戦姫絶唱シンフォギア feat.ワイルドアームズ   作:ルシエド

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というわけで六章開始です。起承転結の転。前に人物紹介でプロットを少しだけ書いた時、少し書いただけでもネタバレになることに気付き、ギャグ風味に仕上げて誤魔化したのもいい思い出です
アニメを見直して一クラスの人数やビッキーのクラスの席順を確認する日々が始まります


第六章 戦姫絶唱シンフォギア編
第二十八話:覚醒の鼓動


 十年以上前のことだ。「ノイズは十年に一度の災厄である」と口にした者が居た。

 だがこの時代のこの世界において、そんなことを言う者はもはや残ってはいない。

 年々増加するノイズの出現率により、世界各国はこれまで予算の一部を割いていただけのノイズ対策に本腰を入れざるを得なくなった。

 そして世界各国のどの国よりもノイズ出現率が高く、ノイズ被害件数が少ない国がある。

 それが日本。厳密に言えば日本の首都、東京である。

 

 ノイズの出現率が跳ね上がってからしばらく後に日本にナイトブレイザーが現れたことから、専門家は「だからこそナイトブレイザーは日本に腰を据えているのだろう」と推測していた。

 日本は世界のどの国よりもノイズの出現数が多く、東京はそれに輪をかけて多い。

 『彼女』は東京在住である。

 だからこそ『彼女』も、何度かノイズの被害にあったことがあった。

 

 彼女の名は『板場弓美』(いたば ゆみ)

 本日、私立リディアン音楽院高等科の入学式に馳せ参じた少女であった。

 

「ここから始まる……あたしの時代が!」

 

 やたらと張り切っている弓美の後ろから、彼女の友人である安藤創世(あんどう くりよ)寺島詩織(てらじま さおり)が苦笑いしながら話しかける。

 

「どういう時代が始まるのさ」

 

「板場さんは元気ですわね」

 

 創世と詩織は、小中高一貫教育を掲げたリディアンにおけるエスカレーター組である。

 リディアンはそこまで成績優秀な人間が集まる学校というわけではないが、それなりにいいとこのお嬢様が集まる学校だ。

 女子校、音楽学校、大型寮完備、小中高一貫教育、不良が少ない、卒業後に功績を残した卒業生が多い、などの理由から、リディアンにはいいとこのお嬢様が入学することもあれば、熱意のある一般人が入学することもあるという、少し珍しいコミュニティとなっている。

 加え、そこに在学生のまま結果を残したツヴァイウィングという存在が現れ、入学志望者数と入学志望理由の種類は爆発的に増加する。

 

 それなりにいいとこの一人娘で、『アニソンの学を身に付けるため』高等科に入学した弓美。

 ずれたセンスと三人の中では随一の常識力を持つ、中学編入組の創世。

 小学生受験で主席を取りつつ、"絵に描いたお嬢様"的な生き方でここまで来た詩織。

 入学式前の時間に近くに居た同級生達に話しかけ、持ち前のコミュ力で創世と詩織を友の輪に引き込んだ弓美。

 彼女が作り上げたこの三人の輪がそのまま、このリディアン高等科を構成する生徒達のコミュニティの縮図となっている。

 

「さーて、アニソンを学ぶ学科はどこかな」

 

「え?」

「え?」

 

 が。

 

「あの、板場さん、そういう学科はないと思うのですが……」

 

「え? いやいやいや、そんなばかな……マジ?」

 

「マジマジ」

 

「うっそぉ!?」

 

「私もリディアンに来てから長いですけど、アニソンを学びに来た人は初めて見ましたわ……」

 

 板場弓美。趣味、アニメ鑑賞。好きなもの、アニメ。

 最近はそこに時々特撮も含む。

 彼女はリディアンにはアニソンを修めるべく入学した。

 なのだが、リディアンにそんな学科は当然存在するわけがない。

 ほんの少しの世間知らずと、ほんの少しのアニメの影響と、ほんの少しの思慮足らずと、ほんの少し向こう見ずで勢いとノリに任せる性格が噛み合った結果がこの現状。

 笑えばいいのか、泣けばいいのか。

 

