戦姫絶唱シンフォギア feat.ワイルドアームズ   作:ルシエド

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希望の守護獣ゼファー+アシュレー・ウィンチェスター=ゼファー・ウィンチェスター
ビリー・パイルダー+ブラッド・エヴァンス=ビリー・エヴァンス
ジェイナス・カスケード+アルノー・G・ヴァスケス=ジェイナス・ヴァスケス
バーソロミュー艦長+ガウン・ブラウディア=バーソロミュー・ブラウディア

今回はちょっとグロ注意


2

 むかしむかしのこと。とある日、とある場所。

 西風の吹く小さな丘で、少年と少女は出会った。

 「どうしたの」と、少女は聞く。「僕は一人ぼっちなんだ」と、少年は答える。

 「だったらもう、私が居るから一人じゃないね」と、少女は言った。

 驚いて、泣きそうになって、それでも笑顔で。

 「ありがとう」と、少年は言った。

 

 少女は元気だった。いつだって少年の手を引いて、何事にも真っ直ぐに向かって行く。

 少年は不器用だった。ありのままの感謝の気持ちを、彼女に告げることしかできなかった。

 五番目の先陣区の子供にしてはその二人の関係はあまりにも無垢で、純粋で、何一つとして世界と噛み合ってない印象を受けるくらいに、微笑ましい関係だった。

 この世界にありふれた関係。平和な国なら、どこにでもある友情だった。

 

 「私はここの外に行きたいな」と、少女は言った。

 「僕はここの外を知らないから、出て行くのは怖いよ」と、少年は言った。

 「一緒なら怖くないよ」と、少女は柔らかく微笑んだ。

 「だったら外では、僕が君を守るよ」と、少年は言った。

 少女はハッとして、少し顔を赤らめる。

 少年も自分のセリフのくささに照れたのか、少しだけ目を逸らした。

 交わされた約束があった。

 

 少年少女は銃を持ち、戦場に出る。

 そうでなければ生き残れない。そうでなければ生きる糧を得られない。

 「君は人が撃てないんだね」と、少年は言う。

 「ごめんなさい」と、少女は泣く。

 「いいんだよ」と、少年は優しすぎる少女を許した。

 少年は少女から、優しすぎて戦えない人の存在を知った。

 戦えない誰かの代わりに戦うべき誰かが要るのだと、そう学んだ。

 大切に思える少女を守ろうと、少年は誓った。

 

 二人は親友だった。もしかしたら、友情以外の感情もあったのかもしれない。

 同じ年頃で、話も合った。優しい少女と不器用な少年。

 時間があればいつだって一緒に居て、辛い時も楽しい時も一緒だった。

 寝る前に相手の顔を思い出して、共に過ごした素敵な時間を思い出して、一緒に突き進んだ冒険を思い出して、微笑みながら微睡んで行く幸せがあった。

 ノイズを殺して、人を殺して、明日には自分が殺されてしまうかもしれない場所。

 それが二人の小さな世界で、殺したくないなんて口にしてはならない地獄。

 この地獄の中で、二人だけで過ごせる時間だけが、救いだった。

 

 「優しい人はすぐ死んじゃうね」と、少女はお墓の前で泣いていた。

 「そうだね」と、こぼれた涙を拭って少年は少女に寄り添った。

 「私も、ゼファーも、きっと」と、少女は嘆くように呟いた。

 「君は絶対に守る」と、少年は力強く誓いを告げる。

 少女は少し照れて、それでも少年は真っ直ぐに少女を見つめ続けた。

 「じゃあ、もう一つ約束しよっか」と、照れ隠しに少女は言った。

 どちらか片方が死んでしまっても、生き残った方は生きていく、と。

 死にたいくらい辛くても、死んでしまった相手の分まで頑張って生きていく、と。

 そう少女は口にする。

 「生きていれば、きっと誰でも幸せになれるから」と、少女は言った。

 「分かった」と、少年は軽い気持ちで答えた。

 それは約束であったが、きっと呪いでもあった。

 

 どこの世界にもクズは居る。

 人間のクズというのは環境という絶対要素だけでなく、全体における割合という相対要素でも発生しうる。

 クズが悪かったのか。運が悪かったのか。無力が悪かったのか。

 どこかに誰か、悪い奴が居たのだろうか。

 ただそこに、少年は不気味な熱を感じた。

 

 押さえつけられる少女。押さえつける笑う男達。

 男達は、新雪を踏み荒らすように何も知らない少女をこうすることが好きだった。

 「やめて」と、少女は叫んだ。

 男達は笑って応えない。

 「助けて」と、少女は叫んだ。

 傍に居るはずの少年も応えない。

 

 男達は楽しげに、少女の前で少年をゴミのように蹴り転がして遊んでいる。

 先程よりも強く強く、少女は「やめて」と叫んだ。

 男達は笑って応えない。

 地獄のような時間が過ぎた。少年は、その地獄を途切れてくれない意識に刻みつける。

 この地獄と比べれば、どんな場所も地獄だなんて思えないだろう。

 その男達と比べれば、どんな人間だって悪人とは思えないだろう。

 

 少女の声が聞こえる。助けるために動かさなければならない腕も足も、動かない。

 少女の声が聞こえる。耳を塞ぎたくても、腕が上がらない。

 少女の声が聞こえる。身体が動かせないから、目を逸らせない。

 少女の声が聞こえる。涙が流れない目の存在を感じ、何かが壊れてしまったことを理解した。

 少女の声が聞こえない。始まりから終わりまでを、少年はずっとその目に焼き付けていた。

 

 声が止んだ。男達の笑い声も止まった。何かが、終わってしまった感覚。

 それから二時間後、ようやく立てるようになった少年は、見たくもない結末を目にした。

 まず女として、次に人として、最後に物として終わらせられた少女の姿を。

 男達は少女を散々女として弄び、次に刃物と銃を用いて弄んだ。

 赤と白と肌色。流れ出した血と内蔵が踏み躙られ、地面に染みこみ赤黒い泥と化している。

 生かさないよう、死なせないよう、どれだけ長く傷めつけられたのか。

 

 点数が書かれ、ダーツの刺さっていた腹があった。

 ナイフの刃先で背中にへったくそな絵が複数人分刻まれていた。

 青アザと赤色の肉が見えている所が、肌色の部分より多かった。

 眼球は両方ともまぶたの下に無かった。指がいくつか足りなかった。

 腰から下は、それらのどれよりも酷かった。

 

 どこの世界にもクズは居る。

 人間のクズというのは環境という絶対要素だけでなく、全体における割合という相対要素でも発生しうる。

 クズが悪かったのか。運が悪かったのか。無力が悪かったのか。

 どこかに誰か、悪い奴が居たのだろうか。

 ただそこに、少年は不可思議な熱を感じた。

 

 きっと自分が悪かったんだと、少年はそう確信する。生涯揺らがない、そんな確信を得る。

 

 もう友情はなくて、約束は守れなくて、誓いは破られて、救いはなくて、呪いは残った。

 

 何かが壊れて、少年は少女の死に涙しなかった。

 

 今はもう、誰もが知らない。

 

 ゼファー・ウィンチェスターと終わってしまった一人の少女の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二話:Chris Yukine EP2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日が昇る直前、まだ夜と言っていい早朝に少年は目を覚ました。

