戦姫絶唱シンフォギア feat.ワイルドアームズ   作:ルシエド

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GX設定補完用のキャロルちゃんヒロイン中編を書いていました。この作品の外伝ですので、暇潰しにでもどうぞ


2

 あの日のライブ会場の惨劇から約二年。

 あらゆる部署の人間が死に人員が足りなくなった状態から、自衛隊等の専門家の集団からの補充要員、及び特殊訓練による新規人材の育成で、二課は何とか組織を立て直していた。

 

 聖遺物の探索には考古学の知識のある者を。

 研究職には聖遺物の知識に物理学やプログラムの専門知識のある者を。

 オペレーターには対応力・分析力・計算力に長けた者を。

 戦闘能力、避難誘導の経験等がある自衛隊上がり等は実働部隊に。

 友里あおい等が得意とする交渉や、二課本部の機械関連を整備するエンジニア、食堂のおばちゃんの補佐など細かい人材も補充されていた。

 

 そして人員が補充されたなら、当然ながら次は全員の能力を揃える訓練である。

 部隊の個人個人の能力はできる限り一律であった方がいい。

 ゼファー、朔也、天戸の三人は、テントの下でその訓練を見守っていた。

 

「よしよし、誰も空薬莢拾う素振り見せてませんね」

 

「ゼファー君前も訓練の時それ言ってたね。そんなに気になるもん?」

 

「サクヤさんはピンと来ないかもしれませんけど、すごく気になるんですよあれ……」

 

 天戸は当然、部隊の者達を風鳴式に鍛え上げるため。

 朔也は集団の動かし方を学ぶため。

 ゼファーは彼の視点からの意見を求められ、ここに居る。

 具体的には対ノイズ・対聖遺物を想定した視点からの意見である。

 ナイトブレイザーとしての彼の視点から見ても、今の二課の戦闘部隊の練度は高く、全滅させるのに骨が折れそうなしぶとさが見て取れた。

 

「よし、状況終了、と。いー練度だ。

 ゴーレム相手にも壊滅覚悟で一分くらいなら時間稼げそうだぜ。どんと来いってんだ」

 

「ですね。変身ってズルがなければ、俺じゃ足元にも及ばなそうです」

 

「でも正直天戸さんもゼファー君も本音じゃゴーレムはDon't来いだよね」

 

「「そりゃもう」」

 

 天戸が誇らしく言うと、ゼファーも太鼓判を押す。

 一通り連携訓練が終了すると、部隊は揃って撤収の作業を始めた。

 撤収の流れとなると、優秀な二課の部隊は指示を出さなくとも全体で連携を取って完璧に動いてくれる。すると手空きになった天戸は、ゼファーと世間話をし始めた。

 

「そういや、八紘の坊やがうちに来てたんだってな。

 矢薙情報官の顔は覚えてるか? あれも八紘の坊やの部下なんだぜ?」

 

「そうなんですか?」

 

二課(うち)がそれなりに無茶するのに、あいつはかなり尽力してくれてんだ」

 

「テレポートジェム、なんてもの渡されちゃいました。

 とりあえず二課本部近くの地上を座標に設定して常に持ち歩くようにしましたが……」

 

「俺や了子さんも分析してみたけど、本当に希少なものなんだよね、ゼファー君のそれ」

 

 ゼファーがポケットから取り出した赤い結晶体が、陽の光に照らされてキラリと光る。

 テレポートジェム。砕けば登録しておいた座標に一瞬で移動できる道具だ。

 娘のため、という理由もあったとはいえ、託されるには余りに希少すぎるもの。

 だがゼファーと違い、ゼファーの腕の焼けた傷跡を見る天戸は、八紘や弦十郎が子供の頃から面倒を見てやっていた最古参である。八紘の考えに思い当たるフシがあるようだ。

 

「俺は八紘の坊やがお前に渡した理由は、ちょっとばかし分かるな」

 

「え?」

 

「昔の共闘したダチのことでも思い出したんだろうよ。ま、深く考えることでもねえさ」

 

 ゼファーは直感的に、天戸が自分の焼けた腕を一瞬見てからその"八紘のダチ"とやらのことを思い出したのだと理解する。その理由までは分からなかったが。

 なので天戸にその風鳴八紘の友人のことを聞こうとしたのだが、あいにくこれ以上の雑談は周囲の若手が許してくれないようだ。

 

「リーダー! サボらんでください!」

 

「へいへい、今行くさ。そんじゃま後でな、ゼの字、朔坊」

 

 部下に連れて行かれる天戸を、手を振って見送る二人の青年。

 少年と青年ではない。青年と青年だ。

 前は新卒で新人だったがようやく後輩に「先輩」と呼ばれて頼られるようになってきた朔也も、その朔也より身長が高くなったゼファーも、共に二課の一員として責務を果たす青年達である。

 年月、責任感、くぐり抜けてきた修羅場の数が、彼らを一人の男として鍛え上げていた。

 

