敵が集結しつつあることを報告し、交戦の許可を求めたが、防衛線の構築を行うようにとの命令がくだった。仕方なく近くの要塞へと移動し、終結してきた皇軍と合流して待ち構える。その間にも敵集団の位置を確認すると、すでに爆心地を超えて進み続けていた。
「さっきの部隊は捨て駒だったか。多少は侵攻の妨害に役立つと思ったけど。何の効果もないとは。」
「失敗したの?やっぱり合流した直後のほうが良かったよ。」
「読みが外れた。本隊ごと爆破するべきだった。」
暫くすると、空気を切り裂くような音が響いてくる。音の出どころを探すために周囲を確認すると、突然目の前が爆ぜた。咄嗟にレヴを解放し、飛散する破片を消し炭にする。その後も連続して炸裂し、辺りに爆風が吹き荒れる。塹壕の掘削作業していた者たちは急いで地下壕の中へと駆け込んでいった。
迎撃のためにいくつもの分体を生成して上空へと向かわせ、ヒドラも飛び上がると同時に周囲を結界が覆った。僕も周囲の銃と砲で狙いをつけて降り注ぐ砲弾を破壊していく。それでも残った破片や撃ち漏らしが落下してくるが、結界に当たり燃え尽きるか炸裂して破片が落ちてくるのみで陣地への被害は格段に減少した。
砲弾の雨がやみ、周囲を警戒していると遠くから金属の擦過音のような音が響いてきた。すぐに武装を展開し、攻撃態勢を取ると森の中が強く光ったと同時に数本のレーザーが飛来した。すぐに回避したが、既のところで間に合わず右足の膝から下が消し飛んだ。更に、対空・砲撃陣地やトーチカなどにも命中し、少なくない被害が発生した。
「おい!トーチカにも命中してるぞ!大丈夫なのか?」
「まずは自分の心配をしろ!頭を出すな!消し炭になるぞ。あのトーチカは機晶国の技術を取り入れて開発した。ちょっとやそっとの攻撃じゃあ崩壊なんてしないさ。」
体勢を立て直し、足を即応的に生成して着地し、反撃の為に砲撃を加えた。この攻撃により森の大部分が破壊され、根元から折れてしまった。残った木もわずかであり、今や荒れ地と行って差し支えない様相となった。そして、砂ぼこりが晴れてくるとこちらへと進み続ける球体のドローンが見えてきた。人が数人入れそうなほどの大きさの物から、子供でも窮屈そうな大きさのものまである。しかし、統一して赤いレンズのような部分が付き、下半分は触手を思わせるような細長い構造物がたなびいている。
さらに、その胴体部分はかなりのつぎはぎ状であり、その隙間からは絶えず粉末が落下している。またレンズは単眼のものから複眼のものまであり、そのどれもは絶えずなにかにピントを合わせるように動いている。中でも特異的なものが、その下部に取り付いている触手であり、胴体部とは違い継ぎ目の一切がなく、艶めかしい光を反射している。
「研究所もずいぶんと気色の悪いものを作ったね。もう少し何とかならなかったのか?」
「ずいぶんと悪趣味なやつがいるみたい。早く叩き潰そう。そのほうが私達も皇国や機晶国にとっても良い。」
「しかし、僕等の存在を隠す目的で前線を一気に押し上げてないけど、もう手遅れだろう?町中を移動したときによく僕等SEPTの紋章を見かける。」
「それはそうなんだけど、どこで広まったの?私は教えてないし、身につけてたりもしなかったけど。」
「僕たちも教えてるというわけじゃないけど、僕達の武装の所々に意匠としてついてるからかもしれない。以前彼らの前で大きな損傷を受けたこともある。」
「やっぱりただ箝口令を出すだけじゃあ意味なかったね。最初期には、隠蔽工作も取れてなかったしね。」
赤いレンズが光る様子を見せた瞬間に分体と、周囲の兵装で攻撃を加えた。対処が間に合わず放たれたレーザーはレヴを展開して打ち消し、攻撃を加えたドローンは小爆破を起こし墜落していく。地面に落ちた後は不規則にスパークを発生させていたが、その上を他のドローンが通過すると、その触手に巻き取られて破壊痕から装甲を引き剥がし、剥ぎ取られたパーツを自らの機体に押し付けることで自らの体を拡張していた。その際、異様なほど金属が軋むような音が周囲に響き続けた。
