生存戦争 1936   作:四国の探索人

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第15話 山城散ゆ

サンタバーバラを離れ。

 

第一艦隊とアメリカ避難船団は、ハワイへ向かっていた。

 

戦闘から離れれば。

 

太平洋は驚くほど静かだった。

 

中心にいるのは。

 

避難民を満載したアメリカ船舶。

 

客船。

 

貨物船。

 

輸送船。

 

軍艦。

 

さらに。

 

日本艦にも。

 

サンタバーバラで収容したアメリカ市民が乗っている。

 

子供の泣き声。

 

負傷者の呻き声。

 

甲板で毛布に包まれて眠る老人。

 

それらを見ながら。

 

第一艦隊旗艦、山城。

 

高橋三吉は。

 

暗い顔をしていた。

 

米内光政が横に立つ。

 

「高橋さん」

 

「……」

 

「先ほどから海図が穴でも開きそうですな」

 

高橋が顔を上げる。

 

「米内」

 

「はい」

 

「エイリアン相手に」

 

少し間を置いた。

 

「どう戦う?」

 

米内の表情が変わる。

 

「既存のやり方では」

 

高橋は続ける。

 

「難しいでしょうな」

 

米内も海図へ目を落とした。

 

「相手は空」

 

「そうだ」

 

「我々が出会った敵は少数」

 

「……」

 

「しかも逐次投入でした」

 

サンタバーバラで遭遇した敵。

 

偵察機を襲った小型船。

 

黒岩隊が七機と引き換えに撃墜した一隻。

 

大型生命体。

 

擬態個体。

 

全て。

 

一度に押し寄せてきたわけではない。

 

「一体来たから一体を相手にできた」

 

米内が言う。

 

「ええ」

 

「なら」

 

高橋は空を見る。

 

「十体来たら?」

 

米内は答えなかった。

 

「二十なら?」

 

「……」

 

「五十なら?」

 

高橋が呟く。

 

「制空権」

 

その言葉が。

 

重かった。

 

「航空隊の大幅増強が必須になる」

 

米内が頷く。

 

「空母も必要でしょう」

 

「飛行機だけではない」

 

「操縦員」

 

「対空火器」

 

「射撃指揮」

 

高橋は山城を見渡した。

 

「今の艦隊は」

 

「空から殴られることを主役にして作られていない」

 

米内が小さく息を吐く。

 

「それを本国に分からせるのが難しいですな」

 

「そこだ」

 

高橋は眉を寄せる。

 

「大型生命体撃破」

 

「敵飛行船一隻撃墜」

 

「避難民救出成功」

 

指を折る。

 

「そんな戦果だけ持ち帰れば」

 

米内が続きを察する。

 

「勝てる、と」

 

「そうだ」

 

高橋の顔が険しくなる。

 

「そして」

 

「アメリカが弱っているなら」

 

「ハワイに権益を」

 

「フィリピンに権益を」

 

「太平洋に権益を」

 

吐き捨てる。

 

「そんな話を始める馬鹿が出る」

 

米内が苦笑する。

 

「否定できませんな」

 

「どうやって分からせる」

 

高橋が言った。

 

「アメリカの土地を奪っている場合ではない」

 

「……」

 

「このままなら」

 

高橋が日本のある西を見た。

 

「次は日本かもしれんと」

 

その時だった。

 

「上空に機影!」

 

艦橋。

 

全員が反応した。

 

高橋が振り返る。

 

「方位!」

 

「東北東!」

 

見張員が双眼鏡を構える。

 

「高度――」

 

止まった。

 

「何だ!」

 

「速い!」

 

別の見張員。

 

「複数!」

 

「数!」

 

「確認中!」

 

一。

 

二。

 

三。

 

黒い点。

 

増える。

 

「六!」

 

さらに。

 

「八!」

 

そして。

 

「十!」

 

艦橋。

 

沈黙。

 

米内が。

 

高橋を見る。

 

高橋は。

 

もう迷わなかった。

 

「総員戦闘配置!」

 

警報。

 

第一艦隊全体に。

 

けたたましい音が響く。

 

「敵小型航空船、十!」

 

「対空戦闘用意!」

 

水兵が走る。

 

高角砲。

 

機銃。

 

弾薬。

 

各配置。

 

そして。

 

