転生者ととりとりのすけはトリである。

伝説がはじまった日。(不本意)

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魔鳥伝説アチョー

 

 

 

 

 

 むくりと起き上がったものがあった。

 

 鳥である。

 

 むくりと起き上がったのであり、ムクドリではない、念のため。

 

 この鳥、転生者である。コウノトリではない、念のため。

 

 起き上がった場所は絶壁をなす崖の中腹。

 

 鳥は眠気まなこで辺りを見回し、やがて驚愕に叫んだ。

 

 

「ぎょえええええぇぇぇ──っ⁉︎」

 

 

 鳥は間近で聴こえた奇妙な声にビクついた。この変な声が自分の叫び声だとは微塵も思わなかった。

 

 鳥はしばらく辺りを窺っていたが、危険はないと判断し「おどかすなよ」とほっと息をついた。

 

 鳥は自分の身体を見下ろす。

 

 黒い羽毛である。

 

 鳥は自分のこと故気付かないが、目と口元を結ぶ三角形の範囲の顔は赤い。

 

 ダルマワシに似るがそれそのものではないと思われる。

 

 鳥自身は、カラスのようなかんじかな、と思っている。

 

 正面から見たフォルムは〝こけし〟のように寸胴だ。羽毛の量と広がりからそう見えるのだろうが、ずんぐりむっくりといえた。

 

 鳥は翼を広げた、閉じた。バッバ。

 

 片方ずつ広げた。バッバ。

 

 鳥は改めて片方の翼を広げた。なんでやねん。なんで鳥やねん。

 

 鳥は関西人ではなかったがやらずにはおれなかった。

 

 鳥はかつて〝十鳥酉之助(ととりとりのすけ)〟という人間だった。

 

 不自由な人生だったといえる。

 

 この空を自由に飛べたなら……。

 

 そう思ったこともある。

 

 すべてを置き去りにして、なんもかんも振り切って飛び去ってしまえたなら、と。

 

 しかし鳥になりたかったわけではないのだけども?

 

 と鳥は首を傾げた。

 

 

 

 ──十鳥酉之助の意識の覚醒に伴い、『EXスキル:十鳥』を取得した。

 

 

 

 鳥は前衛的な木組みの巣の隙間から外を眺めた。

 

 巨大な森が眼下に広がっている。

 

 水場は多い。蛇行する大河もある。

 

 連なる岩山や巨樹の切り株のような台地も見える。

 

 それはいい、これからどうやって生きていこうとかそういう話は一旦置いておいて。

 

 ただ──。

 

 岩が浮いてるんだよなぁ。

 

 と鳥は思った。

 

 けっこうあちこちに。

 

 なんなら山が浮いてるといえるような規模のやつまで。

 

 草木が生えて、滝が落ちる。

 

 オゥ、ふぁんたずぃー。

 

 はー……、と息を吐いて鳥は改めて巣の中を見渡した。

 

 かなり広い空間だ。

 

 草木で組まれた巣は、花の蕾のように上の方まで覆っている。

 

 ちち、ははの姿はない。

 

 留守なのか、いるけどいないのか、いたけどいないのか、元々いないのか。

 

 とてとてと歩き、巣を一周。

 

 巣の方々に絡まった蔦の先に、赤や黄色、緑や紫の小さな実を見つけた。

 

 何を考えるでもなくそれらを啄みながらとてとて歩いた。

 

 チョロチョロと音がする。

 

 巣の端の方。崖の隙間から滲み出た水が小さな流れを作ってる。

 

 とりあえず、しばらくは大丈夫そうか。

 

 鳥は巣の中でパタパタと飛ぶ練習を始めた──……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 飛べぬ。

 

 と鳥は足を投げ出して座り込んだ。

 

 何十往復も巣の中を走って羽ばたいたが無理。

 

 

 はぁ〜……。

 

 

 巣の隙間から空を見ながら、何かプラスを考える。

 

 まあでも、虫に転生するよりは良かっただろう。

 

 そう無理くり捻り出した瞬間、巣の前を自動車並みの大きなカブトムシが横切って行った。ドゥルルンッ。

 

 

 

「クゥぁっ⁉︎」

 

 

 

 

 

 巨森──『巨大妄想郷(メガロマニアック・リーチ)

 

 生物の多くがスキル『巨大化(ジャイアントグロウス)』を持つ危険地帯。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幾日か経過した。

 

 鳥は木の実をモッチャモッチャと食べながら、巣の隙間から無表情に外を眺めていた。

 

 虫にすら喧嘩を売れない我が身の不明を恥じるでもなく、鳥の思考は無である。ただボーッとしていた。

 

 なんだかんだで巨森は変化に富んでいる。

 

 森の樹々をなぎ倒して転がるアレはダンゴムシだろう。先日目撃したカブトムシの何倍もデカい。

 

 湖から飛び出し口から水流を吐き出す白銀の龍──は巨大化した魚。

 

