戦姫絶唱シンフォギア feat.ワイルドアームズ   作:ルシエド

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 自分が拗ねているだけなんてことは、未来自身が一番よく分かっていた。

 

(……あー、もう……)

 

 疎外感。

 二人に置いて行かれるかも、という恐れ。

 無力感。

 何も出来ないという辛さ。

 罪悪感。

 ひどいことを言ってしまったという後悔。

 

 もしかしたら、ゼファーと響が最初から何もかもを明かしていればマシになっていたかもしれないが、それも後の祭りだ。

 生来隠し事が嫌いな小日向未来という少女の心の中は、ぐちゃぐちゃになってしまっている。

 

(響のバカ……ゼっくんのバカ……私のバカ……)

 

 しかも、だ。

 ゼファーと響が一緒に居て、二人が揃って"立花響が戦うこと"に同意している光景を見て、未来はあの頃の記憶を呼び覚ましてしまっていた。

 

「もしも、もしも……"また"……」

 

 二年前の記憶。災厄の後、真っ白な病院に通う自分。

 ベッドに横たわる、ピクリとも動かないゼファーと響。

 毎日通っても、毎日見舞っても、二人は一向に目を覚まさない。

 "このままもう二度と起きないんじゃないか"。

 "もう二度と二人と話すこともできないんじゃないか"。

 そんな恐怖に身を蝕まれながら、恐怖と不安を振り払う毎日。

 その原因が、自分が響を誘ったという一件にあるからこそなおさらに苦しい。

 

 『二人と一人』になってしまえば、またあの光景が……自分だけが無事で二人だけが大怪我を負ってしまったあの過去が、繰り返されてしまうのではないかと、未来は苦悩する。

 

「そんなのは、嫌……!」

 

 心配、嫉妬、後悔、無力、不安、友情、親愛、信頼、不信。

 ゼファーと響が並んでいた光景が、二人がベッドから起き上がってこなかった日々の記憶が、腕が溶けてもなお他者を守ろうとしていた戦場の彼の在り方が、未来を苛む。

 "何が正しいのか分からない"のは、未来も同じだった。

 "どうすればいいのか教えて欲しい"のは、未来も同じだった。

 

 ゼファーが推測した通りだ。

 未来の内にある苦悩は、戦いを好んでいるわけではない者達が戦わねばならないという、でなければ守れないという、この世界が孕んでいる矛盾そのものだ。

 その苦悩を簡単に解消できる答えなど、あるわけがない。

 

 未来が抱くその苦悩は答えを出して解消するのではなく、納得を用いて解決するしかない。

 

 ゼファーがそう考えていた通り、彼女に必要なのは納得なのだ。

 

『第一種戦闘配置要請! 第一種戦闘配置要請!』

 

「……え?」

 

 しかし運命は、未来が思い悩みながら自分なりに納得することも許さない。

 

『二課本部内に侵入者です! 現在位置AAC-99第二収納室!

 ネフシュタン、アースガルズ、ディアブロの反応を確認!』

 

「これって、まさか!?」

 

 警報と共に、何かが破壊される音が鳴り響く。

 その破壊音があまりにも近かったことが、未来に「このままこの場所に居れば巻き込まれる」という判断を下させる。

 未来はしゃにむに、あてがわれた部屋を飛び出した。

 その判断は極めて正しく、彼女が居た部屋はこの後すぐに崩落の憂き目にあっている。

 

『各職員は指定の位置に移動、待機して下さい!』

 

(逃げなきゃ……! あ、いや、でも、どっちに逃げればいいの!?)

 

 しかし、二課本部は侵入者を迷わせるために複雑かつ、ここの構図をよく知っている者ならば速く移動できる構造となっている。

 つまり、未来が自分一人でここを脱出することは、極めて難しいということだ。

 

『繰り返します! 二課本部内に侵入者です!』

 

(とにかく、歩かないと。立ち止まったままで居ることがたぶん、一番ダメなことだ)

 

 ここで怯えてうずくまるでもなく、狂乱して走り出すでもなく、"記憶を探って出来る限り正解に近い道を探しながら上を目指そう"と考えられるだけの胆力が、彼女にはあった。

 クソ度胸と言って差し支えないそれを頼りに、未来は勇気を振り絞って歩き出す。

 だが、その勇気は彼女を即死という無慈悲な結末から救ったものの、彼女を文句無しに安全な場所に連れて行くということをしてはくれなかった。

 