「へえ、それでその板場ちゃんが昔のことを今でも覚えていた、と」

 

「どっちの姿でも助けた覚えありましたから、危うく暴露するとこでした……」

 

 そんな二人は息を合わせて、テントの解体と折り畳みをしつつ、ゼファーの学園生活についての駄弁りを続ける。

 話しながらテキパキ解体していく手際以上に、呼吸の合い方の方が凄まじい、そんな連携。

 目に見える洗練された連携と、耳に聞こえる新入生の変わった女の子の話題のギャップがなんだかちょっと滑稽だ。

 

「これはあれだね、ゲームで言うところのフラグが立った、ってやつ」

 

「俺だったら命助けて貰っただけで惚れませんよ、サクヤさん」

 

「……いや、そうかもしれないけどさあ……

 でも俺の知る限り、ゼファー君が一番ちょろく他人に好意持つ人間だと思うんだけど」

 

「それは脇に置いておいて。戦場で助けた人と日常の中で再会するのって、珍しいですよね?」

 

「……うーん」

 

 板場弓美当人に聞けば『運命的な再会』だとアニメ的に考えるかもしれないが、あいにく計算と分析が得意分野な藤尭オペレーターには、別の解が見えている。

 

「君は変身前でも変身後でも、ちょっとばかり人を助けすぎてるのかもしれないな」

 

 ARMの発現から数えても六年弱。

 ナイトブレイザーの発現から数えても四年。

 ノイズ、ゴーレム、オーバーナイトブレイザーの襲撃時だけでなく、自然災害の時にも出て行けるのがナイトブレイザーの強みであり欠点だ。

 結果、ゼファーの年間出撃回数は100を超えている。

 有事には東京から中国地方にまで走っていく彼だ。助けた人間と顔を会わせることが珍しくなくなってくる時期が来たということだろう。

 

 何も、板場弓美が特別な存在だったから再会したというわけではない。

 

「どう転がっても良い友達にはなれそうなんだから、ゼファー君も嬉しいだろ?」

 

「そりゃまあそうなんですけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十八話:覚醒の鼓動 2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アニソン同好会を立ち上げたいと思います!」

 

「おお!?」

 

「弓美はアニメの見過ぎでポリゴンショックにでもなっちゃったの?」

 

「板場さんはいつもこうですわよ?」

 

「二人共言うなぁ……」

 

 板場弓美が立ち上がり、なんだかよく分かっていない立花響が声を上げ、小日向未来が友達特有の遠慮の無さでバッサリいって、寺島詩織がそれに同意し、安藤創世が呆れて笑う。

 リディアンの一教室、日常の中にある風景。

 今日も彼女らは楽しそうに生きていた。

 

「入学してすぐに出会った五人!

 部活結成に必要な人数も五人!

 アニメだったらひらがな四文字タイトルの物語が始まってるところよ!」

 

「じゃあ『きたくぶ』でいいでしょ。解散」

 

「そんな殺生な小日向未来様ぁ!」

 

 弓美の言葉に少しドライめに返す未来に、弓美は逃がさんとばかりに食らいつく。

 私立リディアン音楽院の部活動規約では、正式な部活と認められるためには五人の部員と一人の顧問が必要とある。

 それを覆すには秋桜祭における歌合戦で優勝するくらいの実績が必要である。

 そして秋まで待ってなんかいられない弓美は、ここで部員となってくれそうなクラスメイトを欠けさせるわけにはいかないのだ。

 未来が居なければ、五人が四人になってしまう。

 

「お願い! 一生のお願い!

 名前貸しだけでいいからあたしのアニメの野望を途切れさせないで!」

 

「弓美はなんというか、一生のお願い乱発しそうでありがたみが……」

 

「あ、それ今私も思った」

 

「未来ぅ!? 響まで!」

 

 なんやかんやあってその日の放課後、五人組は足並み揃えて歩き出していた。

 アニメへの熱意だけは完全聖遺物級な弓美、楽しそうだからと弓美の味方をする詩織と創世に流されて、なんだかんだ流されてしまう響&未来。

 五人は階段を降りて職員室の方へと向かい……そのまま、職員室前を通り過ぎる。

 

「あれ、職員室に行くんじゃないの?」

 

「先輩に聞いたら、今顧問になってくれそうな手の空いてる先生居ないんだって。

 それで先生に聞いてみたら、もしかしたらあの人なら顧問になってくれるかも、ってさ」

 

「そんでその人が居るこっちに来た、と」

 

「そういうこと!」

 

 職員室で顧問を探すのだと思っていた未来が疑問に思うと、弓美の口からアニソン同好会設立の前に立ち塞がる巨大な壁の存在が語られ、創世が納得したように頷く。

 今現在、リディアン高等科に新設される部活の顧問ができる手空きの教師は居ない。

 しかしアニソン同好会設立のためには顧問が必須である。

 結果、彼女らは顧問を職員室の外側に求めた、というわけだ。

 

 そこまで話が進むと、首を傾げた詩織が弓美に話しかける。

 

「それにしても、今年編入されたばかりなのに、何故先輩の知り合いが居たのですか?」

 

「? 先輩に知り合いなんて居なかったよ?