 ベッドでは少女がぐっすりと眠ったままであり、少年は部屋の隅で壁に背中を預けたまま、片膝を立て床に座ったまま寝ていた身体を立ち上がらせる。

 少し痛むが許容範囲。昨晩二日分の課題を済ませたノートが広げっぱなしなことに気付き、自分のだらしなさに呆れながらも片付け身支度を整える。

 少女が眠っているのを確認し、書き置きを残して戸締まりも確認。足元も見えない暗闇の中、うっすらと照らす月明かりを頼りに歩き出した。

 

 せっせせっせと歩き続け、歩き続け、歩くこと約一時間半。

 居住区より約10kmの地点のその場所に、鬱蒼と並ぶ木々と川の支流が流れこむ池と湖の中間のような水溜りが存在する。目的地に着いたゼファーは、家を出てからの無言を終始維持したままに、のんびりと釣り糸を垂らした。

 昔ここには管理者が居て、森の木々や池に毎日のように手を入れていたという。

 食べられる果樹を管理し、魚を放流し、荒野の多いこの地に緑を満たそうとしたのだとか。

 しかし紛争の煽りであえなく鉛玉の餌食に合い、この場所は知る者ぞ知る地元民の食料調達の穴場となっていた。普通は車で来るのだが、生憎ゼファーは私用で車を使えるほどに偉くない。

 

 ここにはいくつかの取り決めがある。魚は一人二匹まで、といった風に。

 管理者が居ない今、魚は取り過ぎれば増えないし、果樹も個人個人が育つ前に取って行ってしまえば皆小さなものしか食べられなくなる。

 破ったからといって正式な罰則があるわけがない。法律で取るなと定めているのではないのだから、当然と言えば当然だが。

 これはあくまで暗黙の了解であり、この場所を知る者達の『善意』によって成り立つ決まり事。

 ……意図して過度に何度も破れば、夜道でどこかの誰かに背中から撃たれるかもしれないが、破る者が居ない内は善意で成り立つ決まり事だ。

 

 魚を二匹釣り、ホコーテという甘酸っぱい果物を適当にいくつか取って袋に詰める。

 バケツを揺らしすぎて中の魚を死なせてしまわないよう気をつけ、帰路につく。

 唯一の誤算は水のたっぷり入ったバケツと果物を背負っての10km踏破は、十歳前後の少年には結構きつかったということだろうか。

 

 

「まだ寝てる……まあ、いいか」

 

 

 すでに日が昇っているにも関わらずグースカ寝ている少女を尻目に、朝残していた書き置きを握り潰し荷物をせっせと片付ける。

 それだけ疲弊するような目にあったのだと、共感はできないが気持ちは分かる。

 自宅の物置場から人を刺していない比較的綺麗なナイフを取り出し、まずは魚を絶命させる。

 刃の背で鱗をある程度すり落とし、肛門から一直線に腹を裂き、内蔵を掻き出す。

 内蔵を全て掻き出した後の魚を飲料用の水で洗い、付着した水を拭って少し風を当てて乾かしてから、塩をまんべんなく塗り始める。内側には特に念入りに。

 昔は挿し方が甘くすぐスッポ抜けてしまったり、妙に味が薄い割りに生臭かったり、パサパサだったりモサッとしてたりといった失敗をしていたゼファー。しかし今では熟練の腕前と言っていいだろう。

 乾かしている間先をナイフで削って尖らせた棒をエラの辺りからぶすっと刺し、背骨に絡めて取れないようにし、火を起こす。

 魚を焼き始めるのは火が大きくなってからなので、ここからは火を見つつ枝追加タイムだ。

 少年はひたすら無言に、火に枝をくべて大きくしていく。

 火がある程度大きくなったら魚を背・両面・腹の順に火に当てていく。無論、直接火に当てるわけではないが、しっかり熱は通さなければならない。

 

 

「なんか美味しそうな匂いがする……」

 

「おはよう、よく眠れたか?」

 

「……悪い夢は見なかったけど」

 

「そうか」

 

 

 そうこうしていると、匂いに釣られたのかクリスが外に出てきた。

 ゼファーが早朝に家を出たことも気付いていない、そんな様子。

 

 

「魚?」

 

「まあ、ちょっとたまたまな。

 分かってると思うが、この朝飯以降はずっとお前の言う不味い飯を食うんだぞ」

 

「うへぇ」

 

 

 クリスは近所の人にでも貰ったのかな、と当たりを付けた。実際は洒落にならない労力がかかってはいるのだが、ゼファー本人がそういう素振りを微塵も見せないのだから気付きようが無い。

 消化の悪そうなパンに何の肉か分からない干し肉、長持ちさせることしか考えていない缶に詰められた野菜群は、不味いという表現すら控えめだ。

 それでも昨日文句言いつつ食べ切った少女は、飢えた時に革靴すら食べて生き延びる才能があるのかもしれない。

 しかしそれで美味いものが要らない、なんて結論に辿り着くわけがなく。

 食欲大国日本の血が半分流れているクリスは、ゼファーが魚を渡した途端にがっつくのだった。

 

 

「ああ、それと食い終わったらこの辺りで一番偉い人の所に連れてくから」

 

「ん。……あ、結構美味しいなこれ」

 

「果物食うか?」

 

「食べるっ!」

 

 

 悩みながら少しでも大きなものを選んで食べようとするクリスを見て、ゼファーは苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところ変わって、二人が向かったのはブラウディア宅。

 

 

「この子じゃよ」

 

「は?」

 

「お前さんとこに新入りとして回そうと思ってたのがこの子じゃ」

 

「あの、突然連れられて来てあたし何が何だか分かんないんだけど」

 

「その辺説明するために連れて来たんだ。この人がこの辺りで一番偉い人、バーソロミューさん。

 困ったらこの人を頼れ」

 

「うちの子をよろしく頼むの、お嬢ちゃん」

 

「あ、クリスだ……です」

 

(俺をうちの子ってバーさん……まあいいか)

 

「ま、もう仲良くしとるようで安心したわい」

 

「「仲良く……?」」

 

「ほほほ」

 

 

 寝不足が解消されたのが目に見えるクリスと、顔には出さないがここ2、3日やや睡眠不足なゼファーを見て、好々爺といった雰囲気を滲ませているバーソロミュー。

 バーソロミューに確認してみたところ、ゼファーの予測はピタリと的中。

 クリスはここへの補充として連れて来られた身寄りの無い子供の一人であり、明日からはノイズと殺し合わされる身の上、だということ。

 地獄を抜けたらまた地獄、クリスはまだノイズや隣国の兵士と戦わされ、戦わなければ――食べる物が得られず――生き残れないという自分の現状に気付いていない。

 彼女からすれば泣きっ面に蜂というレベルではないだろう。

 下手をすれば泣きっ面にノイズで死んでいった星の数ほどの人達の仲間入りをしかねない。

 しかしながら、問題はそこだけではなかった。

 

 

「この子の両親についてとか新聞で見たんだけどさ……そういうこと、と見ていいのかな」

 

「そういうこと、と見ていいじゃろな」

 

「?」

 

 

 無感情なゼファー、答えつつ苦虫を噛み潰したような顔をするバーソロミュー、何言ってんのかさっぱりなので適当に聞き流しているクリス。

 クリスについて一つ、少し考えれば誰にでも至れる疑問がある。

 何故、世界的に知られる音楽家の娘が、素性を隠しているわけでもないのに、曲がりなりにも国がシステムとして組み込んでいるこんな舞台に流れ着いたのか?