「―――!」

 

 勇気を出して一歩を踏み出し、逃げた先。

 

「未来ッ!」

「ミクッ!」

 

「ん? 遅かったな……って、こいつは……」

 

 そこで未来はゼファー、響、ネフシュタンの少女、ゴーレムの戦いのまっただ中に、足を踏み入れてしまったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十九話:三対三、三者三度の防衛戦 7

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼファーが焦っているのは、最奥区画に完全聖遺物を格納していない現状、二課本部の中でこういう位置関係が成立しているからである。

 

□□□□□□□

□□□○□●□

□■▲□□□□

 

 実際はもっと複雑で立体的だが、一部を平面的に表現するとこうなる。

 ▲が敵の侵入地点。

 ■がデュランダルとソロモンの杖が簡易検査のため、一時的に格納されている場所。

 ●が二課の心臓である発電室。

 そして○が未来の居るであろう部屋だ。

 

 未来が破壊音に驚いたのも、ゼファーが未来の身を案じて焦っているのも、当然と言えよう。

 ネフシュタンの少女達がどんな経路を通るかは分からないが、未来が巻き込まれる確率は非常に高い。

 未来以外の巻き込まれる可能性がある職員がこの周辺に居ないということが、不幸中の幸いか。

 

(前提として、俺は奴らを二課本部の中で暴れさせるわけにはいかない。

 過剰に本部を破壊されたらその時点で負けも同然だ。

 次から完全聖遺物を保管しておくことも、俺達をサポートしてもらうことも出来ない。

 研究も止まる、ノイズ対策機能も止まる、集団の強みを活かす連携も止まる!

 それは二課という組織の頭と心臓を同時に潰されることを意味する……!)

 

 敵勢力の襲撃に対応し、本部の人員は移動をほぼ完了している。

 ゼファーは選べる選択肢が極端に少ないこの戦場で、立ち回りを一つ間違えただけで致命的な損害が発生するこの状況で、考えながら戦わなければならない。

 敵の方が圧倒的に強いというのに、更にハンディキャップを背負わされているようなものだ。

 

「アクセスッ!」

 

 しかし、腐っているわけにはいかない。

 ゼファーは変身し、アクセラレイターを使用して一気に階層を駆け下りていく。

 その降下速度は、エレベーターの速度でも遠く及ばないほどの速さであった。

 走るナイトブレイザーだったが、彼が走っている廊下の電灯が一瞬消えて、その電灯よりも少しだけ暗い電灯が再点灯される。

 

『……! 独立発電施設、破壊されました!

 主電源及びメインサーバーシステムダウン! 非常用電源に切り替えます!』

 

(二課本部は初めて入った人間が迷いやすい構造になっている!

 なのに、この迷いのなさ、手際の良さ……

 二課本部の全体見取り図すら外部に流出させていたのか、内通者!)

 

 そこでダメ押しに、構造的に未来が居るであろう位置が危険になる場所が破壊されたと、嫌な知らせがゼファーの耳に届く。

 侵入経路、未来の居る部屋、発電室の位置を頭の中に思い浮かべてみれば一目瞭然だ。

 自然とゼファーの心中に焦りが生まれるが、そこでゼファーと同じように変身を終え走っている響の姿が目に入ると、その焦りも静かに消えていく。

 

「ヒビキ!」

 

「急ごう!」

 

 ゼファーが落ち着いた理由は単純明快だ。

 人間は自分よりも取り乱している人間を見れば、大なり小なり落ち着きを取り戻す。

 未来からの拒絶で精神的に揺らいでしまい、今また未来を心配して気が気でない様子の響は、ゼファーよりなお明確に浮き足立っていた。

 少なくとも、戦える様子ではない。

 未来との確執を、戦闘に支障が出ない程度に割りきれているゼファーは、心中で歯噛みする。

 精神的な打たれ強さという点で、彼と同格のものを響に求めるという事自体間違っているのだ。

 響の精神状態に加え、状況は更に加速度的に悪化していく。

 

「! この感じ……まさかッ!?」

 

『ノイズ出現! 指定位置周辺の職員は警戒して下さい! 出現位置は―――』

 

「えっ、の、ノイズ!? なんで!?」

 

「もう、ソロモンの杖は奪われちまったってことだ!」

 

 ゼファーの感知網が、二課本部内のノイズ出現を感知する。

 時間がない。二課の人員の被害を抑えるためには、シンフォギアかナイトブレイザーの内一人をノイズ対策にあてなければならない。

 ネフシュタンの少女&ゴーレムと戦わなければならないこの状況で、そしておそらくはデュランダルとソロモンの杖を奪われたこの状況で、だ。

 

(悔しいがこれはもう、勝ちが残ってる戦いじゃない……!

