お前を無責任保護者罪で逮捕する!   作:アルピ交通事務局

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カードゲームとはジャンケンに勝った者が勝利する者である。

 

「はぁ〜家に帰っても仕事か……」

 

 もうすぐ日を跨ぐのではないのかと言える時間帯の路地で男は溜め息を吐いた。

 男の名は暁桜里(あかつきおうり)、遊学社の社員でありスピリットモンスターズのゲーム開発部の人間である。

 現在WSRGの開催を記念して世界大会本戦の出場者達に無料で配布する世に言うイラスト違いのカードを作る仕事をしている。既存のカードのイラスト違いはどんなイラストにするか、更には世界大会本戦の出場者達に配るのに相応しいレベルのカードでなければならず、どのカードにすればいいのか等を決めるのに日々悪戦苦闘しており仕事を家に持ち帰らないといけないぐらいに追い込まれていた。

 

「暁桜里だな」

 

「うわ、不審者!?」

 

「……」

 

 家に向かって帰ろうとしているとヘルメットを被ったダミ声の体格が良い人間に声をかけられた。

 顔も分からない。服装はレザースーツで体格が良いだけの人だとしか分からないので暁は思わず不審者!?と叫ぶが謎の人物は1枚のカードを取り出した。

 

「【無限の暴食魔人 ソウルイーター】……っ!!黒のスピリットの7つのエースモンスターの1枚!?まさか、皆既日色(エクリプス)の幹部か!?」

 

「お前に闇のバトルを仕掛ける」

 

「……闇討ちか!!」

 

 WSRGは表も裏も含めての本当の世界一を決める大会だ。

 裏の住人はスピリットモンスターズの勝敗により莫大な金を動かす非公式戦のバトルに挑んでいる。そして裏の住人の中にはコイツは危険だと思われる存在に対して闇討ちをすることがある。暁は【無限の暴食魔人 ソウルイーター】を見せた男がその闇討ちを自分に仕掛けてきたのだと分かり、デッキを取り出した。

 

「黒のスピリットの7つのエースモンスターは危険だ。それに闇討ちだなんて卑怯な真似は許せない!ここで俺が倒す!」

 

「闇のバトルはただのバトルではない」

 

「ああ、知っている!命を賭けたバトルなのもな!」

 

「ならば話は早い。こちらはこの【無限の暴食魔人 ソウルイーター】のカードと我が命をどういう風に扱うか、生殺与奪の権利を賭けよう」

 

「俺はなんだって賭けてやる!」

 

「……その言葉に嘘偽りは無いな?」

 

「ああ……俺のデッキにレアカードは入っているが、黒のスピリットの7つのエースモンスターと同価のレアカード、十二使徒は1枚も無い。お前が黒のスピリットの7つのエースモンスターと命を賭けるのならば、俺はなんだって賭けてやるさ!」

 

「……なるほど、ならばバトルは成立だ」

 

 謎の人物は【無限の暴食魔人 ソウルイーター】のカードとそれを操る自分の生殺与奪の権利をチップイン。

 【無限の暴食魔人 ソウルイーター】と同価のカードが持っておらず命をチップインされているのでそれに釣り合う様になんでも言うことを聞くとする。

 闇のバトルは文字通り闇討ちが出来る。ただ普通に勝負を挑んだだけなのに、負けた方が命を奪われる闇のバトルを強制的に起こせる……が、何事にも特例がある。命以外、例えばカードやお金を賭けた闇のバトルも存在している。どうでもいいクソカード100枚を負ければ失い1枚数十万円するレアカードを勝てば手に入る、と言うデメリット要素が少ない闇のバトルは出来ない。

 所謂、シャークトレードみたいな事は出来ず自分もしくは相手が提示する物と同価の物を用意しなければならないのが基本であるが、対価が釣り合っていなくてもお互いにその条件での勝負を認めるのであれば対価が釣り合っていなくても闇のバトルは出来る。

 暁と謎の人物との間に闇のバトルが成立し、カードゲーム物あるあるの何処からともなくカードゲームをプレイする為のテーブル、周りに迷惑を掛けない特殊な異空間が生まれた。互いにデッキをシャッフルし、交換。相手のデッキをシャッフルした。

 

「「最初はグー!ジャンケンポン!!」」

 

 そしてジャンケンが始まる。

 スピリットモンスターズ公式ルールとして先攻後攻を決めるのはジャンケンである。裏世界ではコイントスだったり対価が見合わないから後攻を譲ったりとか色々とあるが、公式大会の公式ルールとして先攻後攻決めるのはジャンケンである。

