんじゃないか!?」
「……まさかっ!?」
エンブオーは、雲の中で電気を放出し続けている。帯電した雨雲は、電気を溜め込みきれなくなり……それを地面に向かって解放する。次の瞬間、激しい閃光と地鳴りのような轟音が、空間を支配した。
──ズゴォォォォォン!!!
──バヂュヂヂィィッ!!!
「ペリィィィ……」
「まさか、でんきタイプポケモンでもないのに、雷を落とすなんて……」
「エンブゥゥ……」
「ありがとうエンブオー、無理させてすまない……ゆっくり休んでくれ」
二人がポケモンをボールに戻す。お互いに仕切り直しだ。コウキは何を出してくるか、大体読めている。しかし、それはあちらも同じことだ。
(私の知ってる彼の手持ちは、エンブオーとハハコモリ、ドリュウズと今回のシンボラー……あとの二匹はわからないけど……私のやることは変わらない!!)
「お願い、スワンナ!!」
「ヒュヒュエェェー!!」
コウキはそれを見て、繰り出すポケモンを決めた。ボールを出して、投げる。
「……頼んだぜ、ドリュウズ!!」
「ドリュウゥゥッ!!」
「やはりドリュウズか……!!」
これはフウロの予想通り。他のポケモンに電気タイプがいるのなら、エンブオーで突っ張る理由がないからである。そこで迷わずフウロは指示を出した。
「スワンナ、『ねっとう』だ!!」
「スワァァァァン!!」
「今だ、『わるだくみ』!!」
コウキの指示に、フウロが驚愕の声を上げる。それもそのはず、『わるだくみ』は特攻を二段階上げる技。物理アタッカーのドリュウズに覚えさせる理由もないし、そもそも覚えない。
「嘘!? そんな技、ドリュウズは覚えてなかったはず……それに、覚えさせる理由がない!! どういうことなの!?」
──ドジュウゥゥゥッ!!!
「ドリュッ……フッ!!」
「姿が変わって……いや、これはまさか!!」
フウロはそこで、それの正体に気づく。しかし気づいた時には、もう手遅れだ。火傷状態の攻撃半減は痛くない。何故なら……ゾロアークは、特殊アタッカーだから。
「ゾロアーク!! 『ナイトバースト』!!!」
「きゅあぁぁぁーっ!!!」
「しまっ……!!」
──ドゴォォォォン!!!
完全にゾロアークに化かされたフウロとスワンナは、対応することができなかった。飛んできた黒い波動が直撃して、スワンナが吹っ飛ぶ。
「スワァァァ……!!」
「スワンナ!! くっ……!!」
「『わるだくみ』を積んだおかげで、スワンナを落とせましたね。さぁ、コレであと一体ですよ!!」
フウロはそれを聞いて、最後のボールを取り出し……雨に濡れた髪をかき上げて、言った。
「そうだね……でも!! ネバーギブアップ、です!! 戦うポケモンに失礼だもの!! お願い、エアームド!!」
「キュヒィィィィッ!!!」
「ゾロアーク、お疲れ様。戻ってくれ」
まだ雨は続いている。それを見て、コウキはぺリッパーの持ち物を察した。
「ぺリッパーの持ち物は『しめったいわ』ですか……」
「ご名答。よくわかったね?」
「雨が長すぎるような気がしましてね……」
雨が降っていては、『かえんほうしゃ』でのダメージは期待できない。かといって他の技は半減されてしまう。だから……コウキも天候を利用することにした。
「頼んだぜ、マリルリ!!」
「マッリィィィ!!」
「雨天候を利用するつもりか……だけど、甘いよ!! エアームド、『はがねのつばさ』!!」
一定確率で防御が上がる、はがねタイプの技。コウキはそれを見て、取る行動を決める。
「マリルリ、エアームドの攻撃をよく見るんだ!!」
「ムゥゥゥドッ!!」
──ギャギィンッ!!
「マリッ……リィッ!!」
そしてマリルリは、エアームドを掴もうとしたが……掴もうとした時には、エアームドはそこにはいない。
「これは……!!」
「ヒット&アウェイ!! 基本の戦法だよね!! 今ので防御も上がったし、一発くらいは耐えられる!!」
「……マリルリ、『はらだいこ』だ!!!」
コウキはそう命令して、マリルリがHPを削りながら自分の腹を叩く。
「マリィィィッ!!!」
「これでパワー全開……オボンの実で体力も回復だ!!」
「でも、HPは削れてる!! 次の『はがねのつばさ』で、仕留められるはずだ!!」
コウキはそれを見て、ニヤリと笑う。
「来い、エアームド!!」
「エアームド、『はがねのつばさ』!!」
「キュヒィィィィ!!!」
エアームドがマリルリに突っ込んでくる。マリルリもコウキも、それから目を逸らさない。避けるつもりもないのか、マリルリはその場で仁王立ちしている。
「仕留めろぉぉぉぉ!!!」
「……受け止めろ、マリルリ!!!」
「ルッリィッ!!」
──ガシッ!!