「……ええい、無ければ作ればいいじゃん! この手で!」

 

「ええ、そこで諦めないの!?」

 

「板場さん、凄いガッツですわ……!」

 

 なのだが、板場弓美は諦めない。アニメへの確かな愛と熱意があるからだ。

 

「とにもかくにもまずは入学式!」

 

 創世と詩織の二人と共に、弓美はリディアンの門をくぐる。

 

「いらっしゃい。新入生かな? 入学式の前に掲示板を見て、それぞれのクラスに行くといい」

 

「あ」

 

 そして三人は門の向こうで、外国人の青年の笑顔に出迎えられた。

 青い目に、少し焼けた色合いの肌、黒い髪、日本人とは違う顔つき。

 わあ、外国人だ、しかも若い、と考える創世はリディアンのグローバル感を実感する。

 ハーフの方でしょうか、と複数人種の混血であるとひと目で理解した詩織は実に優秀だ。

 そして弓美は、目を見開いて青年を指差し、大声を上げた。

 

「ああああああああっ!」

 

「うおっ!?」

 

 弓美は青年に駆け寄ると、その手を取った。

 

「あの時の外人のお兄さん! わあっ、やっと会えた!」

 

 青年は自分を知っているような様子の少女に戸惑いながら、記憶を探る。

 

「言いたかったんです! もう一回、『ありがとう』って!」

 

 そして一つの記憶を思い出す。

 四年前、ナイトブレイザーとなってタラスクと戦った日に、青年が助けた少女だ。

 こんなに大きかったっけ、と青年は思うが、当時11歳で今15歳ならそうも思うだろう。

 何故鎧越しに自分の正体を見抜いたんだ、と青年は彼女を問い質そうとするも思い留まり、記憶をもっと深くへと探っていく。

 

(違う、こっちじゃない)

 

 四年前の記憶よりも更に深く、五年以上前の記憶を青年は思い出す。

 彼が初めて脳機能である直感を、ARMへと覚醒させたあの日のことだ。

 あの日の戦いの中でも、青年は弓美を助けていた。

 記憶の想起にかかった時間は0.1秒。

 青年は顔を見たらすぐに思い出した、といったいかにもな表情を作って少女の言葉に応じる。

 

「ああ、あの時の。お母さんは元気か?」

 

「はい! おかげさまで! あの、お名前聞いてもよろしいですか!?」

 

 青年は戸惑う二人、興奮気味の一人をどうなだめるか考えつつ、とりあえず笑って名を名乗る。

 

「ゼファー・ウィンチェスターだ。よろしく、新入生」

 

 久しぶりに濃い新入生だな、なんて思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十八話:覚醒の鼓動

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 掲示板を見て、自分のクラスを確認し、弓美はまずこの三人が同じクラスである運命に驚いた。

 そして三人揃って、大いに喜ぶ。

 リディアン高等科において、一学年の人数は400人を超える。

 弓美達の総合音楽教育コースとは違うタレントコースの生徒達を差し引けば、ちょうど1学年13クラス、30~31人ずつのクラスが出来上がる。

 そこに偶然出会った三人が同じクラスに揃うなど、相当珍しいことであると言えるだろう。

 

 二席一机でセットの教室に、特に目の悪くない三人は前過ぎず最後列でもない絶妙な席を取る。

 創世と詩織が並んで座り、その後ろの席の片方に弓美が座る形。

 弓美がこれから最低一年は共に学ぶ学友のメンツはどんなものかと見回せば、ちょっとだけ目についたクラスメイトが二人ほど居た。

 

 この教室は後ろに行けば行くほど、黒板を見やすくするために席の位置が高くなる。

 よって弓美が見る右斜め前の席は、右斜め前・斜め下の席というのが正しい。

 その席に、くせっ毛な栗色の長髪の少女と、黒髪をリボンでまとめた少女が居た。

 全ての席に一つずつ置かれていたガイダンス用資料をペラペラとめくってみれば、そこには今年の入学生全ての顔写真と名前が乗っている。

 それと照合し、弓美は気になったクラスメイトの名を見つけた。

 

(立花響に、小日向未来、ね……)

 

