戦姫絶唱シンフォギア feat.ワイルドアームズ   作:ルシエド

15 / 188
お気に入りや感想ありがとうございますー
アガートラームと切っても切れない青く長い髪の剣士さん、涙に浮かぶ未来さん、原作主人公さんの出番はいつ書けるのだろう


2

 俺ことジェイナス・ヴァスケスにも、生まれつきロクでもない子供だった自覚はある。

「あの二人からなんでこんな子が生まれてきたのか」

「兄の方はとても優秀で優しい子だったのに」

「奥さんがロクでもない奴と浮気でもしたんじゃないのか」

 そんな風に毎日言われてりゃ、嫌でも自覚するさ。

 

 俺があんまりにもクソ野郎なせいで、お袋は浮気を疑われる環境に耐えられずに出て行った。

 どこまでも普通な女だった。周囲の悪意に対する反応すら、ごく普通だった。

 俺様が最初に壊したのは、親父とお袋の愛と家庭だったってわけだ。

 

 どいつもこいつも気に入らない。

 気に入らないから思ったことをそのまんまぶつけてやる。

 それで怒るってのはどういう了見だ?

 そう思われるのはお前が悪いんだろうが。俺は包み隠さず言ってるだけだぞ?

 気に入らないなら、てめえらも言いたいように言えばいい。

 思ったことも口にしないで、おべんちゃらおっ被せて、気持ち悪くねえのか?

 嘘つきよりかは嫌な奴の方が、よっぽどマシな人間だと俺は胸を張れるがね。

 

 突かれたら嫌な部分があるお前が悪い。

 他人に探られて痛い腹がある奴が悪い。

 知られたくもない弱みを持つのが悪い。

 何も変なことは言ってないだろ?

 俺が悪人だって言うなら、てめえらが清く正しく生きればいいだけの話だ。

 

 そうだろ? お前らの言う通り悪人が俺だけなら、悪口雑言をぶつけられるのは俺だけの筈だ。

 

 俺は生まれつきの生き方を変えるつもりはない。

 だってのに、なんでだ?

 なんで俺が一方的に、お前らを小馬鹿にしてんだ。

 なんでお前らは俺に言い返しもせずに、距離だけ取る。

 自分に悪い所があるって分かってんなら改善しろよ。

 言われたろ。自覚したろ。俺みたいなクズになりたくないってんなら少しはマシになりやがれ。

 なのに、なんで何も変わらないまま、俺から離れてくんだ?

 

 なんで、思ったことを口にしただけで、俺は一人になってんだ?

 

 まあ、そんなことはさっさと割り切った。

 俺から離れてくなら、俺から寄っていけばいい。

 俺が語るのは一側面の真実だ。完全な虚構は、人の心には響かない。

 人を痛めつけるのは、人を変えるのは、いつだって真実だ。

 残酷な現実であれば真実そのままに。

 傷付ける鋭さが足りないのならば嘘の刃を上から被せる。

 実に楽しい。今更だが、俺はサディストだったらしい。

 

 言葉一つで他人を屈服させ、蹂躙するのが実に楽しい。

 俺なら即座に切り返しをいくつも思いつける罵倒に、反論できない奴の苦悶が快感だ。

 心傷付けられ、その傷から滲み出る黒い感情が漏れ出た顔は実に愉快だ。

 俺という存在を刻み込めるその一瞬、それ以上の歓喜を他の何かに感じたことはない。

 

 俺よりも明らかに優れている人間、俺よりもまともな人間、俺よりも評価される人間。

 俺が劣等感を感じる全ての人間が、俺の悪態に屈辱を感じている。

 その瞬間だけ、俺はこの世界の底辺に居る自分のみじめさを忘れられる。

 笑えるくらいにクズだ。

 あの父と母から俺みたいなものが生まれたなんて、俺自身が一番信じられない。

 

 だが。

 そんな俺は、ずっと一人じゃなかった。

 そんな俺に寄り添って、一人じゃなくしてくれる人が居た。

 俺に悪口を言われようが、言われたくないことを言われようが、その人はずっとそこに居た。

 優れた部分なんて一つも無い、ただ頑張ってるだけの人。

 生き方が不器用で、怠けるとかそういうことと無縁だった人。

 こんなクズを極めた俺にすら、手を差し伸べられる人。

 

 親ですら見限った俺を、家族として愛してくれた兄貴こそが、俺の存在意義だった。

 

 手を差し伸べてくれた。

 言葉をかけてくれた。

 優しくしてくれた。

 愛してくれた。

 全て、俺の悪意を受け止めた上で、だ。

 俺なんかよりも生きる価値のある人だと、その人に対してだけは確信できた。

 

 俺は生き方を変えない。

 変える意味が見出せない。

 この社会の中では俺の性格が至極真っ当でないことくらい、自覚は出来ている。

 が、それがどうしたってんだ?

 社会の歯車になるために没個性になってく凡夫共を見る度に思う。

 なんでそっちに合わせる?

 誰がどういう権利をもって「そうなれ」って命じたんだ?

 誰に言われるまでもなく社会の方に合わせる人間の群れの方が、よっぽど不気味だ。

 他人から押し付けられる協調と調教の違いが俺には分からねえ。

 俺はいい。俺はこのままで十分だ。

 俺は俺のままで、兄貴の力になってみせる。

 

 

 年を食って、それなりには分かってきた。

 俺は他人ができる事ができない代わりに、他人のできないことができる。

 他人のように、協調・尊重・円満って考え方ができない。

 その代わり、他人の欠点や突かれたくない部分を嗅ぎ当てられるらしい。

 なんてことはない。

 俺が生まれた時からずっと見えてた人間の汚点とやらは、俺にしか見えてなかったわけだ。

 なら、俺は誰も気付けていなかった、見られたくないと思っていた、そういうものを常時暴き立て続けてただけってことになる。

 なんとも滑稽な話だ。結局、なんてことはないただの自業自得。

 

 まあ気付いた所で止めないんだが。

 言葉だけで他人を傷付けるのは実に楽しい。

 特に俺を何かしら見下してる鼻持ちならない奴相手だとなおさらだ。

 まして、これは武器だ。俺が生まれた時から持っていた武器だ。

 なら、振るわなくちゃあ損だよなぁ?

 

 兄貴の敵を蹴落とす。なるほど、これなら趣味と実益を兼ねたいい仕事になる。

 俺と距離を取るだけで何も言ってこない親父は政治家だ。

 兄貴はその後を継ごうって腹らしい。言い方を変えれば、夢ってやつなんだろう。

 まあ、大学を卒業するまでは兄貴の邪魔者に適当に目をつけて色々しておくか。

 練習練習、兼趣味だ。

 人のハメかた、誘導の仕方、壊し方は大体覚えた。

 好きこそものの上手なれ。なるほど、至言だな。

 

 兄貴が政界に出たら出たで面倒は増えた。

 親父はそこに居るだけで邪魔な位置だ。

 兄貴に対して過剰に干渉してくるくせに、兄貴は親子の情でどうにもできない。

 兄貴の恋人もそうだ。

 政治家の娘なんかを恋人にするから、兄貴も派閥争いなんかに巻き込まれるんだってのに。

 さて、どうしたもんか。

 

 

 吊った吊った、騙した騙した、実に充実した日々だった。

 親父も吊った。自称俺の親友も吊った。兄貴の恋人も吊った。俺の腹心の一人も吊った。

 これで不確定要素はない。俺が生きてる内は、兄貴の政権は盤石だ。

 兄弟二人、二人三脚でようやくここまで来た。

 もう怖いものはない、敵もない、後は俺も兄貴も好きなようにやってくだけだ。

 だってのに、なんで俺に銃を向けてるんだ? 兄貴。

 

 

「何故だ、兄貴」

 

「俺には、弟であっても、お前を信じられる理由がない」

 

 

 家族だろう、と言おうとした。

 絞首台に送った親父の顔を思い出して、やめた。

 ずっと二人でやって来ただろ、と言おうとした。

 絞首台に送った俺達二人をずっとそばで支えてくれていた男の顔を思い出して、やめた。

 俺は兄貴に恩がある、と言おうとした。

 俺に勉学を教えてくれた先生を過激派の暴走に見せかけて殺したのを思い出して、やめた。

 ああ、そうか。

 兄貴が俺を信じられる理由は一つ残らず俺が踏み躙ってきて、もう残ってないのか。

 

 そんな俺の一瞬の逡巡を見逃さず、兄貴は銃を俺の足に撃つ。

 熱い。焼けるような痛みに、俺は苦悶の声を上げながら転げまわる。

 

 

「兄貴まで、俺を裏切るのか」

 

「お前を信じられる人間が居るなんて、俺には思えない」

 

 

 分からない。俺には兄貴が分からなかった。

 兄貴はずっと、俺を信じてくれていたはずだったのに。

 信じる理由なんて無くても、信じてくれてるはずだったのに。

 そんじょそこらの奴らとは違う、特別な人間だったはずなのに。

 なのにその瞳には、あいつらと同じ色しか浮かんでいなかった。

 疑心であり、不審であり、憤怒であり、憎悪であり、侮蔑だった。

 汚いものとして、俺を見下していた。

 

 そんな兄貴に対して俺の胸の奥に浮かんできたのは、不思議と予想していた感情ではなかった。

 『いつもの』感情だった。

 どうでもいい他人に向ける、冷たい悪意の発露。

 どう破滅させるか以外に興味が持てない、そういう人間達に向ける感情。

 

 

「お前は俺のためじゃなく、自分の欲を満たしたいから人を貶めていただけだろう」

 

 

 ……ああ、そうか。

 そこからか。そこから、最初の部分から、兄貴は俺を信じてなかったのか。

 そりゃ、こうなるか。

 俺が兄貴のためにやってたって、その部分を疑われたら、そりゃ……

 

 

「どうして……どうして、お前は生まれてきたんだッ!

