戦姫絶唱シンフォギア feat.ワイルドアームズ   作:ルシエド

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 原作無印だとクリスちゃんが日本に帰って来たのはツヴァイウィングコンサート前日、クリスちゃんが失踪したのは帰国当時っぽいです。確定ではないですが
 当作だとライブの日時そのものがズレていますが、だいたいライブの一週間くらい前に失踪した形になっています。なんにせよ二課は過労死ですね

 それとヴァーミリオン・ディザスターから日本に帰るまでのクリスちゃんの話は、基本的に二章おまけの『クリス/マリア+調+切歌の純情な感情』を再チェックだ!


第三十話:繋いだ手だけが紡ぐもの

 無垢なままに何もかもを信じていた。

 平和な世界に生きていた。

 両親に連れられ、バル・ベルデに赴いた。

 父と母の死を契機に、地獄の底へと投げ込まれた。

 

 そこで、一人の少年と出会った。

 

 誰も信じられない地獄で、友を得た。

 皆が死んでいく地獄で、家族と呼んでくれる人を得た。

 明日が見えない地獄の中で、ほんの少しだけ希望が見えた。

 平和な世界に帰れるという希望が見えた。

 

 その希望も、紅き災厄(ヴァーミリオン・ディザスター)に打ち砕かれる。

 

 大切な人が焔に呑まれた。

 大切な人が自分を裏切り、どこかへ行ってしまった。

 戦火の中に、女一人で投げ出された。

 そこからはずっと、ずっとずっと孤独だった。

 子供だと見て、利用しようとして来る奴が居た。

 女だと見て、獣のように性欲をぶつけて来ようとする奴が居た。

 強者だと見て、擦り寄って来る奴が居た。

 

 それら全てを跳ね除けて、孤独のままに少女は生きる。

 

 バル・ベルデに一人残された雪音クリスも、また地獄を生き抜いて来た子供だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三十話:繋いだ手だけが紡ぐもの

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリスの運命を決定的に変えたターニングポイントは三つ。

 両親が殺された日。

 ゼファーが死んだヴァーミリオン・ディザスター。

 そして、日本の宿舎で黄昏れていたクリスの前に、一人の女性が現れた夜。

 

「この世界から、争いを無くしたいとは思わない?」

 

「なんだ、てめえ」

 

 その女性は、フィーネと名乗った。

 

「この世界から、何故争いが亡くならないと思う?」

 

「……力を持ってる奴が、総じてバカだからだろ」

 

「そうね、それもまたひとつの真理。だけど本当の理由は、人類が呪われているからよ」

 

「呪い?」

 

 柔らかな銀雪に例えられるクリスの髪、金糸に例えられるフィーネの髪。

 二つは近しいようで対照的だ。

 荒っぽい口調に可愛らしい声のクリス、静かな口調に綺麗な声のフィーネと、声までもが近しいようで対照的だった。

 

「天高くより降り注ぐバラルの呪詛。

 それを打ち砕き、人類の相互理解を成すには尋常な手段では不可能よ。

 ならばあなたはあなたの流儀で、戦争の火種を無くしてみたらどうかしら?」

 

「あたしの、流儀……?」

 

「力をあげましょう。あなたが手にするはずだった力を。

 あなたが本来掴み取るはずだった運命を。

 あなたが忌み嫌う全ての力ある大人を、ねじ伏せられるだけの力を。

 そして"最も強い者"と誰もがあなたを認知した未来で、全ての者に銃を突きつけてみなさい」

 

「―――!」

 

「最も強い人間が『争う奴は殺す』と言う。

 これ以上にシンプルな平和のもたらし方があるかしら?」

 

 核兵器が何故、抑止力としての機能を語られるのか。

 銃を突きつけてのホールドアップが何故、敵を取り押さえるために有用なのか。

 それは誰もが『余計なことをして死にたくない』と思うからである。

 クリスが最強の力を持ち、"戦争始めようとした奴からぶっ殺す"と言いながら、銃を全ての人間に突きつけたならどうなるか?

 なるほど、クリスが他者を恐れさせれば、恐怖で戦争を止めることも可能ではあるだろう。

 

「そりゃ名案だ。それなら、あたしに力さえあれば、もう戦争なんてもんは……!」

 

 だが、その平和がどれだけ血塗られたものになるのか、その平和のためにどれだけの数の屍が積み重ねられることになるのか、クリスは気付いてもいない。

 そして、フィーネが気付いていないはずがない。

 力ずくの平和は必ず矛盾し、絶対に破綻する。

 

 だからこそ、それは子供しか志さないような平和への道であり、大人が実行に移そうなどとは考えもしないものであり、人類の歴史の中で一度も恒久平和を保証できなかった方策だった。

 

「これはただの取引よ。

 私はあなたに力をあげて、あなたの才覚を利用し、目的を果たす。

 あなたは私の力を受け取り、私の願いを聞き、この世界から戦争を無くす」

 