 もうすぐ日を跨ぐんじゃないかと思える時間帯に先攻後攻を決めるジャンケンをする。なんとも言えない絵面ではあるが、ホビーアニメあるあるなのでいちいち気にしていたらキリが無い。

 

「っ……」

 

「先攻を貰おう」

 

 ジャンケンの結果、暁は謎の人物に敗北した。

 謎の人物は先攻を貰うと言いデッキからカードを5枚ドローする。暁もデッキからカードを5枚ドローした。

 

「……」

 

 暁のデッキはシャルルマーニュ十二勇士が元ネタの十二勇者デッキ。

 十二使徒と7つの黒のスピリットのエースモンスターには劣る物の売れば大金になるレアカードが何枚かある。そして暁自身は日本のA級バトラーと実力者だ。しかし暁は油断しない。あくまでも自分はスピリットモンスターズ協会の日本支部がA級と決めたA級バトラーだ、全世界基準でA級と認定されるオフィシャルA級バトラーではない。腕にそこそこ自信はあるものの上には上が居るのを知っている。自身の持っている十二勇者のカード以上のレアカードである【無限の暴食魔人 ソウルイーター】を謎の人物が持っている。

 【無限の暴食魔人 ソウルイーター】がどんなカードかは知らないが恐ろしい効果を持っているだろう。【無限の暴食魔人 ソウルイーター】を使役する謎の人物のデッキは【無限の暴食魔人 ソウルイーター】をエースとするデッキだろう。油断や慢心はした時点で恐ろしいカードを扱う謎の人物に負けると判断し集中力を高める。

 

「悪くはないか」

 

 暁は手札を確認し、そこから出来るコンボ等を考える。

 召喚コスト0でカテゴリー限定だがサーチや墓地肥やしが出来る強力な効果を持っているモンスターや十二勇者のカテゴリーのモンスターにのみ装備出来る強力なアームズカードも握られている。自分にとって最強であり最高の手札ではないが、この手札ならば色々と出来ると言ったところだ。

 

「俺のターン、俺は【貯金王 バンキング】を召喚」

 

「なっ!?ピンク色のスピリットのモンスター!?」

 

 謎の人物が最初に出したカードは【貯金王 バンキング】ルール介入系の効果が多いピンク色のスピリットのモンスターだ。

 7つの黒のスピリットのエースモンスターのデッキだと思ったがピンク色のスピリットのモンスターが出てきた事に暁は驚くが、直ぐに冷静になる。スピリットモンスターズは無限の可能性を秘めており、他の色のスピリットと組み合わせる事で可能性を広げれる。【無限の暴食魔人 ソウルイーター】のカードの効果は分からないがもしかしたらピンク色と相性がいいのかもしれない。

 

 

 【貯金王 バンキング】

 

 レベル1 攻撃力0 防御力0 召喚コスト0 生贄コスト0 ピンク色のスピリット カテゴリー【無】

 

 

「俺はマジックカード、【悪戯餓鬼(イタズラ書き)】を発動!……カウンターは?」

 

「無い!」

 

「【悪戯餓鬼(イタズラ書き)】はこのターン、カードの効果テキストに記されているテキストを別のテキストに書き換える!俺はカードの効果テキストに記された召喚コストの部分をライフコストのテキストに書き換える!尚、このカードはこのバトルで1回しか使えず、カードの効果のみをコピーしコストを無視して使用する効果でもこのカードの効果は発動出来ない!」

 

「っく……ピンク色のスピリットあるあるのルール介入系のカードか」

 

「この時点でカウンターカードは?」

 

「無い!」

 

「ならば俺はキャッスルカード、【サクラダファミリーの未完の灯台】を発動!このカードに対するカウンターカードは?」

 

「無い!」

 

 なんかさっきからやたらとカウンターカードについて気にしているな。

 おそらくは相手はコンボの何処かでカウンターカードを使われるかどうかを危惧している。しかし残念か、暁は手札に1枚もカウンターカードを握っていない。しかしそれは言わない、それだけでブラフになるから。

 

「俺は【不老の死霊魔術師(ネクロマンサー)】を召喚!カウンターカードは?」

 

「無い!」

 

 

 【不老の死霊魔術師(ネクロマンサー)

 

 

 レベル1 攻撃力0 守備力0 召喚コスト0 生贄コスト1 黒のスピリット カテゴリー【無】

 

 

「遂に出てきたか……」

 

 黒のスピリットのモンスターが出てきた。

 先ほどから何度も何度もカウンターカードの確認をしてきているので、なにかスゴいコンボを狙っている。【無限の暴食魔人 ソウルイーター】に繋がる恐ろしいコンボが。

 

