戦姫絶唱シンフォギア feat.ワイルドアームズ   作:ルシエド

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いつもの章末おまけ兼そろそろラスボスさんの強さと存在が忘れられている頃かなあと思いまして


フィーネとザババといつかどこかの最後の戦い

 フィーネ・ルン・ヴァレリアはその瞳に特大の哀れみを浮かべていた。

 何万年生きようが他の誰にも向けることはないだろうと思えるほどの、特大の憐憫を。

 今、彼女は最後の決戦の前に、弟である英雄ロディ・ラグナイトとその仲間達を迎え最後の時間を共に過ごしていた。

 ロードブレイザーとの最終決戦。

 この星の最後の戦いになるかもしれないと、そう言われてすらいる決戦だ。

 

 なのにそんな大一番を前にして、フィーネの胸中に気負いはなかった。使命感もなかった。

 それを吹き飛ばすくらい、哀れなものが視線の先にあったから。

 

(……ほんっとうに、哀れな……)

 

 ロディには一人の幼馴染が居た。

 それはフィーネもよく知る少女。名を、ザババという。

 付き合い自体は長くとも、活発で性別問わず友達といつも外で遊んでいたロディと、内向的で大人しいザババにはそこまで接点がない。

 ロディはそう思っていた。

 が、フィーネはそうでないことを知っている。

 

 フィーネはロディを木の影からじっと見つつ、話しかける勇気が無いために接点も持てず、行動力が無いためにストーカーにもなれず、ずっと片思いを続けていたザババの姿を知っていたから。

 そして聖遺物を扱う技能を認められ、ロディの仲間となれた時に飛び上がるほど喜んで、ロディの役に立てたと思えば満面の笑みを浮かべ、ロディに褒められれば赤面して気絶するほど興奮してしまう、ザババの可愛さを知っていたから。

 行動力と勇気が無いためにヘタレにヘタレを重ね、幼馴染の距離感を縮められずにいたザババの情けなさを知っていたから。

 そこでボーイ・ミーツ・ガールからの数日の交流でくっついたロディとセシリアのカップルを見て、呆然とするザババの哀れな背中を知っていたから。

 

 決戦前夜、ロディにせめて片思いを告白しようと立ったものの、ロディを呼び出すだけ呼び出して硬直しているザババを見てしまったならば、フィーネの瞳には哀れみしか浮かんでこない。

 

「ザババ?」

 

「あ、あう」

 

 普段はさらりとした黒髪に人形のような無表情も相まってクールな印象を受けるザババだが、ロディの前でだけは感情豊かな一面を見せる。

 少し思い込みで行動しやすいところもあるが、それも愛嬌。

 容姿も可愛らしくて、小柄な割には出る所が出ている恵体。

 フィーネから見ても優良物件な少女なだけに、既に王女セシリアとくっついているロディを見るその恋煩いの視線が痛ましい。

 英雄の姉たる巫女は、目頭を抑えて天を仰ぐ。

 なまじロディの姉という立場があるだけに、「おお、もう」としかフィーネは言えなかった。

 

 惚れた相手が悪かったのか、恋を競う相手が悪かったのか、ザババ自身が悪かったのか、運が悪かったのか。

 全部が悪かったとしたら、本当にもうどうしようもないということなので、それだけはないと信じたい。フィーネは、そう思う。

 

「ししし失礼しますですっ!?」

 

 そして結局、何一つ言えずにヘタれたザババは逃げ出した。

 バカが死ぬまで治らないのなら、あの恋愛敗者の運命を定められた彼女の性格は、死ななければ治らないのかもしれないと、曖昧な表情を浮かべるフィーネは思う。

 来世に期待しよう、と心の中でザババにひっどいエールを送り、仮にあの子の来世に会ったらちょっとは優しくしてあげよう、と思いつつ。

 

(まあ、あの子より年上の私の方が先に死ぬだろうから、意味のない想定かしらねぇ)

 

 呼び出されたのに何も言われず逃げ出され、困惑するロディ。

 涙が出てきそうなほどザババに同情しているフィーネ。

 当人のザババが居ないというのに、ちょっと笑えない空気が出来ていた。

 

「恋愛的、約束された敗北の当て馬……」

 

「え? あ、姉さん」

 