高橋が叫ぶ。

 

「空母へ!」

 

通信員が構える。

 

「残存航空機を」

 

一瞬。

 

「全機発艦させろ!」

 

          *

 

航空母艦。

 

飛行甲板。

 

「急げ!」

 

「発動機始動!」

 

「敵接近!」

 

整備員。

 

搭乗員。

 

甲板員。

 

全員が走る。

 

航空機が。

 

次々と発艦位置へ。

 

発動機。

 

始動。

 

プロペラ。

 

回転。

 

一番機。

 

滑走。

 

離艦。

 

二番機。

 

続く。

 

三番。

 

その時。

 

空。

 

黒い影。

 

「敵機!」

 

速い。

 

日本機とは。

 

比較にならない。

 

一隻。

 

急降下。

 

「来るぞ!」

 

航空母艦の対空火器が火を噴く。

 

砲弾。

 

機銃弾。

 

敵の周囲。

 

水柱。

 

炸裂。

 

だが。

 

当たらない。

 

敵船が。

 

光る。

 

一筋。

 

飛行甲板。

 

爆発。

 

発艦しようとしていた一機が。

 

炎に包まれる。

 

「消火!」

 

別の機。

 

なんとか離艦。

 

だが。

 

まだ。

 

速度が出ていない。

 

敵船。

 

後方から。

 

簡単に追いつく。

 

「逃げろ!」

 

光。

 

直撃。

 

空中で。

 

航空機が砕ける。

 

さらに。

 

別の敵船。

 

発艦直後の一機。

 

狙う。

 

光。

 

墜落。

 

高橋は。

 

山城艦橋から。

 

その全てを見ていた。

 

「……まずい」

 

米内も。

 

双眼鏡を下ろせない。

 

航空機は。

 

空母から飛び立った瞬間。

 

すぐには戦闘速度へ入れない。

 

敵は。

 

そこを狙っている。

 

一機。

 

また一機。

 

飛び立つ。

 

一機。

 

撃墜。

 

別の一機。

 

どうにか高度を取る。

 

「航空隊に速度を取らせろ!」

 

高橋が叫ぶ。

 

「対空砲で敵を離せ!」

 

第一艦隊。

 

高角砲。

 

機銃。

 

一斉射撃。

 

空が。

 

砲煙に包まれる。

 

敵船。

 

一隻。

 

突っ込んでくる。

 

「撃て!」

 

高角砲弾。

 

炸裂。

 

外れ。

 

次。

 

至近。

 

さらに。

 

一発。

 

「命中!」

 

敵船外板。

 

爆発。

 

機体が。

 

大きく揺れる。

 

だが。

 

落ちない。

 

「もう一発!」

 

敵船は。

 

すぐ加速。

 

射界外。

 

高橋が。

 

歯を食いしばる。

 

「当たらん」

 

敵が速すぎる。

 

「いや」

 

米内が言う。

 

「当たれば効いている」

 

「当てられんのだ」

 

また。

 

敵船。

 

突入。

 

光。

 

今度は。

 

駆逐艦。

 

船体中央。

 

爆発。

 

「被弾!」

 

別の敵。

 

巡洋艦へ。

 

光線。

 

上部構造物。

 

炎。

 

「火災!」

 

「消火急げ!」

 

「速力を落とすな!」

 

高橋が。

 

拳を握る。

 

「対空砲が」

 

また。

 

光。

 

爆発。

 

「貧弱すぎる」

 

米内が見る。

 

高橋は。

 

目の前で傷ついていく艦隊を見る。

 

「これでは」

 

低く。

 

「全滅する」

 

          *

 

その頃。

 

上空。

 

なんとか発艦できた航空隊が。

 

敵船と戦っていた。

 

その中に。

 

黒岩利雄。

 

第一次制空隊。

 

生き残った黒岩隊も。

 

再び空へ上がっていた。

 

「散開!」

 

日本機。

 

旋回。

 

敵船。

 

通過。

 

「追うな!」

 

黒岩が叫ぶ。

 

「前と同じだ!」

 

敵は速い。

 

圧倒的に。

 

だが。

 

旋回半径が大きい。

 

「格闘戦へ引き込め!」

 

九五式艦戦。

 

急旋回。

 

敵船が。

 

追う。

 

追い越す。

 

その後ろ。

 