撃破したドローンを再利用されないようにするため、同時進行的にドローンを吸収していった。やはり、組成的には僕たちと変わりないようで、すんなりと吸収することができた。直接的得られるものはわずかしか無いが、レーザー発射機構は未知の結晶を使用していることが分かった。結晶を活用するために、解析をしていく。
「研究所も吸収対象をいちいち剥ぎ取るとは、非効率的なことをする。」
『しょうがないよ。効率的な方法を模索していたところで被検体が逃げ出したんだしさ。ところで足、大丈夫?ごめんね。すぐに対応できなくて。』
「大丈夫だ。今はこの通り使えてる。まあ、きちんと治ったわけじゃないが支障はない。」
「それよりもこの結晶だ。今まで何度もレーザーをあきらめてきたが、これがあれば実現できるかもしれない。」
『それなら良いけど。今まで何度も試行錯誤繰り返してきたもんね。こうして実物があるとありがたいね。』
ドローンが壊滅状態となり態勢を立て直していると、地平線に集団の影が見えてきた。皇国軍が構築している防衛線の前に立ち、研究所の兵士へと攻撃を加えていく。今は遠距離からの攻撃ということもあり、ヒドラが中心となって攻撃している。白双も魔法を行使して攻撃を加えているため、地形へのダメージもかなりのものだ。
それでも侵攻を止める気はないようで、クレーターや防御壁に身を隠しながら前進を続けている。
ヒドラの攻撃により大小さまざまなクレーターが形成され、銀粉が舞い散る。その後一瞬で融解し、地面が泥とかしていく。さらにそこへ砲弾や、木属性や土属性の魔法弾が叩き込まれ、泥状地帯が広まっていく。特に、木属性の魔法弾が着弾し、周辺に植物が飛散したところではヒドラの火炎が引火し、足場は非常に悪くなっている。
「いいのか?ずいぶんと足場が悪くなっているようだが、復興にはかなりの時間がかかるぞ?あいつは範囲攻撃を得意としているが、今からでも止められる。」
「魔法ならどれだけ穴が空いてもう埋め直せるから大丈夫だよ。それにここらは居住地からもかなり離れてるし、巻き込みの危険性もない。」
「魔法というやつは便利だな。これほどのダメージかなりの人員と物資を動員しないと修復なんてできない。」
「まあ、便利な分適性がないとまともに使えないからね。それよりもかなり近づいてきたみたいだね。」
やがて皇軍の砲撃範囲に入ったようで、不規則的に地面がめくり上がる。絶え間なく続く砲撃により、大きく数を減らしたがそれは生身の兵士だけであり、機械化された敵兵は怯む様子を見せない。それに加え、密度が減ったためか慣れてきたのか、攻撃を避けながら前進し始めたため、なかなか数が減らなくなり始めた。
「ここらが限界か、そろそろ僕等も前に出る。できるだけ数を減らさないと、皇軍の損耗は避けないといけない。」
「それなら私に任せてくれてもいいけど。ここ最近は机に向かってばっかだったし。」
「白双も好きに攻撃したらいい。敵が減る分には何の不利益も生じ得ない。」
立っている場所から前に飛び出すと、すぐに敵軍の中心へと狙いをつけて飛翔して敵兵を薙ぎ払いながら着地した。そのまま構築したばかりの銃剣を振り抜き、目前の敵兵を上下で真っ二つにする。後方にも銃撃を加えながら串刺しにしていく。そこで漸く僕に反応した敵兵が攻撃しようとしてきたところで、周囲にレヴを放って炭化させていく。
翼も銃剣と砲へと変換し、攻撃火力を増強する。どこにも狙いをつけなくとも当たるため、装填が終わった兵装から順次射撃を継続する。速射を重視しているため、銃剣では一撃で斃す事が出来ないが、連続して攻撃を叩き込み、刺し貫く事で数を減らしていく。