 どれだけ被害を抑えて、どれだけ上手く負けられるかを考える、敗戦処理の段階だ)

 

 ゼファーは現状での最善を掴み取るため、敵が狙っている"ナイトブレイザー"という札をどこで切り、どういう形で餌として吊り下げるかを考える。

 もう他に切れる札で有効な物が残っていないのだ。

 

(なら、俺が取るべき選択は……)

 

 そしてゼファーと響は、戦場に辿り着く。

 

「未来ッ!」

「ミクッ!」

 

「ん? 遅かったな……って、こいつは……」

 

 だが辿り着いたタイミングは、最善とも最悪とも言いがたいものだった。

 廊下の真ん中に未来。

 未来を挟むように、ゼファーと響、ネフシュタン達が対峙する。

 ネフシュタン達にが未来に何かをする前に辿り着けたという意味では最善であり、これから戦うという時に足手まといが増えたという意味では最悪だった。

 

「―――」

「―――」

 

 今は言葉を交わす時間すら惜しいとばかりに、ゼファーと響はアイコンタクト。

 響は未来を背中に庇い、ゼファーはそれよりも前に出てネフシュタンと対峙する。

 ネフシュタンの少女が何故か人質になるであろう未来に手を伸ばさなかったことで、ゼファーと響はなんとか未来を確保することができた。

 それは事態を悪化させても、好転させてはいないのだが。

 

(マズい、状況が加速度的に悪くなっていってる……!)

 

 退路を確保しているのか、それとも二課の廊下が狭くて迅速に移動できないからか、アースガルズはここには居ない。

 しかしネフシュタンの少女の手には、またしてもデュランダルとソロモンが握られていた。

 未来を守りながら、進退窮まったナイトブレイザー達を見て、少女は嗤う。

 

「カタギを守りながら勝てるつもりかぁ? とんだお笑い草だな!」

 

「さーて、どうだろうな」

 

 ネフシュタンの少女の挑発を軽く流すゼファーを見て、自分を庇っている響の背中を見て、未来は自分が足手まといになっている現状を理解した。

 

(私が、二人の足を引っ張ってる……?)

 

「大丈夫、未来は、私達が絶対に守るから」

 

 響の力強い断言も、今の未来には届かない。

 

(そんなのは……嫌だ!)

 

 小日向未来が守られるだけの立場に甘んじる人間であったなら、自分を守るために友が傷付くことを許容できる人間であったなら、別の可能性もあっただろう。

 しかし彼女は友情に厚く、"自分のせいで"という考えを持ちがちな人間だ。

 あの日、響にツヴァイウィングのライブコンサートチケットを渡したことを、"自分のせいで"と今でも気にしているような人間だ。

 そんな少女が、自分のせいで友に迷惑がかかっているこの状況を、甘受できるわけがない。

 

 元陸上部のエースたるその脚力を総動員して、未来はネフシュタンの少女が居る方向とは逆の方向に走って行った。

 

「未来!?」

 

「私は一人でも逃げられるから! 二人は私のことなんて放っておいてっ!」

 

 状況はめまぐるしく移り変わっていく。

 未来の背中を掴もうと体ごと後ろを向いた響を狙ってディアブロが炎のドリルを発射するが、ゼファーが作った焔の壁にぶつかり燃え尽きる。

 先日、翼がプラズマシューターを破壊してくれたおかげで、攻撃力がいくらか下がっているようだ。ディアブロの本領は接近戦だが、いくらか戦闘が楽になる。

 ゼファーはディアブロとネフシュタンの前に立ち塞がりながら、響に叫ぶ。

 

「お前が追え、ヒビキ! 安全な場所まで未来を連れて行け!」

 

「え? で、でも!」

 

「今、二課本部内にはノイズが居るのを忘れたか!