別の日本機。

 

七・七ミリ機銃。

 

発砲。

 

火花。

 

「駄目だ!」

 

やはり。

 

外板は抜けない。

 

「操縦席を狙え!」

 

黒岩。

 

旋回。

 

敵船。

 

戻る。

 

射撃。

 

光。

 

日本機。

 

一機。

 

爆発。

 

黒岩が。

 

振り返る。

 

「……!」

 

さらに。

 

下を見る。

 

艦隊。

 

炎。

 

空母。

 

煙。

 

駆逐艦。

 

損傷。

 

そして。

 

その先。

 

アメリカ避難船団。

 

遅い。

 

あれでは。

 

追いつかれる。

 

黒岩が。

 

敵を見る。

 

十隻。

 

いや。

 

何隻かは艦隊へ。

 

何隻かは航空隊へ。

 

なら。

 

「……こっちを見ろ」

 

黒岩が。

 

操縦桿を倒す。

 

敵船の前。

 

横切る。

 

機銃。

 

発砲。

 

火花。

 

敵船。

 

反応。

 

黒岩へ向く。

 

「そうだ」

 

黒岩が笑う。

 

「来い」

 

通信。

 

「隊長?」

 

「全機!」

 

黒岩が叫ぶ。

 

「敵を引き付けろ!」

 

「どうするんです!」

 

「逃げる!」

 

「逃げる!?」

 

「そうだ!」

 

黒岩は。

 

機首を下げた。

 

海。

 

一直線。

 

「隊長!」

 

「ついて来い!」

 

日本機。

 

急降下。

 

敵船。

 

追う。

 

速力差。

 

猛烈。

 

あっという間に。

 

距離が縮まる。

 

「追いつかれます!」

 

「まだだ!」

 

高度。

 

五百。

 

三百。

 

二百。

 

海面。

 

迫る。

 

「隊長!」

 

「まだ!」

 

百。

 

敵船。

 

さらに。

 

速い。

 

黒岩の後ろ。

 

「まだだ!」

 

五十。

 

海面。

 

波。

 

見える。

 

二十。

 

黒岩が叫んだ。

 

「起こせ!」

 

操縦桿。

 

引く。

 

九五式艦戦。

 

機首。

 

上がる。

 

海面。

 

すれすれ。

 

数メートル。

 

水平飛行。

 

波頭。

 

すぐ下。

 

僚機。

 

一斉に。

 

同じ。

 

「低い!」

 

「上げるな!」

 

黒岩が叫ぶ。

 

「そのまま走れ!」

 

後ろ。

 

敵船。

 

猛烈な速度。

 

日本機を追って。

 

急降下。

 

そして。

 

海面。

 

目前。

 

敵船が。

 

機首を上げようとする。

 

だが。

 

速すぎる。

 

旋回半径。

 

大きすぎる。

 

一隻。

 

海面へ。

 

激突。

 

巨大な水柱。

 

「一隻!」

 

さらに。

 

二隻目。

 

回避。

 

間に合わない。

 

海面。

 

激突。

 

水柱。

 

「二隻!」

 

三隻目。

 

今度は。

 

僅かに機首が上がる。

 

だが。

 

下部が。

 

海面を叩く。

 

姿勢。

 

崩れる。

 

回転。

 

そして。

 

海へ。

 

「三隻!」

 

日本機。

 

海面すれすれ。

 

飛び続ける。

 

黒岩が。

 

後ろを見る。

 

残り。

 

敵船。

 

もう。

 

追ってこない。

 

高度を取っている。

 

学習した。

 

「……畜生」

 

黒岩が呟く。

 

「一度だけか」

 

だが。

 

十分だった。

 

三隻。

 

砲弾ではない。

 

機銃でもない。

 

敵自身の速度を。

 

敵へ使った。

 

          *

 

「敵三隻墜落!」

 

山城。

 

歓声。

 

高橋が。

 

双眼鏡を上げる。

 

海上。

 

三本の水柱。

 

そして。

 

海面すれすれを飛ぶ日本機。

 

「黒岩か」

 

米内が。

 

僅かに笑う。

 

「やってくれましたな」

 

「馬鹿者め」

 

高橋も。

 

僅かに笑った。

 

「よくやった」

 

しかし。

 

残る敵船は。

 

まだいる。

 