その時、背後から飛んできた砲弾に反応することができず、当たりそうになったところで白色で半球体状の機体が構成され、砲弾を受け流した。連続的に放たれる砲弾を避け、僕を指向している戦車へと近づいていく。接近に気づいた戦車は急いで後退しようとしているけど、それを許さず接近して最初に地帯を破壊し、砲塔をへし折った。
『イージス有難う。また足を損傷するところだった。』
『今度は間に合って良かった。いつも損傷を気にせずに戦うんだから。ちょっとは避けてもいいんじゃないの?』
『当たっても死ぬことはない。破損してもすぐに修復できる上に、リソースは皇国と機晶国のおかげで無尽蔵だ。それに貯蓄も十分にある。』
『確かに目的を果たすほうが優先か。けど、私の設計思想は防衛だよ?あんまりすぐに体で受けないでほしいな。』
周囲に展開している敵兵を倒して回っているが、ほとんど減る様子を見せない。それどころか、遠方では地鳴りのような音が響いている。僕とヒドラの遊撃だけでは殲滅しきれず、防衛陣地へと接近したものを白双や皇軍兵が対処し始めた。土属性や氷属性・炎属性の魔法弾など、さまざまな属性の魔法が放たれ、近づいてくる敵兵を薙ぎ払っていった。
土属性の魔法弾により、着弾地点は盛り上がり、命中した者はその質量に抗うことができずに生き埋めとなる。氷属性の魔法弾では広範囲を瞬時に氷漬けにし、生きたものも逃れることができていない。炎属性の魔法弾は、地面の表面までおも融解させ、地面が赤色と化し防具諸共溶かしている。
敵の処理が追いつかないため、イージスにも戦闘に参加してもらい処理速度を上げていった。銃剣を使って機甲兵を銃撃しながら串刺しにし、装甲車や戦車には砲撃を浴びせ、打撃や蹴撃を食らわせて破壊した。また、分体を使用して保護も同時に進めていく。
処理速度を上げていると、要塞の方から大きな振動が響いてきた。注意をはらいながら戦闘を続けていると、稜線から巨大な砲塔が顔を出した。しばらくの間静止した後に、轟音とともに砲弾を撃ち出した。打ち出された砲弾は、やすやすと敵戦車を貫通して爆散させ、後方に隠れていた敵兵も吹き飛ばした。さらに同軸上に配置された機銃を乱射し、敵兵を刈り取るように撃ち倒していく。
「新型の戦車完成したんだ。前々から話題に上がってたし、ここで見れてラッキーだね。」
「そうだね。それにしても、完成して間もないけど十分に動いてるみたい。それに僕等からの技術も盛り込んであるみたいだし、役に立つようで良かった。」
「そういえばそうだね。私からの防壁の技術を取り入れてるみたいだし、これからの皇軍は格段と強力になるね。」
初めのうちは果敢にも抵抗していたが、撃ち込まれた砲弾のことごとくを弾き返す姿を見た敵兵は、徐々に戦意を喪失していった。勢いが落ち込んでいくと戦車は追撃を仕掛け、次々と塹壕を乗り越えながら前進していく。それに便乗し、皇国兵も戦車の影に隠れながら攻撃を仕掛けていく。やがて、潰走を始めた敵部隊の背中に銃撃を加えながら前進を続ける。途中、殿のためか反撃を試みる部隊もあったが、瞬時に砲撃を畳み込み一切の抵抗を許さずに進み続ける。
その後、河川越しの防衛部隊を展開しているという報告を受けて一時停止し、周囲に簡易的な塹壕を掘り、防衛陣地を構築していった。それの合わせて戦線の大幅な前進を報告し、次の指示がくだされるまで待機することとなった。
ーーー皇都・軍務局ーーー
軍務局内の最も奥まった部屋では、さまざまな特徴を持った者たちが机を囲んでいる。そこでは今回の戦闘結果を聞いた参謀たちが、今後についての話し合いを行っていた。
「SEPTだから通報があった敵部隊だが、侵攻をはねのけた後に逆侵攻を開始。ノーラ川沿いまで戦線を押し上げたとのことだ。」
「これで一安心だな。早期に発見できたおかげだな。SEPTを受け入れたのは正解だな?」
「そうですね。それに彼らの技術提供により研究・開発された新型戦車。仮称S型戦車ですが、初戦にて敵を寄せ付けることもなく猛威を振るい、敵部隊潰走の一因となったそうです。」