「悪魔の取引みてーだな。だけど、悪くない。

 善意で力をくれる奴より、損得考えて力をくれるって奴の方がまだ信用できるしな」

 

「私は魔女よ。売った魂は地獄に行くかどうかも分からないわ」

 

「今の世界以上の地獄があるもんかよ。

 戦乱がなくならない限り、このクソッタレな世界はどう言い繕おうが地獄でしかねぇ」

 

 フィーネの言葉は学のないクリスにも分かりやすく、一つの真理であるかのようにクリスには聞こえた。とてもシンプルなやり方で、理があり、力さえあれば叶えられるものであるように思えたのもクリスには好印象だった。

 まさに、"クリスを説得するためにはこれ以上ない"くらいに適した理屈。

 

 だが、それだけだ。

 クリスには天啓のように聞こえただろうが、こんな考えは愚考でしかない。

 このやり方は戦争の火種を一つ潰して、新たな火種を二つばら撒く行為に等しいからだ。

 

 例えば二つの国の間に起ころうとしていた一つの戦争を止めるため、二つの国の人間のどちらにも暴力を向けてしまえば、二つの国に二つの火種が生まれてしまうだろう。

 人の感情は複雑だ。

 平和をもたらすためとはいえ、暴力で平和を掴み取ろうとしてしまえば……戦争を止めようと動こうとしたクリス自身が、いつか戦争を引き起こす原因となってしまうはずだ。

 

「なら、受け取りなさい。貴女の力を……『イチイバル』を」

 

「……あたしの、力」

 

「他に力が要るのなら、いくらでも貸してあげましょう。

 だけど貸すだけ。ソロモンも、ネフシュタンも、アースガルズも、ディアブロも。

 それは貸して与えた私の力。けれど、その力だけは違う。

 イチイバルは数年前からあなたを選んでいた聖遺物。

 私にも扱えない、ゆえに私が貸し与えるわけではない、あなただけの力になる聖遺物よ」

 

 弱者を踏み躙る戦争が嫌いだ。

 クリスはあの頃からずっとブレずに、そう思い続けている。

 だが弱者を守るためならば強者を踏み躙れるその性格も、またブレていない。

 彼女は甘く、優しいだけだ。

 だから虐げられる者の味方にはなっても、正しさの味方でいようとしているわけではない。

 雪音クリスはどこまでも弱者の味方で、正義の味方ではなかった。

 

 それが彼女の根源だ。

 だからクリスは、強者である翼を悪でないと知りながら痛めつける選択肢を選べるし、一般人が近くに居れば極力巻き込まないように動く。

 不器用で、踏み躙られる弱者の痛みに共感し動く、優しさが根底にある行動原理。

 しかし、それは紛争地帯の地獄が彼女に与えた歪みでしかない。

 

 強者を倒せば、その下の強者が繰り上がってくるのは当然のことだ。

 強者と弱者は相対的な概念でしかなく、弱者が強者にも、強者が弱者にもなる。

 例えば、の話だが。

 クリスが最強の力を手にした時点で、全ての者は相対的に弱者となる。

 そんな世界でクリスが争う他人に圧政を敷けば、どうなるだろうか?

 

 そう、クリスはその時点で"弱者を虐げる強者"になってしまう。

 

 力を手に入れて他人を押さえつけるという選択をした時点で、弱者を救うために強者を圧するというクリスの選択は、矛盾してしまうのだ。

 彼女の選択は、彼女が最も忌み嫌う世界構造を構築してしまう。

 それもまた、クリスが気付かずフィーネが気付いている事柄だった。

 

「あたしの、イチイバル」

 

 クリスは強者の悪、弱者の善を信じすぎている。

 そして自分が力を手に入れた時、持たなければならない"力ある者の責任"を持っていない。

 彼女の心の根底にあるものは何一つとして間違ってはいないが……それでも今の彼女は、自覚ないままに間違った道を進んでしまっていた。

 正しさのない道は、その大半が後悔という崖に一直線に続いている。

 

 まさしくクリスは、自分がいずれ後悔する結末へと続く道を、盲目に突き進んでいた。

 

 雪音クリスの失踪。それは、天羽奏の死から数えて、ちょうど一週間ほど前のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪音クリスは、現在世界で三人だけ確認されている第一種適合者という希少な存在だ。

 その内一人であるセレナが既に故人であること、最初の第一種適合者である翼がずっと二課の管理下にあることを考えれば、その希少性は更に価値あるものに映るだろう。

 言ってしまえば、世界で唯一自由に動かせる正規適合者なのだ、彼女は。

 

 クリスがフィーネに連れられ、社会の裏側にて最初にしたことは、ソロモンの杖の起動だった。

 