 でも詳しく裏事情とか聞きたかったからちょっとね」

 

「……んん? 詳しく事情を聞けるような先輩の知り合いは居なかったのですよね?」

 

「そそ。だから適当な先輩の教室に行って仲良くなって、裏事情聞いてきたの」

 

「うわっ」

「すごく予想外な答えが出てきてこの安藤創世、すごくびっくりしておりますよ」

(……このバイタリティをアニメ以外のことに向けてたら凄そうなのになあ……)

 

 さらっと地味に凄いことをのたまう弓美に、響は驚き、創世は乾いた笑みを浮かべ、未来は"その熱意を勉強とかに向けられれば"と思ってしまう。

 

 入学してから一ヶ月も経っていないというのに発揮されるこの行動力を褒めるべきか。

 先輩の教室というただでさえ入りにくい場所に突っ込んだ勇気を褒めるべきか。

 自分の目的を果たすために真に手段を選ばないスタンスを褒めるべきか。

 「仲の良い人が居ない場所に裏事情聞きに行くの?」という問いに、「だから裏事情聞くついでに仲良くなればいいじゃない」と答えて実践済みな超限定的コミュ力を褒めるべきか。

 

 なんにせよ、板場弓美のアニメへの熱意が本物だということだけは事実である。

 

「目的地、ここ?」

 

「用務員室、って書いてあるけど……」

 

 彼女らが辿り着いたのは、高等科に一つだけある用務員室。

 用務員室といえばちょっと小汚いイメージがあるが、何故か部屋の前には目安箱もどきのような箱や、女の子の字で書かれたポップがいくつも貼り付けられている。

 ポップは日焼けで色褪せていているもの、錆びた画鋲で留められているもの、比較的新しくテープで留められているもの、等々いくつもあった。

 それが約三年の間に"彼の友人"達が思い思いに貼っていったものなのだと、知る機会が無かった者はいつまで経っても知りはしないだろう。

 

「先輩に聞いたのよ。

 この学校には、願えば八割くらいの確率で願いを叶えてくれる用務員室があるって……

 恋愛成就、害虫駆除、不良撃退、家庭問題、勉強指導、なんでも助けてくれるんだって」

 

「そんな用務員室があるわけないでしょ」

 

「でもあまりにも都合よく利用しすぎたり、礼を忘れたりすると……

 リディアン高等科OBで構成された騎馬部隊に闇討ちされるって噂なんだって」

 

「そんな用務員室があるわけないでしょ!」

 

「しかも途中から先輩から聞いた話が噂話になってるし……」

 

 弓美の発現に創世がいちいちツッコミ、未来が"期待できなさそう"とでも言わんばかりの顔で額に手を当てる。

 リディアン七不思議の一つにも数えられる用務員室のドアを、弓美は躊躇いなくバッと開いた。

 

「失礼します!」

 

「いらっしゃい。何用……あ」

 

 その向こうに居たのは、ゼファー・ウィンチェスター。

 ドアから入ったメンツを見て、ゼファーは目を丸くする。

 

「あ」

 

 先頭に居た弓美も当然仰天。

 

「あ」

「あ」

 

 あ、掃除の人。と次に入って来た詩織と創世も声を漏らす。

 

「あ」

「あ」

 

 そして最後に入って来た響と未来がぽかんと口を開け、停止した六人が一部屋に集まる。

 

 音と共に蒸気を吹き出す電気ポットが、まるで「何か言えや」とその場の全員を煽っているかのようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こりゃもうデスティニーですよデスティニー! うちの顧問になってください!」

 

「そ、そうデスか」

 

「そうデスよ!」

 

 弓美の熱意にやや引き気味なゼファー。

 ゼファーに出された茶と茶菓子に手を伸ばす残り四人。

 どうやら巻き込まれるのを恐れ、彼女らは放置を決め込んでいるようだ。

 

「第一、俺は教師じゃないから顧問をやるには問題があるんじゃ……」

 

「林田先生があなたでも全く問題は無いと言ってました!」

 

(……林田さん……)

 

 一課のトップの夫を持ち、一課新人の娘を持ち、二課の職員兼リディアン高等科の教師である林田教諭。ゼファーは常々、娘に遺伝した天然はこの母親由来であると思っていた。

 まあここのルールに詳しい林田教諭がOKを出したなら、規則上は問題ないのだろう。

 ゼファーは署名のため、引き出しの中からボールペンとハンコを取り出し始める。

 

「分かった。俺の名前を出して上手く行くなら、俺の名前を貸すよ」

 

「! 本当ですか!」

 

「でも基本活動には参加しないってことで頼むわ」

 

「!? なんでですか!?」

 