 お前が弟として生まれてくるなら、俺はこの世界に生など受けたくなかった!

 お前が生まれてこなければ、数え切れないほどの人が幸せになれたはずだ!

 他人に悪意しか向けられないバグのようなお前が、どうして生まれることを許されたんだ!

 お前は、この世界に生まれて来るべきじゃなかったんだ!」

 

 

 そんなこと言うなよ、兄貴。

 

 

「お前に友なんてできるわけがない。

 お前の生を許す人間なんて居ない。

 お前と共生できる者などありえない。

 お前は、生まれたその瞬間から死ぬまでずっと、どんな時でも一人だ」

 

 

 兄貴がもう、その辺のモブと変わらなく見えてくるじゃねえか。

 今までの思い出が、色褪せてくるじゃねえか。

 

 

「お前さえ、お前さえ、最初から居なければ……」

 

 

 最後の銃声が耳に届いて。

 俺は、ようやくその夢から覚めた。

 

 

「……だろうな、夢だ」

 

 

 俺の自室だ。

 大きめのベッド、俺の隣には娼婦のアイシャが寝転がっている。

 こいつも哀れな女だ。

 なまじ学があっただけに都会に出て、悪い男に引っかかり、借金を背負わされ、そこから二転三転して若くしてこんな所で娼婦をやるハメになっている。

 よくある、どこにでもある不幸な話。

 凡庸で救いようのない不幸でしかないからこそ、哀れで、哀れ止まりの女にしかなれない。

 

 兄貴の夢を見たのは、もう何度目だろうか。

 悪夢……悪夢といえば、悪夢なのか。

 単にあれは、俺の人生が無駄だったかという話、俺がいかに阿呆だったかという話でしかない。

 兄貴に思う所はない。結局あの後流れ作業で準備して殺したが、何も思う所はなかった。

 結局、俺は俺だった。

 裏切り者であれば、自分の人生の半分を捧げた家族であっても平気で殺せる男だった。

 最初から分かっていたことでもあったから、予定調和でしかない。

 

 ただ。

 少しだけ、疲れた。

 

 フィフス・ヴァンガードに立った時の俺は、少しだけ疲れていた。

 兄貴への制裁には動いていたが、それ以外の何をする気にもなれなかった。

 ずっとガラにもない「他人のため」なんてものを続けてたから、疲れたのかもしれない。

 ともかく、俺様の生涯で初めての不思議な倦怠感だけがあった。

 今でも、何故あんなに疲れた気持ちになっていたのかは分からない。

 

 兄貴に制裁を加えて、それから……どうするのか。

 何か。何かあったはずだった。

 なのにその時の俺は、何も思いつけなかった。

 もしかしたら、兄貴を殺したら殺したで、その後は何もすることなくぼーっと過ごすことを選んでいたかもしれない。

 どうでもよかった。

 俺がハメて殺してきた奴らも、その内殺すであろう兄貴も、過去も未来も。

 そんな俺が今こうなってる理由は、なんだったっけか……

 

 ああ、そうだった。

 あいつと出会ったんだった。

 

 ざまあみさらせクソ兄貴、世の中にはてめえの知らないような人間だって居るんだよ!

 

 

「ねえんだ、死後の世界も、死後の救いも。誰だろうが、死んだらそこで終わりだ。

 死んだ奴は誰の思い出からもいつか消えて……いつか、最初から無かった事になる。

 俺は、絶対に……絶対に生き延びてやる。

 死んでる時点でてめえは負け犬なんだよ、兄貴」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第四話:Lord Blazer 2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪音クリスはよくキレる少女だ。

 しかし、それは短気なだけであって根底が乱暴者というわけではない。

 彼女の根底にあるのは優しさだ。

 だから悪人の横暴、挑発、弱者への加害に対してすぐにカッとなってしまう。

 彼女にとっての悪とは、すなわち加害者だ。

 

 彼女は優しいだけで、弱者の味方でしかないだけで、正義の味方ではない。

 雪音クリスはどこまでも『加害者の敵』だ。

 その加害者にどんな正当性があろうとも、彼女は人を傷付ける意志と力を許さない。

 逆に言ってしまえば、加害者が相手でなければ滅多に本気で怒れないのだ。

 

 今のブラウディア宅の現状のように。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 無言オブ無言の二人きり。

 空気が悪くなるだけの沈黙に、クリスのイライラ&ストレスは既に限界だ。

 何も考えず悪い言葉を吐いて後で後悔するのもクリス、相手のことを思って必死に短気を抑えこんでイライラを溜め込んでしまうのもクリスだ。

 テーブルを挟んでクリスの向かいに座るのはバーソロミュー。

 昨日の萎れた状態から、ほとんど回復できていない。

 無言のまま項垂れるその姿は今にも死んでしまいそうで、まさしく死に体という言葉こそが相応しかった。それほどまでにジェイナスの言葉が深く突き刺さったのだろう。

 

 クリスはその短い生涯において、ここまで落ち込んだ人間を初めて見た。

 それと同時に、どこかで似たようなものを見たという既視感も感じる。

 まあ有り体に言えばトラウマフラッシュバック中の頭痛に頭を抱えているゼファー、及びここ半年以上発症していない自分のトラウマフラッシュバックなのだが、彼女視点で分かるわけがない。

 

 そも、激しさがない。

 ゼファーには病気でも持ってるのかとばかりの頭痛の発生、クリスには泣くといった目に見える盛大な反応、悪い言い方をすれば麻薬患者の社会復帰の過程のような不安定さがあった。

 これは何も特別なことではない。

 癇癪のように、感情が理性で制御できる範囲を超えてしまい肉体が反応を起こしてしまう、それが病気として知られているものは多い。それは何も病気に限ったことではないのだ。

 悪口にブチ切れる、家族の死に泣く、喜びのあまりガッツポーズを取ってしまう、こういった感情の発露が理性を越えてしまう事は往々にして誰もが経験のあることだろう。

 ゼファーとクリスのフラッシュバックも、これの延長にある。

 記憶に関連付けられた感情が、何度思い返してそれに慣れたとしても、その身体を自らの意志で自由にできないほどに傷め付けるのだ。

 これは単純に精神構造・脳構造の問題であり、何年何十年とカウンセラーの世話になりながらじっくりと治していくしかない、消えない傷跡である。

 

 ゼファーは年月と共に傷が深くなっていたが、ここ一年で僅かにはマシになった。

 クリスはこの一年で大分改善し、少なくとももう両親を思い出して泣くことはないだろう。

 これは比較してゼファーの方を叱責するのではなく、クリスの心の強さを褒め称えるべきだ。

 では、バーソロミューはどうか?

 繰り返すが、今のバーソロミューには激しさがない。

 

 ここで一例を出そう。

 ゼファーとクリスの最大の違いは、人の死に泣くかどうかだ。

 涙は心から溢れた感情の奔流である。

 当然、流した分だけ心の負担は軽くなり、過去に向き合うだけの余裕ができる。

 泣いたクリスは自分なりの過去への向き合い方を探し始め、ゼファーは未だ足踏みしている。

 人は過去に向き合うため、自分の過去に付随する感情を何かしらの形で消化する。

 それが普通であり、ごく当たり前に人間に備わっている機能なのだ。

 フラッシュバックもその機能の延長にあるが、これは精神活動をシャットアウトさせてしまう有害な作用の時点で、免疫の延長にあるアレルギーに近い。

 

 さて。

 ならば、フラッシュバックも落涙も無い、そんなトラウマの想起の形とは何か?

 バーソロミューの今の様子がその一例として挙げられる。

 感情を発散しないから鬱屈する。他人に吐き出さないから好転しない。

 子供よりも大人の方が変われるだけの余地がない。罪悪が自己完結している。

 思い出すだけ気分が沈鬱し、精神的に塞ぎ込む以外の結果が発生しない。

 年月の経過が、傷を悪化させたまま固定化させているのだ。

 これはもはや普通に精神病の一種であると言っていい。

 

 この状態に陥った彼は、他人の言葉ではそれがどんなに劇的であっても変われない。

 せいぜいがカウンセラーの年単位の献身で多少好転するかどうか、というレベルだ。

 現実からの逃避、自己嫌悪の悪循環。

 分かりやすく言えば、この状態は酒を飲んで現実から逃げ続ける呑んだくれの延長にある。

 現実から逃避し、忘れられもしないくせに忘れようとする情けない姿。

 思考のループの中に自己嫌悪と「このままでいいはずがない」という思考が混ざった上で現状を継続しているのだから、思考の果てに自分一人で立ち上がれるということもまずありえない。

 

 バーソロミュー・ブラウディアは、他人の言葉では絶対に変われない。

 彼を変えられるとすれば、彼の罪の証である今は亡き家族の言葉だけだろう。

 クリス達と彼の繋がりはどこまで行っても、死した彼の本物の家族には及ばない。

 そして、死人に語る口はないのだ。

 

 この状態のバーソロミューを見て、クリスはようやく気付くことができた。

 ゼファーが誰を見習い、誰に育てられ、誰のもとでああいう子に育ったのか、という答えを。

 良い教師であり反面教師だ。

 良い面も悪い面も、良い意味でも悪い意味でも受け継いでしまっている。

 

 

(うぅぅぅぜぇぇぇぇぇ、あたしにどうしろってんだッ!)