「いいのよ、ロディは知らなくて。あの子のためにも気にしないでおいてあげなさい」

 

 仕方ないから最後のパーティーでなんとか弟と話せる時間を作ってあげよう、と考えるフィーネと、そろそろ時間かな、と考えるロディ。

 二人は並んで、最後の晩餐になるかもしれないパーティー会場へと向かっていく。

 彼らも全員で生きて帰れるとは思っていない。

 それでも、全員で生きて帰りたいと、全員で生きて帰って来て欲しいと、そう思っている。

 

「さ、明日は決戦だ。姉さん、行こう」

 

「あのおっさんが最近視線やらしくて嫌なんだけどどうにかならない?

 ガングニール取り上げていいんじゃないかしら? ねえ、そうしない?」

 

「ヴォータンは大きいのが好きみたいだから……ウルもだけど」

 

「ウルはいいのよ、紳士的だから。イチイバル取り上げようだなんて言わないわ」

 

 二人は家族で、姉弟で、似ているところも多かったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いの前の、束の間の平穏が終わりを告げる。

 全ての戦いに終わりを告げ、長い平穏を取り戻すための決戦が始まる。

 決戦の前のパーティーが終わり、決戦の前の交流は終わり、決戦は始まった。

 

 世界中の全ての命と、ロードブレイザーという一つの命。

 戦いの流れは終始圧倒的で、一方的な流れのまま進む。

 数の有利? そんなものあるわけがない。

 戦いは常に圧倒的に、ロードブレイザー優勢のまま進んでいた。

 それこそ人間側が一瞬でも気を抜けば、全てが滅びてしまうであろうほどに。

 

『よく粘るな』

 

「粘るさ……皆の未来がかかってるんだ!」

 

 現代で言う完全聖遺物を持った人間達が全て破れ、最後に残っていた八体のゴーレムも修復を済ませなければ動かないほどに破壊され、ロンバルディアも海に沈み、ネフィリムもそのエネルギーを全て奪われ、今や戦えるのはロディのみ。

 ロディは全ての力を振るえる場所、地球から遠く離れた宇宙にて戦っていた。

 ロードブレイザーは、数億光年を巻き込む焔の絨毯爆撃を撃ち放つ。

 

「ッ!」

 

 無言でロディは空間転移。

 己が最も得意とする確率事象の操作を用い、ロードブレイザーの攻撃を回避できる位置候補十数箇所を選択、それら全てに『空間跳躍した可能性』を飛ばす。

 魔神の焼滅攻撃は、彼が空間跳躍した直後に放たれた。

 時間軸を無視し、宇宙の数%を飲み込むロードブレイザーの攻撃がその候補箇所の多くを飲み込んだが、跳躍の後に放たれたはずのその攻撃を、"空間跳躍した後に跳ぶ先を選ぶ"という離れ業でロディは回避。

 全ての場所に跳躍した可能性があるのなら、その場所に跳躍したのかは彼が選べる。

 そういう理屈の、無茶苦茶な空間跳躍だ。

 

「はあッ!」

 

『ふん』

 

 ロディは足場も何もない宇宙空間にて、十億光年の距離を一歩で踏み込む。

 宇宙を一撃で破壊する次元に居る彼らの知覚は、500億光年の範囲の全てを見逃さない。

 そして一閃。

 ロディの意志を喰らい発せられるアガートラームの光刃のサイズは、3億2615万6000光年(100メガパーセク)という途方もない大きさと相応の破壊力をもって振るわれる。

 

『ぬるい』

 

 しかしロードブレイザーは、純然たる速度で回避。

 彼らの戦闘は全て、5.4秒÷10の44乗(1ブランク)の世界にて行われている。

 光速などとうに超えていた。

 それは単純な速度だけではなく、時間流への干渉や空間の圧縮拡大を併用しているがための速度であったが、圧倒的なことに変わりはない。

 

『仲間を全て失い、その仲間の聖遺物の力を借り。私に太刀打ち出来るだけの力を備えてきたか』

 

「ああ。これは……みんながくれた力だよ」

 