「いや、なんというか。俺忙しい上にアニメ見ないんだよ」

 

「あー」

「あー」

「あー」

「あー」

 

「えええええええ!? 人生の99.999999%損してますよ!?」

 

「俺どんだけ損な人生送ってるんだよ。現状でも結構幸せだよ」

 

 弓美は深夜アニメを見て翌日の学校に寝坊することがあるくらいの猛者である。

 響、未来、詩織、創世も時々アニメやドラマを見る程度にはティーンの少女らしい。

 が、ゼファーは基本的にアニメは見ない。

 アニソン同好会の顧問としてはこれ以上なくミスマッチな人間であった。

 

「名前は貸すし、監督責任は果たすし、有事に責任は取る。でもそれ以上は期待しないでくれ」

 

「いやいやいや、面白い作品見ればきっと―――」

 

 ただでさえ忙しいゼファーに、アニメを見るために使える時間はない。

 彼は時々監督する程度の貢献が限界となるだろう。

 それでも諦めきれず、アニメを布教しようとする弓美だが、その肩を創世が掴んで止める。

 

「ここらが引き時でしょ、これ以上の無理はこの人に迷惑だよ」

 

「……うう、せっかくの新規に同志を獲得できるチャンスがぁ……」

 

 ゼファーに迷惑、と言われれば弓美も引き下がらざるをえない。

 弓美が彼に感じている感謝の気持ちも本当で、彼女が彼にアニメを勧めているのも"面白いものを見せてあげたい"という善意に他ならないからだ。

 アニメに過剰な熱意を持ってはいるが、彼女は基本的に善意の子なのである。

 

「事情は分かりました、ゼっとんさん。色々とありがとうございます」

 

「分かってくれるなら……ゼっとん!?」

 

「ゼット?」

「……ゼットン?」

「ゼっとんと来ましたか」

「ゼットン! 一兆度!」

 

「親しみを込めてアダ名です! いいあだ名だと思うよね、ビッキー、ヒナ?」

 

「ビッキー!?」

「ヒナ!?」

 

 しかしここに来て、皆のまとめ役として機能していた安藤創世が本性を表してきた。

 とうとう収集がつかなくなってきてしまう。

 彼女は独特なニックネームを付けるユニークな少女であった。

 それ以外の部分は普通の少女であるのだが、ここに来て彼女までもがボケに回ることで話の終着点がどこかに飛んで行ってしまう。

 

 こと、ゼっとんと呼ばれたゼファー、ビッキーと呼ばれた響、ヒナと呼ばれた未来、一兆度!と叫び始めた弓美の四人。

 創世と付き合いの長い詩織がこの四人に対して何のアクションも起こさなかったことで、六人の輪の中で複数の話題が平行して繰り広げられる大惨事が完成してしまった。

 

「……今年の新入生は、本当に濃いな!」

 

「やだなー、アニメみたいな噂があるゼファーさんには負けますよー。

 あの大人気アーティストの風鳴翼とデキてるって噂を先輩から聞きましたよ」

 

「君らくらいの年頃の女子、なんでそんなに色恋沙汰好きなんだ? そういうのじゃないって」

 

 先輩ソースの噂話で、瞳を輝かせる弓美が恋バナを振る。

 ゼファーも何度もこの手の質問をされたようで、慣れた様子で否定の言葉を吐いた。

 彼も昔は長々と否定の言葉を吐いて、妄想豊かな女学生に逆に妄想のネタを提供してしまっていたが、今ではシンプルに否定し続けるのが一番だと学習した様子。

 

 ちなみに、彼にそういう質問をしてくるのはだいたい一年生だ。

 二年前に在学していた三年生は、"ゼファーさんが好きな人は別に居たから"と過去形で語りながら、ゼファーと翼の関係を否定するからだ。

 一年以上ゼファーと翼を見てきた二年生は"あれは半分男友達の関係だから"と、現在進行形で語りながら呆れつつ否定するからだ。

 なのでこういう邪推は入学直後の風物詩であったりもする。

 フライデーですら"あれは捏造も無理だな"と諦めるくらい、ゼファーと翼の間に色恋っぽい気配はない。完全に皆無だ。

 

 しかしそこで、響が別の意図をもって話に割り込んで来た。

 

「ゼっくん、翼さんと知り合いなの!?」

 

「ん? ああ、友達かな」

 

「……わ、私が会いたいって言ったら、会わせてくれたりする?」

 

 ゼファーと翼の仲がいいと聞けば、黙っていられないのが翼の大ファンである響だ。

 響の"会いたい"という願いに、ゼファーは翼のスケジュール予定を思い出しながら、ちょっとばかり思考する。

 

「ツバサは(今日も筋トレ自己ベストに挑戦してたから)忙しそうにしてたからなー」

 

「やっぱり、翼さんは(レコードの収録とかで)忙しいんだ」

 

「……ん?」

 