 牛ほどの蜂と鳥が揉み合って樹々をへし折った。

 

 森は散々に荒らされているが植物さえも黙っちゃいない。

 

 巨大化した植物が蜂と鳥に絡みついて締め上げる。あるいは龍のような魚を槍のように伸びた枝が串刺しにする。

 

 

 

 鳥は巣に背を預け足を投げ出して座り込んだ。

 

 強い風の音がして、巣に風が吹き込んだ。

 

 巣の中央で風が()()

 

 木の葉が風に乗って巣の天辺から飛び出していった。

 

 

 ほー。

 

 

 アレに乗ればいいわけか。

 

 と鳥は頷いた。

 

 しかし鳥はすぐには動かない。

 

 鳥は思う。

 

 

()は──」

 

 

 鳥は自分をカラスだと思っている故、一人称を〝()〟に決めた。変なところにこだわりを持つ鳥である。

 

 鳥は思う。

 

 

()は考えなしではない。アホウドリとは違うのだよ、アホウドリとは」

 

 

 ニヒルに笑う。アヒルではない、念のため。

 

 ちなみにアホウドリが本当に阿呆なのかどうかなど鳥は知らない。鳥は鳥にさほど興味はない。

 

 そしてもう一つ鳥の知らない事実がある。

 

 背後に迫る影の存在だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シューと空気が漏れるような音が聞こえ、鳥はとっさに横に転がった。

 

 何をやってるんだと自嘲の笑みを浮かべ──損ねた。

 

 ズドン、と巣に大穴を空けて、黒光りする鱗を持つ長大な龍が身をくねらせて現れた。

 

 

「クァッ⁉︎」

 

 

 鳥肌が粟立つ。

 

 龍ではない。巨大化した蛇だ。

 

 首をもたげた黒蛇が、驚くべきスピードで突進してきた。

 

 鳥など簡単に一呑みにできる大蛇の口から翼をバタつかせて逃れる。黒蛇の口の端に掠ってデタラメに回転した。

 

 もっとデカい獲物を狙いなさいよと思いながら必死に姿勢を制御する。

 

 黒蛇は悠然と巣の中を滑る。

 

 鳥は蛇が空けた穴から飛び出そうと走ったが回り込まれた。逃げられない。

 

 黒蛇は鳥を見据えゆらゆらと頭を揺らす。

 

 その嗜虐的な意図を読み取って鳥は思った。

 

 うっざ。

 

 黒蛇がゆっくりと見せつけるように口を開ける。

 

 ぴたりと揺れが止まる──来る!

 

 飛びかかって来た黒蛇の上に逃げる。バタバタと両翼を死に物狂いで上下させ、わずかばかりの滞空時間を確保する。

 

 しかし波打つ蛇の尾が上に跳ね上がってきて、鳥を撥ね飛ばした。

 

 巣の中を転がった鳥はお腹を抑えて悶絶するが、当然、蛇は待ってなんかくれなかった。

 

 黒蛇の牙が迫る。

 

 鳥は息を止めて堪えていたが、堪えきれずに咳き込んだ。

 

 その拍子に、炎が黒蛇を横殴りにした。

 

 爆発は蛇の口の端を吹っ飛ばし、顔の右半分をこんがり焼く。蛇の右目が白濁して沸騰していた。今度は蛇が悶絶する番だった。

 

 蛇の悲鳴は頭の中を突き刺すような痛みを与えるほどのけたたましいものだった。

 

 空気が熱せられ、風が吹く。

 

 巣がパチパチと音を立て煙と炎が広がり始めている。

 

 我が家をよくも!

 

 と鳥は蛇に憤ったが、火をつけたのは鳥である。

 

 体をうねらせて暴れ回る蛇を尻目に、鳥は巣の中央へと走った。

 

 突風が吹く。

 

 巣の中央で、風が巻く。

 

 鳥は翼を広げてダイヴした。

 

 すっぽ抜けるように巣の天辺から打ち上がる。

 

 ぶっつけ本番、飛ばなきゃ死ぬ。

 

 

「クゥゥァァアアアアアァァァ────…………」

 

 

 さらば()が高巣よ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巨森──巨大妄想郷に隣接する小国の一つ──イスカ。

 

 この国はイスカ道という武術の寺院が治める国であった。

 

 ラマダと呼ばれる放浪者階級の者たちが、調停者として各村を巡っている。

 

 

 

 エーセイは困惑していた。

 

 剃髪した頭の後ろを撫でつつ、横を見る。

 

 鳥が、さも当たり前のようについてくるのだ。

 

 共にいる師は気にしていないどころか、時に鳥に話しかけてさえいる。もちろん答えなど返ってこない。よくて変な鳴き声ひとつ。

 

 自分がおかしいのだろうか、と師と鳥を伺う。

 

 いやいやいやいや。

 

 どう考えても一人と一羽がおかしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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