 第一未来は二課本部の中の構造を知らないんだから出られるわけがないだろ!」

 

「っ!」

 

 今の未来を放置することは、見殺しにするに等しい。

 で、あれば、そこに人を割かなくてはならない。

 ならば未来を守るために動かすべきは、未来との確執により精神的に揺らいでいるであろう、響以外の選択肢はありえない。

 響をここに残してゼファーが未来の下に向かうなど、最悪も最悪の悪手だろう。

 

「それに……未来と仲直りしてない今のお前の精神状態じゃ、足手まといだ。

 まずは響と未来で仲直りして来い。それまでは俺一人で何とか、どうにかしてみる」

 

「そんな、無理だよ!」

 

 立花響は、未来と仲直りして初めて有用な戦力として数えられる。

 それはゼファーの思考と直感が声を揃えて言っているほどに、確かなことだった。

 逆説的に言えば、未来と仲直りしない限り、響は戦力として数えることが出来ない。

 それに、だ。

 

「頭がいい人間じゃないなら、こういう時に頭に聞くな!

 こういう時は自分の心に聞け! 自分の胸に聞け! きっと、魂が応えてくれる!」

 

「―――っ」

 

「追いたいなら追え! 仲直りしたいなら仲直りして来い! それでいいんだ!」

 

 未来と響の友情にヒビが入っていることが現在進行形で気になっているのは、ゼファーも同じ。

 

「大丈夫だ。お前ら二人が仲直りする時間くらい、俺一人で稼いでみせる」

 

 そのために奇跡を起こすくらいなら、安いものだと、ゼファーは思う。

 

「どの道、二課本部内のノイズの掃討に一人は当たらなくちゃならないんだ。

 未来を送り届けながらノイズを掃討して、二課の皆を守ってやってくれ」

 

「……うん、分かった。でも私が戻ってくるまでに無茶したら、絶対許さないからね!?」

 

「ああ、分かってる」

 

 そして響は未来の後を追い、駆けて行く。

 後に残されたのは、ナイトブレイザーとその敵勢力のみ。

 

「随分舐められたもんだな、一人で十分だって思い上がってんのか?」

 

「お前がノイズを放った時点で、響は行かせるつもりだった。

 俺は響が迷いなく一直線に飛んで行けるように、納得できる理由をやっただけだ」

 

「はっ、違えだろ? お前らは何も見捨てられないから、何もかもに手を伸ばしただけだ。

 全部に手を伸ばした結果、全部を取り落とす可能性だって分かってるくせによ」

 

「……そうかもな」

 

 翼は街の人を守るために出撃中。

 響は未来と二課の皆を守るために離脱した。

 結果、ゼファーは今、たった一人で絶望的な戦力差の戦場に立っている。

 その理由を、ネフシュタンの少女は"見捨てられなかったから"と言う。

 守るべきものが多すぎるから、人が分散してしまうのだと言う。

 それは、紛れも無く正論だった。

 

 守るべきものがない者達の方が、守るべきものが多い者達より、戦いの中で有利であることは当たり前なのだ。

 それでもなお見捨てられないナイトブレイザー達を見て、ネフシュタンの少女は羨むような、蔑むような嘲笑を浮かべる。

 綺麗事だと、必死に懸命に自分に言い聞かせるように、彼らを嘲笑(わら)(あざけ)続けながら。

 

(俺達を囲む状況は最悪。

 ノイズ処理はヒビキに任せないといけない上に、そっちが手遅れになれば全滅もありうる。

 敵はネフシュタン、デュランダル、ソロモン、ノイズ、ディアブロ、アースガルズ。

 一人で倒すのは絶対に無理だが、こいつらはやはり俺に対する殺意が見えない……

 俺を狙っていることが事実であっても、その目的は殺害ではなく、捕縛の可能性が高い)

 

 直感的に、ゼファーは敵の意志の流れを読み取る。

 彼は二課本部の崩落を防ぐ手立ての一つとして、敵との距離をよく考えて、敵がド派手に二課を破壊すれば自分が生き埋めになりかねないような、そんな動きをしようと決める。

 ゼファーが取れる手段は一つ。

 自分の身を餌として、希望の灯を絶やさないようにすることだけだ。

 

 彼は捕まった後人体実験に逢うことさえも覚悟の上で、敵に捕縛される覚悟をも決めていた。

 悲壮な決意でなされる選択。

 それ以外に何も選べないくらいに、この状況は彼にとって最悪だった。

 