「【貯金王 バンキング】の効果を発動!【貯金王 バンキング】は自分フィールドにある【貯金王 バンキング】以外のモンスターを1枚選んで墓地に送る!墓地に送られたモンスターの生贄コストを【貯金王 バンキング】に加算される!更に【不老の死霊魔術師(ネクロマンサー)】の効果を発動!このカードが墓地にある時、ライフを1つ消費する事で墓地にあるこのカードを手札に加える!カウンターカードは?」

 

「無し!……生贄コスト2,強いモンスターが来るか!」

 

 【貯金王 バンキング】の生贄コストが1になった。

 【不老の死霊魔術師(ネクロマンサー)】が手札に加わったので再び召喚出来る。

 まだ謎の人物の初期の手札の内の最後の1枚が判明していない。生贄コストを2用意したので強いモンスターがやってくるかと予測するが……その予測は軽々と裏切られた。

 

「この瞬間、キャッスルカードの【サクラダファミリーの未完の灯台】の効果を発動!」

 

「……キャッスルカードは永続効果だからカードを出した瞬間が発動であって、なにかをトリガーに効果を発動!と扱わないぞ?」

 

「……そうなのか?」

 

「おいおい、常識だろう」

 

「そうか……発動と扱わなくても効果は発揮される!【サクラダファミリーの未完の灯台】の3つの効果の内の1つ!全てのスピリットのモンスターの召喚コストを1つ減らす!」

 

「つまり、召喚コスト3のより強力なモンスターが」

 

「なにを言っている?マジックカード、【悪戯餓鬼(イタズラ書き)】の効果でこのターン、召喚コストのテキストがライフコストに変わっている。【サクラダファミリーの未完の灯台】のモンスターの召喚コストのテキストはライフコストに書き換わる!……このターンのみライフをコストにする効果が発動するカードにライフコストを1つ減らす!」

 

「っ、な!?」

 

「ライフコストが0の場合の裁定として、そのカードの効果はライフを0個支払ったとして扱い効果を発動出来る。本来はライフを1つコストにしなければならないが、このターンだけ【サクラダファミリーの未完の灯台】の効果のおかげで俺はライフを0個支払い【不老の死霊魔術師(ネクロマンサー)】を手札に加える事が出来る。カウンターカードは?」

 

「っちょ、ちょっと待て……………………………確か【貯金王 バンキング】の効果は……」

 

「自身の効果で自身の生贄コストが100を越えた時にそのバトルに勝利する、特殊勝利カードだ!」

 

「っ…………無限、ループ……」

 

 【不老の死霊魔術師(ネクロマンサー)】を召喚し【貯金王 バンキング】の効果で生贄にして墓地に送る。墓地に送られた【不老の死霊魔術師(ネクロマンサー)】は自身の効果で手札に加えれる。本来はライフを1つコストに使わなければならないが【悪戯餓鬼(イタズラ書き)】により効果テキストを書き換えられた【サクラダファミリーの未完の灯台】によりライフコストを1つ減らす。

 【不老の死霊魔術師(ネクロマンサー)】の効果は1ターンに1度でも名称ターン1でも1回でもバトル中に1回でもない、何度でも使える。しかしスピリットモンスターズの初期ライフは3なのでライフ補充カードを使わない限りは2回しか使えない。

 【貯金王 バンキング】の効果で【不老の死霊魔術師(ネクロマンサー)】を墓地に送り、【貯金王 バンキング】の生贄コストを増やし、墓地にある【不老の死霊魔術師(ネクロマンサー)】の効果で【不老の死霊魔術師(ネクロマンサー)】を手札に加え、再び【不老の死霊魔術師(ネクロマンサー)】を召喚し【貯金王 バンキング】の効果で生贄にする。本来であれば【不老の死霊魔術師(ネクロマンサー)】の効果にはライフを1つコストにしなければならないが【悪戯餓鬼(イタズラ書き)】の効果でライフコストを0として扱うテキストになった【サクラダファミリーの未完の灯台】のおかげでコストを踏み倒せる。

 【不老の死霊魔術師(ネクロマンサー)】のカードを手札に加えて生贄にする事の無限ループが完成しているのだと暁は即座に気付いた。そして自分がそのループを妨害するカードを1枚も握っていないのを。

 

「知っているとは思うが、闇のバトルでは八百長防止の為にサレンダーは出来ない……終わりだ!!」

 

 【不老の死霊魔術師(ネクロマンサー)】のカードの生贄コストのみで【貯金王 バンキング】の生贄コストを100にした。【貯金王 バンキング】の効果が発動し、謎の人物の勝利が決まり暁がバトルに敗北した。