 翼の自由時間を削っていい時期じゃないよな、とゼファーは思考する。

 やっぱりトップアーティストは忙しいんだ、と響も思考する。

 二人の思考と言葉のニュアンスが微妙に噛み合っていないことに気付いたのは、第三者としてその会話を聞いていて、かつ二人と付き合いの長い未来だけであった。

 

「でも一年はあるんだ。同じ学校の生徒なんだから、話す機会はいくらでもあるさ」

 

「……うん、そうだよね! ファイトだ私!」

 

 響を励まし、ゼファーは話の区切りがいいタイミングを見計らって全員に声をかける。

 

「それじゃ、部室として使っていい空き教室に案内するから、付いて来てくれ」

 

 五人が案内されたのは、用務員室の隣に位置している、旧小音楽室と雑な張り紙がされていた小さな部屋。今のカリキュラムでは使われていない空き教室だった。

 ゼファーはそこに五人分の綺麗な椅子と大きなテーブルを運び込み、部屋の鍵を黒板横の突起に引っ掛ける。

 

「とりあえず隣の部屋で仕事してるから何かあったら呼んでくれ。

 この空き教室も、明日の朝までには部室として使えるよう掃除して整えておくから」

 

 そう言って、彼は隣の部屋の用務員室に戻っていった。

 

「ここが、私の野望の足がかりになる城……!」

 

「秀吉が一晩で立てた城でも、ここまでしょっぱい城じゃなかったと思うな……」

 

 自分に酔い、現実に酔い、未来に酔いしれている弓美に苦笑して冷静なツッコミを入れる未来。

 

「ウィンチェスターさんいい人だねえ、忙しそうにしてるけど」

 

「そうですわね。悪い女に引っかかるタイプですわ」

 

「……ん?」

 

 創世と詩織の会話に聞き捨てならないワードを聞いた気がして響が振り返るが、そこには変わらず育ちのいいお嬢様風に笑う詩織が居て、響は聞き間違いだったと思うことにした。

 濃い。

 ゼファーの言う通り、今年の新入生メンツは『平凡』という言葉をどこかに投げ捨てて来たような、そんな濃厚な者達ばかりであった。

 

 なんやかんやでこのメンツで一緒に居る限り、楽しい毎日を送れそうなメンツでもあったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼファーは隣の部屋から聞こえる姦しい声に耳を向けず、作業を始める。

 仕事とは言ったが、彼が今していることは仕事ではない。

 二年前のネフシュタン紛失に関わる資料の洗い直しと、神話伝承の中に語られるネフシュタンの情報の収集、及び二課で行われていたネフシュタンの研究データの閲覧だ。

 一通り自分で調べ終えた後、ゼファーは"自分の知る中で一番頭のいい人"に電話をかけた。

 

「もしもし、リョーコさん。今お時間をいただいてもよろしいですか?」

 

『いいわよー、何か聞きたいことでもできたの?』

 

「ネフシュタンの鎧について。色々教えて欲しいんです。伝承などの話も含めて」

 

『ネフシュタン? んー、そうね』

 

 ゼファーの脈絡の無い問いに、櫻井了子は頭の中で文章を組み立てるために一瞬を使い、そして話し始めた。

 

『ネフシュタンのエピソードで有名なのは、燃える蛇への耐性かしら。

 人々を多く殺した焔でも、ネフシュタンの加護を受けた者だけは燃やせなかったとされるわ』

 

 ネフシュタンは二年前の災厄で失われたものだ。

 その存在は宗教色の強い伝承の中で語られたものであり、人を燃やす焔に対抗して、とある聖人が生み出したとされる金属の蛇である。

 人を焼死から守る、という伝承のみで語られる完全聖遺物なのだ。

 

『蛇って宗教的には罪の象徴でもあるけど、同時に許しの象徴でもあったのよ。

 ぶっちゃけ宗教なんて色んなものに色んな解釈があるもんなんだけどねー』

 

 それ以外に伝承はなく、先史文明期にどういう用途で使われていたのか、どういう能力を持たされていたのか、その一切が不明であった。

 だからこそ再起動実験が行われたのだが……その結果は、知っての通りだ。

 

『脱皮は復活の象徴。

 そして神の子の最期から、復活とは罪から許しへと至る過程よ。

 そういう意味では、蛇の名を冠するネフシュタンは宗教的な立ち位置もあったのね。

 ネフシュタンは罪であり、脱皮……脱ぐことで罪から許しへと至る鎧だったのかも』

 

「罪と許し、ですか」

 

『とは言っても象徴ってだけの話よ。罪に汚れた皮を脱ぐ、ってだけの話』

 

 ネフシュタンの現物が無ければ、ゼファーがいくら調べても彼が求める情報は得られない。

 不思議に思った了子がゼファーに聞いた理由を問えば、返って来たのは異様な答え。

 

『でもどうして、急にそんなこと聞いてきたの?』

 

「勘です」

 

『一番聞きたくなかった答えねえ』

 

「すみません。ですがなんとなく、今調べておいた方がいい気がしまして」

 