はがねのつばさを使おうとしていたエアームドを、マリルリがガッチリ掴む。何故、効果抜群の技を受け止められているのか。理由は単純明快……パワーの差がつきすぎているからだ。
「まさか、リスク覚悟で『はらだいこ』をしたのは……!!」
「効果抜群の技でも、攻撃力が6段階上昇していれば……十分受け止め切れる!!」
「ムッ、ドォォォ……!!」
「ダメだ、抜け出せない……!!」
コウキはそれを見て、マリルリに最後の指示を出す。
「トドメだ、マリルリ!! 地面に叩きつけてから『アクアブレイク』!!!」
「マッリィィィィ!!!」
──ズドォォォン!!
「キュヒッ……!!」
地面に叩きつけられれば、流石に飛んで逃げることもできない。そのままマリルリの水を纏った打撃が、エアームドの体中に突き刺さる。雨と、はらだいこと、タイプ一致によるバフ。凄まじい火力の一撃を、受け止め切れるはずもなかった。
「マリィィィィィッ!!!」
──ドパパパパパァァッ!!!
「ムッ、ドォ……!!」
「マリィッ!!!」
──ドバァァァァン!!!
エアームドはアクアブレイクを受けて、戦闘不能になった。それを見た審判が叫ぶ。
「エアームド戦闘不能、勝者……チャレンジャーのコウキ!!」
「やったぁぁぁぁぁ!!!」
「マリィィィィッ!!!」
フウロはそれを見て、エアームドをボールに戻しながら……雨のあがった空を見る。
「ふぅ……負けたけど清々しい気分!! この戦い、忘れないよ!! これはリーグ公認のジムバッジ!! だけど、通過点ですよ!!」
「こちらこそ、ありがとうございました!!」
「これ、賞金とジムバッジね!!」
ジムバッジと賞金を手にして、コウキがお礼を言う。
「ありがとうございます!!」
「あと、今のポケモン勝負を忘れないためにも、このわざマシンを受け取って欲しいな。はい、『アクロバット』の技マシン!!」
「ありがとうございます、有効活用させてもらいます!!」
コウキの嬉しそうな様子を見て、フウロも笑顔になる。
「ふふっ、私の見込み通り。すごい人だね、あなたって!! また戦いたいな!!」
「えぇ、喜んで……では、またいつか!!」
「あ、無理にそこから戻らなくても……」
しかし、コウキはもう風の前に立っていた。時すでに遅し、だ。
「えっ……あっ、ヤバっ……」
──ビュオォォォォォ!!!
「うわぁぁぁぁぁ~!?」
「……やっぱりギミック変えよう、うん」
こうしてコウキは、木箱を何個か突き破りながら風に押し出されて……回転しながら、ジムの外に出ていったのだった。
「そうだ、忘れてた……最後の戻るところ、めちゃくちゃ、ぶっ飛ぶんだった……」
「お、おかえり……コウキ。待ってたよ」
「はっ!? ユ、ユウリ!? ここで待っててくれたのか!?」
コウキはジム戦の後にやることを思い出して、一気に吹っ飛ばされた余韻から覚めて、代わりに顔が熱くなる。
「うん。いつ帰ってくるかなって、待ってたんだ」
「そ、そっか……ありがとうね。じゃあ、その……どこで話す?」
「あそこに公園があって、自販機もある。あそこで話そう?」
コウキはそう言われて、赤面しながらもそこに向かう。
「う、うん。わかった、行こうか……ジュースは、何が好き? ミックスオレ? サイコソーダ?」
「コウキと同じやつがいい」
「じゃ、じゃあサイコソーダ二本だな!! うん!!」
コウキはホミカの時とは違う理由で緊張しながら、公園のベンチへと向かっていった。そして……
コウキとユウリは、ユウリの言った公園に来て……二人でサイコソーダを手に持っている。しかし、二人とも全くそれを飲む気配がない。
「い、いい天気だね……」
「そうだね」
(ユウリは俺のことが好きだ、それは間違いない。こっちから言うべきなのか、それとも言い出すまで待つべきか……)
コウキが悩んでいると、先にユウリが口を開いた。
「ねぇ、コウキは好きな人いるの?」
「……一人いる。タチワキシティに残してきた恋人がいるんだ」
「そう、なんだ……」
声色からは、明らかに落胆の色が見て取れた。コウキはそれを聞いて、冷や汗をダラダラ流す。
(ヤバいヤバいヤバい!! どうしよう、アルセウス何とかして!! 二人同時に付き合おうなんて、そんなこと言う勇気はない……!!)