 何故気になったのか、弓美にもよく分からない。

 ただなんというか、普通だけど普通じゃない、そんな何かを感じたのだ。

 それはごく普通の世界を生きてきたごく普通の人間である弓美だからこそ感じ取れた、"ごく普通でない人生"が"ごく普通の少女達"に残した、残滓であった。

 

「ねね、あの子達もエスカレーター組?」

 

「あの方達ですか? あの方達は板場さんと同じ編入組の方達ですね。

 同学年の生徒の顔ぶれはほぼ固定ですから、新しく入って来た方はすぐ分かります」

 

「ふーん」

 

 楽しそうに話している二人を見て、何を話してるんだろう、と思う弓美が頬杖をついていると、教室のドアが開いてこのクラスの担任が現れた。

 

「皆さんおはようございます。

 私はこのクラスで皆さんの担任を一年間務めさせていただきます、林田と申します。

 予定ではこのまま一人一人に自己紹介をしていただく予定でしたが……

 少しこちらの事情で時間が押しています。申し訳ありませんが、皆さん移動を始めてください」

 

 林田と名乗ったその女性の後に付いて行きながら、弓美は入学式を前にして緊張している内心の緊張を見つめ、胸に手を当てる。

 向こう見ずな割に肝が小さい弓美は、胸中でひたすら「大丈夫」と自分に言い聞かせていた。

 

 

 

 

 

 入学式はかなり大きなホールで行われた。

 卒業式や始業式など、各種式典が行われる大型ホールである。

 キョロキョロと周囲を見渡していた弓美であるが、横に座っていた創世に肘で脇をつつかれ、彼女の意を汲んで大人しく前だけを見る状態に戻った。

 

「在校生代表挨拶。三年生代表、風鳴翼さん、お願いします」

 

「はい」

 

 式が進めば、ホール奥の壇前に立つ青髪の先輩が弓美の目に入る。

 弓美は彼女のことをよく知らないが、去年や今年にリディアンの入学志望者を一気に増やした、現役トップアーティストであるのだということくらいは知っている。

 

「新入生の皆さん。本日はお日柄もよく―――」

 

 風鳴翼の挨拶が始まると、アニメにしか興味のない弓美ですら、その声に引き込まれる。

 

(綺麗な声……)

 

 それは声や歌そのものに力がある人間なのではないか、と思わされるほどのものだった。

 すらすらとよどみなく流れる声は、まるで透き通る川の水流のようで、弓美が周りを見れば何人かは聞き惚れてしまっている。

 彼女が教室で見た少女の一人――弓美は立花響、という名を思い出す――も、一言一句を聞き逃さないようにと聞き入っている。ファンなのかな、と弓美は思った。

 そこで「もったいない」と考えるのが、板場弓美という少女であった。

 "あれだけいい声をしてるならアニソンを歌うかアニメの声優をやった方がいいのに"、なんて彼女は考える。流石としか言いようがない。

 

(いや、逆に考えればこの学校で学べばあれだけの声が我が物に……

 やっぱりこの学校を選んだ私は間違ってなかったんだ! うん、そう信じよう!)

 

 そしてポジティブに考えるための柱とした。

 ポジティブだが、そう自分に言い聞かせないと勘違いでこの学校に入った自分が折れそうだから……という、心の繊細さも垣間見える。

 前向きなこととハートが強いことはイコールではない。

 

「校歌斉唱」

 

 司会進行の声が届き、珍しい着席形式の校歌斉唱が行われる。

 校歌を口パクで済ませようとした弓美。

 肘でつついてちゃんと歌えと促す創世。

 後ろの席でそれを見つつ、歌のさなかに微笑む詩織。

 そうして一通り終われば、後に残るは式の最後の礼のみ。

 

「在校生、新入生、起立」

 

 弓美達は席を立つ。ぼーっとしていたのか、新入生の何人かはワンテンポ立つのが遅れていた。

 起立して、礼をして、列を作ってホールを出て。

 

「はー、やっと終わった。なんでこんなに無駄に長いんだか。

 入学式が一瞬で終わるようになれば、アニメ二話分か三話分は見れそうじゃない?」

 

「たぶんリディアンの歴代の学生でそんなこと言ったのあんただけだよ」

 