 

 

 ちまちまうだうだとした人間は嫌いだが、かといってここまで知り合いに沈鬱とされると、トドメにもなりかねないので叱り飛ばせるわけがない。

 苛立たしげに髪をくしゃくしゃっとするクリス。

 短気・努力嫌い・口下手と三拍子揃ったクリスに根気よく語りかけるなんて出来るわけがない。

 キレるのを抑えられているだけ、かなり彼女にしては我慢ができている方だろう。

 

 

「おい、じーさん」

 

「……なんじゃ」

 

「昨日あの野郎が言ってたことは本当か?」

 

「……そうじゃ。一言一句真実じゃったよ」

 

 

 それでも全部放り投げて見限ろうとしないのは、彼女がごっことはいえ家族にしてくれた恩を忘れていないからだろうか。

 雪音クリスという少女が、ただ単純に優しいからだろうか。

 いや、皆に見放されて一人ぼっちになる寂しさを知っていたからかもしれない。

 何にせよ、誰かが誰かを死人の代用品にすることに本気で怒らなくなった辺り、彼女が他人に対して寛容になる方向に成長したのは間違いない。

 

 

「へっ、その歳になってもうじうじ悩んでんのかよ」

 

「この歳だからこそ、もう変われる気もせんのじゃよ」

 

「っ……アンタは」

 

「酒に逃げた。女に逃げた。薬に逃げた。博打に逃げた。仕事に逃げた。

 逃げて逃げて逃げ続け、死に向き合わないで居られる道を探し続け……

 結局、『忘れよう』と自分に言い聞かせ続けていた時点で忘れられとらんということに気付き、

 しまいにはこのザマじゃ」

 

 

 クリスは顔を上げたバーソロミューの瞳の奥に見えたものに気圧され、一歩後ずさる。

 執着。妄執。

 黒々としたそれが、老人の瞳の奥で黒い炎となって燻っている。

 子供では決して持ち得ない、長い年月が育んだ確固たる歪み。

 死に向き合えなかった人間の全てがいつか至るであろう、終わりかけの人間。

 家族を守るという親の責務を果たせず逃げ続けた父親の、成れの果てだった。

 

 

「お前さんの気持ちはありがたく思う。

 しかし、ワシにそれを向けるくらいなら壁に向かって話していた方がマシじゃと思うがの」

 

 

 ゆえに、クリスがどんなに口達者な人間だったとしても、彼女の言葉が届くことはない。

 クリスとバーソロミューの間にある、薄く透明で強固な心の壁。

 執着と妄執にとりつかれたその瞳が、その存在を雄弁に語っていた。

 壁に話しかけていた方がまだ生産的かもしれないと、クリスにすらそう思わせるほどに。

 

 ふぅ、と彼女が溜息一つ。

 二の句が継げない。ゼファーの真似事をしようとしていたようだが、どうにもダメなようだ。

 情けは人の為ならず。善意や救いとは人の間を巡り廻るものだ。

 いつか助けられた分、貸し借りの釣りを返したい。

 そんな気持ちでゼファーの恩人を助け、間接的に恩を返そうという気持ちもあった。

 バーソロミュー個人への恩義も、明らかになった事実により苛立ちや不快感が混ざっている。

 複雑などっちつかず気持ちのまま紡いだ言葉は、結局はたき落とされて終わってしまった。

 

 

(あーもう、めんどくっせえ)

 

 

 なので、クリスは自分がどうこうするのを諦めた。

 こういう割り切りの早さも彼女の強みだ。

 そしてその強みは、彼女に丸投げされる相棒の存在によって効力が倍加する。

 

 

(来い)

 

 

 壁に向かって話してろ、そう言われた。

 ならばそうしよう。

 くるりと椅子を回し、体の向きをバーソロミューからその辺の壁へ。

 そんな気持ちで、ただし心中で呼びかける。

 クリスの向かうその壁の向こう、その方角の遠く彼方にはゼファーの自宅がある。

 桁違いに勘がよく、クリスとツーカー(死語)の彼の家が。

 

 

「なあ爺さん、あいつは結構無駄としか思えないことやるよな。

 腹に穴空いた助からない仲間に肩貸して運んだりとか、そういうの」

 

「なんじゃ、いきなり」

 

 

 バーソロミューの声は、いつも大人が子供に向ける暖かさに満ちていた。

 だが、今はどうか?

 自分と過去にしか意識を向けていない彼の声はひどく無愛想で、ひどく冷たい。

 家族に暖かさを向ける父親のそれではなく、他人の干渉を鬱陶しがる孤独な男のそれだ。

 そこにクリスは一抹の失望と、大人への強まる不信を感じた。

 しかし、それでも、彼女は心中ではこの男を見捨ててはいなかった。

 そして見捨てこそしなかったが、自分で何とかするのを諦め、相棒に丸投げした。

 

 

「壁に呼びかけるよか、アイツの常々の行動の方がよっぽど無駄に見えるよな?

 なのにあいつ、時々結果出すんだよ。

 助けた相手に礼を言われなくても、誰かを助けられたらそれだけで一日中機嫌いいし」

 

 

 その分死なれたら恐ろしく気落ちするけど、とまでは言わない。

 他人の生死なんていう分の悪い賭けに挑んで、負けたら派手に落ち込むのが彼だ。

 普段そんな馬鹿な真似を、無駄にしかならない事を続ける相棒を見ている内に自分も毒されてしまったのかもしれない、なんてクリスは思う。

 こんなバカしかしないような行動を、一年前のクリスは取らなかったはずだ。

 ゼファーがクリスから常識を、死んで行った人間への向き合い方を模索する強さを、他人に向ける優しさを、理想の銃撃の形を、日本語や歌といったものを学んでいったように。

 彼女もまた、良くも悪くも彼の影響を受けている。

 

 

「居て欲しい時に居るし、来て欲しい時に来てくれるアイツなら。

 壁に呼びかけたって来てくれたりすんじゃねえかな?

 アイツは他人がしたことが無駄になるのが死ぬほど嫌な奴だしさ」

 

 

 それは無駄な行動とも言う。

 それは馬鹿な行動とも言う。

 そして信頼からの行動とも言った。

 

 

「……漫画の読み過ぎじゃ。ドン・キホーテじゃあるまいに、それは愚昧と同義じゃよ」

 

「知らねえのか? ドン・キホーテにはどんな時でも傍に居てくれた相棒が居たんだぜ」

 

 

 一人じゃないなら、バカやったって不安じゃない。

 応えてくれる誰かが居るなら、バカだってやる価値がある。

 それがドン・キホーテと違い、現実に実を結ぶ可能性があるならなおさらだ。

 バーソロミューは怪訝な視線をクリスに向ける。

 クリスは期待しつつ、なんとなくで始めた『これ』が成功するであろうという確信を得ていた。

 それから一分と経たずに部屋の扉がノックされ、開かれる。

 

 

「バーさんに会いに来る途中になんかユキネに呼ばれてる気がしたから、ちょっと走ってきた」

 

 

 口をわずかに開けて信じられないという顔をした男、ニカッと笑って指を鳴らす少女。

 状況が読めない、と息を切らしながら汗に濡れた首を傾げるゼファー。

 人が死んだらグチグチといつまでも引きずる情けない主人公が、珍しくキッチリ相棒(ヒロイン)の期待に応えた瞬間だった。

 そして同時に、『ゼファーへの理解度』という一点において。

 精神的に追い詰められていたとはいえ、ゼファーを生まれた時からずっと見守ってきたバーソロミューの理解度を、クリスが初めて超えた瞬間だった。

 

 親が子にとっての一番の理解者であるという彼の中の観念が、粉砕された瞬間だった。

 子は親が守らねばならず、もし守れなければその罪科を全て背負わなければならなければならないという、子の一人立ちをしっかりと経験してなかったからこそ持っていた彼の思い込みが、蜂の巣のようにされた瞬間だった。

 子の幸も不幸も親の責任という、無意識下の思い上がりを砕かれた瞬間だった。

 クリスが信じて丸投げし、ゼファーがそれに応えたこの光景。

 それは少年少女が気付かぬ内に、バーソロミューの心中を激しく揺らしていた。

 バーソロミューからすれば、挨拶無用のガトリングを食らったがごとく。

 

 

「そんな、バカな……」

 

 

 バーソロミューの呟きと驚きも当然。

 しかし、クリスとゼファーにとってはこれこそが当然の日常だった。

 

 

「遅かったか? それとも俺の気のせいでなんでもなかったりする?」

 

「いや待ってたぜ。風車に切りかかるようなもんだとは思ったが、上手く行くもんだなぁ……」

 

「は?」

 

「いやこっちの話」

 

 

 パチン、と指を鳴らして銃を模した指をゼファーに向けるクリス。

 ドヤ顔にイラっときたのかその指をデコピンで弾くゼファー。

 痛がるクリス。

 やんややんやと騒ぐ二人。

 

 いつも傍らで見ていたはずのその光景が、バーソロミューにはひどく遠い場所で行われているように見えた。それでいて、その光景を常よりもずっと素直な気持ちで見れている気がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人がそうして心を揺らしたことが、最後の一押しになったのかもしれない。