「……じゃあ、コウキ。大事なことを言うから、よく聞いててね」
「う、うん……」
コウキはアルセウスの世界改変を知らないので、この世界が一夫多妻NGのままだと思っていた。しかし、そこでユウリがコウキにとっては衝撃的なことを言う。
「私も、コウキの恋人にしてくれない?」
「えぇぇっ!?」
「正直に言うよ。私はコウキのことが好きなの。PWTの時から、ずっと気になってた」
それはコウキも知っている。しかし、ユウリとも付き合うということは……即ち、二股をかけるということになる。コウキはそう考えて、ユウリに言う。
「いや、でも……二股になるぞ?」
「知らないの? イッシュは一夫多妻制なんだよ。だから大丈夫」
「そうだったの!?」
コウキはそう言ったあと、何となく真実に気づいた。アルセウスがやってくれたのだと。
(ありがとう、アルセウスさん!! これで何とかなりそうだ。はぁ~、助かったぁぁ……!!)
「……正直に答えて。コウキは私のこと、好き? 友達としてじゃなくて……恋愛対象として」
「うん。ユウリのことも、好きだよ。ライバルとしても、恋人としても」
それを聞いて、ユウリの顔がぱぁっと明るくなる。
「本当に!? 嘘じゃないよね!?」
「嘘なんてつかないよ、俺がそんな人間に見えるか?」
「嬉しい……ありがとう、よかった……!!」
そう言いながら、ユウリが嬉し涙を流す。その様子を見て、コウキは慌ててハンカチを取り出す。
「お、おい。泣くなって!! ほら、涙拭いて……」
「しょうがないじゃん!! 完全に私、フラれると思ってたん、だから……」
(フラれたらユウリ、どうなってたんだろうか……考えたくもないな。とりあえず、アルセウスのおかげで危機回避成功だ……)
コウキは内心で、アルセウスに全力で感謝していた。これでしばらくは、ユウリの精神状態は安定するだろう。
「じゃあ、今日からはライバル兼恋人ってことになるのかな?」
「そうだね。負けはいつか取り返す、ポケモントレーナーとしてね」
「いい闘争心だな、流石はガラル人」
コウキがそう言っていると、ユウリがふと気づいたように言う。
「そういえば、恋人同士ってどんなことするんだろう?」
「別に、これまでと変わらないんじゃないか? まぁ、俺の認識だけど」
「せっかくだし、恋人同士で何かしたいね。何かないかな」
コウキは考え込む。下世話な話は論外だし、かといって、タワーオブヘブンにはさっき行ったばかりだ。
「うーん……何をすればいいんだろうな」
「あ、そうだ!! いいこと考えた!!」
「ん? なにかあった?」
ユウリが嬉しそうに頷いて、鞄から色々な物を取り出し始める。鍋や野菜、お肉や木の実にレトルト麺。そして、最後に出てきた……カレー粉と、飯盒。
「うん、とっても楽しいこと!!」
「もしかして、これは……カレーか?」
「そう、みんな大好きなカレー!! カレー作りは仲良くなる第一歩、カレーが嫌いな人は多分いない!!」
カレーについて熱弁するユウリを見て、コウキがとあるゲームでのユウリの性格を思い出す。
(そうだ、そういえばユウリは……ポケマスでは、事ある毎にカレーの話をするカレー狂信者だったな!!)
「どれにする? ホイップカレーとか、レトルト麺カレーとか、たくさんあるよ!!」
「いや、普通のやつ作ろうよ!? どうしてそれをチョイスした!?」
コウキが困惑を口にすると、ユウリはさもそれが当然かのように首を傾げて言う。
「えっ? でも、美味しいよ?」
「これがガラル人特有の感覚か……そうだ、これなんてどうだ? 美味しそうだし」
「お、ボブの缶詰!! よし、これ使っちゃおう!! あとは、オレンの実とクラボの実を入れて……」
ユウリはそう言って、火を点けてご飯を炊き始めた。そして材料を鍋に入れて、火にかける。
「ほら、コウキ!! うちわ持って、火をあおぐんだよ!!」
「わ、わかった!!」
「そうそう、上手いよ!! そのまま……あぁ、あおぎすぎ!! コウキ、ストップ!!」
そう言われてコウキは、急いで手を止める。それからユウリは、手際よく次の行程の準備をする。
「はい、次はこれでかき混ぜるんだよ!! 早すぎず遅すぎず、美味しくなるスピードでかき混ぜてね!!」
「ユウリの感覚で言われてもわかんないんですけど!?」
「こうだよ、こう!! はい、やってみて!!」
コウキはとりあえず混ぜてみる。すると、コウキは一定の速度の時に、カレーが輝いているのが見えた。
(おぉ、ここもゲームと同じなのか。それなら、俺にもやれる気がする!! よし、このまま混ぜていこう!!)