 適合者が体内から生成するフォニックゲインは、完全聖遺物を起動させることが出来る。

 とはいっても、二課が十万人の人間が動くライブを用いて、初めて可能となった事柄だ。

 雪音クリスほどの才能の持ち主であっても、その再起動には半年かかった。

 逆に言えば、一人の力でやっているというのに半年しかかからなかった、とも言えるが。

 その時点で、クリスは適合者として非凡な人間であるとも言える。

 

 クリスがフィーネに連れ去られてから、ゼファーと戦い始めるまで二年。

 その間、一万年近い数千年の研鑽を積んで来たフィーネの戦闘技術を学べば、天才肌のクリスはまさしく最強に……なったのだろうが、特にそういうことは為されなかった。

 翼や響と比べると、どうしてもクリスは天才肌だった。

 日々功夫(クンフー)を積むという考えが彼女にはない。

 才能と機転だけで、大抵のことはどうにかなってしまうからだ。

 

 実際どうにかなるのが始末に負えない。

 

「そういやフィーネ。あんたの目的、あれは……」

 

「ああ」

 

 クリスは聖遺物という力を得た。

 フィーネは彼女に力を与えた見返りとして、己の目的のためクリスの協力を得ようとしている。

 そこに強制力はない。

 道を違えれば、その瞬間からクリスはフィーネの敵となるだろう。

 現状のクリスですら"いつか敵対するかもしれない"と思っているほどに、フィーネが抱いているその『願い』は、頭のネジが吹っ飛んでいるとしか思えないものだった。

 

「私の目的はこの世界の存続と、浄化と、再構築だ」

 

 神話や絵物語の中で、神様気取りの存在が口にするような絵空事を、フィーネは大真面目な顔で口にしていたのだ。

 

「そのために、世界の脅威の排除。

 その下準備として人類にかけられた呪いの解除。

 増えすぎた人類の間引き、統制、意識の変革を目的としている」

 

 大昔、人々は完璧な相互理解の力を持っていた。

 されどそれは創造主(カストディアン)の呪詛により、奪われてしまう。

 人々の心が一つになることで、"ロードブレイザーの力の源である恐怖と絶望"を、人々が一丸となって魔神に対し抱いてしまったという、最悪の循環が過去にあったからだ。

 勇気を持たない人間が人類の大多数であり続ける限り、人々の心を一つにしても意味が無い。

 

「世界を一つにし、倒さねばならない敵が居るわ。

 私は強き人間を選別し、世界を一つにし、人類を存続させなければならない」

 

 その考えは合理的かも知れないが、とても常人とは思えない割り切りと、人間の命を額面上の数字の変動としか見ていないような、寒気の走る恐ろしさがあった。

 

「それが終わるまでに一体、何人死ぬんだ?」

 

「人類が滅びないのであれば、50億程度の死など瑣末なことよ」

 

「……イカれてるぜ、あんた」

 

「痛みがなければ何も分からないのが、人類という愚かな生き物だろう?」

 

 しかしクリスは、フィーネの言葉に見えるその残酷の中に、少し毛色の違うものも見て取った。

 

「痛みだけが人の心を絆と結ぶ。そうもしなければ、世界が一つになることなどありえない」

 

 長い年月は、フィーネを摩耗させ、研磨して、彼女を精神の怪物へと変貌させた。

 けれども、それは彼女が大昔に持っていたものが全て失われたことを意味しない。

 

「あんたやっぱ、人が繋がれるって、信じてるんだな」

 

「……何?」

 

 クリスが見つけたものは、気が遠くなるほどに長い年月が流れども、フィーネの中から削り取られずにずっとそこに残っていたもの。

 

「いや、呪詛がなくなりゃ人が繋がれる、って信じてるってことだろそりゃ。

 人がそう簡単に繋がれるもんかよ?

 相互理解の邪魔がなくなったって喧嘩するさ、どうせ。

 だからあたしにはあんたが、『人は邪魔さえなければ繋がれる』って信じてる夢想家に見える」

 

 戦乱の中でスレたクリスの目には、フィーネが夢見がちな乙女のようにすら見えた。

 クリスはフィーネに、フィーネはクリスに対し、「そんな簡単に行くわけがない」という呆れに近い気持ちを持っていた。互いが互いに対してだ。

 クリスは人が真に繋がれると信じているフィーネを。

 フィーネは力と暴力で戦争の火種を消せると信じているクリスを。

 相互に、ほんの少しの好感をにじませて、夢見がちな人間を見るような目で見ていた。

 

 そしてフィーネを『夢想家』と呼んだクリスの言葉に、フィーネは寂しげに微笑んで、結局応えることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バル・ベルデでゼファーを拾い、F.I.S.に送った者。

 F.I.S.にて彼の情報を余すことなく送られていた者。

 ゼファーの個人情報含む、二課の機密情報を握る者。

 フィーネという人間には、この三つの要素が含まれている。

 