 バーソロミューは、たった一つだけ残った疑問を口にしようとしていた。

 ジェイナスとの会話で生まれた、胸の奥にしこりのように残った疑問。

 言うか言うまいか迷っていたその疑問を、口をまごつかせ、この期に及んでまだ迷い、それでも口にすると決めて口にしようとする。

 

 バーソロミューはもう、何もかもがどうでもよくなっていた。

 自暴自棄と言い換えてもいい。

 昨日に過去を思い出しトラウマを悪意たっぷりに抉られたことで、彼は突発的に心因性の鬱病一歩手前の症状が完全にぶり返してしまっていた。

 以前彼はゼファーの心の傷に対し非合法な『薬』を与えようとしていたが、なんてことはない。そんなものが望まずとも都合よく手元にあるわけがなく、彼自身がその薬の常用者であったというだけの話だった。

 症状が落ち着いてきた最近に薬を常用して初めて真っ当な人間で居られる、そういう人間だったというだけの話だった。

 無論症状が悪化すれば、心因性である以上薬の効きはかなり悪くなる。

 そんな彼の薬漬けの胸中に、一つだけ残っていた疑問があった。

 

 バーソロミューの懐には一丁の銃が携えられている。

 クリスが朝から見張っていなければ、彼はすぐにでもそれで自らの頭を撃っていただろう。

 ただ、疲れた。

 彼は生きている意味を見失ってしまうほどに、ただ疲れていた。

 傷付いた人を一人ぼっちにしないというクリスの思いやりは、彼女自身も気付かない所で思わぬ効果を発揮し、一つの命を救っていたのだ。

 ただ、それも今日クリスが気付かずに帰れば同じ事だろう。

 彼は何の未練もなく、己の命を断つ。

 自分の過去からは逃げられないという絶望に、ようやく見つけた自分の死に場所から離れてまで生きたくないという苦痛に、それでもゼファーをここに留めて未来を絶ちたくないという未練に。

 そんなものに背中を押されて、己の命を断つ。

 残される者達の気持ちなんて考えもせずに。

 それは『生きたいという気持ち』を見失ってしまったゼファーの未来の姿のようにすら見える。

 そんな生きることに何の執着も無くなってしまった彼にも、聞かないままには死ねないとほんの少し思わせるような、そんな小さな疑問があった。

 

 もしこの場に死した彼の家族が現れて彼を許せば、それだけで彼は真人間に戻るだろう。

 薬も要らない、心の傷も薄れた、父親未満の心優しく不器用な一人の男に。

 だけど、そうはならない。そんな奇跡はこの世にない。

 だからこの疑問は、彼が救われるためのものではない。

 彼の罪を明らかにして、死へと向かう彼の背中を押すためだけの疑問だ。

 だから、バーソロミューはゼファーにそれを問いかけなければならない。

 

 

―――だからあいつは、どんなに頼まれようがお前を『爺ちゃん』って呼ばねえんだよッ!

 

 

 ジェイナスの言葉が、今でもバーソロミューの脳裏に反響している。

 何度もそう呼んで欲しいと口にした。

 その度に断られ、バーソロミューはゼファーとの間にある壁を感じていた。

 それは未練だ。家族になろうという意志、祖父と呼んで欲しいという意志。

 それが未練であり、執着であり、妄執でなくてなんだというのか。

 バーソロミューには、今でも断られ続けた理由が分からない。

 クリスが来た途端、家族にはなっても爺ちゃんと呼ばれない理由が分からない。

 だから、問うた。

 

 

「ゼファー」

 

「ん? どしたバーさん」

 

「お前さんが……ずっとワシを爺ちゃんと呼ばないことに、何か理由はあったのかの?」

 

 

 そんな所に、自分の致命的な間違いの証明があるとも気付かずに。

 

 

「なんか壁がある気がしてさ。俺とバーさんの間に、見えないけど厚い透明な壁があるんだ」

 

 

 ひゅっ、と。

 バーソロミューは誰にも気付かれずに、短く息を呑む。

 

 

「だから、バーさんは俺に自分の方に踏み込まれたくないんだと思ってた。

 俺に近付かれるとか、腹探られるのは嫌なんだと思ってた。

 家族になろうとかそういうのは建前で、俺に迷惑とかかけられるのは嫌なんだと思ってた」

 

 

 壁を作っていたのはゼファーではない。

 家族になるための一歩を互いに踏み出させなかったのはゼファーではない。

 知られたくない想い、やましい気持ち、明かせない後悔ゆえに壁を生み出していた男。

 それはまごうことなく、バーソロミュー自身だった。

 その事に今更気付く。遅い、遅すぎる。

 愕然とするその男は、どこまで愚かに間違え続けてきたのだろうか。

 『ゼファー』と出会ったその時から、何度間違えてきたのだろうか。

 

 

「あとは、勘? なんとなく呼んじゃいけない気がしたんだ」

 

 

 ゼファーの理性ではなく、ゼファーの直感は全てをとっくに見抜いていたのだ。

 ほんの僅かな仕草も見逃さない眼が、ジェイナスという最悪の嘘付きと過ごした経験が、第六感とも言うべき感性が、直感を構成する全ての要素がバーソロミューの虚偽を見抜いていた。

 それはバーソロミューを信じるゼファーの意識にことごとく否定され、それでも無意識下にバーソロミューに対する不信を根付かせる。

 気付くべきだったのだ、その歪さに。

 ゼファー本人が気付いても居ない、少年の無意識の警告に。

 バーソロミューが上手く隠しているつもりが、最初から全てを気付かれてしまっていたというあまりにも愚かで道化のような、その日常の不確かさに。

 

 人の呼び方は心の距離、そして人の間にある関係をそのまま示す。

 さん付け、ちゃん付け、呼び捨て。それだけでも人間関係は見えてくるものだ。

 ゆえに、呼称の拒否とはそのまま提示された人間関係の拒絶を意味する。

 家族との過去から逃げ続け、未練タラタラに都合のいい家族の形を求める。

 そんな押し付けの家族という関係を、ゼファーは直感で避け続けた。

 

 見ただけでは気付けないその歪みに最初に気付いたのは、バーソロミューの過去とゼファーの人柄をよく知り、その上で外野から眺められる位置に居たジェイナスだけだった。

 だからジェイナスはバーソロミューが格別嫌いだったのだ。

 『家族』すらも押し付けていたということに、それを拒絶され続けていたということに、バーソロミューは今この時ようやく気付けたというのだから、本当にどうしようもない。

 

 

(……ワシは……昔だけではなく、今この瞬間までも……罪を……)

 

 

 過去に過ちを犯した人間が許されないというわけではない。

 隠し事をしていた人間と相互理解を深められないわけではない。

 人間関係に一つ嘘を持ち込めば、全てが嘘になるわけではない。

 けれど家族という関係を築きたかったのなら、彼はどこかが間違っていた。

 クリスがゼファーの背中を押し、何も知らないままバーソロミューにきっかけを与えていなかったならば、いつか家族になれていただろうか?

 否。なれたわけがない。

 家族のような距離感のまま、ゼファーの勘が家族になることをなんとなく拒絶し続け、いずれ来る終わりの瞬間まで家族という関係にはなれなかったはずだ。

 

 全部隠したまま家族になんてなれるわけがなかった。

 家族になりたいのなら、全てを打ち明ける覚悟が必要だった。

 何もかも隠したままただ幸せなだけの家族を享受しようなど、そんな事が許されるわけがない。

 傷付ける覚悟で。傷付けられる覚悟で。打ち明けることで、拒絶されることも覚悟で。

 死んで行った家族と向き合う、その覚悟をもって。

 全てを口にして、さらけ出す覚悟が必要だった。

 バーソロミューという弱い人間に要求するには酷なほどの心の強さが必要だった。

 

 家族の間に隠し事が無いなんてことはありえない。

 家族であるからこそ知られたくないこともある、誰だって分かっていることだ。

 それでも隠し事を打ち明け、受け入れられてこその家族。

 弱さを、罪を口にして、受け止めて貰える関係の最たるものこそが『家族』であるはずだ。

 

 

(……なんじゃろうな、この気持ち。なにもかもがどうでもいい、というのは変わらんが……

 むしろスッキリとしていて……この世に心残りが全て無くなったからじゃろうか)

 

 

 しかし、人間そうは急に強くはなれない。

 バーソロミューの心を今動かしている気持ちが、どこか投げやりな気持ちであるということに変わりない。しかしそれは先程の沈鬱なものではなく、どこか晴れやかな気持ちであった。

 纏わり付く地獄の泥の中から、春の西風の中で寝っ転がっているかのような気持ちに。

 思考自体は変わらないままに、本人の気持ちだけがほんの少し上を向く。

 だからだろうか。

 投げやりになったバーソロミューの思考は、全てをゼファーに語ろうとしていた。

 ジェイナスの糾弾やゼファーへの罪悪感、そしてクリスが見せた『子離れ』という側面。

 それらが行動を促したのも勿論あるだろう。けれど間違いなく、その時のバーソロミューは「もうどうでもいいや」という気持ちで全てを口にしようとしていた。

 

 

「ゼファー」

 

「あ、やっぱ理由がフワフワしすぎてる? いやごめん、本当になんとなくで……」

 

「全てを話そう」

 

「……バーさん?」

 

 