 直感。

 彼がネフシュタンのことを調べようとした理由は、それだけだった。

 

「もしかしたら、近く戦う日が来るかもしれませんので」

 

 その言葉に了子がどれだけ戦慄したことか。それを知るのは、彼女だけだ。

 

『……もし、その直感が当たったなら』

 

 聖遺物で出来た彼の脳は、彼の想いの指向性に沿って最適化という名の成長を続けている。

 

『ちょっと過剰に成長し過ぎだと思うべきよ、その直感は』

 

 その有用性と危険性は、聖遺物の第一人者である了子だからこそ、よく理解できていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夕方。

 友達と別れ、いつも一緒に居る未来とも別れ、立花響は一人でCDショップを訪れていた。

 本日は風鳴翼の新曲リリース当日であったからである。

 

(翼さんの新曲! 翼さんの新曲!)

 

 響はCD派で、未来はiTunes派だ。

 だから響はCDを買いに行く時、帰り道で未来と別れて行くことがたびたびある。

 二年前はツヴァイウィングについて語るゼファーと未来の二人に疎外感を感じていた響だが、今では三人揃って翼の曲を聞くに留まらず、三人の中で最も熱狂的なファンと化していた。

 現在の響は、翼を前にすれば緊張で真っ当に話せるかどうかもわからない。

 

 響はCDを買ってすぐにプレイヤーへと繋ぎ、待ちきれないとばかりにイヤホンで聞き始める。

 帰りがけに、お菓子のお土産も買って抱える。

 明日、部室の礼にゼファーに渡すつもりのようだ。

 

(ふっふっふ、この立花響。恩は言葉だけじゃなくて行動で返す、がモットーですから)

 

 響は道路に散らばる謎の黒い砂を踏み散らしながら、寮への道をウキウキと進んでいく。

 彼女の歩みを止めるものは誰も居ない。

 道行く響の目には、人っ子一人居ない景色が映り続ける。

 

(……?)

 

 思わず、響は足を止めた。

 

(……なんだろう……)

 

 帰宅ラッシュが始まるこの時間帯に、誰も居ない。

 それが例えようもない不安を彼女の胸中に浮かび上がらせる。

 あれ、何か、変だ、と。

 彼女の中に流れる血が、彼女の生来の脳天気な心に警鐘を鳴らし、危機感を持たせる。

 血が"危険だ、逃げろ"と叫んでいる。

 

(嫌な、予感が―――)

 

 血が熱い。

 煮え滾る血が、誰かの声を聞き届けさせる。

 そうして響は、イヤホン越しにその声を耳にした。

 

「助けてぇー!」

 

 声を聞き、響は躊躇いなく声の方向へと走り出す。

 イヤホンを外すと、遠くのスピーカーからのノイズ警報が耳に届いてきた。

 好きな歌手の歌を聞くためにイヤホンを付けっぱなしで、周囲の人達が皆避難していたというのに、自分だけのんきに道を歩いていた間抜けさに響は歯噛みする。

 だが彼女は後悔で足を止めず、声が聞こえてきた道の先―――ノイズに今まさに殺されそうになっていた、小さな女の子を発見した。

 

「―――ッ!」

 

 血が熱くて、血が力をくれる。

 今の自分なら何でもできる気がすると思いながら、響は力強く地を蹴った。

 そして超人的な跳躍を見せ、子供を抱えてそのまま転がる。

 子供を狙ったノイズの攻撃は外れ、コンクリートの地面を深く抉った。

 

「……え、何? 何?」

 

 戸惑う女の子の顔に浮かぶは、死の恐怖。

 人類の天敵であるノイズに襲われ、親ともはぐれて一人ぼっち。

 心細く、死を恐れる以外の選択肢がなかったに違いない。

 だが、この子は救われた。

 

 ヒーローでもなく、英雄でもなく、立花響という一人の少女に。

 

「大丈夫」

 

 子供の手を引き、響は走る。

 走りながら子供に声をかけ続け、その心を奮い立たせ続ける。

 ノイズから逃げ回る内、彼女らは行き止まりに追いつめられてしまう。

 響は表情を歪め、女の子の顔に絶望が浮かぶ。

 

「大丈夫だから!」

 

 それでも、立花響は諦めない。

 熱く震える全身の血が、彼女に『諦めるな』と叫び続けているから。

 だから彼女は"触れれば死ぬ"ノイズをギリギリまで引きつけ、横っ飛びに跳んで回避した。

 ノイズの攻撃が響達の背後の壁を粉砕し、大きな穴をポッカリと開ける。

 響はすかさず女の子を抱え、壁の穴の向こうへと飛び込んだ。

 

「諦めない限り、繋がるものはきっとあるから!」

 

 階段を登り、攻撃を回避する。

 ベランダから飛び降り、必死に懸命に逃げ続ける。

 真っすぐ走って、曲がり角を曲がって、塀をよじ登って越えて、屋上から飛び降りる。

 立花響は足を止めない。

 何があっても絶対に諦めない。

 生きることだけは諦めない。

 