 結局のところ、クリスが知らないだけだったのだ。

 フィーネはゼファーとクリスの関係も知っていたし、ナイトブレイザーの正体がゼファーであることも知っていたし、その正体をクリスが知れば"こうなる"ことも知っていた。

 

「フィーネッ! てめえ! あんた最初から、全部知ってて!」

 

 黒騎士の仮面が剥がれ、その下の顔を見た夜に、クリスはフィーネが『ゼファーのこと』を全て隠していたことを察し、彼女に詰め寄っていた

 

「知ってたわよ?」

 

「な―――!?」

 

 だがフィーネはさらっと悪びれもせず、あっけらかんと種を明かす。

 

「あなたに事前に教えていたら、あなたが間違いなく躊躇っていた。

 ここにあなたがナイトブレイザーを連れて来てからでも諭すには十分だった。

 雪音クリスという説得材料があれば、ダメ元でも説得に挑戦する意義はあった。

 理由としてはそんなところかしらね。だから殺さず連れて来いと、そう言っていたのよ」

 

「……捕まえてから、説得するつもりだったってのか?」

 

「そのために十分な戦力をあなたには与えておいたはずよ。

 戦場で短い時間をあくせく使うより、拠点でじっくり説得した方が楽。

 私の気遣いは、余計なことだったかしら?」

 

「気遣いぃ~? よく言うわ。あたしを上手く利用するために黙ってただけだろうが」

 

 苛々とした気持ちが伝わってくるクリスの言葉を聞き流しながら、フィーネは悠々と窓から外の景色を見渡す。

 山間の湖の傍に立つ洋館。

 舗装されていない道を車で二時間は進まなければ辿り着けないような、地図にすら乗っていないミステリー小説の舞台のような洋館。そこが、フィーネ達の拠点だった。

 喧騒とは無縁の山々を見渡しながら、フィーネは窓を鏡のように使い妖艶にクリスに微笑む。

 

「それで? 私が信用出来ないと、ここから出て行くとでも言うのかしら?」

 

「……あんたは……少しだけど、あたしに優しくしてくれた」

 

 クリスは苛々と、苦々しい表情を浮かべているが、それでもフィーネを切り捨てる選択をまだ選んではいない。

 今にも選びそうになってはいるが、それでも、ギリギリの所でまだ踏み留まっている。

 

「冷酷だけど、悪いところだけじゃない、暖かいところも見えた……気がする」

 

 フィーネはクリスに意図して優しくしていた。

 それはクリスを利用するため、クリスが自分に従順になるよう仕向けるための、優しい人間を演じる演技だ。……だが、それが全てではない。

 フィーネは目的のために手段を選ばない人間ではあるが、悪と言うにはまた違う。

 そして"生まれついての手段を選ばない人間"だったわけでもない。

 

 ずっとずっと昔、彼女の弟が居た頃はまだ、彼女も心優しい人間だった。

 仲間を想い、残酷な選択を嫌う人間だった。

 それは今でもフィーネの中にしかと残っているものであり、クリスに決断を躊躇わせる要素となっていた。

 

「まだ、あんたを信じたい気持ちも、あたしの中にはある」

 

 クリスは迷っている。

 ゼファーの下に行くべきか、フィーネの下に留まるべきか。

 その迷いを振り切るようにパワープレート(プレート・ミーディアム)化したネフシュタン、ソロモンをテーブルの上に叩き付け、クリスはペンダント一つだけを手に部屋を出ようとする。

 そしてドアノブに手をかけたところで止まり、フィーネに一つ言葉を吐いた。

 

「だが、こっからはあたしのやり方でやらせてもらう」

 

「だから『これ』を置いて行くと?」

 

「ああ。心配すんな、首尾よく果たして帰って来る」

 

 フィーネの力は借りない。

 一人の力だけでゼファーと相対し、今の彼を知り、今の自分を彼に理解させる。

 それがクリスの選択であり、"ゼファーの相棒"としてかつて生きた彼女が考える、最善の選択肢であった。

 

「あばよ。次に会う時は、吉報か銃弾をくれてやる」

 

 そう言ってクリスが出て行った後、フィーネは自然と閉まったドアを見ながら、溜息を吐く。

 

「これだから思春期のガキと、腐った政府は始末に負えない……」

 

 フィーネに近しい者ほど、フィーネの思い通りにならない。

 もう何千年もずっと、永遠の刹那の生涯の中、ずっとそうだった。

 その度フィーネは苛ついて、壁を意味もなく蹴り飛ばすのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリスが死んでいた、という前提を頭の中から取っ払って調べ直したゼファーの目に映るのは、自分のバカさを知らしめる情報の数々だった。

 ゼファーは基本的に娯楽を嗜まない。

 テレビも最低限、本も最低限、インターネットも最低限だ。

 だから情報の種類によっては、入ってくる情報の分野が極端に制限されてしまう。

 

 ゼファーは今、そんな自分を見直す機会にぶち当たっていた。

 

(……俺がもうちょっと、余分なことに時間を割いていれば、何かどうにかなったのか……?)