一隻。

 

高角砲。

 

直撃。

 

外装。

 

破損。

 

別の艦から。

 

さらに射撃。

 

ついに。

 

墜落。

 

だが。

 

その間にも。

 

日本艦。

 

被弾。

 

アメリカ艦。

 

被弾。

 

空母。

 

損傷。

 

駆逐艦。

 

一隻。

 

航行不能。

 

黒煙。

 

炎。

 

海には。

 

救命艇。

 

人。

 

残った敵船。

 

やがて。

 

攻撃を止めた。

 

高度。

 

上げる。

 

そして。

 

高速で。

 

東へ。

 

離脱。

 

誰も。

 

追わなかった。

 

追えない。

 

戦闘終了。

 

静寂。

 

だが。

 

それは。

 

勝利の静寂ではなかった。

 

高橋が。

 

艦隊を見る。

 

損傷。

 

あまりにも多い。

 

航空隊。

 

さらに減った。

 

艦艇。

 

複数被害。

 

避難船団。

 

幸い。

 

大半。

 

健在。

 

高橋が。

 

静かに言った。

 

「撤退する」

 

米内が見る。

 

「ハワイへ?」

 

「ああ」

 

「敵が戻る可能性は」

 

「高い」

 

高橋は。

 

空を見る。

 

「次が十隻とは限らん」

 

米内が。

 

黙る。

 

「二十なら」

 

高橋が言う。

 

「今度こそ終わる」

 

通信員へ。

 

「全艦」

 

「ハワイへ最大可能速力」

 

「損傷艦を曳航」

 

「救助可能な漂流者を収容」

 

そして。

 

「急げ」

 

命令。

 

艦隊が。

 

再び動き始める。

 

その時。

 

見張員。

 

「敵影!」

 

高橋が。

 

空を見る。

 

遠い。

 

東。

 

点。

 

また。

 

見える。

 

戻ってきた。

 

いや。

 

増えている。

 

「数は」

 

「確認できません!」

 

高橋の表情が。

 

変わらない。

 

「そうか」

 

米内が言う。

 

「船団を急がせましょう」

 

「ああ」

 

高橋は。

 

避難船団を見る。

 

遅い。

 

損傷艦もいる。

 

このまま。

 

全艦で走れば。

 

また追いつかれる。

 

「米内」

 

「はい」

 

「山城を残す」

 

米内が。

 

一瞬。

 

意味を理解できなかった。

 

「……何を」

 

「山城で時間を稼ぐ」

 

「待ってください」

 

「第一艦隊は」

 

高橋が。

 

米内を見る。

 

「お前が連れて帰れ」

 

「断ります」

 

「命令だ」

 

「高橋さん!」

 

「聞け」

 

高橋の声が。

 

強くなる。

 

「空母を帰せ」

 

「残った航空機も」

 

「巡洋艦も」

 

「駆逐艦も」

 

「一隻でも多く」

 

「ハワイへ持って帰れ」

 

「山城だって同じです!」

 

「ああ」

 

高橋が。

 

静かに頷いた。

 

「だから使う」

 

「……」

 

「戦艦だ」

 

山城。

 

巨大な船体。

 

厚い装甲。

 

多数の砲。

 

「盾としては」

 

高橋が笑う。

 

「これ以上ない」

 

米内は。

 

何も言えない。

 

高橋が続ける。

 

「それに」

 

「……」

 

「ちょうどいい」

 

「何がです」

 

高橋の目が。

 

鋭くなる。

 

「本国だ」

 

米内が。

 

息を止める。

 

「連中は」

 

高橋が言う。

 

「この報告を読んでも」

 

「アメリカが弱った」

 

「好機だ」

 

「権益を取れる」

 

「そう考える奴がいる」

 

「……」

 

「大型生命体を撃破した」

 

「小型船も撃墜した」

 

「それだけを見て」

 

拳を握る。

 

「勝てると思う」

 

米内が言う。

 

「だからって」

 

「第一艦隊司令長官が」

 

高橋は。

 

自分を指す。

 

「敵航空戦力との戦闘で」

 

山城の甲板を踏む。

 

「戦艦と共に沈めば」

 

米内が。

 

睨む。

 

「……」

 

「少しは」

 

高橋が。

 

笑う。

 

「目が覚めるだろう」

 

