生存戦争 1936   作:四国の探索人

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第6話 初戦

 

パットンの命令を受けたアメリカ陸軍部隊は、瓦礫と放棄車両の間を縫うように前進していた。

 

空には、巨大な航空戦艦。

 

その周囲をいくつもの小型船が飛び交っている。

 

それでも地上部隊は進んだ。

 

敵の歩兵は殺せる。

 

それだけはもう分かっていた。

 

交差点の先。

 

異星人歩兵が姿を現す。

 

十数体。

 

人間とほぼ同じ背丈。

 

左手には光線銃。

 

右腕は、戦闘になると数ヤードまで伸びる触手。

 

「敵歩兵!」

 

「伏せろ!」

 

最初の光線が走った。

 

道路脇の壁が赤く焼ける。

 

「撃て!」

 

M1903小銃。

 

BAR。

 

M1917重機関銃。

 

一斉に火を噴いた。

 

異星人の腹部から緑色の血が飛ぶ。

 

「効いてる!」

 

一体が倒れる。

 

もう一体。

 

しかし敵も撃ち返す。

 

光線が土嚢を貫き、その後ろにいた兵士ごと焼いた。

 

「機関銃班!」

 

「まだ生きてる!」

 

「撃て!止まるな!」

 

別の異星人が距離を詰めてくる。

 

右腕が伸びた。

 

兵士の小銃へ絡みつく。

 

「クソッ!」

 

引きずられる。

 

仲間がBARを撃ち込む。

 

腹部。

 

緑の血。

 

異星人が倒れる。

 

「助かった!」

 

「礼は後だ!次が来る!」

 

兵士たちは撃った。

 

撃ち続けた。

 

だが、敵の数は減らない。

 

瓦礫の向こうから次々と現れる。

 

「多すぎる!」

 

「弾倉!」

 

「最後だ!」

 

BAR射手が新しい弾倉を叩き込む。

 

「こいつを使い切ったら石でも投げるぞ!」

 

隣の兵士が叫ぶ。

 

「火星人相手に石投げるのか!?」

 

「頭に当たりゃ何でも痛えだろ!」

 

銃声。

 

光線。

 

悲鳴。

 

緑色の血。

 

赤い血。

 

道路の色が混ざっていく。

 

パットンは後方から戦況を見ていた。

 

「押されているな」

 

側近が答える。

 

「敵歩兵そのものには対抗できます。しかし数が……」

 

「機関銃を前へ」

 

「これ以上前に出せば光線に――」

 

「分かっている」

 

パットンは双眼鏡を覗く。

 

「だがこのままでも押し切られる」

 

その時。

 

空から、別の音が聞こえた。

 

最初は誰も気付かなかった。

 

エンジン音。

 

複数。

 

兵士の一人が顔を上げる。

 

「……飛行機?」

 

別の兵士も見る。

 

「おい……」

 

遠くから編隊が近づいてくる。

 

星条旗。

 

アメリカ陸軍航空隊。

 

「味方だ!」

 

一人が叫んだ。

 

その声が、戦場全体へ広がった。

 

「味方の航空隊だ!」

 

「空軍が来たぞ!」

 

「助かった!」

 

兵士たちの表情が変わる。

 

さっきまで押されていた男たちが、一斉に立ち上がる。

 

「見たか火星人!」

 

「こっちは歩兵だけじゃねえぞ!」

 

「アメリカへようこそ!」

 

航空隊が低空へ入る。

 

翼下から機関銃が火を噴いた。

 

地面へ一列に土煙が走る。

 

異星人歩兵へ弾丸が降り注いだ。

 

頭。

 

腹。

 

緑色の血。

 

一体。

 

二体。

 

三体。

 

次々と倒れる。

 

「うおおおおお!」

 

地上の兵士たちから歓声が上がった。

 

「そのままやれ!」

 

「全部掃除しろ!」

 

別の機体が進入。

 

機銃掃射。

 

異星人の集団が吹き飛ぶ。

 

逃げようとした一体へBAR射手が撃ち込む。

 

「どこ行くんだ!」

 

倒れる。

 

数分もしないうちに、地上にいた異星人歩兵はほぼ一掃された。

 

信じられないほどだった。

 

つい先ほどまで死を覚悟していた兵士たちが、今は空を見上げて笑っている。

 

「やった!」

 

「勝てるぞ!」

 

「火星人なんざ大したことねえ!」

 

一人が帽子を振り回した。

 

「今日の酒は陸軍航空隊持ちだ!」

 

上空の航空機が翼を振る。

 

兵士たちがさらに歓声を上げた。

 

パットンもその様子を見ていた。

 

「悪くない」

 

側近が笑う。

 

「これなら一度離脱できます」

 

「ああ」

 

パットンは頷く。

 

「敵が態勢を立て直す前に下がる」

 

伝令が走る。

 

「全隊、後退準備!」

 

兵士たちは負傷者を担ぎ始める。

 

鹵獲した光線銃。

 

敵の死体。

 

可能な限り回収する。

 

「航空隊に上空援護を――」

 

側近が言いかけた。

 

その時。

 

