1936年1月1日──カリフォルニア州ロサンゼルス
午前9時、街には穏やかな陽光が差し込んでいた。
カフェ「ヘブンズ・ドア」では、スーツ姿の男たちが新聞を広げ、コーヒーを啜っている。新聞の見出しはこうだった:
> “新年の幕開け、国際情勢は緊迫──ヒトラー政権、ラインラント進駐を宣言か?”
店の片隅で、新聞を読む男が呟いた。
「また戦争か……だが、それもまだ遠い話だな」
ウェイトレスのリタは笑って答える。
「いやですね。お願いだからお正月くらい平和な話をして。今日のお客様は皆、笑ってますよ」
若者たちはラジオショップのショーウィンドウに釘付けだ。キャスターが流す音楽とジョークに笑い声が溢れていた。
誰もが、未来に希望を見ていた。
---
10時13分。
市民の誰もが空に違和感を覚えた。
鳥が鳴き止み、犬が吠え、空が突然、**“音を失った”**のだ。
「……あれ、飛行船か?」
誰かが指を差した。
空には、直径300メートルはあろうかという黒い鉄塊が、音もなく静止していた。風も起こさず、推進装置らしきものも見えない。
カフェの客達は窓から外を覗き空を見上げる。
「アメリカの新型機か?」「日本か?ソ連か?」「いや……違う、あれは……生き物じゃないのか?」
その時、中央部がゆっくりと開いた。
何かが、地上へと投下された。
「昔軍隊にいたから分かる!爆弾だ!みんな離れろ!」
「店の地下倉庫があるからそこに!」
店の客達は指示通り地下倉庫へ駆ける。
男は倉庫に入りながら、まだ立ちつくす老人に声をかける。
「爺さん!早く地下に!」
「白い……」
その数秒後、一瞬だった。次の瞬間、世界が終わった。
地面が波打ち、視界全体が“白”で塗り潰される。
男は老人を諦め地下に入った。
音は遅れて届いた──
ドオォォォォォォンッッッ!!
誰もが何が起きたか分からぬまま、地下で耐える。熱風に轟音。とても平時ではあり得ぬ様相に不安が募る。
爆発音が静まり、男は地下室の扉を開ける。
付近の建物は完全に蒸発。カフェの跡などなくなり、鉄骨は白熱し、人体は影すら残さず灰となっていた。
通信塔が焼き落ち、送電線が焼き切れ、街は瞬時に“前文明”と化していた。
「一体何が……」
「外はどうなってましたか?」
「何も……ない。」
「何もないってなんだ?とりあえず外に出よう。」
カフェの客が何人か外に出るも、周囲は本当に焦土と化しており、何もない。
あるのは空に浮かぶ大きな船のようなもののみ。
瓦礫の隙間にいた者たちも外に出て空にある船を見る。
しばらく見つめていると、大きな船より幾らか小さめの舟が切り離され地上に近づいてくる。
「みんな!地下に隠れろ。何か来る。」
地下に隠れていた者が飛翔体を見ていると、その小型船は立ち尽くす人に近づき、射撃を開始した。
「何が?」
「不味い、アイツら民間人をなんの抵抗もなく、殺している。」
「どこの奴らだ!ジャップか!?俺らでやっちまおう!」
「バカ言うな!武器もない。」
「船がこっちに来る!」
「扉を閉めて!」
地下室の扉が閉ざされる。
ジェスチャーで静かにするよう合図する。
近くに船が降り立つ。
誰もが息を殺す。
何者かが船から降り、地下室の前に立つ。
恐る恐る扉の隙間から外を覗く。
そこには、人ではない生命体がこちらを見ていた。
「ジーザス……」
次の瞬間、扉越しにエイリアンの触手が伸び、男の胸を突き刺す。
「あああああああッ!!」
「きゃあああああ!!」
「リタさん、何か武器はねえのか!」
「そこの引き出しに、強盗対策のショットガンが!」
「ありがとよ!」
ショットガンを手に取り、エイリアンに向けて撃つ。
「吹き飛べぇぇッ!!」
ショットガンはエイリアンに命中し、触手は引き抜かれた。
「ザックさん、無事ですか!?」
「ああ……奴らは、どうしてる……」
「見てはねぇが……」
外からエンジン音がする。
「やっこさん逃げてくみたいだな……」
「……だといいが……」
小型船は機首を地下室に向ける。
「この野郎……帰りやがれ!」
ショットガンで小型船を狙うが、弾は跳ね返される。
そして次の瞬間、小型船から放たれた光線により、男の上半身は蒸発した。
熱を帯びた空間。光の境目。
「弾じゃない……熱風か……?」
「船がまた撃とうとしてるわ!」
「無線、無線はあるか!」
荷物をひっくり返し、打電を始める。
「頼む……誰か聞いててくれ……頼む……このままじゃ人類が……」
高速打電がどこまで届いたかは分からない。
だが──
次の瞬間、カフェ「ヘブンズ・ドア」の地下室は数名の人間ごと爆散した。