「そうそう、いい感じ!! このまま混ぜていこう!!」
「よいしょ、よいしょ……暑くなってきたな」
二人が火の熱にあてられて、汗をかく。そしてユウリは、混ぜ終わったところで……手を離して、コウキに言った。
「これで最後だよ、真心を込めて!!」
「真心? そんなこと言われても、形がないし……」
「美味しくなって欲しいって思えばいいんだよ!! ほら、早く真心込めて!!」
コウキはそう言われて、とりあえず目を瞑って祈りを捧げてみる。
「美味しくなりますように……」
「よし、完成!! コウキと私のジューシーカレーだ!!」
「みんなにも食べさせてあげないとな、みんな!! 出てこい!!」
コウキはそう言って、空中にボールを投げる。そしてユウリも、ボールを投げてポケモン達を出した。
「みんな、ご飯だよ!! 今日はカレー!!」
「ガラルのカレーだ、みんな味わって食えよ?」
「さて、俺達も食べようか?」
「そうだね、食べよう!!」
二人の分のカレーをお皿に盛って、二人で手を合わせる。スプーンを手に取って、お肉たっぷりのカレーを掬う。
「いただきます!!」
「いただきます……ん、美味しい!!」
「これは……わぁぁ、すっごく美味しい!!!」
ユウリもコウキも、スプーンが止まらない様子だ。そこでユウリが言った。
「これはもうリザードン級だね、間違いない!! カレー作ってよかった!!」
「うん、めちゃくちゃ美味いしな。間違いないよ」
「これが恋人同士かぁ、こんなに美味しいカレーが作れるなんて、恋人の絆ってすごいんだね!!」
ユウリはそう言って笑って、カレーを食べ進める。コウキはそれを見て、純粋に可愛いと思えた。
「可愛いな……」
「そ、そう? いきなり言われると照れちゃうな……えへへ」
「こんなに可愛いのに、ガラルではモテなかったのか、ユウリ?」
コウキがふと気になって尋ねる。するとユウリは、苦笑いしながら答えた。
「惚れられたことはあるよ。でも、みんな私より弱かったから、断った」
「まぁ、そうなるよな。当然の結果だ」
「一人だけ、一方的に好きだった人はいたんだけど……違うところに行っちゃったからね」
ユウリは遠い目をして呟く。コウキはそれが誰なのか、察しがついたが……知らないふりをして、尋ねる。
「いたにはいたんだ?」
「うん。ホップっていう、明るい人でね……私には劣るけど、強い人だった。戦ってると楽しくて、一緒にいるだけで気分がいい……明るい人だったんだ」
「今はどこにいるんだ?」
「研究所で博士の助手をやってる。チャンピオンの私とは、疎遠になっちゃって……ほとんど会えてない内に、勝手に失恋しちゃった」
コウキはそれを聞いた後、自分に言えることを言う。
「……俺は、ホップさんの代わりにはなれない」
「わかってる。コウキはホップとは違う、だけど私を救ってくれた人。だから、好きになった」
「ユウリ……強いな」
コウキがそう言うと、ユウリは謙遜を口にする。
「ううん、強くなんてない。コウキがいなかったら、私は壊れてたと思うし」
「それまで耐えただけでも、すごいと思う。よく頑張った」
「……グスッ」
ユウリの目に涙が浮かぶ。これまで受けてきたストレスや圧力が、涙となって溢れ出す。
「大丈夫。もう、そんな思いはさせないから」
「うん……」
(ユウリ、泣いてる……よっぽど辛かったんだな。慰めてあげるのが、恋人としての義務だ)
コウキはユウリを慰めるために、抱き寄せる。ユウリはコウキの胸の中で、啜り泣きを続けている。
「ぐすっ、うっ……」
「落ち着くまで、ここにいるといい」
「ありがとう……」
こうして、コウキはユウリの心を今度こそ救った。