「だから、絶対に絶対――」

 

 その胸の奥には、あの日天羽奏によって刻まれた言葉がある。

 想いと共に注がれた、胸の歌がある。

 

「――生きることを、諦めないで!」

 

―――生きることを、諦めるなッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 対ノイズ用の大型シェルターから遠く離れた、港の一角。

 本来ならば大量のトラックやコンテナが行き交うために大きく作られたはずのその場所は、響と少女を追い詰めるために機能してしまっていた。

 開けたこの地の真ん中に、二人の少女は逃げ場なく佇む。

 その少女達を隙間なく囲むように、ノイズ達は円形の包囲網を構築する。

 

 360°逃げ場なし。絶対的な絶望だった。

 

「わたしたち、しんじゃうの……?」

 

 小さな女の子が声に絶望をにじませ、響にすがりつく。

 こぼれ落ちる涙さえ、ノイズの手にかかれば炭素の屑と化すだろう。

 二人の少女の目に映るのは、どうやってもひっくり返りそうにない絶対の死地。

 それでも、立花響は諦めない。

 

「死なないよ」

 

 こんなものよりも絶対的な絶望は人の中にこそあると、彼女は知っているからだ。

 『生きることを諦めるな』と叫んだ彼女の言葉を、彼女は覚えているからだ。

 諦めなければ希望は繋がり、風向きは変わると、証明し続けた友の背中を覚えているからだ。

 帰りたい陽だまりがあるからだ。

 だから彼女は、諦めない。

 

「私が、私が信じてる人が、絶対に死なせない」

 

 1秒後に死ぬとしても、0.999999999999999999秒経過したって諦めない。

 

―――助かりたいなら、手を伸ばせ! ……諦めるなッ!

 

 信じられる言葉があるから、膝を折らずに立っていられる。

 俯かずにいられる。俯かないから、諦めない。

 

「だから絶対に……絶対! 諦めてなんて、やるもんかぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 ただ敵を見据え、死の運命になんて従うものかと彼女は叫び、吠える。

 物理的にも在り方の中にも聞く耳持たない怪物(ノイズ)達は、無情に二人に飛びかかる。

 

 

 

 

 

 そして響の叫びは届き、それを耳にした戦士をこの場に呼び寄せた。

 

 

 

 

 

「―――!?」

 

 ノイズの輪の中心、少女達の前にバイクが着地する。

 いかなシステムか、そのバイクは200kg前後の重量で跳躍と着地を悠々とこなしていた。

 鉄の騎馬を駆る騎士は、バイクから降りて少女達の前に立つ。

 ノイズ達は『獲物』ではない『敵』の出現に、ほんの少しだけ足を止めて彼らを囲む。

 少女とノイズの間に割って入って来た青年の顔に、少女達は見覚えがあった。

 

「ゼっくん!」

「朝に走ってたおにいさん!」

 

 彼の名はゼファー・ウィンチェスター。

 呼ばれたならば、望まれたならば、必ず間に合わせる者だ。

 そして過去に響と麻里奈の二人の少女の父を守れず、そのことをずっと悔いていた者だ。

 

「……ヒビキに、マリナちゃんか」

 

 変身してから割って入るつもりだった。

 だというのに、ノイズに囲まれる二人の少女を見た瞬間、彼の頭の中は沸騰してしまった。

 一刻も早く助けないと万が一がある、という思考に従ってしまい、彼は変身前に二人の前に姿を見せてしまった。

 だからこそ、無駄に発生させてしまったデメリットが有る。漏れてしまう機密がある。

 

「二人とも、よく頑張った」

 

 命より大切な機密なんてものはないけど、後で始末書はちゃんと書こう。

 そう思いながら、彼は構える。

 

「後は任せてくれ」

 

 彼の両の手に、銀光が宿る。

 

「アクセスッ!」

 

 右手は拳。

 左手は掌。

 右手は、敵を倒すために。

 左手は、人を守るために。

 殴る拳と、繋ぐ掌。

 

 拳と掌が打ち合わされて、光は弾けた。

 

「これって……!」

 

 銀光、紅焔、黒鎧。

 弾けた光の中から現れたのは、今では誰もが知る英雄の姿。

 

「ナイト……ブレイザー……!」

 

 焔の黒騎士(ナイトブレイザー)の、勇姿であった。

 

 ゼファーは右腕の中に焔を圧縮、空へと向けて打ち込んだ。

 すると右腕から放たれた焔の激流が、槍先の形に固形化されていくではないか。

 固形化された焔の槍は天頂にてUターンして降り注ぎ、この場の全てのノイズを撃ち貫く。

 一撃一撃が必殺の威力であるばかりか、一撃一殺を徹底する精密さ。

 

 響と麻里奈がまばたきを一度する間に、あれだけ大量に居たノイズは全て焼却されていた。

 