 

「っ……こんなの、こんなのはスピリットモンスターズじゃ」

 

「……カードゲームは突き詰めればジャンケンで勝った方が勝利する物だ。さて、俺はお前に勝利した。お前が負けた場合は俺の命令をなんでも聞く……ならば、俺はお前に命じよう……を、そしてそれをあらゆる手段を用いて俺以外の他者に伝える事を禁じ、なにかあるのだと察される素振りも一切見せるな。……をする事に関して何も違和感を感じず疑問に思うな。そしてそれを渡せ。今直ぐに起きる効果としては俺に会って闇のバトルをしたことや【無限の暴食魔人 ソウルイーター】等を忘れろ……を俺に渡した後に渡したことを完全に忘れろ、辻褄が合う偽りの記憶を持て」

 

「なっ……ま、待て!!それは幾らなんでも法外だ!!明らかにこちらの方の対価が重い!」

 

「確かにそうだろう。だがお前は【無限の暴食魔人 ソウルイーター】と生殺与奪の権利を賭けるのを見て、自分の持っているレアカードと比べ同価値ではないと勝手に判断し、交渉を一切せずに負ければどんな言うことでも聞くのだと自分の意思で、なんでも言うことを聞くのだと、チップインした。それに関してお互い問題無いと了承をした」

 

「っ、嵌めたな!!」

 

「まさか、そっちが勝手に勘違いしただけだ……闇のバトルに負けた者は賭けた物事を熟さなければならない」

 

 実はこの闇のバトルの賭け金として出された【無限の暴食魔人 ソウルイーター】と謎の人物の生殺与奪の権利よりも暁桜里がどんな言うことでも聞くと言う賭け金の方が遥かに高い。謎の人物はそれを承知しており暁桜里が自分の命だけでなくなんでも言うことを聞くと言わせる状況を作り、なんでも言うことを聞くと言う命令権をチップインさせた。

 

「お前は、お前はそれでもバトラーか!!バトラーとしてのプライドは無いのか!?」

 

「生憎だが、俺はプロのeスポーツプレイヤーではない」

 

「eスポーツプレイヤーじゃない!バトラーだ!!一緒にっ!一緒にっ…………あれ?……うぉ!?」

 

「……バイク置き場遠いんだよな」

 

 闇のバトルで負けたので暁は謎の人物の言うことをしっかりと聞かなければならない。

 謎の人物は自分と闇のバトルをした事を忘れろと言うので闇のバトル用の謎な空間が無くなり人がいない路地に戻れば、自分なにしてるんだ?と記憶が消去され、その事に関して疑問を抱かずヘルメットを被っている謎の人物が目の前に居るのを見て驚いた。

 謎の人物は闇のバトルの効果が適用されたのだと判断すれば、バイク置き場が遠いとそれっぽい事を言いながらバイクの駐輪場がある方向を目指した。

 

「ヤバい!ヤバい!日を跨いでる!!」

 

 ふとスマホを確認すれば日を跨いでいた。

 暁は早いところ家に帰らないとと走り出した。先ほどまで闇のバトルをしていた事も【無限の暴食魔人 ソウルイーター】のカードがあったのも全て忘れていた。先ほどの謎の人物もバイクに乗るから先にヘルメットを被っている人だと認識しなんの疑問も抱かずに違和感も感じない。

 

「…………こちら上原、仕事を終えました」

 

 全てが終わり路地には人が居なくなった。路地の曲がり角にある自販機でコーヒーを買う謎の人物……否、上原はヘルメットを外しコーヒーを飲み干した後に仕事用のスマホを取り出して仕事を終えたことを末広に報告する。

 

『相手側がなんか違和感とか疑問を抱いているとかは?』

 

「今の段階ではそういう素振りは見せていません……ただ、命じたことをしている時になにか違和感を感じる可能性はあります」

 

『その辺はなんとも言えない……1回だけだ。1回だけそれが適用する時が来ればいい。その為に世界大会のトーナメント表に細工を仕掛けている』

 

「……実行しておいてなんですけども、コレってありなんですか?」

 

『スピリットモンスターズをオワコンにさせないといけないから……普通に考えたらアウトだよ』

 

 暁桜里になんの違和感も疑問も抱かせず情報を一切漏洩させず観察眼に優れた人間に推察される事もされずあることをさせたかった。

 その内容はあまりにもアウト過ぎるので上原はありなのかを聞いたが、末広はアウトだけど仕事なのでセーフ!とはぐらかした。

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