 

 

(死んで欲しい……それも、その死因を押し付けられる形で)

 

 

 この国のやり口さえ知っていれば、子供のゼファーにだって分かる。

 今回の事件はもうどうしようもないレベルの不祥事だ。バル・ベルデとS国は互いに責任を押し付け合い、相手国のせいだと叫び合っている。

 「野蛮なかの国のせいで尊い命が~我が国の国民はいたく悲しみ~」なんてどの口が言っているのか、クリスが聞いていればブチ切れていただろう。

 元より他国と国交がない国の上、バル・ベルデが偽証までしていて真実が拡散していかないというのが現状だ。

 

 さてここで、紛争が一息ついてからクリスという唯一の生存者が確認される。

 雪音夫妻の件に関して隠蔽工作をしていた一人の男は頭を抱えた。

 今回の件は雪音夫妻の存在を知らずにS国が紛争を仕掛け、それに巻き込まれた一行が一人を残して皆死んだ、というのが真実の経緯だ。

 無論、これだけならバル・ベルデに否はない。偽装工作の必要すらないはずだ。

 問題なのは、夫の雪音雅律を撃ったのがS国の兵士であることも判明しているが、妻のソネット・M・ユキネをバル・ベルデの人間が撃ったことも確認されているという一点にある。

 雪音夫妻に付き添っていた人間達や諸国の使節団の一部も、バル・ベルデとS国の両方の陣営からたらふく弾丸を撃ち込まれていて、もう本当にどうしようもない。

 偽装せざるを得ないし、責任を相手に押し付けざるを得ないのだ。

 

 だからこそクリスの存在が際立つ。

 紛争のドサクサで死因や死体を誤魔化すことは出来たものの、紛争が一段落してしまった今クリスをそのまま口封じと禍根消しに殺してしまえば、足がつきかねない。

 既に近日中に『NINJA』や『SAKIMORI』の異名で裏の世界では有名な、日本の諜報機関のエージェントが密入国し調査に来るという情報もあった。

 このタイミングで放置しても、殺してしまっても、確実にその足跡は辿られ発見される。

 男は頭を悩ませた末、「どこぞで野垂れ死にしてくれ」という現実逃避に近い願いを込めて、クリスをファースト・ヴァンガードと並ぶ死亡率の前線へと流した。

 それが彼女が、フィフス・ヴァンガードに流れ着くまでの経緯の真相である。

 S国に殺されればよし。それはそれで利用できる。

 ノイズに殺されればよし。それはそれで証拠が残らない。

 紛争にも投入される非人道的ノイズ対策部隊を「好きでやってるわけじゃない、ノイズさえ居なければ」と白々しい言い訳で存続させ続けた国だ。その辺りは適当に、かつ相当に厚い面の皮で主張するだろう。

ノイズに殺された場合のカバーストーリーではノイズのせいに、S国に殺された場合はS国の責任にする。ハッキリ言って無茶苦茶な理屈だが、この国ならばやる。

 

 ゆえに、もうこの国は長続きはしないだろう。

 今回の事件はこの国に対する各国の注目度を上げ、世界各国民は何とかしろと各国を下から突き上げる。国連による内政干渉も時間の問題だ。

 どう足掻いても、十年もこの国が他国の介入を跳ね除けられやしないのは明白だ。

 国自体は残るとしても、下手を打てば五年ほどでこの国は一つの形での終わりを迎えるだろう。

 バーソロミューはこの国の末路までかなり緻密に推測している。

 

 国が事件のことでクリスに死んで欲しいと思っているんだなあ、程度の認識で居るゼファーとの差は、爺と孫ほどの年季の差といった所か。

 

 

「じゃ、クリスにここのルールとか教えてあげてくれ。その間裏の射撃場借りていい?」

 

「構わんぞ」

 

「あ、ちょっとゼファー!」

 

「大丈夫。この人は悪い大人じゃないって俺が保証する。いい人だよ」

 

「お前の目が節穴かもしれないだろ!」

 

 

 歩いて行くゼファーに、すがりつくようにその服の裾を掴むクリス。

 その瞳に浮かぶのは不安。チラチラとバーソロミューに向けられる視線に込められているのは不信。あたしを置いて二人きりにするなと、言外に彼女は言っていた。

 もっとも、ゼファーにとってバーソロミューは誰よりも信頼できる大人であったりするのだが、クリスがそれを知る由もない。

 

 

「いい人止まりではなく爺ちゃんと呼ぶ気にはならんか? ゼファー」

 

「いや別に」

 

「……即答は泣きたくなるんじゃが」

 

「バーさん、その面倒見の良さはこの子に向けてやってくれ」

 

「ワシから見ればどっちも子供じゃ。どっちかを優先することも疎かにすることもないわい」

 

 

 速攻の即答とは裏腹に、クリスは二人の会話に暖かなものを感じていた。

 もう自分は感じられない、だけど確かに感じた覚えのあるもの。

 家族の、暖かさ。

 ゼファーには分からない、クリスだからこそ分かる、そんな家族の暖かさがあった。

 それはゼファーとバーソロミューの間に、かすかながらも確かにあるものだった。

 一抹の寂しさを覚えながらも、彼女自身すら気づかぬ内に、クリスの心中のバーソロミューへの不信感は薄れていく。

 

 

「ノートとペン置いてくから、メモ取っとくといいよ」

 

「……ん、分かった。終わったらあたしもそっちに行くから」

 

 

 ゼファーは去り、二人が残される。

 バーソロミューが少女に向ける視線は、孫が初めて連れて来た友達に向けるそれだ。

 それだけでも微妙に居心地が悪いのだが、クリスがここに来てから積み重なった大人への不信感もあって倍率ドン。

 クリスが唯一信じられるかもしれないと思い始めているゼファーに、彼が祖父のような暖かみを向けていなければ、彼と二人きりになんて絶対にならなかっただろう。

 そんな少女の警戒心には気づいているだろうに、バーソロミューは何故か上機嫌に椅子やテーブルをお客様向けに片付けていく。

 

 

「さて、どこから話すべきかの。ここでワシらがすべき事からじゃろうか……」

 

「あ、その前にさ。アンタってゼファーと付き合い長いのか?」

 

「ん? まあ長いの。あやつが赤ん坊の頃から面倒見とる」

 

「『リルカ』って誰のことか分かる?」

 

 

 その名前を出した瞬間。

 ピタリと、彼の手が止まった。

 

 

「あたしさー、昨日夕方には寝ちゃっててさ。

 その前の日にぐっすり寝てたのもあって夜中に目が覚めちゃったんだよ」

「その時にゼファーがうなされながらなんか名前言っててさ」

「いや別に気になるとか心配とかなんじゃないけど、知ってるかなーって」

 

 

 頭を掻きながら聞く彼女に、彼はゼファーに似た不器用な優しさを感じた。

 それに重ねて、リルカの名に湧き上がる強い後悔と苦い記憶を思い出した。

 