「ふざけないでください!」

 

米内が怒鳴った。

 

艦橋が。

 

静まり返る。

 

「そのために死ぬ人間がありますか!」

 

「ここにいる」

 

「高橋さん!」

 

「それだけじゃない」

 

高橋が。

 

遠ざかろうとしている船団を見る。

 

「奴らを逃がす時間がいる」

 

「……」

 

「なら」

 

米内を見る。

 

「俺の死にも」

 

「山城の沈没にも」

 

「ちゃんと意味がある」

 

米内は。

 

歯を食いしばった。

 

「あなたが帰って言えばいい」

 

「俺が死んだからといって」

 

「……」

 

「お前まで死ぬ必要はない」

 

高橋が。

 

米内の肩へ手を置く。

 

「お前は帰れ」

 

「そして」

 

「見たままを言え」

 

米内は。

 

動かなかった。

 

高橋が。

 

最後に。

 

穏やかな声で言う。

 

「米内」

 

「これは命令だ」

 

          *

 

山城から。

 

必要のない人員が移乗する。

 

負傷者。

 

航空関係者。

 

幕僚。

 

米内。

 

それでも。

 

艦を動かすために必要な者。

 

戦うために必要な者。

 

そして。

 

自ら残ることを選んだ者。

 

山城は。

 

艦隊から。

 

ゆっくり離れていった。

 

一隻。

 

東へ。

 

艦隊は。

 

西へ。

 

米内は。

 

移乗した艦の甲板から。

 

山城を見ていた。

 

「高橋さん……」

 

誰も。

 

何も言わない。

 

山城。

 

回頭。

 

艦首を。

 

敵へ。

 

          *

 

山城艦橋。

 

見張員。

 

「敵影接近!」

 

高橋が。

 

双眼鏡を構える。

 

「何隻だ」

 

「七!」

 

「先ほどの残存敵と思われます!」

 

高橋が。

 

小さく笑った。

 

「来たか」

 

艦長が尋ねる。

 

「司令」

 

「何だ」

 

「最後までお付き合いします」

 

高橋が。

 

横を見る。

 

「勝手に最後にするな」

 

艦長が。

 

一瞬。

 

呆気に取られる。

 

高橋は。

 

敵を見る。

 

「できれば」

 

「……」

 

「生きて帰るぞ」

 

艦長が。

 

笑った。

 

「はっ!」

 

「ただし」

 

高橋は。

 

西。

 

もう。

 

小さくなった味方艦隊を見る。

 

「連中が逃げ切るまでは」

 

敵船。

 

接近。

 

「一歩も退かん」

 

警報。

 

対空砲。

 

旋回。

 

機銃。

 

弾薬。

 

水兵たちが。

 

配置につく。

 

高橋三吉が。

 

最後の命令を下す。

 

「対空戦闘用意」

 

敵船。

 

急降下。

 

「撃て!」

 

山城。

 

一隻。

 

発砲。

 

空。

 

砲弾。

 

炸裂。

 

敵船。

 

回避。

 

光。

 

山城。

 

被弾。

 

爆発。

 

「右舷被弾!」

 

「構うな!」

 

また。

 

光。

 

上部構造物。

 

炎。

 

「消火!」

 

高角砲。

 

射撃。

 

一発。

 

至近。

 

敵船。

 

揺れる。

 

「撃ち続けろ!」

 

山城は。

 

逃げない。

 

むしろ。

 

敵へ向かう。

 

七隻。

 

その全ての注意が。

 

一隻の戦艦へ向く。

 

光。

 

爆発。

 

光。

 

爆発。

 

甲板。

 

炎。

 

艦橋。

 

破片。

 

人間。

 

倒れる。

 

高橋の額。

 

血。

 

それでも。

 

立っている。

 

「まだだ!」

 

西。

 

艦隊。

 

見えなくなり始める。

 

「もう少しだ!」

 

敵船。

 

一隻。

 

低空。

 

接近。

 

高橋が叫ぶ。

 

「右舷!」

 

機銃。

 

一斉射。

 

火花。

 

敵船。

 

そのまま通過。

 

また。

 

大回り。

 

高橋が。

 

笑う。

 

「黒岩ほど」

 

咳。

 

血。

 

「上手くはやれんな」

 

また。

 

光。

 