 

 ゼファーの境遇は、全てというわけではないが二課の多くの人間が知っている。

 こと、『バル・ベルデ』というワードに引っかかりを覚えた人間は多かっただろう。

 雪音クリスがそこで紛争に巻き込まれ日本に帰って来たことは、新聞やニュースで大々的に日本中に報道されていたし、何より二課はかの一件に関わりが深かった。

 雪音夫妻の安否の確認や、日本に帰国した後のクリスの保護を受け持つ役目を請け負う任を、特異災害対策機動部二課は政府より承っていた過去があったからだ。

 

 ゼファーと雪音クリスに面識があるのでは、と思い始める人間が出始めるのは当然のこと。

 大人達は会話の中でゼファーに気付かれないよう確認し、会話に気付かれる要素が全く存在しないのに直感的に怪しんでくるゼファーに肝を冷やし、確信に至る。

 そして以後ずっと、ゼファーにだけは黙っていた。

 

 だってそうだろう。それをゼファーに教えたところで、どうなる?

 雪音クリスが見つかる要素は増えはしない。

 それどころか、ゼファーの心労が増えるだけになりそうですらあった。

 

 立花洸の死により、精神的負担で暴走しながら死んでいく可能性があると明示された彼に、どうしてそんな余計な真似ができるだろうか?

 

「すまなかった」

「申し訳ありませんでした」

 

「謝るほどのことじゃないですよ。

 俺が知ってたところで何も変わらないことも事実。

 もし知ってたら、心穏やかに居られなかっただろうことも事実。

 組織だった奴らにクリスが連れて行かれてたなら、俺にできることはなかったでしょうし」

 

「だが、俺達は……」

 

「時期的にも厳しかったでしょうしね。

 クリスが日本に帰って来た時期なら、失敗できない起動実験の直前の忙殺されそうな時期。

 クリスが居なくなった時期なら……ちょうど、奏さんが死んでからの時期ですから。

 その後に話すタイミングを探すなら、そりゃ当然クリスを見つけて連れてきた時しかない」

 

 弦十郎と緒川は、弦十郎の私室でゼファーに全てを明かしていた。

 二人が予想していた以上にゼファーは気丈で、平然としている。

 気遣われ、仲間外れにされていたことも気にしてはいない。

 クリスを傷付けていたかもしれないという考えすら、振り払った後だ。

 あるのは大切な人が生きていたという喜びと、現状どうするかを迷う悩みといったところか。

 

(ゼファー……)

 

 揺らがぬゼファーの有り様に、弦十郎は頼もしさを覚える。

 だがこれから先、ゼファーが大切に想うその人間と戦わなければならない未来を思うと、弦十郎は痛ましさを感じずには居られない。

 

「あの時、緒川さんが俺の年齢を知ってたのも」

 

「はい。あなたの家族にお話を聞かせて頂きました」

 

「……バーさん。あなたも、生きてたのか」

 

 ゼファーの年齢が明らかになったのは、緒川がバル・ベルデに行っていたからだ。

 ……つまり、そういうことなのだろう。

 緒川は始めから、クリス関連の事柄を頭に入れた上で、現地に向かっていたのだ。

 おそらくはクリスが確実に日本に帰れるようにするため、そしてバーソロミュー・ブラウディアと会うことで、諸々の確認を取るために。

 

「ゼファーさん、その……」

 

「バーさんが自分が生きてることは黙ってて欲しいと頼んだ、ってとこでしょうか」

 

「!」

 

「クリスが日本に帰れるまでは、ゼファーには黙ってろとか、そういうことも言ってたでしょ?

 あの人は頭いい上に、俺のこと大体分かった上で人と物と情報動かしますからね……」

 

 ゼファーの視点で見えていた世界の裏側が見えて来る。

 もしもクリスの生存と行方不明を最初からゼファーが知っていたら、どうなっていたか。

 変なところでゼファーが暴走し大惨事、なんてこともありえただろう。

 海の向こうからバーソロミューが打っていた一手は、ゼファーのストレスを軽減する程度の目的しかなかったものだが、回り回って奇跡のように綱を渡りきらせるという結果を導いていた。

 

「ゼファー、あの子をどうする?」

 

「説得します。俺のやり方で」

 

「お前のやり方?」

 

「なんだかんだ、一年一緒に相棒やってましたから。任せて下さい」

 

 ゼファーは立ち上がり、胸に拳を当ててニカッと笑う。

 その笑みの力強さに、弦十郎も緒川も心のどこかにあったわだかまりが消えていく。

 