 

「……ゼファーは、お主に優しくしとくれとるかの?」

 

「え? 優しいのかどうかは分かんないけど、助けてもらったけど」

 

「そうか」

 

 

 バーソロミュー・ブラウディアが忘れるわけがない。

 その日から、ゼファーはどこかが欠けてしまったのだから。

 

 

「ワシの知る事は多くない」

 

 

 リストを見てゼファーより年下の女の子が居るのを見た時から、彼は少しだけ期待していた。

 子育ての過程の失敗を、荒療治で取り返そうとする阿呆の発想。それでも、現状維持よりかは百倍マシだと彼は思う。

 ゼファーに思い出させたこの少女なら。彼の知る、『リルカ』という少女とはまるで違うこの子ならばあるいは、ゼファーを前に進ませてくれるのではという淡い期待。

 クリスと直接会ってみれば、バーソロミューの長年の経験が生む勘もそれを後押ししてくれた。この少女ならば、止まった時計の針を動かしてくれるかもしれないと。

 

 

「じゃが、少し話してみるのも悪くない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銃口を的に向け、無心になる。

 ごちゃごちゃ考える必要のない事のほうがゼファーは好きだ。

 それでもごちゃごちゃ考えないと何も上手く行かないのだから、世の中は問題だらけと言うしかない。何も考えず真っ直ぐ生きられる人は、だから自然と周囲から尊敬の念を集めるのだろう。

 引き金を引けば、慣れていない人では鼓膜を痺れさせかねない爆音。

 人の肉をちぎり、骨を砕く威力の弾丸を一分間に数百発放つとんでもない鉄の筒。これをもってしてもノイズには勝てやしなかった。

 

 

「っ」

 

 

 一発一発丁寧に撃っても、ゼファーの命中率はそこまで高くない。

 少年は物心ついた時から数え切れないくらいの失敗を繰り返し、そこから学び、ずっと銃を撃って来た。撃ってきた弾丸の数で言うなら生半可な軍人よりもずっと多い。

 しかしながら、生まれつきの銃才はどうしようもなく足りていなかった。

 ゼファーはもう少し腕を上げれば技術が頭打ちになるであろう自覚がある。そも現在ですら、ずば抜けた勘の良さを利用して跳び回りつつ、大雑把に狙いを定めて撃ち尽くす戦法なのだ。

 そして頭打ちになれば、もうあの大型ノイズを始めとする敵が『絶対に勝てない敵』になる。

 それだけは許容できなかった。その無力を許容できるほど、少年は大人にはなれない。

 

 

「……」

 

 

 照準器で再度、狙いを定める。

 人は鉄の棒を振り下ろしても岩を砕けない。ムキムキの筋肉を付けたとしても腕が痺れるだけだし、逆に自分の手の骨が折れてしまうかもしれない。人は貧弱だ。

 しかし銃を持てば、こんな小さな少年でも数秒で岩を粉々にできてしまう。

 銃とは凄まじい武器だ。小さくとも、一つ持つだけで絶対的な力の差をひっくり返してくれる。

 なのに、だというのに。

 岩を素手で砕ける人が、銃の最上位と言っていい火器を持ち、その上で殺された。

 そんな事実がチラついて、ゼファーの射撃に雑念が混じる。

 

 

(忘れろ)

 

 

 頭痛から逃避するように、射撃に没頭するゼファー。

 

 

「……ゼファー、こっち終わったぞ」

 

 

 そんな彼の背後から、声をかけるクリス。

 

 

「ああ、お疲……どうした?」

 

「なんでもないッ」

 

 

 ゼファーが振り返れば、そこには複雑な感情を浮かべたクリスが居た。

 どう接すればいいのか分からないような、ゼファーには絶対に読み取れない複雑な心の機微。

 ただ一つ言えることは、かなりマシになっていた彼女の少年に対する不信感が、少し元に戻ってしまっているということ。

 

 

「これから何をさせられるか、ちゃんと聞いてきたか」

 

「ああ、あたしらに人殺してノイズ相手に突っ込んで死ねって話だろ?」

 

「……まぁ、そうだな」

 

「ざっけんな! あたしは、あたしはそんなの……!」

 

 

 不機嫌の理由はそれかな、とゼファーは当たりを付ける。

 この国に来るまでクリスは銃を握ったことはおろか、他人を殴ったことすら無いのだろう。

 心優しく、平和な世界に生きてきた少女なのだ。

 そんな少女に銃を握らせ、人類種の天敵や軍人と戦い撃ち殺せと命じる方がどうかしている。

 たとえ、そうしなければ生きていけないのだとしても、だ。

 戦わなければ生きていけないのだとバーソロミューに言われた時、クリスは少しだけ裏切られた気持ちになった。

 手を差し伸べてくれたゼファーも結局、両親を殺した奴らと同じ無情なやつだったんだと、そう失望しかけて、

 

 

「別に嫌なら銃を持たなくてもいいぞ」

 

「……えっ?」

 

「バーさんから言われた。次のうちの小隊長は俺がスライドして入る。

 うちの小隊員扱いにしてるお前なら、数合わせで戦場に出てさえくれれば逃げ回ってていい。

 戦闘してたってことにしとけば配給はあるしな」

 

 

 その言葉に、続ける言葉を見失った。

 

 

「え、と、なんで?」

 

「優しすぎて人を撃てない奴が居るってのは知ってる。

 そういう奴が戦えないのは仕方ないし、俺は優しくないから人を撃てる。

 戦えない誰かの代わりに戦うべき誰かが要るってのは俺の持論だし、そうなりたいと思ってる」

 

「……」

 

「人を撃ちたくないってのは美徳だと思う。撃ったら悪い奴だ、とまでは思いたくないけどさ」

 

 

 人を殺すのが悪徳とは決して言わない。ただ、人を撃ちたくないと思う人を優しい人だと思うだけ。スレた価値観に取って付けたような綺麗事。

 歪んでるというよりもそれは、自分の価値観の中にどこかの誰かの価値観を忘れないようにと刻み込んでいる、意図して付けられた大きな傷のようだった。

 

 

「それでも、俺個人としてはお前に銃の扱い方を習って欲しいと思ってる」

 

「! 結局綺麗事言っといてそれかよッ!」

 

「戦えって言ってるんじゃない。ただ、銃ってのは強いんだ」

 

 

 アサルトライフルを脇に置いたゼファーの手の中で、くるくると拳銃が回る。

 

 

「大人との力の差も、男との力の差も、ノイズとの力の差も埋めてくれる。

 現実とか打ち破れないものも多いけど……どうしようもない時、頼りになる」

 

 

 くるくると回る銃を止め、グリップを先にしてクリスへと差し向ける。

 その銃は、ビリー・エヴァンスが腰に差していたものだった。

 

 

「俺が銃を取ったのは殺したいからとかじゃなくて、死にたくなかったから」

 

 

 その銃を取るということは、選択するということ。

 雪音クリスがただの被害者から、生き残るため他人を殺した加害者にもなりうる道へと進むことを、選択するということだ。

 正義や信念を理由にするのではなく、ただ生きたいという理由だけで、選択するということだ。

 

 

「一昨日の男達にされそうになってたことを、自分一人で跳ね除けられる力を持って欲しい」

 