空の向こうに、別の影が現れた。

 

速い。

 

航空隊とは比較にならない。

 

黒い小型船。

 

一機。

 

二機。

 

さらにその後ろ。

 

「敵機!」

 

誰かが叫んだ。

 

航空隊も気付いた。

 

編隊が旋回する。

 

「迎撃するぞ!」

 

地上からは聞こえない。

 

しかし、そう言っているのが分かるようだった。

 

アメリカ機が敵小型船へ向かう。

 

地上の兵士たちはまた歓声を上げた。

 

「やっちまえ!」

 

「今度は空で勝負だ!」

 

しかし。

 

その歓声は長く続かなかった。

 

先頭の航空機が機銃を撃つ。

 

弾丸が小型船へ当たる。

 

火花。

 

それだけ。

 

「……効いてない?」

 

誰かが呟いた。

 

小型船が機首を向ける。

 

光。

 

アメリカ機の翼が一瞬で焼け落ちた。

 

機体が回転する。

 

墜落。

 

地上へ激突した。

 

爆発。

 

兵士たちの声が止まる。

 

「……おい」

 

二機目。

 

光線。

 

機首が消える。

 

機体がそのまま地面へ落ちる。

 

三機目。

 

旋回しようとする。

 

小型船はそれより遥かに速い。

 

後ろへ回り込む。

 

光。

 

尾翼がなくなる。

 

「嘘だろ……」

 

さっきまで空を支配していた味方航空隊が。

 

何もできない。

 

一機。

 

また一機。

 

落ちる。

 

パットンは双眼鏡を握り締めた。

 

「撤退を急がせろ」

 

側近が答える。

 

「はい!」

 

「今すぐだ!」

 

上空。

 

最後の数機が離脱しようとする。

 

しかし敵小型船が追う。

 

光線。

 

一機が炎を上げる。

 

もう一機。

 

墜落。

 

数分。

 

それだけだった。

 

地上部隊を救った航空隊は。

 

ほぼ壊滅した。

 

兵士たちは声を失っていた。

 

「……全部?」

 

「全部やられたのか?」

 

その時。

 

別の音。

 

地面が揺れた。

 

ズン。

 

ズン。

 

ズン。

 

「何だ?」

 

兵士が振り返る。

 

瓦礫の向こう。

 

何か巨大なものが動いている。

 

最初は建物の残骸に見えた。

 

だが違う。

 

生きている。

 

巨大な胴体。

 

そこから伸びる何本もの太い触手。

 

まるでタコ。

 

だが家ほどの大きさがある。

 

「……冗談だろ」

 

「今度は何なんだよ……」

 

大型異星生物は瓦礫を押し退けて進んでくる。

 

触手の一本が放棄された乗用車へ伸びる。

 

掴む。

 

持ち上げる。

 

そして。

 

投げた。

 

車が宙を飛ぶ。

 

兵士たちの近くへ落下する。

 

「伏せろ!」

 

爆発。

 

「撤退!」

 

軍曹が叫ぶ。

 

「撤退しろ!」

 

兵士たちが走り始める。

 

しかし部隊は既に疲弊していた。

 

死傷者多数。

 

弾薬も減っている。

 

負傷兵を抱えている。

 

その後ろから巨大な異星生物が迫る。

 

「追いつかれるぞ!」

 

パットンが振り返った。

 

「戦車隊は?」

 

「三両残っています!」

 

パットンは一瞬だけ黙った。

 

虎の子。

 

この場に残る貴重な装甲戦力。

 

「前へ出せ」

 

側近がパットンを見る。

 

意味は分かっていた。

 

「……殿ですか」

 

「ああ」

 

「戻ってこられない可能性があります」

 

パットンは戦車を見る。

 

「知っている」

 

側近は何も言わなかった。

 

命令が伝えられる。

 

戦車長がハッチから顔を出した。

 

「俺たちが殿か?」

 

伝令が頷く。

 

「将軍命令です」

 

戦車長は一瞬だけ後ろを見る。

 

逃げていく仲間。

 

負傷者。

 

衛生兵。

 

そして巨大なタコ型異星生物。

 

「分かった」

 

ハッチへ戻る。

 

車内。

 

「聞いたな」

 

操縦手が答える。

 

「聞きました」

 

砲手が苦笑する。

 

「最高の仕事ですね」

 

「文句あるか?」

 

「ありませんよ」

 

砲手が照準器を覗く。

 

「ただ、今日の夕飯に間に合わなさそうだと思っただけです」

 

装填手が砲弾を押し込む。

 

「俺の分も食っていいぞ」

 

「帰ったらな」

 

「じゃあ帰るしかないですね」

 

戦車長が笑う。

 

「その意気だ」

 

三両の戦車が反転する。

 

逃げる味方とは逆方向へ。

 

巨大異星生物へ向かう。

 

兵士たちがそれを見る。

 

「戦車隊……」

 

「戻ってるぞ」

 

「殿だ」

 

一両目。

 

停止。

 

砲塔旋回。

 

「距離!」

 

「四百!」

 

「撃て!」

 

砲撃。

 

命中。

 

大型異星生物の胴体で爆発。

 