「板場さんだけでしょうね」

 

 創世と詩織は出会って間もないというのに、板場弓美が"そういう子"なのだと理解していた。

 

 

 

 

 

 式が終わってガイダンスも一通り終われば、それなりに自由な時間が来る。

 ある新入生は部活見学に行く。ある新入生は部活の勧誘に手を引かれていく。

 ある新入生は地図を見て喜々として寮へと向かう。

 ある新入生は面倒見の良い先輩に学校を案内してもらう。

 ある新入生は家に直帰し、ある新入生は入学式に来ていた親と合流する。

 

 そして弓美は、気になっていた二人の少女の席の前に立ち、話しかけた。

 

「ね、ね、好きなアニメってある?」

 

「え?」

「え?」

 

 話しかけられた二人がキョトンとする。

 立花響と小日向未来って名前だったはず、と弓美は脳内で名前を照合する。

 そんな弓美を遠目に見つつ、創世と詩織は苦笑した。

 響と未来は戸惑いつつも顔を見合わせ、ちょっと考え込んでから響が答えた。

 

「……キテレツ大百科?」

 

「キッズステーション枠!?」

 

 今日の入学式の日まで、何の繋がりも無かった五人。

 ほぼ面識すらも無かった五人。

 踏み出すことへの躊躇いの無さならば五人の中でも随一な弓美を中心として、彼女ら五人は出会い集まった。

 これから先この五人の友達付き合いがずっと続いていくだなんて、この時この五人は誰一人として想像すらしていなかっただろう。

 

 全員趣味もセンスも違う。それでもどこか、惹かれ合うものがあったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 響と未来が正式にリディアン音楽院の生徒の仲間入りをした、その日の夕方。

 差し込む夕日の斜陽の中、寮に向かう響と未来と、二人を寮まで送るゼファーの姿があった。

 今は未来が今日あったこと――主にアニメ宣教師なあの子のこと――を話し、響が時折それに相槌や合いの手を入れ、ゼファーが聞き役に徹しているようだ。

 

「―――って、ことがあったの」

 

「今年は本当に愉快な子が入ってきたな」

 

 ゼファーも今年でリディアン勤続五年目だ。

 そんな彼だが、天羽奏には及ばずとも『濃い』『因縁がある』面々が揃った今年の入学生メンツには驚きを隠せない。

 "今年は色々と死ぬほど忙しくなりそうだ"と彼の勘も言っている。

 

「改めて言っておくか。ヒビキ、ミク、入学おめでとう」

 

 ゼファーが二人の入学を祝うと、二人が微笑みを返す。

 二人はゼファーが居たからこの学校を進学先に選んだわけではない。

 奇跡のような偶然で、二人が選んだ進学先に二人の共通の友人が居た、というだけの話。

 二人が合格の報告をゼファーにしに来た日なんて、三人揃って大声を上げたものだ。

 大仰な言い方をすれば、これも『運命』というものなのかもしれない。

 

「二人がうちの学校に来ると聞いた時は本当にびっくりしたな」

 

「私達だってそうだよー」

 

「うんうん」

 

 へにゃっと笑う響の言に、未来が同意する。

 風になびき夕日に照らされる長い髪を響がかき上げ、ゼファーは響に聞くべきでないと思っている問いを、ぐっと呑み込む。

 「ここに来たのは地元に居づらかったからか」とは言わない。

 「人間関係をリセットしたかったのか」なんて聞かない。

 「自分のことを誰も知らない場所に来たかったのか」と問うわけがない。

 問うたところで、立花響が返す反応なんて決まりきっているのだから、立花響が何故地元から離れたこんな学校を選んだのかなんて分かりきっているのだから、訊けるわけがない。

 

 響も同じように、未来に対し「何故あんなにうちこんでいた部活を突然辞めたのか」をとことん追求し、真実を明らかにしようとはしない。

 未来もゼファーに対し、「いつまで戦い続けるのか」を口にしない。

 どこまでも白々しく暖かな暗黙の了解。

 互いを理解し、想い、優しさを向け合う友情の形。

 嘘とも違う、隠し事とも違う、奇妙な関係がそこにはあった。

 