 心を病んだ人間が、神父の前で己の罪を懺悔するかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは罪の懺悔であり、一人の男の人生そのものだった。

 忘れたこともあり、忘れられないこともあり、それらを断片的に口にしていく。

 罪を口にすることで楽になりたかったのかもしれない。許されるのではなく、罵倒されることで罰せられるために。

 自分の人生、そこで何を思ったか、それら全てを無かった事にしたくなかったのかもしれない。聞いてもらえば、聞いてくれた人が生きている間だけは忘れられないだろうから。

 生きる未練が消えたことによる、一種の走馬灯をそのまま口にしていたのかもしれない。

 何にせよ、人は一つの気持ちだけで生きているわけではないのだ。

 

 

「全てが終わり、病院を出て、施設を出て、何も考えられないままに日々を過ごした。

 物を食べ、何も考えずに時間を浪費し、夜になれば夢の中であの日のことを思い出す。

 夢から覚めれば現実から逃げるために何も考えずに時間を過ごす……

 そんな、毎日じゃった」

 

 

 家族を蔑ろにしたこと、守れなかったこと、そして『孫を食べた』こと。

 話せば話すだけバーソロミューの顔色は悪くなるが、顔は下を向いていない。

 ヤケクソに近い心情であっても、それでも死人のようだった先程よりかは幾分マシに見える。

 相対するゼファーは、一言一句聞き逃さんとばかりに真剣な表情だ。

 そこにはひとかけらの侮蔑も同情も見ては取れない。

 二人を遠巻きに無言で見守っていたクリスは口元を抑え、今にも吐いてしまいそうだ。

 十歳にも満たない少女である彼女には、人食も含まれるこの話は少し刺激が強すぎる。

 そんな刺激の強すぎる話を一段落させて、バーソロミューは話を続ける。

 

 

「そしてようやく、死に場所を見つけたんじゃ。

 自分で死を選びたくなかった。それは、自分がこの苦しみから逃げるためにするように思えた。

 楽になりたいがために、己が命を含めた全てを切り捨てるというのが許容できなかった。

 だから、誰かに裁いて欲しかったんじゃ。

 ……それがノイズであっても、人であっても」

 

 

 他者から与えられる罰が欲しくて、死に場所が欲しくて、彼はこの地に来た。

 

 

「そんなある日、赤ん坊を抱えた女性が息も絶え絶えにワシの前に現れた」

 

 

 その日、バーソロミューがその女性と会えたのはただの偶然だった。

 偶然その日その時その場所を彼が通りがかっただけ。

 血塗れの女性は自分の素性を全て話し、赤ん坊を彼に託した。

 よくある話だった。

 親が借金を作り蒸発し、一人娘が借金のカタに悪人に連れ去られそうになり、それを止めようとした男と娘が恋に落ち、やがて全てを投げ出して夜逃げした。

 何年も逃げ続ける内に二人は結ばれ子供も出来、しかしそれでも「落とし前をつけさせる」と追手の追撃は緩むこと無く、男は殺され、娘もこうして命の灯火が尽きようとしている。

 残されるものは、親が二人共先に行ってしまった赤ん坊のみ。

 

 それを不憫に思った彼女は、子を手に掛けようかと迷う。

 一人で生きるにはこの国はあまりに厳しい。苦しいだけの人生を送るのなら、いっそ、と。

 それでも迷った。愛する我が子を迷いなく手にかけられる母がどこに居ようか?

 愛している。幸せを願っている。その子の未来に、希望があることを欲している。

 涙を流して、血を流して、それでも赤子を抱きしめる女。

 そんな彼女が絶望しているその時に、バーソロミューは現れた。

 

 彼女は、彼に希望を託す。

 何も知らない初対面の男だ。

 悪人かもしれないし、そもそも頼んだ所で受けてくれる義理なんてない。

 それでも。

 僅かな希望に全てをかけて、彼女は愛する子をバーソロミューに託し、育てることを頼んだ。

 ダメ元だとか奇跡にかけるとか、そういう話ではない。

 愛する子の未来を繋げるために何が必要か、何をしなければならないのか、それを理屈や条理をぶっ飛ばして結論を叩き出す『母の愛』が産んだ理外の判断だった。

 

 

―――この子の名は

―――『ゼファー』と、そう名付けました

 

 

 バーソローミューが名を問い、彼女が名を告げ、そして息絶える。

 不安はある。目の前の男が子を託すのに相応しい男かと言えば、彼女の持つ母の勘は「とんでもない」と真っ向から否定する。

 それでも、それでもだ。

 ここで未来が絶えるよりはずっとマシだと、彼女は未だ来ない未来に賭ける。

 願わくば、と。

 我が子の未来の幸だけを、ただ願って。

 

 

「運命じゃと、そう思った」

 

 

 そんな女の気持ち、母としての祈りも露知らず。

 自分が食べてしまった孫と同じ名前の子を託されたバーソロミューの気持ちは、如何ほどのものであっただろうか。

 

 

「罪滅ぼしが出来る、最後のチャンスじゃと、そう思った」

 

 

 その日から、全てを失った男とゼファーの過ごす日々が始まった。

 

 

「その人が……俺の、母親」

 

「そうじゃ」

 

 

 家族が死んだかの日から、その日ようやく。バーソロミューは自分が人であると胸を張れる程度に正気を取り戻した、と言えるかもしれない。

 少なくとも廃人一歩手前の状態から子を育てられる程度には持ち直していた。

 ただ、それでも一度壊れた人間が元に戻るというには程遠く。

 

 

「最初はワシもお主を平穏無事に、幸せにしてやることだけを考えとった」

 

 

 ゼファーの真っ直ぐな視線から逃げるように、バーソロミューの顔が下を向き始める。

 

 

「幸せになって欲しかった、それも本当じゃ。

 償いのため何だってするつもりじゃった、それも本当じゃ。

 殺し殺される可能性のない場所で生きて欲しかった、それも本当じゃ。

 お前さんの未来に幸があって欲しかった、それも本当じゃ」

 

 

 その思いやりは、彼の身勝手な気持ちと矛盾する。

 

 

「正規軍の話等、お前さんがこの地を出て行ける話をしつつも出て行かないと確信していたこと。

 ワシがここに居るから、ワシに恩義を感じているゼファーは出て行かないという打算。

 ワシのために家族が命をかけてくれているという現状への歪んだ嬉しさ。

 生きていたくないワシが死んだ時、黄泉路の共になってくれるかもしれん家族……

 そんな思いも、また本当じゃ」

 

 

 その身勝手さは、彼の思いやりと矛盾する。

 

 

「これがワシじゃ。バーソロミュー・ブラウディアじゃ。……幻滅、したかの」

 

 

 人が一つの気持ちで生きていないのだとしても、あまりにも精神構造がガタガタ過ぎる。

 気持ちの一つ一つを分解して見れば抱くのがそう珍しくはない気持ちであるものの、それら全てが複合してあまりにも支離滅裂な形となっている。

 壊れたバーソロミューという男の思考。

 まだまともなままのバーソロミューという親の思考。

 それがしっちゃかめっちゃかに絡まり合って、今の彼を形作っている。

 クリスが感じた行動の矛盾は、ここから生まれていたのだ。

 

 ゼファーが国から出られることを喜ぶ。拒絶する。

 自分がこの国から出ることを喜ばない。死に場所だから出たくない。

 彼がこの国から出なければゼファーも見捨てられず出て行けない。けれど出ようとしない。

 ゼファーに出て行って欲しくないのか。出て行って欲しい、幸せになって欲しい。

 この国で二人仲良く死にたいのか。それは嫌だ。それもいい。

 シンプルな問いに対する答えですら矛盾だらけになってしまう心の形。

 クリスは今まで性倫理、生死感、善悪論がぶっ壊れている人間を何度もこの地で見てきた。

 それでも、バーソロミューだけはまともな大人であると思い込んできた。

 

 しかしなんてことはない。

 隠せていただけで、壊れた度合いで言えば彼もこの地に生きるその辺の奴らと同格だった。

 この地にまともな人間は誰も居ないのだと、そんな現実がクリスの胸に突き刺さる。

 バーソロミューも、クリスも、胸中に満ちる気持ちは『絶望』に近い物だったのかもしれない。

 

 

「幻滅なんてしねえよ、『爺ちゃん』」

 

 

 けれど、その一言。

 たった一言が、二人の胸中の暗雲を切り裂く。

 二人を呑み込まんとした絶望を、少年自身も気付かぬ内に両断する。

 この地にまともな人間は居やしない、それは事実だ。

 悪い意味でも、良い意味でも。

 

 

「ゼファー……ワシを、それは……」

 

「爺ちゃんが言ったことじゃないか。『自分が愛されてたことだけは否定するな』って」

 

 

 ゼファーの顔には軽蔑も絶望も憤怒もなく、ただ決意だけがあった。

 『家族』を立ち上がらせようと、元気付けようと、そんな決意。

 口下手な彼なりの必死さが、懸命に言葉を探す頑張りが、言葉の端々に乗っている。

 自分の言葉で誰かを変えられるなんて思い上がりは彼にはない。

 だから、真剣だ。

 真剣に、我武者羅に、ありったけの本音をただ言葉にしてぶつけ続ける。

 

 

「疑ったことなんてない。感じられなくなったこともない。

 俺が一番良く知ってる。俺はずっと、爺ちゃんに愛されてたんだって」

 

 

 一つ嘘を混ぜれば全部嘘になる、なんてことはない。

 間違っていたとしても、歪んでいたとしても、汚れていたとしても。

 死んでいった彼の孫、口にしてしまった『ゼファー・ウィンチェスター』の代わりだったとしても、それでもバーソロミューの愛が全て嘘だったわけがない。

 その愛を、ゼファーが肯定する。

 確かにあったその愛を、ゼファーは無かったことになんてしない。

 嘘と欺瞞と醜悪の中に埋もれた一粒の愛を、価値が無いなんて言えるわけがない。

 ゼファーは、その愛にこそ救われて、今日までこの地獄を生きてこれたのだから。

 

 そんなゼファーを最初は驚愕の目で見て、次に納得したような顔をして、優しい色を瞳に浮かべながらやれやれと身振りで示し、壁に背を預けて見守る姿勢に移るクリス。

 そんな彼女がゼファーの理解者であり、最高の相棒であることは疑いようもない。

 何を言っているか分からないという顔で唇を震わせるバーソロミューとはどこまでも対照的だ。

 

 

「今の話を聞いて、俺も運命だと思ったよ。知ってる?