 

 あるいはそれが、ゼファーの本音だったのかもしれない。

 明日自分が戦場で死ぬかもしれない、自分が目を離した隙に何かされてしまうかもしれない、そんなどこから来ているのかも分からない少年の不安。

 ゼファーは自分のことにも気付けない。クリスは微妙な言葉のニュアンスで気付いた。

 

 

「銃で撃てば人は死ぬけど、人を撃たなきゃ誰も死なないよ」

 

 

 クリスは迷う。

 迷って、迷って、迷って……自分の中の天秤にかける。

 

 ここで銃を取らない選択は、きっと両親への思い故にだ。

 平和を望んだ、歌で皆の手を繋ごうとした両親の夢の尊重なのだ。

 両親が大切にしていたものをずっと大切にしていこうという決意。

 この場所の価値観には絶対に染まらないという覚悟と言い換えてもいい。

 どんな時でも、どんな場所でも、自分は人殺しなんかしないという決心。

 

 ここで銃を取る選択は、死にたくないというシンプルな意思故にだ。

 そのために殺し、争い、銃を撃つことを受け入れるということ。

 そして両親の夢とその行動の否定。

 銃を取るということは、両親の生き方を自分が絶対に継がないという決意の表明。

 かつて平和な世界で培った価値観を捨てて、この場所で生きるという選択。

 

 迷って、迷って、迷って。

 クリスの中の倫理は、両親の夢に向かっていた背中は、人殺しへの忌避感は。

 ほんの少しの差で、生きたいという意思に負けた。

 

 

「……ああ、分かったよ、やってやる、やってやるさッ!」

 

 

 子供に生きる事を諦めて両親の信念を貫いて死ね、など。

 そんな残酷なことを、誰が言えようか。

 

 

「あたしに銃の扱いを教えろ、ゼファー・ウィンチェスターッ!」

 

「ああ、任せろ」

 

 

 雪音クリスは、その日決断し、前に進んだのだ。

 その結果が人殺しに繋がるのだとしても、苦悩しながらも生きるために現実と向き合って、前に進もうとした彼女の生き方は、間違いなく輝いていた。

 

 

「さっさとお前の腕追い抜いてぎゃふんと言わせてやるぜ!」

 

「はいはい、構えてな。言わせられるもんなら言わせてみろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小一時間後。

 

 

「ぎゃふん」

 

「よし、言わせた!」

 

「いや、これは流石にぎゃふんと言うしかないな……お前、大したもんだよ」

 

「へへっ」

 

 

 ゼファーは生まれて初めて、『天才』というものを目にしていた。

 

 

「撃てば撃つだけ当たるから面白いなー、あたし生まれてこの方銃とか撃ったことなかったけど」

 

「その方が良いに決まってるだろ」

 

「おっしゃる通りでっ、そらもういっぱぁつ!」

 

 

 よそ見をしながら構えもせずに、適当に撃ったようにしか見えない射撃。

 それがこの練習が始まってから彼女が撃った弾丸が全部通って行った、『一つの穴』に吸い込まれて行き、的の板にかすりもせずに通過する。

 ゼファーが構えと注意事項を教え、最初にクリスに撃たせた時、的のど真ん中に当たった時はビギーナーズラックで幸先が良いと喜んだ。

 二発目がその穴を通過し、三発目がその穴の縁をかすりつつ通過し、四発目でクリスの片手打ちがその穴を通過した時点で異変に気付く。

 

 

「銃の天才か……銃に関してなら、今日中に俺追い抜くかもしれないな」

 

「そんなに?」

 

「そんなに、だ。俺の知る中で最強の人間でも、ここまでの銃の腕はなかったはずだ」

 

 

 脳裏に浮かぶのは、英雄と呼ばれた一人の男。

 思い返したその記憶には、もう何の感情も謎の頭痛も付随してはいない。

 

 

「ちょっと待ってろ、的の板変える」

 

 

 穴だらけになった板を取り替え、ゼファーが新しく設置した板には、人の大雑把な絵が描かれていた。余分な装飾のないのっぺらぼうの人影だが、絶望的に絵のセンスが無い。

 

 

「なにこれ?」

 

「手足狙って撃てば人は死なないってこと」

 

「あー、なるほど」

 

「手足撃った敵放置して後ろから撃たれた人とか知ってるからオススメはしない、一応」

 

「選択肢くれるだけで嬉しいって、こういうのは!」

 

 

 ゼファーに見守られる中、クリスは手元の拳銃を四連射。

 銃の反動を受け止められる体作りをしていないのも、銃ダコも無い綺麗な手の平も、この技量と途方もなくミスマッチだ。

 放たれた四つの銃弾は綺麗に上下左右対称の軌道を描き、両肘両膝を撃ち抜いた。

 ゼファーには今のクリスが狙いを定めたのかどうかも、構えていたのかも分からない。

 少年が大雑把に狙いを定めて引き金を引くのと同じ時間、いやそれより短い時間で少女は四カ所同時に狙いを定めて撃ち抜いたのだ。

 反動で手が痺れた様子もない。ほんの僅かに曲線を描く拳銃特有の軌道に狙いをズラされた様子もない。引き金を連続で引き別々の的を狙っても百発百中。

 ここまで圧倒的な才覚の差を見せつけられればぐうの音も出ない。

 ものの一時間足らずで、もう教えることはなくなった。クイック免許皆伝である。

 

 

(後は、的じゃなくて本当の人間に撃てるかどうかだけかな)

 

 

 これで精神的な心構えも教える必要がないのであれば……きっと雪音クリスは、戦場で産まれるべき人間だったのだと、ゼファーも断言できる。

 その才能は平和の中に溶け込むにはあまりにも異物過ぎて、滅び行く世界を救うような英雄に神様が与えるようなものなのだと、そうとしか思えないものだったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕を過ぎ、夜になる。

 ゼファーが持っている――過去に死体から拝借した――銃を一通りクリスに撃たせて見た結果、予想通りにその結果は想定以上であった。

 アサルトライフルを固定して撃たせるという行為一つ取っても、ゼファーとクリスでは集弾率がまるで違う。銃才に天と地ほどの差があった。

 銃に慣れてくればゼファーが空に放り投げた小石を拳銃で撃ち落とすし、斜め前に見えた岩を使って跳弾させ的のど真ん中に命中させた時は流石のゼファーも己の目を疑った。

 命中率が高いとか、銃の扱いが上手いとか、射程距離の限界を超えるとか、そういう次元ではなく『射撃』という概念に関するありとあらゆる分野における天才。

 リロードですらもう目にも留まらぬ速さだろう。ゼファーが確認していないだけで、神の視点から見ればクロスボウやミサイル制御といった分野にまで彼女の才は発揮される。

 

 

(俺が守る側であの子が守られる側、なんて認識は最初から間違ってたか)

 

 

 自室にて常用単語とその意味をセットで何度も書き取りを繰り返し、英語を覚えて行く過程を繰り返すゼファー。クリスとの英会話は彼に自身の未熟さを実感させるには十分すぎた。