今度は。

 

艦橋下。

 

轟音。

 

高橋が。

 

床へ叩きつけられる。

 

「司令!」

 

身体を起こす。

 

「損害!」

 

「浸水!」

 

「速力低下!」

 

「前部高角砲、一部射撃不能!」

 

「後部は!」

 

「生きています!」

 

「なら」

 

立つ。

 

「撃て」

 

山城。

 

まだ。

 

撃つ。

 

一発。

 

二発。

 

敵船を。

 

空へ追い続ける。

 

そして。

 

西。

 

もう。

 

味方艦隊は。

 

見えない。

 

高橋は。

 

それを確認した。

 

「……行ったか」

 

誰かが。

 

答える。

 

「はい」

 

高橋が。

 

小さく息を吐く。

 

「そうか」

 

もう。

 

十分だった。

 

アメリカ避難船団。

 

日本第一艦隊。

 

米内。

 

黒岩。

 

生き残った者たち。

 

全て。

 

逃げた。

 

高橋は。

 

燃える艦橋から。

 

空を見る。

 

敵船。

 

まだ。

 

いる。

 

「これで」

 

小さく。

 

「分かるだろう」

 

日本。

 

海軍省。

 

軍令部。

 

政府。

 

陸軍。

 

アメリカが弱ったから。

 

権益を。

 

領土を。

 

利権を。

 

そんなことを言っている者たちへ。

 

「第一艦隊司令長官が」

 

光。

 

「戦艦ごと」

 

さらに。

 

光。

 

「空から沈められたんだ」

 

高橋が。

 

笑った。

 

「これでも」

 

敵船。

 

真正面。

 

白く光る。

 

「分からんなら」

 

高橋は。

 

最後まで。

 

立っていた。

 

「本物の馬鹿だ」

 

閃光。

 

山城艦橋。

 

直撃。

 

轟音。

 

          

 

遥か西。

 

米内が。

 

振り返った。

 

水平線。

 

小さな。

 

黒煙。

 

そして。

 

一瞬。

 

赤い光。

 

山城がいた場所。

 

それだけだった。

 

通信員が。

 

米内へ近づく。

 

何も言わない。

 

言う必要もなかった。

 

米内が。

 

帽子を取る。

 

周囲の将兵も。

 

一人ずつ。

 

帽子を取った。

 

スプルーアンスも。

 

遠くから。

 

同じ方向を見ていた。

 

日本語は分からない。

 

だが。

 

何が起きたかは。

 

分かっている。

 

一隻の戦艦が。

 

自分たちを逃がすために。

 

反対方向へ進んだ。

 

米内が。

 

長い間。

 

水平線を見ていた。

 

やがて。

 

帽子を被る。

 

「通信」

 

「はっ」

 

「ハワイへ」

 

通信員が構える。

 

「第一艦隊」

 

米内は。

 

一度だけ。

 

目を閉じる。

 

そして。

 

開く。

 

「敵航空兵力十機と交戦」

 

「航空隊及び各艦」

 

「重大なる損害」

 

「敵機複数撃墜」

 

「残存艦隊及び米国避難船団」

 

「ハワイへ撤退中」

 

通信員が。

 

書き取る。

 

米内は続けた。

 

「旗艦山城」

 

止まる。

 

「敵航空部隊阻止のため」

 

「単艦にて殿戦を実施」

 

さらに。

 

一呼吸。

 

「第一艦隊司令長官」

 

「高橋三吉大将」

 

「戦死と判断す」

 

通信員の手が。

 

僅かに震えた。

 

米内は。

 

最後に付け加える。

 

「追記」

 

「敵航空兵力」

 

「我が既存艦隊戦術に対し」

 

「圧倒的優位を有す」

 

「制空権なき艦隊行動」

 

高橋の言葉を。

 

そのまま。

 

日本へ届ける。

 

「極めて困難なり」

 

そして。

 

「航空兵力」

 

「防空能力」

 

「至急」

 

一瞬。

 

沈んだ山城を見る。

 

「抜本的再検討を要す」

 

通信員が。

 

送信する。

 

電波が。

 

ハワイへ。

 

そこから。

 

日本へ向かう。

 

高橋三吉が。

 

山城と。

 

自分自身を使って。

 

日本へ送りつけた。

 

最後の報告だった。

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