 ジェイナスに昔聞いたんだけどさ、ゼファーって名前の奴ってこの国に俺しか居ないんだって」

 

「なに、を」

 

「今でもこの国に俺一人しか居ない『ゼファー』なんて名前、そうそう被るわけがない。

 きっと爺ちゃんの家族が爺ちゃんを救って欲しくて、それで俺を巡り会わせたんだよ。

 偶然にしちゃ出来過ぎてると俺は思う」

 

「―――」

 

「願望とか妄想とかじゃなくて、俺の勘もそう言ってるんだ。

 俺の生まれた意味には、爺ちゃんを救わないといけない、ってのがあったんだって」

 

 

 バーソロミューの表情が、見たことのないようなものに変わる。

 拳は握られ、強く強く握りしめられている。

 そんな彼を見ながら、クリスはまた一つ相棒への理解を深めていた。

 大切な人の死から逃げさえしなければ、人を大切に思い過ぎるという一種の悪癖が無ければ、きっとゼファー・ウィンチェスターは基本的にこういうスタンスを貫いているのだろう、と。

 両親の墓を立てた時、両親からの贈り物云々という話もそうだ。

 死後の人の意志、死後の人の価値、そういったものをあるものだと考えていくスタンス。

 それがゼファーという少年の骨子の部分にある。

 誰かを励ます時に自分の勘を引き合いに出す辺りと合わせて、実に彼らしい話し方だ。

 

 

「あの世で見守ってくれてるんだ。あの世で爺ちゃんの幸せを願ってくれてるんだ。

 俺はそう思う。

 家族なんだから、もう罰は十分に受けたと思ってくれるし、苦笑いして許してくれるって」

 

「死んだ人間が何を思っているかなど――」

 

「自罰のために死人の意志を決めつける事こそ罪悪、だろ?」

 

「――む、ぐ」

 

「人は死ぬが愛は死なない、それも爺ちゃんが言ったことだ。

 死が愛を断つことはない、それも爺ちゃんが言ったことだ。

 家族が家族を愛するのは当然、それも爺ちゃんが言ったことだ」

 

 

 死者を大事にする人間が、生者を蔑ろにするわけもなく。

 大切な人と過ごした時間を、交わした言葉を、救いになった教えを、少年は忘れない。

 ゼファーにかつてバーソロミューが向けた言葉が、バーソロミューに返って行く。

 その言葉が突き刺さるのも当然だ。

 ……それは、バーソロミュー自身がかつて誰よりも何よりも言って欲しかった言葉であり。

 彼がかつて送っていた、娘との幸せな日々の断片なのだから。

 

 

―――お父様、自虐のために心の中のお母様にお父様の悪口を言わせないで

―――お母様は最後まで、お父様が大好きだったんだから

―――お母様を悪い人にしないで。お父様を悪い人にしないで

―――お父様もお母様も大好きな私は、その自虐がとても嫌いなの

―――まずは笑おう、お父様?

 

―――お母様は死んでしまったけど、愛してもらった思い出はあるから、寂しくないよ

―――この気持ちまでは、死なないもの

―――死が二人を別つとも、愛までは断てないって考えた方が素敵じゃない?

 

―――もう、そんなことばっかり言って。私はお父様に謝られても嬉しくありません

―――不満がなかったわけじゃないけど、それでも私はお父様が大好きよ

―――家族だもの、愛してるのは当然でしょう?

―――出来ればこれから生まれてくる孫も、お父様には愛して欲しいかな

 

 

(……アルテイシア……)

 

 

 自分が無意識に娘の思い出を形を変えてゼファーに対し口にしていた事に気付き。

 それがゼファーから返って来たことに気付き。

 優しい思い出を、凄惨な思い出に塗り潰されて思い出すこともなくなっていた思い出を、大きな感情の奔流と共に受け止める。

 いつから彼は、娘や娘婿との幸せな記憶を封じ込めてしまっていたのか。

 いつから思い出すことも無くなってしまっていたのか。

 ゼファーと同じだ。

 幸せな記憶を思い出すことは、その人の凄惨な結末を思い出すことに直結する。

 だから、逃げ続けたのだ。

 バーソロミューの両の瞳から今流れ始めた大粒の涙に、一体どれほどの感情が込められているのか、幼いゼファーやクリスには想像もつかないだろう。

 死から逃げることは、幸せな記憶から離れて行くことなのだと、男は知った。

 

 

「生きていればきっと誰でも幸せになれるって、どっかで誰かに言われた。

 大切に思われてる人はどんな時でも一人じゃないって、どっかで誰かに言われた。

 何でもかんでも自分のせいにするのは思い上がりだって、どっかで誰かに言われた」

 

 

 そんなバーソロミューをしっかりと見つめ、「思い出すな」と叫ぶ頭と頭痛を抑え、ゼファーは心に刻まれている死人の言葉と、誰よりも頼りになる相棒の言葉を紡ぐ。

 死んでしまった事実と向き合えず、その記憶を押し込んでいるのはゼファーも同じ。

 「忘れてはならない」と、死んでしまった誰かの言葉を無意識に発しているのも同じ。

 バーソロミューとゼファーは、育て育てられの関係であり、ひどく似ている。

 だからゼファーの救いになってくれた言葉は、バーソロミューの救いにもなってくれる。

 

 

「爺ちゃんは俺を愛してくれた。大切に思ってくれた。

 俺も爺ちゃんを愛してるし大切に思ってる。

 家族って、これじゃいけないのか?」

 

「それは……ワシは……いや……ワシが……!」

 

 

 誰かに愛されていることを実感している人間は、死にたいなんて思わない。

 大切に思われている実感があれば、生きていたいという気持ちも強くなる。

 それもまた、バーソロミューの持論の一つだ。

 全てを聞いた上で、全てを知った上で、ゼファーは愛を伝えてくれる。

 愛していると、大切に思っていると、ただ真っ直ぐに伝えてくれる。

 凍った腐肉のように冷えきった胸中に、久しく感じていなかった熱を感じた。

 それはバーソロミューから失われて久しかった生きる理由、生きる意思、生きたいという願い。

 守りたいと思わせてくれる、家族が与えてくれる熱。

 

 

「話とか全部聞いてさ、それでも俺は爺ちゃんが悪いって結論には至れない。

 俺に関わる部分だけになるけど、俺は爺ちゃんがやってきたことを全部『許したい』」

 

 

 何度でも言おう、彼は死人にしか救えない。

 そしてジェイナスが口にしたように、生者は生者でしか救えない。

 バーソロミューの罪の中で最も重いものは、孫食い以外にありえない。

 『ゼファー』でしか彼は救えない。ゼファーはもう死んでいる。ゼファーは今生きている。

 無論、死んでしまったゼファーが蘇ることはない。

 ジェイナスが口にした通り、死んだゼファー本人がバーソロミューに声をかけることもない。

 

 

「―――」

 

 

 けれど今、バーソロミューに声をかけているのは、その心を救っているのはゼファーだ。

 『ゼファー・ウィンチェスター』だ。

 死者であり、生者でもある、バーソロミュー・ブラウディアの孫だ。

 死人は蘇らない? 語りかけているゼファーと死んだゼファーは別人?