「何かあったら何でも言ってくれ。友人として、仕事の一環として、貸せるだけの手を貸すから」

 

「うん」

「困った時は遠慮なく頼るよ」

 

 ゼファーは二人を寮まで送り、寮の管理人のおばさんに「うちの子をお願いします」と頭を下げて菓子折りを渡し、寮を離れる。

 関係者とはいえ、男性が女子寮近くにいつまでも居るのはマズい。

 青年は寮を離れながら、ふと思いついたように携帯で何通かメールを送る。

 そして、背伸びをして、空を睨んだ。

 

「平常業務終わり。さて、残業の時間だ」

 

 二課の偽装セーフハウスの一つである廃倉庫のシャッターが開き、その奥の二課に直結しているハッチからジャベリンが飛び出してくる。

 そしてゼファーの横に音もなく停止した。

 バイクは青年が跨ったことを確認すると、エンジンをふかして全力で飛ばす。

 

 彼らが突き進む先には、彼しか感じられない空間の揺らぎがある。

 近い未来を感じ取る力が、怪物の出現を予知する。

 聖遺物で出来た彼の脳は彼の意志を反映した特性を具象化し、波紋を放つ。

 返って来たアウフヴァッヘン波を読み取り、理解し、脳裏に映し出してこそゼファーのARM。

 

 今日も今日とて、青年は戦う。

 

騒音(ノイズ)は消して、皆が安心して眠れる静かな夜を」

 

 バイクのシートの上に立ち、右拳と左掌を打ち付けて、彼は跳び上がる。

 

「アクセスッ!」

 

 夜になりかけの夕焼け空に、紅い焔が奔る。

 それを見上げる人々は、ノイズが傍に現れたことを理由に恐怖の悲鳴を上げることすらせず、安心感に満ちた歓声を上げた。

 空には星が見え始め、月が輝く。

 天と地の間には紅の焔が煌めく軌跡を描き、黒塗りの鎧が夕日に照らされ鈍く輝く。

 半透明の怪物達は、宝石のような光のような透き通る焔に焼き尽くされて行く。

 密度を上げられ光を遮る焔の壁が空に掲げられ、空の怪物も燃え落ちていく。

 

 数年の絶え間ない戦いと、救済の積み重ねが『英雄への信頼』を定着させた国。

 それが今の日本という国だった。

 "英雄を脅かす人間"の存在など誰もが想定していない、そんな場所だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナイトブレイザーの戦いを高層ビルの上から見下ろしながら、少女が呟く。

 

「あれを生け捕りにしてフィーネのアジトまで連れて行けばいいってわけだな」

 

 少女は小馬鹿にするような笑みを意図して作り、表情として浮かべる。

 左手にはパワープレート化された聖遺物。

 聖遺物の正体は不明だが、パワープレート(プレート・ミーディアム)化されている時点で、粒子化しても復元できる聖遺物、あるいは完全聖遺物であることは確実だ。

 右手には銀色の杖。

 どこか聖剣アガートラームに似た意匠であり、あるいは製作者が同じなのかもしれないと推測できるその杖には一切の損傷がなく、まごうことなく完全聖遺物であることが分かる。

 そして少女の首から下がる赤いペンダント。

 

 見比べるまでもなく、翼や奏が所持していたシンフォギアと完全に同一のものであった。

 

「楽勝だな。あたしなら、相性も悪かねえ」

 

 少女は黒騎士に純粋すぎるくらいの敵意を向ける。

 彼女の手にある聖遺物は合計三つ。

 いかな理由か、少女は黒騎士と戦わなければならないわけがあるようだ。

 激突は、避けられまい。

 

 少女は黒騎士が戦いを終えると同時に様子見を終え、その場から消える。

 

「……行ったか。誰だったんだ? 今のは」

 

 人間離れした直感を持つ黒騎士の青年が、彼女に見られていたことに気付いていたと、そう気付かぬままに。

 互いが互いの存在だけを認識し、"敵"の存在だけを認識し、この夜は終わる。

 この二人が直接ぶつかり合うことになるのは、この夜から数えてちょうど二週間後の事だった。

 

 

 

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