 英語だけではない。銃技においても、少女は少年の自信を粉々にしてみせたのだ。

 そこに尊敬はあれど嫉妬はない。

 ただ、少年の胸にはどこかやるせない気持ちだけが残っていた。

 分からない。自己分析は大人の特権だ。子供の彼には、それがかつて才能も力もなく無力だったどこかの誰かと、クリスを重ねている事に気づけない。

 例えば昔どこかの誰かが殺されたとして、それは殺された誰かの無力が悪いのか、守れなかった誰かの無力が悪いのか。それこそ子供には分からない。

 

 

「ゼファー、まだ起きてるか?」

 

「! あ、ああ。起きてるぞ」

 

 

 思考に没頭していたからか、開いていたドアの隙間から部屋の中を覗いていたクリスの存在にすら、ゼファーは気付いていなかった。

 どうにも、この少女の前だと調子が狂っている。

 普段なら近付いて来ている気配を感じただけで銃を手に取っていたはずだ。

 クリスは感情が読み取りづらい表情を浮かべていて、部屋に入る足の進みも遅い。

 

 

「何やって……うげ、勉強」

 

「頭の良くない俺が毎日の勉強サボったら英語なんてすぐ忘れちまうよ」

 

「やだやだ、あたしがこのクソみたいな国に来て唯一良いと思えることは宿題が無いって事だよ」

 

「……ジョークが言えるくらいに元気なら、大丈夫みたいだな」

 

「おかげさまで、ね。もしかしたら心配だったりしたか?」

 

「少しは」

 

 

 非常に分かりづらい感じに安堵したゼファーの様子を見て、少しだけクリスの抱えていた警戒心が弱まったように見えた。

 ゼファーの表情には熱が無い。活力のない瞳はイマイチ感情が読み取りづらいのだ。

 対するクリスは喜怒哀楽が非常に伝わりやすく、他人が放っておけないタイプと言える。

 クリスはそんな少年が何を考えているのか分からなくて、ゼファーは少女が何を聞きたがっているのか察せない。

 言葉にしなければ伝わらないものは多い。

 二人はここまで来てようやく、コミュニケーションが取れる程度まで関係が進展したのだった。

 

 

「明日、分かってるな?」

 

「わーってるよ。……大丈夫、あたしは、撃てる」

 

 

 明日。

 クリスの初陣は、先週S国に占拠された国境のこちら側の小さな街の奪取作戦。

 すなわち、殺人をこなさなければならない戦場だった。

 

 

「今日銃触ったばっかのお前に前に出ろなんて言わないし、下がってても――」

 

「は? ゼファーよか腕の良いあたしに、自分が前に出るから下がってろとか、そう言うのか?」

 

「む」

 

「逆だろ。あたしよりヘタクソなんだからゼファーが下がってろよ」

 

 

 クリスはふてぶてしく笑い、ニッと口角を上げた。

 強い台詞も、女の子にしては荒っぽい口調も、強気な姿勢も。

 全ては弱く震える繊細な心を隠そうとする、ハリボテの勇気だ。

 気を抜けば体が震える、迷えば歩き出せなくなる、泣いてしまいそうな自分への鼓舞。

 ゼファーはそんなクリスの痩せ我慢にも。弱いまま、傷付きながらも現実から目を逸らさず、自分の精一杯で立ち向かおうとする彼女の強さにも気付けない。

 

 

「贅沢言えば、危ないからずっと前に出て欲しくないくらいなんだけどな」

 

 

 だから、こういう台詞も吐いてしまう。

 

 

「ゼファー」

 

「……なんだ?」

 

 

 クリスはここで生きていくと決めた。決めたのだ。

 その果てにどんなに無様な過程を経ようと、苦しい思いをしようと、両親の思いを穢そうと。

 ゼファーが差し出した銃を手に取り、選択したのだ。

 守って貰えることを嬉しく感じる気持ちはある。

 危険な目にあって欲しくないという言葉からも真摯な気持ちが伺える。

 しかし、他でもないゼファーにこう言われれば、クリスとてカチンと来る。

 少年から差し出された銃を、少女は地獄までの片道列車を共に行く相乗り切符のような気持ちで受け取っていたのだから、尚更に。

 

 

「お前が危険な目に合わせたくないのって、あたしじゃないんじゃねーの」

 

「何言って」

 

「例えば、昔死んだお前の女の子の友達とか」

 

「―――」

 

「リルカ、だっけか? あの爺さんが教えてくれたぜ」

 

 

 ゆえに、クリスは全力で地雷を踏み抜きに行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は遡り、本日の昼。

 クリスがゼファーの下で銃を習う前、バーソロミューにリルカという少女の事を聞いた後の事。

 

 

「じゃが、少し話してみるのも悪くない」

 

 

 クリスがそれを聞いたのは、純粋に少女の優しさからだった。

 不器用だし、なかなか素直にもなれないが、彼女はとても優しい心の持ち主だ。

 だからこそ恩を感じているゼファーがうなされていた時、どうにか出来ないかと少女は思った。

 見過ごせない、見捨てられない、何かできる事をしてあげたい、そういう想い。

 それは少女の両親が、どういう風に少女を育てて来たかという証明でもあった。

 

 

「お前さんは、友達はおるかの?」

 

「……んー、あんまり多くないかな。もう会えないだろうけどさ」

 

「そうか。しかし、生きていればいつかは再会することもあるじゃろうよ。諦めるでないぞ」

 

 

 生きていれば、の部分を殊更強調し、バーソロミューは言葉を続ける。

 クリスには何故か、バーソロミューが先程のまでの楽しげに話していた時より、ずっと老けて見えた。

 滲む後悔が、普段の元気な様子で誤魔化している彼の年齢を表出させている。

 

 

「リルカは、ゼファーの最初の友達じゃった。最初の友達は特別なものじゃ」

 

「あー、それは分かるかも」

 

 

 バーソロミューにも、クリスにも、最初の友達の記憶はある。

 最初の友達が誰か忘れてしまっている者も居るだろうが、記憶に残る最初の友達というものは、総じてどこか特別なものだ。

 子供にとっては特に。

 

 

「じゃから、目にしたあの子の死を、ゼファーは受け止められなかった……」

 

「病気とか事故でか?」

 

「違う。あの子は味方に殺されたのじゃ。大人の男達に、本当に小さな女の子がの」

 

「!」

 

「女として、人間として、ワシの知る限り最大限にその尊厳を侮辱されて。

 あの日から誰が死のうと、ゼファーは泣けなくなってしもうた」

 

 

 溢れる感情を抑えこもうとするかのように、バーソロミューは目元に手を当てる。

 八歳の子供とはいえ、クリスとて世間知らずではない。

 リルカという少女がどんな辱めを受けたのか精確に理解できていない純朴さは微笑ましいが、彼女は自分が想像できる範囲内での悲劇ですら、顔色を青くしている。

 それも当然。

 クリスはあと一歩で、その少女と同じ末路を辿っていたかもしれないのだから。

 

 

「味方にそんな事した奴らは、どんな罰を受けたんだ?」

 

「無い。当時のそやつらの上官達はこの事件を無かったことにした」

 

「は?」

 

 

 クリスの背筋に、ぞわりと悪寒が走る。

 

 

「戦力にもならん子供と中核戦力だった大人数人、それを天秤にかけたんじゃよ」

 

「は、あ? いやだって、ゼファーが見てて」

 