 そんなことは今この場に居る当人達には何の関係もないことだ。

 必要なのはただ二つ。

 『ゼファー・ウィンチェスター』が、バーソロミュー・ブラウディアを許したという事実と、

 

 

「ゼファー……! すまぬ……すまなかったッ……!」

 

 

 バーソロミュー・ブラウディアが、『ゼファー・ウィンチェスター』に謝ったという事実のみ。

 力いっぱい、強く、強く抱きしめて。

 涙ながらにすまない、すまないと謝罪の言葉を重ね続ける。

 十年以上謝れなかった相手に、自分の全身全霊をかけて謝り続けるように。

 一人の親として、祖父として、償い切れない過ちを謝罪し続けた。

 

 バーソロミューが、ゼファーにビリーの遺志を伝えた時のように。

 それが、死者の口にした事実でないのだとしても。

 救われたいと願う生者と、死者の代弁をする資格のある生者が居るのなら。

 それはほんの少しであっても、きっと生者の救いとなってくれる。

 

 彼の十数年の執着と妄執は剥がされ、ゼファーという家族に奪われた。

 奪われたのでなく、解き放たれたと知った君がついに立つ……なんて洒落たことは言わないが。

 ゼファーは彼から奪った執着と妄執を心の中でそっと誰かに渡して、持って行ってもらう。

 なんとなく。

 本当になんとなくだが、ゼファーにひっついていた『誰か』がそれで離れて行った気がした。

 

 ゼファーの勘は、働きさえすれば百発百中。

 ゼファー本人はなんとなく口に出しただけだが、死人の思いを本当だと断じた勘は……さて、当たっていたのかどうか。それは誰にも分からない。

 ただ、クリスに次いで口下手なゼファーが、誰かの人生を変えられるだけの言葉を紡げたというのは、やっぱり誰かがこっそり力を貸していたのかもしれない。

 この件に関して、正解はない。何かを思ったならば、それがその人にとっての真実でいい。

 死人に口なしと思うも、バーソロミューの亡き家族が少年に力を貸したのだと思うも勝手。

 ゼファー本人は何も分かっていない様子だが、気付いていたとしたらこう応えるはずだ。

 「死んでいった人が見守ってくれている、そう思ってた方が嬉しい」、と。

 死人と向き合えないから死んでいった人のことなんて思い出したくもないくせに、そんなロマンを語るのだ。

 

 クリスの両親がクリスを見守ってくれているだとか。

 バーソロミューの家族達が彼を見守ってくれているだとか。

 ゼファーが、死んで行った大切な人達に見守られているだとか。

 人の死が受け止められない情けない奴のくせに、そんなロマンを語るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 実に面倒くさい男をかなり面倒くさい少年がほんの少しだけマシな人間に変えた日の翌日。

 ゼファーはいつもの装備を携え、家の前に立っていた。

 ただ、常の紛争や対ノイズ戦仕様の装備に比べれば弾薬が少なめで軽装気味ではあったが。

 今日はジェイナスが指定した遺跡探索という大一番当日だ。

 靴紐をしめるゼファーの見送りに、クリスが欠伸をしながら立っている。

 

 バーソロミューへの挨拶は既に済ませてきたようだ。

 朝も早い時間なのでクリスが眠そうにしているのは仕方ないとして、今日という大一番の前日深夜にまでクソ真面目に勉強に励んでいたゼファーが眠そうにしてないのはどうにも不思議である。

 普段からの慣れと睡眠時間の問題と言ってしまえば、まあそれで終わりなのだが。

 寝る子は育つ、という格言には精神的な意味もあるのかもしれない。

 

 

「留守を頼むな」

 

「あいよ」

 

「……」

 

「……」

 

 

 特に交わす言葉もない。言いたいこともない。

 自然と会話が止まり、ジェイナスの到着を待つだけの時間が過ぎる。

 互いに話題がないから生まれただけの沈黙だが、それがどこか心地よかった。

 その気持ちは、ゼファーもクリスも同じ。

 

 

「……そんな不安そうな顔するなよユキネ。しっかり結果出して帰ってくるから」

 

「別に、そういうの疑ってるわけじゃねえよ」

 

「怪我もしないで帰ってくるから。絶対に、絶対」

 

「……はぁ」

 

 

 心配してるのが馬鹿みたいだ、といつも通りすぎるゼファーを見てクリスは髪をいじり始める。

 別にクリスは普段からこんなに心配症なわけではない。

 未踏遺跡の探索なんかより、銃弾飛び交う戦場の方がよっぽど危険だ。

 だが、それでも何故か、不安が消えてくれない。

 その不安は僅かながらゼファーも感じていた。

 よく分からない、直感のみが反応してくれる、違和感程度の不安。

 それを振り払うように、クリスは強引に話題を変えた。

 

 

「クリスだ」

 

「え?」

 

「面倒だから訂正しなかったけど、お前あたしのファーストネームユキネだと思ってんだろ」

 

「……え」

 

「ファーストネームがクリス、ファミリーネームが雪音だ。

 日本人はファーストネームとファミリーネームが逆なんだって前に教えたろ?」

 

「……はぁぁぁ!? ちょ、お前一年以上……ってそうじゃない、気付いた時に訂正しろよ!」

 

「言ったじゃねえか、面倒臭かったって」

 

「お前なぁッ!」

 

 

 本当は同年代の異性に下の名前で呼ばれるのが気恥ずかしかったという日本人的理由や、家族に対する複雑な気持ちが『ファミリー』ネームで呼ばれたかったという思考に繋がっていたりもしたのだが、まあそれは彼女が語らない以上蛇足な理由だ。

 面倒臭かったから訂正しなかったというのも本音であることに間違いはないし。

 ともかく、名を訂正したということは呼び方が変わるということ。

 人の呼び方は心の距離、そして人の間にある関係をそのまま示す。

 さん付け、ちゃん付け、呼び捨て。それだけでも人間関係は見えてくるものだ。

 ゆえに呼称の変更はほんの少しの要素ではあるが、人間関係の変化を示す。

 なんとなく、なんとなくだが。

 クリスは次に会った時、雪音クリスとゼファー・ウィンチェスターの二人の関係が劇的に変わるような、そんな気がしていた。

 銃の天才、いつかは世界の命運を左右するほどのステージに立つであろう英雄の卵。

 その才能が生み出す直感が、その『なんとなく』を彼女に感じ取らせていた。

 

 

「……ああ、なんで出発前に疲れてるんだ俺……」

 

「そういうわけで、次顔会わせた時からあたしことは『クリス』って呼びな!

 ま、代わりと言っちゃなんだが成功祝いに何かお願い聞いてやるよ」

 

「なんでも?」

 

「やらしいこと要求したら尻の穴に銃突っ込んでぶっ放す」

 

「こえーよ、年頃の可愛い女の子が言うことじゃねえよ」

 

「……ああ、次あたしのこと可愛いとか言ったら殴る」

 

「ぐうの音が出ないくらい理不尽」

 

 

 弾のない空弾倉の銃の銃口が、クリスの手でゼファーの頬にグリグリ押し付けられる。

 クリスが時々やる行動だが、これによってゼファーは強制的に横を向かされクリスの表情が全く見えなくなってしまい、クリスがなんでこういうことをするのか全く分からずじまいである。

 こんな日々が続けばまた同じような事をゼファーが言って、クリスが銃口グリグリ押し付けて、それでまた繰り返すという光景が見られるかもしれない。

 

 まあ、それはともかくとして。

 ゼファーは少し思案する。

 彼がクリスに求めるものは――クリスが彼に求めるものは多々あるが――あまりない。

 強いて言うならずっとそばに居てくれることだが、これもまた具体性がない。

 こういう時にはある程度即物的なものを求めるものだと、ゼファーは他ならぬクリスに常識の一つとして教わった。

 考えて、考えて、考えて。

 あ、と一つ思いつく。

 

 

「歌」

 

「歌?」

 

「そうだ、俺はユキネの歌が聞きたいな。俺、ユキネの歌好きなんだよ」

 

 

 ゼファーは、クリスの歌が好きだった。

 彼女が気を抜いた時に口ずさむリズムが、鼻歌が、荒野に響く口笛が。

 思わず真似してしまうくらいには好きだった。

 けれどしっかりとした歌は、アカペラであっても聞いたことがなかった。

 それはクリスの両親の末路、二人の世界を歌で平和にするという夢、父母とクリスの思い出が常に歌で彩られていたこともあり、思い出したくないことと無関係ではないだろう。

 

 しかし友人からこうも真っ直ぐに「君の歌が好きだ」という気持ちを表されては、流石にクリスも隠しようもなく照れる。少なからずその気にさせられてしまう。

 ここ一年で随分と過去からも吹っ切れた様子だ。

 照れで薄赤に染まった顔を隠すように、顔を背ける。

 彼女が顔を背けた視線の先には、本当に偶然。本当に偶然、彼女が墓を立てた丘があった。

 クリスを見守るように立つ、彼女の両親の墓があった。

 雪音クリスは、ほんの少しだけ背中を押された、そんな気がした。

 

 

「……いいぜ、なんかリクエストある?」

 

「あ、じゃあアレで。ユキネがいつも口笛で吹いてる奴」

 

「あれかぁ」

 

 

 本当に因果なものだと、クリスは心中で独り言ちる。

 

 

「あれ歌詞無いから、今からあたしが考えないといけないんだよな」

 

「そうなのか? じゃあ別の歌に……」

 

「いいよ、今からちゃちゃっと考える」

 

「考えるってオイ」

 

「いーんだよ、アレはそういう曲なんだ」

 

 

 昔、クリスマスにクリスがその曲を両親からプレゼントされてからどれだけの時が経ったのか。

 数字にすれば短い。けれど彼女には、何十年も前のことのようだ。

 クリスマスプレゼントに自分だけの曲を、家族で完成させる曲を貰った喜びも。

 楽譜と旋律を丸暗記するほどに夢中になったのあの日の思い出も。

 その記憶のどれにも映っている両親への想いも。

 今の雪音クリスにとっては全てが、あまりに遠く感じる思い出だ。

 

 

「そういえば、その曲って名前あるのか?」

 

 

 いつもそうだ、とクリスは思う。

 ゼファーは何か気遣ったりしなくても、いつもクリスに『一区切り』の機会をくれる。

 それが良い事なのか、悪い事なのかまでクリスには分からない。

 ただ、前に進む機会をくれる、そのために背中を押してくれる、そんな友人だからこそ、クリスは大切な友人なのだと胸を張って言えるのだ。

 

 