「しかし、やつらに怪しい動きが散見されるのは事実です。何を目的としているか早く解き明かさないと。」
「それはそうだが、彼は軍部付きではなく、あくまでも中立だ。わが国と機晶国。SEPT間でそう締結された。SEPTはどの国家にも属していないんだ。自由にさせてやるのが一番いい。」
「それは建前でしょう。事実、SEPTはこれまで何度も研究所兵を退け、科学国家群や魔法国家の目や耳を潰してきた。これは機晶国内でも同じだ。一転、他国ではそういった活動は確認できない。これでは中立性のかけらもない。」
「中立だからといって、何の取引もしないというわけではない。鎖国などではないんだから。他国での活動を確認できないとしても、情報収集不足か、やつらに運がないだけだろう。」
「そうだ。それに現状、わが国はできる限り早く研究所勢力を海に叩き落さなければならない。そんなに他国の心配をしている余裕はないんだよ。それに、同盟国や親交のある国などではなく、仮想敵国だぞ?弱れば弱るほど我々にとって利益しか無い。」
ーーーノーラ川・臨時防衛拠点ーーー
ノーラ川沿いまで戦線を押し上げて暫く、研究所からの反撃はなく、着々と防衛陣地を整えていった。これまでにも何度か防衛部隊の戦力を確認するため、攻撃を行ったが、頑強な抵抗を受け速やかに撤退。現地点での防衛が決定された。現在は防衛力を増強しつつ、敗残兵の殲滅および、補給路を盤石なものへと整備している。
また、この戦闘により荒地とかした平原は、魔道士の手により均され、植林が進められていた。
「相変わらず大活躍だったな。おかげで楽に戦線を上げることができた。まあ多少地形は破壊されたがな。」
「戦争をしたんだ。無傷のほうが少ない。機晶国でもゲリラ相手にたびたび森の一角を吹き飛ばしている。」
「それにも君たちが関わっているような気もするが、今は良いだろう。それよりも、あの気色の悪いドローンは何だったんだ?あの触手の部分は明らかに普通じゃなかった。」
新しく建てられた要塞内で僕と白双は、北部方面軍司令官と先の戦いに関し、確認をとられていた。早々に地形破壊について揶揄われはしたが、すぐに本題へと入っていった。
「あれは研究所の量産兵器だよ。機能停止した他のドローンをはぎ取って自分に取り付けるんだ。あの形なのは剥ぎ取りやすいようにかな?」
「なるほど。それは君たちの様に金属を吸収して力を増しているという解釈でいいのかな?今回は我々の戦車や装甲車が破壊されなかったため、早期的に対処できていたが、吸収されていれば戦闘が長引いていた可能性もあると。」
「長引きはしただろうけどちょっと違う。あのドローンは吸収対象を剥ぎ取る必要がある。だから、戦車やらが破壊されたとしても、装甲を剥ぎ取られなかったら強化はしない。」
「それに私達との吸収メカニズムもちょっと違う。私達は吸収対象を体内に取り込んで体の一部となる。だから、体内に入ればわざわざ剥ぎ取る必要もないし、装甲にだけにしか使えないというわけじゃない。」
「では、それほど優先的に狙う必要は無いんだな。ご苦労。」
「ああそれと、何があったのかはしらないが、速やかに皇国の領土を回復することにしたようで、立て続けに攻勢作戦が立案されている。」
「それは僕等が表舞台に出るってこと?今までは無期限に隠蔽してたのに。」
「まあ隠蔽してたって言っても、結構広がってそうではあるけどね。よくも紋章にかけるし。」
「皇国政府としては箝口令を敷いているんだが、なにぶん初期に目撃したものが多くてな。その結果、その後にお前たちSEPTと遭遇したものも言いふらすもんだから、もう広く知られているんだ。」
「箝口令に従わなかったんだ。諸罰は取らなかったのか?」
「かなり大勢だったからな。いちいち罰していてはきりがなかった。」
「まあこれらの戦闘も君たちが頼りだ。よろしく頼むよ。」
「僕たちは自由にやっているだけだ。皇国が僕達にとってメリットであり続ける限り、僕達は味方だ。」