「ゼファーが騒ごうものならすぐ始末し、戦力にならん子供の死体を二つにするだけじゃよ」

 

「……そんなのッ!」

 

「ここではよくあることじゃ。ただ、その巡り合わせが悪かっただけでの」

 

 

 加害者はのさばって、被害者は泣き寝入り。

 それが当たり前。それが当然。そうしなければ、弱者の側が生きられない。

 自分もそうなっていたかもしれないのだと、クリスの背筋の悪寒が全身に広がっていく。

 生まれた吐き気は、しばらく消えてくれそうにもなかった。

 

 

「誰もリルカの死体の埋葬をしようとはしなかった。

 ゼファーと、あやつに頼まれたワシは除いての。

 殺した男達が茶化しに来た時は、リルカという少女を伝聞にしか知らぬワシも殺意を抱いた」

 

「……なんなんだよ、それ」

 

「じゃが、そんなやつらよりも埋葬を優先するゼファーを見て、踏み留まったんじゃ。

 一刻も早く静かな場所で眠らせてあげたいと、ゼファーに言われたのを思い出しての。

 その時ワシは、毎日のようにゼファーが語る親友の姿を初めて見た。

 あの子が見たこともないような顔で楽しげに語る少女の、成れの果てを見た。

 ……吐き気がしたわい。人は、あそこまで残酷になれるのかと」

 

 

 バーソロミューは、目元を抑えたまま、自分が叫ばぬよう感情を無理矢理に押し込めている。

 彼はその日、踏み潰されて土と混じり合った少女の眼球を、丁寧に拾う少年を見た。

 彼はその日、漏れた内臓だけでもと裂けた腹の中に押し込んでいく少年を見た。

 彼はその日、活力と熱を無くしていく少年を見た。

 一人の親として、一人の子を守れなかったことを後悔した。

 

 

「じゃあ、じゃあさ! ゼファーがそいつらに復讐してやればスッキリしてなんとか――」

 

「リルカを殺した男達はその一ヶ月ほど後に全員ノイズに殺されとる」

 

「……は」

 

「復讐、それもゼファーは考えておったよ。

 自分にはそれしか無いとばかりに意気込んどった。

 そして、振り上げた拳をどこにも振り下ろせなかったんじゃ」

 

「なんだよ、なんだよそれ」

 

 

 それは、あまりにも。

 

 

「安すぎんだろ! 命がッ! 安さが爆発しすぎてんぞッ!」

 

 

 救いがない。

 

 

「ここではよくあることじゃよ。ここは命が一発の銃弾よりも軽い場所じゃ」

 

「場所で命の重さが変わってたまるかッ! あたしのも、ゼファーのもだッ!」

 

「……お前さんは」

 

 

 クリスの眼の奥に炎が燃えている。

 ふざけるなという、怒りの炎だ。まだ育ち切っていない意志の種火だ。

 優しさから生まれる、残酷な世界への途方も無い憤怒だ。

 そして、この地に住む人間達がいつの間にか失くしている、心の熱だ。

 間違っていることを間違っていると叫び続ける、この世で最も正しき怒りだ。

 

 バーソロミューは、その熱を久しぶりに見た気がした。

 自分の中にないそれを、ゼファーの中にもないそれを、クリスは瞳の中に満たしている。

 その時、クリスがゼファーに対してでもなく、ゼファーがクリスに対してでもなく。第三者たるバーソロミューが、ゼファーとクリスの二人が出会ったことに対して運命を感じていた。

 この出会いが偶然であって欲しくない、なんてセンチな思考が彼の頭の中をよぎる。

 

 

「成程、お前さんは話に聞くリルカという少女とは似ても似つかぬようじゃな」

 

「だったらなんだってんだ?」

 

「『期待』しよう」

 

「は?」

 

「さて、話してみた感じでは分の悪い賭けにはならなそうじゃが」

 

「いやいやいや、あたし置いて話進めないで欲しいんだけど」

 

 

 バーソロミュー・ブラウディアが、その熱に思わず賭けてしまうほどの煌めく種火。

 

 

「お前さんは思うことを思うままにあいつに言ってやればええんじゃ」

 

「イマイチ話が噛み合ってないような……まあ、言われなくてもそうするけど」

 

「ほんじゃま、そろそろ本題に入るとするかの」

 

「……本題?」

 

「ワシお前さんに聞かれたこと答えただけでここの説明とか何もしとらんのじゃが」

 

「あっ」

 

 

 バーソロミューはクリスという少女に対し、何の心配もしていなかった。

 戦ってない時の彼の見込みは大体甘い。

 彼はクリスという少女が生まれつき割と不器用で、それなりに喧嘩っ早く、育ちの良さと優しさで相殺される性格の、所謂気の良いヤンキータイプであることを全く問題と考えていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果、踏まれた地雷が盛大に起爆する。

 

 

「あたしが心配? お前はリルカってやつの代用品のあたしが死んだりするのが嫌なだけだろ」

 

「そんなわけ――」

 

「だったら! なんであたしのことを一度もあたしの名前で呼ばないんだッ!」

 

 

 その叫びに、ゼファーの息が止まる。

 

 

「図星か? それとも自分でも気付いてなかったか? あたしはずっと気にしてたッ!」

 

 

 名乗られてから二日。

 それを偶然だとはクリスは思えず、その不安はゼファーの反応を見て確信に変わる。

 筆舌に尽くしがたいひどい顔。

 助けてくれた時の優しい顔でもなく、普段の熱のない顔でもなく。

 それが少女の言葉の羅列に、怒りも笑顔も浮かべられないほどに絶望している表情なのだと、怒るクリスは気付けない。

 

 

「あたしは、あたしは、死んだどっかの誰かの代わりかよ……」

 

「い、ぁ、違」

 

「お前が守れてれば満足できるお人形かよ!」

 

「っ」

 

「少しは信じられる奴なのかもって思ったあたしがバカだったよ!

 お前はあたしに危ないことも余計なこともしない守られるだけの奴で居て欲しかったんだろ!

 あたしやあの爺さんが死んだら死んだで別の代わりを探すんだろッ!?」

 

「―――」

 

 

 クリスももう、怒りで何を口にしているのか自分でも分かっていない。

 裏切られた気持ちだった。ただ、彼女自身自分が何故怒っているかも自覚できていなかった。

 自分に銃の才能があると知り、ゼファーに褒められ。助けて守って恩を返そう、そう思った矢先に下がっていて欲しいとの当人からの言葉。

 お前は要らないと、そう言われた気分だったのだ。

 

 対するゼファーはもうどうしようもない。

 表情の絶望と相応に心中はぐちゃぐちゃ、軋む記憶のせいで頭は割れそうに傷んでいる。

 たとえその根底に「守りたい」という気持ちと「守れなかった」という後悔があったとしても。

 代用品に思っていたという事実に変わりはなく、それを逃げようもなく突き付けられた。

 「代わりだったら誰でも良かったんだろ」というクリスの叫びは、痛烈にゼファーの胸に突き刺さる。

 

 勿論、そうやってゼファーが代わりを探し続ける人生を歩むかどうかなんて誰にも分からない。

 クリスもヒートアップして口にしているだけでそう確信しているわけではない。

 ただ。

 少年には「そうかもしれない」と思ってしまうほどに、リアリティのある言葉に聞こえた。

 いつかそうやって代わりを探して、死んで行った人達を忘れていく自分。ゼファーにとってそれはとても質感のある未来に思えた。

 加速度的に顔が怒りの赤に染まっていくクリスと正反対に、ゼファーの顔色は今にも死にそうなほど青くなっていく。

 

 

「あたしだって銃持てばお前より優秀だろ! 頼れよッ!」

 

「それで……それで死んだら、どうする!