「すっごーい!」

 

 麻里奈が歓喜の声を上げると、戦いに一区切りつけたゼファーは二人に歩み寄る。

 

「ありがとう、ゼっくん」

 

「何、ヒビキのピンチだ。駆け付けずにはいられないってもんだよ。怪我はないか?」

 

「うん、ちょっと転んだだけだから」

 

 安心しきった響と麻里奈。

 だがゼファーは、そうと見せずに警戒を続ける。

 彼に奇襲は通用しない。彼の直感は危機を朧気に感じ取るからだ。

 そんな彼の直感が、"まだ終わっていない"と主に囁き続けている。

 

 

 

 

 

「お、居た居た。ターゲットはっけーん」

 

 

 

 

 

 だからゼファーは、自分に『新たな敵』が話しかけてきた時、驚きはしなかった。

 だがその姿を見た時に、心臓が飛び出そうなくらいに驚いた。

 新たな敵は、二年前にも見た覚えのある、白の鎧を身に纏っていたから。

 

「ネフ、シュタン……!?」

 

「ああ、これ元はお前らのだったんだっけか? ま、今はあたしのもんだけどな」

 

 二年前に失われた完全聖遺物を纏い現れたのは、彼とそう歳も変わらなそうな少女であった。

 やや破廉恥な造形に見えるのは、身に纏っている少女の恵体ゆえだろうか。

 ナイトブレイザーと同じく、その顔は鎧に覆われているせいで確認できず、全身を包む聖遺物の力の力場のせいで、声にちょっとしたエコーがかかっている。

 白の鎧と、黒の鎧が対峙する。

 女と男が対峙する。

 互いの顔も声も鎧の力に阻まれて、確認はできない。

 

 片や流血の果てに失われた白鎧の聖遺物。

 片や流血を防ぐために使われる黒鎧の聖遺物。

 まるでこの日この時この瞬間に戦うことが『運命』であったかのように、両者は対照的だった。

 

「……お前、その鎧をどこで手に入れたッ!」

 

「聞きてえんなら喋らせてみろやお利口さんッ!」

 

 白鎧の少女は鎧に備え付けの鞭を振るう。

 軽んじられない重い一撃。それも鞭という軌道の読みづらい武器での一撃だった。

 

「!」

 

 されどゼファーは鞭の軌跡をきっちり見切り、右手に構築した焔のガングニールで弾く。

 背後の二人の少女を守れる位置を保ちつつ、彼はノータイムで左手をかざす。

 そこから放たれた焔の奔流は、尋常な手段では防御もできないネガティブフレアの熱線だ。

 直撃すれば焼滅は必至。

 なのに、少女はそれを鼻で笑う。

 

「はっ」

 

 ゼファーの直感(ARM)は反則である。

 ネフシュタンの襲撃を数日前からぼんやりと予知し、主に下調べさせるなど尋常では無い。

 だが同時に、今相対するナイトブレイザーの敵もまた、反則に近かった。

 

「あたしを殺したきゃあ、その十倍の火力は持って来いってんだよッ!」

 

 白鎧の少女が拳を振り上げ、叩き付ける。

 ただそれだけで、ネガティブフレアの一撃は粉砕されてしまった。

 

「―――なッ」

 

「こいつを昔持ってたってのになーんも知らねえんだな、お前達。

 ネフシュタンは『お前みたいな奴』をぶっ倒すための完全聖遺物なんだぜ?」

 

 マズい。危険だ。

 ゼファーの直感が感じ取る危険度が、一気に指数関数的に跳ね上がる。

 彼は少女二人を連れ、ネフシュタンの少女の反対方向に逃げようとするが――

 

「アース、ガルズ……!?」

 

 ――いつの間にか背後に立ち塞がっていた神々の砦(ぜつぼう)に、足を止められる。

 

(まだ、まだ左右になら逃げ道は……!)

 

 そしてネフシュタンとアースガルズの両者と合わせ、ナイトブレイザーを包囲する包囲網を完成させるために、もう一体のゴーレムも現れる。

 

「ディアブロ!?」

 

 最上級の戦闘技能と四態の焔を使いこなす、武人のゴーレムが、彼らの最後の逃げ道を塞ぐ。

 

 完全聖遺物であり、アンチネガティブフレアのネフシュタン。

 かつてエクスドライブの奏、風鳴弦十郎、風鳴翼、ゼファーの総力戦でようやく勝ちの目が見えたくらいに強者であったアースガルズ。

 かつてガングニール、天羽々斬、ナイトブレイザー、風鳴弦十郎の総力戦でも仕留めきれなかったくらいに強者であったディアブロ。

 

 三者によるナイトブレイザーの包囲が完成する。

 

「ま、そういうことだから」

 

 ネフシュタンの少女が、笑いながら口を開く。

 

「三対一だ。足掻かず、さっさとくたばってくれや」

 

 絶対的な戦力差を、黒騎士に突きつけながら。

 

 

 

 


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