巨体が揺れた。

 

「効いた!」

 

二両目。

 

発砲。

 

別の触手が吹き飛ぶ。

 

緑色とも黄色ともつかない液体が飛び散る。

 

「やれるぞ!」

 

戦車兵が叫ぶ。

 

大型異星生物が怒ったように身体を震わせる。

 

触手が伸びる。

 

一両目の車体へ巻きつく。

 

「何だ!?」

 

車体が傾く。

 

「後退!」

 

操縦手がエンジンを唸らせる。

 

無理だった。

 

巨大な触手が戦車を持ち上げる。

 

「嘘だろ!」

 

車内が傾く。

 

戦車長が叫ぶ。

 

「撃て!撃て!」

 

砲手が無理矢理照準。

 

至近距離。

 

発砲。

 

爆発。

 

異星生物が悲鳴のような音を上げる。

 

だが触手は離れない。

 

戦車が持ち上げられる。

 

数メートル。

 

そして地面へ叩きつけられた。

 

車体が潰れる。

 

二両目と三両目が撃つ。

 

砲弾が次々と命中。

 

異星生物の身体に傷が増える。

 

「まだ来る!」

 

「撃ち続けろ!」

 

三両目の戦車長が叫ぶ。

 

「こいつを通したら歩兵がやられる!」

 

「分かってます!」

 

装填。

 

砲撃。

 

触手一本が切れる。

 

「一本!」

 

「まだ何本あるんだ!」

 

「数えるな!気が滅入る!」

 

その時。

 

上空。

 

小型船。

 

戦車長が気付く。

 

「……あ」

 

光。

 

二両目。

 

直撃。

 

装甲を貫通。

 

爆発。

 

三両目だけが残る。

 

「二号車!」

 

応答なし。

 

大型異星生物も迫る。

 

敵小型船も上空にいる。

 

逃げ道はない。

 

戦車長は一度だけ後ろを見た。

 

遠く。

 

味方の歩兵が撤退している。

 

十分距離が開いていた。

 

「よし」

 

砲手が聞く。

 

「何がです?」

 

「仕事はした」

 

戦車長がハッチを閉じる。

 

「最後まで撃つぞ」

 

「イエス・サー」

 

装填手が最後の砲弾を持つ。

 

「これで終わりです」

 

「なら外すな」

 

「砲手に言ってくださいよ」

 

「聞こえてるぞ!」

 

全員が笑った。

 

ほんの一瞬。

 

最後の砲弾が装填される。

 

砲塔が大型異星生物へ向く。

 

「撃て!」

 

轟音。

 

命中。

 

巨体から体液が噴き出す。

 

しかし倒れない。

 

「……タフな野郎だ」

 

上空。

 

小型船の光が強くなる。

 

戦車長が呟く。

 

「じゃあな、火星人」

 

光線。

 

三両目の戦車が炎に包まれた。

 

遠くから。

 

パットンはその最後を見ていた。

 

側近が静かに言う。

 

「戦車隊、全滅です」

 

パットンは答えなかった。

 

双眼鏡を下ろす。

 

撤退する兵士たちは、もう敵から十分離れている。

 

戦車隊は役目を果たした。

 

だからこそ。

 

パットンの顔には怒りが浮かんでいた。

 

「名前を記録しろ」

 

「全員ですか?」

 

「全員だ」

 

少し間を置く。

 

「あいつらのおかげで歩兵が帰れる」

 

パットンは燃える戦場を見る。

 

航空隊。

 

戦車隊。

 

歩兵。

 

一度は勝利を掴みかけた。

 

だが敵が本格的に戦力を投入した瞬間。

 

すべてがひっくり返った。

 

「将軍」

 

側近が尋ねる。

 

「今回の戦闘……どう評価されますか」

 

パットンはしばらく答えなかった。

 

やがて口を開く。

 

「歩兵同士なら勝てる」

 

「はい」

 

「航空機相手には勝負にならん」

 

「……はい」

 

「あの大きなタコも砲撃で傷つく」

 

「はい」

 

「戦車は足止めには使える」

 

そこで少しだけ表情が歪む。

 

「代償は馬鹿みたいに高いがな」

 

パットンは踵を返した。

 

「戻るぞ」

 

「次は?」

 

側近が聞く。

 

パットンは歩きながら答えた。

 

「次は――」

 

空に浮かぶ航空戦艦を見る。

 

「どうやってあれを落とすか考える」

 

側近が乾いた笑いを漏らす。

 

「簡単に言いますね」

 

「簡単な仕事なら俺はいらん」

 

パットンはそれだけ言って歩き続けた。

 

この日。

 

アメリカ陸軍は異星人歩兵との地上戦に勝利した。

 

そして。

 

異星人との戦争には敗北した。

 

人類は初めて知った。

 

敵は殺せる。

 

傷つけられる。

 

止めることもできる。

 

だが。

 

それだけでは勝てない。

 

空を奪われたままでは――

 

どれだけ勇敢に戦っても、最後には焼かれる。

 

それが。

 

人類が最初の戦闘で支払った、あまりにも高価な授業料だった。

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