 戦場でどんなにあっさり人が死ぬのか知りもしないお前が、無責任に何言ってるんだッ!

 どんなに強くたって運が良くなきゃ死ぬんだよ!」

 

 

 戦場では人は死ぬ、息を吸う様に呆気無く。

 そう。

 英雄だったビリー・エヴァンスだって死んだのだ。他の誰でもなく、ゼファーの目の前で。

 

 

「だいたいお前、一々考え無しなんだよ!

 考え無しに飯ガツガツ食うし、今日も勝手に撃ち方教える前に銃撃つし!

 暴発してたら死んでたんだぞッ!」

 

「へーへーあたしはゼファーの思い出の女の子よりは考えなしですよ!

 第一! そう思ってんなら言え! 伝わんねえだろ!

 あたしが何すりゃどう助けになるのかも分かりづらいんだよお前ッ!」

 

 

 青い顔で吐き気を堪え、やせ我慢して怒りのままに言葉を吐き出すゼファー。

 赤い顔で怒りの罵りに本音が混じり始めたクリス。

 まあ分かってたことだ。

 過去や境遇がシャレにならないものだったとしても、二人は齢十に届くか届かないかという、幼いただの子供。

 その喧嘩が、感情に任せた理屈もクソもない叫び合いに帰結するのは当然で。

 

 

「―――!」

 

「―――!?」

 

 

 ありったけの言葉を吐き出した後、喧嘩別れにそれぞれの寝床へと戻った。

 

 

「寝るっ!」

 

「寝てろ!」

 

 

 クリスは泣き疲れて気を失った時に寝かされていた部屋のベッドへ。

 ゼファーは移動もせず、先刻まで喧嘩していたその部屋の床で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あー」

 

 

 クリスは布団にくるまって、ベッドの上で体育座りしたままにドアを見る。

 ドアを挟んで、その向こうの壁を挟んで、その更に向こうにはゼファーが居るのだろう。

 喧嘩が終わった直後だ、その視線は怒りに満ちて……は、いなかった。

 むしろ「やっちまった」という後悔まみれであり、怒りなんてどこにも見当たらない。

 

 

「そうじゃない、そうじゃなくて……ああもう、あたしはどうしてこうっ」

 

 

 くしゃっと髪を掻き、足をパタパタさせるその仕草は可愛らしいのだが、あいにくと誰も見ていなかった。

 クリスも最初から喧嘩するつもりでゼファーに会いに行ったわけではない。

 むしろ伝えたかったことがあったから、ちゃんと言葉にしようと歩み寄ったのだ。

 まずは自分は心配しなくても大丈夫、ということを。それと、

 

 

「ありがとうって、そう言いたかっただけなのに」

 

 

 まだ一度も伝えてなかった、伝えたかった一つの気持ちを。

 

 

「名前呼んでくれないゼファーも悪いけど!

 ……あたしだって、お互い様だ。一度もお礼言ってない」

 

 

 お礼を言おうとして、恥ずかしさとカチンと来る台詞にカッとなって相手の地雷を踏む。

 そしてそれを後になってから盛大に後悔する。

 なんとも、将来が不安になるツンデレの卵だ。

 

 

「何か、何か言って重荷を軽くしてやろうと思ってたのに」

 

 

 リルカの件だって、何か自分にできる事はないかと考えていたはずなのに。

 気付けば傷を抉り、ひどい顔をさせてしまった。

 何かで助けになりたいと思ったら、罵っていた。

 少女自身が一番「どうしてこうなった」と後悔していることうけ合いだろう。

 しかし、それでもクリスはすぐに謝りに行って仲直りしようという気にもなれないで居た。

 子供特有の意地か、自分から謝りたくないという気持ちが先行する。

 おそらく顔を合わせればその気持ちは倍加するだろう。子供なので時間が経てば、いずれ消えるようなものではあるのだが。

 優しくとも、健気でも、不器用でも、彼女はまだ子供なのだ。

 

 

「……明日、明日謝ろう」

 

 

 クリスにベッドを貸したままどこでゼファーは寝ているのか、そういうことも問い質さないといけないと一時間くらい前には思っていたというのに、もうすっかり忘れている。

 投げ出したり逃げ出す気はないけれど、やりたくないことは後回し。

 真っ当かつ微笑ましい、どこにでも居る子供のやり方である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリスが去った後の部屋。

 

 

「お、えっ」

 

 

 嘔吐。

 立っていられなくなったゼファーは熱を失った表情のまま床に倒れ、その顔を自ら履いた吐瀉物の塊の中に埋めていた。

 数年ぶりの口喧嘩、思考の混濁、記憶からの逃避。それらの消耗に力をもって行かれている。

 身体に力が入らない、立ち上がる力もない、なのに頭脳は極めて平静だった。

 掃除しないとな、なんて苦笑しながら考えている程度には。

 

 

「喧嘩なんて久しぶりだな……最後に喧嘩したのいつだっけか」

 

 

 ぼんやりと、霞のかかった記憶を辿る。

 痛みはない。

 ただ、朝起きた直後に直前まで見ていた夢の記憶がどんどん薄れていくような、記憶が歯抜けになっていく感覚だけが脳裏を走る。

 また逃避。思い出したものを忘れる過程。

 

 

「……いつだっけ。誰とだっけ」

 

 

 クリスの前にしたゼファーの最後の喧嘩は、リンゴの取り合い。

 コイントスで勝った方が食べるという約束でゼファーが勝ち、それでも食べたいと駄々を捏ねたとある少女と喧嘩になり、最後に二人で半分こして食べた優しい思い出。

 思い返すだけで心が暖かくなるような記憶。

 終わってしまった少女との幸せな思い出。

 

 だが忘れた。

 

 

「まあ、いいや」

 

 

 夜は更け、ゼファーが掃除をして眠ればすぐに戦場に行く時間になるだろう。

 喧嘩が原因でそこに不和を持ち込むなんてことは最悪だ。

 俺が謝らないといけないのかな、とゼファーは思う。

 時間を置くべきかすぐに謝りに行くか、後回しにしたいという気持ち抜きにそう思える少年は、端から見れば大人びた子供に見えるのだろうか?

 見えるのかもしれない。実際、クリスはゼファーを自分より大人びた同年代として見ている。

 

 現実は、人間になれるかどうかも分からない欠陥品のガラクタでしかないというのに。

 

 それを直してくれとクリスに期待するバーソロミューのぐうの音も出ない畜生さが、夜空に燦然と輝いていた。




本編で拳銃でデュランダル撃って遠くまで運んだり、乱れ撃つぜえな狙い撃つぜえロックオンしたり、円盤特典の戦姫絶唱しないシンフォギアによると映画見てちょっと練習しただけで翼さんと渡り合えるガンカタ習得してるクリスちゃんマジ天才

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