 ロディの周囲に浮かぶ、聖遺物の残骸。

 持ち主と共に砕け散った、イチイバル、ガングニールの欠片。

 死者が遺したバントライン93R、シェイプシフター、ツインフェンリル。

 負傷し脱落した仲間から託された神獣鏡、天羽々斬。

 彼を庇って魔神に殺された少女の、イガリマとシュルシャガナの破片。

 それらに加え八体のゴーレムの破片がロディの周囲を漂い、彼のアガートラームに足りない分のエネルギーを補っている。

 

『が、所詮付け焼き刃』

 

 しかし、魔神の焔は絆すらも焼き尽くす。

 攻防が繰り返される度に、全てを燃やし尽くす異端の焔はアガートラームを除いた聖遺物とそのエネルギーを焼滅させ、力を削り取っていく。

 これほどまでに凄まじいアガートラームの力を持ってしても、ロードブレイザーには届かない。

 ゆえに最強。ゆえに最悪。

 でなければ、世界を滅ぼす魔神とは呼ばれまい。

 

「付け焼き刃でも、首に届かば討つには十分ッ!」

 

 ロディの精神力をそのまま刃にしたアガートラームの光刃が、ロードブレイザーへと一直線に向かっていく。

 そこで魔神は、回避を兼ねて単位時間ゼロでの空間転移を27回同時に発動させた。

 それは同じ宇宙、同じ時間に27のロードブレイザーが同時に存在するという矛盾を、ただの現実としてこの宇宙に形成させる。

 結果、27の魔神がロディを囲んで攻撃準備をするという光景が出来上がっていた。

 そしてそれらは、先と同様に所要時間ゼロで同時に4兆度の炎弾を発射した。

 ロディの全ての逃げ場を塞ぎ、空間を押し包む絶対包囲攻撃。

 

「こんな子供騙しでッ!」

 

 それらを、ロディは『そこに斬撃が存在する可能性』を分割した27の斬撃で切り飛ばす。

 ノイズの位相差障壁と同じ原理だ。ノイズはこの世界と隣の世界に存在する、己の存在の割合を自在に変化させる能力を持つ。

 ロディは斬撃そのものの存在する割合を調整分割、存在の割合を1/27とした斬撃を構築した。

 威力も存在比率も通常斬撃の4%以下だとしても、4兆度程度の炎弾であるのなら、消し飛ばすには十分過ぎる威力の斬撃である。

 

『終わらぬ。終わらぬよ。仮に貴様が勝てたとしても、私は滅びない』

 

「ああ、終わらない。終わるものか。お前が勝ったとしても、人は決して滅びない」

 

 ロードブレイザーも、ロディも。

 どちらが勝つか、確信を持てぬままに戦っていた。

 そしてこの強敵との戦いの果てに、勝っても負けても自分の存在はこの宇宙には残らないだろうと、そんな不思議な確信があった。

 それほどまでに、この両者は強かった。

 

「未来永劫敗れ続けろ、魔神ッ!」

 

『未来永劫死に続けよ、人間ッ!』

 

 ロディは眼前の空間を拡張。

 人の目に映るだけの範囲の空間を、文字通り桁が違う大きさにまで押し広げ、そこにエネルギーを凝縮させた光弾を555垓個並べ、魔神へ向かって直進させる。

 ロードブレイザーは銀河サイズの炎弾を生成。

 その炎弾を絶え間なく生成し続け、数珠繋ぎにしてロディへと連射し続けた。

 足を止め、全力の攻撃を互いに向かって撃ち合うガチンコ勝負。

 笑えるくらいに男らしく、真正面からぶつかり合う力比べであった。

 この宇宙が壊れても構わない魔神と、宇宙が壊れないようにして戦わなければならない人間とでは、戦いの中で選べる選択肢に相当な差が存在してはいたのだが。

 

 神話の時代の終わりは近い。

 この戦いの終わりは、人の時代の始まりでもある。

 ロードブレイザーは永遠だ。

 どこかの誰かが滅ぼさない限り、この魔神は唯一無二としてこの宇宙に在り続ける。

 人は永遠だ。

 どこかの誰かが滅ぼさない限り、親から子へと命は繋がり、いつまでも人という種はこの宇宙に繁栄し続ける。

 

 永遠と永遠がぶつかり合い、鎬を削り合う。

 互いがその在り方を変えようとしない限り。

 世界を守るため戦った彼らの意志を受け継ぎ、人の永遠を守ろうとするものが絶えない限り。

 

 

 

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