「二人とも、そんな気にしないでください。

 本当にお二人に対して怒ってるとかはないですよ。

 クリスが生きていたことは本当に、ほんっっっとうに、嬉しかったですし。

 怒ってるとすれば……巡り合わせとか、運命とか、そういうものに対してだけです」

 

 なのだがその実、ゼファーが拳を当てた懐の内側には、一通の手紙が収められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 定期検診のさなか、響はぐでーっとして愚痴っていた。

 翼はいつもの凛とした様子を崩さずに、苦笑している。

 

「次から次へと問題オブ問題……私呪われてるかも……」

 

「立花に喧嘩を売っていた私を言うのも何だが……

 呪われているのはむしろゼファーではないだろうか」

 

「あ、はい、まさにそうですね」

 

 軽口を叩きながら、響は融合症例になったがゆえの肉体への影響を、翼は短期間に連続して絶唱を使ったがゆえの肉体への影響を、それぞれ細かに精査していく。

 

「立花がその力を得たことを呪いと嘆くなら、分からないでもないが……」

 

「呪いなんてとんでもない! 奏さんが残してくれたものですから!」

 

「……そうか」

 

 元気よく言い切る響に、翼はどこか安心したような顔を見せる。

 響はソファーに横になりながら、ぼーっと天井を見上げ、ゼファーとクリスの件を思い返しながらぼそっと呟く。

 

「なーんで、皆仲良く出来ないんだろ……」

 

「それはね、人類が呪われているからよ」

 

「えっ?」

 

 自分のなんでもない呟きに、まさか機器を弄る了子から返答が返って来るなどとは思っていなかったのか、響は少し驚いた顔で体を起こす。

 

「人を呪わば穴二つ、って言うでしょ?」

 

 細かな数値の計測が終わったのか、了子は機器を弄るのをやめて響と翼と向き合った。

 

「先史文明はね、一説には最後の最後に、人と人が殺し合うことで滅びたと言われているの」

 

 了子が開いた口から漏れる言葉は、どこか寂しく、虚しく、悲しげな響きがあった。

 

「全ての人間が、全ての人間を呪いながら滅びた……

 その呪いがこの時代にまで残っていると、そう考えたら。

 人類はいまだ呪われていると、本当に救いがないと、そうは思わない?」

 

 了子が言うことが真実であるのなら、今もこの世界には"先史の人類が残した呪い"がいくつも残っており、それが人の相互理解を妨げているということになる。

 先史文明期に互いを思いやるのではなく、互いを呪った者達の残滓。

 それが今、この時代になっても人々の相互理解を妨げているというのなら……それは『悪夢』と言って、なんら差し支えないものであることは間違いない。

 されど響は、綺麗事をもってそれに対する返答とする。

 

「呪いも悲しみも、終わらせられます。笑顔で終わらせることが出来るって、私は信じてます」

 

 それは現実などという壁では到底止められない、並大抵の壁など力ずくでぶち破る、撃ち出された一振りの槍の如き強き意志を感じさせる言葉。

 

「まずはゼっくんが、そういうのを証明してくれると思いますよ!」

 

 そしてゼファーとクリスが仲良くできていない現状を嘆いてはいても、ゼファーとクリスが仲良くできないなどとは微塵も思っていない、そんな彼女の思考を知らしめる言葉だった。

 

「あなたはゼファー君とクリスちゃんのことを、全く心配してないみたいね」

 

「そりゃもう!」

 

「……ふふふっ」

 

 力強く言い切る響の笑顔に、釣られるように了子も笑ってしまう。

 響は人と人が繋がれることを信じている。

 そしてゼファーならばと、揺らぐことなく信じているようだ。

 そんな響を見て、翼も呆れたように笑みを浮かべてしまう。

 

「まったく」

 

 翼とて、ゼファーを信じている一人であるくせに。

 

「健康診断の結果、オールグリーン。

 もう好きにして結構よ、二人とも。

 さて、私はこれから用事があるけど、二人は?」

 

「あ、私達も用事があるんです!」

「私達も少々」

 

「あら、あんなにいがみ合ってたのにもう一緒にお出かけ? 若いっていいわねえ」

 

「それは言いっこなしですよー、了子さん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰もが思うまい。

 

「……やべえ、腹減った。なのに金がねえ……」

 

 今、日本政府が最大限に警戒しているテロリスト集団の一人と見られている、雪音クリスが腹を空かせて街をうろついているだなんて。

 

(フィーネに二課の内通者の存在聞いときゃよかった……ちょっとは苦労が減ったかもな)

 

 クリスには金がない。

 そして格好付けてフィーネの下を出て来た手前、戻ることもできない。

 今の彼女には服と一つのペンダントしかないのである。

 朝に拠点を出てきて、今が夕方の五時少し前。お腹も減るというものだ。

 

「ん? あんた腹減ってんのかい?」

 

「? そうだけどよ、おばさん、なんか用……」

 