「『繋いだ手だけが紡ぐもの』ってんだとさ。

 パパとママが死んで、親不孝者の娘の手に残っちまった……そんな、可哀想な曲だ」

 

 

 名前も結末も本当に皮肉だと、クリスは苦笑する。

 遠方にバイクが見えてきた。おそらくジェイナスだろう。

 ここでゼファーを見送って、今日の夕方になんでもないように成功の報告を聞く。

 そしてまた明日からなんでもない日常が始まる。

 雪音クリスは、そう疑いもしなかった。

 ここでクリスに見送られて、全て丁寧にこなして、夕方にいつものように成功の報告をする。

 そしてまた明日から少しだけ幸せな日常が始まる。

 ゼファー・ウィンチェスターは、そう疑いもしなかった。

 

 

「行ってくる。歌、楽しみにしてる」

 

「ハードル上げんなよ……無事に帰ってこいよ、ゼファー」

 

 

 バン、と。クリスは自分の隣の空間を示すように壁を叩く。

 

 

「約束しろ、(ここ)に帰ってくるって」

 

 

 ニッと笑って、ゼファーは返す。

 

 

「どんなに遠くに行っても、(そこ)に帰るって約束する。それは絶対に、絶対だ」

 

 

 空気を読まないジェイナスが登場そうそう唾を吐く。

 

 

「あーくっせ、なんでクソガキ共の青春模様を見せつけられなきゃなんねえんだよ」

 

 

 ジェイナスの悪態をガン無視して一言二言言葉を交わし、二人は別れる。

 ゼファーはバイクに二人乗り、ジェイナスと共に遺跡へ。

 クリスは家の中、歌詞を考えるべくペンとノートを漁りに。

 背中合わせに違う雲を見ながら、別々の方向へと歩み出す。

 

 今日この日から、ゼファー・ウィンチェスターが()()()()まで。

 

 ゼファーとクリスの二人が再会することも、約束が果たされることもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木々に囲まれた開けた空間、そこに鎮座する石造りの遺跡。

 建物なのか、美術品なのか、それとも小さな城なのか。

 浅学なゼファーでは到底判断の付かない、そんな異質な技術によって作られたもの。

 ゼファーの目の前には、そんな前人未到の遺跡が悠然と存在していた。

 

 

「これが……」

 

「そうだ、俺達のお目当ての遺跡ってやつだな」

 

 

 バイクで走ること40分、といった所か。

 荒野もあれば森林もある、それがフィフス・ヴァンガードという土地だ。

 農産も畜産も向かない、絶妙に微妙な土地。それでも森林があるから細々とした果樹はある。

 しかし果樹はいいとしても、遺跡まであるとはゼファーをして吃驚仰天の事実だ。

 耳で聞くのと実際に目にするのとではまるで違う。

 呆気に取られるゼファーを尻目に、ジェイナスは手元の資料にひたすら何かを書き込みつつ、別の資料と遺跡の壁面を見比べていた。

 

 

「何してんだ?」

 

「仕事の一環、レポートだレポート。

 壁面の文字を写真で取って、出来れば解読してメモ。

 その為に先史文明文字の解読資料も渡されてる」

 

「へぇ……」

 

「まあ先史文明文字はシュメールの文字と共通点多いしな。

 大学で単位取ってればこんな対比表無くたってそれなりには行ける」

 

「取ってたのか、ジェイナス」

 

「比較的楽だったからな」

 

 

 ジェイナスの思わぬ一面に、ゼファーは目を丸くする。

 頭がいい、という認識はあった。

 大学を出ているという身の上話を聞いたこともあった。

 しかしこうして資料を参考にしてるとはいえ、スラスラと解読しているのを見ると純粋に尊敬の眼差しを向けずにはいられないのがゼファーという少年だ。

 それに気付いているのか、ジェイナスも実に得意げな顔をしている。

 邪魔をしてはいけない、とゼファーは思考する。しかし彼も男の子である。

 遺跡というロマンを前に、湧き上がる好奇心を抑えきれないようだ。

 

 

「なあなあ、なんて書いてあるんだ?」

 

「うるせえな邪魔すんじゃねえ……えーと、

 『この扉をくぐる者、終わりに終わりを告げる者たらん事を願う』」

 

 

 鬱陶しげな表情を浮かべつつも、しっかりと読んでやるジェイナス。

 

 

「『生きとし生ける者全て、かの災厄の目覚めさせぬため命を懸けよ』

 『生きとし生ける者全て、かの災厄蘇りし時世界を守り命を懸けよ』

 『其は時空間を焼き、空を焼き、地を焼き、海を焼き、命を焼く焔』」

 

(物凄く物騒な言い回しだな……)

 

 

 しかし、壁面……というより、扉の両脇に書かれている文はまるで『警告文』だ。

 

 

「『焔の災厄、■■■■■■■■……ダメだ、この部分は文字が擦り切れてて読めねえ」

 

「読めないのは仕方ないな、その次の文章は?」

 

「『資格持つ者、それすなわちこの絶望への道を開く鍵也』

 『開くべからず』

 『かのもの目覚めし時、世界は終わる』

 『剣の英雄が目覚めぬ限り』」

 

 

 

この扉をくぐる者、終わりに終わりを告げる者たらん事を願う

 

生きとし生ける者全て、かの災厄の目覚めさせぬため命を懸けよ

生きとし生ける者全て、かの災厄蘇りし時世界を守り命を懸けよ

其は時空間を焼き、空を焼き、地を焼き、海を焼き、命を焼く焔

 

焔の災厄、■■■■■■■■

 

資格持つ者、それすなわちこの絶望への道を開く鍵也

開くべからず

かのもの目覚めし時、世界は終わる

剣の英雄が目覚めぬ限り

 

 

 

 ジェイナスのメモで見ても、文の一つ一つが果てしなく物騒だ。

 ゼファーの直感が、じわじわと感じ取る危険度を上げていく。

 そして()()()()、じわじわと危険を感じなくなっていく。

 

 

「……なぁ、ジェイナス。ここ本当に開けて大丈夫か?」

 

「遺跡荒らし対策の脅し文句に決まってんだろ? ビビんな。

 っと、これはこの文を書いた奴の名前か」

 

 

 しかしジェイナスはどこ吹く風だ。

 その図太さを半分ほどゼファーに分けてやったら丁度良くなるだろうに。

 

 

「『フィーネ・ルン・ヴァレリア』……はん、女かよ」

 

「いや別に女の人が書いたって良いだろ、何言ってんだお前」

 

「つい最近出しゃばる女にイラッと来たばかりなんだ、ほっときやがれ」

 

 

 フィーネ、という名もさらりとメモする。

 おそらくこの『焔の災厄』と言うものについて記した者が、この女性なのだろう。

 

 

「先史文明が災害で滅びたって説、案外本当なのかもな」

 

「なんだそれ? 災害で文明が滅びるものなのか?」

 

「だから『規格外の災害で滅びたんじゃないか』って説があるのさ。

 俺らの頭では想像できないような、そんなとんでもねえのがな。

 恐竜が隕石一個で滅びちまった、なんて話はお前だって聞いたことあるだろ?」

 

「成程」

 

 

 会話に花を咲かせながら、ジェイナスは壁面の文字を記録し終わる。

 しからば次は本丸だ。ようやく遺跡の内部へと進入する段階に移行するが、

 

 

「……あっかねえッ!」

 

 

 ジェイナスが押しても引いても扉はうんともすんとも言わない。

 キレたジェイナスが銃弾を打ち込むも扉は表面が削れすらしない。

 しゃあねえと、ジェイナスは扉をふっ飛ばすためのプラスチック爆弾を準備。

 が。

 

 

「あ、開いた」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 

 ゼファーが扉を押すとあっさりと開く。なんだったというのか。

 釈然としないまま、ジェイナスは信管を引っこ抜いて爆弾を元の場所に仕舞っていく。

 

 

「納得行かねえ……」

 

「あーホラ、入り口に『資格持つ者』って書いてあったじゃん。

 俺に何か資格があってジェイナスがないって判定されたのかも」

 

「資格……資格か。………………童貞か?」

 

「どうてい?」

 

「いや、どうでもいいな。お前を常に先に行かせる作戦に変わりはねえんだし」

 

 

 第一ゼファーにあって自分にないものは多すぎる、そう自嘲するジェイナス。

 まあ俺の方が持ってるものは多いがな! と自己弁護を完成させた所で、ゼファーを斥候として突撃させる。

 ゼファーの通った床をジェイナスが通り、その途中途中で聖遺物を捜索する。

 当初の予定通り、何も問題はない。そうジェイナスはほくそ笑む。

 

 それと対照的に、ゼファーの表情はどんどん険しくなっていく。

 この遺跡に近付く度、この遺跡に入ってから一歩一歩踏み出す度、ゼファーの中の『何か』が鈍くなり、ゼファーの中の『何か』が鋭くなっていく。

 『何か』に求められ、ゼファーがゼファーでなくなっていく。

 それでいてそれを受け入れている自分に違和感を感じない、そんな恐ろしい事象がゼファーの中に発生していた。

 まるで、忘れていた何かを思い出すように。

 まるで、与えられていた使命を思い出すかのように。

 ゼファー・ウィンチェスターの魂が、『何か』に反応して震えていた。

 

 地の底から沸き上がる『不気味な熱』が、ゼファーの勘を鈍らせていた。




なんだかローグライク系のゲームの導入みたいになってしまいましたね
ディアボロは名作

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。