(俺を餌に、俺を狙って来るこいつらを、最大限に振り回せれば……)

 

 覚悟を決めたゼファーが、歯を食いしばる。

 

「今日でお前との因縁も終わりだなぁ、ナイトブレイザーッ!」

 

 ディアブロがナイトブレイザーに迫る。

 二課本部の廊下という密閉空間において、ディアブロの格闘能力の脅威は倍加する。

 ネフシュタンの宝石の鞭がナイトブレイザーに迫る。

 ディアブロの邪魔にならない軌道で、かつ逃げ道を塞ぐ軌道で、絶大な威力が迫り来る。

 

 ナイトブレイザーはそれの攻撃を一発二発食らうつもりで受け止めようとして――

 

「孤軍奮闘とは感心しないな。俺も混ぜてもらおうか?」

 

 ――自分を庇うように割って入って来た、男の背中を見た。

 

「なっ……!?」

 

 その声を上げたのは誰だったのか。

 誰が上げたにせよ、シンフォギアのバリアフィールドを貫通するほどのネフシュタンの鞭を素手かつ片手で掴んで、もう片方の手でディアブロの拳を素手で受け止めたその男に対し、声を上げたことに変わりはない。

 その男は悠然と立ち、完全聖遺物どもの攻撃から、ゼファーを守る。

 頼りがいしかないその背中を、ゼファーが見間違えることなど、ありえなかった。

 

「ゲンさん!」

 

「よう。司令部の機能をそこの嬢ちゃん達に完全に止められてしまってな。

 悪いとは思ったが、この暇になっちまった中年と遊んでもらおうと思ってよ」

 

 ディアブロが後退し、ネフシュタンと合流する。

 戦意を滲ませながら現れた風鳴弦十郎の存在は、戦局のバランスを一変させる。

 ネフシュタンの少女は情け容赦なく、ソロモンの杖を弦十郎へと向けた。

 

「けっ、男どもが雁首揃えて仲良しこよしか」

 

「師弟なもんでね」

 

「なら、師弟仲良く消えちまいなッ!」

 

 ソロモンの杖が世界の境界を揺らがし、ノイズを大量に召喚する。

 ノイズが雪崩のごとく突撃を始め、ディアブロもそれに混ざって再度突撃して来たようだ。

 弦十郎の強さをも無に帰す、人類の天敵ノイズ。

 狭い空間という地の利を得た格闘戦特化機体、ディアブロ。

 この二つが力を合わせたコンビネーション攻撃を前にしても、男二人は揺らがない。

 ニッと笑って、笑顔と共に男の拳は振るわれた。

 

 一の拳は、ゼファーの拳。

 彼の"絶招"として練り上げられた拳の焔は、焔の渦となって全てのノイズを焼却せしめた。

 二の拳は、弦十郎の拳。

 ノイズが焼き尽くされたことを確認するやいなや、弦十郎は前に跳んで拳を放つ。

 その拳は格闘戦特化のディアブロの拳とぶつかり、一瞬の拮抗もせず、衝撃でディアブロを吹っ飛ばす。その一幕は、両者の間の"絶対的な腕力の差"を証明していた。

 三の拳は、二人揃って構える拳。

 

「思えば、俺とお前で二人だけの共闘というのは、初めてか」

 

「かもですね」

 

 男二人が肩を並べて、同じように左足を踏み込み、同じように拳を構える。

 

「「 さあ、かかって来いッ! 」」

 

 腹の底から出された男達の声は、まるでツヴァイウィングのデュエットのように響き合い、高め合い、空間の中に満ち満ちる。

 ネフシュタンの少女の前髪が空気の振動だけで揺れたほどに、二人の声はよく響いた。

 うるせえ、と少女が思ったのむべなるかな。

 

 既に英雄である大人と、英雄の道を進む青年が、今、ここに並び立つ。

 

 ゼファーと弦十郎は同じ道を進んでいた。

 先を行く弦十郎の背中を、ゼファーはずっと追っていた。

 されど今は、どちらがどちらの背を見るでもなく、肩を並べている。

 同じ意志を握り締めた同じ拳を、同じように構えている。

 

 かつて少年だった青年は、それが無性に、嬉しかった。

 

 三度目の防衛戦は、男達の咆哮から始まる。

 

 

 

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