「ならうちで食ってきな! なーに、まかない用の飯だから遠慮なんかしなくていいよ!」

 

「え、ちょっ、引っ張るなぁ!?」

 

 なのだがそこで、お好み焼き屋の開かれた扉の向こうから、少々歳を重ねた女性が突如現れ、クリスを問答無用で引きずり込んでしまう。

 世話焼きおばちゃんの吸引力に抗えず、座らされたクリスの隣には一人の少女。

 その少女もちょこんと座りつつ、おばちゃんの強引さに戸惑っているかのような表情を浮かべていた。

 

「そこの小日向未来ちゃんがね、私の知り合いの子と喧嘩してね。

 でも頑張って仲直りしたらしいのよ。

 そんな話を聞かされたら、気分良くなっておばちゃんおごる気分にもなっちゃうもんさ」

 

「なんじゃそりゃ」

 

「あはは……ごめんなさい、あなたを巻き込んでしまったみたいで」

 

「いーよ、あたしも金が無いのに腹が減って困ってたところだ。渡りに船ってやつさ」

 

 未来と呼ばれた少女とお好み焼き屋の店主は、会話の中で二人の共通の人間の名前を『彼』『あの子』といった感じに読んでいるので、どうにも話の流れが分かりにくい。

 だがどうやら、少女が友人である男の子と女の子と喧嘩して、仲直りしたということだけは理解できた。

 

「仲直りねぇ」

 

「友達は仲直りしてなんぼでしょ?」

 

 食い方が異様に汚いクリスの口を拭きながら、お好み焼き屋の店主は苦笑する。

 

「仲の良いダチと喧嘩して、仲直りできたのか、お前」

 

「うん……怖がらないで、本気の想いをぶつけ合ってよかった。

 そうじゃなきゃ分かってもらえなかったし、分かってあげられなかったと思うから」

 

「ふーん……」

 

 小日向未来の言葉は、クリスの心のどこかに響いたようだ。

 

「ごちそうさま」

 

 食事マナーは最低なくせに、"いただきます"と"ごちそうさま"だけはやたら丁寧に言って、クリスは椅子から立ち上がる。

 

「お前、名前は?」

 

「小日向未来、だけど」

 

「あたしはクリス。雪音クリスだ」

 

 クリスは彼女らの善意にあてられて、決意を新たにする。

 弱者を踏み躙る争いを無くす。

 戦争の火種を全て消す。

 そうすれば、万が一にでも、この光景が踏み躙られることはないだろう。

 平和な光景の中で、力のない人間が善意をくれたことが、彼女の覚悟を押し固めてくれる。

 

「良い飯と良い話をサンキューな。

 もう会うことも無いだろうが、困ってる時に会ったら助けてやるよ」

 

 この力で、戦争の火種を全て消す。

 

 ペンダントを強く握り締め、迷うことなく歩き出すクリスは、もう躊躇うまい。

 

 

 

 

 

 そして、夜が来る。

 

 運命の夜、決戦の夜が。

 

 

 

 

 

 ゼファーが弦十郎達と話していた時、懐に入れていた手紙。

 あれはクリスからゼファーに宛てられた、呼び出しの手紙だった。

 言い方を変えるならば―――『果たし状』、と言って差し支えないものでもあったが。

 

「よう」

「よう」

 

 二人は夜の公園にて、対峙する。

 誰も居ない公園。既に人払いは済まされている。

 クリスはゼファーの目を見て、ゼファーはクリスの目を見て、互いに一瞬で確信してしまう。

 『こいつは言葉では揺らいでくれない』と。

 

「色々、あったんだ」

 

「こっちも、色々あったな」

 

 ぽつり、ぽつりと現状を語りながら、二人は話を始める。

 もう二人とも、幼かったあの頃の容姿ではない。

 互いの姿を見るたびに、別れたあの日からの日々を思い返すたびに、二人は長い長い時間の流れを実感していく。

 そして、衝突した。

 

「ゼファーてめえ、帰って来るって言っときながら何年も放置しやがって」

 

「研究所にさらわれて閉じ込められてたんだよ。

 クリスは死んだものだと思ってたし……あの時めっちゃショックだったんだぞ」

 

「死んだと思ってショックだったもこっちの台詞だ! こちとら泣いたんだぞ!」

 

「俺だって泣きたいくらい悲しかった!」

 

 吐き出さねばならない。

 会えなかった日々の中で二人の間に生じたズレを正すために。

 互いに対し、本音を言い合える関係でいられる間に。

 思ったことを心の中に抱え込んで淀ませずに、心に浮かぶそばから吐き出さねばならない。

 

「だいたいなんだよあの鎧!

 昔の知り合いが再会したらあんなんで!

 あたしは喜べばいいのか嘆けば良いのか分からないんだよ!」

 

「それもこっちの台詞だ!

 悪人にあっさり騙されて趣味悪い鎧付けて襲撃とか、喜べばいいのか嘆けば良いのか!

 チョロい女かお前は! 見てて不安になるからやめろ!」

 

「お前だってちょっと見ない間にこんなに変わって!

 どうせ大人に優しくされてチョロく懐柔されたんだろ!」

 

「最初に話してた頃はお前の方が早く俺に懐いてただろ!

 お前の方がチョロい! 俺はチョロくない! 俺の周りはいい人ばっかだ!」

 

「友達になってくれってどっちが言ったのかもう忘れたのかっつーの!

 お前の方がチョロい! あたしはチョロくない! あたしがそう簡単に悪人に騙されるかよ!」

 

 こういうのを、"童心に帰る"と言うのだろうか。

 二人は今、ゼファーが11歳だったあの頃、クリスが9歳だったあの頃に戻っている。

 あの時止まった時間を、あの日のあの時間からまた始めようとしているのだ。

 

「第一、あたしだってことくらいさっさと気付けっつーの!」

 

「顔を隠すあの鎧に子供じゃなくなったお前の姿見て分かるわけないだろ!

 お前だって何が『平和ボケした国の野郎が口にしていい台詞じゃ~』だよ! 気付け!」

 

「あのクソデカい全身鎧で分かるわけねーだろ! お互い様だ!」

 

「ああ、お互い様だな!」

 

 ぶつかり合う二人のスタンス。

 それはどちらかが道を譲らなければ、二人が同じ道を進めないということを意味する。

 そして再会した以上、この『相棒』と共に歩まない選択など、二人の中にあるはずもなかった。

 

「大人なんて信用できない……お前も!

 昔のあたしみたいに、昔のお前みたいに、大人に利用されてるだけだ!」

 

「俺は、助け合ってると思ったことはあっても利用されてるなんて思ったことはない!」

 

「それが利用されてるって言ってんだよ!」

 

「……大人嫌いはそのまんまか」

 

「てめえもだ。他人の代わりに不幸になってるだけの寛容が何一つ変わっちゃいねえ!」

 

 クリスは大人と戦争に対する不信と憎悪が、むしろ子供の頃よりも増大している。

 ゼファーの他人にいいように利用される行き過ぎた寛容もまた、子供の頃よりも増大している。

 年月は二人を変えたが、変えなかったものも多々あった。

 

「クリス! 力があるなら、それは人を傷付けるために使うべきじゃない!」

 

「敵を撃ち殺すことで仲間を守ってたお前が、そんな言葉を吐くのかよ!?」

 

 何年も前、あの戦場で人を躊躇いなく殺していたゼファーが綺麗事を吐き、誰も傷付けず死なせないための選択を提示する。

 何年も前、あの戦場で極力殺さないようにしていたクリスが、自覚なく弱者を踏み躙ることで平和を掴む選択を提示する。

 

「あたしと来いゼファー! お前とあたしなら、世界も平和にできる!」

「俺と来いクリス! 俺とお前なら、どんな奴が相手でも皆を守れる!」

 

 『今そこから助け出してやる』、と。

 『一緒に戦おう』、と。

 『君と一緒なら』、と。

 同じ思いで居ながらも、二人はどこまでもすれ違う。

 

「平行線だな」

 

「ああ」

 

「なら、ここで一つ約束しよう。昔みたいに」

 

「負けた方はすっぱり諦めて、勝った方の言う事を聞く」

 

「俺達は、喧嘩したら」

 

「必ず、それを約束する」

 

「どっちが強ぇのかはっきりさせたらそこで終了。とっとと仲直り」

 

「約束だ」

 

 ゼファーが右の手を拳に、左の手を掌に、両の手に銀光を纏わせる。

 クリスが胸元に吊ったペンダントを手にし、息を整える。

 

「言ったな、あの時。

 約束したよな、あの時。

 次に会った時には、あたしの歌を聞かせてやると」

 

 ゼファーはあの日、クリスの隣に帰ると約束した。

 クリスはあの日、帰って来たゼファーに『繋いだ手だけが紡ぐもの』を聞かせると約束した。

 その約束は、少し歪んで叶えられてしまう。

 ゼファーはクリスの隣ではなく相対し、曲の名前も『繋いだ手だけが紡ぐもの』ではなかった。

 

「とくと聞きやがれ! これがあたしの歌!

 パパとママと違い、誰の笑顔にも繋がらない歌! あたしが大嫌いな、あたしの歌だ!」

 

 銀光が、赤光が、二人を包む。

 

「アクセスッ!」

 

銃爪にかけた指で夢をなぞる―――!(Killter Ichaival tron―――!)

 

 ずっとずっと昔、あの日、喧嘩したように。

 

 ずっとずっと昔、あの日、分かり合えていた自分達に戻るために。

 

 二人は今の自分が持てる全てを、繋がるためにぶつけ合おうとしていた。

 

 

 


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